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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

最終章

161/257

懐かしきオルクスにて 前編

 暗闇の中、静かに佇む人影がある。

 そこは幾本もの太い柱と大理石のような滑らかさを感じさせる石造りの大きな空間で、どこか神殿のようなおごそかな雰囲気があった。光源は、一つ手前の部屋から扉を通して差し込む淡い緑光石の光だけだ。

 その光が、闇を切り裂いて一本の道のように部屋の奥へと伸び、佇む人影の背を照らしている。

 その背中に、ふと新たな影が重なった。細身のシルエットは女性のもので、躊躇いがちにかけられた声音も透き通るような美しいものだった。

「……ハジメくん」

 佇む人影――ハジメは、その自分の名を呼ぶ声に、少しだけ振り返った。

「香織。もう、採取は終わったのか?」
「うん。羅針盤のおかげで直ぐに、ね。魔物も……やっぱり使徒のスペックは反則だよね」

 かつてクラスメイト達と【オルクス大迷宮】の表層を苦労して攻略していたときのことを思い出したのか、香織は苦笑いを浮かべる。そして、雰囲気を壊さないよう気を遣うようにしずしずと広間へと入ってきた。

「……ここが、ユエと出会った場所なんだね」

 そう呟いてハジメの隣に立った香織は、ハジメが視線を向けていたもの――半ば溶けたように崩れた鉱物の塊だった。

 ハジメは静かに頷く。その瞳は、深い森の中にある泉の如く澄んでいて静謐さを湛えている。憤怒や憎悪といった負の感情が飽和した虚無的な瞳とは正反対の、愛しさや切なさが飽和したかのような眼差しだった。

「最初に見たときはホラーかと思ったよ。真っ暗な闇の中で、紅い瞳が金糸で出来た柳の奥から覗いている……そんな感じでさ。ユエが助けを求める声をかけて来たときも、俺、扉を閉めようとしたんだぞ? こいつ、絶対ヤバイ奴だ、って思ってさ」
「ふふ。確かに、こんな奈落の底にただの女の子がいるなんて思わないよね」
「だろ? 特にあのときは、生き残ること以外なんの興味も持てない心境だったからな。今、思い返しても、よく助けようとしたなぁって思うよ」

 ハジメの物言いに、くすりと笑みを零す香織。ハジメも懐かしむように目を細めながら小さな笑みを浮かべる。

「それが今じゃ、我を失うくらい特別な女の子だもんね。人生、なにがどうなるか分からないって、つくづく思うよ」
「全くだ」

 言葉が途切れて、二人は僅かに瞑目する。ハジメは最愛の恋人を想って、香織は恋敵(親友)を想って。そして、ほぼ同時にスッと目を開いた。そこには決意の炎が宿っている。

「必ず、取り戻そうね」
「ああ。必ず取り戻す」

 ハジメと香織は顔を見合わせて不敵な笑みを浮かべあった。

 が、直後、言い忘れていたとでも言うように、ハジメはハッとしたような表情になって口を開いた。

「あ、でも、香織は地上班の方に残ってくれな?」
「へ? どうし……あぁ、もしかして、機能停止のこと?」
「ああ。一応、対策用のアーティファクトは用意するけどな、流石にエヒトを前にしてどれだけ効力を発揮するかは分からない。なにせ、大元は奴の制作だからな、その体」

 香織は渋い表情になる。

 確かに、使徒の体はエヒト側で制作されたものであり、魔王城でエヒトがやった機能停止を完全に防げるかは微妙なところだ。かと言って元の体に戻ってしまっては大幅な戦闘能力のダウンになってしまう。

 なので、地上で侵攻してくる使徒達に対応する役目が最善なのだ。

 ただ、香織だってユエを助けに行きたいわけで、理屈では残るべきだと分かっていても感情は中々納得してくれない。「むぅ」と唇を尖らせる香織に、ハジメは肩を竦めながら言い聞かせるように言葉をかけた。

「そんな顔するな。ユエを取り戻しても、他の連中が死に絶えていたら、俺はともかく、香織達には耐え難いだろう? オルクスの深部に匿うつもりではあるけど、ミュウとレミアも地上に残るんだ。一度、人質として有効だと証明しちまった以上、いざってときに守ってくれる奴が必要だ」
「……はぁ、しょうがないね。歯痒いけど、足手まといにはなりたくないし。それに死んで欲しくない人達も沢山いるから……うん、わかったよ。ハジメくん達が帰ってくる場所は私が守るよ。ミュウちゃんにもレミアさんにも手出しはさせない。あと、愛ちゃん先生とリリィも、ね! ねっ!」
「なぜ、二人を強調する……」

