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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

最終章

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人類の足掻き 前編

 時は少し戻る。

 全てが魔物の眼の如く赤黒い色に侵食され一変した地上の世界。そして、そんな異様な世界の天に現れた深淵を晒す空間の亀裂。

 ドス黒い瘴気を撒き散らすその空間の亀裂――【神域】へのゲートへハジメ達が無事に飛び込んで行った後、その場所に群がっていた神の使徒達は無表情のままくるりと踵を返した。

 遥か高みから見下ろす無機質な瞳に映るのは、神の意思に逆らおうと不遜を示す人の群れ。

「「「「「神の裁きを」」」」」

 異口同音に呟かれた言葉。

 地上の人々が聞けば、きっと、「裁かれる理由など微塵もない!」と声高に反論したことだろう。

 だが、そんな反論に耳を貸すはずもない神の人形達は、一度双大剣を切り払うと、銀翼をはためかせて一斉に降下し始めた。銀翼で軌道だけ修正して、後はほとんど自由落下に任せて急速に連合軍へと迫るおびただしい数の使徒達は、さながら銀の尾を引く流星群だ。

 そのスペックを考えれば、ハジメ達バグキャラのいないこの戦場で彼女達を止められる者など存在しない。たとえ、ハジメ達の突入を援護した閃光を放つ(アンチ・)アーティファクト(マテリアルライフル)のような物を多数所持していたのだとしても、ただの“人”が敵う道理など皆無である。

 故に、使徒達にとってこれから始まるのは戦いなどではなく、正しく、ただの蹂躙であり、雑草を刈り取るような作業だった。

 ……そうなるはずだと思っていたのだ。

 視界の全てが弾幕で埋まるまでは。

「撃てぇ!! 遠慮容赦一切無用だっ! 使い尽くすつもり撃ちまくれぇ!!」

 拡声された号令が連合軍に響き渡り、同時に間断なき弾幕が全連合軍兵士から放たれる。

 兵士の一人一人がライフル銃を上空に向けて引き金を引き、その度に“纏雷”が付与された内部鉱石によって電磁加速されたフルメタルジャケットモドキの弾丸が放たれる。

 連合軍全ての兵士に配備されたライフル銃による一斉射撃は、ただの一回で約数十万の閃光となって空を貫くのだ。

 更に、要塞や塹壕に設置された備付の大型ガトリングレールガンが一斉に空を閃光で埋め尽くす。その数は計千丁。毎分一万二千発の怪物千体が同時に上げる咆哮だ。

 それだけではない。

 これまた備付型の大型オルカン千機が、内蔵されたミサイル数百発をほぼ同時に解き放つ。オレンジの火線が一斉に空を駆け上っていく様は圧巻の一言だ。

 兵器に関する理解の早かった者を優先的に射手につけ、ギリギリまで扱いの練習をしていたので、手間取ることもなく現代科学の申し子と異世界ファンタジーのハイブリッド兵器達はその猛威を奮った。兵器特有の、“個人的な技量に左右されない”という利点が遺憾無く発揮されている。

 一瞬で、空を埋め尽くした閃光とミサイルの群れは、驕ったまま落下して来た使徒達をあっさり呑み込んだ。

 既に壁と称すべきレールガンの群れが容赦なく彼女達を穿ち、その体に次々と風穴を空け、ミサイルの群れが盛大に爆炎と衝撃を撒き散らして紅の蓮を咲かせる。その開花に巻き込まれた使徒達は爆撃の嵐に翻弄され、その身を爆散させていった。

