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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第五章

115/261

折れない、それがハウリア

 ヘルシャー帝国の帝都。その一角にある宿屋一階の食事処に、どこか冷たい空気が流れていた。

 その冷気の発生地点であるテーブルに座っているのは、当然ながらハジメ達である。ハジメとユエが情報収集から戻ってきてから、女性陣のハジメに向ける視線が冷たいのだ。

 特に、シアと香織の瞳はハイライトが消えたような無機質さがあり、正直、ハジメをして恐怖を感じるほどだ。香織の背後には薄らと、いつもの般若さんが見え始めている。

「随分とお楽しみだったみたいですね?」
「ユエ、ツヤツヤだね? 何をしてもらったの? ねぇ? 何をしていたの? ねぇ、ねぇ」

 二人の抑揚のない声音に、遂に耐え切れなくなったのか隣のテーブルの客がそそくさと出て行ってしまった。店のウエイトレスが迷惑そうにハジメ達を見ているが二人の様子に口を挟めずにいるようだ。

 二人がこうなった原因は、当然、戻って来たユエが妙にツヤツヤしていて、ハジメが微妙にやつれた様子だったからである。

 つまり、情報収集に出かけておきながら、二人っきりなのをいいことに何いいことしてやがる! と怒気を撒き散らしているのである。

「……何を勘違いしているんだ。ユエがツヤツヤしてんのは俺の血を吸ったからだぞ?」
「「へ?」」

 シア達の勘違いを察したハジメが、呆れた様子で事実を伝える。それを聞いたシアと香織が二人揃って間抜け顔になった。

「まさか、本当にユエを抱いていたとでも思ったのか? 俺は盛りのついた犬かよ。随分な評価じゃないか? えぇ?」
「あは、あはははは、まさかぁ~、私はわかっていましたよ。そうだろうなぁって。ね、ねぇ、香織さん」
「う、うん! もちろんだよ、シア。再生魔法は魔力の消費が激しいもんね。最初からそうだと思ってたよ」

 ハジメのジト目付きの嫌味に、視線を明後日の方向へ泳がせ必死に弁明するシアと香織。

 ハジメは、スッと視線を雫達に向ける。途端にビクッとなって頬を赤くしながらそっぽを向きはじめる雫達。どうやら彼女達も、しっかりと勘違いしていたらしい。

「はぁ~、まぁいい。とにかく欲しい情報は得られた。今晩、カム達がいる可能性の高い場所に潜入する。警備は厳重そうだが、カム達を見つけさえすれば、あとは空間転移で逃げればいいから、特に難しくもないな。潜入するのは俺とユエとシアだけだ。万一に備えて、気配遮断や転移が使える方がいいし。香織達は帝都の外にいるパル達のところにいてくれ。直接転移するから」
「……それはわかったけど……そもそも、その情報は正しいの? ネディルって人が嘘を言っている可能性は……」
「そりゃないだろう。自分の股間が目の前ですり潰された挙句、痛みで気を失う前に再生させられて、また潰されて……というのを何度も繰り返したからな。男に耐えられるもんじゃない……洗いざらい吐かされた後、股間を押さえながらホロホロと涙を流すネディル君を見て、流石の俺も同情しちまったよ」

 お前がやったんだろ! と光輝達は盛大にツッコミを入れたかったが、目の前でわざとらしく沈痛そうな表情をして見せているハジメには何を言っても流されるだけだろうと溜息を吐くだけに止まった。雫は内心、香織に行かせなくてよかったとホッと胸を撫で下ろしオカンぶりを発揮している。

 そして同時に、男の股間を何度もすり潰しておいて特に何とも思っていなさそうなユエを見て、王都に聞こえていた“股間スマッシャー”の二つ名は伊達ではないと、光輝と龍太郎は戦慄しながらユエにだけは逆らわないでおこうと固く誓うのだった。若干、テーブルの下で内股になりながら。

「なぁ、南雲……今更だが、シアさんの家族が帝城に捕まっているんなら、普通に返してくれって頼めばいいんじゃないか? 今ならリリィもいるはずだし、俺は勇者だし……話せば何とかなると思うんだが……」

 光輝が、本当に今更なことを言う。

 確かに、光輝の言う通り、勇者である光輝の言葉であればそうそう無下にはできないし、頼めばリリアーナも口添えをしてくれるだろう。ハジメ自身が力を示して強引な交渉をすることも可能だ。

 だが、

「対価に何を払う気だ?」
「え?」
「カム達は不法入国者な上に、帝国兵を殺したんだぞ? しかも、兎人族でありながら包囲されて尚、帝国側にダメージを与えられるという異質な存在だ。それを、まさか頼んだからって無償で引き渡してくれると思うのか?」
「それは……」
「対価を要求するに決まってるさ。それも思いっきり足元を見た、ドでかい対価をな。帝国にだって面子はある。唯で済ますことは出来ないだろう。あるいは、姫さんの交渉にも影響が出るかも知れないぞ? それでもいいのか?」

