「死ねやァァ!」
先ほどまでブルブルとふるえていた盗賊たちも、図にのってルカたちに襲いかかってきた。
生身の盗賊に対して、ルカは使い慣れた炎魔術で応戦する。その炎によって盗賊たちの二、三人を火葬してみせたが――。
(く、数が多い!)
ルカは思わず舌打ちした。敵の盗賊たちは二十人近くもいるのだから、仕方ない。
やがてルカは盗賊たちに包囲され、その両腕をつかまれてはがい絞めにされてしまった。そこへ、図ったようにバルログが火炎放射の姿勢を組んだ――!
ルカはせまりくるバルログの恐怖にがく然とする中、右手ににぎったアミュレットをくるくると回した。
「ミラー!」
発声とともに、火をふいたバルログとルカの姿がフィっと消えた。そして、バルログの立っていた位置にルカの身体があらわれた。
ルカのつかった聖印術によって、ルカとバルログの立ち位置が瞬時に切り替えられたのだった。
「な……ぐぎゃァァ!」
「あ、あ、あちぃぃよォ!」
ルカを左右でつかんでいた盗賊の二人はバルログの体外に宿った炎に燃やされて、わずかの間に灰人と化してしまった。
「ルカ殿! だいじょうぶですか」
全身に鎧をつけた男が、金属音をたてながらやってきた。
「ええ。ですが、まさかモードレットが魔獣使いだったとは、想定外でしたね。しかもバルログなんて上位の魔物を従えてるとは」
「魔獣使いとは、魔物を調教して従える人間たちのことですか?」
「はい。異民族の中に、魔物を従えるやつらがいると聞いたことがありますが、モードレットらはきっと、どこかに住む異民族なんでしょうね」
ルカは、あたりを取り囲んでくる盗賊たちをにらんで言った。それから、声を大にして叫んだ。
「みなさん! バルログは私が引き受けるから、あなた方は盗賊たちの注意を引きつけてくれ!」
「了解した!」
「ルカ殿! 客人のあなたにまで面倒をかけて、まことに面目ない! ここはお願いします!」
ラヴィア卿の臣下たちは、兜ごしにさわやかな返事をしてくれた。
バルログの予期しない出現にルカたちは統率をくずしていたが、危機を共有して次第に気持ちが以心伝心していき、やがて攻勢にうつっていった。
ラヴィア卿の臣下たちはルカの指示通りに悪口を盗賊たちにあびせて、その注意をルカからそらさせる。盗賊たちはもともと学のない連中だから、臣下たちの安い挑発にまんまとかかってきた。
戦局はやがてルカの思惑通りにバルログと盗賊とが分断されて、敗勢のルカたちが勢いをもり返していった。
「コラープス!」
ルカがアミュレットでシジルを手早く描くと、バルログの足もとから聖なる光が空へ突きぬけた。凶悪なバルログの顔が苦痛にゆがむ。
ルカはさらにたたみ掛けようと、間髪入れずに聖印を描いた。
「そうはさせるか!」
そこへ、あのモードレットがついに棍棒をもって殴りつけてきた。
その奇襲にルカもパラッシュをぬいてそれを防ぐ。両者は得物を交差させて、つば競り合いとなった。
「貴様、クレアモンド殿とどこで知り合ったんだ」
「何ッ!?」
ルカの不意の問いかけに、モードレットは顔をしかめた。
「貴様は馬車襲撃の依頼をクレアモンド殿から受けて、わざわざ他国からサンタレムに移ってきたんだろう?」
「馬車襲撃の件で……? てめえ、何言ってやがるッ!?」
モードレットは両手を押して、剣ごとルカを突き飛ばした。ルカは地面に尻もちをついたが、すぐに立ち上がってパラッシュをにぎりなおした。
モードレットは顎に手をあててぼやいた。
「クレアモンドって俺に仕事を依頼してきた、あの偽善者じみた野郎のことか。もとはといえば、あの野郎が大金をわたすとか言いやがったのがそもそもの発端だったんだよな」
「質問に答えろ! 貴様はクレアモンド殿の共謀者なのか!?」
その命令口調に、モードレットはすぐに怒鳴りちらした。
「あアッ!? んなこたァ、てめえの知ったことじゃねぇよ! ……だいたい、何で俺様があんな気持ちのワリィ男の走狗になって、ホイホイと奴隷のように働かにゃならんのだ」
「何っ!? それでは貴様の目当ては、あくまで金品だったというんだな?」
そう言い切るルカを見て、モードレットはさらに疑わしい表情になった。
「てめえ、頭おかしいンじゃねェか? 盗賊が金品目当てに貴族を襲うなんてのは、そこらの農奴のクソガキだって知ってるぜ」
「なるほど。……言われてみれば確かにそうだな」
モードレットの言葉を聞いて、ルカは神妙な面持ちで何度もうなずく。一方のモードレットは拍子抜けしたみたいで、興奮する手を止めてしまっていた。
「てめえが何を企んでンのか知らねぇが、俺様は間違っても貴族なんぞに魂を売ったりはしねェ! サンタレムに来たのだって、クリスティーアとラヴィアをまとめて襲撃できる利点があったからだ。クレアモンドとかいう女みてェな野郎が俺に依頼しにきたのは、俺様がサンタレムに来た後の話だぜ」
「つまり、クレアモンド殿とかねての関係は築いてなかった、ということだな?」
「気持ちのワリィ表現すンな! それじゃ、俺様が同性愛主義者みてぇじゃねぇかよっ!」
ルカの考えを知らないモードレットは、自分の利権にかかわらない事実をペラペラとしゃべってくれる。
ルカたちと盗賊たちの戦いは、日の落ちる前に決着がついた。モードレットたちがやがてあきらめて、そそくさと逃げ出したからだった。
撤退の命令を出したのは、意外にもモードレット本人だった。彼はもともとラヴィアの騎士たちと戦うつもりはなかったので、長い戦いにやがて益なしと悟って、いさぎよく撤退したのだった。
それでも仇敵のルカだけは殺したかったようで、撤退まぎわまでルカをにらんでは拳をふるわせて歯ぎしりをしていた。
「何とか、もち応えられましたね」
ルカはマントの砂をはらって一同をかえりみた。バルログのはいた炎によって数人の犠牲者を出したが、それ以外のメンバーに別状はなかった。身をおおう鉄の鎧が彼らの身体を守ってくれたからだろう。
そして、領主のランバードは戦場のはるか後ろの方で腰をぬかしていた。威勢がよかったのは最初だけで結局ランバードは何もしなかったのだが、無事であることに越したことはないだろう。
ひとまず一同の無事を確認して、ルカは胸をなでおろした。
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