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いつかのための“着火剤”
第77話 誰だ?
 ほんの少し前。
アンジェがマリアの化粧を直してもらうのを終え、アージスと一緒にまだ部屋にいたとき。
 アンジェはある重要なことに今更ながら気付き、それをアージスに慌てて聞いた。
「あっ!!
ア、アージス、どうしよう!!
私が今、女の子の姿で舞踏会に出ようとしてるけど、その間、ラウルはどうなっちゃうの!!」
 しかし、慌てて聞いたアンジェとは裏腹に、アージスは「はぁー」と言う溜息とともにあきれ顔でアンジェに答えた。
「お前、そのことに気付くの遅すぎだろ。
しかも、俺がそのことについて何も考えなしで、お前を女装させたりすると思うのか?」
「いや、そんなことはないと思うけど・・・・・・」
 女装と言われてしまったことに対しては、あえてスルーした。
多分、そのことで言い争う時間はもうないと思ったから。
それよりも、今は質問に対する答えを聞かなければならない。
「いいか・・・・・・」
 アージスが答えはじめた。

「ラウルは今日、たった一人の家族である妹が熱を出してしまい、舞踏会には出たいが心やさしい騎士、ラウルは妹の看病のため欠席・・・・・・と公にはなっている。
次に、アンジェ。
お前は、アンジェ・イズ・スーダのままでは、この舞踏会には出席できない。
その理由はお前もわかっているように、スーダ家のものはかつて、王宮に出仕していたものの、今は誰も仕えてはいない。
だから、この舞踏会の参加資格がない。
なので、お前には・・・・・・アンジェリーナで出てもらおうと思っている」

 しばしの沈黙。
「・・・・・・はい?」
 アンジェは思わず聞き返してしまった。
だって、アージスが言っていることの半分くらいしか理解出来なかったから。
(ちょっ、ちょっと、待って。
えーと、聞き返すまえに、頭の中を整理しなくっちゃ・・・・・・)
 まず、一番にラウルのことだが・・・・・・いつの間にそんな詳細設定が出来ていたのだろうか。
場合によっては、アンジェも話しを合わせないといけないときがあるので、この“妹”設定のことは覚えておかなくてはならない。
 次に、スーダ家のこと。
実は、このこともアージスに言われて初めて気付いたのだが、話を聞いていて納得した。
確かに、今回の舞踏会に呼ばれているものは現在、王宮に仕えているものばかりで、仕えていないスーダ家の娘が招待されるのはおかしい。
よって、アンジェ・イズ・スーダでの登場は無理だ。
 そして、最後。
一番、アンジェが納得していない疑問。
どうして、アンジェ・イズ・スーダで舞踏会に入れないからといって、“アンジェリーナ”になる必要があるのだろう?
そもそも、“アンジェリーナ”とは誰だ?
もしかして、ラウルに続き、新しい仮の人物でも作ったのか。
しかし、また架空上の人物の人物をつくるより、それなら、アンジェがラウルで登場した方がややこしくならないのではないか?
(うーん、最後のがやっぱり、よくわかんない。
でも、考えて堂々巡りするより、さっさとアージスに聞いちゃおう!)
 多分、舞踏会までにあまり時間はもう、残っていないと思う。
 そこで、アンジェは、まぁ、ラウルのことはまた今度に聞くとして、ひとまず“アンジェリーナ”のことを率直に聞いてみた。
 しかし、どういうわけか、その答えをアージスに見事に流されてしまう。
「まぁ、そんなことはどうでもいい。
それよりもアンジェ、もう時間のようだ。
今から舞踏会の会場の方へ向かうが・・・・・・いいか、お前は誰かに声をかけられても、俺がリードしてやるから勝手に答えたり、行動したりするなよ?
きっと、アンジェ一人じゃ、墓穴を掘りかねんからな」
 最後の最後にからかわれた。
 結果として、アンジェは受け流された回答よりも、そっちに怒ってしまい、答えは聞けずじまい。
 我ながら、何であの時、問い詰めていなかったのであろうと後悔し、アージスに見事に話題の方向転換されてしまったことに悔しさを覚えている。

 そして、現在。

 舞踏会がついに始まり、招待客が名を呼ばれながら、次々と会場の中へと入っている。
 本来ならば、アンジェは今は騎士でも何でもないため、入る順番(位の低い順)としても、マリアがいる位置(女官や上級騎士辺り)か、それよりももっと早い、メイドなどのところ、はたまた今、入場している下級兵士辺りにいなければならない。
 しかし、この“アンジェリーナ”という人物の設定はこれほどまでに位が上なのだろうか。
何故か、右にウィリアム王子がすこし微笑んで立っており、左にはブスっとした態度でアンジェを睨んでいるジョセフィーヌがいて、しかも、後ろにアージスが堂々といる。
 つまり、アンジェが今いる場所。
そこは、招待された他国の王族、はたまたこのハッシュル国の王の親族たちが立つ位置で・・・・・・。

(な、な、なんで“アンジェリーナ”の設定、王族クラスにしちゃってるの~!!!!)

 叫びたくても、叫べない。
 聞きたくても、聞けない。
アンジェがとてつもない混乱に陥っている中、もう止めることの出来ない舞踏会は予定通り順調に進行していった。





 華やかな王宮。
それに対照的な黒い奴ら。
 彼らは、最後の確認とばかりに言う。

“ターゲットは”

“紅い姫”と“金色の王子”




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