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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれた番外編 世界のアビスゲート卿から

219/261

私だよ、ア○ダーソン君ッ


タイトルの意味が分からなかった人は、是非、映画マトリックスリローテッドを。
スミスさんの「私、私、私――そして、私」が妙に気に入っている白米です。
 眼前の蠢く肉塊――ベルセルク・キメラは、ヴァイスを追ったアレンも、ダウンを追ったエミリー達も、追撃しようとはしなかった。

 触手の行く手を阻んだ火遁の炎壁は既に消えている。本能に忠実なベルセルクなら、せめて触手くらいは伸ばしそうなものだが、それすらせずに止まっているのは、きっと、おそらく、己の前に立ちはだかる黒装束の人間を警戒しているからだろう。

「さて、取り込まれた子供達のケースが、どれだけ持つか分からない以上、元が何であれ容赦はなしだ」

 浩介が二本の小太刀を抜き放った。シャァンと澄んだ音を響かせて抜刀されたそれが逆手に持たれると同時に、浩介の体がぐぐっと沈み込んだ。言うなれば、クラウチングスタートの体勢だ。

 刹那、ベルセルク・キメラから無数の触手が飛び出した。弾丸もかくやという速度で射出されたそれらは、ほとんど壁となって浩介を襲う。

 そして、とても肉の塊が出したとは思えないような硬質な音を響かせて、金属製の床に突き立った。

 そう、誰もいない床に。

「チッ。やっぱり、弱点の位置もでたらめか」

 舌打ちと悪態が響く。それはベルセルク・キメラの背後から。そこには腕を交差させて残心する浩介の姿があった。見れば、ベルセルク・キメラの頭頂部がごっそりと斬り飛ばされており、一拍後、その肉塊がドチャッという生々しい音と共に離れた場所へと落下する。

 あの一瞬、溜め込んだ力を解放するように駆けた浩介は、触手の弾幕を掻い潜り、かつ、ベルセルク・キメラの頭頂部を割断したのである。

 もっとも、ベルセルク・キメラは何の痛痒も受けていないかのように、白煙を噴き上げながら一瞬ともいうべき時間で頭頂部を再生してしまう。同時に、新たな触手を生み出して浩介へと放った。

(弱点である脳の位置が分からない。そもそも、脳が一つである保証もない。まとめて吹き飛ばす手段もあるにはあるけど、それじゃあ中の子供達が死んでしまう。そして、削り落とすのは、あの超再生が邪魔……難儀だな)

 触手の群れを切り裂き、曲芸じみた動きでかわし、あるいは踏み台にして捌いていく浩介は、内心で分析した内容を独り言ちながら、思わず苦笑いを浮かべる。

 加えて言うなら、触手に掠ることも、撒き散らされる体液に触れることも禁止だ。いくら浩介と言えど、【ベルセルク】を浴びて肉体の変異を抑えることはできない。

 と、そのとき、思案する浩介の感覚が背後からの強襲を察知した。咄嗟に側宙するように身を捻れば、案の定、背後から人の指程度の太さの触手が無数に飛び込んでくる。

「おいおい、斬り飛ばした部分からも出せるって。いったい、どんな生物を取り込めばそんなことになるんだ」

 浩介を背後から襲ったのは、先程、浩介が斬り飛ばした肉塊だった。それが本体と離れて蠢き、細い触手を伸ばしているのである。

 既に斬り飛ばした触手や肉の塊はそこら中にある。浩介は流石に、表情が引き攣るのを止められなかった。

 浩介が小さく「やっべ」と呟いた瞬間、四方八方、加えていつの間にか天井に張り付いてた肉塊からシャワーの如く、逃げ場のない触手の弾幕が迫る。その数は優に三桁を超える。

 普通なら絶望すべき場面だろう。ここにいるのが特殊部隊の隊員達なら、溜息を吐いて諦めと同時に苦笑いの一つでも浮かべたに違いない。

 だが、もちろん、魔王の右腕がこの程度で、否、たとえどんな状況でも諦めの感情を宿すなどあり得ない話で、

「――“重遁・届き得ぬ黒き聖域”」

 直後、黒いピンボールほどの渦巻く球体が四つ、浩介の周囲に展開された。同時に、迫っていた触手の尽くが、まるで打ち落とされたかのように地面へと叩きつけられる。

「深淵流暗殺体術・剣撃之型――“閃裂黒城刃”」

 更に、浩介が両腕を掲げ、手首の返しと指先の動きで二刀の小太刀を風車のように回転させれば、頭上から襲ってきた触手は、まるで掘削機にかけられたかのように削り取られて吹き飛ばされる。