 その可能性は確かにあると、口をつぐむ光輝。おそらく、せっかく付いてきたのだから自分も何かしたいのだろう。先程の亜人奴隷の事もあり、じっとしていられないようで何かを考え込み始めている。

 ひじょ~に嫌な予感がしてきたハジメは、チラリと雫を見た。そして雫が「あ、これ、ヤバイわ」という表情で光輝を見つめている姿を捉える。どうやら光輝に暴走の兆候が出ているらしい。

 ハジメは、まさかと思うが、自分達が帝城に侵入する際、光輝が何らかの“巨大なお世話”的な行動を起こすのではと考え、仕方なく先手を打つことにした。

「なぁ、天之河。一つお前に頼みがあるんだが……」
「っ!!!? なん……だって? 南雲が俺に頼み? ……有り得ない……」

 ハジメからの突然の頼みという言葉に光輝は愕然とした表情で硬直する。それは隣の龍太郎や鈴も同じだった。まるでUMAと街中でばったり遭遇してしまったかのようだ。それくらいハジメからの“頼み”というものは、今までの言動からしてあり得なかったのだろう。

 しかし、ハジメもそれくらいの反応は予想済みなので、ちょっとイラっとしたが、それを表には出さなかった。

「あ~、いや、やっぱりいい。こんな危険な事、お前には頼めない。済まないな、忘れてくれ」
「ま、待てっ、待ってくれ! まずは何をして欲しいのか教えてくれ……」

 さも悪いことを言ったという雰囲気であっさり撤回したハジメに、むしろ光輝の方が食いついた。

「いやな、帝城に侵入するといっても警備は厳重すぎるくらい厳重だ。だから、少しでも成功率を上げるために陽動役をやって欲しかったんだよ。……例えば、さっきの犬耳少年のような亜人を助けるという建前でひと暴れして帝国兵を引き付ける……とかな。ああ、だが、危険すぎるよな。忘れてくれ」

 もちろん、警備は厳重だろうがハジメ達に侵入できない訳が無い。陽動も、あれば全く役に立たないわけではないだろうが、特に必要というわけでもない。単に、もっともらしい理由がこれ以外に思いつかなかっただけである。すべきことがなくて暴走するというなら、すべきことを与えてみようと思っただけだ。せめて、俺達も手伝うぞ! とか言って帝城に潜入してこないように……

「陽動……あの子達……やる。やるぞ! 南雲! 陽動は任せてくれ!」
「お、おう、そうか、引き受けてくれるかぁ、流石、勇者だな……うん。そんな素敵な勇者達には、これを贈呈してやろう」

 そう言ってハジメは“宝物庫”から鉱石をいくつか取り出すとパパッと錬成して四つの仮面を作り出した。

 その仮面はそれぞれ赤、青、黄、ピンクに分かれており、某戦隊もののヒーローを思わせるフルフェイスタイプだった。細かな意匠が施され、視界や呼吸を遮らないように工夫もなされている。並の錬成師ではとても真似できない技術力だ。まさに無駄に洗練された無駄のない無駄な技である。

「……南雲……これは?」
「見ての通り仮面だ」
「………………なぜ?」
「なぜってお前、勇者が帝都で脈絡なく暴れるとか不味いだろ? 正体は隠さないと。そして、正体を隠すと言えば仮面だ。古今東西、ヒーローとは仮面を被るもの。ヒーローとは仮面に始まり仮面に終わるんだ。ちゃんと区別がつくように色分けもしてあるだろ?」
「え? いや、いきなり、そんな力説されても……まぁ、確かに正体は隠しておいた方がいいというのはわかる。リリィの迷惑にもなるだろうし……でも、これは……」

 光輝が頬を引き攣らせながら目の前の戦隊マスクを見る。

「……心配するな勇者(笑)。お前には、ちゃんとリーダーの色、“赤”をくれてやる」
「……なぁ、今、勇者の後に何かつけなかったか?」
「坂上、お前は青だ。冷静沈着を示す青。黒とどっちにするか迷ったが、お前(脳筋)のためにも青がいいと判断した。我ながら英断だったと思う」
「お、おう? なんかよくわからんが、くれるってんなら貰っとくぜ」
「そして谷口、お前は……」
「ピ、ピンクかな? かな? ちょっと恥ずかし……」
「黄色だ。あれ? いたの? の黄色だ。お調子者の黄色だ。いろんな意味で微妙の代名詞、黄色だ」
「……ねぇ、南雲君って、もしかして鈴のこと嫌いなの? そうなの?」
「そして最後……八重樫は……」
「待ちなさい、南雲君。もう一つしか残っていないのだけど……まさかよね?」
「八重樫、もちろん、残っているピンク、それがお前のカラーだ」
「嫌よっ! っていうか、仮面以外にも正体を隠す方法なんていくらでもあるでしょう? 布を巻くくらいでいいじゃない! 南雲くん、あなた、確実に遊んでいるでしょ!」

