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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれたアフターストーリー

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ありふれたアフター 帰還者達の集い


 オレンジ色の温かな光が照らす店内は、高級店という雰囲気ではないものの、シックで落ち着いた空気に満たされていた。

 休日の夕方ともなれば、ほぼ満席となる人気のお店なのだが、本日は客の姿は一人もなく、ガランとしている。

「優花、そろそろ時間だろう? 奈々ちゃんと妙子ちゃんも、もう適当にしていていいよ」
「そう? それじゃあこの辺で」

 帰還組の一人、園部優花はそう言うと店のエプロンを外した。それに合わせて、同じエプロンをつけていた宮崎奈々と菅原妙子もふぅと息を吐きながらエプロンを外す。

 優花に声をかけたのは、この店の店主であり、同時に優花の父親でもある園部博之だ。彼の側には、母親である園部優理もいる。そう、この店は、園部家が経営する洋食レストランなのだ。

 そして、博之が、午後五時という、本来ならこれから忙しくなる時間帯に手伝いをしていた娘と二人の友人を上がらせたのは、ハジメ達の帰還一周年を祝う集まりの場所が、この園部家のレストランだったからである。優花達は、時間までの間だけお手伝いをしていたのだ。

 約束の時間まで、あと十五分ほど。そろそろ誰かやって来るだろうか、と優花が思い始めたとき、いいタイミングで店の扉が開いた。

「うっす。もしかして、俺等が一番?」

 そう言って入って来たのは、玉井淳史だ。その後ろからは、相川昇と仁村明人が同じように軽い挨拶をしながら入って来る。

「そうよ。十五分前行動なんて感心じゃない」
「いや、昼抜いたから腹減ってさ。先になんかつまめるもんでも貰えない?」
「あのねぇ。あとちょっとなんだから我慢しなさいよ」

 どうやら、淳史達は腹ペコのようだ。時間まで昼を抜いて遊んでいたらしい。淳史達が、「えぇ~」と文句を垂れながら、予約されていた席につこうと椅子に手をかける。

 すると、

「あのさ……一番乗りは俺だと思うんだけど」
「うおっ!? なんだ!?」
「え、遠藤! いたのか、お前!」
「え、うそ。いつからいたの!?」
「呼び鈴は聞こえなかったのに!」

 実は、一番乗りは神の使徒すら見逃してしまうほどの影の薄い男――遠藤浩介だったらしい。浩介が、「普通に入って来て、普通に挨拶して、普通に座席についただけだよ」と遠い目をしながら答えれば、優花達は何とも言えない表情で謝罪と慰めの言葉を口にした。

 淳史達が席に着きながら浩介に声をかける。

「それにしても随分と早いな。永山達は、今日は一緒じゃないのか?」
「最近は、あんまり一緒にはいないからなぁ。重吾と健太郎は、辻さん達と遊びに行ってるらしいけど……俺は、勉強してたから」

 浩介の返答に、優花は納得したように頷いた。

「そう言えば、遠藤くん、お医者さん目指してるんだっけ。それで、卒業後は向こうに移住するんだったわね」
「ラナさん達ハウリア族みたいな治癒魔法が使えない獣人達の為に、現代医術を学んでいるんだったよね。遠距離恋愛どころじゃないのに、よくやるねぇ」

 奈々の言う通り、トータスで晴れてウサミミお姉さんの恋人をゲットした浩介は、将来、少しでもハウリア族の力になれるようにと、魔法薬や治癒魔法を使わない治療術――すなわち、現代医療を学ぶため、医大を目指して猛勉強している。それ以外にも、自前の暗殺技術に磨きをかけるのはもとより、軍格闘術やサバイバル技術、農耕技術から交渉術まで、幅広く学んでいて大忙しなのだ。全ては、愛しい恋人のため。

 もっとも、この一年の間に、影が薄い人というキャラが崩壊したのではと思うような、世界の裏側のあれこれに巻き込まれたり、厄介な人達(うち幾人かは女の子)に追われたり……ある意味、帰還組の誰よりも裏の世界にどっぷりで、本人は頭を抱えていたりする。

 そんな遠い目をする浩介に、優花達は生温かい眼差しと共に、日夜頑張る同級生にエールを送ることにした。ハウリア族に新たな家族として迎えられた証である名を呼びながら。

「「「「「「浩介・E・アビスゲートくん、がんばれ」」」」」」
「やめろぉ! その名は、ハウリア族が傍にいないときは、使わないでくれって言っただろう!?」

 浩介は、羞恥の余りわっと顔を覆って机に突っ伏した。綺麗なお姉さんに授けられた名を、恥ずかしがる必要がどこにあるというのか。神話決戦時など、自ら名乗りを上げながら使徒相手に連合軍最大のキルポイントを稼いだ英傑だというのに。

