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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれたアフターストーリー

192/271

ありふれたアフター 魔王の娘なので その5

本日ラストです。
もう、書けへん……

一応、本日は、前に2話(その3、その4)を更新してますので、ご注意を
 米国東海岸沖合。

 そこに大型の貨物船が停泊していた。登録のない貨物船で、沿岸警備隊が直ぐに駆けつけ呼びかけを行ったのだが、反応はない。しばらく呼びかけ続ける警備隊だが、返答は一度としてなく、しかたなく今まさに、警備隊が乗り込もうとしているところだった。

 そのとき、貨物船の甲板に複数の人が現れた。警備隊が思わず動きを止めて、その男達に呼びかける。しかし、その男は一切反応せず、甲板に置かれていた貨物に被せてあったシートを一気に取り払った。

「っ、あいつら、正気かっ!?」

 警備隊の一人が蒼褪めながら悪態を吐く。それもそのはず。取り払われたシートの奥から出て来たのは、ミサイルの発射台だったのだ。と、同時に、男達――テロリスト達が甲板から身を乗り出してきた。その手にあるのは、警備隊も見慣れた兵器。

「っ、さがれっ」

 警備隊の隊長が叫ぶのと、一斉に引き金が引かれるのは同時だった。凄まじい炸裂音が連続して鳴り響き、ポシュという間抜けな音と共にライフル備え付けのグレネードランチャーが、警備隊の船に容赦なく撃ち込まれる。

 何人かが被弾して、悲鳴を上げながら警備船の上に倒れた。ついで、操船室が爆発炎上する。

 当然、別の警備船から応戦がなされるが、想像以上に激しいテロリストからの攻撃に近寄ることも出来ない。軍に応援を呼ぶが、果たして、あの都市に向けられたミサイルが放たれる前に間に合うかどうか……

「くそっ、止せっ。やめろぉっ」

 警備隊の幾人かが叫ぶ。愛すべき故郷の沿岸都市が、今まさに破壊されようとしているのだ。ミサイルの射程を考えれば、沿岸の都市ならどこだって狙える。そこには知人が、友人が、恋人が、あるいは家族がいるかもしれないのだ。

 だが、無常にも、機械的な作動音を響かせながら、ミサイルの照準が沿岸の都市へと向けられ、そして……発射された。

 複数機の発射台から、合計六発のミサイルが都市へ向けて飛ぶ。

「あぁ……なんてことだ」

 誰かが悲壮感の漂う声音で呟いた。

 そうして、ミサイルが沿岸を越え、そのまま都市の中心へ飛んでいくかと思われたその瞬間、

ゴゥッ!!

 と、黒い閃光が空を切り裂いた。SFでしか見たことがないような、極大のレーザーが、突然、貨物船の更に後方から飛び出しのだ。

 黒きレーザーはそのまま右端のミサイルを一瞬で呑み込むと、そのまま横薙ぎに薙ぎ払われて全てのミサイルを消滅させてしまった。

 余りの出来事に呆然としているのは、警備隊もテロリストも同じ。彼等はまるで示し合わせたようにギギギッと油を差し忘れた機械のような動きでレーザーの飛んできた後方へ視線を向けた。

 すると、その視線の先で、海が山のように盛り上がり始める。そうして、そこから現れたのは……

「GO,GOZIRAッ!!」

 竜化したティオだった。断じてゴジ○ではない。が、そう思ってもしかたがない威容ではある。縦に割れた竜眼と艶やかな漆黒の鱗。ずらりと並んだ鋭い牙。そんな怪獣が、海を盛り上げながら現れたのだ!

