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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第四章

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断罪の光

「雫ちゃん!」

 その声と共に、いつの間にか展開されていた十枚の輝く障壁が雫を守るように取り囲んだ。そして、その内の数枚がニアと恵里の眼前に移動しカッ! と光を爆ぜた。バリアバーストモドキとでもいうべきか、障壁に内包された魔力を敢えて暴発させて光と障壁の残骸を撒き散らす技だ。

「っ!?」

 咄嗟に両腕で顔を庇った恵里だが、その閃光に怯んでバランスを崩した瞬間に砕け散った障壁の残骸に打ち付けられて後方へと吹き飛ばされた。

 雫を抑えていたニアも同様に後方へとひっくり返る。すぐさま起き上がって雫を拘束しようとするものの、直後、光の縄が地面から伸び一瞬で縛り付けられてしまった。

 雫が、突然の事態に唖然としつつも、自分の名を呼ぶ声の方へ顔を向ける。

 そして、周囲を包囲する騎士達の隙間から、ここにいるはずのない親友の姿を捉えた。夢幻ではない。確かに、香織が泣きそうな表情で雫を見つめていた。きっと、雫達の惨状と、ギリギリで間に合ったことへの安堵で涙腺が緩んでしまったのだろう。

「か、香織……」
「雫ちゃん! 待ってて! 直ぐに助けるから!」

 香織は、広場の入口から兵士達に囲まれる雫達へ必死に声を張り上げた。そして、急いで全体回復魔法を詠唱し始める。光系最上級回復魔法“聖典”だ。クラスメイト達の状態と周囲を状況から一気に全員を癒す必要があると判断したのだ。

「っ!? なんで、君がここにいるのかなぁ! 君達はほんとに僕の邪魔ばかりするね!」

 恵里が、怒りに顔を歪めながら周囲の騎士達に命令を下す。香織の詠唱を止めるため、騎士達が一斉に香織へと襲いかかった。

 しかし、彼等の振るった騎士剣は光の障壁に阻まれ、香織を傷つけること叶わない。

「みなさん! 一体、どうしたのですか! 正気に戻って! 恵里! これは一体どういうことです!?」

 最上級回復魔法を唱える香織を守ったのは、香織のすぐ後ろにいたリリアーナだった。自分と香織を包むように球状の障壁が二人を守る。

 リリアーナは、騎士や兵士達が光輝達を殺そうとしている状況やまるで彼等の主のように振舞う恵里にひどく混乱していた。障壁を張りながら、恵里に説明を求めて声を張り上げる。しかし、恵里はまるで取り合わない。

 リリアーナは術師としても相当優秀な部類に入る。モットーの隊商を全て覆い尽くす障壁を張り、賊四十人以上の攻撃を凌ぎ切れる程度には。なので、例え、騎士達がリミッターの外れた猛烈な攻撃を行ったところで、香織の詠唱が完了するまで持ち堪えることは十分に可能だった。

 そして、それを理解しているせいか若干、恵里の表情に焦りの色が見える。

「チッ、仕方ない、かな?」

 その焦り故か、恵里はクラスメイト達の傀儡化を諦めて、癒される前に殺してしまおうと決断した。

 と、その時、突如、リリアーナの目の前で障壁に騎士剣を振るっていた騎士の一人が首を落とされて崩れ落ちた。

 その倒れた騎士の後ろから姿を見せたのは……檜山大介だった。

「白崎! リリアーナ姫! 無事か!」
「檜山さん? あなたこそ、そんな酷い怪我で!?」

 リリアーナが檜山の様子を見て顔を青ざめさせる。詠唱を途切れさせてはいないが、香織もまた驚愕に目を見開いていた。それもそのはずだ、檜山の胸元はおびただしい血で染りきっていたのだから。どうみても、無理をして拘束を抜け出して来たという様子だ。

 ぐらりとよろめき、障壁に手をついた檜山に、リリアーナは慌てて障壁の一部を解いて檜山を中に入れた。ドサリッと倒れこむ檜山。しかし、その瞬間、雫の焦燥に満ちた叫びが響き渡る。

「ダメよ! 彼から離れてぇ!」

 血を吐きながらの必死の警告。雫は気がついたのだ。なぜ、光輝すら抜け出せない拘束を檜山だけ抜け出せたのか、恵里が言っていた香織を欲する人間が誰なのか……リリアーナの障壁が香織の詠唱完了まで保つことは明らかだ。にもかかわらず、敢えて助けに行ったふりをした理由は……

「きゃぁあ!?」
「あぐぅ!?」

 雫の警告は間に合わなかった。

 リリアーナの障壁が解け、そこに広がった光景は、殴り飛ばされて地面に横たわるリリアーナの姿と背後から抱き締められるようにして胸から刃を突き出す香織の姿だった。

「香織ぃいいいいーー!!」

 雫の絶叫が響き渡る。

 檜山は、瞳に狂気を宿しながら、香織を背後から抱き締めて首筋に顔を埋めている。片手は当然、背中から香織の心臓を貫く剣を握っていた。

 檜山は、最初から怪我などしていなかったのだ。勇者である光輝の土壇場での爆発力や不測の事態に備えてやられたふりをして待機していたのである。そして、香織達の登場に驚きつつも、このままでは光輝達を回復されてしまうと判断し、一芝居打ったのだ。

