挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれたアフターストーリー

184/266

ありふれたアフター とある脳筋のハッピーロード

愛子とリリアーナ、あるいは影薄い人とウサミミお姉さん、またはウサミミヒャッハー族長とシアたんハァハァな森人族の変態お姫様、を期待していた人はすみません。
それはまだ執筆中です……
 外界から切り離されたような静謐が漂うその場所は、とある町外れにある墓地だった。少し離れた場所にはお寺の本堂が見えており、辺りは幾つもの墓石が規則正しく並んでいる。

 そんな、休日であることに加え、場所柄閑散とした墓地に、珍しくも若い女の子の姿があった。たった一人でポツンと立っている。そよぐ風に背中まで伸びた髪をふわりとなびかせながら、微動だにせずに何か想いを馳せているかのようにジッと墓石に刻まれた家名を見つめている。

 と、そこへ、のっしのっしという重そうな足音と共に、静謐を破る野太い声が響いた。

「おう、鈴。奇遇だな。お前も来てたのか」
「龍太郎くん!」

 驚きながら振り返った女の子――鈴に、墓地の砂利道を盛大に踏み鳴らしながらやって来た龍太郎は、「よっ」と片手を上げて実に気やすい挨拶をした。

「龍太郎くん。どうしてここに……って、目的は一つしかないか」
「まぁな、今日はみんなで集まる日だしよ。……なんとなく、な。俺達がここに来なきゃ、誰も来ねぇだろうし」
「そうでもないよ。一応、私が来る前からお供えがあったし」
「ん? あぁ、もしかして、香織と雫か?」
「たぶんね」

 墓前には、確かに、少々多めの花が飾られていた。鈴の持ってきたもの以外にも、先に飾られてあったことが伺える。龍太郎の推測に、鈴が同意を示しつつ、苦笑いしながら口を開いた。

「……別に、ここに恵里のものなんて何一つないんだけどね」

 そう言って、鈴は墓石に視線を戻した。そこには、“中村家”と刻まれている。そう、ここは、異世界で果てた鈴の親友――中村恵里の家系のお墓なのだ。もちろん、恵里は【神域】にて自爆したので、遺骨どころか何も残ってはいない。ここに、恵里が眠る証は何もないのだ。

 それでも、自らの止められない狂気と想い故に悪を尽くした親友を悼もうとすれば、自然とこの場所に足が向いてしまった。異世界から帰還した後、一度だけ訪れたこの場所。一年経って、特異な経験をしたメンバーが集まるこの日、約束の時間の前に、鈴も龍太郎も、特に示し合わせたわけではないのだが……鈴の前にやって来たのであろう香織と雫を含め、気持ちは一つだったようだ。

 二人はしばらくの間、言葉もなく、ただ静かに墓石を見つめ続けた。その向こう側に、かつての恵里を思い浮かべながら。

 どれくらいそうしていたのか、やがて、う~んと背伸びした鈴が、想いに整理をつけたように和やかな笑顔を浮かべながら龍太郎に尋ねた。

「そう言えば、今日の集まりって、やっぱり光輝君は来ないんだよね?」
「ああ。特に、南雲からゲートを開くって話は聞いてないからな。不参加だろう。まぁ、せっかく俺等のために特例でクラスが用意されたってぇのに、高校中退してまで“償いをする”つってトータスに行ったんだ。帰還して一年祝いの集まりになんて、たとえこっちにいても絶ってぇ出ねぇだろう」
「そうだね。『俺には、そんな資格はない』とか言って、ね」

 互いに苦笑いする龍太郎と鈴。

 その言葉通り、光輝は現在、トータスにいる。一度はハジメ達と一緒に帰還した光輝だったが、普通の高校生活を送ることは出来なかったのだ。誰に、何かを言われたから、というわけではなく、自分自身の心が、罪悪感が、償いを望む意思が、たとえ一、二年でもあってものうのうと学生生活を送ることを拒絶した。