 ジト目をして頬を膨らませる香織に、苦笑いするハジメ。そんなハジメに、プイッとそっぽを向きながら香織が拗ねたような声音を響かせる。

「“愛子、リリィ、頼む”とかなんとか言っちゃってたくせに。ハジメくんの女たらし」
「いや、あれは空気を読んで……」
「他のクラスの子達も、何人か熱い視線を送ってたよ。ドン・ファンとかカサノヴァとか、もうあながち否定できないと思うな。ユエが戻って来たら言いつけてやる。私だって、まだただの“大切”止まりなのに、次から次へと……うぅ、不動のユエが羨ましいよ」
「……」

 わざとらしくいじける香織に、ハジメはポリポリと頬を掻いた。それは、香織の言動に呆れたとかそういうことではなく、その言葉の一部を否定する気持ちが自然と湧き上がったからだ。

 ハジメは、目の前にあるユエを封印していた魔力を通しづらい鉱石の前にしゃがみ込み、手をかざしながら香織に語りかけた。

「あのときの拳。中々効いたぞ。まさに目の覚める一撃だった」
「へ? ……あっ、あれは、えっと、痛かった、よね? 割と全力でやっちゃたし……」

 唐突な話題転換に一瞬目を丸くする香織だったが、それが謁見の間で暴走したハジメを殴り飛ばしたときのことだと気が付くと、どこか罰の悪そうな顔になって視線を逸らした。

 ハジメは、かつて、苦労してユエの封印を解いたときとは比べ物にならないほど鮮やかで洗練された魔力を、意外なほどあっさりと封印石へと浸透させていく。

 この鉱石をこの場所に放置したのは、魔力の浸透率が異常に悪い上に弾き返してしまうこの鉱石を、“宝物庫”に入れることに不安があったからだ。当時は予備も作成手段もない一品物の超貴重品だったので、出し入れの際、魔力を使用する“宝物庫”が壊れるのではと危惧し、実験的な扱いは避けたかったのである。また、単純にハジメの技量的に扱いきれなかったというのもあるし、口には出さなかったがなんとなくユエも嫌そうだったというのもある。

 その封印石を変形させブロックに分けながら、ハジメは、チラチラと視線を寄越してくる香織に言葉を続けた。

「そりゃもう、文字通り芯まで響いたよ。最低に格好悪いってのも、こうグサリと来たな」
「あ~、うぅ~。え、えっとね……その……」

 香織は、変な唸り声を上げてオロオロし出す。

「これが他の奴なら、そうはいかなかっただろうけどな」
「え?」
「香織と同じことをして、俺の深いところまで響かせることが出来るのは、まぁ、後はシアとティオくらいだって話だ」
「それって……」
「……もう“ただの大切”とは言えないかもなぁ」
「……ハジメくん」

 ブロックに切り分けた封印石を、オルクスに来てから作り直した新しい“宝物庫”に仕舞いながら独白のように呟くハジメに、香織は大きく目を見開いた。

 ハジメは、おもむろに立ち上がると香織に視線を合わせた。鋭さの欠けた、優しげな雰囲気を纏う瞳に自分が映り込んでいるのを見て、香織の心臓がトクンと跳ねた。

「ありがとう、香織。想い続けてくれて。……奴と殺り合う前に、それだけは言っておきたかった」
「……止めてよ。そんなの、なんだか遺言みたいで不吉だよ」
「ははっ、そうだな。悪い、柄じゃなかったか」

 苦笑いを浮かべるハジメに、香織はふるふると首を振る。

「ううん、こっちこそありがとう。嬉しいよ。……ふふ、ユエが帰って来たら言ってあげなきゃ。ハジメくんがデレたって。取り敢えず、シアのポジションには手をかけたぞって」
「くくっ、そしたら、また意地悪されるぞ? ユエは、なんだかんだで香織とじゃれるのが好きだからな」
「うっ、あれって絶対、私の反応を楽しんでるよね。思い出したら腹が立って来たよ。ハジメくん達が向こうに乗り込んでいる間に、お返しプランを考えておかないと」
「倍返しされるオチが見えるようだ」
「もうっ、ハジメくんも楽しんでるでしょ!」

 ムキーと歯を剥く香織に、クツクツと笑いながらハジメは肩を竦めた。そして、二人同時に口を閉じて、無性にユエに会いたいという気持ちを共感し合う。

 ハジメは、改めて香織と微笑み合うと、最後の封印石に手をかけた。そして、次々とブロック状にして“宝物庫”に収納していく。

 と、そのとき、封印石が置かれていた場所の床になにやら紋様が刻まれていることに気がついた。

「……これは」
「どうしたの、ハジメくん。……紋様? これってヴァンドゥル・シュネーのものじゃ……」

 しゃがみ込んで、封印石の下の床に刻まれていた紋様に指を這わせていたハジメの背後から覗き込んだ香織が、見覚えのある紋様に首を傾げながら呟く。

 ハジメは無言で頷くと、真剣な表情のまま“宝物庫”から【氷雪洞窟】攻略の証である水滴型のペンダントを取り出した。

 直後

キィイイイイイ

 そんな甲高い音を立てて、共鳴するようにペンダントと床の紋様が震え出した。

 ハジメの掌の上に置かれたペンダントは、そのまま床の紋様へと引き寄せられるようにずりずりと動き出す。薄暗くて分かりにくかったが、よく見れば床の紋様の中央には、ちょうどペンダントがはまりそうな小さな穴が空いていた。

