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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれたアフターストーリー

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ありふれたアフター 魔王の娘なので その2

一つ前に、クリスマス記念話を投稿しています。
もし、直接この話に来られた方がいましたら、良かったら一話前もご覧になってみてください。
 薄暗いビルの地下の廊下を、覆面とアサルトライフルを身に着けた集団が駆けていく。目指す場所は、人質である子供達を監禁しておいた場所。そこへ向かった仲間が、次から次へと音信不通になったことで、彼等は異常事態が起きていると理解し、慌てて駆けつけているのである。

 総勢、二十名近い武装集団が駆ける中、最後尾付近を走っていた一人が、途中の部屋で何かが跳ねるような物音を聞いて思わず立ち止まる。他の仲間はどんどん先へ行ってしまうが、彼の周囲にいた仲間だけは訝しそうに立ち止まって彼を見た。

 彼は、部屋の中から物音がした旨をジェスチャーで伝え、念の為、中を調べようと提案する。立ち止まった男達、総数六人は、互いに頷き合うと廊下に二人を残して、開きっぱなしの鉄扉を抜けて部屋の中へ踏み込んだ。

 直後、キィと小さな音を立てて扉が勝手に、否、誰も気が付かなかったが天井から伸びた小さな手がそっと扉を閉めてしまう。

 思わず、廊下に残った男が扉に突撃し、もう一人が警告の声を出そうとした、その寸前、部屋の中に連続した銃声が木霊した。

 「がっ!?」「ぐあっ」と苦悶の声を上げて、天井付近から飛来した弾丸が、無防備な後頭部を晒していた二人へ強烈な衝撃を伝え一瞬で意識を飛ばす。残り二人が、振り返りざまに入ってきた扉付近へ銃弾をばら撒くが、薄暗い部屋の中に敵の悲鳴は響かない。

 代わりに、

ジャコッ

 と、不吉な音が背後から響いた。二人の男は目だけを動かして互いを見ると、呼吸を合わせて一気に振り返る。そこには――

「遅いの」

 天井から逆さにぶら下がりつつ、二丁拳銃――“どんなぁー・しゅらーくぅ”を二人の男の眉間に照準している少女の姿があった。二人がスラングで何事かを吐き捨てようとしたが、その前に、少女――ミュウが引き金を引く。二人の頭が盛大に後方へ弾かれた。

 そのまま入口の扉にゴンッと音を立ててぶつかり、今まさに入って来ようとしていた残りの二人の侵入を一瞬だけ手間取らせる。それは、化け者ガンナーの教えを受けた愛娘相手には致命の隙。

 仲間の体を弾き飛ばす勢いで扉を開けた瞬間、パンッパンッという乾いた音二つが響き、同時に二人の男が崩れ落ちた。

 ……天井に張り付き、部屋に誘った敵を逆さのまま撃ち抜くその姿は――まさに殺し屋レ○ンのよう!

「さぁ、みんな、連中が戻ってくる前に、ここを出るの」

 部屋の隅にミュウがそう声をかけると、直後、なにもなかったはずの部屋の隅がくにゃりと歪み、そこから子供達の姿があらわれた。一人一人、小さな手の平大の十字架を握りしめている。それらは“触れるな、変態”なのだが、副機能として光の屈折を利用した姿隠しの能力もあるのだ。

「ね、ねぇ、ミュウ。今、どうやって、天井に立っていたの(・・・・・・)?」

 移動しながら、ナタリアが我慢できないといった様子で尋ねた。それに対してミュウは「根性」と一言。ナタリアは、「せめて、魔法と言って欲しかった……」と肩を落とす。もちろん、ミュウがレオ○できていたのは根性が原因ではなく、ショートブーツに組み込まれた“重力石”と“空力”が原因だ。

 と、そのとき、少し離れた場所から爆音が響いた。

「ミュウちゃん、今のは……僕達がいた場所の辺りだと思うけど」
「みゅ。たぶん、ミュウが仕掛けたトラップにかかってピチュンしたの。武装は立派だけど、犯人さん達は割と動きが雑」
「そ、そうなんだ……」

 どうやら、自分達が気が付かないうちに相手の動きを考慮してそんなことまでしていたらしいと知り、エミールの頬が引き攣る。というか、十歳の少女にダメ出しされる武装集団って……と、尚更、ミュウの正体が気になるところだ。