「ひひっ、やっと、やっと手に入った。……やっぱり、南雲より俺の方がいいよな? そうだよな? なぁ、しらさ…いや、香織? なぁ? ぎひっ、おい、中村ァ、さっさとしろよぉ。契約だろうがぁ」

 恵里が、檜山の言葉に肩を竦める。そして、香織に“縛魂”するため歩き出した。

 直後、絶叫が響き渡る。

「がぁああああ! お前らァーー!!」

 光輝だ。怒髪天を衝くといった様子で、体をギシギシと軋ませて必死に拘束を解こうとする。香織が殺されたと思ったようで、半ば、我を失っているようだ。五つも付けた魔力封じの枷がますます亀裂を大きくしていく。途轍もない膂力だ。しかし、それでも枷と騎士達の拘束を解くにはまだ足りない。

 と、その様子を冷めた目で見ていた檜山の耳にボソボソと呟く声が聞こえてきた。見れば、何と香織が致命傷を負いながら何かを呟いているのだ。檜山は、それが気になって口元に耳を近づける。そして、聞こえてきたのは……

「――――ここ…に…せいぼ…は……ほほえ…む…“せい…てん”」

 致命傷を負ってなお、完成させた最上級魔法の詠唱。香織の意地の魔法行使。檜山の瞳が驚愕に見開かれる。

 香織にも、自分が致命傷を負ったという自覚があるはずだ。にもかかわらず、最後の数瞬に行ったのは、泣くことでも嘆くことでも、まして愛しい誰かの名前を呼ぶことでもなく……戦うことだった。

 香織は思ったのだ。彼は、自分が惚れた彼は、どんな状況でもどんな存在が相手でも決して諦めはしなかった。ならば、彼の隣に立ちたいと願う自分が無様を晒す訳にはいかないと。そして、ほとんど意識もなく、ただ強靭な想いだけで唱えきった魔法は、香織の命と引き換えに確かに発動した。

 香織を中心に光の波紋が広がる。それは瞬く間に広場を駆け抜け、傷ついた者達に強力な癒しをもたらした。突き刺さされた剣が癒しの光に押されて抜け落ちていく。どういう作用が働いたのか、傀儡兵達の動きも鈍くなった。

 当然、癒しの光は香織自身も効果に含め、その傷を治そうとするが、香織が受けたのは他の者達と異なり急所への一撃。しかも、傷が塞がろうとすると檜山が半狂乱で傷を抉るので香織が癒されることはなかった。それは香織に、より確実な死をもたらす。

「あぁああああ!!」

 光輝の絶叫が迸る。

 癒された体が十全の力を発揮し、ただでさえ亀裂が入って脆くなっていた枷をまとめて破壊した。同時に、その体から彼の激しい怒りをあらわすように純白の光が一気に噴き上がる。激しい光の奔流は、光輝を中心に纏まり彼の能力を五倍に引き上げた。“限界突破”の最終派生“覇潰”である。

「お前ら……絶対に許さない!」

 光輝を取り押さえようとした騎士達だったが、光輝は、自分を突き刺していた騎士剣を奪い取るとそれを無造作に振るい、それだけで傀儡兵達を簡単に両断していった。そして、手を突き出し聖剣を呼ぶと、拘束された際に奪われていた聖剣がくるくると空中を回転しながら飛び光輝の手の中に収まった。

 恵里が無表情で、傀儡兵達を殺到させるが光輝はその尽くを両断した。人殺しへの忌避感は克服できていない。しかし、今は、激しい怒りで半ば我を失っていることと、相手は既に死んでいるという認識から躊躇いなく剣を振るうことが出来ているようだ。

 一方、他のクラスメイト達も前線組が中心となって、居残り組を守るようにして戦い始めていた。いくら倒してもそこかしからわらわらと湧いて出る傀儡兵に、魔力封じの枷を解除する暇もなく純粋な身体能力のみで戦わなければならない。龍太郎や永山が文字通り肉壁となって、震えてへたり込む居残り組の生徒達を必死に守っていた。

