挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれた番外編 世界のアビスゲート卿から

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

197/293

プロローグ

やつが主役の番外編です。
どこまでやるか全くの未定!
とりあえずプロローグ

注意点
・この作品はフィクションです。登場する人物、組織、その他もろもろは現実のものとは異なります! 
(白米の言い訳⇒現実の地球を舞台とするとき、いろいろな名称や設定を自由にいじれない。知識不足で実際と違う……なら、似てるけど現実の地球とは違うんですよ! だから、組織名とか国名とか武器名とか、微妙に違っても大丈夫!)
ということで一つ、よろしくお願い致します。

 こんなはずじゃなかった。

 それは、人生において、きっと一人の例外もなく、誰もが口にした、あるいは思ったことのある言葉ではないだろうか。

 理想を見て、目標を掲げて、決意を宿して、本気になって、こうであれと願った未来に向けて、邁進する。

 だが、人生というのは、そして世界というのは、頗る付きで意地が悪い。右と思えば左、左と思えば右なんて当たり前のことで、ここぞというときこそ“予想の斜め上”を行く。そんな馬鹿な、あり得ない、理不尽だ、なんて思っても、まるで鉄砲水に呑み込まれて流されるが如く、不条理の激流に翻弄されて、流木のようにどこぞの浜辺(現実)に投げ出されるのだ。

 夢破れ、心折られ、ボロ木のようにされた者が、再び立ち上がって歩き出せるか、それとも、そのまま(現実)に埋まって消えていくかは……本人次第。もっとも、大抵の場合、どこかに救いはあるものだ。誰かが砂を払ってくることもあるだろうし、手を引いて埋もれた体を引っ張り上げてくる可能性もある。傷が癒えるまで、傍に寄り添ってくれる者もいるかもしれない。

 だが……

(私には、きっと救いはない。そんなのあっちゃいけない。あぁ、私は、なんてことを……)

 金属製の棚に所狭しと段ボールや備品が詰め込まれている備品倉庫。それほど広くない、大きな倉庫から取り出した備品を取り敢えず一時保管しておくその場所で、一人の少女が膝を抱えて座り込んでいた。

 その少女が、突然の大きな衝撃音にビクリッと体を竦ませる。ガンッガンッガンッと、連続して響き渡る衝撃音。何者かが、外から備品庫の扉を殴りつけているのだ。少女が恐る恐るといった様子で顔を上げる。

 可愛らしい――というより、綺麗というべき少女だった。年の頃は十六、七歳くらいだろうか。シュシュで纏めてサイドテールにした金色の髪、悪戯猫を彷彿とさせる釣り目は長い睫と翡翠の瞳で彩られている。全体的にスレンダーな体型で、スカートから伸びる黒のストッキングに包まれた足は細く長い。モデルとしても十分に通用しそうな少女だった。

 だが、その少女が決してモデルなどでないことは、普通の少女ではまず着るはずのない、その衣服が示していた。そう、彼女は、ブラウスの上に、“白衣”を羽織っていたのだ。

 何かの折に無理やり着せられたか、あるいは少々特殊な趣味によるものでないことは、白衣のくたびれ具合、そして何故か“似合う”と思える着慣れた様子から明らかだ。

 そんな少々特異な姿の少女は、再度、ガンッと鳴り響いた強い衝撃音に「ひっ」と悲鳴を上げて、両手で頭を抱えた。これでもかと小さくなり、見るからに怯えた様子でありながら、しかし、その怯えはどうやら、倉庫の外から鳴り響いている衝撃音が未知であるが故のものではなく、むしろ正体を知っているが故のものらしかった。

 というのも、少女の表情には怯えと同時に、哀れむような、悲しむような、罪悪感に打たれているような、そんな色が浮かんでいたのだ。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 小さな、そのまま空気に溶け込んでしまいそうな声音で懺悔の言葉を繰り返す白衣の少女。それはいったい、何に対する謝罪なのか……

