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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第七章

137/271

シュネー雪原

新章開始。
楽しんでもらえれば嬉しいです。
 太陽の光を浴びてキラキラと光りながら、雲海の上を滑るように飛行する物体がある。言わずもがな、飛空艇フェルニルだ。

「見渡す限り、ずっと雲海ですねぇ~」
「……ん、シュネー雪原は常に曇天に覆われてる。外は極寒」

 ブリッジの窓から外を眺めつつ呟いたシアに、ユエが頷きながら説明した。

 【シュネー雪原】――【ライセン大峡谷】によって真っ二つに分けられる大陸南側、その東にある一大雪原だ。年中曇天に覆われており、雪が降らない日が極まれにあるくらいで晴れることはなく、ずっと雪と氷で覆われた大地が続いている。

 東の【ハルツィナ樹海】と南大陸中央に位置する魔人族の国ガーランド魔王国の間に挟まれており、どういうわけかそこに壁でもあるかのようにピタリと雲も氷雪も突然区切れているという不思議な場所だ。おかげで、樹海にも魔国にも氷雪被害は一切ない。

 その雪原の奥地にかなり大きな峡谷がある。氷と雪で出来た峡谷だ。その峡谷の先に最後の大迷宮である【氷雪洞窟】がある。一般的には、たどり着くまでに寒さ等で消耗して倒れるか、どうにか洞窟にたどり着いても誰一人帰っては来なかったので、その生存困難性から、おそらく大迷宮の一つだろうと目されていた。

 もっとも、ハジメ達はミレディ・ライセンから聞いていたので最初から【氷雪洞窟】が大迷宮であると分かっていた。そんなわけで、わざわざ飛空艇という超便利道具があるのに曇天の下を吹雪かれながらえっちらおっちら進むこともないと、真っ直ぐ洞窟目指して快適な空の旅をしているわけである。

「どうじゃ、ご主人様よ。きちんと羅針盤は機能しておるかの?」

 そう尋ねたのはティオだ。彼女の視線の先には、ハジメが手に持つ掌くらいの大きさの羅針盤があった。

 これはリューティリス・ハルツィナから貰い受けた“望んだ場所を指し示す”という概念魔法が込められた羅針盤で、【氷雪洞窟】の正確な場所を望んで発動しているのである。

「ああ。大丈夫だ。にしても、改めて思うが凄いな、これ。単に羅針盤の針が望んだ場所に向くだけじゃなく、何となく目的の場所とか、そこまでの距離とかが感覚でわかるなんてさ」
「そうだね。地球の場所も何となくわかったもんね。ホントに説明が難しい感覚だったけど」

 ハジメの感嘆混じりの言葉に香織が同意した。フェアベルゲンにいるとき、試しに地球の座標を羅針盤で調べてみたのだ。すると、何とも説明し難い感覚で、何となく地球の存在を感じたのである。概念魔法のぶっ飛んだ力に驚きつつも、故郷の存在を感じて歓喜したのは言うまでもない。

 もちろん、ぶっ飛んだ能力に見合った対価は必要だ。探し物との距離に比例して消費魔力も増えていくのである。地球の座標を調べた時は、ハジメをして一発で魔力枯渇の危機に陥ったほどだ。幸い、枯渇する前に魔晶石から補充できたので気絶という無様は晒さなかったが。

 窓辺から戻って来たシアが、ハジメの腰掛けるソファーに近づく。ハジメの右隣には、いつも通りユエがピタリとくっついて座っており、左隣は元々シアが座っていた場所だ。なので、窓辺から戻って来ただけなのだが……いつものように飛び込むでもなく僅かに歩みを迷わせた。

 怪訝に思ってハジメが視線を向ければ、どうやら座る位置を測っているらしく視線を彷徨わせながらもじもじしているシアの姿があった。ハジメから正式に恋人扱いされたせいか、逆に今までのように遠慮なく抱きつくことに照れを感じているらしい。

 ハジメは、そんな愛らしいシアの姿に頬を緩めると、自らその手を引っ張って自分の隣にピッタリと座らせた。

「あぅ」
「今更照れるなよ。見ているこっちがハズイだろ」
「……シア、可愛い」

 若干、呆れたような表情で笑うハジメに続いて、ユエが微笑ましいというように目を細めながらそんなことを言った。香織が羨ましそうにしながらも、ユエの言葉に同意するようにコクコクと頷く。

 そんな中、対面のソファーで垂れていたティオが実に厭らしい笑みを浮かべながら席を移動し、シアの隣に腰掛けると肩を抱きながら尋ね始めた。

「くふふ、確かに、また一段と可愛くなったのぉ。で? シアよ、初めての夜はどうだったんじゃ? うん? 痛かったのか、それとも気持ちよかったのか? どうなんじゃ? ちょっと妾に教えてたもう。微に入り細を穿って報告するのじゃ。ほれほれ~」
「い、言いませんよっ! 言うわけないじゃないですかっ!」
「何じゃ? 言えないほど、ご主人様は下手じゃったのか? うん?」
「そんな事ありませんっ! むしろ、すごくて……私ったら何度も…って何言わせるんですかっ!」