 雫も、泣きそうな表情で必死に香織のもとへ行こうとする。しかし、龍太郎達と同じく枷を外す暇がないほど傀儡兵達から怒涛の攻撃を受けて中々前に進めない。

 その時、遂に、光輝を囲む傀儡兵達がやられ包囲網に穴ができた。光輝は、怒りの形相で、恵里と檜山を睨みつけ光の奔流を纏いながら一気に襲いかかった。

 だが、そこで、恵里は光輝の弱点につけ込んだ切り札を登場させる。それにより、恵里の予測通り、光輝の剣は止まってしまった。

 光輝が震える声で、その切り札の名を呼ぶ。

「そ、そんな……メルドさん…まで……」

 そう、光輝の剣を正面から受けて止めていたのは騎士団団長のメルド・ロギンスその人だったのだ。

「……光輝…なぜ、俺に剣を向ける…俺は、こんなこと、教えてはいないぞ…」
「なっ…メルドさん……俺は」
「光輝! 聞いてはダメよ! メルドさんももうっ!」

 動揺する光輝に雫の叱咤が飛ぶ。ハッと正気を取り戻した時には、メルドの鋭い剣撃が唐竹に迫っていた。咄嗟に、聖剣でその一撃を受ける。凄まじい衝撃と共に、光輝の足元に亀裂が走った。どうやら王国最強の騎士も脳のリミッターが外れているらしい。

「……メルドさん……すみません!」

 光輝は表情を悲痛に歪めながらも、聖剣を一気に振り抜きメルドに怒涛の斬撃を繰り出した。死して尚、メルドの剣技は冴え渡っており、“覇潰”状態の光輝の攻撃を辛うじて凌いでいる。それは、メルドの登場で、光輝の沸騰した頭が少し冷えた為に、人殺しへの忌避感が僅かに顔を出し剣筋が鈍ったというのもある。しかし、それでも今の光輝に勝てるはずもなく、遂に、メルドの騎士剣は弾き飛ばされてしまった。

 光輝は、一気に踏み込み、ただ我武者羅にメルドの首目掛けて聖剣を横薙ぎに振るった。

 だが、聖剣がメルドの首に吸い込まれる寸前、

「……助けてくれ……光輝」
「っ!?」

 メルドの言葉に、思わず光輝の剣が止まってしまう。有り得ないと思っていても、もしや、メルド団長は操られているだけで死んでいないのではないか? まだ助けられるのではないか? そんな思いが捨てきれない。

 これが光輝の弱点。ようは半端なのだ。助けるなら助ける。殺すなら殺す。どちらを選んでもいいが、そこには明確な決意と覚悟が必要だ。光輝にはそれがない。与えられた情報を元に、その場その場で都合のいい解釈をする。だから、普段は自分の正しさを疑わないのに、一番大事なときに迷ってしまう。

 メルドが、傍に落ちていた騎士剣を足で跳ね上げる。一瞬で、その手に取り戻した凶器で、再び光輝と切り結んだ。しかし、光輝に先程までの圧倒的な勢いはなく、むしろメルドに押されてしまっている。

「ッ!? ガハッ!」

 メルドの技をどうにか凌いだ直後、突然、光輝の体から力が抜けて両膝が折れた。“覇潰”のタイムリミットではない。まだ、そこまで時間は経っていない。異変はそれだけに留まらず、遂には盛大に吐血までしてしまった。ビチャビチャと地面に染み込む血が、光輝の混乱に拍車をかける。

「ふぅ~、やっと効いてきたんだねぇ。結構、強力な毒なんだけど……流石、光輝くん。団長さんを用意しておかなかったら僕の負けだったかも」

 余裕そうな声音でのたまう恵里に、光輝が崩れ落ちる体を必死に支えながら疑問顔を向ける。

「くふふ、王子様がお姫様をキスで起こすなら、お姫様は王子様をキスで眠りに誘い(殺して)自分のものに……何て展開もありだよね? まぁ、万一に備えてっていうのもあるけどねぇ~」

 その言葉で光輝も気がついた。最初の恵里がしたキス。あの時、一緒に毒薬を飲まされたのだろうと。恵里自身は、先に解毒薬でも飲んでいたのだろう。まさか、口移しで毒を飲まされたとは思わなかった。まして、好意を示しながらなど誰が想像できようか。光輝は、改めて自分達が知っている恵里は最初からどこにもいなかったのだと理解した。

 毒が周り、完全に動けなくなった光輝を見て、恵里は満足そうに笑うと、くるりと踵を返して香織のもとへ向かった。そろそろ“縛魂”可能なタイムリミットが過ぎてしまうからだ。檜山が鬼のような形相で恵里を催促している。

 香織が死してなお汚される。そのことに光輝も雫も焦燥と憤怒、そして悔しさを顔に浮かべて必死に止めようとする。

 しかし、無常にも恵里の手は香織にかざされてしまった。恵里の詠唱が始まる。数十秒後には、檜山の言うことを何でも従順に聞く香織人形の出来上がりだ。雫達が激怒を表情に浮かべ、檜山が哄笑し、恵里がニヤニヤと笑みを浮かべる。

 そして……その声は絶望渦巻く裏切りの戦場にやけに明瞭に響いた。

「……一体、どうなってやがる?」

 それは、白髪眼帯の少年、南雲ハジメの声だった。

 ハジメの登場に、まるで時間が停止したように全員が動きを止めた。それは、ハジメが凄絶なプレッシャーを放っていたからだ。

 本来なら、傀儡兵達に感情はないためハジメのプレッシャーで動きを止めることなどないのだが、術者である恵里が、生物特有の強者の傍では身を潜めてやり過ごすという本能的な行動を思わずとったため、傀儡兵達もつられてしまったのである。

