旋律協奏曲第1番〜開始
時より、ふと思う……。
奴らがいなかったら今頃俺はどうだったのだろうかと……。
空に浮かぶ雲を仰ぎながら、コナンはフッと溜息を吐いた。
あの騒動が起こってから月日は流れ、今や春を迎えようとしていた。
温かく、心地よい風が鼻をくすぐる。
川辺の草地に身を委ねているこの姿は如何にも落ち着いていて、満足そうに見える。
しかし、内面の感情は他人には分からないものだ。
コナンは不安を抱えていた。
自分はいつ元の姿に戻られるのか……また、いつ奴らをぶっ倒して平和な生活を取り戻すことができるのか。
コナンは賭けていたのだった。あの放送で奴らが動くように。
どうしても早く決着がつけたかったのだ。
しかしそれは叶わなかった。
理由は定かではないが、奴らはあれから姿も気配も現さずにいたのだ。
「奴らと対峙したいなんて……灰原が知ったら怒るだろうな。」
ふとそう思い、笑みを浮かべた。
コナンになってから得られたものは沢山あった。でもそれは新一に戻ると失われてしまうもの。
コナンはもう一度溜息を吐いた。
太陽の光がぽかぽかとコナンの体を温める。その一方で、まだ冬の気色を漂わせる肌寒い風がサッと吹いた。
「ああ。じゃあ三時にもう一度ここに来てくれ……ジン」
コナンはビクリと体を揺らした。コナンが寝ころんでいる草地の傍の舗装された道に、一人の男性が携帯を片手に話していた。
「な!?」
コナンは思わず体を起こし、男性の話に耳を傾けた。
「四時にあのお方の元に行けば良いんだろう。三時で十分だ。」
相手の声の不機嫌な声に男性は眉を顰めて言った。
時は丁度2時だった。コナンの背筋がぞくっと凍りつく。
奴らだ!!!!!
本能的に、草地からサッと抜け出し、傍にある電柱の影に身を潜めた。
男性は車を住宅の壁にぴたりとつけて電話をしている。
今しかねえ……
ゆっくりと車に近づき、発信機を付けた。
今度は見つからないように車の裏だ。
鼓動が高鳴るのを必死に抑え、震える手を伸ばした。
ピトッ
シール製の発信機が奴らの車に貼りついた。
よし……
危険とは承知の上だ。灰原がいたら絶対に殺されるほどに阻止されていただろう。
コナンはさっと車から離れた。
このまま奴らを追って、一人で奴らと対峙しようと馬鹿な考えを抱いていた。
電柱の影に戻って、男性の動きをよんだ。
「ジン。オレに文句をつけるって言うのか?」
どうやら男性はジンの上司のようだ。ジンは何やら低い声で、返答した。
何を言ったかは分からなかったが、男性にとってかなり不愉快な内容だったらしい。
男性はムッとした表情で言った。
「お前はもう来なくて良い。例の薬が完成を間近に控えたのをあの方に伝えに行くだけだからな。あの方の秘書の身として伝言に行くだけだ。お前は元々必要ねえからな」
唸るジンを無視して男性は電話を切った。
「チッ……仕方ねえ。しばらく時間を潰してくるか。」
車に鍵をかけると男性は黒いネクタイを少しばかり緩めてその場を去った。
コナンはもう決心していた。このまま奴らを追うことを……。
ごくりと喉を鳴らして、トランクに手を伸ばした……。
|