 人々に戦争ゲームをしかけて弄んでいたエヒトルジュエがいなくなっても、魔物という脅威が減ったわけではない。【神域】から出てきた魔物の中には、逃走を成功させたものもいるはずだ。光輝は、そういう脅威を少しでも排除して、償いの一つとしたいらしかった。

 当然、勇者として召喚されたはずの光輝が、決戦当時いなかったことは知れ渡っており、自ら公言したこともあって、光輝が敵側についていたことはトータス中に知れ渡っている。故に、あの世界で、光輝の居場所はないに等しい。

 だが、それでも、光輝は黙々と、一冒険者として誰かの助けになるため東奔西走しているようだ。

「んで、時間まではまだちぃとあるけど、鈴はどうする?」
「ん~。特には考えてないなぁ。適当にぶらぶらするか、カオリン達と合流するか……いや、合流はないね。あのピンク色の空気の中で普通に過ごすのは無理だ。絶対、疲れる」
「あ~、うん。そりゃそうだ。んじゃ、適当に時間潰すか。一緒に」
「うん。読者のみなさんに回想シーンも交えて、いろいろ話そうか」
「……」

 少し鈴が電波を受信しつつ、二人は最後にもう一度墓石を見つめて、その場を後にした。

 適当に歩きつつ会話を弾ませる二人は、やがてこじんまりした公園に辿り着いた。特に意思の疎通を図るでもなく、自然とベンチに腰掛ける。そこで、なんとなしに公園で遊ぶ子供の姿を見やった。

「あ~、平和だねぇ~」
「おいおい、なんて声出してんだよ。ばあさんか」
「ひどっ。相変わらずデリカシーのない脳筋さんだよ、まったく。龍太郎くんだって、こっちに戻ってから、ふとしたときに思うことあるでしょう? 平和だなぁって。一年前まで、いつ死んでもおかしくないような戦いをしていたなんて、自分でもちょっと信じられないよね」
「……まぁな。こっちに戻ってから何かと忙しかったから、最初はそれどころじゃなかったけどよ。確かに、最近、落ち着いてくるとよく思うわ。そういうこと」
「だよねぇ」

 ハジメが異世界トータスと地球を繋ぐゲートを作り出し、生き残ったクラスメイト達が再び故郷の地を踏んだ一年前。

 学校の屋上に降り立って、周囲を見渡した彼等は月夜の大歓声を上げた。中には感極まって泣き出す者や、それを慰めながらもらい泣きする者もいて、中々に大変な状況だった。

 そんな中、果たして、再び異世界トータスへのゲートを開くことは可能なのか。莫大な魔力を消費したハジメであったが、ストックしておいた魔晶石も利用しつつ疲れた体に鞭打って直ぐに試して見れば、少なくとも地球においても魔法やアーティファクトが使えることが確認できた。

 それを聞いて、異世界に出来た親しい人達と再び会うことも可能だと知ったクラスメイト達の喜びようは、それはもう凄かった。クラスメイト全員でハジメに襲い掛かり、真夜中の胴上げを慣行したくらいだ。

 その後、落ち着いたクラスメイト達は、それぞれ互いの生存と帰還を喜び合って帰宅の途についた。はたして、家や家族がどうなっているのか……不安がなかったわけではないが、それでも、皆一様に軽い足取りで懐かしさすら感じる通学路を走り去っていった。

 ……オリンピック選手も真っ青な超速度で。「こらっ、屋根の上を跳んでいくのは止めなさい!」という、某苦労性のポニテさんの怒声が響き渡ったのは言うまでもない。

 ちなみに、行方不明の間のことを家族などにどう説明するかについては、決戦後の一か月の間に話し合われており、結論としては、“正直にありのままを話す”というものになった。

 現実味のある嘘を言っても、きっと警察などに調べられれば直ぐに矛盾点や不審点は暴かれるだろう。白昼の集団失踪が、どれだけ世間で話題になり、警察が本腰を入れて捜査していたかということは容易に想像できる。そんな警察が、適当な嘘など見抜けないわけがない。まして、帰って来なかった学生もいるのだ。半端などするわけがない。