 ハジメは、自分を注視する何百人という人間の視線をまるで意に介さず、周囲の状況を睥睨する。クラスメイト達を襲う大量の兵士と騎士達、一塊になって円陣を組んでいるクラスメイト達、メルドの前で血を吐きながら倒れ伏す光輝、黒刀を片手に膝をついている雫、硬直する恵里と檜山、そして……檜山に抱き締められながら剣を突き刺され、命の鼓動を止めている香織……

 その姿を見た瞬間、この世のものとは思えないおぞましい気配が広場を一瞬で侵食した。体中を虫が這い回るような、体の中を直接かき混ぜられ心臓を鷲掴みにされているような、怖気を震う気配。圧倒的な死の気配だ。血が凍りつくとはまさにこのこと。一瞬で体は温度を失い、濃密な殺意があらゆる死を幻視させる。

 刹那、ハジメの姿が消えた。

 そして、誰もが認識できない速度で移動したハジメは、轟音と共に香織の傍に姿を見せる。轟音は、檜山が吹き飛び広場の奥の壁を崩壊させながら叩きつけられた音だった。ハジメは、一瞬で檜山の懐に踏み込むと香織に影響が出ないように手加減しながら殴り飛ばしたのである。

 本来なら、檜山如きは一撃で体が弾け飛ぶのだが、その手加減のおかげで今回は全身数十箇所の骨を砕けさせ内臓をいくつか損傷しただけで済んだ。今頃、壁の中で気を失い、その直後痛みで覚醒するという地獄を繰り返しているだろう。

 ハジメは、片腕で香織を抱き止めると、そっと顔にかかった髪を払った。そして、大声で仲間を呼ぶ。

「ティオ! 頼む!」
「っ……うむ、任せよ!」
「し、白崎さんっ!」

 ハジメの呼びかけに応えて、一緒にやって来たティオが我を取り戻したように急いで駆けつけた。傍らの愛子も血相を変えて香織の傍にやって来る。ハジメから香織を受け取ったティオは急いで詠唱を始めた。

「アハハ、無駄だよ。もう既に死んじゃってるしぃ。まさか、君達がここに来てるなんて……いや、香織が来た時点で気付くべきだったね。……うん、檜山はもうダメみたいだし、南雲にあげるよ? 僕と敵対しないなら、魔法で香織を生き返らせてあげる。擬似的だけど、ずっと綺麗なままだよ? 腐るよりいいよね? ね?」

 にこやかに、しかし額に汗を浮かべながらそう提案する恵里。傍らで愛子が驚愕に目を見開いているのを尻目に、ハジメはスッと立ち上がった。ハジメの力を知っている恵里は、内心盛大に舌打ちしながらも自分に手を出せば、香織はこのまま朽ちるだけだと力説する。

 だが、ハジメは、その溢れ出る殺意を微塵も揺るがせず、能面のような無表情で足音を立てながらゆっくり恵里に歩み寄っていく。

「待って、待つんだ、南雲。ほら、周りの人達を見て? 生きているのと変わらないと思わない? 死んでしまったものは仕方ないんだし、せめて彼等のようにしたいと思うよね? しかも、香織を好きなように出来るんだよ? それには僕が絶対に必要で……」

 後退りしならが言い募る恵里。

 と、その時、ハジメの背後に人影が走る。それは、他の傀儡兵とは比べ物にならない程の身のこなしでハジメに鋭い槍の一撃を放った。影の正体は近藤礼一。先程、恵里に殺害され傀儡と成り下がった哀れな槍術師だ。

 もっとも、傀儡とは言え、異世界チートの力は十全に発揮される。近藤の天職たる“槍術師”の力により放たれた激烈な突きは、風の螺旋を纏いながらハジメの心臓に狙い違わず直撃した。

「アハハ、油断大敵ぃ~。それとも怒りで我をっ……」

 さっきまでのどこか焦ったような表情を一転させてニヤついた表情に戻った恵里だったが、ハジメが何の痛痒も感じていないかのように歩みを止めない事で、その表情を引き攣らせた。ハジメの後ろにいたなら気がついただろう。紅い魔力の塊が十円サイズに圧縮され、突き出された槍の先を食い止めていることを。“金剛”の派生“集中強化”だ。

 ハジメは、無言で左腕の肘を背後に向けると、何の躊躇いもなくショットガンを撃ち放った。轟音が響き渡り、同時に、超至近距離から放たれた大威力の散弾を顔面で受けた近藤は、その頭部を細かな肉片に変えて吹き飛んだ。ビチャビチャと血肉の飛び散る生々しい音が響く。