 ティオは、そのまま翼を広げて飛び上がると、口を空けてポカンとしているテロリスト達目掛けて降下した。そして、悲鳴を上げる彼等を無視して、その鋭い爪を貨物船の船体に突き刺し、一気に持ち上げていく。

 悲鳴を上げながら、ライフルやグレネードをティオに向けて放つテロリスト達。怪獣と戦うという、ある意味貴重過ぎる体験をしながら、しかし、傷一つつけることのできない事実に恐怖の表情を晒している。

『愚か者共。少し、頭を冷やすがいい』

 突然、空から威厳すら感じさせる声が降って来たかと思った瞬間、船体が勢いよく放り投げられた。貨物船は、甲板からおかしの食べかすのようにテロリスト達を撒き散らしながら海岸に落ちる。轟音と共に、船体が真っ二つに割れた。

『それ、事情聴取をしたいであろうからな、お前達には(・・・・・)手加減をしてやる』

 再び声が降り注ぎ、刹那、何もない虚空から雷が貨物船へと落ちた。轟音と稲光が海岸を蹂躙する。貨物船の内部にいたテロリスト達は、一人の例外もなく盛大に感電してぶっ倒れていることだろう。

 その直後、微かな音が響いた。それは航空機が出す飛行音のようなもの。ティオが振り返れば、一発の大型ミサイルが飛んで来るのが見える。

 実は、更に沖合いに、射程の長いミサイルを搭載した船が待機していたのだ。沿岸の貨物船は都市攻撃に対する囮でもあったのである。

『温い。諸共に滅ぶがいい』

 そんな攻撃は、攻撃の内にすら入らない。そう宣言したティオは、ガパリと顎門を開いた。そこに集束される黒き滅びの光。

 直後、二度目の竜の咆哮が放たれた。一瞬でミサイルに到達したブレスは、爆発すら起こさせずにミサイルを消滅させ、更に数十キロ離れた場所に停泊していた船へと直撃した。

 ブレスが着弾する寸前、その船に乗っていたテロリスト達は、自分達へと迫る黒い壁を見た。自分達の神へ祈る暇すらない。訳の分からない黒く輝く壁が迫って来たと認識した直後には、その意識諸共、全てが吹き飛んだ。

 ブレスを放ち終わったティオは、警備隊達が腰を抜かしているのを横目に、再生魔法を行使して負傷を癒した。既に息絶えた者も、魂魄魔法で蘇生させ同じように癒す。

 黒い光に包まれて、仲間の傷が塞がっていく光景の何と現実離れしたことか。

 警備隊達の目には、純粋な恐怖の代りに畏敬の念が宿り始めた。

『守り人達よ、強くあれ』

 ティオはそんな言葉を残して、再び海に潜り始めた。

 偉大なその姿を一心に見つめながら、警備隊達は敬礼を送る。どれだけ現実離れしていようとも、相手が異形の存在であっても、守られ、救われ、大切な言葉を贈られたのだ。誰一人、ティオの姿が消えるまで敬礼を止める者はいなかった。

 そして、敬意と畏怖を込めて、その名を呼ぶのだった。

「ありがとう、GOZIRA」




 中東にあるとある国の荒廃した町。そこには現在、米国の軍が駐屯していた。テロ組織幹部連中の捕縛ないし殺害と、近隣の町の人道支援のためだ。

普段であれば、夕方のこの時間は、テロ組織の襲撃に警戒しつつも、一日二回の配給を行っているはずの時間で、水や食糧問題、あるいは怪我の治療のために軍の医療施設を訪れる地元の住民達でごった返しているはずだった。

しかし、現在は、

「東ゲートより応援要請っ。負傷者多数。デルタとゼータが孤立しそうですっ」
「第二部隊から人員を回せっ」
「西ゲートに敵タンク出現っ。集中砲火を受けていますっ。航空支援をっ」
「誰かっ、三人やられたっ。衛生兵を回してくれっ」
「南ゲート、もう保ちませんっ」

 米国兵士達の怒号と、凄まじい銃撃音と、爆撃の轟音で埋め尽くされていた。

 この町の米国駐屯基地は、今まさに、テロ組織の大規模攻撃を受けている最中なのである。
町のいくつかの建物を利用して、柵と有刺鉄線などで囲まれた拠点は、町の東西南北から同時進行を受けており、襲撃時に配給に並んでいた人々が既に幾人も巻き込まれて死出の旅に出てしまっていた。

