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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第七章

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世界の扉を開く鍵

第7章 最終話
 ハジメとユエの祝詞のような言葉と共に部屋も意識も塗り潰した爆発的な光。それには、主にハジメの、そして同調し支えるようなユエの強い意志が込められているようだった。

 余りに大きな意志の奔流に、何も考えられず前後不覚に陥ったシア達だったが、それも一瞬のことだったようだ。ぐらりとバランスを崩した体が地面に叩きつけられる前に、意識を埋め尽くした純白は霧が晴れるように消え去った。

 少しふらつきながらも、頭を振って体勢を戻した一同は、視界の先に美しい輝きを見た。全ての光を吸収したかのように紅と金の煌きを、余すことなく内包した半透明の鍵。複雑で精緻な紋様と正十二面体の結晶が特徴的なアンティーク調のアーティファクト――“クリスタルキー”だ。

「って、ハジメさん! ユエさん! 大丈夫ですかぁ!」

 シアが、ハッと我を取り戻し、慌てて駆けて行く。クリスタルキーの傍には、ハジメとユエが手を繋いだまま崩折れるように倒れていたのだ。香織達も、シアに一瞬遅れて駆け寄った。

「香織さん、お二人は……」
「……うん、大丈夫。気を失ってるだけみたい。原因は魔力枯渇だね」

 真剣な表情で診察していた香織は、不安そうな表情のシアに微笑みながら答えた。その診察結果にティオ達も安堵の吐息をつく。

 香織は、魔晶石から魔力を取り出すと、魔力譲渡の術を併用して二人に分け与えていった。すると、その診察結果が正しかったと証明するように、ハジメとユエは呻き声を漏らして身動ぎしつつ、薄らと目を開いた。

「あぁ? ……どうなった?」
「……んぅ。アーティファクトは……」

 頭を振りつつ起き上がるハジメとユエに、香織が状況説明をしつつ、クリスタルキーを手渡した。

「二人は魔力枯渇で倒れたんだよ。一応、魔晶石一個分の魔力を均等に分けておいたから。アーティファクトの方は、私じゃよく分からないけど……」
「そうか。ありがとな、香織。魔力枯渇で倒れるなんて久しぶりだ。加減がよく分からなかったから、取り敢えず全力でやったんだが……次からは調整できるかな」
「……ん。大丈夫。何となくコツは掴んだ。概念に昇華できるほどの意志を発現できるかは問題だけど」

 ハジメの言葉に、ユエが思案しながら答えた。ハジメは、手元のクリスタルキーを魔眼石で確認する。今まで創ったアーティファクトとは比べ物にならない魔力が宿っていた。

「……会心の出来だな。でかい力を感じる。導越の羅針盤と似たような感覚だ」

 ハジメは満足気な笑みを浮かべつつ、試しに“導越の羅針盤”でとある場所の座標を特定してから、クリスタルキーに魔力を注いで起動させ前方に突き出してみた。“望んだ場所への扉を開く”と言っても、ある程度、目的地との距離や繋げる場所のイメージができなければ空間を繋げられないのだ。

 突き出されたクリスタルキーは、作製者であるハジメのイメージ通り、空間転移用の鍵型アーティファクト“ゲートキー”と同じく、何もない空間にズブリと沈み込み波紋を広げた。

 但し、“ゲートキー”とは比べ物にならないほどの魔力を持っていかれる。しかも、あらかじめ座標が設定されている“ゲートキー”と異なり、クリスタルキー自体で空間座標を固定する必要があるので、少し時間が掛かるようだ。それにもまた、魔力をグングンと吸い取られていく。

 ハジメは栓が抜けたように流れ出ていく魔力に眉をしかめながらも、そのままクリスタルキーを捻った。すると、目の前の空間が揺らぎ、楕円形の穴が空き始めた。

 そこからは何故かビシッバシッという打撃音と「あぁん!」という艶かしい女の声音が聞こえる。

 やがて、完全に開ききったゲートの奥には……

「この恥知らずのメス豚がぁっ。昇天させてやる!」
「あぁ! カム様ぁ! 流石、シアのお父様ですわぁ! すんごいぃいい!!」

 恍惚の表情でムチ打たれる、しなだれた姿のアルテナと、そのムチ打ちをしているカムの姿があった。

 いきなり出現した先程とは違う意味で凄絶な光景に、ハジメとユエ、そしてティオ以外のメンバーの口があんぐりと開く。

 同時に、ゲート越しのハジメ達の気配を感じ取ったのか、カムが「おや?」という表情で振り返り、その視線の先でハジメ達の姿を捉え、思いっきり目を見開く。

「ボ、ボスぅ!? な、なぜこんな場所に、ボスのゲートが!」
「ぇ? って、シア! それにハジメ様達まで!」

 驚愕するカムとアルテナに、ハジメとユエは冷めた声音で言葉を掛けた。

「……よぉ。何かお楽しみの最中に邪魔したな」
「……ん。二人がそういう関係だったなんて。シア、気をしっかり」
「ふふ、同志アルテナよ。よいご主人様を見つけたようじゃな」