 昨晩、シアに何があったのか。取り敢えず、フェアベルゲンでの最後の夜は、ハジメとシアだけで過ごしたとだけ言っておこう。出歯亀は、ユエが断固として阻止した。特に、某森人族のお姫様はきついお仕置きを受けたので、現在も恍惚の表情で床に伏せていることだろう。

 羞恥心がマッハになったようで、シアは両手で顔を覆いながら小さくなってしまった。色んな意味で、初めての夜は衝撃的だったようだ。ハジメは歴戦の戦士とも言えるので仕方ないかもしれない。ちなみに、ハジメを夜の超戦士にしたのは、言うまでもなくユエである。

 舌舐りしながら妖艶な笑みを浮かべて「今度は三人で……」等と呟いているエロ吸血姫や「次は私も……」と物欲しそうに潤んだ瞳を向けてくる同級生を尻目に、ハジメは小さくなっているシアを抱き寄せなだめながら、取り敢えずティオにデコピンをかましておいた。

 ズバンッ! と凄まじい音を響かせながら吹き飛び、恍惚の表情で床をのたうち回るティオを全員全力でスルーする。

「い、いよいよ最後の大迷宮ですね! 早く攻略してミュウちゃんを迎えに行ってあげたいですね!」

 場の微妙な雰囲気を払拭しようと、殊更明るくシアが話を逸らした。その必死さに思わず失笑しながらもハジメが話に乗る。

「そうだな。それに、カム達とも時間を作らないとな」
「ハジメさん……」

 気遣うような眼差しを向けながら優しくシアの頭を撫でるハジメ。シアは、そんなハジメに、ふわりと微笑みながら気にするなというように頭を振った。

 実は、ハジメはカム達に対して、この世界を離れて地球に来ないかと提案したことがある。もちろん、先の帝国との戦いでカム達の決意を聞いているが故に、その答えについては確信に近い予想をしていたが。

 案の定、カム達の返答は“否”だった。その理由はもちろん、この世界で権利を掲げることが新生ハウリア族の決意だからだ。地球で、それもハジメのアーティファクトで種族を隠しながら平穏に浸ることは、一度進むと決めた道を逸れることになるからだ。彼等は、この亜人族にとって厳しすぎる世界で戦い抜くと決めているのである。

 家族と離れることになるシアを想い、納得しながらも溜息を吐かずにはいられなかったハジメに、カムは穏やかに、嬉しそうに笑いながら「シアを幸せにしてくれるだけで十分だ」と語った。紛れもなく父親の顔だった。

 やろうと思えば、神からの干渉を防ぎつつ両世界を行き来することは可能かもしれない。それでも、唯でさえ全容の掴めない概念魔法の行使となればすんなりとはいかないだろう。直ぐに再会するというのは非常に難しい試みだった。

 なので、ハジメとしては最後の日くらい家族で過ごさせてやりたいと思ったのだ。

 そんなハジメの心情を察して、シアは幸せそうに微笑みながら口を開いた。

「父様達とのお別れは十分に済ませました。心を砕いて下さるのは嬉しいですけど、あまり気にしないで下さい。その方が父様達も嬉しいはずです」
「そうか?」
「はい! ふふ、ミュウちゃんの時も思いましたけど、ハジメさんって身内には過保護ですよねぇ~」

 可笑しそうにクスクスと笑うシア。それに合わせてユエがハジメの腕を抱きしめながら悪戯っぽく瞳を輝かせる。

「……ん。ハジメはあまあま。溺れないように注意が必要」
「あはは。確かに、ハジメくんに甘えすぎるとダメになりそうだね」

 香織まで、そんなことを言いながら面白そうに笑うものだから、ハジメとしては仏頂面になるしかない。なんだが、ダメな女製造機みたいに言われているようで非常に居心地が悪かった。

 そこへスライド式の扉を開いて光輝達が入ってきた。彼等はハジメが作り直したアーティファクトの扱いに慣れるため鍛錬をしていたのだが、どうやら一区切りついたようだ。足元で未だ気持ち悪い笑みを浮かべて額を赤く腫らしているティオに一瞬ギョッとするものの、直ぐにスルーしてソファーに腰掛けていった。

「アーティファクトの方はどうだ? 大分慣れたか?」
「あ、ああ。驚いたよ。出力は倍以上だし、新しい能力もかなり有用だ」

 ハジメの質問に、光輝が腰の聖剣を撫でながら複雑な表情で感想を述べた。あっさり強くなったことに少々思うとことがあるようだ。

「いや、マジですごいぜ! 空中を踏むって感覚は戸惑ったけどよ、慣れればマジ使える。重さを増減できるのも最高だなっ!」
「鈴も、大満足だよ! 種類は限られるけど、今までとは比べ物にならないくらい結界を操れるんだもん。ありがとう! 南雲くん!」
「私も問題ないわ。むしろ、能力が多すぎて実戦での選択に戸惑わないか不安だけど……そこは経験値を稼ぐしかないわね」