 そうして、移動先で、遭遇する敵を華麗な二丁拳銃によるガン=カタと、戦槌術と、打鞭術と、双刀術で片っ端から片づけていくミュウと、そんなミュウにヒーローを見るキラッキラッな眼差しを送りながら後をついていく子供達は、遂に、“EXIT”と書かれた扉を発見する。

 外へ繋がる扉だ。

 ナタリア達の表情がぱぁと明るいものになる中、ミュウは難しい表情になった。だが、同時に、通ってきた道の奥から大量の足音が響いてきたことから、溜息を吐きつつ、ナタリア達に十字架をしっかりと握っているよう言い含めて、扉を開いた。

 そこには、

「お前が、ガキの中に紛れていた悪魔か」

 三十人近い完全武装の覆面集団が、ライフルの銃口を向けて待ち構えている姿があった。ナタリア達が「ひっ」と小さな悲鳴を上げる。

 ミュウは、いかにも武装集団のリーダーらしき男の質問には答えず、周囲へ視線を巡らせた。出てきた場所は、どうやら巨大な倉庫らしい。本来なら大量の物品がコンテナと共に置かれているのだろう。

 海人族としてのミュウの鼻が、潮の香りを感じ取っていることから、この場所が港に隣接している場所であることが分かる(最初から分かっていたが)。そう、ここは貨物船の荷物を保管する倉庫街なのだ。

 その一角の、管理ビルに併設された倉庫が今いる場所なのだが、しかし、現在、その倉庫の中は中々の物々しさに溢れていた。武装した集団が何十人もいるのはもちろん、大量の重火器や指令室のように大量のコンピューターが並べられており、他にも偽装途中の装甲車らしきものや、外見はアイスクリームの移動販売車なのに、中には改造したらしいガトリング等の武装が設置されている。

「う~ん、装備とか人質からして、もしかしたらと思っていたけど……やっぱりただの誘拐犯じゃなくて、テロリストだったの」
「お前は、いったい何者なんだ? 政府が用意していた護衛か?」

 テロリストのリーダーが、脳裏に自国の少年兵を思い浮かべつつ、推測を口にする。それにしても、組織の兵隊が、こんな少女一人にいいようにやられたという事実は信じ難いものがあるし、武器をどこから用意したのかも気になるところ。

 本来なら、イレギュラーな存在であり、身元を確認できないミュウなど、即行で殺すべきなのだが、その異様さが、リーダーの男に質問をさせたのだ。

「ミュウのスマホは、どこにあるの?」
「……質問に答えろ」

 三十近い銃口を向けられながら、チェックメイトのはずなのに余裕の態度を崩さず逆に質問してきたミュウに、リーダーの男の声が一段と低くなる。

「先に答えて欲しいの。そしたら、答える」
「交渉できる立場だと思っているのか?」

 ミュウの物言いに、リーダーの男はスッと片腕を上げることで応えた。途端、響き渡る銃声。部下の一人が、ナタリアに向けて発砲したのだ。が、当然、ナタリアの手には“触れるな、変態”が握られているわけで、銃弾は見えない壁に阻まれて空中に止まった。

 ざわっとテロリスト達が動揺を見せる。そんな中でも、瞠目はしているようだが冷静さを失わないリーダーの男が口を開いた。

「……なんだそれは。米国は、そんなものまで開発していたのか」
「そんなことより、スマホはどこにあるの?」

 リーダーの男は、ミュウの余裕の態度の原因を、その不可視のシールドのためだと察し、しかし、銃が効かなくとも直接奪えばいいだけだど直ぐに解決策を脳裏に浮かべた。そして、あのシールドを奪えば、これから行うテロに関して有利になると考え、内心でほくそ笑む。

 その生まれた余裕が、気まぐれを呼んだのか。ミュウの質問に、リーダーの男は視線で応えた。その視線の先は、コンピューターの集まった簡易の指令室の一角。おそらく、そこに他の子供達のスマホも集められているのだろう。

「それで、お前は何者だ」

 再度、リーダーの男が質問する。スマホの場所を教えたのだから、今度はそちらが答える番だと。それに対して、ミュウは呆れたような表情をしつつ、

「答えるわけないの。敵の言うことを真に受けるなんてどうかしてるの」

 リーダーの男は覆面をしている。が、きっとその額には青筋が浮かんでいることだろう。まったく、親の顔が見てみたいものである。

「そのシールドがあるから、自分達は絶対に安全だとでも思っているのか? そんなもの、直接組み伏せて奪ってしまえばそれまでだろう。特殊な教育を受けた人間かと思ったが、状況判断もまともに出来んとは、過剰評価だったか? それとも、そのちっぽけな二丁の銃と、原始的な武器でも、この人数ならどうにかできると思っているのか?」
「……」

