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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれた番外編 世界のアビスゲート卿から

215/261

イエスッ、アビスゲートッ!!

 バラバラバラバラッと独特のローター音が鳴り響く。

 早朝の、曇天の空にあって、そのような騒音を撒き散らすのは三機の大型ヘリコプターだ。二等辺三角形の編隊を組んで、一直線に濁った空を突き進む。

 そのヘリにはそれぞれ、完全武装した保安局の特殊部隊が乗り込んでおり、更にその内の一機には浩介、エミリー、ヴァネッサ、そして悲壮感漂うアレンが乗り込んでいた。

「お、おい、アレン。お前、大丈夫か?」

 同じ機体に乗り込んでいた特殊部隊総隊長にしてα隊隊長であるバーナード=ペイズが、躊躇いがちに尋ねた。保安局の強襲課に属する彼であるから、表向き分析官として働いていたアレンとは、情報共有の面でそれなりに面識があった。

 友人、とまではいかなくとも、親しい同僚というくらいのレベルではあったのだ。故に、いつも軽い雰囲気でヘラヘラしているアレンが、まるで真っ白に燃え尽きた某ボクサーのようなスタイルでベンチに腰掛けているのを見て、思わず声をかけた。

「ああ、ペイズさん。ご心配どうも。大丈夫か大丈夫でないか、で言えば、大丈夫じゃないですから、大丈夫ですよ」
「いや、その回答が既に大丈夫じゃないだろう」

 未だに、顔面ミイラ男と化しているアレンに、バーナードは何とも言えない表情となる。

「私はね、ペイズさん。こっそり殺すのが得意なんです。こっそりひっそりパキュンするのがお仕事なんです。なのにね、盗みをやらされるわ、護衛に駆り出されるわ、悪魔少年にボッコボコにされるわ、美少女に顔面崩壊の刑にされるわ、挙句の果てに、怪物達と戦争してこい、ですよ? いくら敬愛する局長の命令でもね、そりゃあ疲れますよ。燃え尽きる一歩手前ですよ。いいですよね、ペイズさん達は。全員治してもらえて。私なんか、未だに奥歯とか鼻の奥とかがズキズキと痛んで……ガチンコ勝負は、私の領分ではないんですよ? それなのに、こんな状態で送り出されて、今度こそ死んじゃいますよ」

 へへっと笑いながら、遠い目をしつつそんなことをダラダラと呟くアレンに、バーナードは頬が引き攣るのを止められなかった。内心で思う。「やべぇ、こいつ、マジで追い詰められてやがる」と。

 そんな、ブラック企業に勤め続けてボロボロとなり、公園のベンチで黄昏れながら出来もしない転職を夢想するサラリーマンのような姿を晒すアレンに、追い打ちがかけられる。

「辛気臭いですよ、ミスターK(笑)。これから最終決戦だというのに、なにを消沈しているのですか。抉りますよ?」
「こわっ。抉るってなに!? どこを抉る気!? っていうか、今、Kの後に何かつけませんでした?」

 隣に座るヴァネッサの辛辣を通り越して恐怖を覚える冷たい言葉に、アレンはビクビクと震えながら言葉を返す。

「少しは空気を読んでください。今はシリアスの時間です。大勢の命がかかっていて、ベルセルクの軍勢と戦わねばならないのですよ? そんな面白い顔をしていないで、真剣になってください」
「面白い顔になっているのは、主に君達のせいですけどね! それに、シリアス云々は、ヴァネッサに言われたくないで――」
「おい、誰が名前で呼んでいいと言った。爆笑必至の顔面にしますよ」
「す、すみません。でも、そんな口調が変わるほど怒らなくても……あ、痛いっ。痛いですって! 傷口をぐりぐりしないでください! 許してください、パラディさん」

 さりげなく名前で呼んだら、想像以上の憤怒で返された。包帯の上から傷口を指でぐりぐりされて、アレンが悲鳴を上げながらのたうち回る。

 確かに、アレンは研究棟でベルセルクをばら撒いてしまった張本人だ。だが、そもそも窃盗の指示は局長がしたものであるし、不測の事態に不測の事態が重なって起きた、言わば事故のようなものでもある。