 どうやら全員、ハジメに魔改造されたアーティファクトに満足したようだ。今度こそ大迷宮を攻略してやると相当気合が入っている。特に、鈴は恵里のことがあるので、文字通り目の色が変わるほどの意気込みを見せていた。

「そいつは重畳。完全に使いこなせれば単純に考えても戦闘力は数倍になる。それなら魔人領に行っても問答無用に潰されることはないだろう。まぁ、せいぜい気張れよ」

 そっけない態度のハジメだが、与えた力は本物だ。鈴達が目的を果たすには有り難すぎるほどの恩恵である。何となく鈴達の脳裏に「ツンデレ乙」という言葉が浮き上がった。恐いので誰も口にしないが。

 と、その時、ハジメが不意に視線を前方に向けてスっと細めた。雰囲気も、リラックスしたものから真剣なものへと変わる。察したユエが尋ねた。

「……着いた?」
「ああ。雲の下に降りるぞ」

 その言葉と共にハジメに操作されたフェルニルが雲海に突入する。一瞬で窓の外が灰色一色に塗りつぶされ、全員が瞳に真剣さを宿して外に視線を向けた。

 雲の中を通ったのはほんの数秒ほど。直ぐにボバッと音をさせて曇天を突き抜けた。窓の外では吹雪が猛烈に荒れ狂っており、フェルニルの表面をピキピキッと一瞬で凍てつかせていく。

「確かに“極寒”というに相応しい有様じゃな。……妾、寒いのは余り得意ではないんじゃがのぅ」

 眼下の銀世界と視界を閉ざす猛吹雪を見て嫌そうに目元を歪めながらティオが愚痴る。他のメンバーも見るからに寒そうな外界にブルリと身震いした。

「グリューエン大火山の時の轍は踏まねぇよ。全員、俺が渡した防寒用アーティファクトは失くすな。それがあれば常に快適な大迷宮の旅が約束されるからな」
「……ん。ハジメのお手製。素敵」
「ですねぇ~、雪の結晶をモチーフにしてる辺りがなかなか憎いです」
「ハジメくんからの贈り物第三弾……えへへ」
「……ご主人様よ。なぜ妾だけ、ちっちゃな雪だるまなんじゃ? いや、これはこれで可愛いとは思うんじゃが……妾も出来れば意匠を凝らしたアクセサリーが……」

 それぞれ雪の結晶をモチーフにしたペンダント型防寒アーティファクトを贈られご満悦の様子。実際、細かなところまで意匠を凝らしており、水色がかった半透明の石の内部が光を吸い込むように煌くので非常に美しい作りになっていた。

 もっとも、ティオだけ、やたら陽気な容貌のアメリカンな笑いが聞こえてきそうな雪だるま型ペンダントだったので、悲しげに少し眉根を下げてしまった。チラチラと他の美しいペンダントと自分の雪だるまを見比べて物欲しそうな表情をしている。

「お前の性癖が快方に向かったら、祝いに何か贈ってやるよ」
「!? それはつまり、一生妾には女らしい贈り物をせんということかっ!? 酷い! 酷すぎるのじゃ、ご主人様よっ! 痛くされるのは好きじゃが仲間はずれは嫌じゃ! 妾にも、もっと可愛らしい贈り物をしてたもう!」
「……性癖が治らないのは確定事項かよ……」

 泣きべそ掻きながら縋り付くティオに、心底呆れたような表情を向けるハジメ。そんなティオとハジメを見ながら、鈴と雫が顔を見合わせる。

「……シズシズ。鈴達のなんか作った感すらないよね。どう見ても唯の石ころだよ。これなら、まだ雪だるまの方がいいよ」
「言わないで鈴。扱いの歴然とした差に悲しくなるから……」
「そうかぁ? 別に唯の石ころでも効果があるんならいいじゃねぇか」
「……龍太郎。そういうことじゃないと思うぞ」

 雫達の手元には、河原で拾ってきた唯の石にしか見えない物体があった。本当に鉱石に防寒の効果を付与しただけのもので何の加工もされていない。ユエ達が嬉しげに身に付ける美しいペンダントと手元の石ころを見比べて鈴と雫がしょぼんと肩を落とし、龍太郎が空気の読めない発言をして珍しく察したらしい光輝が困ったように笑う。

 そうこうしている内に、フェルニルは大きな大地の割れ目が幾条にも広がっている場所にたどり着いた。【氷雪洞窟】に続く【氷雪の峡谷】だ。迷路のように入り組んだ氷雪の峡谷の奥地に洞窟の入口があるはずなのだ。

 ハジメは、フェルニルを操作しながら“遠見”を使いつつ峡谷に沿って進んでいく。本来なら深い谷底を探索しながら進んで行かねばならないのだが、フェルニルのおかげで大幅にショートカットだ。