 ティオが妙に嬉しそうなのはスルーして、ハジメとユエの物言いに、カムは「ご、ごごごご、誤解いですぅ!」と、娘そっくりの口調で必死に弁明するが……

 我に返り、ぷるぷると震えているウサギが一匹。身の内から湧き上がる激情が魔力となってうねり、噴き上がる。ゆらりと立ち上がったシアは、無言でドリュッケンを取り出した。そして、ハイライトの消えた瞳で、ゲート越しのカムとアルテナを睥睨すると、ジャキ! と音を立てて砲撃モードのドリュッケンの銃口を向けた。

「ま、待て、シア! お前は猛烈に誤解をしている! 父は決してっ」
「シア! カム殿は素晴らしい御人ですね! 流石、シアのお父様ですわ! ちょっとシアの私物を拝見しようとしただけの私に、あんなに激しく! しかも力加減が絶妙ですの!」

 カム必死の弁明を、アルテナがにこやかにぶっ潰す。「てめぇ、ちょっと黙ってろや!」という眼光を向けるカムに、ゾクゾクと身を震わせるアルテナ。どうやら、彼女も既に手遅れらしい。

 そして、どうやらアルテナが、残してきたシアの私物を勝手に漁っていたのを咎めていたという事情が推測できるものの、割とノリノリでムチを振るっていたように見える実の父と、一応? 友人である同い年の女の子のアブノーマルな現場を目撃してしまったシアは、

「いっぺん死んでこいですっ、この変態共がっ!」

 問答無用に引き金を引いた。発射される炸裂スラッグ弾。ハジメは成仏を祈るような気持ちで瞑目しつつ、弾丸が通った直後にゲートを閉めた。完全にゲートが閉じる寸前、爆音と「ぎゃあああ!」とか「あぁあああん!!」とかいう悲鳴が聞こえた気がしたが、この場で気にする者はいなかった。

「……ん。シア、元気出して」
「大丈夫だよ、シア。あれは……そう、ちょっとした気の迷いだよ。きっと、さっきの一撃でお父さんも目を覚ましてるはずだよ」
「……ぐすっ、ユエさん、香織さん、お気遣いありがとうございますぅ。でも、あれくらいじゃ家の父様は死んでないでしょうから、ハジメさんの世界に行く前に息の根を止めておきますぅ……うぅ、ミンチにしてやるですぅ」

 どうやら、魔力量に比例して文字通り“望んだ場所への扉を開く”ことの出来る、概念魔法付与型アーティファクト“クリスタルキー”の軽い気持ちでの試験運用は、娘に父親殺しを決意させる結果になったらしい。

「あ~、なんつーか、シア? カムは俺が矯正してやるから、取り敢えず泣き止め」
「うぅ、ハジメさぁ~ん!」

 苦笑い気味のハジメの胸に飛び込むシア。

 傍らで「南雲君とティオさんの関係も余り違わないんじゃ……」と呟く鈴の言葉は華麗にスルーされた。

 その後、シリアスが吹き飛んで何とも言えない表情をしていたメンバー達は気を取り直し、再びリビングルームに集まった。

「さて、初めての試みで色々と手際の悪さは目立ったが……」

 ハジメは、全員が着席したのを確認して手元のクリスタルキーを皆が見えるようにかざし、ニヤリと笑いながらその言葉を、希望の言葉を響かせた。

「帰る手段を、手に入れたぞ」

 その瞬間、まず鈴が飛び上がって喜びをあらわにした。それに釣られるように龍太郎がガッツポーズと共に歓喜の咆哮を上げ、雫と香織が満面の笑みで抱き合った。ずっと暗い表情だった光輝も、薄らと微笑む。

「と言っても、召喚防止用の概念を作るのは、帰還用の概念を作るのより骨が折れそうだからな。主に意志の面で。試行錯誤が必要そうだから、今しばらくは帰れないが」
「それは仕方ないよ。それでも帰れるっていうだけで……本当に……すごいよ。ぐすっ、ハジメくん、ありがとう……」