 かといって、記憶喪失で通すのは、いかにも何かを隠していそうで、警察以上に、マスコミが放ってはおかないだろう。集団失踪した学生達が、頑なに口を噤む空白期間……マスコミの大好物だ。帰らない学生のことも交えて、あることないこと盛大に騒ぎ立てるだろう。

 ならば、周囲が思わずドン引くような、あるいは憐れみの感情を向けてそっとしておこうと思うような、そんな情報をこちらから提供するのがベターだろう。

 すなわち、

――剣と魔法のファンタジーな世界で、魔物や邪神と戦っていました!

 と。

 もちろん、ハジメの案である。何一つ嘘は言わないのだから、どれだけ追求されても堂々としていればいい。ハジメほど図太くないクラスメイト達でも、いちいち心労をため込まずに済む。何を言われても、“信じる信じないはあなた次第です”と言えばいいのだから。

 そして、なお深く追求してくる者に対してや、何か問題が起きたときは、ちょちょいとユエさんの魔法で“はて、なにをしていたのかしらん?”となってもらうのである。

 なお、“はて、なにをしていたのかしらん?”をされたのは、執念のステータス値がMAXのマスコミや、鋭すぎる役所や警察の人間だけではない。怪しげな宗教関係っぽい組織やすっごく怪しげな政府関係者っぽい人間や、滅茶苦茶怪しげなまじゅつ――オカルトチックな集団もいたりする。

 クラスメイトの大半が家で久々のポテチを堪能したり、テレビやネットにかじりついている裏側で、ハジメ達(+影の薄い人)は、そういう地球の裏側に住んでいそうな連中とあれこれしていたのだが……それはまた別の話。

「最初の頃はほんと、大変だったね。特に、マスコミ関係の人とかしつこかったもんね」
「ああ、何回、テレビの特番に出演して欲しいって電話が来たか。恵里とか、檜山達のことで“何故、君達だけ帰って来たのか”とか“責任を感じないのか”とか聞かれたときは、マジでぶっ飛ばしてやろうかと思ったぜ」
「あれはねぇ。中野君と斎藤君なんかは、普通に記者さん殴っちゃって、『やはり、精神に異常が!?』とか思いっきり書かれてたもんね」
「記者側のデリカシーも問われてたけどな」

 当時の世間の大波を思い出して、鈴と龍太郎は互いに苦笑いを浮かべる。当時は、マスコミや警察だけでなく、ちょっとした知り合いまで訪ねて来て、本当のところはどうなんだとあれこれ詮索してきたものだ。

 特に、檜山と近藤、清水の家族は最後まで食い下がった。

 帰らぬ人となった彼等の家族に対しても、余すことなく真実が伝えられた。説明を行ったのは愛子とハジメだ。本当は、愛子が一人で話しに行こうとしたのだが、どうせ真実を話すならハジメの話題は避けて通れないし、なにより、ハジメ的に、檜山達のことで愛子を矢面に立たせるつもりも、煩わされるつもりも毛頭なかったため、ハジメが強引に同行したのである。

 当然、異世界の話を魔法を見せつつ信じさせたあと、檜山達の家族は憤怒や憎悪もあらわに愛子とハジメへ罵詈雑言、場合によっては暴力まで振るおうとしたのだが……

 連れて帰れなかった、あるいは改心させられなかった責任感から甘んじて受けようとした愛子を尻目に、銃弾をぶち込んだ本人であるハジメは冷めた表情のまま、その尽くを正面から弾き返した。

 たとえ、彼等の家族が善良であったとしても、どれだけ子供の帰還を心待ちにしていたのだとしても、そんなことは、自分や自分の大切に牙を剥かれた事実を消し去るものではない。親の気持ちが、子供のしたことや、ハジメの事情など関係ないのと同じで、ハジメとしても、敵の親の心情など、知ったことではないのだ。

