挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第四章

105/271

神山

「……うそん」

 思わず、ポカンと口を開けて夜天を焦がす巨大なキノコ雲を見つめるハジメ。昔、テレビの戦争系ドキュメンタリーでこんな光景見たなぁと思いながら呆然としていると、突然、念話が届いた。

“ご、ご主人様よ……そっちはどうじゃ?”
“お? おぉ、ティオか。いや、こっちはちょうど終わったところなんだが……”
“ふむ、それは重畳。流石、ご主人様じゃ。ちょうど、こちらも終わったところなんじゃが、合流できるかの?”
“いや、それが何かすごいことに……”
“……その原因はわかっておる。というより、妾達のせいじゃし……”
“……何だって?”
“取り敢えず、合流出来るかの?”
“はぁ、わかった”

 どうやら聖教教会総本山が根こそぎ崩壊した原因を知っているようなので、一体、何があったと頬を引き攣らせながら、ハジメはティオとの合流を急ぐ事にした。上空に上がると、直ぐに、黒竜姿のティオがキノコ雲から距離を置いた場所で滞空しているのを発見する。

 そして、ハジメの目には、その背に乗って「あわわわ」といった感じで狼狽えまくっている愛子の姿も映った。なぜ、ここに愛子が? という疑問は湧いたものの、愛子の性格ならきっと、逃げずにティオに協力でもしたのだろうと当たりを付けるハジメ。それよりも、明らかに、愛子の「やってしまった」といった様子の方が気になった。

「……先生、ティオ。二人共無事みたいだな」
「な、南雲君! よかった、無事だったんですね。……本当によかった」

“ご主人様。うむ、一瞬、死ぬかと思ったが何とか生きておるよ。全く、流石はご主人様の先生殿じゃ。まさか、妾のブレスを聖教教会そのものを崩壊させる程に昇華させるとは。天晴れ見事じゃよ”

 ティオの言葉に、ハジメが目を瞬かせる。そして、愛子に“まさか”という引き攣った表情を向けた。

「……先生、一体何やったんだ」
「あわわわわわ、ち、ちなうんです! こんなつもりでは。ちょっと教会の結界が強くて……ティオさんのブレスの威力を高められればと……結界を破るだけのつもりが……」

 ハジメの登場に、安堵の吐息を漏らす愛子だったが、続くハジメの質問で再びあたふたし始めた。狼狽える愛子に事情を聞くと、どうやらこういう事らしい。

 愛子は、ティオに騎乗しながら、イシュタル達がハジメに状態異常の魔法をかけられないように戦うことを決意した。しかし、魔法に関して高い適性は持っていても、碌な魔法陣を持っていない愛子に強力な攻撃魔法を行使することは出来なかった。また、大聖堂そのものが強力な結界を発動させるアーティファクトだったらしく、その結界に守られたイシュタル達には、ティオのブレスさえも届かなかった。

 このままでは、イシュタル達は安全地帯から悠々と魔法を行使できてしまう。何とか結界を突破できるだけの火力を得ることは出来ないだろうかと、神殿騎士達からの攻撃を凌ぎながら考えて、愛子が思いついたのは……自分の特技を生かす事だった。ちなみに、愛子の特技とは以下のある通り、

====================================
畑山愛子 25歳 女 レベル:56
天職:作農師
筋力:190
体力:380
耐性:190
敏捷:310
魔力:820
魔耐:280
技能:土壌管理・土壌回復[+自動回復]・範囲耕作[+範囲拡大][+異物転換]・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作[+急速発酵][+範囲発酵][+遠隔発酵]・範囲温度調整[+最適化][+結界付与]・農場結界・豊穣天雨・言語理解
====================================

 この内、使ったのは発酵操作らしい。【神山】と言えど、人が暮らす場所であるから発酵できるものは大量にある。それから、地球で言うところのメタン発酵というものを行ったようだ。勿論、正確には別の異世界物質だが、可燃性ガスであることに変わりはない。