 しかし、第一陣が油断故にあっさり殺られたとしても、そこは神の使徒。直ぐに警戒し、弾幕を掻い潜り、斬り払い、あるいは銀翼の防御で強引に突破して接敵しようとする。

「甘ぇよ」

 ニヤリと不敵に口元を釣り上げたのは、ハジメ達の突入時にも八面六臂の活躍をしたハウリア族の狙撃手。“必滅のバルドフェルド”君、十歳だ。

 “先読”が付与され、相手の未来位置が幻影となって表示されるスコープ越しに、爆炎を抜けてきた使徒を見ながら、スっと息をするように自然と引き金を引いた。

 途端、シュラーゲンと同じ貫通特化の砲撃が閃光となって、今まさに攻撃を繰り出そうと動き出した使徒を絶妙なタイミングで襲い、その頭部を綺麗に吹き飛ばした。

 それと同様の光景が、要塞や塹壕のあちこちから放たれる極大の閃光によって成し遂げられる。全て改良版シュラーゲンを装備した狙撃チームの手によるものだ。

 そんな狙撃手達を危険と見たのか、射線を辿って“必滅のバルドフェルド”達狙撃手に視線を向けた使徒が一斉に飛び出そうとして……

 今度は、その狙撃手達の背後に控えた、両腕にガトリング砲を、肩にミサイルポッドを装着されたゴーレム兵達が、狙撃の間隙を守るように一斉掃射を開始した。

「――っ」

 息を呑んだ様子で回避しようとする使徒。

 だが遅い。その時には既に、狙撃手達はスコープ越しに獲物を捉えている。意識するより早く、スっと引き金に掛かる指が動く。まるで、体が最高のタイミングを知っているかのように。

 結果は当然。また一つ空に真っ赤な花が咲いた。

 屠殺するに等しい作業だったはずなのに、この場所には既に化け物達はいないはずなのに、何故か使徒の方ばかりが散っていく。自分達は神の使徒ではなかったのか。人が到底辿り着けない遥か高みにいる、至高の存在に作られた最高戦力ではなかったのか。

 自然、使徒達の眼が細められた。

「無駄な抵抗と知りなさい」

 使徒の一人が呟いた。

 直後、降下するのを止めて遠距離から一斉に銀の砲撃が地上目掛けて降り注ぐ。

 銀色のスコール。

 それは幻想的で、とても美しい光景だったが、もたらす結果は悲惨の一言となるであろう凶悪そのものの局地的豪雨。

 弾幕と相殺されたものもあったが、体を銀色の魔力で輝かせ強化状態となった使徒の砲撃は、そのほとんどが弾幕を突き抜けて地上へと迫った。

 ……そして、

「大結界起動!」

 連合軍の頭上で塞き止められることになった。

 総司令であるリリアーナの号令と共に起動した改良型大結界が死の流星群を受け止めたからだ。

 分解能力を持つ銀の閃光相手では、如何に王都を長年に渡り守ってきた神代のアーティファクトである大結界と言えど、本来なら数瞬も保てばいい方である。だが、今、虹色の波紋を広げながら、しっかりと連合軍を守り抜いている大結界はハジメが改良を施したもの。

 本来、第一から第三まで範囲と強度を比例させながら展開される結界を一枚に集束させ強度を増しているのだ。当然、昇華魔法による強化もされている。分解能力に対して完璧に抗えるわけではないが、突破に時間を掛けさせることは十分に出来る。

 そして、その稼いだ時間は、起死回生の次手を打つためのもの。

 最初の、弾幕による打撃はあくまで驕った使徒への奇襲だ。文字通り、桁違いのスペックを誇る彼女達相手では、初撃以降は必ず対応される。それ故に、人々が使徒と戦える為の策を発動しなければならないのだ。

 それが、

「聖歌隊へ。あなた達の歌で、御使いを自称する人形共を堕して差し上げて下さい!」

 拡声されたリリアーナの指令が戦場に響く。

 その対象は、要塞の屋上に集まっている女子供を含めた聖職者然とした人々。

 戦場には似つかわしくない厳かな雰囲気で、皆、一様に胸の前で手を組んで祈りを捧げるようなポーズをとっている。彼・彼女達は、辺境の教会で聖教教会の教えを広めていた教会の聖職者であり、言わば、聖教教会の生き残りだ。中央から離れていた、あるいは純粋な信仰を持ちすぎて中央から厄介払いされた者達だ。

 そんな、ある意味、本物の聖職者達は、彼等の前に陣取る司祭の衣装を纏った初老の男の指揮に従い、スっと口を開いた。

「「「「「「「「「「――――♪」」」」」」」」」」

 響き渡る旋律。

 それは、聖歌だ。人々を祝福し、平和と愛を踏みにじる者への咎めの歌。荘厳にして神聖な守護と断罪の調べだ。

 聖歌隊の足元に魔法陣が浮かび上がる。それらが、ところどころに置かれている水晶柱を通して、聖歌の力と音そのものを凄まじいレベルで増大させる。

 兵器が放つ爆音轟音を押しのけて戦場全体に響き渡るそれは、当然、大結界を破ろうと一斉砲撃を行っている使徒達の耳にも届いた。

 途端、

「――ッ、これはっ、力がっ」

 使徒の一人が思わずといった様子で声を漏らした。

 それも仕方ないことだろう。なにせ、その身に纏っていた強化の証である銀の光がフッと霧散したかと思えば、代わりに紅い光が纏わり付き、更に栓の抜けた容器から水が流れ出るように力が抜けていくのだから。