――自分のしたことに後悔はない。悪いとも思わない。故に、謝罪もしない。俺をどう思おうと勝手だが、この件で俺の身内に手を出すなら覚悟してもらおう。

 これが、ハジメが相手の家族に伝えた言葉だ。扇動家の才能があるなんて言われるほど、微妙な誤魔化しやら演説が得意なハジメにしては、不器用とも言えるストレートな言葉。はっきりいって、神経を逆なでしているとしか思えない。

 だが、傍らにいた愛子には、それがハジメにとって最大限の誠意であり、覚悟なのだと理解できていた。誤魔化しはしないし、買った憎しみが身内に魔手を伸ばそうというのなら、どこまでも相対し、排除するという決意。

 結果、檜山の家はハジメ達に報復しようと暴走し、ハジメ自らの手によって心折られ、他の家は、そんな檜山家の有様を知って沈黙を守った。傍から見れば、なんとも後味の悪い結果だが、ハジメはまったく気にしていない。

 さて、そんな騒動も含めて、帰還組についてなされていた怒涛の報道合戦やらなんやらだが……それらはある日を境に、まるで潮が引くように鎮まっていった。それはもう、不自然なほどスッと何事もなかったかのように。

「あれ、絶対、南雲君達がなにかやったよね」
「だろうな。ユエさん達の戸籍関係とか、周囲の認識とか、その辺りもあっさりクリアしたんだ。ついでに、世間の意識をどうにかしていても、全然不思議じゃないぜ。まして、愛ちゃん先生が唯一の大人ってことで矢面に立たされてたんだ。あの南雲が放置するなんてありえねぇ」

 実はその通りだったりする。「情報化社会に、魔法が組み込まれると……世界ってちょろくなるんだな」という、世にも恐ろしいことを言ったのは誰か……言わずもがなである。

「ま、大変ではあったけど、不幸中の幸いは、誰も家族に拒絶されなかったことかな。私のお父さんとお母さんも、それに妙子さん(お手伝いさん)も、事情説明した直後は悲壮な顔して病院に連れて行こうとしたけど、実際に魔法を見せて何度も説明したら、何とか受け入れてくれたし」
「ああ、うちもだ。ただ、俺の場合、モデルワーウルフを見せちまったもんだから……パニックになったけどな。おふくろは気絶するし、おやじはバット持ち出して滅茶苦茶に振り回すし、姉貴は漏らすし、からしお(飼っている犬)は狂ったように吠えるし、隣の藤井のじいさんは『戦争じゃ~』とか言いながら消火器撒き散らすし……」
「最後のおじいさんは意味不明だけど、だいたい龍太郎くんの自業自得だからね? むしろ、息子がいきなり狼人間に変身したのに、バットで立ち向かおうとしたお父さんを、私は心から尊敬するよ」

 心底呆れた鈴の眼差しを受けて、龍太郎は「時効だ、時効」と恥ずかしげに視線を逸らしながら言った。ちなみに、自分では事態を収拾できないと思った龍太郎は、取りあえず家族全員と隣の藤井のじいさんを気絶させて、ワーウルフの瞬足を遺憾なく発揮し、同じく家族に事情説明中だった光輝の家に乱入した。

 いきなりファンタジー世界の凶悪な狼人間が飛び込んで来たことで、光輝の父親が気絶、母親が包丁を持ち出して大暴れし、光輝の妹は漏らした。人狼の正体も、その目的がヘルプを求めたのだということもすぐさま察した光輝は、取り敢えず母親を制圧。妹を眠らせた。

 そして、龍太郎をド突き、溜息を吐きながらも、せっかくだしちょうどいいと、気心しれた龍太郎の家族との合同家族会議を開催し、どうにか両家からの理解を得たのだった。

 ちなみに、雫の家にも白崎家から緊急の連絡が来ていたりする。そのときの香織のご両親の混乱に満ちた第一声は『雫ちゃん! やっぱり、君も帰ってたんだね、良かった! ところで、うちの娘が天使なんだが、なにか知らないか!?』というもの。使徒モードを見せたのだろうが……普通に聞けば、夜中にいきなり娘自慢をしてきた親バカにしか聞こえない。