 しばらく進むと、峡谷の終わりが見えた。【氷雪洞窟】の入口は見えず、ハジメが首を傾げる。

「ん? ここで終わりか? 羅針盤はもっと先だと示しているんだが……」
「……ハジメ、見て」
「どうした?」

 外界の様子をズーム機能付きで映せる水晶ディスプレイを見つめながらユエが指を指した。ハジメがその場所を見ると、どうやら峡谷の幅が狭くなっているらしく、上に氷雪が降り積もって巨大なドーム状通路になっているらしい。峡谷自体は奥まで続いているようだ。

「しょうがない。ここからは地上を行くか。洞窟までは一キロもないようだし、問題ないだろう」
「いよいよお外に出るんですね。私、雪って初めてです。ちょっと楽しみかもです」

 ハジメの号令で動き出すメンバー。シアだけ、ちょっとわくわくしているようだ。一面の銀世界に、電車の座席に登って外の景色に齧りつく子供のように目を輝かせていたのは一度も見たことがなかったかららしい。

 大海原を見たときも結構はしゃいでいたのだが、あの時と今では、そんなシアを見たハジメの感じ方が違う。わくわくとウサミミとウサシッポをフリフリするシアが愛らし過ぎて、思わず抱き締めそうになるのをグッと堪えなければならなかった。

 ハジメはガリガリと頭を掻きながら、理性を飛ばさないようそっぱを向くとフェルニルの操作に集中し峡谷の上に着陸させた。幅が狭く、峡谷の底には降ろせなかったのだ。

 下部ハッチを開け外界に出るハジメ達。途端、大量の吹雪が顔面に張り付くように襲い来た。防寒用アーティファクトは、一定範囲内の温度を適温に保ってくれるだけで障壁があるわけではない。念のため着て来たコートのフードを慌てて目深に被り直す。

「わぁ、これが雪ですかぁ。シャクシャクしますぅ! ふわっふわですぅ!」

 そんな中、一人テンションだだ上がりのシア。フードを被ることもなく、それどころか前もきちんと閉めずに全身で吹雪を受け止めると、足を踏み鳴らしたり、手で掬ったりしながら存分に人生初の雪を楽しんでいる。

「おい、シア。行くぞ。あんまりはしゃ『これはもう、ダイブするしかないですよぉ!』……聞けよ」

 シアは子供のようにはしゃぎながら、諌めるハジメの言葉も聞こえない様子で「とぉ!」と元気に声を上げつつ降り積もった汚れ一つない純白の雪にダイブした。

「そして、そのまま奈落の底まで落ちていった……」

 シアがダイブした途端に崩れ、そのままポッカリと深い穴を空けたクレバスのような場所にジト目を向けながらナレーション風に呟くハジメ。

 シアは、「あぁぁぁぁぁぁぁぁ~~」と悲鳴を上げながら大地の割れ目に落ちていったのだ。どうやら、峡谷に沿う形で亀裂があり、その上に雪が降り積もってわからなくなっていたらしい。

「いやいやいや、なに落ち着いているの!? シアさんが死んじゃうわ!」
「ひぃいい、シアシアぁ~~~~!!」

 唖然としていた雫と鈴が顔を真っ青にしながら軽くパニックに陥る。光輝と龍太郎も、まさかの事態に呆然としている。

「落ち着くのはお前らだ。高いところから落ちたくらいでシアがどうこうなるわけないだろう? それより、俺達も下に降りるぞ」

 ハジメは何でもないように手を振り、そのまま崖の上から四百メートルはありそうな谷底に向かって躊躇なく飛び降りた。続いてユエも、あっさり飛び降りていく。

 一応、全員に“空力”の効果を持ったアーティファクトが支給されている上に、魔法で風を起こして落下速度を落とすという方法も取れる。鈴が衝撃吸収の効果を持つ結界を張ってもいい。光輝達にとっても何の問題もないのだが、やはり崖下にフリーフォールするには普通の感性だと勇気がいるものだ。

 そっと谷底を覗いた鈴などは、そのままそっと崖淵から離れると静かに涙目になった。

「これくらいで躊躇していてどうするのじゃ。お主等がやろうとしていることは崖から飛び降りることより遥かに困難なことではないのかのぅ? 震えている暇はなかろう? 瞳に力を入れて気張らんか」

 見かねたティオが背中を押す。精神的に、そして物理的に。

 グイグイと崖淵に押されていく鈴は無意識に足を踏ん張った。気分はバンジージャンプを強いられている芸人である。ただし、ノーロープバンジーだが。

「ま、待ってぇ! 行く、行きますから! 鈴は、やれば出来る子だからぁ! せめて、自分のタイミングでぇ!」
「そんなこと言っておったら日が暮れるじゃろ。ほ~れ、逝ってこぉ~い!」
「やっ、ま、待ってっ、持ち上げないでよぉ! 自分で、自分で行くからぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」

