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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第一章

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ゆっくり語らい

クラスメイト側の話と今回の話、どっちを更新するか迷いましたが、クラスメイト側の話が間に合いそうにないので、結局、ユエとの語らいにしました。
次回は、クラスメイト側の話にします。


 サソリモドキを倒したハジメ達は、サソリモドキとサイクロプスの素材やら肉やらをハジメの拠点に持ち帰った。その巨体さと相まって物凄く苦労したのだが、最上級魔法の行使により、へばったユエに再度血を飲ませると瞬く間に復活し見事な身体強化で怪力を発揮してくれたため、二人がかりで何とか運び込むことが出来た。

 ちなみに、そのまま封印の部屋を使うという手もあったのだが、ユエが断固拒否したためその案は没となった。

 無理もない。何年も閉じ込められていた場所など見たくもないのが普通だ。消耗品の補充のためしばらく身動きが取れない事を考えても、精神衛生上、封印の部屋はさっさと出た方がいいだろう。

 そんな訳で、現在ハジメ達は、消耗品を補充しながらお互いのことを話し合っていた。

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」
「……マナー違反」

 ユエが非難を込めたジト目でハジメを見る。女性に年齢の話はどの世界でもタブーらしい。

 ハジメの記憶では三百年前の大規模な戦争のおり吸血鬼族は滅んだとされていたはずだ。実際、ユエも長年、物音一つしない暗闇に居たため時間の感覚はほとんどないそうだが、それくらい経っていてもおかしくないと思える程には長い間封印されていたという。二十歳の時、封印されたというから三百歳ちょいということだ。

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」
「……私が特別。“再生”で歳もとらない……」

 聞けば十二歳の時、魔力の直接操作や“自動再生”の固有魔法に目覚めてから年をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。

 ちなみに、人間族の平均寿命は七十歳、魔人族は百二十歳、亜人族は種族によるらしい。エルフの中には何百年も生きている者がいるとか。

 ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。

 なるほど、あのサソリモドキの外殻を融解させた魔法を、ほぼノータイムで撃てるのだ。しかも、ほぼ不死身の肉体。行き着く先は“神”か“化け物”か、ということだろう。ユエは後者だったということだ。

 欲に目が眩んだ叔父が、ユエを化け物として周囲に浸透させ、大義名分のもと殺そうとしたが“自動再生”により殺しきれず、やむを得ずあの地下に封印したのだという。ユエ自身、当時は突然の裏切りにショックを受けて、碌に反撃もせず混乱したまま何らかの封印術を掛けられ、気がつけば、あの封印部屋にいたらしい。

 その為、あのサソリモドキや封印の方法、どうやって奈落に連れられたのか分からないそうだ。もしかしたら帰る方法が! と期待したハジメはガックリと項垂れた。

 ユエの力についても話を聞いた。それによると、ユエは全属性に適性があるらしい。本当に「何だ、そのチートは……」と呆れるハジメだったが、ユエ曰く、接近戦は苦手らしく、一人だと身体強化で逃げ回りながら魔法を連射するくらいが関の山なのだそうだ。もっとも、その魔法が強力無比なのだから大したハンデになっていないのだが。

 ちなみに、無詠唱で魔法を発動できるそうだが、癖で魔法名だけは呟いてしまうらしい。魔法を補完するイメージを明確にするために何らかの言動を加える者は少なくないので、この辺はユエも例に漏れないようだ。

 “自動再生”については、一種の固有魔法に分類できるらしく、魔力が残存している間は、一瞬で塵にでもされない限り死なないそうだ。逆に言えば、魔力が枯渇した状態で受けた傷は治らないということ。つまり、あの時、長年の封印で魔力が枯渇していたユエは、サソリモドキの攻撃を受けていればあっさり死んでいたということだ。

「それで……肝心の話だが、ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」
「……わからない。でも……」

 ユエにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるのか話を続ける。

「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」
「反逆者?」

 聞き慣れない上に、何とも不穏な響きに思わず錬成作業を中断してユエに視線を転じるハジメ。ハジメの作業をジッと見ていたユエも合わせて視線を上げると、コクリと頷き続きを話し出した。