 電話の向こうで、「もうっ、お父さん! 恥ずかしい電話しないで!」という香織の声と、「だって、だって香織ぃ。そんな、天使さんなんて……可愛過ぎるじゃないか!」という親子の会話とどったんばったんとてんやわんやする音が聞こえて……雫は、静かに受話器を置いた。内心で、「こっちも説明で忙しいのよ、ボケェ!」と悪態を吐きながら。

 そんな風に、帰還を果たしたクラスメイト達は、それぞれの家族に時間のかかり具合や、紆余曲折の度合いは異なれど、最終的には異世界の話を信じてもらえて、家族ぐるみでマスコミ等への対応に望めたのである。

 もともと、集団失踪したクラスメイト達の行方を追うため、家族会を結成していたという事情があるため、他の家族と連絡を取れば、家の子だけでなく、他の子も同じように不可思議な力と同じ経験をしていることは容易に知れる。それもあって、どうにか全てのクラスメイト達が、家族に受け入れられたのだ。

 もっとも、全てが元通りと、以前と全く同じ、というわけでもなく……

「あれ? 鈴ちゃん? それに坂上も? こんなとこでなにしてんの?」
「お、本当だ。鈴ちゃん、久しぶり~! っていうか、もしかしてデート!?」
「え? うそ!? 坂上と!? 鈴ちゃん、脅迫でもされたの!?」

 公園のベンチで話をしていた鈴と龍太郎の二人に、突如、姦しい声がかけられた。見れば、そこには元クラスメイトの友人達がいた。あの日、昼休みを別の場所で取っていたがために、召喚に巻き込まれなかった三人の女子で、鈴が割と親しくしていた子達だ。

 三人は、休日に龍太郎と二人っきりで過ごしている鈴を見て、二人の関係に対する少しの好奇心と龍太郎に対する多大な警戒心を掻き立てられたようだが、このあと他のみんなとも合流する予定で、それまでの暇潰しだと答えれば、がっかりしたようなホッとしたような表情となった。

 彼女達と適当に近況などを少し話し、また連絡する~とお決まりのセリフを交わして別れる。

「相変わらず、コミュ力高ぇなぁ」
「まぁね」

 龍太郎の称賛交りの言葉を、おどけるでも、謙遜するでもなく、肩を竦めて受け取る鈴。やはり、あの恵里と決戦を経てからというもの、鈴は精神的に大きく変化、もとい成長しているようだ。

 集団失踪――その事実は、同じ学校の生徒達にも少なくない、否、むしろ大きな影響を及ぼしていた。腫れ物に触るような、余り関わりたくなさそうな、逆に好奇心にデリカシーを欠くような、そんな態度と雰囲気が広がっていたのだ。

 それは、帰還した彼等が再び学校に通うとなったとき、大勢の家族から不安の声が上がったという形でも示された。

 一年もの間、音信不通となり、どこでなにをしていたのか、なにをされていたのかわからない。本人達は、まるで現実味のない話をするばかり。しかも、帰って来なかった生徒もいる……果たして、そんな得体の知れない子達を復学させて、家の子は大丈夫なのか。

 結果として、当事者が帰還したにも関わらず、事件の真相は未だ解明されず、行方不明のままの生徒のこともあり、遂に行政が動いた。

 ハジメ達が世間の好奇の目に晒される事態を軽減し、一年の学業の遅れを取り戻すため専用カリキュラムを用意し、同時に校内にメンタル面の医療関係者を置くという形で帰還者達のスムーズな学生生活への復帰を支援する……という建前の、面倒な事態を避けるための隔離的特別クラスを用意したのだ。

 そのために、現在では、本来の教室ではなく、校舎の最上階、それも端っこにある未使用だった部屋が卒業までのハジメ達の固定クラスとなっている。

 実は、学校そのものを別に……という話もかなり強力に上がっていたのだが……「転校とか面倒」という誰かの意見が、摩訶不思議な現象とともに押し通った。いつの間にか、ごく自然に。不自然なくらい……