 ハジメと香織は顔を見合わせると同時に頷いた。ハジメは、ペンダントをその窪みへとはめ込む。

 直後、床の紋様に光が奔ったかと思うと、金属同士が擦れるような音を立てて紋様の描かれた床の周囲がせり出てきた。直径三十センチ程の円柱形の石柱だ。それは、しゃがむハジメの目線くらいまで上がってくるとピタリと動きを止めた。そして、ハジメの眼前で側面をパカリと開いた。

「……こんな仕掛けがあったなんてな。【氷雪洞窟】を攻略した奴だけが開けられる仕掛け、か」
「それ、なんだろうね。ユエを封印していたブロックの下にあったってことは、なにかユエに関係しているものって気がするけど……」

 石柱の中には透明度の高い、一見するとダイヤモンドのようにも見えるピンボールくらいの大きさの鉱石が安置されていた。それを掌に乗せてマジマジと見つめるハジメの隣から、香織が推測を呟く。

 そして、その推測が正しかったことは直ぐに証明された。

「……これオスカー達が使っていたのと同じタイプの映像記録用のアーティファクトみたいだな」
「それって……こんな場所に、そんなものを残す人なんて一人しか思いつかないよね」
「取り敢えず、起動させてみるか」

 ハジメは、白い水晶に魔力を流し込んだ。

 直後、暗い封印の部屋を白の混じった黄金の光が満たした。そして、目を細めるハジメと香織の前で、映像記録を残した者の語りが始まった。

 それは、深い深い愛と、慈しみ、そして途轍もない覚悟と懺悔に満ちたもの。そして、聞く者の魂をどうしようもなく震えさせるほど、温かく優しい、切なる願いだった。

 白金の光が収まり、十分程の映像記録がフッと消えた後には、表現の難しい、されど決して嫌なもののない余韻がハジメと香織を満たした。香織は、拭うことも忘れてするりするりと綺麗な涙を流している。

「……ユエに見せてあげなきゃ」
「そうだな。これは、ユエが見なきゃならないものだ。……香織、お前が預かっていてくれ。向こうじゃ、なにがあるか分からないしな」
「……うん。わかったよ」

 ハジメの手から渡されたダイヤモンドの輝きを持つ鉱石を、香織は、宝物を扱うようにそっと受け取る。

「にしても、封印石の特性に関する詳細がわかったのは僥倖だったな。道理で“鉱物系鑑定”だけじゃ正体を掴みきれないわけだ。まぁ、サソリモドキを相手にした時点で気が付くべきだったと言えば、それまでだが……」
「ある意味、サイボーグ? みたいなものだね」
「ああ。おかげで、色々と制作意欲が湧いてきた。ミュウ達も待っているだろうし、さっさと戻ってアーティファクトを量産するか」
「アーティファクトの量産……すごい言葉だね」

 若干引き攣ったような笑みを浮かべる香織に肩を竦めて、ハジメは、もう一度、ユエとの始まりの場所に視線を巡らせた。そして、一拍の瞑目の後、改めた決意を背にくるりと踵を返した。

 その後を、香織がしずしずと付いて行く。

 二人が振り返らず部屋から出た後、封印の部屋は再び闇に閉ざされた。しかし、そこには、全てを呑み込みそうな冷たい闇だけではなく、どこか包み込むような優しさが漂っているようだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あっ、パパ! 香織お姉ちゃん お帰りなさいなの!」
「ただいま、ミュウ」
「ミュウちゃん、ただいま」

 オスカーの住処に戻ったハジメと香織を、ミュウの元気な声と満開の笑顔が出迎えた。岩壁を掘って作られた石灰色の建物のエントランスをステテテテーと駆けてくる愛娘を、ハジメは応急的に作った義手で軽々と抱き上げた。

 途端、嬉しそうにハジメの首筋へ腕を回し、これでもかと抱きつくミュウ。

 そこへ、ダイニングのある部屋からパタパタと履物を鳴らしつつ、フリフリの純白エプロンをフリフリさせ、手にはお玉を持つという完璧装備でレミアが出迎えに現れた。

「あなた、香織さん、お帰りなさい。ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……母娘にしますか?」
「ちょっ、レミアさん! そんなお約束いりませんからっ! っていうか、今、母娘って言いませんでした!? 自分の娘になにをさせる気ですかっ!」
「あらあら、香織さんったら、一家団欒でもしますか? という意味ですよ? うふふ、なにを想像されたのかしら?」
「っ!? レ、レミアさん!」
「あなた、それとも香織さんにしますか?」
「ふぇ!? わ、私? って違います! からかわないで下さい!」