 斬撃の盾を迂回して襲ってくる触手も、いつの間にか衛星のように浩介の周囲を飛び回り、かつ高速回転する苦無に弾き返され、ただの一本も届きはしない。

「焼き尽くすのは……子供達が危険か。なら、凍てつかせてから砕き殺すとしよう――吹き荒べ、白銀の風。万年氷雪世界の息吹。旅人の行く手を阻み、冷たき腕に捕えよ。汝は白き氷柩の虜――“凍獄之華”」

 浩介がトンッと軽く足を踏み鳴らした。直後、ビキビキッと音を立てて、床が白く染まっていく。霜が発生しているのだ。浩介を中心に、まるで世界を浸蝕していくかのように広がっていく白の波は、あちこちに飛び散っていた触手や体液の尽くを凍てつかせていく。

 そして、それだけで終わらず、真っ白に染まって固まった肉塊は、直後、まるで花が咲くように生まれた氷の柩に包まれた。

 あちこちに咲き誇る氷花の群れ。

 白の浸蝕は床を伝ってベルセルク・キメラにも及ぶ。危機感を抱いたのか、触手を天井に突き刺してその巨体を宙に躍らせたベルセルク・キメラ。浩介へ、乱れ撃ちともいえる触手の弾幕を張る余裕など、既にない。

 その攻撃のための触手からすら、全てを凍てつかせる冷気は伝ってくる。ベルセルク・キメラは本能に従い、自ら触手の全てを切断した。一瞬で氷の花を咲かせた無数の触手が、床に落下する。

「逃がすわけがないだろう?」

 落ちてくる氷花を踏み台に、ベルセルク・キメラの前へと躍り出た浩介は、撃墜せんと急迫した触手を更なる踏み台にしながら宙返りし、その勢いも乗せて小太刀を投擲した。

 真っ直ぐに、一条の閃光のように空を切り裂いた小太刀は、回避の余地なくベルセルク・キメラへと突き刺さる。

ギ、ギ、ギィイイイイイイ

 奇怪な音が響き渡った。口どころか、声帯の存在すら怪しいベルセルク・キメラの叫び声なのだろうか。金属を引っ掻いたような叫び木霊する空間で、突き刺さった小太刀を中心にビキビキッとベルセルク・キメラの凍てつく音が不協和音を奏でる。

「内部までは凍てつかない。表層部分から削り砕いてやる」

 斬り飛ばしても単体で動くなら、どれだけ斬っても再生するなら、氷の柩で拘束しつつ、削り取った部分を片っ端から凍てつかせて粉砕する。可能な限り取り込まれた子供達の安全に配慮しつつ、確実に救出するための方法だ。

 やがて、天井に突き刺さりその重量を支えていた触手が凍てつき、自重に耐えられずにバキリッと折れる。ベルセルク・キメラは床へと落下し、叩きつけられた衝撃で体の表層部分を砕け散らせてしまった。

 砕け落ちた肉塊の奥から、蠢く肉塊が見える。再生しようというのだろう。だが、突き刺さった小太刀がそれを許さない。再生が始まるよりも早く霜が降りて凍てつかせてしまう。

 浩介がフィンガースナップすれば、再び、凍てついた表層部分が砕け散って、小さなブロック状の凍った肉塊がバラバラと散らばる。

「このまま、あの子達が見えるまで砕き続ければ――」

 助けられるはず。

 そう、口にしかけた浩介だったが、直後、周囲に蠢く気配に頬が引き攣った。バッと周囲を見渡せば、ピキッ、パキッと氷花達に亀裂が入っていくのが見えた。

「お、おいおい。冗談だろう」

 思わず漏れ出た言葉。それも無理はないだろう。なにせ、氷花に閉じ込められた無数の肉塊が、内側から膨れ上がるようにして蠢いているのだから。

 パキッという音に、浩介が慌ててベルセルク・キメラへ視線を戻せば、同じように内側から膨れ上がろうとしている光景が飛び込んでくる。

 浩介は目を見開いた。どう見ても、周囲の肉塊も、ベルセルク・キメラも、体積が増えている。人がベルセルクの変身する際、崩壊と再生を繰り返すことで超再生を促し、筋肉が肥大化する現象と似ていると言えば似ている。