 香織が涙ぐみながら、ハジメの傍によりその手をギュッと握る。

 その“ありがとう”には色んな意味が含まれていた。あの映像を見た後だからというのもあるだろう。生きていてくれたこと、何一つ諦めなかったこと、自分の危機に駆けつけてくれたこと、大切な存在だと幾度も自分のために怒ってくれたこと、そして今、故郷に帰る手段を手に入れてくれたこと……本当に様々な意味が含まれていた。

 ハジメは、握られていない方の手で頬をポリポリと掻きながら仕方ないというように肩を竦めると、そっと香織を抱き寄せた。一瞬、目を見開いて驚きをあらわにした香織だったが、直ぐに満面の笑みになると、ギュウウウと抱き締め返し、その胸元に顔をグリグリと擦りつけた。

 ユエも「まぁ、今回は許してやるか」と肩を竦めて甘える香織に微笑む。

 一方で、雫は、そんな香織を少し羨ましそうに見つめていたが、一瞬、光輝に視線を向けると頭を振って、微笑ましそうな眼差しとなった。本音を言えば、自分もハジメに甘えたかったのだが、光輝の精神を不安定にする可能性を考えて遠慮したのだ。

 もっとも、空気は読んでも自分に素直になると決心したばかりなので、後でこっそりハジメに甘えようと画策していたりする。羞恥心を乗り越えてちゃんと甘えられるかは分からないが……せめて手くらいは繋いでみせる! と小さな目標を掲げる。

 既にほっぺチュウをしたくせに、普段はとことん初々しい雫だった。

 そんな雫の可愛らしい野望を宿した眼差しから、何となくその心情を察しつつもスルーして、香織の髪を優しく撫でながら、ハジメはこれからのことを口にする。

「取り敢えず、俺達は召喚防止用アーティファクトの作製に取り組みながら、ミュウ達を迎えに行こうと思う。ゲートを開いてもいいんだが、クリスタルキーは使用魔力量に比例して空間を繋げるもので、地球までだと俺の全魔力の三倍から四倍くらいが必要だから、極力使いたくないしな」

 ちなみに、クリスタルキーの持ち手側に付いている正十二面体の結晶は、地球へのゲートを開くのに必要な一回分の魔力を溜め込むこと出来る機能が付いている。流石、概念魔法というべきか、その燃費は頗る付きで悪い。

 先程、実験的に開いた樹海へのゲートだけでも、香織に回復してもらった魔力のうち相当な量を持っていかれたのだ。同じ世界の中で移動するなら、行き先にあらかじめ“ゲートホール”を設置しておく必要があるとは言え、“ゲートキー”の方が遥かに使い勝手がいい。

 ちなみに、“ゲートキー”は王都滞在中に開発できたものなので、ミュウ達のいる海上の町【エリセン】にはない。迎えに行くなら飛空艇“フェルニル”が有用だ。

「なら、その間に、鈴達は魔人領に行ってくるよ。……せっかく手に入れた神代魔法だし、出来れば強力な魔物を従えて行きたいところだけど……」

 よく休んだおかげで気力も魔力もほぼ完全に回復している。今なら、神代魔法の発動に挑戦も出来るだろう。

 だが、生憎と【氷雪洞窟】内の魔物はフロスト系しかいない。炎系魔法が効果を発揮しにくい迷宮内ならともかく、外の世界では弱点を突かれやすく、また強みである周囲の氷を利用した再生能力も期待できない。はっきり言って、外の世界へ従えていくには不向きな魔物だった。フリードの魔物の中にフロスト系がいなかったのもそういう理由だろう。

 ハジメは、それを聞いて少し思案顔になると、おもむろに取り出した “ゲートキー”を鈴に投げ渡した。わたわたと手を動かして何とか受け取った鈴が首を傾げる。

「俺とユエは、魔力が完全回復するまでもう少し休む。そのゲートキーはフェアベルゲンに設置したゲートホールと繋がっているから、樹海の魔物でも従えてみたらどうだ? あそこは気配操作の上手い魔物が多いからな。従えて強化してやれば、中々、有用だと思うぞ?」
「なるほど……うん、やってみるよ。ありがとう、南雲君!」

 嬉しそうに笑う鈴に、手をひらひらとさせるハジメ。

 結果、鈴達はハジメ達が休んでいる間に、樹海へと魔物の捕獲に出かけることになった。光輝も付いて行ったのは手伝いをするという名目だが、単に残ってハジメといるのが嫌だったからだろう、という推測は、彼の凄まじく複雑そうな表情から外れてはいないだろう。