 香織がむきぃ! と猫のように毛を逆立てても「あらあら、うふふ」と可愛いものを見るような眼差しを向けるだけのレミア。ユエしかり、レミアしかり、どうやら香織は、年上の女性から可愛がられる質らしい。

 ハジメは、香織の肩をポンポンと叩いてなだめながら、レミアに視線を向ける。

「それくらいにしてやってくれ。見ているのは楽しいけど、今は、余り時間もないしな。直ぐに工房に入る。悪いが食事はそっちで取らせてもらうよ」
「わかりました。では、運んでおきますね。あ、それと、王女殿下と雫さんから連絡がありました。どうにかなりそうとのことです。愛子さんの……“豊穣の女神”の演説が、かなり効果的とのことですよ。人員が急速に増えているので、アーティファクトの制作を急いで欲しいと」
「そうか。了解した。慣れないことさせて悪いな」
「そんなこと……少しでもあなたの役に立てるなら、これほど嬉しいことはありません。恩返しという意味でも、旦那様を支える妻としても……」
「いや、妻じゃないからな?」
「あらあら」
「いや、あらあら、じゃなくてだな」
「うふふ」
「いや、うん、まぁ、いいや」

 無敵のほんわか笑顔で全てを包み込んでしまいそうなレミアに、ハジメが折れる。ハジメは、名残惜しそうなミュウの頭を一撫でしながらレミアに預け、工房へ向かって歩き出した。

 現在、ハジメ達のいる場所――【オルクス大迷宮】の深部、オスカー・オルクスの隠れ家には、ハジメと香織、そしてミュウとレミアだけがいる。

 魔王城の謁見の間での話し合いの後、取り敢えず、魔王城に乗り込む前に地中へ転送しておいた貴重品を回収に行ったハジメ達は、そこで無事に回収できたゲートキーを使って世界各地へと散らばっていった。

 もちろん、ゲートホールが設置されていない場所への連絡には直接出向かなければならないので、移動用のアーティファクトが必要になる。ティオにしても、竜人族の里へ身一つで行くなら、帰る時はゲートを使えばいいが行きの片道だけでも数日は確実にかかってしまうので、高速飛行を可能にするアーティファクトが必要だった。

 なので、攻略の証を使い、【ライセン大峡谷】にあるショートカットからオスカーの隠れ家に入ったハジメは、工房に残っていた材料で、優先的に小型版飛行アーティファクト“ミク・フェルニル”を作成した。

 これは、言ってみればスカイボードである。サーフィンのボードのような形状で、空気抵抗などを空間魔法で軽減し、重力魔法で空を飛ぶ。操作はもちろん感応石だ。抵抗がないに等しく、使用者の肉体的負担も極めて小さいので、時速五百キロメートルは軽く出るという代物だ。

 即席なので魔力消費が大きいという欠点はあるものの、ティオは言わずもがな、クラスメイトの魔力量は誰も彼も基準を大きく逸脱するレベルで保有しているので、片道くらいならどうにでもなる。

 これにより、ハジメの扇動で魂に火をくべられたクラスメイト達が世界に散らばり、ゲートホールを通じて世界が急速に繋がり始めていた。

 王都の郊外には、既にかなりの戦力が集まり始めており、野村健太郎を筆頭に土系統の適性のある者達や職人連中が急速に簡易的な防衛陣地を構築しているところだった。ここでも、ハジメが優先的に作ったアーティファクトが彼等の力を何倍にも跳ね上げており、作業を超効率化している。

 ここまでで約一日。世界の終わりが始まるまで残り二日。

 優先的なアーティファクトの作成を終えたハジメは、応急的な義手と宝物庫、そして簡単な武器を作成し、香織を伴って素材集めに懐かしき奈落へと再び足を踏み入れた。

 隠れ家の扉を出た途端、香織に反応してヒュドラが出現するというイベントもあったりしたが、そこは成長した化け物と神の使徒というチートタッグなので、色々と余裕であった。

 その後、ハジメは、奈落を知らない香織に“導越の羅針盤”を持たせて必要な素材集めを手伝ってもらい、自らも記憶にある素材の場所へ、アリを踏み潰すが如く魔物達を蹂躙しながら駆け回った。

 そして、十二分に素材を集めたハジメは、かつてユエが封印されていた場所へ、なんとなく足を運んだのだ。ユエに会いたいという気持ちが、時間がないと分かっていながら自然と足を向かわせた。

 同じく素材を集め終わった香織が、羅針盤でハジメの居場所を確かめ、そして、あの映像記録用アーティファクトと、そこに込められた想いを知るに至ったというわけである。

 ちなみに、香織に頼んで“神結晶”も羅針盤で探索してもらったのだが……生憎、“神水”を滴らせるほど年月を経て凝縮されたものは発見できなかった。伝承にしか残っていないような物質なので、仕方ないと言えば仕方ない。小さな結晶を幾つか見つけただけでも僥倖だったと思うべきだろう。