 スッと掲げられたリーダーの男の腕。隣の男が意を組んで無線に何事かを呟けば、ミュウ達の背後の扉から更に十人以上の武装した男達が現れ、更に、倉庫の外からも雪崩を打って三十人ほどの集団が入ってきてミュウ達を取り囲んだ。

「あまり手間をかけさせるな。これからの作戦で我々は忙しいのだ。外にはまだ五十人以上いる。お前達に逃げ場はない。大人しく地下牢に戻れ。親の態度次第では、生きて帰れるかもしれんぞ?」

 リーダーの男が絶望を叩きつける。圧倒的な戦力の差と、僅かな希望をちらつかせて。ナタリアが、キュッとミュウの服の裾を掴んだ。他の子供達も、怯えた表情でミュウに寄り添う。

 そんな彼等に、ミュウは振り返りながら、絶望など微塵も感じさせない笑みを見せた。誰もが、ハッと息を呑む。犬歯を剥き出しにし、瞳をギラギラと凶悪に輝かせ、威風堂々と背筋を伸ばし、不敵に笑むその姿に。

 ミュウは、リーダーの男に向き直ると、“どんなぁー・しゅらーくぅ”をホルスターにしまった。

「そうだ、それでい――」
「戦力の差? 勘違いも甚だしいの」

 ミュウが観念したのだと思い、一歩を踏み出したリーダーの男だったが、自分の言葉を遮るミュウの様子に思わず足を止める。同時に、自分がそうしたように、ミュウがスッと腕を真っすぐに掲げる姿を見た。

 そして、その手の、何故か左手の薬指にはまっている真紅の宝石が輝き始めていることに気が付き瞠目する。

 ミュウは不敵に笑いながら、堂々と言葉を響かせた。

「いつから、ミュウが一人だと錯覚していた?」
「な、に?」

 直後、真紅の光が迸った。そして、思わず引き金を引いてしまったテロリスト達は目撃した。自分達が放った銃弾が、不可視のシールドではなく、物理的な障害によって塞き止められたのを。

 金属の六本腕。蜘蛛のような多脚。背中にも、前面にも、一見して分かる凶悪な武装の数々。スマートな頭部と、ビコンッと光を灯す目元! 金属で構成された異形の戦士――それが七体。

 ミュウと、子供達を囲んで、その最強硬度を誇るボディで全ての銃弾を受け止める彼等は、そう……

――大罪戦隊 デモンレンジャーッッッ!!!!

 ドパーン! と、どこからともなく七色の爆発の煙幕が迸り、七体の生体ゴーレム達が思い思いに香ばしいポーズを取った。

 唖然、呆然。

 敵・味方の区別なく、全ての人間が硬直した。

 だって、ありえないんだもん! という幼児退行したツッコミがどこからか聞こえてきそうだ。

「ミュウを止めたければ、せめて、神の使徒を二桁単位で用意するんだったな、なの」
「んなっ、なっ」

 動揺するリーダーの男に不敵な笑みを浮かべながら、ミュウが指令を下す。

「みんなぁ~、殺っちゃってなの!」

 “アイアイ、マァムッッ!!”というかのように、ビシッと惚れ惚れするような敬礼を決めたデモンレンジャーは、次の瞬間、ガションッと機械音を響かせて武装を展開。

 自分達の姫を脅かすテロリストの、蹂躙を開始した。

 一体につき二門のガトリング砲が倉庫内の全てをただのゴミに変えていき、肩に取り付けられた小型ミサイルポッドから豪雨のようなミサイル流星群が降り注いで倉庫の外まで紅蓮の海に変えていく。

 多脚の先についたローラーで滑るような高速移動をして縦横無尽に駆け回り、背面武装である携帯型アハトアハトや、超電磁砲をぶっ放す。自爆覚悟で爆弾を持って特攻してきた相手には、二本の腕と多脚に取り付けられたレーザーブレードが一瞬で細切れにし、偽装したトラックに積まれていた重火器を使おうとした者は、巨体に見合わぬ跳躍を見せたデモンレンジャーがぶっ放した巨杭“パイルバンカー”に車体ごと粉砕されて吹き飛んだ。

「馬鹿な、米国は、こんな兵器までっ」
(絶対、違うと思う……)