 辛うじて災禍を免れた人々を基地の奥に避難させ、米国兵士達が即座に応戦したものの、テロ組織の最大戦力が集結しているのではないかと思うほどの猛攻に、後手に回った米国兵士達は苦戦を強いられている状況だった。

「くそっ、応援はまだかっ。このままでは……」

 この拠点のトップであるアーマンド・アシュトンは、指令室のデスクにドンッと音を立てて拳を振り下ろした。空爆による敵部隊への攻撃は、既に拠点との距離が近すぎて出来ない。もう一つ隣の町にある師団規模の基地があるところから、この町までは早くても二十分はかかる。戦闘ヘリなら更に早いだろうが……対空兵器を潰さなければ、危険すぎて効果的な援護は難しいだろう。

 果たして、応援が来るまでに、この拠点の防衛が維持出来ているか……アーマンドは焦燥に顔をしかめ、顎先を伝う不快な汗を乱暴に拭った。

 と、そのとき、凄まじい衝撃音が指令室を襲い、天井からパラパラと砂埃が舞い落ちた。思わず転倒しそうになったアーマンドは、デスクを掴んで踏ん張りながら、「何があった!?」と通信担当に怒声を上げる。

 その無線からは、アーマンドの焦燥を更に深める通信が入った。

『敵、無人攻撃機を多数所持っ! 南ゲートは現在、空爆を――』
「馬鹿な、やつらはどこまで装備を整えているんだっ。そんな情報は上がってきていないぞ! 情報部は何をやっていた!?」

 途切れた通信に、アーマンドはそんな場合ではないと分かっていながら、思わず悪態を吐いてしまう。直ぐに指示を飛ばすが……指令室の誰もが、脳裏に“全滅”の二文字を浮かべた。

 そうして、アーマンドが、住民を置いて、強行突破してでも町から脱出するべきかと、それが出来る可能性の低さと、異国の地で軍を展開させている大義を失いかねない危うさを理解しながら、決断しようとしたそのとき、ひゅううううと不吉な風切り音を耳にする。

「っ、総員、伏せろっ」

 アーマンドの咄嗟の指示に、周囲の兵士達が蒼褪めた表情で床にダイブする。直後、凄絶な衝撃と轟音がアーマンド達を襲った。まるでミキサーに入れられて撹拌でもされているかのように意識が揺さぶられる。

「ぐっ、誰かっ、状況報告っ」

 アーマンドが酷い耳鳴りと、痛む額を押えながらどうにか起き上り周囲に視線を巡らせる。そして、天井の一部が崩落して、部下の幾人かが押し潰されている光景と、外壁が吹き飛んで外が丸見えになっている光景を目にした。

 ふらふらした足取りで外に出れば、南ゲートから多数の黒煙が上がっているのが見える。そして、敵の戦車部隊が、通りの自動車や人間を、人が虫にそうするように踏み潰しながら押し通って来るのを目撃した。

 南ゲートが突破されたのだ。果たして、防衛を行っていた部隊はどうなったのか……

「……総員、可能な限り部隊を維持しつつ、各部隊長の判断で撤退しろ。この拠点を放棄。こちらに向かっているはずの第三大隊と合流を目指せ」

 通信機にそう語りかけたアーマンドは、静かに通りの向こうから全てを轢殺しながらやって来る無数の戦車を見ながら、苦笑いを見せた。なんと無力で無能なことかと、自分自身を嗤う。

 そして、先頭を走る戦車が、その砲塔を己へ、正確には指令室のあった場所へ向けたのを見て、最後を悟った。

「……悪鬼共め。私は無能でも、私の国は違う。いつか、神の鉄槌が――」

ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 アーマンドの最後の言葉を遮って、凄まじい衝撃が駆け抜けた。戦車が砲撃をした――のではなく、その戦車に、長さ三メートルはある漆黒の杭が突き刺さった音である。