 雫の抗議に、ハジメはやれやれと肩を竦める。まるで聞き分けのない子供に対するような態度に雫の頬がピクピクと引き攣る。

「いいか? 正体を隠すなら確実に! だ。その仮面はちゃんと留め金が付いていて、ちょっとやそっとでは外れない上に、衝撃緩和もしてくれる。更に、重さを感じさせないほど軽く、並の剣撃じゃあ傷一つ付かない耐久力も併せ持っているんだ」
「あ、あの一瞬でそこまでのものを……なんて無駄に高い技術力……」
「そして八重樫、お前のように普段キリッとしたクールビューティータイプは、実は可愛らしいものが好きというのが定番だ。故に、わざわざ気遣ってピンクにしてやったんだ。感謝しろ」
「な、なんという決めつけ……わ、私、別に可愛いものなんて……」
「あっ、当たってるよ、ハジメくん! 雫ちゃんの部屋ぬいぐるみで一杯だもん」

 ハジメの決めつけを咄嗟に否定する雫だったが、そこでまさかの裏切り。香織が雫の趣味を暴露する。雫の頭の上に“!?”のマークが飛び出した。

「……そういえば、昔から動物も好きだったよな。特に、ウサギとかネコとか……」
「!」
「ああ、シズシズの携帯の待ち受けもウサちゃんだったよね~」
「!」
「ゲーセンとか寄ったりすると、必ずUFOキャッチャーやるよな。しかも、やたらうめぇし」
「!」
「なるほど、それで雫さん、私のウサミミをいつもチラ見していたんですね?」
「!!!」
「……八重樫。さぁ、受け取れ。ピンクは……お前のものだ」

 いつになく優しげな眼差しでピンクの仮面をそっと差し出すハジメ。何故か、ハジメ以外の全員も、妙に優しげな眼差しで贈呈式を見守っている。いつの間にか、仮面を受け取らないという選択肢がなくなっていることには誰も気がつかない。

「……なんなのよ、この空気……言っておくけど、私、ホントにピンクが好きなわけじゃないんだかね? 仕方なく受け取っておくけど、喜んでなんかいないから勘違いしないでよ? あと、小動物が嫌いな人なんてそうはいないでしょ? だから、私が特別、そういうのが好きなわけじゃないから……だから、その優しげな眼差しを向けるのは止めてちょうだい!」

 耳まで赤くなりながら、雫は律儀に仮面を受け取った。

 恥ずかしいからなのか必死に否定するものの、シアがこっそり「雫さんなら少しくらいウサミミ触ってもいいですよ?」というとデレっと相好を崩したので虚しい努力だった。

 ちなみに、ここまでハジメが四人戦隊を押したのは、単なる八つ当たりだったりする。

 帝都に仮面戦隊が現れてひと暴れすれば、ハウリアが付けようとした痛い二つ名を越える何らかの二つ名が雫達に付けられるのではないかという目論見だ。

 実は、パル達とのやり取りの時、雫達に笑われたのを根に持っていたらしい。もっとも、正体が隠されているので直接呼びかけられるわけではなく、人知れず耳にして悶えるくらいが関の山だが……

 光輝の暴走をコントロールするついでに、せこい仕返しを目論んでいるハジメの意図を察して、ユエが若干呆れたような眼差しを向けていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 深夜。

 光一つ存在しない闇の中に格子のはめ込まれた無数の小部屋があった。特殊な金属で作られた特別製の格子は、地面に刻まれた魔法陣と相まって堅牢な障壁となり、小部屋にいる者を絶対に逃がさないと無言の意思表示をしている。

 汚物や血などから発生する異臭で、何も見えなくとも極めて不潔な空間であることがわかる。

 そんな最低な場所とは、もちろん囚人を拘束し精神的に追い詰めることを目的とした牢獄、それもヘルシャー帝国帝城にある地下牢であった。

 流石、帝城の牢というべきか、地下牢を構成する金属鉱石の質もさる事ながら、至る所に刻まれた囚人を逃がさないための魔法陣が実に秀逸である。

 脱獄を企てた者、または地下牢に忍び込んだ者それぞれに致死に至らない程度の、しかし極めて悪質な苦痛を与えるトラップが見えるところだけでなく壁の中にまで仕込まれており、トラップを解除する詠唱を正確に唱えない限り、まず勝手な行動は封じられていると見るべきだろう

 脱獄できる可能性など微塵もなく、光一つない世界で凶悪な異臭に苛まれつつ、小さな部屋に一人押し込まれていれば、常人なら一日と保たず発狂してもおかしくない。看守とて唯一の入口である扉の直ぐ外にある詰所で待機しており、決められた時間に巡回するだけで地下牢の暗闇の中に長時間いたりはしないのだ。

 だが、そんな最低の空間であるにもかかわらず、現在は、何故か余裕有りげな声音の話し声が聞こえていた。

「おい、今日は何本逝った?」
「指全部と、アバラが二本だな……お前は?」
「へへっ、俺の勝ちだな。指全部とアバラ三本だぜ?」
「はっ、その程度か? 俺はアバラ七本と頬骨……それにウサミミを片方だ」
「マジかよっ? お前一体何言ったんだ? あいつ等俺達が使えるかもってんでウサミミには手を出さなかったのに……」
「な~に、いつものように、背後にいる者は誰だ? なんて、見当違いの質問を延々と繰り返しやがるからさ。……言ってやったんだよ。“お前の母親だ。俺は息子の様子を見に来ただけの新しい親父だぞ?”ってな」
「うわぁ~、そりゃあキレるわ……」
「でも、あいつら、ウサミミ落とすなって、たぶん命令受けてるだろ? それに背いたってことは……」
「ああ、確実に処分が下るな。ケケケ、ざまぁ~ねぇぜ!」