 最終的にティオに持ち上げられた鈴は、そのままポイッと谷底に投げ捨てられた。盛大に上がった悲鳴が木霊しつつ徐々に細くなっていく。

 青ざめる光輝達に、ティオは笑顔でくるりと振り返った。その笑顔が何より雄弁に物語っていた。すなわち「次、逝っとく?」と。

「や、八重樫雫! い、行きますっ!」

 放り投げられるのは勘弁だと、雫は自分から崖に向かってダイブした。水泳の飛び込みのような美しいフォームだった。

 それを見て光輝と龍太郎も慌てて続く。ティオの両脇を通り抜け「うぉおおおおお!!」とか「根性ぉおおおお!!」とか叫びながら崖下へと消えていった。

「うむ。元気がよくて何よりじゃの」

 ティオは一つ頷くと、自らもひょいと跳んで崖下へのフリーフォールを行った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「な、ながないもんっ。す、鈴は、泣がないっ!!」

 氷雪の峡谷に泣きべそが木霊する。

 鈴が小さな体とおさげをぷるぷると震わせながら、今にも零れおちそうな涙を必死に止めていた。実は、少し漏らしてしまったことも涙目の原因だったりするが、絶対に言えない乙女の秘密だった。

 いつもなら直ぐに雫や光輝、龍太郎が慰めるのだろうが、今回ばかりは三人とも少し余力がないようでノーロープバンジーの後の余韻に浸るのに忙しいようである。

「す、鈴ちゃん。そんなにぷるぷるして……可愛い」
「いや、ほっこりしてないで慰めてやれよ」

 そして、頼みの香織は小動物のような鈴にほっこりするばかりで、ハジメのツッコミが入っても眺めているだけだった。

 と、その時、ハジメ達のいる谷底の壁の一角からドゴンッ! ドゴンッ! と衝撃音が響き始めた。同時に、「うりゃあああ!!」という雄叫びも聞こえ始める。

 徐々に亀裂の入っていく谷底の壁。次の瞬間、ドゴォオオッ! と轟音を響かせて壁の一部が崩壊した。そこから、ドリュッケンを肩に担いだシアが悠々と出てくる。

「いやぁ~、参りました。狡猾な罠でしたね。まさか私の童心を弄び谷底に落とそうへぶっ!?」
「アホか。まだ大迷宮じゃないが、ここが危険地帯であることに変わりはないんだぞ。気を抜くな」
「あぅ~、すみません。……ちょっと調子に乗りましたぁ」

 誤魔化し笑いするシアの脳天にハジメの拳骨が炸裂した。叱られたシアは、しょぼんと肩を落とす。追加のお仕置きはほっぺムニムニの刑だ。

 ハジメは片手でシアの頬にお仕置きしながら、もう片方の手で羅針盤を確認する。発動した羅針盤は前方で幾つかに枝分かれしている道の一本を指し示していた。

「こっちだな。お前等、いつまでも呆けてないで行くぞ」

 ハジメが号令をかける。それでようやく鈴達も気力を取り戻したようだ。気合を入れて頷き返した。

 氷雪の峡谷は周囲の全てを氷と雪に覆われており水は流れていない。全て凍てついているのだろう。谷の上ほど吹雪の影響を受けるわけではないのだが、その分、降りてきた冷気が吹き抜けるので体感温度は更に酷いことになっている。

 防寒用アーティファクトがなければ、どれほど厚着していようと容赦なく体温を奪われ体力を削られることだろう。火を起こす手段を失った時点でアウトでもある。おそらく、気温はマイナス三十度、いや、それより更に低いかもしれない。

 氷塊や、何故か地面から生えている氷柱を、時に乗り越え、時に迂回し、時に破壊しながら進む。進めば進むほど風は冷たく強くなり、まるで暴風のようだ。

「これはちと鬱陶しいのぅ」

 ティオが常人なら立つことも難しいほど風が強くなってきたことに鬱陶しそうな表情を見せた。

「あと五百メートルくらいだと思うが……雪が舞い上げられて視界が塞がるのは危険でもあるな。ティオ、風を分散させてくれ」
「承知じゃ」

 ティオがハジメの言葉に従って風を左右に逸らそうと魔力を練り上げる。しかし、その魔法が発動する前に制止の声がかかった。

「待って、それは鈴にやらせて!」

 そう、鈴だ。

 気合十分といった雰囲気で「ふんすっ」と鼻息を荒くしている。その両手には、ハジメにより貰い受けた新たなアーティファクトである二つの鉄扇が握られていた。

 この鉄扇には、雫の黒刀と同じく幾つかの神代魔法と能力、そして血を利用した詠唱省略機能が付与されている。中でも、新たに手に入れた昇華魔法により、鉄扇に刻んである魔法陣の魔法だけは一段進化したレベルでの行使が可能となっている。

 フェルニルの甲板で随分練習していたようだが、やはり実際に必要な場面で使い慣れておきたいのだろう。鉄扇の要部分には、ハウリア専用武器と同じく魔力を吸収して溜め込む機能もあり、消費魔力も軽減してくれるので魔力温存に気を配るより早く実地で使っておくというのは悪くない考えだ。