 なお、ユエ、シア、ティオは残っている。魔人領に乗り込むわけでもないので戦力の拡充は不要だからだ。香織だけは、雫達が心配だから付いて行った。

 それからしばらく、魔力の回復と使用した魔晶石への魔力補充に専念しつつ、ゆったりとした時間を過ごした。ハジメなどは、どこか今までにない穏やかな雰囲気すら漂わせていた。物欲しそうにしているティオにまで抱きつきとナデナデを許し、どこか甘い雰囲気を醸し出したハジメに、当のティオ本人が一番驚いていた。

 帰還手段を手に入れたことが、ハジメの心にゆとりを与えたのだろう。ちょっかいを掛けて罵ってもらおうと画策していたティオは、予想外に優しい眼差しと手付きで抱き締められ、「普段の変態は何処に行った!?」とツッコミを入れたくなるほど、テレテレ、もじもじと恥じらいながら目一杯、ハジメに甘えていた。

「むぅ、ご主人様が優しい……痛くされるのが最上と思っておったが、これはこれで悪くない、というか物凄く幸せな気分じゃ。同じくらい恥ずかしいが」
「ティオさん、普段からそうしていれば、非の打ち所のない魅力的な女性ですのに……」
「……ん。やっぱり、ハジメは責任を取るべき、かも」

 顔を真っ赤にしつつ、蕩けた表情でハジメの胸元に身を預けるティオに、シアとユエが苦笑いを浮かべながら呟く。ユエの発言には、ハジメも苦笑いを浮かべずにはいられなかった。

「まぁ、今更、ティオが他の男をご主人様とか呼んだら、それはそれで思うところがあるが……」
「ほ、ほぅ? ご、ご主人様よ。そ、それはどういう意味……もしや、妾もシアと同じ……」
「ほら、懐いてた駄犬が、突然手の平を返して他の奴に尻尾振ると、イラっと来るみたいな?」
「んんっ、ここでい、犬扱いじゃと……しかも、“駄”をつけおった。ハァハァ、甘えさせ、期待させながら罵倒するとは、なんという高度なテクニックを。ハァハァ、んぁ、たまらんよぉ!」

 ハジメの胸元にグリグリと顔を押し付け、腰元に下半身を摺り寄せる万年発情駄竜。しかし、そんなティオを常時喜ばせているハジメも客観的に見れば大概だった。ユエとシアの呆れたような眼差しがハジメに突き刺さる。

 そんな馬鹿なことをしつつ、全ての魔晶石に魔力を充填し終わった頃、再びゲートが開いて鈴達が帰って来た。彼女達の背後には、大型の虎と狼、そして蛇など樹海の中でも上位に位置する魔物達がいる。どうやら無事に従えることに成功したようだ。

 その後、鈴達は、ユエとティオの簡単な指導のもと、従えた魔物の強化に力を費やした。ユエ達の手伝いもあって、それなりに強化できた魔物達には、ハジメ印の首輪が付けられた。この首輪には、ゲートホールが組み込まれており、鈴達がゲートキーを使用することで、いつでも呼び出せるようにしたのだ。普段は、樹海などで好きにさせておけばいい。

 そうして、ハジメとユエの魔力も完全に回復し、いよいよ【氷雪洞窟】から出発することになった。ハジメ達は共に帰還する者や別れを告げたい者達の元を巡りながら召喚防止用アーティファクトの作製に勤しみ、鈴、雫、香織、龍太郎、光輝の五人は魔人領にいるであろう恵里の元へ向かう。

「ハジメさん、これを」

 氷の邸宅を出たところで、シアがハジメに垂れる水滴を模したようなペンダントを手渡した。氷のように青みがかった透明の石で、中にヴァンドゥル・シュネーの紋章が掘られている。【氷雪洞窟】の攻略の証だ。ハジメとユエが気絶したあと、部屋に壁の一部が溶けて現れたのを回収しておいたのだ。

 それを受け取って、ハジメは、泉の直前にある足場に描かれた魔法陣の上まで歩を進めた。ハジメが、魔法陣に足を踏み入れた瞬間、

ビキビキッ

 と、音を立てて眼前の泉が凍てつき始め、徐々に盛り上がっていく。そうして、巨大な十メートルほどの卵型の氷塊となったそれは、やがて膨張と氷結を止めると、直後、バリンっ! と音を立てて砕け散った。