「ふぇ?」

 アーマンドという名のおっさんから間の抜けた声が漏れた。

 驚愕は当たり前。テロ組織の戦車部隊も動きを止めている。

 戦場の時が止まる中、その漆黒の杭の上に、いったいどこからやって来たのか、一人の青年がスタッと着地した。若い、東洋系の顔立ちをした、どこにでもいそうな青年だ。戦車を串刺しにした杭の上に立ち、その両手におよそ人間が生身ではとても持てそうにない巨大な兵器らしき物を携えていなければ。

 誰もが、動きを止める中、その青年――ハジメは、パイルバンカーを肩に担ぎ、右手にガトリングレールガンを無造作に垂れさせながら、まるでヤクザのような表情で口を開いた。

「さて、これから蹂躙するが、降伏するやつはいるか? よし、いないな。じゃあ、死ね」

 未だ、銃撃音と爆撃音が鼓膜を叩きまくる騒音だらけの戦場で、なぜか通信機越しに話されたかのように明瞭に聞こえたその言葉に、アーマンドと、そしてテロリストのうちの何人かが「はやっ、最初から聞く気ないだろう!?」と心の中で思わずツッコミを入れたが……次の瞬間、そんな心の声は吹き飛んだ。

 文字通り、戦車部隊が吹き飛ぶという事態と一緒に。

 ドウッドウッドウッドウッという連続した重低音と、ドゥルルルルルルルルという独特の回転音。それが示すのは、連射されるパイルバンカーの杭と、流星の如き数多の閃光となって空を切り裂く紅き弾丸の群れ。

 毎秒六発、重量二十トンの杭が戦車砲がおもちゃに見える威力で、次々と戦車を中身の乗組員ごと貫き粉砕し、ガトリングレールガンが、建物を紙屑のように一瞬でボロクズに変えながら、その向こう側にいたテロリストの歩兵達を容赦なくただの肉塊に変えていく。

「降伏するっ。止めてくれっ」

 戦車に乗っていたテロリストの幾人かが両手を上げて出て来た。殉教の精神なのかと思っていたので、正直、意外である。そして、降伏を告げられたハジメは、

「え? なんだって?」

 まるでどこぞのギャルゲに出て来る難聴系主人公のようなことを言いながら、さも何も聞こえませんでした、といった様子でパイルバンカーをぶっ放した。戦車が衝撃でバク宙を決める。降伏宣言した男は、その下敷きになって赤い染みを広げた。

「な、なぜだっ。降伏するやつはいるかと聞いただろう!?」

 テロリストの一人が、ハジメの理不尽に声を張り上げた。それに対しハジメは、やはりまともに返すこともなく……

「テロリストとは交渉しない。これは国際常識だ。知らなかったのか?」
「降伏宣言は、交渉じゃないだろう!?」

 あんまりと言えば、あんまりな発言。しかし、テロリストは二度目の反論をすることも出来ず、レールガンの掃射を受けて、ただの肉片と成り果てた。

「チッ、まるで虫だな。うじゃうじゃと数だけはいやがる。めんどくせぇ」

 南ゲートを突破したテロ組織の最大地上戦力とでもいうべき戦車部隊を、文字通り、秒殺したハジメは、ガトリングレールガンとパイルバンカーを仕舞うと、そのまま建物の壁を蹴って屋上へと飛び上がり、更に、屋上を伝って町で一番高い建物の屋上へと辿り着いた。

 その光景を半笑いで見ていたアーマンドは、

「……どうやら、救いは神ではなく、悪魔が遣わしてくれたらしい、な」

 そんなことを呟いた。

 ハジメが、屋上から“アグニ・オルカン”によるおびただしい数のミサイルを放ち、その火線が町の空を蜘蛛の巣のように覆い、無人機をあっさり撃墜、ついで町のあちこちから盛大な爆音が響くのを聞きながら。