 かつて、【神山】上空で使徒ノイントと相対したハジメに、教皇イシュタル達が発動した魔法――“覇堕の聖歌”。相手の動きを阻害する効果と歌が響いている間衰弱させていく効果を合わせ持った凶悪な魔法だ。

 これを昇華魔法で効果を増大させた挙句、更に、香織がやられた機能停止の言霊を、水晶柱を介して魂魄魔法で再現し付加してあるのだ。

 流石に、機能停止に追い込んだり、完全に弱体化させたりすることは出来ないが、使徒の強化状態を妨害し、更に本来のスペックを六割近く落とすことが出来る。

「っ、排除します」

 使徒達の視線が、自分達の変調の原因である聖歌隊へと向けられる。優先的に排除するつもりなのだ。

 使徒達の数人が一つのグループを作って一斉に大剣を掲げ始めた。直後、集束され膨れ上がる銀の太陽。

 僅かな時間とは言え、無数の使徒から分解能力を受けた大結界は既に悲鳴を上げている。集束された銀の砲撃を受ければ、今度こそ耐え切れずに崩壊してしまうだろう。

「ですが、それも想定済み。動きを止めている使徒を優先して下さい!」

 リリアーナの号令が三度。それが伝わり、 各部隊の隊長陣が、更に下の者達を指揮して集束に集中している使徒達を優先して標的とする。

 大地より天へと伸びる火線の群れは、その密度を決して薄めない。薄めないまま、射撃能力の高い者達が命令に従って一斉に動かない使徒達を狙い撃ちにした。

 それを集束砲撃に関わらない使徒達が妨害する。双大剣で、銀の翼で、羽で、迎撃する。しかし、強制的に引き下げられたスペックと、体に纏わりつく紅い光が動きを阻害するので、怒涛の、使い手のステータスに比例しない過剰威力の攻撃に対応しきれない。

 一人、また一人と、絶対強者であるはずの使徒が風穴を空けられて屠られていく。

「イレギュラーっ、相対せずとも我等の邪魔をするのですかっ」

 嘲笑うかのように纏わりつく紅い光。それは幾度も自分達を退けてきた化け物の輝き。それに対し、感情などないと宣言したはずの使徒が僅かに声を荒らげた。なんとなく、不敵に笑いながら中指を立てる白髪眼帯の少年を幻視してしまったのだ。

 しかし、連合軍も全ての使徒を撃ち落とせたわけではなく、遂に、集束が完了した銀の太陽から滅びの光が放たれた。

 ゴゥ! と大気を震わせて、計五十の集束型銀の砲撃が大結界に直撃する。

 虹色の波紋が激しく波打ち、大結界にピキピキッと亀裂が入っていく。

「おめぇら、気合入れやがれぇ!」

 そんな怒声が、大結界のアーティファクトが設置されている要塞の一角で響いた。それは王国筆頭錬成師であるヴォルペンの怒声だ。苛烈な負荷が掛かり亀裂を広げていくアーティファクトを、リアルタイムでヴォルペン率いる職人達が錬成修復しているのだ。その手には、錬成の能力を底上げする指抜きグローブが装備されている。ハジメ謹製のロマングローブだ。

「筆頭っ、もう無理ですっ! 保ちません!」
「チッ、仕方ねぇ。大結界は放棄だ! 小規模結界を起動後、聖歌隊用の多重結界に集中するぞ!」
「「「「「了解っ」」」」」

 ヴォルペン達は、大結界が破壊された後、貫通してくるかもしれない砲撃を一時的に防ぐ小規模結界を起動させ、そのまま慌ただしく動き始めた。連合軍を守る結界を放棄して、聖歌隊を集中して守護する結界アーティファクトの管理に全力を注ぐのだ。

 錬成によるリアルタイムの修復が放棄された途端、円柱形のアーティファクトは一気に亀裂を広げ、一拍後、粉砕音を響かせながら木っ端微塵に砕け散った。

 その粉砕音は、要塞の外、虹色の大結界からも響いた。

 いつか王都で見たのと同じように、キラキラと破片を撒き散らして霧散していく。

 使徒達が銀翼をはためかせて一斉に飛び込んで来た。目標は一目瞭然。自分達のスペックを六割も削っている聖歌隊だ。

 今、彼等のいる屋上は、大結界のように虹色の多重障壁で覆われている。規模を縮小し、多重障壁としたことで、総合的な強度は大結界以上だ。だが、集中して狙われれば数分も保たずに突破されるだろう。