 聞こえてくるのは、誰が一番ひどい怪我を負ったかという自慢話。最低限の回復魔法を掛けられているので死にはしないが、こんな余裕そうな会話をしていても、声の主達はまさに満身創痍という有様だ。

 それでもやせ我慢しつつ、軽口を叩く彼等の正体は、帝国に捕まったハウリア達である。

 彼等が、重傷度で競い合っているのは、別に狂ったわけではない。既に覚悟を決めているのだ。

 帝城の地下牢に囚われている以上、自分達はもう助からない。処刑されるか奴隷に落とされるか……後者の場合は、それこそ全力全開で自害する所存なので、やはり命はない。奴隷の首輪で強制的に同族と戦わされるなど悪夢なので、事前にそう決めていたのだ。

 そして、助からない以上は、最後に一矢報いてやるつもりで生き長らえている。

 帝国側は、ハウリアの実力が余りに常識からかけ離れていることから、彼等の背後に何か陰謀でもあるのではないかと疑っている。

 また、そうでなくても、報告を受けた皇帝陛下がハウリア族を気に入り、帝国軍の手駒として使えないか画策しているようだった。戦闘方法、持っていた武器、その精神性、温厚なハウリアを変えた育成方法、その他にも強者を好む皇帝陛下にとってハウリア族は宝箱のようなものだったのだ。

 そんな帝国側の思惑を察しているハウリア達は、命尽きるその瞬間まで、帝国側を馬鹿にするように楯突いているのである。覚悟も決まっているから、重傷度で競い合うという阿呆な暇潰しも出来るのだ。

 ちなみに、この地下牢に満身創痍で入れられて、それでも尋問という名の拷問のために牢から出された時、にこやかな笑みを浮かべるハウリア族は、既に関わる帝国兵のほとんどに恐怖を宿した目で見られている。

「今頃は、族長も盛大に煽ってんだろうな……」
「そうだな。……なぁ、せっかくだし族長の怪我の具合で勝負しねぇか?」
「お? いいねぇ。じゃあ、俺はウサミミ全損で」
「いや、お前、大穴すぎるだろ?」
「いや、最近の族長、ますます言動がボスに似てきたからなぁ。……特に新兵の訓練している時とか……」
「ああ、まるでボスが乗り移ったみたいだよな。あんな罵詈雑言を浴びせられたら……有り得るな……」
「まぁ、ボスならそもそも捕まらねぇし、捕まっても今度は内部から何もかも破壊して普通に出てきそうだけどな!」
「むしろ、帝都涙目って感じだろ? きっと、地図から消えるぜ」
「ボスは、容赦ないからな!」
「むしろ鬼だからな!」
「いや、悪魔だろ?」
「なら、魔王の方が似合う」
「おいおい、それじゃあ魔人族の魔王と同列みたいじゃないか。ボスに比べたら、あちらさんの魔王なんて虫だよ。虫」
「なら……悪魔的で神懸かってるってことで魔神とか?」
「「「「「「「「「それだ!」」」」」」」」」
「……随分と元気だな? この“ピー”共……久しぶりだってのに中々言うじゃないか? えぇ?」
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

 暗闇の中で盛り上がっていた満身創痍のハウリア達に怒気を孕んだ声が響く。

 随分と聞き覚えのある声に、ハウリア達が凍りついたように黙り込んだ。暗闇の中、まるで肉食獣をやり過ごそうとしている小動物のように息を潜める。

「おい、こら。なに黙り込んでやがる。誰が鬼で悪魔で魔王すら霞む魔神だって? うん?」
「ハハハ、わりぃ、みんな。俺、どうやらここまでのようだ。……遂に幻聴が聞こえ始めやがった……」
「安心しろよ、逝くのはお前一人じゃない。……俺もダメみたいだ」
「そうか……お前らもか……でも最後に聞く声がボスの怒り声とか……」
「せめて最後くらい可愛い女の子の声が良かったよな……」

 いるはずのない相手の声が聞こえて、いろんな意味で幻聴扱いするハウリア達。現実逃避とも言う。

 そんな彼等に、声の主であるハジメは、現実を突きつける。傍らのユエがパッと光球を出し、地下牢の闇を払拭した。そして、帝城の地下牢にハジメの姿がはっきりと浮かび上がった。

「「「「「「「「「げぇ、ボスぅーーーー!!?」」」」」」」」」
「静かにしろ、ド阿呆共」
「……意外に元気?」
「見た目、かなり酷いんですが……心配する気が失せてきました」

 ハウリア族の面々は、見るも無残な酷い怪我を負いながら、薄汚い牢屋の奥で横たわり、起き上がる様子もないにもかかわらず、どこぞの武神にでも会ってしまったかのような素っ頓狂な声を上げた。

