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  水鏡の術師 作者:ミミズ
1章 謀略の花嫁
4話 クレアモンドの手下たち
 翌日、ルカはラスの宮殿を後にした。宮殿の裏口で、クレアモンドは地図と麻の大きな袋を差し出した。

「これは要人を助けた後に必要になるものだ。それまでは中を見ないでくれ」

 ルカは馬にまたがり、黙って袋を受けとった。馬を歩かせ、草原に差しかかったところでルカは馬の肢を止めた。後ろをふり向くと、ラスの宮殿は豆つぶほどの大きさになっていた。

 ルカは馬を降りて、近くの木の枝に手づなを結びつける。肩にかけた麻の大袋を降ろして、口を広げた。

 袋に入っていたのは、きれいにたたまれたきぬのローブとマント、そして小型のエペ(細剣)。光たくのある白いローブを広げてみたが、すそはルカの股関節にギリギリとどく長さしかない。袖口そでぐちもかなり細く、ルカの細腕すら通さない。

(これは、女性もののローブ……なのか)

 ワンピースのようなローブをルカはじっと見下ろす。袋に手を突っこむと、インナーらしき青のワンピースまで出てきた。ルカはしばらく考えたが、ローブをもと通りにたたみ、袋の中にしまった。




 ルカは道中のあばら家で夜をしのぎ、夜明けにラヴィア卿の土地に入った。作戦の決行のお昼まで時間があるため、林の霊泉れいせんに座って身を休ませた。霊泉とは魔力のわく泉になる。

 ルカは泉の静かな水の音を聞きながら読書にふけり、陽が満天にのぼったころにそこを離れた。

 ルカは林を降りて、草木のかれる岩場に着いた。高台はところどころが切りくずされて、足下に断崖が形成されている。崖下がいかには山道が伸び、山の中へと続いていた。

 高台の向こうを見やると、寝そべってふもとを監視している者たちがいた。ルカは馬から降りて、男たちのもとへ向かった。

「おい! だれだお前は」

 男のひとりがルカを見て起きあがった。背の低い男はぼろぼろのシャツを着ている。袖から伸びた腕は日に焼けて、ハーフパンツの下の足も浅黒い。

 他の人間たちも同じで、彼らはどこかから拾ってきた木の枝を持ち、頭にぼろ布の頭巾を巻いていた。

 ――これが、クレアモンド殿の手下たちなのか。

 ルカは奥歯に力をこめた。

「私は、クレアモンド・アグラヴァイン卿の命で遣わされた者だ。貴様らこそ何者だ」

 ルカの言葉を聞くのと同時に、盗賊たちが次々と起き上がってくる。あたりをとり巻いて、剣呑な目つきでにらんでくる。

「俺は、お前みたいな貴族の端くれが参加するなんて聞いちゃいねぇぞ!」
「それは私も同じだ。まさか、クレアモンド殿の配下が貴様らのような賊徒たちだったとは。……少しも予想していなかったよ」

 ルカが消沈すると、盗賊のかしららしい男が木の棒で地面をたたいた。ルカの派手なローブをにらみ、右腕をぷるぷるとふるわせた。

「ふざけやがって! てめえみてぇなやつにゃ、強奪した宝はひとつもやらねぇからな。覚悟しておけ!」

 頭の言葉にルカの眉間がぴくりと動く。

(強奪した宝……?)

 ルカは身体を盗賊の頭に向けた。

「今回の依頼は、護送馬車の要人の救出だろ。だれから宝を奪うんだ?」
「護送馬車だァ……? てめえ、何いってやがンだ。今回の話は、輸送馬車を襲って物資を奪うことだろうがッ」

 向かいの盗賊たちはそろって目を丸くする。ルカは腰に手をあてて、二、三度首をひねった。

「貴様の雇い主は、これからあらわれる輸送馬車を襲えと言ったんだな?」
「ああ、そうだ。だから何だってんだ」
「それ以外に、人を助けろとは言われなかったのか」
「てめえ、ばかにしてンのか。盗賊が人なんて助けるわけねえだろ」
「ふふっ、なるほど」

 唖然とする盗賊たちを見て、ルカは失笑した。

 ルカは腕を組んで考える。都の公園で土下座している友人の姿を。いつにないほどの真剣な表情と、目の前の話の食い違いは一体何なのか。

 参謀クレアモンドの腹の内が、ルカにはわからなかった。

「貴様らのたわごとは理解しがたいが、私は強奪などに参加するつもりはない。とりたければ、好きなだけとっていくがいい」

 ルカが白い面をあげると、盗賊の頭ははげしい剣幕でにらみつけてきた。ルカがにらみ返すと頭は地面に唾を吐き捨てて、持ち場へと戻っていった。




「お頭、来やしたぜ!」

 手下のかん高い声がひびきわたる。ルカと盗賊たちは一斉に崖下の山道を見下ろした。

 麓から二台の馬車が登ってきた。馬車は鉄の鎧を着た騎士たちが囲み、岩場の道をゆっくりと上がってきていた。

 二台の馬車の内、後ろの荷馬車には白い布がかぶされている。布の端がそよ風にめくれて、きらきらと星のような輝きを放つ。

(あの荷馬車に乗っているものは、紛れもない)

 歯ぎしりするルカのとなりで、盗賊たちが一斉に起き上がった。

「よし! お前ら、あれが真下に来たら作戦開始だ。ひとつ残らず奪うぞ!」

 盗賊の頭は狂喜し、手下たちをくまなく指差す。襲撃の手順や崖を降りる順番などを細かく指示する。とても手慣れている。

 ルカはひとり、崖の上で様子をうかがう。山道を登ってくる馬車をじっと注視した。

 後ろの荷馬車には金銀が積まれているが、馬車は二台ある。先頭の馬車にはたくさんの金の細工がしてあり、貴族の娘が乗りそうな馬車に見える。

「いやっほー!」

 盗賊たちは奇声をあげて崖を駆け下りる。盗賊の頭を先頭に、三下たちも木の棒をふり上げて荷馬車に襲いかかった。

「な、何だ!?」
「盗賊だ!」

 馬車を囲む騎士たちがあわてて剣を抜く。上段にかまえて盗賊たちを迎え打つ。

 盗賊たちはひとりの騎士を三人で囲み、木の棒でめちゃくちゃに殴りちらす。周到な集団戦法に、騎士が一人、二人と倒れていく。

「よし! 第二陣、突撃ィ!」

 盗賊の頭のげきが飛び、待機していた手下たちが一斉に崖を飛び降りる。絶え間ない攻撃に騎士たちが浮き足立つ。

「ひ、ひるむな! 主をお守りするのだ」

 騎士たちのリーダーらしき男が剣をふり上げる。ふたりの騎士が起き上がって剣をふるうが、盗賊たちの包囲攻撃に倒れていった。

(やつら、思ってた以上に手強いな)

 最後の騎士が倒れたのを、ルカは固唾を呑んで見守る。全ての騎士が倒れて、盗賊たちの注意が荷台に移る――そこでルカは立ち上がった。崖下を見下ろし、一気に駆け下りた。

 崖の坂道は予想以上の傾斜けいしゃがあった。ルカは途中で足をくじき、下の地面まで転げ落ちてしまった。すぐに裾の砂を払い、先頭の馬車を目がけて走った。


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