 一応、アレン自身も、研究棟での悲劇について罪悪感は覚えているし、エミリーに対しても申し訳ない気持ちがあるのだが、普段の軽薄な態度は染みついてしまっているが故に、一見すると反省の色が見えないので、どうにも辛辣な態度を受けてしまう。

 不運としか言えない事情と、内心が伝わらない言動。自業自得と言えばそれでお終いなのだが……

 バーナードを始め、同じ機体に乗っている隊員達は揃って、未だにヴァネッサから顔面をぐりぐりされて悲鳴を上げているアレンに、同情の視線を送らずにはいられなかった。

 そんなある意味で喜劇を繰り広げるヴァネッサ達を、ほんの少しの笑みを浮かべて見ているのはエミリーだ。だが、その笑みには陰りがある。

 アレンをぐりぐりしながら、チラリとエミリー盗み見るヴァネッサの様子から、一連のやり取りのいくらかは、エミリーの気分を晴らすためだというのが分かった。

「エミリー。大丈夫か……とは聞かねぇよ。大丈夫なわけないしな。ヴァネッサの言う通り、ここが山場で正念場だ。だからさ、踏ん張れ。俺達がついてる」
「……うん。ありがとう、こうすけ。それにヴァネッサも。自分で、わがままを言ってついて来たんだもの。途中で尻尾巻いて逃げたりしないわ」

 笑みに陰りがある点は変わらないが、その瞳に宿る強さに衰えはない。浩介はエミリーに頷くと、そっと小窓から外を覗いた。

 外には、今にも雨が降り出しそうな曇天が広がっている。今の、エミリーの心みたいだ、などと思いながら、浩介は現在展開されている作戦について、改めて整理し出した。

【Gamma製薬】にあったベルセルクのデータや薬品を全て破棄したあと、ケイシスから押収した記録媒体を改めて精査した浩介達。その記録の中には、ベルセルクのデータ等が移送された複数の研究施設がリスト化されて保存されていた。

 一般的な製薬とは関係のない企業の中に研究施設があるという場合がほとんどだったが、その中でもいくつか無視できない場所があった。それが、ダムや浄水場だ。いずれも、ヒュドラが何らかの形で関与している施設で、その中にも研究施設があるらしい。

 ケイシスの計画を知ったあとではゾッとする話だ。

 当然、保安局としては真っ先にそれら利水関係施設の制圧をしなければならない。改良版のベルセルクは未だ存在しないわけだが、万が一にも現在のベルセルクを流されようものなら目も当てられない惨劇が発生してしまう。

 そんなわけで、数が多い為に保安局だけでは手が足りず、軍とも協力した上で、複数ある研究施設への同時制圧作戦が、現在、展開されているわけである。

「お、おい、パラディ。もうそれくらいにしてやってくれ。こんなでも一応、貴重な戦力なんだ。そうそう負けるつもりはないが、相手はベルセルクの集団だしな。装備も、最高のものを用意したが、軍に比べれば見劣りするし」
「むっ。ペイズ隊長にそう言われては、引き下がるしかありませんね。ミスターK、命拾いしたな」
「う、うぅ。どこかに、私に優しくしてくれる女性はいないのでしょうか……」

 暴漢にでも襲われたように泣き崩れているアレンに、同情の視線が集まる。バーナードはそんな有様に溜息を吐きつつ、その視線を浩介へと向けた。

 ケイシスの記録媒体には、研究施設へ移送された大勢の人間のリストも含まれていた。研究職とは関係のない大量の人間……それが何を意味するのか、分からないはずがない。おそらく、人体実験に加え、自覚なき戦力(・・・・・・)として置いているのだろう。

 痛みも疲れも知らない、頭部を破壊しない限り瞬時に回復して戦い続ける狂戦士の集団……はっきり言って、完全に保安局の領分を越えている。明らかに、軍が出動すべき事態だ。

 だが、保安局以外の組織に属する集団に、浩介の正体を明かすのは、マグダネス局長も、浩介自身も望まないこと。故に、他の施設に関しては軍の特殊部隊が向かっているが、今から向かう施設だけは、保安局の特殊部隊と浩介達だけでどうにかしなければならない。

 バーナードには覚悟がある。いつだって、国家保安の為ならば身命を捧げることに躊躇いはない。だが、それでも、手にじっとりと汗を掻くことは避けられなかった。細心の注意と対策はするつもりだが、場合によってはベルセルク化した仲間を撃たなければならない可能性もあるのだ。