 だが、それにも限度はあるのだ。ベルセルクは別に、際限なく巨人化するわけではない。小さな肉の欠片から新しい肉が増えるなどあり得ない。それは人間に備わった能力ではない。

「いや、待て。そもそも、触手を伸ばす(・・・)なんて……」

 はたと気が付く。触手を際限なく伸ばす――それは、おおよそ知り得る生物にはあり得ない特性。触手自体を備えた生物はいても、どこまでも、何百本でも伸ばし、生やす生物などいないはず。

 だが、現実に目の前では氷の柩を内側から圧迫破壊するほどの勢いで増殖するベルセルク・キメラがいて――

「増殖……はは、そう言えば、確かプラナリアって生き物がいたな。切っても同一の個体が再生するんだっけ?」

 正解だった。確かに、ベルセルク・キメラは多くの生物を取り込んでいる。動物や昆虫はもちろん、植物なども。もちろん、大人の人間や子供も少し。その肉体に大量のプラナリアを取り込ませたのだ。

 超再生は、元になる肉体がなければ起きない。なら、その肉体を自動で増やすことができれば、それこそ無限再生が可能なのではないか。そんな狂気を通り越して呆れるような発想で行われた実験の成れの果て。

 もはや、ベルセルク・キメラに元となった動物や人達の魂など欠片もない。あるのはもっと原始的な本能。――捕食と生存の本能、だけである。

 浩介が戦慄しながら自らの思考より現実に復帰した直後、全ての氷花が砕け散った。

「こんなもん生み出して、ここの連中は、いざってときどうやってこいつを止める気だったんだ?」

 げに恐ろしきは人の業。未来も、他者も顧みず、行きつく果てまで突き進んでしまう探究心と執念、狂気。かつて自ら崩壊を招いた異世界の狂った神――エヒトルジュエの元の世界の魔法使い達の如く。

 焼き尽くす方法は子供達が危険。凍てつかせ砕くのは無効。斬り飛ばせば斬り飛ばすだけ無限に増殖し再生する。大火力による殲滅は子供達が危険。触れれば終わり。

 しかし、

「まったく。やっとファンタジー世界から帰って来たと思ったら、こっちでもファンタジーかよ。つくづく俺は、いや、俺達は、非日常に愛されているらしいな」

 やれやれと肩を竦めた浩介の表情に絶望はない。子供達を救えないかもしれない可能性に絶望もしない。

 何故か?

 決まっている。

「戻ったか、俺」
「ああ、戻ったぞ、俺」
「こっちもだ、俺」
「バーナード……マジでギリギリだった。あいつ今までよく生きてたって思えるくらい死神に愛されてるぞ。同じくらい幸運の神にも愛されてるっぽいけど」

 二倍に、否、三倍に膨れ上がって奇怪な絶叫を上げるベルセルク・キメラと、もはや小型のベルセルク・キメラと化したおびただしい数の肉塊。それらに囲まれながら、浩介の両隣りと真後ろに分身体が現れた。

 それぞれ、バーナード達についていたものと、他の部隊についていたものだ。

 バーナードの救援に行った分身体が遠い目をしている。本体である浩介も情報は共有しているので、秒単位で死亡フラグを回収しようとするバーナードが、秒単位の豪運で死神の魔の手から逃れ続けるという「既にお前がファンタジー」な光景に揃って遠い目をした。

ギィイイイイイイイイッ!!