「っ……殺れ」

 恵里が、徐々に表情を険しくしながら次の傀儡兵とメルドを前に出した。ハジメも、光輝ほどではないがメルドとはそれなりに親しくしていたし、【オルクス大迷宮】では、秘薬を使って瀕死の彼を救ってまでいる。なので、光輝と同じように動揺して隙を晒すと踏んだのだ。周囲では、傀儡兵が虎視眈々とハジメが隙を晒すのを待ち構えている。

 しかし、そんな常識的な判断がハジメに通じるわけがない。

 ハジメは、メルドが踏み込んで来るのを尻目に“宝物庫”からメツェライを取り出した。いきなり虚空から現れた見るからに凶悪なフォルムの重兵器に、その場の全員が息を呑む。

 咄嗟に、雫が叫んだ。

「みんな! 伏せなさい!」

 龍太郎や永山が立ち尽くしているクラスメイト達を覆いかぶさる様に引きずり倒した。

 直後、独特の回転音と射撃音を響かせながら、破壊の権化が咆哮をあげる。かつて、解放者の操るゴーレム騎士を尽く粉砕し、数万からなる魔物の大群を血の海に沈め、“神の使徒”が放つ死の銀羽すら相殺した怪物の牙。そんなものを解き放たれて、たかだか傀儡兵如きが一瞬でも耐えられるわけがなかった。

 電磁加速された弾丸は、一人一発などという生温いと言わんばかりに全ての障碍を撃ち砕き、広場の壁を紙屑のように吹き飛ばしながら、ハジメを中心に薙ぎ払われる。傀儡兵達は、その貴賎に区別なく体を砕け散らせて原型を留めない唯の肉塊へと成り下がった。

 やがて、メツェライの咆哮が止み、静寂が戻った広場に再び足音が響く。誰もが伏せた体勢のまま身動きを取れない中で、その道を阻むものの全てを薙ぎ払い進撃するのは、当然、ハジメだ。

 他の皆と同じく、必死に頭を下げて嵐が過ぎ去るのをひたすら待っていた恵里の眼前に、靴の爪先が突きつけられた。恵里が、のろのろ顔を上げる。靴から順に視線を上げていき、見上げた先には、何の価値も無い路傍の石を見るような無機質な瞳が一つ。ハジメの手にメツェライは既にない。ただ恵里の眼前に立ち見下ろしている。

 恵里が何も言えず、ただ呆然と見つめ返していると、おもむろにハジメが口を開いた。

「で?」
「っ……」

 ハジメは、恵里が何をしたのか詳しい事は知らない。ただ、敵だと理解しただけだ。これが唯の敵なら、無慈悲に直ちに殺して終わりだった。しかし、恵里は決して手を出してはいけない相手に手を出したのだ。もはや、ただ殺すだけでは足りない。死ぬ前に“絶望”を……

 だから、ハジメは問うたのだ。お前如きに何ができる? 何もできないだろう? と。

 それを正確に読み取った恵里は、ギリッと歯を食いしばった。唇の端が切れて血が滴り落ちる。今の今まで自分こそがこの場の指揮者で、圧倒的有利な立場にいたはずなのに、一瞬で覆された理不尽とその権化たるハジメに憎悪と僅かな畏怖が湧き上がる。

 恵里が、激情のまま思わず呪う言葉を吐こうとした瞬間、ゴリッと額に銃口が押し当てられた。

 認識すら出来なかった早抜きに、呪いの言葉を呑み込む恵里。

「……てめぇの気持ちだの動機だの、そんな下らないこと聞く気はないんだよ。もう何もないなら……死ね」

 ハジメの指が引き金に掛かる。理恵は、ハジメの目に、クラスメイトである自分を殺害すること、香織を傀儡に出来ないことへの躊躇いが微塵もない事を悟った。

――死ぬ

 恵里の頭を、その言葉だけが埋め尽くす。しかし、恵里の悪運はまだ尽きていなかったらしい。

 恵里の脳天がぶち抜かれようとした瞬間、ハジメ目掛けて火炎弾が飛来したからだ。かなりの威力が込められているらしく白熱化している。しかし、ハジメにはやはり通用しない。ドンナーの銃口を火炎弾に向けるとピンポインで魔法の核を撃ち抜き、あっさり霧散させてしまった。

「なぁぐぅもぉおおおー!!」

 その霧散した火炎弾の奥から、既に人語かどうか怪しい口調でハジメの名を叫びながら飛び出してきたのは満身創痍の檜山だった。手に剣を持ち、口から大量の血を吐きながら、砕けて垂れ下がった右肩をブラブラとさせて飛びかかってくる。もはや、鬼の形相というのもおこがましい、醜い異形の生き物にしか見えなかった。

「…うるせぇよ」

 ハジメは、煩わしそうに飛びかかって来た檜山にヤクザキックをかます。ドゴンッ! という爆音じみた衝撃音が響き、檜山の体が宙に浮いた。吹き飛ばなかったのは衝撃を余すことなく体に伝えたからだ。