 その後、大規模侵攻していたテロ組織の軍隊を壊滅させたハジメは、ついでに、勝手に軌道衛星上に空間魔法による隠蔽状態で飛ばしていた衛星型アーティファクト“ベル・アガルタ”(再生魔法を付与された照射型の光を降り注がせることにより、地上のものを再生させる。離れた場所にいても、即座に身内を癒せるようにと開発した)を、スマホで起動して米国兵士達を癒した。

 死んだはずの部下達が生き返り(長時間が過ぎた者は無理だった)、敵の部隊があっさり灰燼に帰し、テロリストの幾人かを拷問して何かを聞き出したハジメが、何事もなかったように現場を放置して消えてしまったことに、アーマンドはもう笑うしかない。

 帰国した彼が、敬虔な神の信者であったのに、やたらと悪魔に興味を持ち始めたことに、家族も同僚達も盛大に頭を悩ますことになるのだが……それはまた、別の話だ。

 一方、町を襲っていたテロリストの幾人かから、現在、テロ組織の幹部達がいる場所を聞き出したハジメは、その場所へ転移していた。

 場所は、どうやら首都にある高級ホテルのスイートルームらしかった。多くの民間人がいる場所の方が、空爆などによって攻撃される可能性がなくなり安全だという考えからだろう。

 ワンフロアを丸ごと借りて拠点としているようで、先の豪華な部隊のことも考えれば、相当な資金力を有しているようだ。その辺りのつながりも、実に気になるところである。

 フロントを無視して、直接フロアに転移したハジメは、そのまま無造作にスタスタと廊下を進んだ。すると、ガードマンらしき男達が即座に銃を抜く――より早くダブルラリアットで床に沈めた。

 にわかに部屋の中の気配がざわつくのを確認しつつ、ハジメは、ヤクザキックで豪奢な扉を蹴破る。途端、撃ち込まれる無数の弾丸。それを適当に左手で払いのけながら、ずかずかと部屋の中に入り込んだハジメは、

「お前はなにもごぼはぁっ!?」

 真っ先に、いかにもテロ組織のトップっぽいおっさんにヤクザキックを叩き込んだ。おっさんが何かを言おうとしていたようだが、言葉を詰まらせたので何を言っているのか分からない。テロリストも、寄る年波には敵わないのだろう。

 おっさんの周囲の人間が、更にハジメへ発砲しようとするが、やはりハジメのビンタの方が圧倒的に速い。ガードマンは全員が芸術的な空中十二回転を決めながら床に沈むか、壁にめり込むか、天井に突き刺さって意識を失った。

「さて、おっさん。お前が、今回の同時テロの首謀者だな?」
「ぐっ、ごほっ、貴様は――」

 メキョとおっさんの鳩尾に本日二度目のヤクザキックが炸裂した。聞くに堪えない悲鳴を上げながら嘔吐するおっさんを踏みつけて、ハジメは追い打ちをかけるようにグリグリと踏みにじる。

「まぁ、お前が首謀者かどうかなんて、別にどうでもいいんだけどな。お前等に資金援助したクソ野郎の情報をもらうぞ」

 “見せられないよ!”の彼が出てきそうなことをして、資金援助していた企業や人物を探り当てたハジメは、ゴリッとおっさんの額にドンナーの銃口を押し当てた。

「待て、お前は、この革命の意味を分かっているのか? 米国によるさくしゅ――」
「ああ、そういうのはいいから」

ドパンッ

 なにやら語り始めたおっさんの頭部が吹き飛んだ。容赦という言葉そのものを知らないかのようなハジメの所業に、残りの幹部達が慄いたように後退る。

 ハジメは、そんな幹部達へ、ドンナーで肩をトントンしながら振り返った。幹部達が、金を払うだの、女でも何でも好きなものを用意するだの、必死の命乞いをするが、

「あのなぁ、お前等は、俺の娘やその友達を公開処刑しようとしただろうが。知りませんでしたは通じないぞ? 無差別テロってのはそういうもんだろう? 無差別に、自分達の都合を押し付けようとして、その中に化け物の身内がいた。だから、お前等は死ぬ。それだけのことだ。馬鹿なことしたなぁ、失敗したなぁ、とか思いながら、死ね」