 いくら歴戦の強襲課の主任クラスで、特殊部隊の隊長を任されているとはいえ、超常の力を振るう存在(浩介)に、思わず期待と祈りの眼差しを送ってしまうのは仕方のないことだろう。

 そんなバーナードの視線に気が付いたのか、小窓の外を眺めていた浩介は、ふと視線を戻してバーナードを見た。

「どうしたんすか、隊長さん」

 特に気負いの感じられない軽い言動に、バーナードは思わず苦笑いを浮かべる。

「いや、実に落ち着いていると思ってね。敵となれば君ほど恐ろしい存在はいないと思うが、味方として共に戦えると思うと、これほど頼もしい存在はないな」
「まぁ、待ち構えているっていっても、ただの脳筋集団でしょう。純粋に騙されてベルセルク化してしまう人には申し訳ないけど、データを見た限り、ブラックな人間が大半みたいだし、それほど罪悪感もない。明確な弱点もある。落ち着いて戦えば、隊長さん達だけでも、どうにでもなると思いますよ?」
「随分と軽く言ってくれる。私より、よほど修羅場を抜けた戦士のようだな。似たような存在との戦闘経験でもあるのかい?」

 浩介の軽い物言いに、ますます苦笑いを深めるバーナードは、ふとそんなことを質問した。他の隊員達が興味深げに浩介へと視線を向ける。場合によっては、これからの戦闘の参考になるかも、などと思ったのだろう。半分以上は興味本位だろうが。

 バーナードの質問に、浩介は苦笑いで返す。エミリーやヴァネッサも興味深そうな視線を向ける中、浩介は遠い目をしながら答えた。

「まぁ、ありますよ。神の戦士との戦いなら。もっとも、奴等はベルセルクほど可愛げのある連中じゃありませんでしたけど」
「べ、ベルセルクが可愛い?」
「そうっすね。顔は超美人だったんですけど、戦闘能力のヤバイことヤバイこと。残像すら残さない速度で移動するわ、自在に空は飛ぶわ、防御力なんて無視して全てを分解してくるわ、双大剣と分解の翼であらゆる攻撃を無効化してくるわ、しかもゴキブリみたいに湧き出してくるわ……隠形からの一撃必殺だったからどうにかなったけど、正面からの戦いだったら、正直、勝てるかどうか……うん、今考えると、よく生き残ったな俺達」
「「「「「……」」」」

 乾いた笑みを浮かべて回想している浩介に、バーナードを含め隊員達は無言だった。内心では全員で「なにその冗談みたいな存在!? 冗談だよね? ね?」などと激しいツッコミを入れていたのだが、誰も口にはしなかった。

 同時に、「俺達、割と勝てんじゃね?」と、ちょっぴり自信が湧いてくるのだった。図らずも、どう隊員達を鼓舞しようかと思っていたバーナードの質問は、彼等の士気を上げたようだ。

「もうすぐポイントに着きます! ご準備を!」

 ヘリのパイロットから報告が届いた。それにバーナードが頷き、隊員達へと指示を飛ばす。エミリーやヴァネッサの表情にも緊張が宿った。

 浩介達が着陸する場所は、浄水場から少し離れた場所にある材木置き場だ。浄水場は周囲一帯を森に囲まれた川の傍にある。その浄水場に併設される形で研究施設はあるらしい。

 方針としては、浄水場からかなり離れた材木置き場に着陸し、そこから陸路で進んで相手方に気づかれない内に制圧する。一気隠密に踏み込んで、関連研究施設に襲撃を悟らせないのが最大のポイントだ。

 静かに、迅速に、ベルセルクを発動させることもなく制圧する。それが理想的な最大目標なのである。

 森の中にある伐採された材木の一時保管場所である空き地に、浄水場からは完全に逆サイドの方角から接近し、着陸を試みる。出来ずともロープ下降できる高さまで降りられれば問題ない。

 だが、事はそう簡単にはいかないようで……

「っ、待ってくれ、パイロットさん! 森の中に人がいる! 十人以上だ!」
「なっ。まさか」

 着陸しようと高度を下げていたパイロットに、浩介が警告を飛ばした。バーナードが操縦席と浩介の傍へと駆け寄った。

「ミスターアビスゲート。それは伐採場の職員ではないのか?」
「浩介です。伐採場の職員って可能性は確かにありますね。ただ、ヘリが近づいて来たってのに、伐採場を囲むように(・・・・・・・・・)森の中を移動している……伐採場の職員ってのは、ヘリが見えたら着陸ポイントを包囲するものっすか?」
「……なるほど。そんな木こりは見たくないね」