「さて、それじゃあ香織、協力頼んだ」
「うん、任せて」

 工房に辿り着いたハジメは、部屋の中央に円柱形の水晶柱のようなものを錬成しながら、香織に呼びかけた。これから行うのは、時間がないという問題を解決とまではいかずともある程度解消するための手立て。

 このために、ハジメは再生魔法を最も得意とする香織を助手に選んだのだ。

「いくよ! ――“刹破”」

 香織が気合の掛け声と共に、その白菫色の魔力を迸らせる。合わせて、ハジメが紅い魔力を唸らせながら、香織の行使する術を生成魔法によって水晶柱へと付与していく。

 再生魔法“刹破”――時間を引き伸ばす魔法だ。再生魔法の真髄は、時に干渉できる魔法であるという点にある。ただ、処理能力や魔力量の観点から、人に扱える範囲が“再現”――傷を負っていない健全な状態のときに戻したり、過去の一時を映し出したりといった行為に留まる為、実質的に“再生”魔法と名付けられているだけである。

 逆に言えば、人間的限界を超えていて、かつ、熟練度が増し、その真髄に近づければ、“再生”に限らず時に干渉することが理論上は可能になる。

 そして、再生魔法に適性があり、ずっと使い続けて習熟し、人の身を超えた肉体的スペックを持つ今の香織なら、そこへ手をかけることは可能だった。

 香織の魔力が周囲の時に干渉し始め、ふわりふわりと舞っていた長い銀髪が徐々にその動きを緩やかなものに変えていく。心なし、工房全体が色褪せたようにも見えた。

「っ――ハ、ジメくん」
「OKだ、香織。よくやった」

 途端、部屋を満たしていた白菫の魔力が空気に溶け込むように霧散した。香織は、膝に両手をつきながら肩で息をしている。僅かな時間で、相当な魔力を消費したようだ。

「はぁはぁ、ど、どうだった?」
「……流石だな。およそ十倍といったところだ。これでかなり余裕が出来たよ」
「はぁ~~、よかったぁ」

 淡い光を放つ水晶柱を真剣な眼差しで見つめていたハジメは、頬を綻ばせると、称賛混じりの言葉を香織に送った。香織もまた、安堵したように胸を撫で下ろし笑みを見せる。

「せっかくだし名前つけるか……やっぱり“精〇と時の部屋”、かな?」
「……それは止めておいた方がいい気がするよ。単純に“アワークリスタル”とかでいいんじゃないかな?」
「……ロマンがねぇな」
「もうっ、そんなのどうでもいいじゃない。さ、早くお仕事お仕事! 雑用は私達がやるから頑張って!」
「……わかったよ」

 不満気な表情でアワークリスタル(仮)を起動させるハジメ。

 途端、先程と同じく、僅かに工房内が色褪せる。これで、工房内限定ではあるが、時間が十倍に引き伸ばされた。工房内の一時間は、外ではたったの六分だ。

 その間、地上で活動しているリリアーナ達との連絡やアーティファクトの受け渡しなどはレミアが(ハウリア同様に、レミアが扱える魔力貯蔵型ゲートが設置してある)、足りなくなるであろう素材の採取は香織が行う。

 ハジメは雑用の一切を彼女達に任せて、工房から外へ、作製したアーティファクトを吐き出し続ければいいというわけだ。万単位で兵器を用意するハジメは、まさに人間武器庫と言っていいだろう。

 ハジメは、“宝物庫Ⅱ”から大量の素材を取り出した。あらゆる種類の鉱石に、魔物の爪、牙、骨などが広い工房を一瞬で埋め尽くす。

「さて、やるか」

 そんな呟きと同時に、ハジメが手をかざす。直後、工房内を紅が染め上げた。どこまでも透き通った鮮やかな紅色は、まるで工房そのものをレッドスピネルの如き宝石に変えてしまったかのようだ。ある意味、宝石の内側に迷い込んだかのような不思議で心に迫る光景である。

 その証拠に、工房の中にいる香織、ミュウ、レミアは、ハジメを中心に放たれる光に心奪われたような表情で眺めている。

 香織達が呆けている間にも、ハジメの“鉱物分離”は必要な素材だけをより分け純粋な鉱石を作り出し、“生成魔法”が必要な魔法を付与して、“精密錬成”が職人も真っ青な精巧さを実現し、かつ“高速錬成”がそれだけの精密さにもかかわらず、完全完璧な部材をビデオの早送りのように量産していく。

 そして、それをハジメが手ずから組立て、ものの数秒で出来上がった完成品を床に安置した。

 次いで、ハジメがその完成品、否、正確には完成品が置かれた床に手をかざすと、これまた精緻な魔法陣が完成品を中心にして床に刻まれた。

 すると、周囲に散らばっていた部材が一人でに動き出し完成品と全く同じものを自動的に量産していく。それだけではなく、部材そのものも山積みとなった素材から勝手に抽出、融合を繰り返して量産されていった。