 ハジメ、ユエ、シアは、そんなハウリア達に呆れ顔だ。

「な、なぜ、こんなところにボスが……」
「詳しい話は後だ。取り敢えず、助けに来てやったんだよ。……ったく、ボロボロなくせにはしゃぎやがって。どんだけタフになってんだよ」
「は、はは、そりゃ、ボスに鍛えられましたから」
「ボスの訓練に比べれば、帝国兵の拷問なんてお遊戯ですよ」
「殺気がまるで足りないよな? 温すぎて、介護でもされてるのかと思ったぜ」
「まぁ、ボスの殺気は、数百通りの死の瞬間を幻視できるレベルだから仕方ないけどな」

 ゲフッゲフゥと血を吐きながら、なお軽口を叩くハウリア達とその言葉に、両隣のユエとシアから何とも言えない眼差しがハジメに向けられる。

 ハジメは誤魔化すようにゴホンッと咳払いを一つすると、魔眼石で地下牢内のトラップを確認し、それをユエとシアにも伝えた。そして、さっさとトラップの解除を始めた。

 魔法陣によるトラップは、通常、正しい詠唱(カギ)によってしか解除できない。それは魔法陣に込められた魔力を詠唱によって操作し散らすというプロセスを経て無力化するからだ。

 陣を壊すという方法もあるが、大抵、壊れた瞬間に発動するか、少なくとも壊れたことを他者に知らせる機能が付いていることから、実際には詠唱による解除が唯一なのである。

 しかし、それは詠唱による魔力の操作しか出来ない場合の話だ。逆に言えば、魔力の直接操作が出来る者なら、カギがなくても魔法陣に作用させることなく解除することが出来る。

 あっさりと帝国が誇る絶対監獄である帝城地下牢を無力化したハジメ達は、ハジメの錬成で次々と格子を開けていき、ユエの再生魔法でハウリア達全員を即座に完全回復させた。

「はぁ、相変わらずとんでもないですね。取り敢えず、ボス……」
「「「「「「「「「助けて頂き有難うございましたぁ!」」」」」」」」」
「おう。まぁ、シアのためだ。気にすんな。それより、カムの姿が見えないな。……どこにいるかわかるか?」
「それなら……」

 ハウリアの一人が言うには、どうやら今の時間はカムが尋問されているようで、詳しい尋問部屋の位置も教えてくれた。

 彼等は、是非、自分達も族長救出に! と訴えてきたが、手伝ってもらう程のことでもなく、ここまで普通に侵入して来たハジメ達に任せるのが一番だと彼等も分かっていたのでハジメの言葉で大人しく引き下がった。

 もっとも、ハジメの“命令”に何故かゾクゾクと身を震わせているのが激しく気持ち悪かったが……

 ハジメは、“宝物庫”から掌サイズの金属プレートを取り出した。それは、光沢のある灰色をしており、手元部分に魔法陣が刻まれていて先端がキザキザしている、簡単に言えば鍵のような形をしていた。

 何だ何だと目を丸くするハウリア達の前で、ハジメは鍵型プレートに魔力を注ぎ、おもむろに目の前の空間へと突き出した。

 すると、鍵型プレートの先端部分がズブリと空間に突き刺さり、波打つように空間へ波紋を広げていった。その波紋が次第に大きくなって大人の人間サイズになったところで、ハジメは鍵型プレートを文字通り鍵のようにグリッと捻った。

 その直後、鍵型プレートを中心に“穴”が広がっていき、目を丸くするハウリア達の眼前で人間大の大きさに広がると、その向こう側にどこかの岩石地帯が広がった。

「よし、お前等ここを通れ。向こう側は帝都から少し離れた場所にある岩石地帯だ。パル達が待機してる」
「Yes,Sir! ボス、族長を頼みます」

 目の前で起きた非常識に唖然とするハウリア達だったが、ハジメの言葉にハッ! と正気を取り戻すと、まぁボスだからな! と直ぐに納得し、惚れ惚れするような敬礼をした。そして、躊躇いなくアーティファクトで作り出したゲートをくぐっていった。よく訓練されたウサミミ達だ。

 ハジメが取り出したのは、超長距離空間転移用のゲートを作り出すアーティファクトだ。

 鍵型アーティファクト“ゲートキー”と鍵穴型アーティファクト“ゲートホール”の対になっており、ゲートキーを空間に突き刺して“開錠”することで、あらかじめ設置しておいたゲートホールの場所に空間を繋げるゲートを開き転移することが出来るというものだ。もちろん、空間魔法と生成魔法のコンボで作り出したものである。

 ハウリア達が転移すると、再びゲートを“施錠”して空間の穴を閉じ、ハジメ達はカムの居場所に向かった。

 厳しい警備を持ち前のスキルと魔法で突破して易々と目的の場所に辿り着く。

 外の見張りをさくっと音もなく倒して扉の前に着くと、中から何やら怒声が聞こえてきた。

 シアの表情が強張る。中にいるであろうカムが酷い目に合わされているのではないかと、軽口を叩きながらもボロボロだった先程の家族を思い出して心配する気持ちが湧き上がったのだ。