 と、そのとき、鳴り響いていた衝撃音がピタリと止まった。白衣の少女は、目の端に涙の雫を溜めながら、「どうしたのだろう?」と疑問に思う。白衣の少女が生み出してしまった“彼等”の行動原理は、極めて本能的だ。故に、少女という“獲物”がいる備品庫から、そう簡単に離れることはないはず。ならば、“彼等”の興味を引く別の何かが現れたのだろうか。

 少女は、ゴシゴシと白衣の袖で目元を拭うと、四つん這いのままそろりそろりと戸棚の間を進み出した。そうして、備品庫の扉からは死角になっている奥の方から、戸棚の端まで怯えた猫のようにやって来た少女は、そっと戸棚の影から顔を覗かせ、音の止んだ扉へと視線を向けた。

「ひぅ」

 普段出すことのない、奇妙な悲鳴が上がる。扉の有様を見て、思わず喉の奥がキュッとなったのだ。少女の視線の先、備品庫の扉は――ボコボコに凹んで今にも破られる寸前だった。

 一時保管の備品庫であるから、鉄製で鍵も付いている。にもかかわらず、異常な、それも一点に集中したような衝撃を受けたかのように、おびただしい凹凸が作られていて激しく歪んでいる。扉の淵からは、外の廊下が覗いていた。あと一撃、衝撃を受ければ、そのまま内側に倒れてきそうだ。

「……」

 息を殺して、しばらくの間ジッと扉を見つめていた少女は、やがてふっと肩から力を抜いた。どうやら、“彼等”は、扉を破る寸前でどこかに行ってしまったらしい……

 と、思うのは少々早かったようだ。

 ゴガァンンッと、凄まじい衝撃音と同時に、扉が内側へ吹き飛んだ。再び、「ひっ」と悲鳴を上げて、少女が身を竦ませる。次の瞬間、猛烈な勢いで飛んできた扉は、少女の近くの棚を薙ぎ倒した。

 尻もちをついて、驚いたときの癖なのか、再び両手で頭を抱える少女は、目の端に涙の雫を溜めながら、恐る恐る瞑っていた目を開ける。

「フゥッーー、フゥッーー」
「ぁ、うぁ」

 少女の視線の先には、男がいた。少女と同じ、白衣を着た二十代半ばくらいの青年だ。

「せ、先輩……」

 漏れ出た少女の呟き。青年は、どうやら彼女の知る“先輩”らしい。だが、事情を知らない者がこの場面を見たなら、到底、少女の言葉は納得できなかっただろう。

 というのも、その男の様子が、どうみても、白衣を着るような立場にあり、かつ怯えた表情をしていてもなお理知的な瞳を陰らせない少女から、“先輩”と呼ばれるような人種には、否、そもそもまともな人間にすら見えなかったからだ。

 焦点が定まらず、時折白目を剥く異常な目、血管の浮き出た顔や腕、本来ならば痩身であるはずなのに、異様なまでに肥大化したボディビルダーのような肉体、呼気は荒く涎が垂れ流され、獣のような低い唸り声を上げている。とても理性があるようには見えない。少女と同じ白衣を着ていながら、その恰好のなんと違和感のあることか。

 そして何より異常なのは、そのきつく握り絞められた拳だ。おそらく、先程まで、鉄製の扉が壊れるほど殴り続けたであろうその拳は、皮が剥け、肉が抉れ、骨が飛び出し、血に塗れているのだが、その拳が一見して分かるほど急速に元に戻りつつあるのだ。否、正確には、肉が盛り上がり、亀裂の入った骨が繋ぎ直され、歪なまま拳の形に修復されているというべきか。

「ゥ゛ウ゛ウ゛ァ゛ッ」
「あ、あ……」

 ずりずりと少女が尻もちをついたまま後ろへ下がる。それを異常な青年は、唸り声を上げたままのそりのそりと追いかけていく。備品庫は、そう大きいわけではない。故に、少女の背は直ぐに壁に阻まれた。

 追い詰められた少女の前に、理性なき獣のような男が立つ。頭を抱える少女の股から、温かいものが流れ出した。恐怖の余りやらかしてしまったのだが、少女自身に、それを気にする余裕はない。