 砕けた氷卵の奥から現れたのは、氷で出来た竜だった。半透明の、クリスタルで出来たような光沢を放つ壮麗な竜だ。

 氷竜は、その長い首をスロープとするようにハジメの足元へスっと頭を垂れた。どうやら、この氷竜に乗って出るのが【氷雪洞窟】のショートカットらしい。

「これまたファンタジーなショートカットだな」
「……ん。ご褒美?」
「試練の内容の嫌らしさとはかけ離れた心遣いですね」

 それぞれ感想を漏らしつつ、ハジメ達は互いに頷くと、鱗が階段のようになっている首を伝ってその背中に乗り込んだ。

 直後、氷竜はバサッ! と翼をはためかせると一気に上昇した。天井の氷壁がみるみるうちに迫って来るが、衝突する寸前で溶けるように氷壁に穴が空き、円柱形の通路が出来上がった。

 その通路を、氷竜は全く速度を落とさずに突き進んで行く。

 耳に響く風切り音や肌を撫でる涼風、「ご主人様を背に乗せていい竜は妾だけじゃ……今からでも乗り換えんか?」という誰かの戯言を楽しみながら、氷のトンネルを飛翔すること十数秒。ハジメ達を乗せた氷竜は、遂に見えた地上の光へと一気に飛び込んだ。

 そのまま地上に降ろされるのかと思っていたハジメ達だが、氷竜は全く止まる気配を見せずに上昇を続ける。そして、そのまま【シュネー雪原】の曇天に突っ込み、ボバッ! と音を立てて飛び出すと、太陽が燦々と照りつける雲海の上を優雅に飛翔し始めた。

「太陽の位置からすると北西に向かってるのか。……どうやら、親切なことに雪原の境界まで送ってくれるらしいな」
「……ん。ミレディとメイルは見習うべき」
「私、解放者って女性の方が悪辣な気がします」

 雪原の西は魔人領であり、北は【ライセン大峡谷】、東は【ハルツィナ樹海】だ。北西に進んでいるということは、魔人領にも北大陸にも、どちらにも行きやすい場所に降ろしてくれるということなのだろう。しかも、上空の冷えた空気を余り感じないので、氷竜を媒介に簡易の結界も敷いてくれているようだ。

 確かに、大迷宮を攻略したあと、極寒の雪原に放り出されるのは勘弁であるが、一部解放者の所業を思えば、「なんという気配り!」と、ハジメ達は少々感動してしまった。

 そして、シアの推測はきっと間違っていない。人を苛立たせるエキスパートのような奴とか、ショートカットと言いながら海中に放り出す奴とか、ゴキブリを強制的に好かせる奴とか……きっと、過去の男性解放者達は、彼女達が巻き起こしたであろうあれこれに相当苦労したに違いない。

 そうこうしていうちに、氷竜は徐々に高度を下げ始めた。どうやら、着陸場所に近づいて来たようだ。氷竜は、雪原の外には出られないのか、上空を通って境界の外には出てくれないようで、再び、曇天へと突っ込んだ。

 そして、境界からは目と鼻の先といった場所に柔らかく着地した。思わず、丁寧に礼を言いつつ労うハジメ達。氷竜は、気にするなとでも言うように尻尾を振ると、再び飛翔して雪原の奥地へと消えて行った。

 視界を覆う吹雪を鬱陶しく思いながらも、雪原の境界は直ぐそこなので足早に移動するハジメ達。

 だが、その時、ハジメの感覚とシアのウサミミが何かを捉えた。二人の眼が剣呑に細められる。

「全員、警戒しろ。境界の外に色々いやがるぞ」

 ハジメの警告に、緊張が走る。全員が武器に手を掛けながら、視界を閉ざす吹雪の向こう側へ出た。

 そこには……

「やはりここに出て来たか。私のときと同じだな。……それで、全員攻略したのか? 白髪の少年よ」
「ふふ、光輝くん、久しぶり~。元気だった?」

 二回りは大きくなった白竜とその上に騎乗するフリード、灰竜を主とした数多の魔物、灰色の魔力の翼を広げた恵里、そして、数百体はいるであろう、おびただしい数の、銀翼を生やした同じ顔の女“真の神の使徒”――ノイントが待ち構えていた。



いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます。

今話にて、第七章は終了となります。
なんだか終わりが中途半端な感じがしますが、一応、大迷宮は攻略して一区切りついたので、ここで章の終わりとさせて頂きます。

さて、次はいよいよ最終章です。
それに伴い、今更感はありますが、後付けで布石を打ったり(既に布石じゃない気がしますが)、設定を追加したりするかもしれません。
もし改稿するとなったらお知らせ致します。思いつきの連続で書き続けている作品なので、すみませんが一つ「あらあら、まぁまぁ」と見守って頂けると嬉しいです。
取り敢えず、そろそろ白竜に名前くらいつけてやるか……

それでは、最終章もよろしくお願いします。

次回の更新も、土曜日の18時の予定です。
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