 とにかく、そのように物理的な距離感も出来てしまうと、当然、帰還組と召喚前まで友人だった別クラスの者達との距離感も広がってしまうわけで、友人関係の作り直しという事態になった者も多くいたのだが……そんな中でも、鈴は、かつてと変わらない、否、むしろより親密な関係を、従来の友人達と築いているのだ。

 こうして休日に偶然会えば、積極的に声をかけられるくらいに。鈴に変なことしたら、ただじゃおかねーと、女子にあるまじき眼光が龍太郎に叩きつけられるくらいに。

「はぁ、まったく、お前って奴は……。南雲を除けば、異世界に行って一番変わったのは、きっと鈴だな。一瞬でも、彼氏に見られて光栄だぜ」
「ふっふっふ。そうでしょう、そうでしょう。こんな美女との関係を疑われるなんて、龍太郎くんの幸せ者め~」
「……」
「……おい、今、美女のところで目を逸らした理由を言ってみろ。私の言葉に異議があるなら聞いてやろうじゃないか。うん?」

 谷口鈴。おさげを止め、長く伸びた髪と纏う雰囲気から随分と大人っぽくなった女の子。ただ悲しいかな……身長は一ミリも伸びていない。そして、胸もまた……。どう見ても、美女とは言い難い。ただ、美少女ではあるだろう。たぶん、きっと。

 自身の態度に憤まんやる方ないといった様子で睨む鈴に、龍太郎は両手を上げて降参のポーズを取った。そして、ぷんすかと不機嫌をあらわにする鈴に、どうしようか、どうするべきか、と迷うような、照れるような素振りを見せつつ、思いっきり視線を逸らしながら口を開いた。

「いや、まぁ、なんだ……お前は、十分魅力的だぜ? いや、本当に」
「とってつけたようなフォロー、どうもありがとう。ふん、どうせ、私はユエさん達みたいに超美少女じゃないよ」

 鈴は「けっ」と、どこかいじけた様子で唇を尖らせる。が、直後届いた、驚くほど真剣な声音での言葉に、思わず間抜けな声を漏らすことになった。

「……フォローじゃねぇよ。鈴はいい女だ。誰にだって負けちゃいねぇ」
「へ?」

 思わず、龍太郎の方へ視線を転じれば、さっきまでそっぽを向いていたはずの龍太郎が、真っ直ぐな視線を鈴へと注いでいた。小さく心臓の跳ねる音が体の内側に響く。首筋が、顔が、熱くなっていくのが分かる。

 今度は、鈴の方がそっぽを向いた。なんとなく、言葉が出て来ない。辛うじて「ふ、ふ~ん」という自分でも意味不明な声が漏れ出ただけだ。

 なんとも言えない、鈴が余り経験したことのない奇妙な緊張感のある空気が流れる。二人とも無言で、風に鳴らされた葉擦れの音だけが、やけに明瞭に耳へと入って来た。

 チラリと、鈴が龍太郎の様子を横目に窺ってみれば、龍太郎はひどく緊張した、それでいてとても真剣な表情で何か葛藤している。鈴の緊張メーターもぐいんっぐいんっと上がっていく。

 やがて、覚悟を決めたような静かな声音で、龍太郎が口を開いた。

「高校を卒業した後のことだけどな……」
「へ!? あ、うん……」
「俺、またトータスへ行こうと思ってんだ」
「それは……南雲君達に合わせて、遊びに行くっていうことじゃなくて?」
「ああ。向こうの世界で、生きようと思ってる」
「……」

 鈴には、龍太郎がそう決断した理由が分かる気がした。この一年、よく一緒に過ごして、その中でいろいろと話をして、そうするのではないかと思っていたのだ。

「光輝の手助けもしてやりてぇし、困ってる奴の助けにもなってやりてぇと思う。その力があんのに、今更、こっちでリーマンは出来ねぇ」
「一応、警察官になる道も考えてたんじゃなかったっけ?」
「まぁな。だけどよ、やっぱ、俺にはあっちの世界の方が性に合ってるみてぇだ」
「そっか」