 ハジメは、それを確認すると、次のアーティファクトの作製に入った。既に紅い光を放ち続ける魔法陣も、勝手に出来上がっていくガトリングガンの山も意識していない様子で、弾丸の生産に入っている。

 その弾丸も、同じように一発目は手ずから作り出し、それを床に刻んだ魔法陣の上に置くと勝手に量産されていき、ハジメは、また次のアーティファクトの作製に入る。その視線も意識も既にガトリングガンとその弾丸にはない。

 錬成の派生技能――材料さえあれば全く同じものを魔法陣もイメージ補完もなく作成できる“複製錬成”と、刻んだ魔法陣に込めた魔力が尽きるまで術者が離れても勝手に錬成し続ける“自動錬成”によるものだ。

 部屋を満たす紅い魔力の流れと、ハジメの周囲に展開された魔法陣の紅い煌き……それらに囲まれながら、瞑想でもしているかのように目を細め、両手を指揮者のように振るい、冗談のように強力なアーティファクトを生み出していく姿は、まさに御伽噺の中の魔法使いのようだ。夢のない言い方をするなら一人生産工場とも言える。

 香織達が呆然としている間に、刻まれた魔法陣からアーティファクトが溢れかえり始めた。レミアが、量産速度より、運び出す方が確実に遅いと頬を引き攣らせる。明らかに、レミアとミュウだけでどうにか出来る量ではない。

 もっとも、そんなことは最初から承知の上。

 故に、ハジメは、運び手の錬成に入った。頭の中で思い描いたイメージを眼前の虚空に投影し、それに手を這わせながら更にイメージを固めていく。すると、素材の山を掻き分けるようにして胸元に紅宝玉を埋め込んだ人型が出現した。

 足元は蜘蛛のように多脚となっており、上半身も阿修羅像のように腕が六本も付いている。更に、蜘蛛の下半身に当たる部分は箱型となっていて、見るからに運搬用のゴーレムだと分かった。

 それをもう一体作り出したところで、ハジメが口を開いた。

「レミア、ミュウ。このゴーレムを操って運搬を頼む。ゲートから王国の方へ転送してくれ」

 そう言って、ハジメは、二人に指輪を渡した。ゴーレムを操る為の感応石が付いた指輪だ。魔力のない二人でも使えるように、魔力を貯蔵する機能が組み込まれている他、更に進化した機能が備わっている。

「この二体のゴーレムは、俺が精製した魔石と魔物の素材を融合させたものだから、半分くらいは魔物だ。だから、その感応石で動きを強制することも出来るけど、言葉で命じて動かすことも出来る。その指輪を持っている者の命令を聞くようにしてあるから」

 そう、言ってみれば、このゴーレムは機械と生物を融合させた生体兵器のようなものであり、指輪はコントローラーかつ優先命令権を示すものなのだ。と言っても、明確な自我があるわけではないので、きちんとした命令がない限り、自分で判断して動くということはない。よくRPGに出てくるリビングナイトやリビングソードといったモンスターと言えば想像がし易いかもしれない。

 生成魔法と変成魔法の複合技である。相変わらず、変成魔法自体の適性はそれほど高くないハジメだったが、生成魔法をメインに変成魔法を付与する方法を取れば十分に使える。というよりも、生物には体内金属があるので、生成魔法との複合魔法として使えば、むしろ変成魔法の副次効果により錬成技術は大幅に向上した。これにより、一つ、切り札を思いついたくらいなのだ。

 ユエを封印していた封印石やサソリモドキも、基本的には同じ技術によるものだ。もっとも、あれらは術者の適性故に、変成魔法の比重が大きかった。魔力を弾く特殊な鉱石で出来ていたというのもあるが、半分以上は生物であることもハジメの錬成が効きにくかった理由である。

 ハジメの説明が難しかったようで「んにゅ?」と首を傾げるミュウに、「パパがペットをプレゼントしてくれたのよ」と、レミアが、ちょっとどうかと思う説明をする。

 取り敢えず、なんでも言うことを聞くペットをプレゼントされたのだと理解したミュウは、大喜びでハジメに抱きつき、そして、「パパのお手伝いするの!」と張り切って生体ゴーレム“べるちゃん”を操り出した。

 正式名が“べるふぇごーる”なので“べるちゃん”らしい。ミュウの命名だ。四歳とは思えないネーミングセンスである。有名な七つの大罪の悪魔と被っているのは偶然だと思いたい。

 ちなみに、レミアが自分の生体ゴーレムのネーミングもミュウにお願いしたところ、愛らしすぎる笑顔で「あすもでうす!」と名付けた。悩むことすらなく即答である。なにかおかしなものに憑かれていないことを祈るばかりだ。

 この後、ありとあらゆる兵器を量産し、それをレミアとミュウが搬送、ゲートを通して王国のリリアーナ達の元へ転送し、材料が足りなくなってくれば香織が迷宮へと潜ってチート性能と羅針盤で掻き集め……ということがしばらく続いた。