 もたらされた情報に、バーナードは苦い表情となった。明らかに、浄水場へのアプローチを警戒して、施設側が人員を配置していたと分かる。リストの中には、元警官や暴力的な組織の構成員だった者もいる。それぞれ犯罪にどっぷりと手を染めて進退窮まった犯罪者だが、こういう動きをさせるには有用な人材だ。

 おそらく、本人達は自分達が怪物に変えられるとは思いもしていないのだろう。ただ、金に釣られて、近づく敵を排除しろ、とでも言われているに違いない。

「おそらく、もう連絡もされているか……」
「そうでしょうね。もう隠密制圧の方針は意味がないっすよ」
「ああ、強襲しかない」

 険しい表情のバーナードがパイロットに指示をすれば、パイロットはヘリを上昇させて直接浄水場へと向かおうとする。次の瞬間、窓から下の様子を見ていた隊員の一人から悲鳴じみた警告が発せられた。

「ミサイルッ! 回避しろ!」
「ッ、くそったれっ」

 パイロットが悪態を吐きながら機体を大きく傾ける。急激な動きにエミリーが悲鳴を上げる中、森の中から飛び出してきた携帯地対空ミサイルが一直線にヘリへと迫る。パイロットの反応は素晴らしいものがあったが、果たして回避しきれるかは微妙なところ。

 バーナードにも、隊員達にも覚悟の色が浮かぶ中、

「――“黒渦”」

 ヘリの床に片手を突いた浩介が、一言、そう呟いた瞬間、ヘリがガクンッと一気に高度を下げた。まるで、下から何者かに掴まれ引っ張られたかのように不自然に。

――重力魔法 “黒渦”

 浩介が最も得意とする重力場発生魔法だ。任意の場所に重力場を発生させれば天井に立つことも、“落ちる”ことで疑似的に空を飛ぶこともできる。重力魔法の基本中の基本と言える技であり、ユエなどは最初から無詠唱で使いこなす魔法だったりする。

 突如発生した重力場により、ヘリは通常の何倍もの重力を受けて、一気に降下した。刹那、そのヘリの頭上をミサイルが通過していく。

「な、なんだ!? いま、何が起きた!?」

 パイロットが狼狽の声を上げるが、それを言いたいのはきっと、地上でヘリの様子を見ていた連中の方だろう。なにせ、大きく旋回している途中で、ミサイルが直撃する寸前にカクンと下へずれたのだから、変態機動という他ない。

「二度も撃たせはしないぞ」

 重力場が解かれ、機体の制御を取り戻したパイロットを尻目に、浩介はそう呟くと印を組んだ。意味はないけど印を組んだ!

 直後、コックピットスクリーンの外に浩介の分身体がポンッと音を立てて姿を見せる。浩介の分身体は、本体を中心に半径三メートル以内で出せるので、それを応用すれば、疑似的な壁抜けもできるのだ。

 窓の外に出現した人影に、パイロットは悲鳴を上げるので忙しい。隊員達も「で、出たぁ!」と、まるでお化けに遭遇したかのような悲鳴を上げる。複数の浩介というのは、割と彼等のトラウマになっているらしい。

 窓の外でスッとサングラスをかけた未だ辛うじて浩介な存在は、そのまま空中に飛び出すと衛星のように十二本の苦無を周囲へと展開する。そして、

「許せとは言わない。せいぜい恨みながら死んでくれ。――“絶光千刃・飛喰閃”」

 浩介の中心を周回する十二本の苦無が一斉に飛び出した。それぞれ別の目標に向かって、一筋の閃光のように。目標は言わずもがな。

ヘリの変態機動を目撃した衝撃からどうにか立ち直り、二発目を撃とうとしていた者を含め、森の中に潜んでいた潜在的ベルセルク達は、直後、揃って脳天を貫かれて絶命した。

 空中に黒い波紋を広げながら立ち、浮遊する苦無を自在に飛ばす浩介を見て目を白黒させるパイロットに、バーナードから生温かい視線と共に浄水場へ急行するよう指示がなされる。