 そして、ハジメは、宙に浮いた檜山に対して、真っ直ぐ天に向けて片足を上げると、そのまま猛烈な勢いで振り下ろした。まるで薪を割る斧の一撃の如き踵落としは、檜山の頭部を捉えて容赦なく地面に叩きつけた。地面が衝撃でひび割れ、割れた檜山の額から鮮血が飛び散る。勢いよくバウンドした檜山は既に白目を向いて意識を失っていた。

 既に誰が見ても瀕死の檜山。しかし、なお手を緩めないのがハジメクオリティーだ。バウンドして持ち上がった頭を更に蹴り上げ、再び宙に浮かせる。絶妙な手加減がされていたのか、その衝撃で檜山は意識を取り戻した。

 ハジメは、宙にある檜山の首を片手で掴み掲げるようにして持ち上げる。宙吊りになった檜山が、力のない足蹴りと拳で拘束を解こうと暴れるが、ハジメの人外の膂力は小揺ぎもしない。

「おま゛えぇ! おま゛えぇざえいなきゃ、がおりはぁ、おでのぉ!」

 溢れ出る怨嗟と殺意。人間とは、ここまで堕ちる事ができるのかと戦慄を感じずにはいられない余りの醜悪さ。常人なら見るに堪えないと視線を逸らすか、吐き気を催して逃げ去るだろう。

 しかし、ハジメは、檜山のそんな呪言もまるで意に返さない。それどころか、むしろ、ハジメの瞳には哀れみの色すら浮かんでいた。

「俺がいようがいまいが、結果は同じだ。少なくとも、お前が何かを手に入れられる事なんて天地がひっくり返ってもねぇよ」
「きざまぁのせいでぇ」
「人のせいにするな。お前が堕ちたのはお前のせいだ。日本でも、こっちでも、お前は常に敗者だった。“誰かに”じゃない。“自分に”だ。他者への不満と非難ばかりで、自分で何かを背負うことがない。……お前は、生粋の負け犬だ」
「ころじてやるぅ! ぜっだいに、おま゛えだけはぁ!」

 ハジメの言葉に更に激高して狂気を撒き散らす檜山。ハジメは、自分に負け続けた負け犬を最後に一瞥したあと、何かに気が付いたように明後日の方向へ視線を向けた。その方向には、王都に侵入してきた魔物の先陣がたむろしていた。

 ハジメは、冷めた眼差しを檜山に戻し、再度宙に投げると、重力に従って落ちてきたところで義手の一撃を叩きつけた。その衝撃により回転力が加わって、くるくると独楽のように回転する檜山。

「生き残れるか試してみな。まぁ、お前には無理だろうがな」

 ハジメは、更にダメ押しとばかりに空気すら破裂するような回し蹴りを叩き込んだ。檜山は、その衝撃でボギュ! と嫌な音を立てながら大きく広場の外へと吹き飛ばされていった。

 ハジメが、さっさと檜山を撃ち殺さず、急所を外して滅多打ちにしたのは無意識的なものだ。自分を奈落に落としたことへの復讐ではない、香織を傷つけられたことへの復讐だ。

 本人にどこまで自覚があるかはわからないが、楽に殺してやるものかというハジメの思いが現れたのである。それは、檜山を辛うじて生かしたまま、魔物の群れの中に蹴り飛ばした事にもあらわれていた。

 しかし、この檜山への対応が、恵里を殺すための時間を削いでしまった。恵里が逃げ出したのではない。ハジメ目掛けて極光が襲いかかったのだ。

「チッ……」

 ハジメは、舌打ちしつつその場から飛び退き、極光の射線に沿ってドンナーを撃ち放った。三度轟く炸裂音と同時に、極光という滝を登る龍の如く、三条の閃光が空を切り裂く。

 直後、極光の軌道が捻じ曲がり、危うく光輝を灼きそうになったが、寸前で恵里が飛び出し何とか回避したようだ。恵里としても、誤爆で光輝が跡形もなく消し飛ばされるなど冗談でも勘弁して欲しいところだろう。

 やがて、極光が収まり空から白竜に騎乗したフリードが降りてきた。

「……そこまでだ。白髪の少年。大切な同胞達と王都の民達を、これ以上失いたくなければ大人しくすることだ」

 どうやらフリードは、ハジメを光輝達や王国のために戦っているのだと誤解しているようである。周囲の気配を探れば、いつの間にか魔物が取り囲んでおり、龍太郎達や雫、そしてティオや愛子達を狙っていた。

 ハジメ達が本気で戦えば、甚大な被害が出ることを理解しているため人質作戦に出たのだろう。ハジメは知らないことだが、ユエに手酷くやられ、ハジメ達には敵わないと悟ったフリードの苦肉の策だ。なお、ユエに負わされた傷は、完治にはほど遠いものの、白鴉の魔物の固有魔法により癒されつつある。

 と、その時、香織に何かをしていたティオがハジメに向かって声を張り上げた。

「ご主人様よ! どうにか固定は出来たのじゃ! しかし、これ以上は……時間がかかる……出来ればユエの協力が欲しいところじゃ。固定も半端な状態ではいつまでも保たんぞ!」