 そんな少女へ、何の躊躇いもなく、青年の鉄製の扉すら破壊した拳が振り上げられた。

(ごめん、なさい……。私があんな研究さえしなければ……。ごめんなさい、先輩……みんな……)

 数拍後には訪れるだろう己の死に震えながら、少女は心の中で懺悔を繰り返す。

 そうして、少女の顔を容易く叩き潰すであろう拳が振り下ろされ――

「グラント博士!」

 若い女の怒声と、乾いた破裂音が響き渡った。“先輩”の拳が止まる。そして、ゆっくりと、唸り声を上げながら振り返った。白衣の少女も“先輩”の陰から、扉の方へ視線を向ける。

 そこには、黒のスーツを着た背の高い女性が、両手で拳銃を構えている姿があった。

「グラント博士、伏せて下さい!」
「っ」

 ビリッと空気が震えるような鋭い指示に、グラント博士――エミリー・グラントは、反射的に倒れ込むようにして身を伏せた。

 直後、連続して鳴り響く発砲音。そして、獣の咆哮。地響きのような足音がエミリーから遠ざかる。エミリーが身を伏せながらも視線を向ければ、“先輩”に向けて発砲するブラックスーツの女性と、それをものともせず突進する“先輩”の姿があった。

 最初、女性は“先輩”の肩や足を狙ったようだが、命中しても痛痒すら受けていない様子に小さく舌打ちをする。直後、ほとんど一瞬と言っても過言ではないような驚異的な速度で間合いを詰めた“先輩”が、絶叫を上げながら女性に拳を突き出した。

 あわや、そのまま女性はただの肉塊になるかと思われたが、彼女が只者でないことは、次の瞬間、証明されることになった。

「ハッ」

 短い呼気と共に、女性は前へ踏み込んだ(・・・・・・・)。そうして、迫る拳を掻い潜って、“先輩”の懐に踏み込むと片手で襟首を掴み、反転。そのまま見事な背負い投げを決める。

 突進の勢いを投げ技に利用された“先輩”は、そのまま上下逆さまになった状態で廊下の反対側の壁に叩きつけられることになった。それでも、やはり痛痒を受けた様子はなかったのだが……

「……申し訳ない」

 そんな言葉が一つ。同時に、乾いた炸裂音。飛び出した九ミリ弾は、“先輩”の目から侵入し、脳内を容赦なく粉砕した。ビクンッと震え、やがて力が抜けたように脱力し動かなくなる“先輩”。

 女性は、拳銃を両手で構えながら、しばらくジッとその様子を観察していたが、“先輩”はもう動かないと判断したようで、ふっと肩から力を抜いた。そして、手慣れた様子でマガジンを交換しながら、通信機でどこかと連絡を取りつつ、備品庫の奥で呆けたように座り込んでいるエミリーへ、余り感情の見えない表情を向ける。

「グラント博士、ご無事で何よりです。国家保安局のヴァネッサ・パラディです。お迎えに上がりました。これより、貴女を安全な場所まで護衛します」

 足早にエミリーの元へ寄り、そっと手を差し出すヴァネッサと名乗った女性。近くで見た彼女は、なるほど、荒事に慣れていることを窺わせる雰囲気と見た目を持っていた。切れ長の鋭い瞳に、グレージュ色のベリーショートの髪。身長は、百七十は確実に超えているだろう。全身から、ナイフのように鋭利で冷たい気配が発せられている。

 故に、だろう。エミリーは警戒したように眉間に皺を寄せた。

「……貴女の事情はおおよそ把握しています。警戒は当然。しかし、時間的余裕はありません。この施設は凶暴化した職員達で埋め尽くされています。私の同僚が注意を引いていますが、それも長くは持ちません。ですから、今は私を信じて、ついて来てください」
「…………先輩は……」
「……申し訳ない。私の優先保護対象は貴女です。野放しにする余裕はありませんでした。それに、ああなってはもう手遅れだということは――」
「ええ。私が一番よく分かってる」