 パイロットは「なんだってんだ、ちくしょう」と小さく悪態を吐きつつ、しかし、そこは歴戦のパイロットらしく淀みのない操縦でヘリを飛ばした。

 やがて、開けた場所が見えて来た。浄水場施設と、一見して何の施設だろうと疑問を抱くような白い併設の建物が見えて来る。少し離れた下流の方には配水施設も見えた。浄水場は全体が二重のフェンスで囲まれているようで、上には有刺鉄線もあり、元々ヘリでの移動も考慮されていたようで大きな広場とヘリポートも見受けられた。

「チッ。やっぱり連絡がいったか。続々と出て来るな。……普通の警備員、なわけないか」

 バーナードが双眼鏡で、浄水施設の正面にある広場へ併設施設からぞろぞろと姿を見せる大勢の人間を見て、顔をしかめる。大体が堅気の人間でない、あるいはゴロツキと一目で分かる雰囲気の者達だが、中には線の細い青年や女性、老人の姿もあった。

「おいおい、あれが全部怪物になっちまうってことか? どうします、ペイズ隊長。ロープ下降できる高さまで降りたとして、ベルセルクの力で投石でもされたら、それだけで撃墜されますよ」
「しょうがない。離れた場所から狙撃かグレネードを使って少しでも数を減らすしか……」

 既にヘリポートは潜在ベルセルクでいっぱいだ。パイロットの懸念は的を射たもので、苦い表情のバーナードが作戦を口にする。そこで、浩介から待ったがかかった。

「隊長さん。俺が行きますよ。上空に着いたらハッチを開けてください。着陸場所を確保します」
「まさか、一人で行く気か? 相手は、脳を破壊するしか殺し切れない怪物集団だぞ?」
「ええ。ですが、狙撃じゃあヘッドショットを飛行中のヘリから決める、なんて面倒な方法でないと意味がないし、グレネードで吹き飛ばすといっても確実に脳を破壊できるかなんて分からない。時間をかければ、次々にベルセルクが出てきて収拾がつかなくなるだろうし、肝心の奴等に逃亡を許す可能性もあります」
「それは……確かに、その通りだ。だからこそ、気が付かれないよう五キロ以上離れたあの伐採場を着陸ポイントにしたわけだしな」

 バーナードが頭をガリガリと掻き毟る。初っ端か出鼻を挫かれ、そのツケを本来であれば関係のない人間である浩介に払わせようとしている。そのことが、保安局強襲課の局員として忸怩たる思いとなっているのだろう。

 そんなバーナードの心情を見透かしたらしい浩介は、心外だとでもいうように彼の肩を叩いた。

「関係ないのに、なんて思わないで下さいよ。むしろ、これは俺の(・・)戦いです。エミリーの行く道に立ち塞がるものを排除し、彼女を守り、手を伸ばしたその先へ導く。むしろ、隊長さん達の方が俺達の協力者なんです」
「ミスターアビスゲート……」
「浩介です。まぁ、そういうわけですから、皆さんは援護を(・・・)お願いしますよ? あぁ、それと念の為、俺は浩介です」

 不敵な笑みを浮かべながらの浩介の言葉に、エミリーが感動で瞳を潤ませているのは当然のこと、何故かドヤ顔をするヴァネッサ。そして、隊員達は、浩介の化け物じみた実力を知っているが故に、頼もしさと心が奮い立つ感覚を覚える。

 全員が、キリッとした表情と敬礼で浩介の指示に応えた。

「「「「「イエスッ、アビスゲートッ!!」」」」」
「だからっ、俺は浩介だっつってんだろうがっ!! わざとか!? わざとなのか!?」
「ミスターアビスゲートッ! 間もなく上空に着きますよ! 本当に高度を下げなくていいんですね!?」
「ええいっ、パイロット! お前もかっ! 高度はそのままでいいよ、ちくしょうめっ!」
「アビス! 奴等がベルセルク化し始めたぞ!」
「隊長ェ! なにフレンドリーな感じに呼んでんだ! 強制ノーロープバンジーの刑してやろうか!? ベルセルクは二十体くらいっすね、こんちくしょう!」
「アビスゲートさん! ハッチ開放します! ご武運を!」
「完璧な敬礼ありがとう! でもあんたは後で殴る! それじゃあ一番槍、行って来るぞ!」
「さぁ、あなた達! 括目しなさい! アビスゲート様のご降臨よ!」
「駄ネッサ。てめぇは後で素敵な村人にしてやるぅ! 覚悟しとけ!」
「アビッ――こうすけっ。頑張って!」
「おいおいおいおい、エミリーちゃん。今、俺のことアビスゲートって呼びかけたろ!? どういうこと!? 割とショックなんだけど!?」