 そうして……この日、この世界から一つの、かつ最大のテロ組織が消滅した。一応、幹部の二、三人はぼっこぼこにされた状態で米軍の駐屯地に投げ捨てられ、無事に(?)回収されたようだった。


~~~~~~~~~~~~~~


 南雲家のリビングにて、ハジメ達はティータイムを満喫しつつ、テレビの特番を見ていた。なんの特番かと言えば、それは当然、先日の米国で起きた同時テロと、その現場で起きた数々の奇跡についてである。

 司会の男性が、どこか興奮したような表情と声音で番組を進行する。

「さて、あの日、卑劣なテロリスト達によって起こされた数多の悲劇を、歴史に残る奇跡に変えた存在がいました。数多の死傷者を聖なる光で癒し、墜落寸前の旅客機を黄金の光で守り、公開処刑寸前の人質達を跳び蹴りと巨大な鉄槌で吹き飛ばし、刀一本で大統領を救った……彼女達はいったい何者なのか。いえ、いったいどのような存在なのか。国の秘匿されたエージェントでは? という見解もあるようですが、到底、人に出来る所業とは思えません。ま・さ・に、神の御業! 彼女達を目撃した多くの人々は、口を揃えて言います」

 司会の男は、そこでたっぷりと間を取り、

「彼女達こそ、この世に降り立った“女神”である、と」

 香織と雫がテーブルに突っ伏した。耳が真っ赤に染まっている。ハジメが失笑していると、番組は、目撃者達へのインタビュー映像へ移行した。

 爆破された空港で救助活動に当たっていた救助隊の青年が、興奮した様子でインタビューに答えている。

「え? 彼女の正体は何だと思うかって? そんなの決まっている。女神だよ。慈愛にあふれた女神様。可能なら、名を知りたいところだけど、いや、それも恐れ多いことかな。なんにせよ、あの方は、余りに美しく、気高く、温かった。あの傷ついた人々に降り注いだ光の、なんて神々しかったことか。あれは――」

 インタビューが途中で切れた。きっと、放っておいたら何時間でも話していそうだったからだろう。司会の男へ画面が切り替わる。

「随分と興奮しているようだね! それも無理はない。白菫の光を纏い、美しい翼を持ち、死者すら蘇らせる癒しの光を降り注がせる。それも、テロの被害にあった複数の現場に、ほぼ同時に現れて、温かな光で人々を守ったのです。到底、人とは思えないかの存在を、人々はとある仮称で呼んでいますが、当番組は、その呼び名を認定しましょう。さぁ、スタジオのみなさん、そして、テレビの前のあなた、かの偉大な存在を称えましょう! その名は――慈愛の天使!」
「「「「「慈愛の天使ぃ!!!」」」」」

 香織が轟沈した。耳を塞いで蹲り、見ざる聞かざる言わざる体勢に入ってしまった。どうやら羞恥心の限界メーターが振り切れてしまったようだ。

 ユエがすかさず、サディスティックな表情を浮かべながら、香織を起こしてテレビを見させようとする。イヤイヤする香織と、うりうりするユエを尻目に、ハジメ達は次の紹介に映った番組に注目する。

 次に登場したのは、西海岸の警備隊に所属する部隊員達だった。彼等は、自分達を救い、そして都市をミサイルから守った存在がいかに途轍もない存在だったのかを、身振り手振りで興奮しながら語った。

 そして、言うのだ。口を揃えて、あれは――

「「「「「GOZIRAだったっ!!」」」」」

 と。

「なんでじゃーー!! どこからどう見ても、ドラゴンじゃろう!? みんな大好き伝説の存在じゃろう!? なぜ、架空のキャラ扱いなんじゃ!!」

 ティオがうがーと立ち上がって抗議の声を上げる。しかし、テレビの中の隊員達は口ぐちに「ありがとう、GOZIRA!」「俺達はGOZIRAを忘れない」「GOZIRAたん、はぁはぁ」「GOZIRA、フォーエヴァー」とティオ=GOZIRAを称えて大盛り上がりだ。