 次から次へと送り届けられる大量かつ規格外のアーティファクトに、アワークリスタルのことを知らない王国側の人々は盛大に頬を引き攣らせていたり、“自動錬成”が唸りを上げる横で一時の一家団欒(食事)を楽しみつつも、香織がレミアに可愛がられて涙目になったり、色々あったものの概ね順調に生産は進んだ。

 ハジメ自身も、新たなアーティファクトを作製したり、従来の武器を更に強化したり、確実に装備を充実させていった。そして、エヒトに対する切り札も……

 そうこうしている内に、遂に、各地に散っていたシア達からも続々と連絡が入ってきた。どうやら彼女達も順調に事を進めているらしい。ハジメは、シア達に送るアーティファクトを手に、オスカーの隠れ家に迎える準備をするのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
おまけ


 かつて、ユエに大人の階段を強制的に登らされた豪勢な風呂場で、湯けむりに紛れるハジメの姿があった。

 心地良い湯船に体を程よくリラックスさせながらも、以前のように弛緩しきるということはない。それは、消費した魔力の回復に努めているということや、決戦を控えているからというのもあるし、なにより、愛しい恋人がいないからだ。

 遠くをみるような眼差しは、奈落を貫き、天も越えて、見えないはずのユエを見つめていた。

 その瞳が、切なげに細められたとき、不意に、風呂場に幼い声が響いた。

「パパぁーー!」

 いつもの可愛らしい足音を立てながらすっぽんぽんで元気に駆けて来るミュウに、ハジメは小さく笑みを浮かべる。

 そして、ぴょんとハジメに向かって飛び込んで来たミュウの体を危なげなく受け止めた。

「こら。危ないだろ、ミュウ」
「えへへ~、ごめんなさい、パパ」

 一応、軽く叱るものの、ミュウはハジメに抱きつくのに忙しく余り反省した様子は見られない。しょうがないやつだと、目を細めながら、ミュウが熱がらないようにゆっくり湯船に浸かり直した。

 ミュウが「ふにゅ~」と声を漏らしながら気持ちよさそうに目をトロンとさせる。その愛らしすぎる姿に、ハジメは父性をビンビンに刺激された。ゆっくりと梳くようにミュウの綺麗なエメラルドグリーンの髪を撫でる。更に蕩けるミュウ。タレミュウである。

 そんなミュウの姿に、先程まで感じていた寂寥感が少し癒されるのを感じるハジメ。それでも自然と、眼差しは天を仰ぎ見てしまう

「……大丈夫なの」
「ん?」

 突然、ミュウが静かな、されど力強く確信に満ちた言葉を響かせた。首を傾げて視線を戻すハジメに、ミュウは、魔王城の時と同じように確信と、力強さに満ちた声音で言葉を紡いだ。

「……ユエお姉ちゃんは大丈夫なの」
「ミュウ……」
「だって、パパがむかえに行くから。ミュウのときといっしょなの。だから、ユエお姉ちゃんも帰ってこれるの」
「……」

 それは、あるいはもう確信というよりも、既に決まった未来を語るかのよう。幼子であれば、慕っていた姉がいなくなれば、もう少し気落ちするものなのだろうが……どうやらミュウは、自分がさらわれたときと重ねることで、より強い確信を得ているようだった。すなわち、ハジメは必ず、ユエを取り戻す、と。

 同時に、きっとユエに対しても絶大な信頼と、絶対に大丈夫だという確信を得ているのだろう。ユエお姉ちゃんは、必ず帰ってくる、と。

 だから、こんなところで気落ちなどしていられない。ハジメ達を見てきたミュウにとって、自分は出来ないことばかりの無力な存在だという意識がある。だが、それがどうしたと吹き飛ばせるだけのものを培って来た。故に、“今の自分が出来ること”をするのだ。

 何もできないなら、せめて、できる人達が元気でいられますようにと、まず自分が元気を振りまくのだ。確信と信頼を、これでもかと寄せるのだ。

 そんな、目の前でニコニコと笑いながら、「大丈夫!」と伝えるミュウに、ハジメは頬を緩める。

 魔王の城で、暴走する自分の前に立ち塞がったミュウを「自分より強い」と称したハジメだったが、改めて、その言葉は実に正しいと思った。自分より、余程、ユエの強さと、望むべき未来を信じている、と。