「おいおい、どうしたんだよ、アビスゲートさん。体調でも悪いのか、アビスゲートさん」
「アビスゲートいいじゃない、アビスゲート。ハウリア族の人達も大歓迎してたじゃないアビスゲート」

 淳史と優花がにやにやしがら、両サイドから浩介を突く。浩介が「やめろぉ、やめろよぉ!」と頭を抱えてイヤイヤをするが、

「浩介・E・アビスゲート、参る!」
「ふっ、俺が見えないか? だろうな。闇に潜む俺は誰にも捉えられない……」
「疾風影爪の名、その身に刻め!」

 昇がノリノリでそう言えば、奈々が同調してそんなことを言い、明人がポーズまで取りながらかつての浩介を再現した。浩介の心のHPはレッドゾーンに突入した。妙子はひたすら、ぷるぷると肩を震わせながら視線を逸らしている。

 と、そのとき、浩介の惨状に慄くような、心底共感と同情を含めたような声音が響いた。

「お前等……なんてことを。えげつないにもほどがあるだろう。遠藤がなにをしたってんだ」
「な、南雲ぉ! 心の友よ! やっと来てくれたのか!」

 見れば、いつ間に入店したのか、ハジメご一行が浩介達のすぐそばまでやって来ていた。浩介はわっと半泣きになりながら駆け出した。そして、ハジメの背後に隠れながら淳史達へ反撃の声を上げる。

「お前等っ、さんざん好き勝手言いやがって! 見ろ、このリアルハーレム男を! そして思い出せ、かつての南雲を! ハウリア族が、こいつをなんて呼んでいたかを! 俺なんか霞むだろう!? いや、元々の影の薄さを言っているんじゃないぞ? 南雲のちゅうに――」

 ベチコンッという快音が響いて、遠藤がトリプルスピンを決めた。そのまま両足を揃えて崩れ落ちる。

「……今、何で叩いた?」
「……すまん。なんとなくだ」

 遠藤が涙目になりながら静かに問えば、ハジメは気まずそうに視線を逸らして答える。二人は、互いにハウリアからありがたい(?)二つ名をいただき、それを盛大に世界へと広められた同じ被害者ということと、この一年の裏世界での活動やらなんやらで、実は割と仲が良かったりする。心の痛みに共感し合えることや、恋人がハウリアの女性ということで親近感があるというのも理由だ。

「優花さん、今日はお店を貸してくれてありがとうございます。お料理とか、なにか手伝うことはありますか?」
「大丈夫だよ、シアさん。私とナナとタエで、大体終わらせたし、お父さんとお母さんが張り切ってるから」

 シアの申し出に、優花は笑顔で首を振る。その言葉通り、ハジメの姿を見つけた博之が手を休めて歩み寄って来た。

「やぁ、ハジメくん。ようこそうちの店へ。いつか、君達を招待したいと思っていたんだよ」
「今日は、世話になります。わざわざ貸し切りにしてもらって……助かりました。集まりが集まりなんで、他人がいたら好奇の的になってしまうんで」
「いやいや、これくらいどうということもないさ。……君が、家の娘を連れ帰ってくれたんだ。感謝してもしきれない。私に出来ることと言えば家自慢の料理を堪能してもらうことくらいだが、腕によりをかけさせてもうらよ。存分に楽しんでいってくれ」
「ええ、遠藤や玉井達からも美味いという話は聞いてましたから、楽しみにしてます」

 なんとも礼儀正しく優花の父親と言葉を交わすハジメに、淳史達はひそひそと「やっぱ敬語を使う南雲って違和感ぱねぇわ」とか、「魔王様も丸くなったよねぇ」とか、「まぁ、流石に、日本でいきなり銃を抜くとかありえないしね。丸くもなるよ」とか、「いやいや、菅原。わかんねぇぞ。南雲なら、証拠隠滅なんて片手間だぜ? 既に何人も殺ってる可能性も……」とか話し合っている。

 ハジメの左手薬指にはまっている“宝物庫”がかすかに光り出した。無限に等しい武器庫から何を取り出す気なのか……淳史達は一瞬で椅子に座り直すと、白々しくもまったりとした雰囲気で飲み物を飲み出した。ハジメとの接し方に熟練しているようだ。