 テロリストのリーダーが、必死に仲間を指揮して応戦する中、そんなことを大声で叫べば、実は親が米国陸軍の中将であるエミール君が、乾いた笑みを浮かべながら内心でツッコミを入れた。

「あのガキだっ、あのガキを殺せ! そうすれば止まるはずだ!」

 既に、“るしふぁー”と“まもん”と“れう゛ぃあたん”が倉庫の外でも大暴れしており、外から悲鳴と爆音が響く中、しぶとく生き残っていたリーダーの男がミュウを鬼の形相で睨みながらロケットランチャーを肩に担いだ。

 それに対し、ミュウは、腰のガンベルトに収納されている宝石を一つ手に取った。黄金色に輝くトパーズのような宝石だ。だが、その弾丸サイズの宝石の中には、なにやら幾何学模様――魔法陣が刻まれているようだ。

 ミュウは、その宝石を人差し指と中指で挟んでリーダーの男へと、ロケットランチャーに対抗するように突き出した。

 そして、超常の現象を引き起こす言霊を世界へ向けて紡ぎ出す。

オーダー(ミュウが命じる!)! シヴィル・(黄金トカゲで)アウル・(ビリビリ)トニトルス(しちゃえ!!)!!」

 次の瞬間、トパーズが黄金の煌めきを放ったかと思うと、その光は瞬く間に莫大なスパークを放ちながら巨大な龍の姿を取った。

「あ? は? え?」

 己を召喚したお姫様の頭上でとぐろを巻きながら、黄金の雷で編まれた龍――“雷龍”は、間抜けな声を漏らすリーダーの男をギンッと睨み付けると、直後、凄まじい落雷の咆哮を上げて飛び出した。

「いやぁあああああああああああああああっ」

 まるで女の子のような悲鳴を上げて逃げ出そうとしたリーダーの男だったが、人間の足で雷龍から逃げられるわけもなく、周囲の部下を全て巻き込んで盛大にパックンチョされてしまった。

――ミュウ専用 宝石型魔法発動アーティファクト “ユエお姉ちゃんの愛”

 ミュウの魂魄と言霊に反応して、ユエが特定の宝石(使い捨て)に封じた魔法を使用できるアーティファクトだ。弾丸の代わりにガンベルトに収められた色とりどりの宝石は、それぞれ別の、ユエお手製の魔法が込められており、ミュウのみが発動させることが出来る。

 まるで、どこかのうっかりな一族が使う魔術のよう……とはきっと言ってはいけない。ミュウが、某アニメを見ながら、「宝石魔術、恰好良いの。でも、ユエお姉ちゃんの方がすごいの」と言ったのを聞いたユエの愛情が迸った結果だったとしても、関係ないと言ったら関係ないのだ!

「みゅみゅみゅみゅ、ミュウ! 今の! 今のぉ! ま、魔法、魔法ぉ!」

 ナタリアがあわあわしながらミュウに、やっぱりミュウは魔法使いだったんだ! と言葉にならない確認をする。

「うん、“ユエお姉ちゃんの愛”なの」
「え? いや、魔法だよね?」
「うん、“ユエお姉ちゃんの愛”なの」
「え? あれ? 愛? いや、でも魔法……」
「流石、“ユエお姉ちゃんの愛”なの」
「……」

 ナタリアは混乱した! 根性の次は、愛情で、ミュウは超常の現象を起こしたらしい! もう、魔法って認めてもいいじゃない! と内心で絶叫する。

 そんなナタリアの方にポンッと手が置かれる。振り返ったナタリアに、隣のエミール少年が悟ったような表情で「愛で、いいじゃないか」と言った。エミール少年の心のキャパは、とっくに許容限界だったらしい。ミュウのすること、言うことなら、なんでもそのまま受け入れそうだ。取り敢えず、ナタリアはエミールを拳で黙らせた。

 テロリストの悲鳴が止んだのは、それから僅か五分後のことだった。

 ミュウは、他の部屋に捕らわれている子供の保護をデモンレンジャーに任せ、指令室へ向かった。そこで、自分の普通のスマホを発見して、ホッと一息吐く。

「ねぇ、ミュウちゃん。これって……」
「んみゅ?」

 エミール少年が、自分のスマホを取り戻しつつ、PCのディスプレイを見てミュウに話しかけた。ほとんど壊れているので、そのディスプレイに映っているのも、フリーズしたままの画像だったが、そこには、崩壊したどこかの空港や噴煙を上げるスタジアムらしき光景が映っていた。

