挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれたアフターストーリー

193/257

ありふれたアフター 南雲家の嫁騒動

注意、今話は、時系列がまた戻りまして、帰還後から一周年の集まりまでの間のお話です。
アフターは、作者が思うままに(本編もいきあたりばったりでしたが)書いているので、時系列もバラバラです。読みにくいかもですが、よろしくお願いします。
「結婚式……どうしようかしら?」

 うららかな日差しが照らすリビングで、ぐったりとソファーにしなだれる菫がポツリと呟いた。

 世間では休日のこの日、しかし、人気少女漫画家である菫には本来、休みはない。今日も迫って来る締め切りという名の審判の時を乗り切るために、ゾンビにクラスチェンジして仕事場に向かったのだが……結局ネタ切れで筆が進まず、不貞寝ならぬ不貞帰宅して、ダラダラしているのだ。

 現在、家にはハジメも愁もおらず、ユエ達女性陣だけしかいない。珍しいことに、外出するのに、ハジメはユエ達を置いて行ったのだ。

 愁の会社で作られている新作ゲームに関する会議に赴いたのだが、学生でありながら重要戦力として認められているハジメはともかく、ゲーム知識に乏しいユエ達を、恋人と一緒にいたいという理由だけでは参加させられないというのが、表向きの(・・・・)理由だ。

 なお、ミュウも本日は外出している。なにやら、幼稚園の友人(配下)達を引き連れて、隣町の園児達と白黒をはっきりつけに行くらしい。玄関を出ていく際の、「今日は、決戦なの。少し粋がっているあの子達に、身の程というものを教えてあげるの」と不敵な笑いは、いったい誰に似たのか……言わずもがなである。

 そんなわけで、香織や雫も家に招いて、ユエ達は女だけのまったりとした休日を過ごしていたのだが……

 そこに投げ込まれた菫の静かな爆弾は、決して小さくない波紋を彼女達の間にもたらした。頭上に、某ダンボール好きの傭兵を発見した敵兵士の如き“!?”を浮かべて、バッと音がしそうな勢いで菫を見る。ユエだけは紅茶に口をつけながら、ちょっと困った人を見るような眼差しを菫に向けていたが。

「あ、あの義母かぁさま? 今のはどういう意味ですか?」

 シアが代表して、菫の呟きの真意を尋ねる。それに対し、菫は、のっそりとソファーに埋めていた顔を上げると、いかにも悩ましげな表情をしながら口を開いた。

「そのままの意味よ、シアちゃん。そのうち、ハジメとシアちゃん達の結婚式は盛大に挙げるつもりだけど、流石に、全員というわけにはいかないでしょう? ほら、この法治国家日本では重婚は禁止されているわけだし」
「た、確かに……」

 コクコクと頷くシア。香織や雫が「ん?」と首をかしげ、何かを言おうと口を開きかけるが、その機先を制するように菫が言葉を続ける。

「絶対、みんなのご両親も、自分の娘の花嫁姿はみたいはずだわ。でも、悲しいかな、日本の法律では、結婚式の花嫁は一人だけ……すなわち、ウエディングドレスを着られるのも、この中の一人だけなのよ!」

 ズガーン! と、背後に雷鳴を轟かせながら、衝撃の事実? を声高に叫ぶ菫。シアやティオ、香織などは「なんだってーー!!」みたいな顔になっている。雫が、菫の指摘にツッコミを入れようとするが……

「雫ちゃん……ウエディングドレス、着たくないの?」
「え? い、いえ、菫さん。それは、その、もちろん着たいです、けど……」

 ガシッと肩を組まれ、至近距離から顔を覗きこまれつつ菫からそんな質問をされれば、雫は気圧されたように身をのけぞらせつつ正直な心情を吐露してしまう。その隙を突くかのように、菫の口撃は止まらない!