 絶叫と同時に、肉の波が襲い掛かった。そう、波だ。まるで被膜のように大きく広がった小型キメラが覆いかぶさってきたのだ。浩介達はヒュパッと散開する。

「さて、分身体も、グラント家の護衛においた分以外は戻って来たことだし、そろそろ決着といこうか。……はぁ、本当はこれ、使いたくないんだけどなぁ。ほんと~に、使いたくないんだけどなぁ。時間もないし、子供達のためだ。仕方ない、よな」

 大型トラックのルーフに飛び乗った浩介は、分身三体が部屋の三隅で苦笑い、あるいは憂鬱そうな表情をしているのを見つつ、懐からとある物を取り出した。

 それは真紅の宝玉。

 小指くらいの輝く宝玉に金属の蔦が絡みつき、細い鎖に繋がっている。それを首にかけた浩介は、真紅の宝玉をギュッと握った。

 浩介の氷結魔法が生存本能を刺激した結果か、視線の先には未だ増殖再生を止めず、既に天井近くまで膨れ上がったベルセルク・キメラの姿がある。子供達が入れられていたケースは頑丈そうではあったが、そろそろ耐久の限界だろう。もはや猶予はなく、一刻も早い救出が必要だ。

 ならば、躊躇うわけにもいかない。

 たとえ、どれだけ浩介自身が忌避していたとしても。たとえ、どれだけの代償を払うことになるのだとしても。

 解き放つのだ。

 その忌まわしき力を! かつて、魔王をして苦悶の声を上げさせた絶大なる真の力を!

「耐えてくれよ、俺の精神力! いくぜ! ――“限界突破ッ”!!!」

 直後、浩介から真紅の魔力が噴き上がった。螺旋を描いて、天井を貫くかのような激しい魔力流が吹き荒れる。轟々と唸る魔力と風。浩介の姿は魔王の輝きに包まれて判然としない。

 ベルセルク・キメラが伸ばそうとしていた触手を引っ込めた。それはまるで、目の前の存在を畏怖しているかのよう。

 キィ、ギィイイッと鳴くベルセルク・キメラに、紅き竜巻の中から声が響く。

「哀れな存在よ。解放の時は来た」

 まるで空間全体から響いているかのような声音。真紅の奔流が集束を始め、眩い輝きの中に人の形が現れる。

 黒い人影が、大型トラックのルーフから一歩を踏み出した。当然、落ちることなどない。空中には波紋が生まれて、その上を影が進む。

「この深淵卿が、汝を救おうというのだ」

 荒れ狂っていた魔力流がパッと霧散した。代わりに真紅の輝きは力強さを増して影を包み込む。影は大きく片手を振り、華麗にターン。僅かに片足を下げ、もう片方の手は胸元に。角度的にあり得ないのにサングラスがキラリと光る。

 影。

 そう、

「我が名はコウスケ・E・アビスゲートッ! 深淵の貴族にして、魔王の右腕! 首刈ウサギの次期族長(予定)ッ! 汝に救済と終わりをもたらす者! さぁ、万雷の絶叫をもって出迎えよ!」

 いつもよりはっちゃけている深淵卿だ! 

 ベルセルク・キメラは、取り敢えず、触手した! 本能的な攻撃だった。

「エェークゥセレェントッ! 何事であれ、躊躇いがないのはいいことだ」

 ついに横文字を使い出した卿は、眼前に分身体を一体呼び出した。分身体は“炎龍牙”で触手を滅却する。盾となって触手を撃墜する分身体の後ろで、卿はサングラスをクイッとしながら言葉を続けた。

「もっとも、それが通じるかは別の問題。括目せよ。果て無き深淵の真の姿を!」

 直後、複数の気配が生まれた。卿の盾となっている分身体から(・・・・・)更に四体の分身体が生まれたのだ。

 それだけではない。部屋の隅に退避していた元の分身三体の傍に、それぞれ四体の分身体が出現。

 その四体の分身体がキメラ達に飛び掛かると同時に、空中で更にそれぞれの分身体が四体を生み出す。その四体が、更に四体を。そのまた四体が更に四体を。四体を、四体を、四体を、四体をっ!

――深淵卿専用限界突破型アーティファクト “ラスト・ゼーレ(俺にだけは使うなよ?)Ver.2.1”

 本来、時間経過と共に限界を超えて基礎能力を底上げしていく天職“暗殺者”の最終派生技能“深淵卿”。魔王が下賜した真紅の宝玉は、この時間経過をすっ飛ばして強制的に能力を五倍化する。

 そして、この深淵卿発動状態――浩介は“深度Ⅰ”から“深度Ⅴ”と呼んで段階分けしている――において、深度Ⅲの状態になるともう一体、分身を生み出すことができ、最終深度になると、本来は本体である深淵卿からしか生み出せない分身を、分身体自身が生み出すことができるようになるのだ。