 どうやら、テロリスト達は、今回の誘拐だけでなく、他にも同時多発的にテロを行っているらしい。

 ミュウは、「ふむ」と頷くと、トテトテと歩き出し、黒焦げになって白煙を上げているが、辛うじて息があるっぽいリーダーの男の元で立ち止まった。

 なにをするのだろう? とナタリア達が見守る中、ミュウはうつ伏せに倒れたままのリーダーの男の……股間を蹴り上げた。

「おほぉっ!?」
「さっさと起きろなの」

 奇妙な絶叫を上げて目を覚ましたリーダーさん。股間を押さえながらゴロゴロとのたうち回っている。そんな彼に、ミュウは“さたん”を呼んで羽交い締めにして固定させた。ぐったりしながら両手を広げて拘束されるその姿は、十字架に磔にされているかのよう。

「ぎ、ぎざ、ま――」
「勝手にしゃべるな、なの」

 そう言って、ミュウは再び、リーダーさんの股間へ見事なヤクザキックを決めた。「はひぃいいいっ」と、これまた奇妙な絶叫を上げるリーダーさん。エミール少年を筆頭に、男の子達が青褪めた表情で股間を押さえながら内股になっている。

「今、起きていること。お前達の計画、今回の目的、全て話すの」
「だ、だれが――」

 ミュウはおもむろにトテトテと距離を取ると、その手に打黒鞭“これは武器です”を取り出した。そして、ヒュンヒュンと風切り音をさせながら自らの周囲で螺旋を描かせつつ、

「話して欲しいの」
「そ、そんな、おど、脅しには――アッーーー!!?」

 案の定、ミュウの要求を青褪めながら断ったリーダーさんの股間は、ヒュンッと空を切り裂く音と共に強襲した鞭の先端に強打されてしまった。絶叫を上げるリーダーさんと、青褪める男の子達と、両手で顔を覆いつつ、指の隙間からジッと事の成り行きを見守る女の子達。

「さぁさぁ、さっさと話すの! でないと、息子さんの命はないの!」
「こ、この、AKUMAめぇっ――アッーーーー!!!」
「右ぃ、左ぃ、右ぃ、左ぃ、なのぉ!」
「やめてぇっ、もう息子には手を出さないくれぇっ」
「お前が、話すまでっ、鞭打ちをっ、止めないのぉっ」
「いやぁあああああああああああああああっ」
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらっ、なのっ」

 パンッパンッビシッィイイ、バシバシスパァアアアンッと、黒い暴風となって、しかし、絶妙な力加減で、“これは武器です”がリーダーさんの息子を拷問にかける。右に左にと、デンプシーロールでも食らっているかのように、息子さんは地獄の責め苦に苛まれた!

 十歳の美少女に、股間を鞭打ちされて絶叫を上げるテロリストの男の姿が、そこにはあった。

 やがて、小さく体を丸め、股間を押さえながらシクシクと泣き腫らすリーダーの男から、洗いざらい今回の大規模なテロ計画を聞き出したミュウは、“これは武器です”をしまうとリーダーの男の元へ歩み寄っていく。

「た、頼む。もう、話すことは……だから、もう――」

 懇願するリーダーさん。最初の凶悪なまでの覇気は微塵もない。そんな弱々しいリーダーさんに、ミュウはにっこりと妖精のように可憐な笑みを向けた。リーダーさんも、エミール達も、ミュウの許しが出たのだと安堵を滲ませた笑みを浮かべかけて……

「漢女になるがいいの」
「ちょっ、まっ、アッーーーーーー!!」

 一発の銃声が轟き、この日、リーダーさんの息子さんは天に召された。

 白煙を上げる銃口にフッと息を吹き付け、倒れたままピクリとも動かないリーダーを尻目に踵すを返したミュウ。「容赦がなさすぎるよぉ」と男の子達が身を縮こまらせ、「ミュウ、素敵……」とナタリア達女の子が頬を赤らめてミュウに熱い眼差しを送る。

 そんな彼等のもとに戻ってきたミュウは、スマホを取り出した。

「ミュウ、どうするの?」
「そ、そうだよ。あちこちでテロが起きているんだよね? 早く、連絡しなくちゃ」

 ナタリアとエミールが、父親を通じて政府に今起きていることを伝えなきゃとミュウに話しかける。

「ん。それもいいけど、きっと、もう爆破されちゃったところとか、今、ハイジャックされている飛行機とか、包囲されてる外国に駐屯中の兵隊さん達とかをどうにかすることは出来ないと思うの。普通なら」