「それにしても、ハジメくんのお嫁さん達は、本当に綺麗な子ばっかりね」

 そう言って博之の後ろからエプロンで手をふきふきしつつやって来た優理は、そんなことを言いつつ「本日はようこそ。ゆっくりしていってね」と挨拶をした。それにユエ達がそれぞれ挨拶と店を貸してくれたお礼を述べる。

 優理は、そんなユエ達ににこやかな笑みを浮かべ、なにか納得したように頷くとくるりとハジメへと視線を向け直し、一言、

「それで、ハジメくんはいつ、優花のこともお嫁さんにしてくれるのかしら?」
「ちょっ、お母さん!? なに言ってんの!?」

 いきなり放たれた母親の言葉に、優花が飲み物をぶふっと吹き出しながら声を張り上げる。見れば、淳史達や香織、雫もギョッとしたように優理に視線を向け、ついて優花へと意識を向けた。

 対して、いきなり爆弾を投げ込んだ優理は「ダメかしらねぇ? お母さんは、ハジメくんなら全然、問題ないのだけど~」などと言ってくすくすと笑う。

 優花の母親は割とおっとりした雰囲気の人なのだが、無自覚に爆弾を落とす系の人らしい。優花はそんな母親を放置して、ハジメに弁解をしようと振り返り……目と鼻の先にいたニッコリ笑顔の香織を見て表情を盛大に引き攣らせた。

「あ、あの、香織ちゃん? 私はね――」
「大丈夫、大丈夫だよ、優花ちゃん。私は、ちゃ~んと分かってるから。取り敢えず、奥の席に行こっか? ハジメくんの傍にいたいなら、いろいろと知っておいて欲しいこともあるし、じっくりと教えてあげるから」
「いやいやいやいや、遠慮しときます! 別に知る必要はないから!」
「むっ、それはハジメくんのことなんかどうでもいいってことかな? かな?」
「めんどくさっ。前から思ってたけど、南雲くんが絡んだときの香織ちゃん、めんどくさっ」
「そんなこと言って、誤魔化されないよ! さぁ、優花ちゃん、お話、しよ?」

 香織は、そう言って優花の肩を掴んだままずるずると店の奥の席へと連れて行った。引きずられていく間、優花が助けを求める視線を淳史達に送ったが、誰もが見事にシンクロした動きで視線を逸らした。優花は絶望した!

「はぁ、ハジメ。優花が心配だから、私もしばらく奥の席にいるわ」
「ああ、香織は任せた。園部の口からエクトプラズムが抜け出す前に助けてやってくれ」
「承知よ」

 帰還から一年経っても、雫の苦労性は変わらない。もっとも、今は、苦労したあとのご褒美を与えてくれる恋人がいるので、まったく苦にはなっていないようだが。

 そんな風に、園部家により微妙に騒がしくしていると、続々と帰還組のクラスメイト達が集まって来た。

 永山重吾や野村健太郎、辻綾子、吉野真央。健太郎と綾子は腕を組んでいる。二人は、帰還直後に付き合い出したのだ。そのあと、中野信二と斎藤良樹を筆頭に、ほぼ全ての帰還組の学生が集まった。

 あと本日招待されていて、まだ来ていないのは、龍太郎と鈴、それに愛子だ。光輝がトータスにいることは誰もが知っているところなので、待つ必要はない。また、愛子も、仕事関係で少し遅くなると事前に知れているので、実質的に、あとは龍太郎と鈴だけだ。

「約束の時間はもう過ぎたが……」

 ハジメが時計に目をやって、そう呟く。時計は、確かに既に午後五時を回っていた。テーブルの上には、定番の洋食だけでなく、ちょっとつまめるものとしてフライドポテトやからあげ、ミニピザに、ノンアルコールの飲み物で溢れ返っている。

 香織が、なにかあったのかと心配そうになり、スマホを取り出した。一度、連絡をしてみようと思ったのだ。が、香織が連絡を取る必要はなかった。

「っと、わりぃ! 遅れた!」
「ごめん! 龍くんが、アホみたいにテンション高くて、落ち着かせるのに時間かかった!」

 そんな風に、謝罪しながら飛び込んで来た鈴と龍太郎。「気にすんな」と声をかけようとしたハジメ達だったが、思わずその言葉を呑み込む。そして、その視線が一か所に集中した。

 ……指をからめて繋ぎ合う、所為、恋人繋ぎで手を取り合っている二人の手に。

 その視線に気が付いたのだろう。鈴が「あっ」と声を上げて、慌てた様子で手を離そうとする。しかし、恋人繋ぎな上に、龍太郎の大きな手に鈴の小さな手はすっぽりと包まれているので、龍太郎が離そうとしなければそう簡単には外れない。