「いやぁー、まさか本当にGOZIRAがいたなんてね! それが、天使と時を同じくして現れ、人々を救うなんて……世界は素敵過ぎる! みんなもそう思わないかい!? これは来るよ、絶対来るよぉ~。GO・ZI・RAブームがッ!!」

 司会の男のテンションは既に有頂天だ。そして、ブームを見越して、既にゴジ○のグッズ関連を販売している会社の株を買いまくったハジメと愁のテンションも有頂天だ。

 次のインタビュー相手は、中東に駐留していた軍の大佐だった。大佐は、自分達を襲撃していた大規模なテロ組織の軍隊を壊滅させた存在について、何者だと思うかという質問に、ニヒルな笑みを浮かべながら答えた。

「ふっ。決まっている、悪魔――いや、魔王様さ」

 ハジメが紅茶を吹き出した。いや、確かに魔王と呼ばれていたけども、まさか地球でその呼び名を断言されるなんて……と、頬を引き攣らせる。テレビの中の大佐は、ハジメがいかに容赦なく、無慈悲で、理不尽で、圧倒的で、人がゴミのようだったかを熱心に語った。まるで、悪魔に取りつかれているみたいだった。

「おおっと、これ以上は、なんとなく放送禁止になりそうな予感がするから、大佐に対するインタビューはこれくらいにしておこう。彼の今後が気になるところだけど、ね! さて、たった一人でテロ組織の一軍を撃退してしまった彼だが、女性ファンが急増しているようだ。映像は何故か全て不鮮明で、彼の容姿は分からないけれど、世界中の女の子が、あの容赦の無さに目をハートにしているようだよ。既に、ファンクラブが出来たらしいね!」

 司会の男が「羨ましいぃ!」とテンション高く叫べな、逆に静かな、されどやたらと冷たい視線がハジメに突き刺さった。ハジメは気が付かないふりをしつつ、再び紅茶に口をつけて、

「でも、男からの人気も負けていない! 世界中のゲイ達が、目をハートにしているようだ。ご愁傷様だね!」
「ぶほっ」

 ハジメが紅茶を吹き出した。そして、ガチムチなのにやたらとクネクネとしなをつくる“オネエ”達の投げキッスやらバチコンッと音がしそうな強烈なウインクを画面越しにもらい撃沈した。ゴンッと痛そうな音を立ててテーブルに突っ伏す。

 香織、ティオ、ハジメの三人が地味にダメージを受けている間に、ユエを目撃したパイロットが、若干ロリコンに目覚めたっぽい発言をして、すかさず司会の男に遮られたたり、最後に大統領が現れて雫をワルキューレ扱いし、更に大統領官邸の護衛官達による黒髪のワルキューレファンクラブが出来ている旨を悪戯っぽく暴露して、雫を盛大に赤面させたり、ということがあった。

「情報操作と認識操作を、ネットを通じて世界規模でしたから、誰も俺達だとはわからないだろうが……結局、ダメージは喰らうのな」

 ハジメの、なんだか疲れたような言葉に、世界を救ったお茶の間の南雲家の面々は、苦笑いしながら頷くのだった。

「そう言えば、ミュウ。その後、お友達とはどうだ? 一応、あのとき、現場にいた子供達の認識からミュウを外しておいたが……ナタリアって子の認識だけはいじらなかったからな。問題なさそうか?」

 あの日、ミュウが助けた子供達からは、ブロンド髪の少女がテロリストを殲滅したという認識だけを残して、それがミュウであったことは忘れる措置を施してある。銀色の筒状のアーティファクトをピカッとしたのだ。宇宙人から地球を守る黒服エージェント御用達のあれである。

 ただ、ナタリアに関しては、ミュウの希望と、本人の強い希望から認識操作は施していなかった。ナタリア本人も、決してミュウのことは口外しないと約束したことと、仮にミュウのことを知ろうと、誰かがナタリアに何かをしようとした場合、彼女の適当な誤魔化しを真実と思い込むアーティファクトが渡されている。

「うん、問題ないの。でも……」