 それを見て、さっそく踏み込もうとドアノブに手をかけたハジメの動きが、扉の向こうから微かに漏れてくる聞き覚えのある怒声により思わず止まる。

「何だ、その不抜けた拳は! それでも貴様、帝国兵かっ! もっと腰を入れろ、この“ピー”するしか能のない“ピー”野郎め! まるで“ピー”している“ピー”のようだぞ! 生まれたての子猫の方がまだマシな拳を放てる! どうしたっ! 悔しければ、せめて骨の一本でも砕いて見せろ! 出来なければ、所詮貴様は“ピー”ということだ!」
「う、うるせぇ! 何でてめぇにそんな事言われなきゃいけねぇんだ!」
「口を動かす暇があったら手を動かせ! 貴様のその手は“ピー”しか出来ない恋人か何かか? ああ、実際の恋人も所詮“ピー”なのだろう? “ピー”なお前にはお似合いの“ピー”だ!」
「て、てめぇ! ナターシャはそんな女じゃねぇ!」
「よ、よせヨハン! それはダメだ! こいつ死んじまうぞ!」
「ふん、そっちのお前もやはり“ピー”か。帝国兵はどいつこいつも“ピー”ばっかりだな! いっそのこと“ピー”と改名でもしたらどうだ! この“ピー”共め! 御託並べてないで、殺意の一つでも見せてみろ!」
「なんだよぉ! こいつ、ホントに何なんだよぉ! こんなの兎人族じゃねぇだろぉ! 誰か尋問代われよぉ!」
「もう嫌だぁ! こいつ等と話してると頭がおかしくなっちまうよぉ!」

 そんな叫びが部屋から漏れ聞こえてくる。

 ハジメ達は全員無言だった。ドアノブに手を掛けたまま、捕まって尋問されているはずのカムより尋問している帝国兵の方が追い詰められているという非常識に思わず顔を見合わせる。

「なぁ、これ助ける必要あるのか?」
「……帰る?」
「……いえ、すみませんが一応、助けてあげて下さい。自力では出てこられないと思うので……」

 シアが在りし日の優しい父親を思い、遠い目をしながらハジメに頼む。実際、威勢はよくてもカムが自力で脱出できる可能性はないので助ける必要はあるのだろうが……

「ふん、口ほどにもないっ。この深淵蠢動の闇狩鬼、カームバンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリアの相手をするには、まだ早かったようだな!」

 扉の向こうから、何か悪い意味で凄いのが飛んできた。

「……シア。お前の親父、何か凄いことになってるぞ」
「……考え過ぎて収拾がつかなくなった感じ」
「うぅ……父様は私に何か恨みでもあるんでしょうか? 娘を羞恥心で殺そうとしてますぅ」

 シアが顔を両手で覆ったまましゃがみ込んでしまった。ダメージは深刻らしい。

 そして、ダメージの深刻具合は、尋問官達も同じだったようだ。

「だから、わけわかんねぇよ! くそっ、もう嫌だ! こんな狂人がいる場所にこれ以上いられるかっ! 俺は家に帰るぞ!」
「待て、ヨハン! 仕事だぞ! っていうか、何かそのセリフ、不吉だから止めろよ!」

 ドタドタと扉に近づいてくる音が聞こえる。

 ハジメは「やっぱ、色々やりすぎたかなぁ~」と思いながら、扉の前で拳を振りかぶった。

 そして、バンッと音を立てて扉が開いた瞬間、拳を突き出す。

 ヨハンと呼ばれていた尋問官の一人が、一瞬「え?」という驚愕と困惑に満ちた表情をしたが、次の瞬間には顔面に鋼鉄の拳を埋め込まれて部屋の奥へと吹き飛ばされた。

 ハジメは、そのまま部屋に踏み込み、一瞬でもう一人の尋問官に接近すると硬直しているのを幸いと同じく殴りつけて気絶させた。

 そして、気絶した男二人をちょっとマズイ体勢で重ねて放置する。発見した人が色々誤解しそうな格好だ。

「まさか……ボス…ですか?」
「ああ、何というか、よくそんなボロボロであれだけの罵詈雑言を放てたな。……色んな意味で逞しくなっちまって……」

 取り敢えず、先程の色んな意味でぶっ飛んだ二つ名とか名前についてはスルーだ。

「は、ははは。どうやら夢ではないみたいですね……おぉ、ユエ殿にシアまで」

 一瞬、夢でも見ているのかと自分を疑った様子のカムだったが、先程のハウリア達以上にボロボロでありながら力のある声音でハジメ達に返答する。思考力も鈍っていないようで、どうやらハジメ達が自分を助けに来てくれたのだと直ぐに察したようだ。

「いや、せっかくの再会に無様を晒しました。しかも帝国のクソ野郎共を罵るのに忙しくて、気配にも気づかないとは……いや、お恥ずかしい」
「……父様、既にそういう問題じゃないと思います。直ぐにでも治療院に行くべきです。もちろん、頭の治療の為に……ていうか、その怪我で何でピンピンしているんですか」
「気合だが?」
「……ハジメの魔改造……おそろしい」