 それをとにかくひたすら教会周辺で行いまくったようだ。攻撃魔法ではなく、ただの発酵なので教会の結界も反応せず空気と同じように結界の内外に溜まり続けた。風に吹かれて霧散しないようにティオが風を操って一定範囲に留めることまでした。

 そして、これくらい可燃性ガスが溜まっていれば、ティオのブレスと相まって教会の結界を破壊できるだろうと、いざ、ブレスを放ってみれば……

「……こうなったと」

“うむ。妾達も盛大に吹き飛ばされてなぁ、久しぶりに死を感じたのじゃ。結界を破壊するどころか、教会そのものを崩壊させる程とは……このような方法、妾の長い生のうちでも思いつかんかった。流石、ご主人様の先生殿じゃ。感服じゃよ”

「ちなうんです! そうじゃないんです! こんなに爆発するなんて思ってなくて! ただ、半端はいけないと思って! ホントなんです! はっ!? 教会の皆さんはっ!? どうなりました!?」

 愛子が、涙目でオロオロしながら弁解し、廃墟と化した教会に視線を彷徨わせる。ハジメ達も一緒に瓦礫の山々に視線を向けるが……

「……まぁ、まとめて吹き飛んだんだろうなぁ」

“教会の結界を過信している感じじゃったしのぉ。完全な不意打ちでもあったのじゃし、無防備なところにあの爆発では、助からんじゃろ”

「あ、ああ……そんな……いえ、覚悟はしていたのですが……」

 自分の幇助が、教会関係者達をまとめて爆殺してしまった原因である事に顔を青ざめさせる愛子。覚悟を決めて戦いに挑んだつもりだが、いざ、その結果を突きつけられると平常心ではいられない。

 思わず、その場で嘔吐してしまう。涙を流しながら嘔吐く愛子に、ハジメは頭をカリカリと掻くと、そっと愛子に寄り添った。そして、吐瀉物で汚れているのも気にせず愛子の手を握る。今の愛子には、とにかく暖かさが必要だと思ったのだ。

 愛子は、凍えて砕けてしまいそう心が握られた手から伝わる暖かさに繋ぎ止められるのを感じた。そして、今だけは生徒と教師という事も忘れて、ハジメの胸に飛び込みギュッと抱きついて嗚咽を漏らした。

“……妾の背中……”

 ティオが、自分の背中の惨状に少し悲しげな声を出すも、直ぐに気を取り直して再生魔法を行使する。ティオとしても、愛子には時間を掛けて立ち直ってもらいたいという思いはあるし、そもそもブレスを放ったのは自分であって愛子が必要以上に責任を感じる必要はないのだが、今は、その説明が許されるほど時間に余裕のある状況ではない。なので、再生魔法によって、磨り減った精神を僅かばかりに癒したのだ。

 気力が戻ってきた愛子は、ハジメの胸元から顔を上げる。涙と鼻水と吐瀉物で大変なことになっていたが、ハジメは特に気にした風もなく“宝物庫”からタオルや水を取り出すと、汚れた愛子を綺麗にしてやった。愛子は、とんだ醜態を見せた事に動揺して、されるがままである。

「落ち着いたか? 先生」
「は、はい。も、もう大丈夫です。南雲君……」

 ハジメの呼びかけにハッと我に返った愛子は、羞恥やら何やらで顔を真っ赤に染め上げた。心なし、ハジメの名を呼ぶ声に熱が篭っている。上目遣いにチラチラとハジメを伺う瞳も熱っぽくうるうると潤んでいた。どう見ても、ただの羞恥心だけから来るものではなく、特別な感情が伺える表情だ。

 愛子は教師であるという認識が先に来て“女”として見ていなかったハジメだったが、流石に、そんな表情を見せられては「あれ? なんかこれ違くない? もしかして、そういうこと?」と愛子の感情を察して、頬を引き攣らせた。

 何だか色々ヤバイ気がすると、咄嗟に目を逸らしたハジメに、ティオから警戒心の含まれた声が届く。

“ご主人様よ。人がおる。明らかに、普通ではないようじゃが……”