「うっ、ぁあああああっ!!」

 聖歌隊を守る結界の外側で護衛についていた神殿騎士の一人が雄叫びを上げて剣を振りかぶった。迫る使徒の威容に、自然と竦む体を絶叫で振り払う。

 だが、そのような固い動きで、弱体化しているとは言え、それでもなお桁違いのスペックを誇る使徒を相手に出来るはずもなく、

「邪魔です」

 横薙ぎに振るわれた大剣によりあっさり胴を切られて吹き飛ばされた(・・・・・・・)

 そう、両断されるのではなく、吹き飛ばされたのだ。それも、大剣を振るった使徒の腕に、妙な痺れを残して。

 その事実に、思わず使徒が動きを止める。分解能力が付与された大剣の一撃なら、四割の力しか出せなくても人一人を両断するなど容易いこと。なのに、出来なかった。

「はぁああああっ!!」
「っ」

 不可思議な現象に動きを止めた使徒の背後から新手の騎士が、萎縮など微塵もない裂帛の気合と共に唐竹の一撃を放った。それを大剣すら使わずに翼で受け止める使徒だったが、分解能力に抗うどころかギィイイイイッと不快な音を響かせて騎士剣がめり込むのを見て瞠目する。

 そこで、その騎士から叱咤が飛んだ。

「怯むな! 我等は騎士だっ。守護こそ本分! 守り抜け!」
「デビッド隊長……ぐっ、すみません。助太刀しますっ」

 先程吹き飛ばされた騎士が胸元の鎧に真一文字の傷を付け咳き込みながらも立ち上がり、猛烈な勢いで使徒へと斬りかかった。

 それを合図にしたように、飛来する使徒達へ騎士――元聖教教会神殿騎士にして愛子護衛隊隊長であったデビッド率いる“女神の騎士(自称)”達が、次々と相対する。

 そして妙に霞みながら甲高い音を立てるバスタードソードや、装着しているだけで“豪腕”の効果をもたらす籠手、同じく“豪脚”をもたらす脚甲を駆使して攻撃を仕掛け、使徒の攻撃も辛うじて凌いでいる。凌げなかった攻撃も破損させつつもどうにか鎧で防いでいた。

「……まさか、全ての戦力にアーティファクトを?」

 使徒の一人が呟いた。

 デビッド達騎士は、皆、一様に、バスタードソードや籠手以外にも、黒い鎧とシンプルな兜を装備していた。

 黒い鎧――これは常時発動型の“金剛”と、触れた瞬間に発動する“衝撃変換”が付与されている。使徒の一撃を食らった先程の騎士も、これでどうにか助かったのである。

 そしてバスタードソードは所謂“高速振動剣”というやつで、それだけでも相当な切れ味がある上に、魔力そのものを高速振動させて放出しており、ある程度ではあるが分解の魔力を散らしてくれるのだ。そして、兜には“瞬光”を付与させ劣化版ではるが知覚を拡大させる機能が付いていた。

 これらの装備は基本一式として、全ての兵士に配備されている。加えて、戦いが始まる前にチートメイトも配備されているので、全員のスペックも底上げされているのだ。

 使徒の弱体化と同時に連合軍兵士一人一人の超強化を図る。その結果、辛うじて使徒相手に相対すること(・・・・・・)が出来ていた。

 それでも、そこまでして、かつ使徒一人に対し集団戦を仕掛けてようやくと言ったところ。

 現に今も、デビッドが斬りかかった使徒は、他の騎士達を吹き飛ばし、デビッドの振動剣も弾いてしまった。

「くっ――」

 死に体となり歯噛みするデビッドに、使徒が容赦なく大剣を振りかぶる。

 その瞬間、

「まず一人」
「え?」

 その呆けた声は、果たしてデビッドが漏らしたものか、それとも宙を舞う使徒の首が(・・)漏らしたものか……

 冗談のように、ポンッと飛んだ使徒の首と残された胴体。一拍置いて、ブシャー! と盛大に噴出する血の飛沫の奥に、いつの間にか、そいつはいた。

 口元まで覆う黒装束にワンレンズ型のサングラスを身に付け、細く鋭利な短剣――小太刀を逆手に持った男。その頭上にはふぁさりとウサミミがなびいている。

「この赤黒い世界と同じく、お前の血色は薄汚い……」

 小太刀の血糊をビッと払うとサングラスを中指で押し当てながら、ふっと口元をニヒルに歪めた(覆面なので見えないが)そいつは、しかし、「今の自分、めちゃ輝いてる!」という雰囲気を隠しきれずに名乗りを上げた。