 確かに、ミュウの言う通り、現在の状況は深刻だ。爆破された空港やスタジアムは既に幾つもあり、ハイジャックされた航空機も何機もある。沿岸部にはミサイルを搭載した船舶が停泊していてもう間もなく都市に向けて発射されるだろうし、テロリスト達の国に駐屯している軍が今この時も孤立状態で包囲殲滅されそうになっている。

 他にも、この拠点以外にもテロリスト達の拠点はあって、そこにも人質が大勢捕らわれているし、どうやら大統領の襲撃まで現在実行中のようだった。公務先から、今回のテロ事件のためにホワイトハウスに戻る途中で襲撃したらしい。そこまで織り込み済みの襲撃だったようだ。

 これでは、全てを問題なく解決とはいかないだろう。今後も、数時間以内に、多大な被害が出ることは容易に想像できる。

 そう、ミュウの言う通り、普通なら。

 不安そうな表情を見せるナタリア達に、しかし、ミュウはえっへんと胸を張りながら、絶対の自信と信頼を声音に乗せて宣言した。

「今から、パパに電話するの。だから、もう大丈夫なの!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ジリリリリリと、黒電話の着信音が、南雲家のリビングに響いた。

「ん? ミュウからか。ちょうどパーティーが終わった頃だな」

 着信しているのはハジメのスマホだ。ハジメは、ドレスアップして意気揚々と出て行った愛娘を思い出してほっこりとほほ笑みつつ、スマホを手に取った。

「おう、ミュウ。お迎えの時間か――」
『パパぁ! 今、世界がピンチっぽいので、助けて欲しいの!』
「……はい?」

 スマホから響いた娘の第一声に、思わず間抜けな声を漏らすハジメ。リビングでくつろいでいたユエ、シア、ティオ、レミア、香織、雫、愛子、リリアーナ、菫、そして愁が「おや?」といった様子で注目する。ハジメは、音声をスピーカーモードにして、どういうことか聞いた。

『う~んとね、パーティーに来たらテロリストに誘拐されました。誘拐された先で、ミュウは自重しませんでした。テロリストさんの息子さんとOHANASHIした結果、世界はピンチでした。今ここなの』
「なるほど、把握……できるかっ! なにをどうしたら、そんなことになるんだ……」
『パパの娘なので』
「「「「「「「「「「なるほど、納得した」」」」」」」」」」

 ユエ達が、ミュウの言葉に深く頷いた。それにジト目を送りつつ、ハジメはスッと表情を改めた。

「それで? パパにどうして欲しいんだ? よくわからんが、誘拐犯共はミュウが殲滅したんだろう? 隠蔽はもちろんするが、パパは、パパ達は、どこでなにをすればいい?」
『えへへ~、流石、ミュウのパパなの。愛してるの』

 碌な説明ではなかったはずだが、要点だけ了解して、細かい事情は置いて、ミュウの要望を聞くハジメに、ミュウは嬉しそうな声音でそんなことを言う。愛情表現がストレートなのは幼少期から同じだが、最近、声音にやたらと艶が含まれてきている気がするのは、気のせいだろうか。

 ハジメが、チラリと視線を“お姉ちゃん達”に向ければ、何故か、全員がグッとサムズアップした。ハジメは半笑いになった。

 その後、ハジメは羅針盤を使い、現在起きているテロの所在を特定。愁達に留守番を任せて、クリスタルキーを使い世界各地の現場へと転移していった。

 意図的でないとはいえ、ミュウを浚い、その大切な友達を公開処刑するつもりだったのだ。そこへ助けてという愛娘の願い……

 もはや、テロ組織の理念や価値観や目的など知ったことではない。

 無差別に悲劇を撒き散らしたのは彼等だ。その中に、化け物の娘がいたとしても、そのために理不尽にさらされることになったとしても、それは自業自得以外のなにものでもないだろう。

 そのことは、この後、数時間以内に証明されることになった。
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます。

年内最終更新となりました。
今年一年、書籍化されたり、本編完結したり、いろいろありました。
リアルはいつだってリアルェですけど、仕事とかマジで仕事ェですけど、なろうのおかげで、そして読者のみなさんが一緒に楽しんで下さるおかげで、楽しい一年であったことに違いはありません。
なろうさん、有難うございました!
見に来てくださる皆さんも有難うございました!
良いお年を!
そして、来年もよろしくお願いします!

来週も土曜日の18時に更新できると思います。
+注意+
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