 ハジメは、肩越しにティオを振り返ると力強く頷いた。何のことかわからないクラスメイト達は訝しそうな表情だ。しかし、同じ神代魔法の使い手であるフリードは察しがついたのか、目を見開いてティオの使う魔法を見ている。

「ほぉ、新たな神代魔法か……もしや【神山】の? ならば場所を教えるがいい。逆らえばきさっ!?」

 フリードが、ハジメ達を脅して【神山】大迷宮の場所を聞き出そうとした瞬間、ハジメのドンナーが火を噴いた。咄嗟に、亀型の魔物が障壁を張って半ば砕かれながらも何とか耐える。フリードは、視線を険しくして、周囲の魔物達の包囲網を狭めた。

「どういうつもりだ? 同胞の命が惜しくないのか? お前達が抵抗すればするほど、王都の民も傷ついていくのだぞ? それとも、それが理解できないほど愚かなのか? 外壁の外には十万の魔物、そしてゲートの向こう側には更に百万の魔物が控えている。お前達がいくら強くとも、全てを守りながら戦い続けることが……」

 その言葉を受けたハジメは、フリードに向けていた冷ややかな視線を王都の外――王都内に侵入しようとしている十万の大軍がいる方へ向けた。そして、無言で“宝物庫”から拳大の感応石を取り出した。訝しむフリードを尻目に感応石は発動し、クロスビットを操る指輪型のそれとは比べ物にならない光を放つ。

 猛烈に嫌な予感がしたフリードは、咄嗟に、ハジメに向けて極光を放とうとする。しかし、ハジメのドンナーによる牽制で射線を取れず、結果、それの発動を許してしまった。

――天より降り注ぐ断罪の光。

 そう表現する他ない天と地を繋ぐ光の柱。触れたものを、種族も性別も貴賎も区別せず、一切合切消し去る無慈悲なる破壊。大気を灼き焦がし、闇を切り裂いて、まるで昼間のように太陽の光で目標を薙ぎ払う。

キュワァアアアアア!!

 独特な調べを咆哮の如く世界に響き渡らせ大地に突き立った光の柱は、直径五十メートルくらいだろうか。光の真下にいた生物は魔物も魔人族も関係なく一瞬で蒸発し、凄絶な衝撃と熱波が周囲に破壊と焼滅を撒き散らす。

 ハジメが手元の感応石に魔力を注ぎ込むと、光の柱は滑るように移動し地上で逃げ惑う魔物や魔人の尽くを焼き滅ぼしていった。

 防御不能。回避不能。それこそ、フリードのように空間転移でもしない限り、生物の足ではとても逃げ切れない。外壁の崩れた部分から王都内に侵入しようとしていた魔物と魔人族が後方から近づいて来る光の柱を見て恐慌に駆られた様に死に物狂いで前に進み出す。

 光の柱は、ジグザグに移動しながら大軍を蹂躙し尽くし、外壁の手前まで来るとフッと霧散するように虚空へ消えた。

 後には、焼き爛れて白煙を上げる大地と、強大なクレーター。そして大地に刻まれた深い傷跡だけだった。ギリギリ、王都へ逃げ込む(・・・・)ことが出来た魔人族は安堵するよりも、唯々、一瞬にして消えてしまった自軍と仲間に呆然として座り込むことしか出来なかった。

 そして、思考が停止し、呆然と佇むことしか出来ないのは、ハジメの目の前にいるフリードや恵里、雫達も同じだった。

「愚かなのはお前だ、ド阿呆。俺がいつ、王国やらこいつらの味方だなんて言った? てめぇの物差しで勝手なカテゴライズしてんじゃねぇよ。戦争したきゃ、勝手にやってろ。ただし、俺の邪魔をするなら、今みたいに全て消し飛ばす。まぁ、百万もいちいち相手してるほど暇じゃないんでな、今回は見逃してやるから、さっさと残り引き連れて失せろ。お前の地位なら軍に命令できるだろ?」

 同胞を一瞬にして殲滅した挙句の余りに不遜な物言いに、フリードの瞳が憎悪と憤怒の色に染まる。しかし、例え、特殊な方法で大軍を転移させるゲートを発動させているとはいえ、ハジメの放った光の柱の詳細が分からない以上、二の舞、三の舞である。それだけは、何としても避けねばならない。

 ハジメとしても、逃がすのは業腹ではあったが、今は一刻も早く香織に対して処置しなければならない。時間が経てば、手の施しようがなくなってしまうのだ。まして、初めての試みであり、ぶっつけ本番の作業である。しかも、実は先の光の一撃は、試作品段階の兵器であり、今の一発で壊れてしまった。殲滅兵器なしに、百万もの魔物と殺り合っている時間はない。大軍への指揮権があるであろうフリードを殺すのは得策ではなかった。

 そうとは知らないフリードは、唇を噛み切り、握った拳から血を垂れ流すほど内心荒れ狂っていたが、魔人族側の犠牲をこれ以上増やすわけにはいかないと、怨嗟の篭った捨て台詞を吐いてゲートを開いた。