「何だって?」

 まさか、あの爆発で生き残った者がいるのかと驚きながら、ハジメがティオの視線を追うと、そこには確かに、白い法衣のようなものを着た禿頭の男がおり、ハジメ達を真っ直ぐに見つめていた。しかし、ティオの言う通り、普通の人間では有り得ない。なぜなら、その体が透けてゆらゆらと揺らいでいたからだ。

 禿頭の男は、ハジメ達が自分を認識したことに察したのか、そのまま無言で踵を返すと、歩いている素振りも重力を感じている様子もなくスーと滑るように動いて瓦礫の山の向こう側へと移動した。そして、姿が見えなくなる直前で振り返り、ハジメ達に視線を向ける。

「……ついて来いってことか?」

“じゃろうな。どうするのじゃ、ご主人様よ”

「……そうだな、さっさとユエ達と合流はしたいところだが……元々、ここには神代魔法目当てで来たんだ。もしかしたら、何か関係があるのかもしれない。手がかりを逃すわけにはいかないな」

“ふむ。そうじゃの。では、追うとしよう”

 ハジメの言葉に、ティオは一つ頷くと、翼をはためかせ瓦礫の山の上に降り立ち、ハジメと愛子を降ろしてから竜化を解いた。そして、背中の汚れに気がついて、少し眉を下げると“宝物庫”から代わりの服を取り出した。ハジメも、それで自分の状態に気がついたのか、“宝物庫”から服を取り出し、素早く着替えを済ませる。

「あぅ、す、すみません……汚してしまって……」

 その原因である、愛子が、羞恥と申し訳なさで小さな体を更に小さくして謝罪する。女として、自分の吐瀉物で他人の服を汚すなど恥ずかしくて堪らないのだろう。

 ハジメもティオも、仕方ない事だと分かっていたので、気にするなと声を掛けるが、そう簡単に割り切れるものでもない。なにせ、先程のやり取りで、愛子自身自分の気持ちを認めつつあり、それ故に、特にハジメに対しては色々と思う所があるのだ。

 しかし、いつまでも縮こまっていられても困るので、ハジメはさっさと話題を転換する。

「先生、悪いが付いてきてくれ。何が起こるか分からないが……あのハゲが何者か、確かめないわけにもいかないんだ」
「は、はい。わかりました。……南雲君に付いていきます……」

 最後の付いて行くという言葉に妙な力と熱が篭っていたような気がするハジメだったが、敢えて気がつかない振りをして、禿頭の男が消えていった場所に歩を進めた。

 禿頭の男は、その後も、時折姿を見せてはハジメ達を誘導するように瓦礫の合間を進んでいく。そして、五分ほど歩いた先で、遂に目的地についたようで、真っ直ぐハジメ達を見つめながら静かに佇んでいた。

「あんた、何者なんだ? 俺達をどうしたい?」
「……」

 禿頭の男は、ハジメの質問には答えず、ただ黙って指を差す。その場所は何の変哲も無い唯の瓦礫の山だったが、男の眼差しは進めと言っているようだ。問答をしても埓があかないと判断したハジメは、ティオ達と頷き合うとその瓦礫の場所へ踏み込んだ。すると、その瞬間、瓦礫がふわりと浮き上がり、その下の地面が淡く輝きだした。見れば、そこには大迷宮の紋章の一つが描かれていた。

「……あんたは……解放者か?」

 ハジメが質問したのと、地面が発する淡い輝きがハジメ達を包み込んだのは同時だった。

 そして、次の瞬間には、ハジメ達は全く見知らぬ空間に立っていた。それほど大きくはない。光沢のある黒塗りの部屋で、中央に魔法陣が描かれており、その傍には台座があって古びた本が置かれている。どうやら、いきなり大迷宮の深部に到達してしまったらしい。

 ハジメ達は、魔法陣の傍に歩み寄った。ハジメは、何が何やらと頭上に大量の“?”を浮かべている愛子の手を引いて、ティオと頷き合うと精緻にして芸術的な魔法陣へと踏み込んだ。