 エミリーは、ヴァネッサ越しに血の海に沈む“先輩”のなれの果てをしばらく見つめ、それからヴァネッサへと視線を移す。相変わらず冷たい雰囲気と無表情だが、エミリーの姿を映すほど近くで見た彼女の瞳には、何となく、エミリーに対する労りと申し訳なさが宿っているように見えた。

 エミリーは、その瞳をジッと見つめたあと、差し出されたままのヴァネッサの手を取った。

「信用したわけじゃないけど……私はまだ、死ねないから」
「ええ、それで構いません。私から決して離れず、ついて来てください」

 猫のような釣り目の端に溜まった涙をぐいぐいと白衣で拭いて、まなじりを更にキッと上げたエミリーに、ヴァネッサはコクリと頷いた。そして、エミリーを先導しながら部屋から出ていく。

「……先輩、ごめんなさい。私、きっと止めてみせるから」
「……」

 エミリーが最後に、“先輩”へ言葉を遺す。

 まだ若く、天才と称されていても世間慣れしていないエミリーは、飛び級で入学した大学でいつも一人ぼっちだった。生来の負けず嫌いな性格が、そんな環境でも全然平気! と言わんばかりの言動を取らせていたが、まだまだ幼さの残るエミリーにはやっぱり辛いもので……

 そんな強がるエミリーを、本当の意味で研究者にしてくれたのは、今の、エミリーが所属する研究室の教授とその生徒達だ。何から何まで世話になった教授を父とするなら、先輩達は兄であり姉であった。妹のように可愛がってくれて、それでいて研究者としては対等以上に扱ってくれた。

 そんな中でも、目の前の無残に息絶える変わり果てた“先輩”は、特に親身になってエミリーを助けてくれた恩人だった。

 エミリーの一拍にも満たない黙祷には、言葉では表現できない強い強い想いが込められていた。

 ヴァネッサは周囲を警戒しつつも、そんなエミリーに感情のない視線をチラリと向ける。否、僅かな揺らめきがあった。それは憐れむような、あるいは心配するような……

 しかし、エミリーが短い黙祷を終えた瞬間には、元の感情を悟らせない無表情に戻っていた。

「行きましょう」
「うん」

 微かに銃声の聞える施設の中、はびこる理性無き超人達を警戒しながら、あるいは、変わり果てた父代りや兄、姉達との最悪の再会を恐れながら、二人は薄暗い廊下の奥へと消えていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「おぉ、あれが有名な時計塔か。うん、やっぱりこういうのは生で見るに限るな」

 満足そうな声音を響かせながら、スマホをカシャカシャしている日本人の少年がいた。大きめのリュックを背負い、黒を基調にした地味な服を纏っている特に特徴のない少年だ。

 その黒っぽい少年はひとしきり写真を撮ると、その写真の写り映えを確認しながらハッとしたように顔を上げた。

「やべ、いつまでも観光している場合じゃねぇ。うちの魔王様からの指令を果たさないと」

 写真の中の時計は、既に一日の終わりを示しつつある。周囲の風景も、雪までは降っていないものの曇天であることもあってかなり薄暗くなってきている。

 少年はスマホをしまいリュックを背負い直すと、はぁと白い息を吐きながら踵を返した。

「私用のついでとはいえ、人遣いが荒いよなぁ。ま、俺も一応、身内だし……断るわけにもいかない。頑張りますか」

 そんなことを独り言ちながら家路を急ぐ人々の中に消えていく少年。やがて、その姿は完全に周囲の景色に埋没して見えなくなった。

 もっとも、人込みに紛れる以前から、その少年には、視線を向けた者すら一人としていなかった。余りに普通で、余りに存在感がない。

 その異常性に気が付ける者は、もちろん、誰もいなかった。


いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます。

しつこいですが、もう一度、
これ、現実の地球とは違います! だから、国家保安局ってなんやねん、なんかいろいろまじッとるがな! というツッコミは心の中のみでお願いします。
……なんか、すみません。

あ、あと、活動報告アップします。書影とか、特典イラストも載せてます。
そちらも、よろしければ見てみてください。
次も土曜日の18時更新です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