「……この借りは必ず返すっ……貴様だけは、我が神の名にかけて、必ず滅ぼす!」

 フリードは踵を返すと、恵里を視線で促し白竜に乗せた。恵里は、毒を受けながらも、その強靭なステータスで未だ生きながらえている光輝を見て、妄執と狂気の宿った笑みを向けた。それは言葉に出さなくても分かる、必ず、光輝を手に入れるという意志の篭った眼差しだった。

 白竜に乗ったフリードと恵里がゲートの奥に消えると同時に、上空に光の魔弾が三発上がって派手に爆ぜた。おそらく、撤退命令だろう。同時に、ユエとシアが上空から物凄い勢いで飛び降りてきた。

「……ん、ハジメ。あのブ男は?」
「ハジメさん! あの野郎は?」

 どうやら二人共、フリードをボコりに追ってきたらしい。光の柱について聞かないのは、ハジメの仕業とわかっているからだろう。

 しかし、今は、そんな些事に構っている暇はないのだ。ハジメは、ユエとシアに香織の死を伝える。二人は、驚愕に目を見開いた。しかし、ハジメの目を見てすぐさま精神を立て直す。

 そして、ハジメは、その眼差しに思いを込めてユエに願った。ユエは、少ない言葉でも正確に自分の役割を理解すると力強く「……ん、任せて」と頷く。

 踵を返してティオのもとへ駆けつけた。そして、ハジメが香織をお姫様だっこで抱え上げ、そのまま広場を出ていこうとする。そこへ、雫がよろめきながら追いかけ必死な表情でハジメに呼びかけた。

「南雲君! 香織が、香織を……私……どうすれば……」

 雫は、今まで見たことがないほど憔悴しきった様子で、放っておけばそのまま精神を病むのではないかと思えるほど悲愴な表情をしていた。戦闘中は、まだ張り詰めた心が雫を支えていたが、驚異が去った途端、親友の死という耐え難い痛みに苛まれているのだろう。

 ハジメは、シアに香織を預けるとティオに先に行くように伝える。雫の様子を見て察したユエ達は、ティオの案内に従って広場を足早に出て行った。

 クラスメイト達が怒涛の展開に未だ動けずにいる中、ハジメは、女の子座りで項垂れる雫の眼前に膝を付く。そして、両手で雫の頬を挟み強制的に顔を上げさせ、真正面から視線を合わせた。

「八重樫、折れるな。俺達を信じて待っていてくれ。必ず、もう一度会わせてやる」
「南雲君……」

 光を失い虚ろになっていた雫の瞳に、僅かだが力が戻る。ハジメは、そこでフッと笑うと冗談めかした言葉をかけた。

「八重樫がこんなんじゃ、今後、誰が面倒事を背負ってくれるっていうんだ? 壊れた八重樫なんか見せたら香織までどうなるか……勘弁だぞ? 俺は八重樫みたいな苦労大好き人間じゃないんだ」
「……誰が苦労大好き人間よ、馬鹿。……信じて……いいのよね?」

 ハジメは、笑みを収めて真剣な表情でしっかりと頷く。

 間近で、ハジメの輝く瞳と見つめ合い、雫はハジメが本気だと理解する。本気で、既に死んだはずの香織をどうにかしようとしているのだ。その強靭な意志の宿った瞳に、雫は凍てついた心が僅かに溶かされたのを感じた。

 雫の瞳に、更に光が戻る。そして、ハジメに向かって同じ様に力強く頷き返した。それは、ハジメ達を信じるという決意のあらわれだ。

 ハジメは、雫が精神的に壊れてしまう危険性が格段に減った事を確認すると、“宝物庫”から試験管型容器を取り出し、雫の手に握らせた。

「これって……」
「もう一人の幼馴染に飲ませてやれ。あまり良くない状態だ」

 ハジメの言葉にハッとした様子で倒れ伏す光輝に視線を移す雫。光輝は既に気を失っており、見るからに弱っている様子だ。ハジメが手渡した神水が、以前、死にかけのメルドを一瞬で治癒したのを思い出し、秘薬中の秘薬だと察する。ハジメとしては、せっかく声をかけても光輝の死で雫が折れてしまっては困るくらいの認識だったのだが……雫の表情を見れば予想以上に感謝されてしまっているようだった。

 雫は、ギュッと神水の容器を握り締めると、少し潤んだ瞳でハジメを見つめ「…ありがとう、南雲君」とお礼の言葉を述べた。ハジメは、お礼の言葉を受け取ると直ぐに立ち上がり踵を返す。そして、ユエ達を追って風の様に去っていった。



いつも読んで下さり有難うございます
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます

フリードも恵里も逃がしてスッキリしない人も多いと思いますが、後々、盛大に戦って欲しいので、ご勘弁を。

兵器とか香織とか檜山のこととかは、次回、後日談で

次回は、土曜日の18時更新予定です。
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