 ティオが、そういう意図を以てハジメに視線を向けるとハジメもまた同じように考えたようで了承を示した。

「よっし、それじゃいくよ! ――“聖絶・散”!!」

 鈴が魔法名を唱えると同時に、ハジメ達の前方に淡い光を放つ半透明の障壁が出現した。緩く前方に向かって曲線を描いた障壁は中心部から外側へ波打つように光の波紋を発生させている。

 これは、光系防御魔法の“聖絶”に、接触した対象のエネルギーを分散させる性質を付与した魔法だ。一方の鉄扇で無詠唱に近い結界を発動し、他方の鉄扇で付加能力を組み合わせるという一対の鉄扇の能力の一つである。強度は聖絶レベルでありながら魔力運用は極めて効率的で中級の下位レベルの消費で済む。

 鈴の目論見通り、前方から吹き付ける暴風は障壁に当たると威力を散らされ、微風となって脇へと流されていく。

「……ん。悪くない」

 鈴の障壁を見てユエが感想を漏らした。昇華魔法により扱いが一段に進化した“聖絶”は、魔法の天才からお墨付きを貰えるレベルらしい。鈴の頬が綻んだ。

 暴風を逸らし、快適になった道を進む。

 と、突如先頭を行くハジメが立ち止まり、スっと目を細めながら前方を注視した。

「……あれか?」

 ハジメの視線を辿ると、行き止まりの先に二等辺三角形のような綺麗な形の縦割れが見えた。羅針盤を確かめると、その針は真っ直ぐその割れ目を示していた。羅針盤からの感覚でも、そこが【氷雪洞窟】だとわかる。

「着いたみたいですね。……でも、ハジメさん」
「ああ。わかってる。何か来るぞ。全員、備えろ!」

 シアがウサミミをピコピコしながら瞳を剣呑に細めた。洞窟の暗がりの奥に複数の気配を捉えたからだ。それはハジメも感知していたらしく、全員に警告を発する。ユエ、香織、ティオは自然体だが、光輝達の間には緊張が駆け抜けた。

 直後、

「「「「「ギギギギギィ!!」」」」」

 奇怪な雄叫びを上げながら、五体の魔物が洞窟より猛然と飛び出してきた。

 白い体毛に全身を覆われたゴリラのような姿。しかし、体長は優に三メートルはありそうだ。だが、ゴリラよりも二足歩行に向いていそうな体型をしている。

 敢えて言うなら、

「ビッグフット?」
「さ、流石、異世界だね。こんな所で雪山定番のUMAに出会うなんて……」

 ハジメの呟きに、香織が引き攣った笑みを浮かべた。ハジメが少し有名なUMAに出会えたことを喜びながら、取り敢えず殺すかとドンナーを抜きかけたとき、今度は雫がそれを制止した。

「南雲くん。悪いけど、私達だけでやらせてちょうだいっ! 光輝、龍太郎、鈴!」
「お、おう!」
「よしゃぁあ! やるぜぇ!」
「絶対、負けないからねっ!」

 雫の号令で光輝達も前に出る。先の鈴と同じで新アーティファクトを使った実戦経験を積みたいのだろう。香織も含めて手出し無用で見ていて欲しいということだ。

 ハジメは肩を竦めてユエ達と共に壁際へ退避した。腕を組み、完全に観戦モードである。香織だけは、はらはらした様子で両手を祈るように合わせている。

「――“起きなさい、黒刀”!」

 そんなハジメ達の前で、発動の詠唱を高らかに唱えた雫が初撃を繰り出した

「切り裂け、“飛爪”!!」

 敢えて一節の詠唱を入れたのは発動する能力を己の中で確かなものとして実感するため。そうして発動されたのは“飛ぶ風爪”。不可視の斬撃が目標を両断せんと迫った。しかし、ビッグフット達は動物的な勘が働いたのか、その場で忍者のように散開し回避してしまった。

 しかし、それは雫にとって最初から想定済みだったようだ。

「鈴っ!」
「了解! 二体は任せて!」

 間髪入れず光輝が鈴の名を呼ぶと、鈴もまた打てば響くように返した。そして、前衛三人が、それぞれ散開したビッグフット一体一体に急迫するのを横目に、残りのビッグフットに向かって鈴の魔法が発動する。

「地を這え、“聖絶・重”!」

 詠唱と共に向けられた鉄扇の先、ビッグフットの一体を中心に燦然と輝く球状の障壁が出現した。それは攻撃を防ぐ為の障壁ではなく、対象を閉じ込めるための障壁だ。

 光のドームに閉じ込めたれたビッグフットが雄叫びを上げながら障壁を殴りつけ、あるいはその爪で引き裂こうとするが障壁は一向に破れる気配はない。

 と、その時、鈴の頭上に影が差す。跳躍したビッグフットが飛び掛って来たのだ。それに気がついた香織が思わず声を上げようとしたが、それより鈴の魔法が発動する方が早かった。

「呑み込め、“聖絶・爆”!!」

 鈴の頭上に一メートル四方の輝く障壁が現れ、刹那のタイミングで振り下ろされたビッグフットの豪腕と凶爪をギャリィイイ!! と音を響かせてせき止めた。

 そして、その瞬間、

ドゴォオンッ!!