「使徒の首、この深淵蠢動の闇狩鬼カームバンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリアが確かに貰い受けた」

 はい、カムである。ただの兎人族ハウリアの族長カム・ハウリアである。

 その周りでは、騎士達が死に物狂いで足止めした使徒達の首を、背後からこっそりと忍び寄って、スパッと首を飛ばすハウリア族の姿が多数。

 男のウサミミが、小太刀を愛おしげに撫でながら哀れみの眼差しを倒れゆく首無し使徒に向ける。

「悪いな。今宵のジュリアは少々大食いなんだ」

 女のウサミミが、片手で目元を覆いながら呟く。

「あなたが悪いのよ? もう一人の私を目覚めさせてしまうから……」

 十代前半くらいのウサミミ少女が、達観したような眼差しを虚空に向ける。

「……これが、世界の意思なのね。なら、私はそれに従うだけ……」

 同じくらいのウサミミ少年が左腕を抑えながら呻く。

「くっ、また勝手にっ、沈まれ! 俺の左腕っ!」

 一拍。

 黒装束にサングラスをかけたウサミミ達は、互いに顔を見合わせると、とても満足そうな表情で頷き合った。

 そして、使徒達がハッとしてウサミミ達に襲いかかろうとした瞬間、その呼吸を読んだように絶妙なタイミングでふっと姿と気配を消して騎士達の合間に紛れていってしまった。

 戦場に微妙な空気が流れる。

「う、うぉおおおおおおっ!!」

 デビッドが、何事もなかったように別の使徒へと斬りかかった。中々、空気の読める男になったようだ。本能的に、あれは関わっちゃいけないと悟ったのだろう。

 使徒達も警戒心を残しつつ聖歌隊を壊滅させようと結界へ突進する。固まっていても狙い撃ちにされるので、全ての戦力を聖歌隊へ向けているわけではないが、それでも他の場所に比べればかなりの数が殺到している。

 上空は、既に使徒で埋め尽くされようとしていた。

 と、その時、

『飛んじゃダメなの!』

 何とも可愛らしい幼子の声が響いたかと思うと、次の瞬間、聖歌隊を守る結界の上にいた使徒達が、翼をもがれた鳥の如く、バランスを崩したようによろめいて、そのままバラバラと地面に落とされていった。ご丁寧に、引き寄せられるように結界から離れた場所に落ちていく。

 そこには、パラボラアンテナのような形の背面武装を展開した一体のゴーレムの姿が。どうやら、そのゴーレムに取り付けられた念話石スピーカーバージョンから声が響いたらしい。

『べるちゃん、がんばって!』

 再び響いた幼い声――ミュウの声援に、べるちゃんこと生体ゴーレム“べるふぇごーる”は気怠そうに手をヒラヒラ振りながらも、その背中に背負った局所型重力操作アーティファクト“グラヴ・ファレンセン”を使って、空を飛ぶ使徒を次々と引き寄せては落としていった。

 数十体の使徒を纏めて地に落とした“べるふぇごーる”の傍らに、更に六体の生体ゴーレムが現れた。

 そして、どうやったのか、バーン! と轟音を立てて背後に色とりどりの爆炎を上げながら香ばしいポーズを取った。きっと叫べたのならこう言っていたに違いない。

――大罪戦隊 デモンレンジャー、見参ッッッ!!

 と。

 落とされた使徒達が、無駄に洗練されたポージングと、ゴーレムらしからぬ意思を感じされる行動に、一瞬、動きを止める。

 そこへ、彼等のお姫様から命令が下った。

『みんな、殺っちゃってなの!』

 可愛らしい声で、空恐ろしいことをあっさり言ってのけるお姫様。親の顔が見てみたいものだ。小さな司令官の傍にいるであろう片親は「あらあら、うふふ」とスピーカーからおっとりした声を漏らしていたりする。

 だが、ともすれば和みそうな声が響く中、始まったデモンレンジャーの攻撃はなんとも苛烈だった。七体のレンジャー達は、それぞれ絶妙な連携を見せつつ、次々と使徒を討ち取っていく。