 激しいツッコミを入れつつも、開放されたハッチから身を乗り出していた浩介が、エミリーの方へ振り向く。エミリーは視線を明後日の方向へ逸らしていた。どうやら素で、隊員達のアビスゲート呼びに釣られてしまったらしい。

 と、次の瞬間、ヘリが大きく傾いた。どうやら、ベルセルクの一体が、ブロックの塊を砲弾じみた勢いで放り投げたらしく、パイロットが緊急回避を行ったらしい。

 結果、

「あ」

 エミリーの方へ振り向き油断していた浩介は、そんな間抜けな言葉を残してハッチの外へと放り出された。隊員達が「あ」と声を揃えて小さくなっていく浩介を見つめている。

「こ、こうすけぇええええっ」

 エミリーの声が木霊する中、浩介は仰向けに自由落下しながら器用にもガクリと肩を落とした。事故でヘリから落ちるなど、余りにも締まらない開戦である。

「まぁ、俺ってばこういうキャラなんだよな。きっと」

 そう呟いた浩介は一つ溜息を吐くと、くるりと空中で回転し地上を見下ろした。そこには既に二十体近いベルセルクが咆哮を上げながら、今か今かと獲物が来るのを待ち構えていた。

 そんな恐るべき怪物達を眼下に、浩介は懐からサングラスを取り出してスッと装着した。途端、ニィイイッと釣り上がる口元。それは深淵が降臨した証。

「歓迎ご苦労。お礼に、素晴らしき首狩りを以って応えさせてもらおう!」

 宙を蹴る。地上で待ち構えていたベルセルクの一体は、突然落下軌道の変わった獲物に、思わず子供のように掲げた手をばたつかせた。

 アビスゲート卿がずらした着地ポイント。それはベルセルクに囲まれるのを避けたいが故ではない。むしろ、その逆。もっともベルセルクの密度が高い場所のド真ん中へと躊躇いなく飛び込んだ。

 そして、着地の寸前。シャンッと澄んだ音を響かせながら、二刀の小太刀を引き抜き、駒のように回転する。螺旋の暴風が吹き荒れたのかと錯覚するような漆黒の剣閃が、反応できていないベルセルク達の丸太の如き首筋を撫でる。

 スタッと、高高度から落下したとは思えないほど軽やかな着地音を響かせながら、逆手に持った小太刀二本を前後に、片膝を突いて香ばしい残心を取る卿。

 次の瞬間、卿を囲む四体のベルセルクの背後にゴトッと四つの音が響く。それは紛れもなく、ベルセルク達の首。見れば、四体のベルセルクは皆、綺麗に首から上を消失させていた。傷口は、焼けるか凍てつくかという状態で、血が噴き出ることもない。

 まるで最初から着脱が可能だった玩具なのだと錯覚するような容易さで、恐るべき怪物達は唯一の弱点である頭部を失い、ドゥッと音を立てながら倒れ伏した。

 スッと立ち上がった卿。もちろん、片手でサングラスをクイッとしつつ、半身に構える香ばしいポーズは忘れない。そんな卿に、ベルセルク達が唸り声を上げながら殺気を叩きつける。

 それを柳に風と受け流しながら、卿は「ふっ」をし、名乗りを上げた。

「戦とは、力と意志の殺し合い。意志無き貴様等に、この深淵を止めることなど出来はしまいよ。さぁ、幕引きといこう。――コウスケ・E・アビスゲート。推して参る!!」


いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます。

風邪を引いた……
風邪薬を買いに行ったら自転車がパンクした……
スーツにアイロンかけていたら、一部破れていることに気が付いた……
しょうがないから、風邪薬飲んでニコ動見ることにします。
ジョン・ウィックな優曇華がヤバ可愛い……
Shootout・Dreamとバトル・オブ・紅魔館が素敵です。


次回の更新も土曜日の18時の予定です。
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