「反逆者……神代に神に挑んだ神の眷属のこと。……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

 ユエは言葉の少ない無表情娘なので、説明には時間がかかる。ハジメとしては、まだまだ消耗品の補充に時間がかかるし、サソリモドキとの戦いで攻撃力不足を痛感したことから新兵器の開発に乗り出しているため、作業しながらじっくり聞く構えだ。

 ユエ曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。

「……そこなら、地上への道があるかも……」
「なるほど。奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がってくるとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないってことか」

 見えてきた可能性に、頬が緩むハジメ。再び、視線を手元に戻し作業に戻る。ユエの視線もハジメの手元に戻る。ジーと見ている。

「……そんなに面白いか?」

 口には出さずコクコクと頷くユエ。だぶだぶの外套を着て、袖先からちょこんと小さな指を覗かせ膝を抱える姿は何とも愛嬌があり、その途轍もなく整った容姿も相まって思わず抱き締めたくなる可愛らしさだ。

(だが、三百歳。流石異世界だぜ。ロリババアが実在するとは……)

 変心してもオタク知識は健在のハジメ。思わずそんなことを思い浮かべてしまい、ユエがすかさず反応する。

「……ハジメ、変なこと考えた?」
「いや、何も?」

 とぼけて返すハジメだが、ユエの、というより女の勘の鋭さに内心冷や汗をかく。黙々と作業することで誤魔化していると、ユエも気が逸れたのか今度はハジメに質問し出した。

「……ハジメ、どうしてここにいる?」

 当然の疑問だろう。ここは奈落の底。正真正銘の魔境だ。魔物以外の生き物がいていい場所ではない。

 ユエには他にも沢山聞きたいことがあった。なぜ、魔力を直接操れるのか。なぜ、固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか。なぜ、魔物の肉を食って平気なのか。左腕はどうしたのか。そもそもハジメは人間なのか。ハジメが使っている武器は一体なんなのか。

 ポツリポツリと、しかし途切れることなく続く質問に律儀に答えていくハジメ。

 ハジメ自身も会話というものに飢えていたのかもしれない。面倒そうな素振りも見せず話に付き合っている。ハジメが何だかんだでユエには甘いというのもあるだろう。もしかすると、ハジメが目的のためには本当の意味で手段を選ばない外道に落ないための最後の防波堤に、ユエがなり得るという事を無意識に感じているのかもしれない。

 ハジメが、仲間と共にこの世界に召喚されたことから始まり、無能と呼ばれていたこと、ベヒモスとの戦いでクラスメイトの誰かに裏切られ奈落に落ちたこと、魔物を喰って変化したこと、爪熊との戦いと願い、ポーション(ハジメ命名の神水)のこと、故郷の兵器にヒントを得て現代兵器モドキの開発を思いついたことをツラツラと話していると、いつの間にかユエの方からグスッと鼻を啜るような音が聞こえ出した。

「何だ?」と再び視線を上げてユエを見ると、ハラハラと涙をこぼしている。ギョッとして、ハジメは思わず手を伸ばし、流れ落ちるユエの涙を拭きながら尋ねた。

「いきなりどうした?」
「……ぐす……ハジメ……つらい……私もつらい……」

 どうやら、ハジメのために泣いているらしい。ハジメは少し驚くと、表情を苦笑いに変えてユエの頭を撫でる。

「気にするなよ。もうクラスメイトの事は割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行って、それでどうすんだって話だよ。そんなことより、生き残る術を磨くこと、故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注がねぇとな」

 スンスンと鼻を鳴らしながら、撫でられるのが気持ちいいのか猫のように目を細めていたユエが、故郷に帰るというハジメの言葉にピクリと反応する。

「……帰るの?」
「うん? 元の世界にか? そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。……色々変わっちまったけど……故郷に……家に帰りたい……」
「……そう」

 ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。

「……私にはもう、帰る場所……ない……」
「……」

 そんなユエの様子に彼女の頭を撫でていた手を引っ込めると、ハジメは、カリカリと自分の頭を掻いた。

 別に、ハジメは鈍感というわけではない。なので、ユエが自分に新たな居場所を見ているということも薄々察していた。新しい名前を求めたのもそういうことだろう。だからこそ、ハジメが元の世界に戻るということは、再び居場所を失うということだとユエは悲しんでいるのだろう。

 ハジメは、内心「“徹頭徹尾自分の望みのために”と決意したはずなのに、どうにも甘いなぁ」と自分に呆れつつ、再度、ユエの頭を撫でた。

「あ~、何ならユエも来るか?」
「え?」

 ハジメの言葉に驚愕をあらわにして目を見開くユエ。涙に潤んだ紅い瞳にマジマジと見つめられ、何となく落ち着かない気持ちになったハジメは、若干、早口になりながら告げる。

「いや、だからさ、俺の故郷にだよ。まぁ、普通の人間しかいない世界だし、戸籍やらなんやら人外には色々窮屈な世界かもしれないけど……今や俺も似たようなもんだしな。どうとでもなると思うし……あくまでユエが望むなら、だけど?」

 しばらく呆然としていたユエだが、理解が追いついたのか、おずおずと「いいの?」と遠慮がちに尋ねる。しかし、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。

 キラキラと輝くユエの瞳に、苦笑いしながらハジメは頷く。すると、今までの無表情が嘘のように、ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。思わず、見蕩れてしまうハジメ。呆けた自分に気がついて慌てて首を振った。

 なんとなくユエを見ていられなくて、ハジメは作業に没頭することにした。ユエも興味津々で覗き込んでいる。但し、先程より近い距離で、ほとんど密着しながら……

 ハジメは気にしてはいけないと自分に言い聞かせる。

「……これ、なに?」

 ハジメの錬成により少しずつ出来上がっていく何かのパーツ。一メートルを軽く超える長さを持った筒状の棒や十二センチ(縦の長さ)はある赤い弾丸、その他細かな部品が散らばっている。それは、ハジメがドンナーの威力不足を補うために開発した新たな切り札となる兵器だ。

「これはな……対物ライフル:レールガンバージョンだ。要するに、俺の銃は見せたろ? あれの強力版だよ。弾丸も特製だ」

 ハジメの言うように、それらのパーツを組み合わせると全長一・五メートル程のライフル銃になる。銃の威力を上げるにはどうしたらいいかを考えたハジメは、炸薬量や電磁加速は限界値にあるドンナーでは、これ以上の大幅な威力上昇は望めないと結論し、新たな銃を作ることにしたのだ。

 当然、威力を上げるには口径を大きくし、加速領域を長くしてやる必要がある。

 そこで、考えたのが対物ライフルだ。装弾数は一発と少なく、持ち運びが大変だが、理屈上の威力は絶大だ。何せ、ドンナーで、最大出力なら通常の対物ライフルの十倍近い破壊力を持っているのだ。普通の人間なら撃った瞬間、撃ち手の方が半身を粉砕されるだろう反動を持つ化け物銃なのである。

 この新たな対物ライフル――シュラーゲンは、理屈上、最大威力でドンナーの更に十倍の威力が出る……はずである。

 素材は何とサソリモドキだ。ハジメが、あの硬さの秘密を探ろうとサソリモドキの外殻を調べてみたところ、“鉱物系鑑定”が出来たのである。

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シュタル鉱石
魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石
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 どうやら、サソリモドキのあの硬さはシュタル鉱石の特性だったらしい。おそらく、サソリモドキ自身の膨大な魔力を込めに込めたのだろう。

 ハジメが、「鉱石なら加工できるのでは?」と試しに錬成をしてみたところ、あっさり出来てしまった。これなら錬成で簡単に外殻を突破できたと、あの苦労を思い返し思わず崩れ落ちたのは悲しい思い出だ。