 拘束を解かれたカムは本当に恥ずかしそうに、折れてあらぬ方向を向いている指で頭をカリカリと掻く。シアの辛辣なツッコミにも平然と非常識な返答をした。

 再生魔法を掛けるユエが、むしろカムではなくハジメに恐ろしげな眼差しを向けている。ハジメは思った。本当に恐ろしいのは、自分ではなくハートマ○軍曹と病原体“厨二”だと……

 完全に回復して自分の体の調子を確かめるようにピョンピョン跳ねているカムを尻目に、ハジメは再びゲートキーを取り出した。

「他の連中は一足先に逃がした。さっさと行くぞ」
「Yes,Sir! あ、ボス、装備を取られたままなのですが……」
「あぁ? ほっとけほっとけ。錬成の鍛錬で作ったもっと性能のいいもんが大量にあるから、それやるよ」
「新装備を頂けるので? そいつぁ、テンションが上がりますな、ククク」

 怪しげな笑い声を上げるカムと、どこか達観した様子のシアをゲートに押し込んで、ハジメとユエもゲートを潜った。

 この後、帝城内から忽然と消えたハウリア族や帝都で暴れていた正体不明の仮面集団により、ヘルシャー帝国の夜は朝方まで大騒ぎになった事は言うまでもない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
おまけ

 警鐘が鳴り響く帝都の夜に、突如、光が迸り、瓦礫撤去作業に従事していた亜人奴隷達が寝泊りしている掘っ立て小屋地区、そこにある帝国兵の詰所が吹き飛んだ。最小限まで手加減していたらしく、建物が吹き飛んだだけで、中の帝国兵は無事なようだ。ただし、大半が気絶しているが。

 それをなしたのは月を背負って悠然と佇む四人の人影。

「何者だ、貴様等! 帝国に盾突いてただで済むと思っているのか!」

 その人影に向かって帝国兵の小隊長らしき人物が怒声を上げる。

「しかも、しかも……そんなふざけた仮面なんか付けやがって! 馬鹿にしてんのかっ!」
「え? いや、馬鹿にしてるわけじゃ……」
「どう見ても馬鹿にしているだろうが! 特に、そこのピンク色!」
「!?」
「可愛いさアピールでもしてる気か!? 仮面を付けてる時点で激しくキモイんだよっ! この変質者めっ!!」
「!? …………可愛いさなんてアピールしてないわ。……特にそういうのが好きなわけでもないし……無理やりだもの……私のせいじゃないもの……」
「ちょっと、不細工面なおっさんの癖にシズ…ピンクを馬鹿にしないで! すず……イエローは本気で怒っちゃうよ!」
「そうだ! シズ…ピンクが可愛いもの好きでもいいだろうが! それ以上、ピンクを傷つけたら俺……仮面レッドが許さないぞ!」
「あ~、取り敢えず、仮面ブルーも許さねぇぞ~」

 どこか疲れきったような様子で悄然と肩を落とす仮面ピンクを庇うように他の仮面達が帝国兵に言い返す。

 仮面達の目的は、帝都で騒ぎを起こし、ハジメ達の帝城侵入を手助けすることなのだが……ハジメの意図を正確に読み取っていた雫は、光輝の暴走を抑えるために仕方ないとは言えあんまりな扱いに、帰ったら絶対、ハジメに復讐しようと心に誓いを立てた。

 仮面ピンクが項垂れている間に、ヒートアップした帝国兵達が遂に「ふざけた仮面野郎共をとっ捕まえろ!」と襲いかかり始めた。しかし、いくらハジメ達には全く及ばないとは言え、それでも異世界召喚チート達だ。並の兵士如きが敵うはずもなく、次々と蹴散らされていく。

「ちくしょう! 仮面のくせに強すぎる!」
「おのれぇ、ピンクめぇ~」
「つか、レッドが持っている剣、どっかで見たことあるような……」

 帝国兵が地面に這いつくばりながら悪態と共に呻き声を上げる。すでに三個小隊ほどが戦闘不能に追い込まれていた。堪りかねた指揮官が思わず叫ぶ。

「くそっ、お前等、一体何が目的なんだ!」

 その質問に、仮面レッドはピタリと止まり声高に宣言した。

「亜人奴隷達の待遇改善を要求する!」
「……はぁ?」
「お前達の亜人族に対する言動は目に余る! むやみに傷つけるのは止めるんだ!」

 帝国兵はまさかの要求に、「あいつ何言ってんだ?」という表情で顔を見合わせた。それもそうだろう。仮面レッド達が昼間見た亜人奴隷への対応は、あれで常識なのだ。それを目に余ると言われても何が言いたいのかピンと来ないのである。

「くっ、何だ、その態度は……あんな仕打ちをしておいて……」
「こう……レッド。非常識なのは、残念だけど私達の方よ。私達の目的は陽動であることを忘れないで」
「わかってる! でも、せめて子供の亜人だけでも……」
「何人いると思っているのよ。子供達の目の前で助ける子とそうでない子を選別するの? それに、そろそろ時間よ。……私だって悔しくは思うけれど、今は、きっちり目的を果たしましょう?」
「……そうだな」