「雫ちゃん。それに、そこであらあらうふふしているレミアちゃんと、なんだか私を困った人を見るような生暖かい眼差しで見つめてくれているユエちゃん。みんなもウエディングドレス着たいわよね? 礼服に身を包んだハジメとヴァージンロードを歩きたいわよね?」
「その……はい」
「……ん。もちろんです。お義母さま」
「私も同じですよ、お義母さん」

 うんうんと頷き、しかし、直後、やたら芝居がかった仕草で天を仰いだ菫は、

「そうよね。でも、それが出来るのは一人だけ。そして、婚姻届という、対外的にハジメの妻として見られるための届出も、出来るのは一人だけ……この日本で、ハジメのお嫁さんであると、正式に認識してもらえるのは、たった一人なのよ」

 そう言って悲しそうな表情でユエ達へ視線を巡らせた。そして、シア達が「公式なハジメの嫁は、この中のたった一人」という言葉を受けて互いに僅かな緊張を孕んだ眼差しを送り合う中、菫は、本日の南雲家を混乱へと陥れるその言葉を放った。

「さぁ、この中で、ハジメのお嫁さんとして真に相応しいのは誰かしら? 私は、母として、誰を選べばいいのかしら? ねぇ、ハジメの、“自称”お嫁さん達?」
「「「「!?」」」」

 シア達の体に電流が走った! 

 自称――その言葉が深く、それはもう深く胸に突き刺さる。確かに、婚姻届を出しているわけでも、挙式したわけでもないのだ。いくら当事者が夫婦だと言っても、対外的には証がない。“自称”という、なんだか訳もなく猛烈な不快感の沸く言葉も否定できないのだ!

「か、かぁさまっ! 私は、私はどうしたらいいんですか!?」
「あ、シア、ずるい! お義母さん! 私、ハジメくんのために頑張ります! だから!」
「あ、あの、私も、頑張るので……」
「ううむ、妾も、そろそろ本気を出す時かもしれんのぅ」

 あわあわ、おろおろと、シア、香織、雫、ティオが義理の母へ教えを乞うため集まっていく。なんとなく、菫の思惑を察しているユエとレミアも、ちょっとだけ視線を合わせて困ったような笑みを交わしつつも菫の傍に寄って行った。

 そんな素直? な義理の娘達に、菫は内心でにんまりしながら、しかし、そんな様子は僅かにも見せず、ズビシッと音が鳴りそうな勢いで指を突きつけた。そして、宣言する。

「ユエちゃん、シアちゃん、ティオちゃん、香織ちゃん、レミアちゃん、雫ちゃん! ハジメの隣で、花嫁衣裳を着たいかぁーー!」

 当然、ノリノリで「おぉ~~~」と返事を返す嫁~ズ。

「ご近所さんにぃ、ハジメのお嫁さんと見られたいかぁーー!!」

 当然、ノリノリで「ガンホー、ガンホー、ガンホー!!」と返事を返す嫁~ズ。

「婚姻届けにぃ~、名前を書きたいかぁーーー!!」

 当然、ノリノリで「う~らぁらぁらぁらぁーーー」と返事を返す嫁~ズ。

 既に、細かいことはどうでも良いようだった。

 その後、菫の扇動で、ユエ達は「南雲家の嫁に一番相応しいのは誰か決定戦!」のための準備を進めるのだった。




 夕方、ハジメと愁が仕事を終えて家に帰ってきた。本日の議題であった新作ゲームについて、あれこれ話しながら家の門を通り、玄関の扉に手をかける。そして、

「ただいま~」
「帰ったぞ~」

 と、帰宅の挨拶をしながら扉を開けて……

「……ん。おかえりなさい、あなた。お義父さま」
「お帰りなさいです!」

 出迎えられた。ふりふりで純白の、小さなエプロンだけを(・・・)身に着けたユエとシアに。隣で「お、おぉ!?」と愁が声を上げるが、次の瞬間、「ぷげっ」という悲鳴を上げて崩れ落ちる。息子からの速攻不可避の一撃で意識を飛ばしたのだ。

「なにを、してんるんだ、ユエ、シア」

 真っ白で、むちっとした美脚やほっそりした肩と腕、そして、胸元が半分以上むき出しになった扇情的すぎる姿に、ハジメは頬を引き攣らせながら問う。

「……もちろん、お仕事を頑張って、帰ってきた旦那様に対する――」
「妻からの精一杯のお出迎えですぅ」
「裸エプロンで?」
「「裸エプロンで」」

 ユエとシアが、くるんっとターンを決めた。むき出しの背中と、ぷりんっとしたお尻がハジメに見せつけられる。

「嬉しくない?」
「失敗ですか?」

 ユエとシアが、首を傾げながら確認する。当然、ハジメは「ありがとうございます」と頭を下げた。男の悲しい性だ。そんなハジメに、ユエとシアは「10ポイント中、何点?」と不思議なことを聞いた。ハジメは疑問に思いつつも、迷うことなく「満点」と答えた。