 いい素材が手に入って結果オーライと割り切ったハジメは、より頑丈な銃身を作れると考え、シュラーゲンの開発に着手した。ドンナーを作成した時から相当腕が上がっているので、それなりにスムーズに作業は進んだ。

 弾丸にもこだわった。タウル鉱石の弾丸をシュタル鉱石でコーティングする。いわゆる、フルメタルジャケット……モドキというやつだ。燃焼粉も最適な割合で圧縮して薬莢に詰める。一発できれば、錬成技能[+複製錬成]により、材料が揃っている限り同じものを作るのは容易なのでサクサクと弾丸を量産した。

 そんなことをツラツラとユエに語りつつ、ハジメは、遂にシュラーゲンを完成させた。

 中々に凶悪なフォルムで迫力がある。ハジメは自己満足に浸りながら作業を終えた。一段落したハジメは腹が減ってきたので、サイクロプスやサソリモドキの肉を焼き、食事をすることにした。

「ユエ、メシだぞ……って、ユエが食うのはマズイよな? あんな痛み味わせる訳にはいかんし……いや、吸血鬼なら大丈夫なのか?」

 魔物の肉を食うのが日常になっていたので、ハジメは軽くユエを食事に誘ったのだが、果たして喰わせて大丈夫なのかと思い直し、ユエに視線を送る。

 ユエは、ハジメの発明品をイジっていた手を止めて向き直ると「食事はいらない」と首を振った。

「まぁ、三百年も封印されて生きてるんだから食わなくても大丈夫だろうが……飢餓感とか感じたりしないのか?」
「感じる。……でも、もう大丈夫」
「大丈夫? 何か食ったのか?」

 腹は空くがもう満たされているというユエに怪訝そうな眼差しを向けるハジメ。ユエは真っ直ぐにハジメを指差した。

「ハジメの血」
「ああ、俺の血。ってことは、吸血鬼は血が飲めれば特に食事は不要ってことか?」
「……食事でも栄養はとれる。……でも血の方が効率的」

 吸血鬼は血さえあれば平気らしい。ハジメから吸血したので、今は満たされているようだ。なるほど、と納得しているハジメを見つめながら、何故かユエがペロリと舌舐りした。

「……何故、舌舐りずりする」
「……ハジメ……美味……」
「び、美味ってお前な、俺の体なんて魔物の血肉を取り込みすぎて不味そうな印象だが……」
「……熟成の味……」
「……」

 ユエ曰く、何種類もの野菜や肉をじっくりコトコト煮込んだスープのような濃厚で深い味わいらしい。

 そういえば、最初に吸血されたとき、やけに恍惚としていたようだったが気のせいではなかったようだ。飢餓感に苦しんでいる時に極上の料理を食べたようなものなのだろうから無理もない。

 だた、舌舐りしながら妖艶な空気を醸し出すのはやめて欲しいと思うハジメ。こういう時、ユエが年上であることを実感してしまうのだが、幼い容姿と相まって、なんとも背徳的な感じがしてしまい落ち着かない事この上ないのだ。

「……美味」
「……勘弁してくれ」

 いろんな意味で、この相棒はヤバイかもしれないと、若干冷や汗を流すハジメであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~
おまけ(本編とは何の関係もありません)

香織「……チッ」
雫 「!? か、香織? 今舌打ちを……」
香織「え? どうしたの雫ちゃん」
雫 「い、いえ。なんでも……」
香織「……泥棒猫め」
雫 「香織!?」
香織「フフ、大丈夫だよ、雫ちゃん。ちょっと自分のポジションが脅かされているような気がしただけだから」
雫 「それは大丈夫とは言わないと思うわ……」


いつもお読み頂き有難うございます。
感想も有難いです。どんな形でも反応があるのは嬉しいですね。

さて、今回は少し休憩回です。
ユエの設定が出てきましたが……暫定です。後に変える可能性もあります。
シュラーゲン……ツッコミは無しの方向でお願いします。全ては異世界の不思議鉱物の賜物です。

サソリモドキから簒奪したのは“魔力放射”と“魔力圧縮”です。
サイクロプスは“金剛”です。
+注意+
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