「そういえば、今、鈴っち。坂上のこと、“龍くん”とか呼んでなかった?」
「……マジかよ。いや、遂に、か。坂上と谷口なら」

 奈々が耳聡く聞きつけた、鈴の変わった龍太郎の呼び方(告白を受けた後、なんとなく今までより親愛を込めたいと鈴が変えた)を口にすれば、淳史が先を越された口惜しさと、純粋な驚愕半分、納得半分の表情を見せた。

「へぇ、お前等、いつの間にそんな関係になったんだ?」

 ハジメが、面白そうに口元を緩めながら尋ねる。すると、龍太郎も、状況から自分と鈴の関係が即行でクラスメイトに理解されたと察したようで、ちょっと照れくさそうにしつつも、

「一時間前だ!」

 と、サムズアップと快活な笑い声をお供に、そう報告した。途端、鈴は赤くなり、クラスメイトからは「おぉ~~!!」と感心の声が上がった。直後、「おめでとう!」という祝福の声が女子達から、「坂上ぃ、脳筋のくせに恋人とか……死ね!」「爆発しろ!」「俺も恋人が欲しい! 誰か、俺と付き合ってくれ!」という妬みを含んだ声が男子達から口々に放たれた。

 ちにみに、恋人募集の声はさらりとスルーされた。信二はこっそりと泣いた。

 新たな関係となった鈴と龍太郎を、雫と香織を筆頭にして盛大に祝福する。そうして、全員が揃ったところで、ハジメが立ち上がってグラスを手に取った。クラスメイト達も、ユエ達も、同じくグラスを手に取る。

「さて、異世界にトリップするなんて馬鹿みたいな経験をした俺達だが、今、こうして故郷の地で、帰還一周年を祝うなんてことが出来ている。異世界での一年も、帰還してからの一年も、まったく馬鹿みたいに騒がしい日々だったが……どちらも、悪くない。本心から、そう思う」

 ハジメの、静かな、想いを噛みしめるような、穏やかで、深い眼差しと表情に、ユエ達を含め、クラスメイト達はみな一様に、深く頷いた。

 帰って来られなかった者もいる。だが、それも含めたとしても、誰もが、確かに“悪くなかった”と感じているのだ。

「ここから先の未来、誰が、どんな道を行くのかは分からないが、“戦う”ってことの意味を知っている俺達なら、問題なんてなにもない。そうだろう?」

 一斉に、力強い頷きが返って来た。それに、ハジメも深く頷き、

「だから、乾杯の言葉はこれでいい。……乗り越えたこの二年と、これから先の困難に! 乾杯だっ!」
「「「「「カンパ~~~~イッ!!!」」」」」

 そうして始まった宴会。

 異世界トータスでの思い出を語り合い、帰還してからの一年に想いを馳せ、新旧のカップル達を盛大に冷やかし、浩介をいじり、意味もなく騒ぎ、大いに食べて飲んで、浩介を見失い、騒ぎまくった。

 途中から、仕事を終えた愛子が合流し、ハジメと静かなイチャラブを繰り広げて、そこへユエが大人モードでさらりと割って入り、負けじとシア達がハジメへと群がっていつも通りの桃色空間が形成されたり、それを見てまたクラスメイト達が騒いだりと、心から、今、生きている喜びを実感しているように、帰還一周年の集まりは凄まじい盛り上がりを見せるのだった。

 やがて、宴もたけなわの頃、誰ともなしに、トータスに行きたいという声が上がり始めた。もちろん、向こうに移住したいという意味ではなく、トータスにいる友人・知人と会いたいなぁという、軽い言葉だ。

 思い出を語り合っている内に、リリアーナや王宮のメイド達、決戦のとき共に戦った戦友達や、復興時に協力し合った人々と会いたくなったのだ。

 そんなクラスメイト達に、ハジメはニヤリと笑うと、

「じゃあ、今からちょっくら会いに行くか?」

 と、これまた実に軽い感じで口にした。

 世界を越えるゲートを開くには、莫大な量の魔力がいる。トータスから地球に帰還する際には、疑似神結晶に自然界の魔素を取り込むあらゆる施術をほどこして、チート達の魔力をフルにつぎ込んで、それでも一か月もの時間を要したのだ。