 ユエとシアは「よしっ」とガッツポーズを取ると、ハジメの上着や荷物を預かり、そのまま可愛いお尻を晒したまま部屋の奥へ消えていった。

「なんだったんだ……」

 ハジメは白昼夢でも見たような気持ちになりながら、気絶している父親を担いでリビングの扉を開いた。

 すると、今度は、

「お前等もか!?」
「ぅ、お、おかえり、なさい、ハジメくん」
「お、おか、おかえ――無理ぃ、やっぱり耐えられないわ!!」
「あらあら、ふふ。お帰りなさい、あなた」
「うむ、お帰りじゃ。ご主人様よ」

 香織と雫、それにレミアとティオが、やっぱり裸エプロンで三つ指をついてお出迎えをしていた。思わずツッコミを入れるハジメに、雫が羞恥で顔を真っ赤にしながら、部屋の奥へ駈け込んでいく。しかし、裸エプロンであることに変わりはないので、その魅惑のお尻がぷるんぷるんと晒されたのは言うまでもない。

「うぅ、なんだ、いきなり顎先に衝撃が……はっ!? なんだここは、桃源郷かあべしっ」

 なにやらソファに投げ捨てた愁が目を覚ましたようだが、やはり速攻不可避の一撃を受けて白目を剥きながらぶっ倒れた。

 そんな愁を尻目に、やっぱり聞かれる「何点?」という嫁~ズの問い。ハジメは、ティオだけ「2点」と生々しい点数を言い渡してから、香織達には「満点」を伝えた。ビクッとなってハァハァし始めるティオはさておき、香織達は嬉しそうにガッツポーズを決め、やっぱりお尻を晒したままキッチンの方へと消えていった。

「それで、母さん。今度は何をしでかしたんだ?」

 部屋の隅で、何故か香ばしいポーズを取りながらニヤニヤとハジメ達を眺めていた菫に、ハジメは溜息を吐きながら問う。

「あら、いやだ。まるで私を問題児みたいに。私はただ、みんなの花嫁修業に付き合っているだけよ?」
「花嫁修業が裸エプロンとは、初めて聞いたぞ」
「旦那様のお出迎えも、立派な花嫁修業の一つよ。ユエちゃん達はね、誰が一番、南雲家の花嫁として相応しいか、今、競い合っているの。旦那として、きちんと見てあげるのよ。みんな満点だと決着がつかないから、きちんと採点してあげること! いいわね!」
「……」

 ハジメはこれ以上ないほどのジト目を菫へ向ける。花嫁修業として、家事洗濯やお料理の練習は前からしていたことだ。それを今更、裸エプロンというアブノーマルな方法で競い合うなど、どう考えても悪ふざけである。その首謀者は、この場においてただ一人しかいない。

 ハジメが、更に、菫を問いただそうとしたそのとき、トコトコとユエが歩み寄ってきた。服装は相変わらずだ。

「……ハジメ、ごはんとお風呂の用意ができた」
「お、おう、そうか」
「……ん。それで……」

 ユエは、エプロンの裾をキュッと掴みながらもじもじする。そんなことをすれば、ただでさえ際どい丈のエプロンは、更にまくれ上がって大変なことになってしまう。自然、ハジメの視線が雷龍に引き寄せられる魔物の如くその領域へ引き寄せられる。

 そんなハジメに対し、ユエはテンプレなあのセリフを口にした。

「……お風呂にせず、私にする? それともごはんにせず、私にする? あるいは、私にするか、私にする?」
「……結局、俺に選択肢がないんだが……」

 ちょっとテンプレから外れていた! 流石のユエクオリティー。だがしかし、稀代のエロ吸血姫はこの程度で終わりはしない!