 と、いつも通り記憶を精査されるのかと思ったら、もっと深い部分に何かが入り込んでくる感覚がして、思わず三人とも呻き声を上げる。あまりに不快な感覚に、一瞬、罠かと疑うも、次の瞬間にはあっさり霧散してしまった。そして、攻略者と認められたのか、頭の中に直接、魔法の知識が刻み込まれる。

「……魂魄魔法?」
「う~む。どうやら、魂に干渉できる魔法のようじゃな……」
「なるほどな。ミレディの奴が、ゴーレムに魂を定着させて生きながらえていた原因はこれか……」

 いきなり頭に知識を刻み込まれるという経験に、頭を抱えて蹲る愛子を尻目に、ハジメは納得顔で頷くと、脇の台座に歩み寄り、安置された本を手にとった。

 どうやら、中身は大迷宮【神山】の創設者であるラウス・バーンという人物が書いた手記のようだ。オスカー・オルクスが持っていたものと同じで、解放者達との交流や、この【神山】で果てるまでのことが色々書かれていた。

 しかし、ハジメには興味のないことなので、さくっと読み飛ばす。ラウス・バーンの人生などどうでもいいのである。彼が、なぜ映像体としてだけ自分を残し、魂魄魔法でミレディのように生きながらえなかったのかも、懺悔混じりの言葉で理由が説明されていたが、スルーである。

 そして、最後の辺りで、迷宮の攻略条件が記載されていたのだが、それによれば、先程の禿頭の男ラウス・バーンの映像体が案内に現れた時点で、ほぼ攻略は認められていたらしい。

 というのも、あの映像体は、最低、二つ以上の大迷宮攻略の証を所持している事と、神に対して信仰心を持っていない事、あるいは神の力が作用している何らかの影響に打ち勝った事、という条件を満たす者の前にしか現れないからだ。つまり、【神山】のコンセプトは、神に靡かない確固たる意志を有すること、のようだ。

 おそらくだが、本来、正規のルートで攻略に挑んだのなら、その意志を確かめるようなあれこれがあったのではないだろうか。愛子も攻略を認められたのは、長く教会関係者から教えを受けておきながら、そんな信仰心より生徒を想う気持ちを揺るがせなかったから、あるいは教会の打倒に十分手を貸したと判断されたからだろう。

 この世界の人々には実に厳しい条件だが、ハジメ達には軽い条件だった。

 ようやく、神代魔法を手に入れた衝撃から立ち直った愛子を促して、台座に本と共に置かれていた証の指輪を取ると、ハジメ達は、さっさとその場を後にした。再び、ラウス・バーンの紋章が輝いて元の場所に戻る。

「先生、大丈夫か?」
「うぅ、はい。何とか……それにしても、すごい魔法ですね……確かに、こんなすごい魔法があるなら、日本に帰ることの出来る魔法だってあるかもしれませんね」

 愛子が、こめかみをグリグリしながら納得したように頷く。その表情は、ここ数日の展開の激しさに疲弊しきったように疲れたものだったが、帰還の可能性を実感できたのか少し緩んでいる。

「それじゃ、魔法陣の場所もわかったことだし、早くユエ達と合流しよう」
「あっ、そうです! 王都が襲われているんですよね? みんな、無事でいてくれれば……」

 心配そうな表情で祈るように胸元をギュと握り締める愛子を促して、ハジメ達は、下山を開始した。といっても、【神山】から王都へ降りるためのリフトがある場所から飛び降りるだけだが。

 強制フリーフォールを体験することになった愛子の悲鳴が木霊するものの、ハジメもティオもスルーだ。ぐったりした愛子を肩に担いで地面に降り立ったハジメ達は、あちこちから火の手が上がり悲鳴や怒号が響き渡る王都を尻目に愛子を送り届けるため、まず香織達がいる場所に向かう。

 そして、合流した先で見たものは……

 胸から剣を突き出し、既に息絶えた香織の姿だった。


いつも読んで下さり有難うございます
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます

神山の攻略条件は改稿するかもしれません。

次回は、土曜日の18時更新予定です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