 魔素のほとんどない地球では、世界を越えるゲートを開くのに、ハジメ達が自分の内にある魔力を全力で溜め込んでも最速で五か月はかかったはずなのである。

 最初の帰還から五か月後に一度ゲートは開かれ、更にその五か月後にもゲートは開かれている。なので、普通に考えるなら、あと三ヶ月は開けないはずなのだ。

「おい、南雲。今更、お前がなにをしようと驚かねぇし、疑ったりはしねぇよ。だから、キリキリと吐け。なにをしたんだ?」

 龍太郎が呆れと感心を綯交ぜにしたような表情で尋ねる。クラスメイト達も注目する中、ハジメは、おもむろに右手を掲げると“纏雷”を発動してバチバチと紅いスパークを迸らせた。

「この纏雷は、魔力を電撃に変換する固有魔法だ。魔力は電気に変換できる……なら、逆だって出来ると思わないか?」
「ちょっと待ってください、ハジメくん。私、すごく嫌な予感がしてきました」

 ハジメの言葉に、愛子が頬を引き攣らせる。そしてポツリと「一ヶ月くらい前、とある町がまるごと停電になることがありましたよね。すぐに復旧しましたけど……確か、原発が近くにあったような」なんてことを言って、クラスメイト達もハジメがしたことに思い至り盛大に頬を引き攣らせた。

「想像通りだ。ちょいと、原子力発電所の電力を魔力に変換させてもらった。この変換法の確立と、専用アーティファクトの作製に少し手間取っちまったが、遂に実用化に成功した」
「成功した、じゃないです! あぁ、ちょっと目を離した隙になんてことを……」

 ドヤ顔で、原子力発電所の電力をぬす――貰って来ましたというハジメに、愛子は頭痛を堪えるように頭を抱え、他の者達も遠い目となってしまった。

 ちなみに、町が停電したのはハジメにとっても不測の事態で、今では町の電力供給に影響を与えずに魔力変換できるようになっている。

 放心する彼等を尻目に、ハジメは“宝物庫Ⅱ”から“クリスタルキー”と“羅針盤”を取り出すと、何の躊躇いもなく虚空へと突き刺し、あっさりと異世界への扉を開いた。

「なんだ、行かないのか?」

 とんでもないことをしでかしているのに、やっぱり軽いハジメ。クラスメイト達は、もう開き直って声を張り上げながらゲートをくぐって行く。

 場所は、ハイリヒ王国の新たな王宮の一角にある大広間だ。

 ハジメ達がゲートを開いたことを伝えるアーティファクトをリリアーナなどには持たせているので、既に気が付いているだろう。

 案の定、直ぐにバタバタという幾人かの足音が響いてきた。

 そして、バンッと勢いよく開けられた扉の向こうには、息を荒げるリリアーナの姿が。リリアーナは、ハジメを見つけるや否や、ダァーーと駆け出した。

 そのまま、今まで通り、感極まったような表情でハジメに抱き付くのかと誰もが思ったのだが……

 そこで、予想外の言葉が、リリアーナの口から飛び出した。

「大変ですっ! 大変なんです! ――光輝さんが、どこか別の世界に召喚されたっぽいんです!」
「は?」

 ハジメの間の抜けた声に、同調するようにクラスメイト達も「は?」となった。それもそうだろう。召喚されたも何も、ここが光輝を召喚した世界なのだ。リリアーナは何を言っているのだろうと、首を傾げるのも無理はない。

 そんな彼等に、

「本当なんです! いきなり『見つけました、勇者様。どうか我が愛しき世界をお救いください』っていう声が空か降り注いだかと思ったら、見たこともない魔法陣が光輝さんの足元に広がって――そのまま消えたのですぅ! 一週間くらい前に!」

 そこでようやく、クラスメイト達の頭に事態が浸透したようだ。

 つまり、光輝は、勇者召喚された世界で、更にどこかの世界に勇者召喚されたということらしく……

「なんじゃそりゃぁああああああああああっ」

 光輝に会うのを楽しみにしていた龍太郎が、まっさきに、みんなの心の声を代弁するツッコミの叫びを上げた。


 どうやら、世界はまだまだ、ハジメ達を放ってはおかないつもりのようだった。



いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます。

光輝の二度目の召喚の話は、今のところ予定していません。
どちらかというと、裏世界で涙目になりながら東奔西走するアビスゲートくんの話を書きたいなぁと思っております。
次回からは時系列もバラバラに、書きたいアフターとか番外をぼちぼち投稿していこうと思います。
取り敢えず、十歳くらいに成長したミュウのお話でも。

次回も、土曜日の18時に更新する予定です。
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