「それじゃあ、お風呂しながら私にする? それとも、ごはんにしながら私にする?」
「それはどういう意味だ!?」
「……お義父さまと、お義母さまの前で、というのは、流石に恥ずかしい。でも、ハジメが望むなら」
「望まねぇよ! アブノーマルにもほどがあるわ!」
「まぁ、ハジメったら! このエロ息子!」
「母さんはちょっと黙っててくれ!」

 ハジメのツッコミが迸る。頬を染めてイヤンイヤンしているユエは、この際、もう放置だ。取り敢えず、なにか服を着せて、南雲家の秩序を取り戻そうとハジメが行動を起こしかける。

 が、その前に、

「ユ、ユエにばかり、いいところは見させないよ! ハ、ハジメくん!」
「か、香織?」

 裸エプロンのまま、順番待ちだったのかキッチンの影から覗いていた香織が飛び出してきた。そして、恥ずかしそうに内股になってもじもじしつつ、決意に満ちた表情で叫んだ。

「私をごはんにしませんか!?」
「お前は何を言ってんだ!?」
「味付けはどうしますかぁ!?」
「落ち着けっ、言ってることがぶっ飛び過ぎだ!」
「まぁ、ハジメったら! このグルメマスターさんっ」
「家から放り出すぞ、母さん!」

 その後、更に飛び込んできたシア達が同じようなことを言ってはハジメに強烈なツッコミを入れさせ、それを見て菫が場を掻き乱し、ハッと意識を取り戻した愁を速攻不可避の一撃で眠らせて、結局、普通に食事にありついたのは一時間後だった。

 ちなみに、食事の席では流石に、全員が衣服を着用した。何故か、全員が際どいコスプレ姿だったが……

 途中で、配達にきた宅配便のお兄さんが、対応に出てきた金髪のミニスカポリスにギョッとなり、その後ろから「印鑑忘れてますよぉ」と出てきたミニスカナースに後退り、「なんて格好で出ていくの!」と慌ててやってきたミニスカ巫女さんに冷や汗を流し、赤面しながら「ありあとあっしたっーーー」といろんな意味を込めたお礼を述べて出ていったというハプニングもあったが……

 とにかく、料理対決は、一人一品作って評価してもらうというもので、おおよそ平穏だった。

「はぁ」
「んみゅ? どうしたのパパ?」

 お風呂で、食事前に帰ってきたミュウの髪を洗ってやりながら、思わず疲れたような息を吐いたハジメに、ミュウはあわあわのもこもこになりながら首を傾げた。

「ミュウ……ミュウは、普通の女の子に育ってくれよ」
「??」
「いや、いいんだ。忘れてくれ」

 わけ分からん、といった様子で首を傾げる愛娘に、俺は何を言っているんだと苦笑いしつつ、ミュウのあわあわを洗い流すハジメ。

 と、そのとき、ハジメの感覚が、風呂場に接近する複数人の気配を探知した!

「って、香織も雫も、まだ帰ってないのか」

 風呂に入る前に、そろそろ家に帰れよと伝えたにもかかわらず、向かってくる気配の中に香織と雫がいることにハジメが頭を抱える。直後、バンッと勢いよく開いた風呂場の扉。そこには案の定、一糸纏わぬ、というかタオルとかで前くらい隠せよと言いたくなるほど、堂々と真っ裸で仁王立ちするユエ達の姿が!(一応、雫だけはタオルで隠している)

「……ん。いざっ」
「突撃ですぅ」
「負けない! ハジメくんの体を一番上手に洗うのは、私ぃ!」
「うふふ、今日こそ、前を洗いましょうね」
「ハァハァ、ご主人様よ、ハァハァ」
「……お邪魔します」

 どうやら、誰が一番上手く旦那様の体を洗えるかという対決らしい。ハジメは、目元をピクピクさせつつ、ミュウを促してさっと湯船に向かった。付き合っていられるかと言わんばかりに。

 が、

「させない!」

 そんな言葉と共に、ユエがシュンッと一瞬で眼前に現れる。

「ちょっ、こんなとこで“天在”なんて使ってんじゃねぇよ!」
「レベルXッッ」
「身体強化MAXだと!? あ、馬鹿、離せ、このエロウサギ!」
「私だってっ、限界突破ッ」
「なんの限界を超えるつもりだ!?」