「……そうだな。直ぐに連れて帰るよ。そしたら、今度はユエも一緒に、三人で風呂に入ろうか」
「……んっ」

 ミュウが茶目っ気を出して、ユエの返事を真似する。それが可笑しくて、可愛らしくて、ハジメはミュウの頭をこれでもかと撫で撫でする。

 そうして、ここにいないユエを想って胸に感じていた苦しいものを、吐息と共に湯船へと溶かし出し、本当の意味で体から力を抜いていった。

 と、そこで、ハジメはふと気がついた。

 ミュウはレミアや香織と入る予定だったのでは? と。

 そのミュウが、ここにいるということは、つまり……

「あらあら、あなたったら、ミュウにあまあまですね。うふふ」
「ハ、ハジメくん。お、お邪魔します」
「やっぱり、そう来るのか……」

 小さなタオルで申し訳程度に体を隠しただけのレミアと香織が湯けむりの向こう側から姿を現した。レミアは堂々と、香織は恥じらいに頬を染めながら。

 細身でありながらどこか肉感的なレミアの肢体は、未亡人故か、得も言われぬ色気を纏っており、香織の白磁のような体も黄金比で形作られた芸術品のような美しさがあった。二人とも凄まじいまでの魅力を放っている。

 レミアは右に、香織は左に、それぞれ体を密着させながら湯船に浸かった。

「お前等な……」

 ユエがいないときになにしてくれてんだ、と流石に文句を言おうとしたハジメに、レミアは慈しむような眼差しを返した。

「一人になって落ち着いてしまうと、痛みを思い出してしまうのではないかと……お邪魔でしたら、直ぐに出ます」
「痛みって……」
「心の痛みは、意志や体の強さに関係ありませんから。“今ここにいない”それだけで痛いのではありませんか?」
「……レミア」

 どうやら、ユエを想って切なさを感じていたのを見抜かれていたようだ。思わず、目をパチクリとさせるハジメに、反対側の香織が優しい声音で語りかける。

「こういうときは、誰かといるべきだよ。私のときは雫ちゃんがいてくれたし……ユエの代わりにはなれないけど、少しでも支えになりたい。それが出来ないと、ユエが帰って来たとき馬鹿にされちゃうよ」

 くすりと笑いながら、ただ傍にいると伝える香織。経験からくる言葉は重い。ハジメがいなくなった日々の中で、それでも折れずにいられたのは、親友がずっと傍で寄り添っていてくれたからだ。だから、“自分も”と、そんな想いが自然と伝わる。

 ハジメは。二人に、いや、もしかしたらミュウも含めて三人に気を遣われたのだと察し、小さく笑みを零した。

「……ありがとな。しゃんとしねぇと、俺の方こそあいつに馬鹿にされちまうな」
「ユエに限って、それはないと思うけどなぁ」
「うふふ。ユエさんは、ハジメさんに夢中ですものね」

 三人でハジメにべったりのユエを思い出し、くすくすと笑い合う。

 ハジメが、自分の胸元で「むにゃむにゃ」し始めたミュウに視線を落とした。どうやら気持ち良すぎてオネムになってきたようだ。寝入ってしまう前に、体を洗って出るべきだろう。

 レミアと香織は、そんなハジメの心情を的確に察知したようだ。口を開きかけた香織の機先を制するようにレミアがにこやかに告げる。

「では、ハジメさん。前をお流ししますね」
「いや、背中なんて別に……今、前って言わなかったか?」

 微妙に定番の言葉と違うことに気がついて頬を引き攣らせながら尋ねるハジメに、レミアはやはりにこやかに告げる。

「はい、きっと香織さんが背中を流したいだろうと思ったので、私は、あなたの前を流させていただこうかと」
「ちょっ、レミアさん!? なに言い出すの!? ま、前って……そんな……ダ、ダメだよ!」
「あらあら、では、香織さんが前をお願いしますね?」
「わ、私!? 私が、ハジメくんの前を、前を……」

 香織の視線が、ミュウの影になって見えないハジメの股間に吸い寄せられる。そして、爆発でもしたように顔を真っ赤に染め上げた。

「アホか、お前等。させるわけないだろうが」
「まぁ、私達でダメとなると……では、ミュウが前を……」
「ハジメくん!? ダメだよ、そんなの! ミュウちゃんになんてことさせる気なの!」
「しかし、デリケートな場所ですし……ここは私が隣でレクチャーをする必要がありますね。母娘で頑張ってご奉仕させて頂きますね」
「させない! させないよ! レミアさん! ハジメくんをそんなアブノーマルな道に進ませたりはしない!」
「まぁ。では、誰がハジメさんの前を流すのですか?」
「そ、それは……」
「香織さん、ではこうしましょう。三人で前を」
「ハッ、その手が……って違うよ!」

 ハジメは思った。香織……不憫な、と。そして、ユエにしろ、レミアにしろ、チャンスさえあれば必ず年上の女性に弄られる香織に、地球にいた頃とのギャップを感じて何とも微妙な表情をする。

 同時に、

「ユエが戻ってきたら……香織の不憫度は二倍、か」
「んみゅ?」

 二人を置いて湯船から上がり、ミュウの髪を洗ってやりながら呟いたハジメ。ユエを取り返したら、もう少し香織に優しくしてやろうと哀れみに満ちた眼差しを、未だレミアに弄られている香織へチラリと向ける

 そんなハジメに、ミュウはキョトンと首を傾げるのだった。


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