 轟音を響かせて障壁が盛大に爆発した。指向性を持たされていたようで、鈴には一切の影響なく、頭上へ向けて障壁の残骸を撒き散らしながら鈴の橙色の魔力が波紋を作った。

 衝撃と砕けた障壁の残骸でその身を切り裂かれたビッグフットは、血飛沫を撒き散らしながら十メートルほど吹き飛んだ先で何とか起き上がる。血走り怒りに燃える眼差しを鈴に向けるが、警戒心から直ぐに動き出さない。いや、衝撃でまだ動けないのかもしれない。

 なにせ、このビッグフットが喰らったのは左の鉄扇に込められた“衝撃変換”を聖絶に付与したものだからだ。いわゆる、バリアバーストというやつである。

 他方、最初に聖絶に囚われたビッグフットの方は、ダメージがないにもかかわらず地面に膝をついていた。原因は“聖絶・重”である。重力魔法が付与された聖絶により、その内部に囚われたものは注がれる魔力に比例して加重されていき、二重の方法で動きを封じられるのである。

 しっかりと二体のビッグフットを抑えた鈴。油断なく一対の鉄扇を構える彼女の前方では、前衛組がビッグフット達と切り結んでいた。

 雫が無拍子からの高速移動でビッグフットの背後に回り込み、鞘走りと技能によって加速された抜刀術を繰り出す。刀身を認識させない程の抜刀速度。空に黒の軌跡だけが残る。

「ギィイイイッ!?」

 余りの速度に背中をざっくりと斬られたビッグフットだったが、どうにか致命傷だけは回避したようだ。悲鳴を上げながらも距離を取ろうと跳躍し、同時にその極太の腕をグイッと頭上に掲げた。

 直後、雫の周囲の地面から無数の氷柱が飛び出した。どうやら、このビッグフット、氷を操る固有魔法を持っているようだ。

 雫は咄嗟に跳躍して回避するが、氷柱はミサイルのように地面から飛び出し追撃してくる。

 それに対して黒刀と鞘をクロスさせて詠唱をする雫。

「集え、“引天”!」

 すると、ばらばらに飛んできた氷柱がスっと軌道を変えると、まるで磁石に引き付けられる砂鉄のように黒刀の刀身と鞘にピタリとくっついてしまった。当然、雫の体には一発たりとて通ってはいない。

「飛べ、“離天”!」

 全ての氷柱が重なるように黒刀に引き寄せられたのを確認すると、雫は、そのまま空中からお返しとばかりに氷柱を解き放った。

 “引天”“離天”――重力魔法を使った引き寄せと引き離しの能力である。

 自分の放った攻撃がそっくりそのまま返されたビッグフットは、背中の傷で動きを鈍らせながらも氷柱を回避し、今度は足元に氷で出来た道を作った。そして、その上を滑り始める。

「……何だか、様になっているわね」

 着地しながら雫が呟く。その言葉通り、滑りながらも次々と進路上に氷の道を生み出し続けるビッグフットは前傾姿勢となって大きく両腕を振り、どんどん速度を増していった。その姿は、どこかスピードスケートを彷彿とさせる。

 見れば、光輝達と相対していたビッグフット達も手傷を受けて鈍った動きを補完するためか氷の道を生み出しながらスケーターのように美しいフォームで縦横無尽に谷底の空間を滑り始めていた。

 そして、三体のビッグフットは、そのまま少し離れところで合流すると体毛をなびかせながら縦一列になって突進してきた。腕の振りまで完全にシンクロし、シャーシャーと音を立てながら迫ってくる姿は、まるで「ジェット○トリームアタック!!」といった感じである。

「正面から来てくれるなら、むしろ好都合だ!」

 雫の傍らに来た光輝が、聖剣を大上段に構え凄まじい勢いで光を集束する。

 そして、

「翔けろ、“天翔剣・震”!!」

 輝きながら曲線を描く斬撃が、周囲に衝撃を撒き散らしながら放たれた。

 “天翔剣・震”――聖剣に新たに付加された“衝撃変換”の能力を斬撃と共に放つ技だ。

 底上げされた聖剣の本来の力と合わせて絶大な威力を誇る斬撃と衝撃がビッグフットを撃滅せんと迫る。光輝が技を放っても変わらず真っ直ぐ突っ込んで来るビッグフット達。その様子を見て勝負あったかと思われたその時、ビッグフット達は信じられない方法で回避行動に出た。

「なっ、トリプルアクセルだとっ!?」

 光輝が驚愕の声を漏らす。その言葉通り、何とビッグフット達は斬撃と衝撃をフィギュアスケートでよく見るトリプルアクセルを決めながら回避したのだ。しかもご丁寧に、その時だけ三体のビッグフットは横一列に隊列を組み換えており、中々芸術的な同時ジャンプとなっていた。