 この最終深度Ⅴに達するには、それなりに時間がかかるのだが、ラスト・ゼーレがその制限を取り払う。

 ただし、当然、代償はあるわけで、

「「「「「「「「「「「「深淵に果てはなく――」」」」」」」」」」」」

 ほぼ一瞬で六十四人に増加した卿が四方より突撃する。なんか言いながら。

 大きな地下駐車場に散らばった小型キメラから伸びる触手と、本体から射出される触手の数は、既に逃げ場のない刺突の檻だ。相当な数を蒼炎に輝く小太刀が薙ぎ払ったとしても、その全てを捌くのは至難の業。

 六十四人の卿は刹那の内に半数を撃墜される。しかし、

「「「「「「「「「「「「奈落の闇に終わりはない」」」」」」」」」」」」

 次の瞬間には百五十以上の卿が出現。その技と身をもって後ろの分身達の盾となり活路を切り開く。

「「「「「「「「「「「「捕えること叶わず――」」」」」」」」」」」」

 小型キメラが肉の膜を広げて卿達を呑み込もうとする。面積の広い攻撃は既に範囲攻撃だ。卿達は他の分身を踏み台にし、あるいはぶん投げて膜の範囲から脱出する。残りはその身に火遁を纏って小型キメラへと特攻した。

「「「「「「「「「「「「触れることに意味はなく――」」」」」」」」」」」」

 どれだけ貫こうが、どれだけ飛沫を浴びせようが、そもそも分身体には実体はあれど肉体はない。変質などするはずもなく、贅沢すぎる自爆技に小型キメラは為す術無し。

「「「「「「「「「「「「滅することは夢物語」」」」」」」」」」」」

 自爆で消えた卿の数は優に百を超え、しかし、一拍、二拍と時間を置いたときには、三百体の卿が波状攻撃を仕掛ける。

「「「「「「「「「「「「仇成す者には絶望を――」」」」」」」」」」」」

 貫かれ消える。倍の数をもって復活する。

 磨り潰され消える。倍の数をもって復活する。

 押し潰されて消える。倍の数をもって復活する!

「「「「「「「「「「「「求める者には希望を――」」」」」」」」」」」」

 小型ベルセルクは犠牲を躊躇わない波状攻撃で確実に各個撃破され次々と焼滅していき、ベルセルク・キメラは三百体以上の卿に囲まれ、端から丁寧に削り消される。

「「「「「「「「「「「「立ちはだかる者よ、その身に刻め」」」」」」」」」」」」

 ギィイイイイイッと、まるで恐怖を払うかのように絶叫したベルセルク・キメラは、一瞬、その身を収縮し、直後、全方位へ触手を放った。今までと異なるのは、子供の腕ほどの太さがあった触手の全てが、指くらい細さになったことだろう。

 消滅の危機を察したのか。生存本能を成せる業か。敵に対する攻撃方法を最適化したようだ。

 細く鋭い刺突は、篠突く雨という相応しい。真っ直ぐ突き出されてくるもの、天井から、あるいは床から迂回して襲い来るもの。数千に及ぼうかという肉の刺突は絶望の象徴。

 それにより百体以上の卿が消滅させられた。

「「「「「「「「「「「「終わらぬ悪夢にうなされよ」」」」」」」」」」」」

 なので、千体の卿をもって対抗する。

 振るうは蒼炎の小太刀。されど用いる武器はその身自身。終わりなき悪夢の如く、消えては現れ、その度に数を増やす無限地獄。ラスト・ゼーレを発動しようとも、“深淵卿発動状態”であることに変わりはなく、上昇し続けるスペックは遂にベルセルク・キメラの増殖再生速度を凌駕する!

「「「「「「「「「「「「我等、深淵の化身。闇の夢、黒き泡沫、全にして一」」」」」」」」」」」」

 これぞ、魔王の右腕。

 これぞ、仲間達に、“実はさりげなく人類最強格”と言わしめた本領。

 これぞ、かの魔王に傷をつけた御業。

 絶えず増殖する千人以上の深淵卿による厨二な言動こうげ――ではなく、終わりなき波状攻撃なのだ!