 ハジメは吸血姫とバグウサギと使徒モードの乙女に囲まれてしまった! その隙に、レミアがミュウを確保して、ティオが風の魔法で結界と、声が外部に漏れないよう空気の膜を張ってシャットアウトする。

 そうして、次の瞬間、風呂場は戦場と化した。肉食な乙女達の。

「くっ、こんな獣しかいないところにいられるか! 俺は部屋に戻るぞ!」

 変なフラグを立てつつ、ハジメはティオに強烈なビンタをかましてハァハァさせつつ、風呂場から飛び出した。そこへ空間転移したユエと、神速を発動した香織が背中に飛びつき、シアが身体強化最大で腰にしがみついた。濡れた足元と磨かれたフローリングのせいで足を滑らせたハジメがずっこける。

 そこへチャンスとばかりにユエ達が更に飛びつき、復活したティオまでもがハジメに乗りかかった。

 南雲家の廊下に、うつ伏せに倒れながら、美女・美少女まみれになっているハジメの姿があった。

 同時に、

 その様子を見て、お腹を抱えて廊下を転げまわりながら、ケラケラと笑う菫の姿があった。

 どこかで、プチッと切れる音が響いた。

 直後、ユエ達が、「あぁんっ」と嬌声を上げる。ハジメに、弱い部分をもみしだかれたのだ。思わず力が抜けてへた~となった隙に、ハジメは立ち上がった。香織が「はぅ、ハジメくんのハジメくんが目の前に……」と阿呆なことを言っているが無視だ。

「母さん、どうやら俺達の間には、家族会議が必要らしい。それも、とびっきりドギツイ会議が、な」
「あら、ハジメ。私には、そんな会議が必要だとは思えないけれど?」
「いいや、必要さ。……母さんをド反省させるための会議がなぁ!」

 ハジメが、母親のあまりの悪ふざけに堪忍袋の緒が切れたといった様子で、一歩を踏み出す。簀巻きにでもして、一晩中吊るせば、少しは反省するだろうという意図だ。

 が、菫はそんなハジメの行動を予測していたらしい。「こんなこともあろうかと!」とドヤ顔で言いつつ、廊下の影に立てかけてあったらしい掃除機を取り出した。

――掃除機型アーティファクト “スナイパー・マークⅡ”

 掃除機で掃除をしていたとき、うっかり吸い込んじゃいけないものまで吸い込んでしまった経験はございませんか? 掃除機が壊れる原因にもなるし、いちいち蓋を開けて漁るのはとても面倒ですよね? そんなときは、これ。次世代掃除機“スナイパー・マークⅡ”

 これがあれば、吸い込みたい対象、吸い込みたくない対象を選択できます! しかも! これを応用すれば、離れた場所にある醤油やテレビのリモコンも、ボタン一つで手元に吸い寄せ可能! もはや次代の掃除機は、掃除機の用途に収まらない!

 吸引力が落ちないなんて当たり前。これからの時代は、狙った獲物だけを吸い取る選択式吸引力だ! 

 というキャッチコピーでハジメが開発した掃除機(南雲家専用)が、菫の手に握られていた。

 訝しむハジメの目の前で、菫は懐から劣化版クリスタルキーを取り出した。ハジメ達のことで、両親に何かあった場合に備えて、すぐに空間転移できるようにと渡しておいたそれ。

 ハジメが「なにを」という前に、菫は、劣化版クリスタルキーを眼前に突き刺した。途端、空間が歪み、ゲートが出現する。同時に、菫は掃除機のボタンをMAXモードで押した。当然、強力な吸引力は、目的のものをゲートの奥から吸い寄せる!