 三体のビッグフットは回転しながら光輝達のもとへ跳び、着地と同時に振り上げた片足の爪で鋭い斬撃を放ってきた。

「ッ!?」
「うおっ!?」

 雫と光輝が、その流れるような蹴りを防ぎながらバックステップで距離をとる。

「うらぁあああっ!!」

 直ぐに後ろに迫っていた龍太郎が、片足でスイーと滑るビッグフットの一体に横から衝撃波を飛ばす正拳突きを繰り出した。しかし、その一撃を、やはり生み出した氷の上を滑りながら大きく仰け反るようにしてかわすビッグフット。腰から上だけを綺麗に後方へ曲げて、優雅に長い腕を伸ばし、両足を水平にしてスィーと滑っていく姿は……さながらイナバウアーのようだ。

「ふ、ふざけやがってぇ!」
「ちょ、落ち着きなさい、光輝!」

 今度こそ大迷宮を攻略してみせると意気込んでいた光輝は、初戦の敵のあんまりな戦い方に馬鹿にされたように感じて歯をギリギリと軋ませる。

 そんないきり立つ光輝を馬鹿にするように華麗なステップを踏みながら三方向から迫ってきたビッグフット達は、更なる大技で光輝達を強襲する。その大技とは、プロフィギュアスケーターも腰を抜かすに違いない“八回転トゥループ”だ!

 しかも両手を大きく広げており、凶爪が描く軌跡と相まって、まるで巨大な掘削機が三方から迫って来ているかのようである。

「はぁ、――“閃華”」

 そんな中、雫は、その優れた動体視力で捉えた回転中のビッグフット達のドヤ顔に嫌そうな表情で溜息を吐くと、スっと腰だめに構えた黒刀をごく自然な動作で抜刀した。呟くような詠唱と共に抜かれた黒刀は宙に一本の線を描く。同時に、光輝を促して“空力”で頭上に飛び出した。

 その直後、今の今まで雫達のいた場所に三体のビッグフットが着地する。ガガガッと周囲の地面を削り飛ばし、やはり華麗に着地を決めた。だが、実際に着地を決められたのは二体だけだった。

「ギギィ!?」

 雫が残した剣線にぶつかった一体が、しばらく滑った後、そのままズルリと体をずらして崩れ落ちたからだ。空間そのものを斬る能力“閃華”により作られた空間の断裂に突っ込んでいまい両断されてしまったのである。

「ほら、光輝、龍太郎。奇怪な動きを気にしなければ対応できない相手じゃないわよ。ちゃっちゃと片付けて。私は、鈴の方に行くから」
「あ、ああ。くそっ、何だっていきなりこんな敵が……」

 雫の言葉に不機嫌そうに悪態を吐きながら光輝が飛び出していく。龍太郎も直ぐにビッグフットの動きに慣れると一気に追い詰め始めた。

 雫は巧みに結界を操ってビッグフットの一体を満身創痍に追い込んでいる鈴の元に駆けつけると、重力の結界に囚われたビッグフットの首を一瞬で飛ばした。

 それを見た鈴も、聖絶で残りのビッグフットを捉えると内側に指向性を持たせてバリアバーストし止めを刺した。離れたところでは、ちょうど光輝と龍太郎もビッグフットを倒しきったようで二体のビッグフットが倒れ伏している光景が見える。

 一応、完勝したわけだがすっきりしないような微妙な表情の光輝達に、ハジメが可笑しそうに笑いながら声を掛けた。

「いやぁ、お前等、一体くらい残してくれよ。捕獲して地球に連れて帰ったら面白いことになりそうだったのに。スケートするビッグフット発見! ってな」
「うるさい。あんなふざけた魔物、こっちの世界でだって放置できるかっ」

 光輝が噛み付く。初戦はやはり真剣勝負でいきたかったようだ。

 肩を竦め踵を返し洞窟への歩みを再開したハジメに続きながら、溜息を吐く光輝と面白かったと快活に笑う龍太郎。雫は香織から「格好よかった!」と褒め倒され恥ずかしそうに視線を彷徨わせる。鈴は期待を込めた眼差しをユエに送り、頭を撫でられながら「悪くなかった」と褒められ「お姉さまぁ~」とうっとりしている。後ろ手に手がわきわきと動いているので、内に秘めたちっちゃなおっさんがユエを狙っているようだ。

「さて、それじゃあ最後の大迷宮攻略といこうか」

 ハジメの言葉が氷雪の峡谷に木霊する。

 一行はビッグフットの華麗なスケートに抜かれた気を引き締め直し、最後の七大迷宮【シュネー雪原の氷雪洞窟】へと踏み込んだ。





いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます。

書いている時に、そういえば、シアの足場用の円盤って、靴に空力を仕込むという方法でも良かったな……というか、そっちの方がいいだろう……と思い至りました。
作者ェ
時間のあるときにでも、シアの円盤設定を空力ブーツにでも変更しようと思います。

次回の更新も土曜日の18時予定です。
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