「でも? なにかあったか?」
「う~ん、気のせいかもしれないけど、ナっちゃんのミュウを見る目が変わってきているような……」
「……どんな風に?」
「まるで、シアお姉ちゃんを見ているときのアルテナさんのような……」
「ミュウ、今すぐ、ナっちゃんとの縁を切りなさい」
「大丈夫なの。優しく撫でてあげたら満足そうな顔になって、すぐにいつものナっちゃんに戻るから」
「……そうか」

 ハジメが何とも言えない表情になった。シアが、ミュウに「ミュウちゃん、いつの間に、私を超えたのですか……」と戦慄の眼差しを向けている。ミュウは着実に“いけない人”の階段を上りつつあるようだ。

「あ、そうだ、パパ。エミール君にも、ちゃんとピカッはしたの?」
「ん? エミールというのが誰かは分からないが、あの場にいたナタリア以外の子には、全員、確かに施したぞ。どうかしたか?」
「……エミール君、何故か、ミュウのこと覚えていたの。あの時、戦ったのがミュウっていうことは分かっていないみたいだけど、ナっちゃんの友達にミュウがいることは覚えていて、もうずっとナっちゃんに会わせて欲しいって連絡が来ているみたい。ナっちゃんが全部断っているけど」
「……ほぅ」

 どうやら、エミール少年は、あの日の戦う妖精さんが忘れられなかったらしい。おかしな具合にミュウを覚えていて、再会を望んでいるようだ。それが、どういう感情からか、それを聞くのは無粋というものだろう。言うなれば、ボーイ・ミーツ・ガールというわけなのだから。

 それを察した親馬鹿なハジメパパは、一段と低い声音を発した。愛娘に近づく害虫がまた一匹増えたか、と。小学生に上がってからというもの、ミュウに近寄る害虫は日に日に増している。

 エミール少年、どうしてくれようか、とハジメパパが思案し始めると、何故かやたらと嬉しそうなミュウが、いそいそとハジメの膝の上に座り込んだ。そして、にっこにっこと微笑みながら、ハジメを見上げて言う。

「そんなに心配しなくても、ミュウは、ずっとパパのミュウなの」
「む、それはまぁ、その辺のガキにやるつもりなんて微塵もないが……」
「パパ、分かってて言ってる」
「……」

 ハジメは困ったような顔になり、ユエ達に助けを求めるように視線を向けるが、その前に、ミュウの小さな手がハジメの頬を両サイドから掴んで自分の方へ固定してしまった。

 そして、どこかの誰かさんを彷彿とさせる艶やかな笑みを浮かべつつ、

「いつまでも、逃げられるとは思わない方がいいの」
「……」

 そんなことを言った。

 ハジメは思う。ミュウは、この五年で、ユエの魔法も、シアの体術や戦槌術も、ティオの打鞭術も、香織の双剣術も、雫の八重樫流も、そして、ハジメのガン=カタも高いレベルで習得してきた。本来なら、海人族という特に戦闘に優れた肉体を持っているわけではないにもかかわらず、だ。

 それは、きっと惜しみなく周囲のチート達が、自分の神髄を教えているからであり、そんな彼女達を心から信頼し、憧れているミュウが、本気で頑張っているからなのだろうが、それでも手放しで称賛できる習得率だ。

 だからだろうか。ハジメは幻視してしまった。あらゆる手段を尽くしてもなお凌駕され、ミュウに組み伏せられる己の姿を……

(ま、まさかな……)
「んみゅ?」

 先程までの艶やかな表情はどこへやら、びっくりするほどの切り替えで、いつもの無邪気なミュウに戻って首を傾げるその姿に……

 何故か、ハジメは、ぶるりと震えてしまうのだった。
正月休みもそろそろ終わりですね。

今年一年、また頑張っていきましょう!

次の更新も、土曜日の18時の予定です。
+注意+
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