「ぬるいっ。その程度でこの我を討てると思うたか! 深淵を打ち払いたくば、せめてガトリングレールガンでも持ってくることだ!」

 そんな無茶をおっしゃる彼の名を、もう一度、言おう。

「さぁっ、終幕だ! あの世で閻魔に誇るがいいっ。己の最後は、かの者に与えられたものであると! そう、この我、アヴィスゥゲートッにな!」

 ちょっとネイティブ(?)、というか巻き舌っぽい発音で己の名を叫んだ卿は、小太刀を逆手に持ったまま腕をクロスさせ、ググッと身をたわめた。

 既に小型キメラは撃滅した。ベルセルク・キメラは増殖も再生も間に合わず、その身を大型トラック程度にまで縮小している。

 そうして、触手に貫かれながらも特攻した分身の一体が削り落としたその先に、微かに見えた硬質な輝き。それは紛れもなく、あの子供達を閉じ込めていたケースのもの。

「集えっ、我が同胞よっ。救済の時だ!」

 卿の号令が轟く。一瞬にして分身数十体が卿の前に並び同じ構えを取った。

 ニヤリと、不敵な笑みを口元に浮かべた卿の眼が、カッと見開かれる(注意:サングラス越しなので他者には見えません)。

「我が深淵、見切れるか? ――深淵流体術・攻式秘奥義【黒幻・(奔る牙、影の爪)嵐影流破(暗き深淵の悪夢を知れ)】ッッ!!」

 深淵卿が疾走する。縦一列となりベルセルク・キメラへと突進する。

 触手を撃たれようが、肉の塊が砲弾となって飛んでこようが、最前列の分身が捌き、捌ききれず消滅しても次の卿が排除する。

 そして、瞬く間にベルセルク・キメラと到達した分身は、その身をもって肉壁を削って消滅。後続の分身体は、それぞれ無謀とも言える体当たりと共に確実にベルセルク・キメラの肉体へ一点突破の穴を空けていく!

 黒い影による間断なき嵐のような突撃。一本の大槍と見紛うようなその波状攻撃は、まるで、そう……

 ジェットストリー○アタック!

 次の瞬間、ボバッと音を立てて、ベルセルク・キメラの反対側の肉が弾け飛んだ。同時に、飛び出して来たのは卿だ。一拍遅れて、鋼糸を巻き付けたケースが飛び出してくる。

 卿は空中で反転すると、追随して飛んできたケースへ小太刀を振るった。一瞬で割断されバラバラになるケースから、悲鳴を上げる子供三人が飛び出してくる。

 どうやら、ベルセルク・キメラに取り込まれてなお、彼等は気絶していなかったらしい。普通なら恐怖の余り意識を落としそうなものだが……。トラウマになっていないことを祈るばかりだ。

 分身体と共に、宙に放り出された子供達を抱き抱えた卿は軽やかに着地した。

「少年、もう大丈夫だ」
「え、え?」

 そっと下ろされた少年は、混乱の余り目を激しく泳がせながら周囲を見渡す。そして、無数の同じ人間が、ベルセルク・キメラを囲んでいるという非現実的な光景を目の当たりにし「えぇえええっ!?」と驚愕をあらわにした。

 傍らの分身達が下ろした少年と少女も、同じように半泣きで狼狽えている。

「ふむ。少年達には少々刺激が強かったか。だが、安心して欲しい。この悪夢も、もう終わる。我が、終わらせる!」

 散開する卿達。中心にはベルセルク・キメラ。

 少年少女達が目を点にする中、卿達が一斉に片手をサングラスに添え(もちろん、香ばしくクイッとするのは忘れない)、半身になって僅かに状態を逸らし、もう片方の手をスッとベルセルク・キメラへと向けた。