「な、な、なに!? なんなの!? いやぁーー、吸い込まれるぅううううっ」

 そうして、聞き覚えのある悲鳴が聞こえたかと思うと、ゲートの向こう側から小柄なスーツ姿の女性が転がり出てきた。菫は、その人物が出てきたと同時に掃除機のスイッチを切ったのだが、慣性の法則に従い、ゴロゴロと転がって南雲家の廊下に飛び出してきた女性は、正面の障害物にむにゅ! と顔面からぶつかってようやく動きを止めた。

「……」
「……」

 転がり出てきて、とあるものに顔面から突っ込んだ女性――畑山愛子先生は、無言で、ゆっくりと、その顔を埋めている場所から顔を引き離した。そして、眼前にぶらさがっている、見覚えのあるそれを見て、首を傾げながら……

「ハジメ君?」
「愛子、俺の股間を見ながら名前を呼ぶのは勘弁してくれないか?」
「はっ!? あわわわわわ、す、すみません~」

 そう、転がり出てきた愛子は、勢い余って、真っ裸のまま仁王立ちしていたハジメの息子に顔面着地したのである。

 一瞬で赤面しつつ、状況が分からない! と混乱する愛子。スーツ姿であることからすると、休日にもかかわらず仕事があって、今帰ったばかりだったのかもしれない。だというのに、いきなり空間転移させられた上に、一部の人々を除いて秘匿している恋人の股間に顔面ダイブするとか……目を回しかけるのも無理からぬことだ。

 「こ、こんな強引な方法で私を求めて!?」とか、「いえ、決して嫌というわけではないんですけど……裸で待ち構えているのはちょっと……」とか、「こ、今夜は帰れないかも……」などと独り言ちていても無理はないのだ。たぶん。

 取り敢えず、タオルを腰に巻いたハジメが改めて視線を巡らせば、そこには、閉まりかけている玄関の扉と、ひらひらと舞う一枚の紙があり、菫の姿は既にどこにもなかった。どうやら、愛子を囮にして逃げ出す計画だったらしい。見事な逃走ぶりだ。

 ハジメが、足元に落ちてきたメモ用紙を拾って視線を落とす。そこには、

『ネタは十分にいただきました。どうも、ありがとう。ママンは仕事に戻ります!』

 と、書かれていた。

「はぁ、こんなこったろうと思ったよ……ユエ、お前は気がついてたんだろう?」

 母親の所業に溜息を吐きつつ、いつの間にか隣に立っていたユエに尋ねれば、ユエはコクリと頷いた。それに、同じく復活したシアがどういうことから首を尋ねる。

「あのなぁ、結婚式なんて一人ずつでも、全員一度でやるでも、どっちでもいいが、一人しかできないなんてルールないだろう。いざとなりゃ、トータスで上げてもいいわけだし」
「あ~、そういえばそうですねぇ」
「それに、婚姻届けだって、既にお前らの書類自体偽造なんだから、全員分届けたって今更だろう。辻褄合わせなんて、後でいくらでも出来るしな」
「そういえば、そうだね。じゃあ、どうしてお義母さんは、お嫁さん決定戦なんて……」
「んなもん、ネタの収集に決まっているだろ。今日、なんで昼間っから家でだれてたと思ってんだ?」

 要するに、適当なことを言ってシア達を煽っておいて、これにより巻き起こるであろう騒動を、行き詰っていた漫画のネタにしようと画策したわけである。

 シア達は思った。まんまと乗せられた自分達も自分達だが、アドリブであんな扇動家のようなセリフがポンポンと飛び出る辺り、流石、ハジメの母親である、と。

 そして、そんな菫の意図に気が付いていたであろうユエが、特に反論するでもなく乗ったのは、

「今日も、楽しい一日だった」
「そうかい」

 そういうことらしい。こんなお馬鹿な騒動も含めて、ユエにとっては愛しい日常なのだ。無粋な正論など、ゴミ箱にポイッである。満足そうなユエの表情に、ハジメも、「まぁ、なら、いっか」と肩を竦めた。

「あの~、まったく話が見えないのですが……」

 なにやらほっこりしているハジメ達に、おずおずと愛子が声をかけた。ハジメは、そんな愛子を横目に、

「すっかり体が冷えちまったな……風呂、入り直すか。みんなで、な」

 そう言って、愛子をお姫様抱っこで抱き上げた。「え? え?」と混乱する愛子を尻目に、ユエ達は「お~」と声を揃えて、南雲家の改築された大きな風呂場へと戻っていく。

 その後、ハジメの手によって剥かれた愛子を含め、ハジメと嫁~ズは特に競い合うこともなく、まったりとお風呂を楽しむのだった。

……リビングで、白目を剥いたままの愁を気にする者は、誰もいなかった。
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます。

次の更新も、土曜日の18時の予定です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