 仮面レッドは、仮面越しでも分かるほど渋々といった感じで引き下がった。

「帝国兵、聞きなさい。私達の行動は独断によるものよ。だから、亜人奴隷に今回の件で八つ当たりするのは止めておきなさい。もし、そんなことをしたら……」
「な、なんだっていうんだ……」
「夜、シャワーを浴びている時その背後に、寝苦しさに目を覚ました時お腹の上に、誰もいないはずの廊下の奥に、デスクの下に、カーテンの隙間に、鏡の端に、夢の中に……仮面を見ることになるわよ」

 帝国兵は仮面ピンクの抑揚のない淡々とした語りに、一斉に生唾を飲み込み、そして思った「こえぇ……」と。確かにホラーである。

 仮面達は、それで目的を果たしたとでもいうように「とぅ!」という感じで建物から裏路地に飛び降りた。そして、慌てて帝国兵達が駆けつけた時には、まるで夢幻のように忽然と姿を消していたのだった。

 後に、帝国兵の間で「仮面ピンクの恐怖~奴はいつも君を見ている」という都市伝説が広まるのだが、それはまた別の話。

 なぜ、自分だけと……と、仮面ピンクの中の人が崩れ落ちたのも別の話である。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
おまけ2

「以上で報告を終わります!」
「ご苦労、下がれ」
「はっ」

 ツカツカと規則正しい足音を響かせて部下が出て行った扉を暫く見つめた後、ヘルシャー帝国皇帝ガハルド・D・ヘルシャーは、先程まで話をしていた少女に視線を転じた。

 澄まし顔の少女ハイリヒ王国王女リリアーナ・S・B・ハイリヒは、ガハルドの視線に気が付くと「大変そうですね?」と心配するような、困ったような微笑みを向けた。隣国の王女として、先程報告された内容を憂いているような、されど口出しは余計だと弁えているような、そんな表情だ。

「全く、困ったものだ。ふざけた強さの魔物の次はふざけた仮面を付けた、ふざけた強さの四人組の襲撃か……この件、どう思う? リリアーナ姫」
「……私には、わかりかねます。やはり、魔人族の暗躍では? 有り得ない魔物を使役するのですから、有り得ない人材もいるのでは?」
「そうだな。……その可能性はあるだろう。例え、そのうちの一人が光属性の魔法を自在に操り、眩い光を纏う剣を振るっていたとしても、な?」
「……そうですわね。恐ろしいことです」
「ああ、全くだ。何が目的かと尋ねたら亜人奴隷達の待遇改善だと抜かすのだから、意味不明すぎてとても恐ろしいと、俺も思う」
「そう、ですわね」

 リリアーナの表情は崩れない。

 ガハルドが面白そうにリリアーナを観察しているが、笑顔という名の仮面は鉄壁だ。何せ、貼り付けたような笑顔ではなく、王族必須スキルであるその場の状況に応じて変幻自在に変わる笑顔なのだから。

 しかし、僅かに呼吸が乱れた事をガハルドは見逃さなかった。

「ところで、リリアーナ姫」
「はい?」
「勇者君は今、どちらに?」
「……勇者様は、現在、旅に出ていますわ。見聞と力を高めるために」
「おや、てっきり帝都に来ているのかと思ったぞ? そして、どこかで奴隷解放でも詠っているのかと思った」
「あら、ガハルド陛下ともあろう御方が、推測と事実を混同なさっているのですか? そのようなことありませんわよね?」
「はっはっは、もちろんだ! 根拠もない推測を事実のように語ったりはしない」
「ふふふ、そうでしょうね」

 しばらくの間、「ははは」「ふふふ」と皇帝陛下と王女の笑い声が応接室に響き渡っていた。

 一見、余裕そうに見えるリリアーナだったが、内心では、

(何をやっているのですかっ! 光輝さん達はーーー!! ていうか、なぜ仮面!? 正体を隠すならもっとやりようもあったでしょうに! そもそも聖剣を使っている時点で正体隠す気ないでしょう! 悪ふざけだわ! 絶対、誰かの悪ふざけが入っているわ! そして、こんな事をするのはきっと南雲さんです! なぜ彼の悪ふざけのせいで、皇帝陛下とこんな息苦しいやり取りをしないといけないのぉ! 彼の私に対するさりげない仕打ちは、意外にダメージ来るのですよぉ。私、王女なのにぃ)

 と、絶叫を上げていた。

 どうやら、ハジメの仮面も虚しく、二国のトップには正体がバレバレだったようである。



いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます。

帝国ぷげらっは、もう少しお待ち下さい。

訂正報告
前話にて、奴隷によるピラミッド建築という表現を削除しました。
ご指摘下さった方々、有難うございました。
特に気にしないと言って下さった方々も有難うございました。
世界ふしぎ発見を見るようにします(笑

次回も、土曜日の18時更新予定です。
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