「頃合です。見下ろすことしか知らない人形を、墜として差し上げましょう。全グラヴ・ファレンセン起動!」

 リリアーナの号令が響き渡った瞬間、戦場の各地に備え付けられていた重力発生装置が一斉起動された。その結果、地上から五百メートルほどの位置にいた使徒の群れが一斉に墜ちてくる。それはあたかも、羽をもがれた哀れな虫の如く。そして、そこで待ち受けているのは、決死の覚悟を決めた連合軍兵士達。人類の存亡を背負った、勇者達だ。

 地に落とされた数多の使徒達は、しかし、着地に失敗するなどといった無様を晒すようなことはなく、飛びかかってきた連合軍兵士を双大剣でまとめて薙ぎ払った。そこかしこで銀の羽がばらまかれ、あるいは銀の閃光が奔り、兵士達が吹き飛ばされる。

「……我等を地に落とそうと、アーティファクトで身を固めようと、所詮はただの人間。我等に勝てる道理などありはしません。大人しく頭を垂れ、神の断罪を受け入れなさい」

 兵士の一人が、腹に大剣を突き刺されて血反吐を吐く。だが、口元を血で汚し、凄惨な有様になっていながら、その兵士は口元に不敵な笑みを浮かべる。

 そして、

「限界突破ぁあああああっ」
「っ」

 兵士の体から、いったいどこから湧き出したのかと思うほどの魔力が噴き上がる。そして、腹を貫かれながらも、決して離さなかったアーティファクトの剣で、自分を貫く大剣を持つ使徒の右手を切り飛ばした。

「っ、なぜ、その技能を……いえ、それでも、所詮はその程度。希少な技能を持っていても腕一本が――」
「だが、確実に死角は出来たぜ?」

 人類の中でも、レア中のレア技能を持っていたのであろう戦力が身命を賭した最後の攻撃をしても、使徒の腕一本を奪うのが限界。そう言おうとした使徒の、失った右腕の方から響いた声。

 右腕を振るえない使徒は、咄嗟に銀の翼で薙ぎ払おうとしたが、それよりもその人物――ヘルシャー帝国皇帝ガハルド・D・ヘルシャーの一撃が、使徒の胴体を両断する方が早かった。

 体を二つに分たれた使徒は、それでも驚異的な生命力で即死はせずガハルドへ視線を向ける。そして、瞠目した。

「その、輝きは……」

 その輝きは――“限界突破”の輝き。

 ガハルドは、不敵に笑いながら首から下げられた小石くらいの大きさの紅い宝珠を握り締める。

「これは人類の存亡を賭けた戦いだぞ。限界の一つや二つ、越えられなきゃ嘘ってもんだろう? さて、普通の(・・・)限界越えにも慣れたころだ。あの化け物が残した最高の限界超え、クソ神の手下共にみせてやろうじゃねぇか!」

 そんなことを言いながら、目を見開く使徒の前で、

限界突破(覇潰)ッッ!!」

 ガハルドの纏う魔力が桁違いに跳ね上がる。そのまま、最後に銀の砲撃を放とうとした使徒の頭をかち割り、同時に、

「連合軍の全勇者に告げるッ!! 限界を超えてっ、戦えッッ!!!」

 直後、戦場に響いた。その声が。

「限界突破ッ!」
「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」
「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」
「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」
「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」「限界突破ッ!」

 ハジメの残した最後の強化策。それがこれ。

――人類総戦力限界突破

 基本装備であるアーティファクトの武装以外に、もう一つ、支給されていた小さな紅い宝珠のついたネックレス。一度発動すれば、チートメイトの服用なしでは体が壊れかねない一般兵士に、“限界突破”を可能にさせるアーティファクト。

――段階式限界突破アーティファクト “ラスト・ゼーレ”

 一度目に限界突破をもたらし、急激な強化に体が自壊しないようなじませたところで、限界突破の派生“覇潰”をもたらす。もちろん長時間は保たない諸刃の剣だが、どの道、この戦いに勝たなければ終わりなのだ。次のない戦いならば、最後の一片まで己の魂を使い尽くす。

 新たに相対した使徒に、ガハルドは剣を構えながら人類の心を代弁した言葉を叩きつけた。

「人間をっ、舐めるなっ!」

 神の使徒と人類の決戦――その第二幕が、今、上がった。



いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字脱字も有難うございます。

……キーボードのバックスペースが反応しなくなりました。
そして、Pボタンを押すと、何故か「うp」と表示される。
……どうしてこうなった。
というわけで、今回はちょっと短いです。次回で地上戦を終えて、いよいよ最終決戦に行こうと思います。

次回も、更新は土曜日の18時の予定です。
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