 どうやら本格的に、龍太郎は将来の道を定めたようである。鈴は、なんとなく置いて行かれたような気がして、ちょっぴり寂しい気持ちになった。

 そんな鈴に対し、龍太郎はおもむろに立ち上がると、鈴の正面に回って片膝をついた。自分を見上げる大柄な龍太郎の構図。これではまるで……

 鈴の体温が上がる。龍太郎の、真剣な表情に心臓が跳ねる。

「りゅ、龍太郎くん……」

 なにしてるの? と声をかけようとした鈴だったが、それよりも、龍太郎が想いの丈を言葉にして贈る方が早かった。

「鈴。俺に、ついて来てくれねぇか?」
「そ、それは、ときどきパーティーを組んで――」
「そうじゃねぇ。分かってんだろう? 俺が言ってんのは、“一生”だ」
「っ……」

 鈴が息を呑んだ。それはまさしく、愛の告白。人生の初の、これ以上ないほど真剣な告白を、今、受けたのだ。湧き上がる大きな感情のうねりに、声が詰まって何も言えない鈴へ、龍太郎が更に言葉を紡ぐ。

「鈴のことが好きだ。この世界での将来より、俺との将来を選らんでくれ。平穏じゃないだろうが、俺の全力で大事にすっから。一緒に、行こう。ずっと」

 内心で、「ストレート過ぎる!」とか、「割り切ったとはいえ、一時はユエさんに惚れてたわけだし、小さい女が好みなの!? このロリコン!」とか、「好きとか言いながら、異世界で一緒に戦おうなんて、なに言ってんの、脳筋!」とか、その他いろいろ、荒れる心のままに罵詈雑言を並べていた鈴だったが……

 気が付けば、自然と――

「……うん。いいよ」

 と、返事をしていた。自分でもびっくりするくらい、するりと言葉が出た。そうして、自覚する。

「自分でもびっくりだけど、私も、龍太郎くんのこと、結構好きみたい」

 鈴の顔は既に熟れたリンゴ状態だ。異世界で駆け抜けた時間、帰還してからの一年、龍太郎との間に積み重ねてきたものは、鈴が自覚する以上に大きかったらしい。

 そうして、人生初めての受け入れの言葉と、女の子からの“好き”を頂戴した龍太郎は……

――うぉっしゃああああああああああああああっ

 と、盛大に咆えた。少し離れた場所で遊んでいた子供達がビクンッと体を揺らして龍太郎を見る。

「ちょっ、煩いよ、龍太郎くん! ちっちゃい子達がオーガに遭遇した村人みたいな顔になってるよ!」
「あっはっはっは、なんならモデルオーガにでもなるか! 今なら、特別サービスだぜ!」
「しなくていいよ! 真昼の公園に化け物現る! って今日の夕刊で一面をかざっちゃうよ! っていうか、どんだけ嬉しいの? テンション上がり過ぎ!」
「嬉しいに決まってんだろう! 人生初の彼女だ! それも、鈴だ! 最高だ!」
「っ、うぅ、ばかぁ~~」

 それからしばらくの間、小さな公園に脳筋の最高にハッピーな歓声が轟き、それを恥ずかしそうに、でも嬉しそうな雰囲気を隠しきれない様子で諌める鈴の声が響いていた。




いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます。

異世界帰還後の、現実的な問題は山のように想像できるのに、それに対するスタイリッシュな解決策が思いつかず、魔法に頼ってしまう白米の貧弱な脳を許してください。

ただ……神代魔法を使ったネットでの洗脳系魔法の配信とか、サブリミナル効果的な手法でのテレビでの配信とか……普通に恐ぇなと思います。
白米が休日にPCから離れられないのもあるいは……

次回の更新も、土曜日の18時の予定です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