「「「「「「「「「「「「「奈落の天空、虚構の世界、廻るは黒き太陽――」」」」」」」」」」」」

 それは詠唱だ。卿が唯一習得している、かつて世界の理を崩し、壊した魔法の一つ。

「「「「「「「「「「「「夜天は崩れ、禍ツ星は暗く輝く。解き放たれるは深淵の欠片――」」」」」」」」」」」」

 卿をして、深度Ⅴの状態でなければ発動することもできない奥義中の奥義。

「「「「「「「「「「「「集束せよ、自壊せよ、絶えず呑み込み、砕き続けよ――」」」」」」」」」」」」

 スパークが奔った。黒い雷のような放電現象。それが、ベルセルク・キメラを中心に発生している。

 ベルセルク・キメラは、どこか必死にも見える様子で触手を放つが、詠唱する卿の前に立ちはだかる分身達が、その尽くを撃墜する。

「「「「「「「「「「「「其は光無き狭間の世界。終焉の抱擁。新たなる摂理の生誕――」」」」」」」」」」」」

 そうして世界に伝播したそれは、神域すら破壊する――夜明けをもたらした守護者の一撃。

 本体の卿が、意味もなく華麗なターンをして、これ以上ないほど香ばしいポーズと共に、世界へ響けと、最後の一言を紡いだ。

「無窮の闇に呑まれて果てるがいい――重力魔法究極奥義【黒天窮(黒く渦巻く深淵の闇)】」

 迸る黒いスパークの中心に、小さな黒い球体が出現した。

 乱回転しているかのように渦巻く黒球は、直後、直径一メートルほどの大きさに膨れ上がると、猛烈な勢いで周囲の一切合切を吸い込み始める。否、それはもはや空間ごと捩じ切りながら中心部へ圧縮しているというべきか。

――重力魔法 “黒天窮”

 かつて、解放者ミレディ=ライセンが世界を救うために行使した重力魔法の奥義が一つ。

 彼女のそれに比べれば、まだまだ未熟さの目立つ拙い魔法だ。だが、それでも、今この場において一欠けらの細胞でも残っていれば増殖再生してしまう怪物を滅ぼすには十分な力を持つ――まさに、神話の魔法。

ギィッ、ギィイイイイイッ!!

 断末魔の悲鳴というべきか。ベルセルク・キメラは肉塊の端から崩れるようにして引き込まれ、超圧縮崩壊の世界へと放逐される。

 一拍。

 引き込まれまいと触手を伸ばして絡みついた大型トラックが、何の抵抗もなく吸い寄せられ圧壊するのを最後に、ベルセルク・キメラは完全に消滅することになった。

 収縮し、宙に溶け込むようにして消えゆく黒い天球。同時に、数多の分身体も役目を終えたというように、その姿を霧散させていく。

 終わりは、とても静かだった。

「……お兄ちゃんは、誰、なの?」

 ひと塊になって、震えることも、涙目になることも忘れたように、目の前の神話の欠片に心奪われていた少年少女の内の一人が、呆然とした様子のまま、小さく卿へと尋ねた。

 肩越しに振り返った卿に、少年達の視線が向く。

 卿は、そんな彼等に「ふっ」をやると、サングラスをクイッとしながら答えた。

「我か? 我は…………どこにでもいる、ただのヒーローさ」

 追い詰められていた子供達に、“魔王”だの“深淵”だのは不適当かと思い、僅かに考える素振りを見せた卿の答え。それを聞いて、子供達は一瞬、キョトンした表情を見せ、互いに顔を見合わせる。

 が、次の瞬間、花咲くような笑みを見せた。キラキラと輝く、まさに映画の中で子供達がヒーローに見せる最高の笑顔。ヒーローは、確かにいるのだと確信し、憧れと、希望を胸いっぱいに溢れさせた――ヒーローにとっての最高の報酬。

 それを受け取った卿は――直後、崩れ落ちた。

「お、お兄ちゃん!?」
「ヒーローさん!」
「ニンジャっぽい何かさん!」

 子供達が、突然四つん這い状態になって項垂れる卿に、わたわたと駆け寄る。そして、心配そうに顔を寄せて、その呟きを聞いた。

「ははっふひひっ、“我”って言うてもうた。言葉の意味が自分でも分からない……イタイよぉ、心がイタイよぉ~」

 子供達は顔を上げ、再び視線を合わせた。言葉はなくとも、互いの言いたいことは余さず伝わる。

 すなわち、

――ヒーローってなんだっけ?



いつも読んで下さりありがとうございます。
感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。

ノリノリで書いていたらこんな字数に……
今日か、明日にはもう一話更新します。
⇒と思っていましたが、日曜日仕事なの忘れてました……
すみません、いつも通りの更新になりそうです。

活動報告にも書きましたが、オーバーラップ様のHPにて、コミック版最新話が更新されています。
蹴りウサギがやべぇ。
ご興味がれば、是非、見に行ってみてください。

あと、同じくHPにアップされてますが、4巻が発売っぽいです。
よろしくお願いします。


次の更新も土曜日の18時になりそうです。
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