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スーちゃんは俺の嫁 作者:赤砂多菜

三章 虚本偽書がもたらすもの

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76.マスターキーの使い道

76.マスターキーの使い道





 どれくらいの時間が経ったのだろう。

 10秒? 1分? 5分?
 さすがに10分も経っていないと思う。

「終わりましたよ」

 静まり返った書庫に、ニーナさんの声が染み渡る。
 俺はスーちゃん達(あくまたち)の感覚を戻しつつ目を上げた。

 全員の無事を確認する。
 さすがにスケルトンアーミーは数が多すぎるので点呼はまかせたが、見た感じでは問題なさそうだった。


 そして、ニーナさんの言葉通り、終わってた。


 グレムリンの取り巻きである、本の魔物は書架で待機していた奴以外は、床に落ちて動かない。魔石が表紙から突き出している奴もいるくらいだから、全て死んでいると見ていいだろう。

 そして、グレムリンだが本の中央、表紙から裏表紙にかけて大きな穴が空いていた。
 穴の縁はさっきの光の余韻か、まだ赤く発光し火の粉を放っていた。
 唐突にグレムリンがだらしなく、閉じられていたページを開く。
 中央あたりと思われるそこには左右の(ページ)両方に目があった。
 あるいはそれこそがエルダーマギペディアとしての姿だったのかも知れないが、その目は白くにごっていた。

 まだ死んではいない。だが、確実にイカイシラベは(グレムリン)の精神を砕ききっていた。
 とっくに10秒は経っていたし、この状態では未来の改竄どころか、魔法スキル一つ使えないだろう。

「助かりました――」

 ニーナさんと告げようと思って、彼女がフラついて倒れかかっているのに気付いた。

「スーちゃん!」

 感覚を戻したてで、まだ本調子じゃなかったスーちゃんはニーナさんを支える事は出来なかったが、辛うじて増量して受け止める事に成功した。そのまま、クッション型スーちゃんとして、ベーススーちゃんと分離した。
 ニーナさんの顔が(あらわ)になってる。横になったせいで普段前に足らしている髪が横に流れたせいだ。
 おだやかな顔だ。やはり、この人の髪はどうにかしたほうが良いと思う。

「冷たくて、やわらくて心地良いですね。リズさんが、いつか奪い取ってやろうと考えていたのも分かる気がします」

 俺が反射的にリズさんを見ると、彼女はサッと視線をそらした。
 だめだ。この人には決して気を許してはならない。
 俺は改めて決意した。

 ニーナさんは目を閉じたまま、スーちゃんの感触を味わっている。
 皆が集まって来た。
 あまりにも数が多いので、俺の契約魔物には帰ってもらった。まぁ、後でちゃんと労いはさせてもらう。

「ちょっと、何よそれ!」

 リズさん(拉致未遂容疑者)が指差すほうを見て、俺も凍りつく。

 閉じたままのニーナさんの目から血が流れていたのだ。

「ニコライさん!」
「無駄ですよ」

 ニコライさんが治癒魔法をかけようとしたのを気配で察したのだろう。ニーナさんはそれを手で制した。

持っていかれました(・・・・・・・・・)
「ニーナさん。もしかして、あれを見て――」

 何アホウな事を言ってるんだ、俺。
 イカイシラベを使った本人が見てないわけないだろう!!

「すいませんでしたー!!」

 俺は両膝、両手をつき額を床に叩きつけた。

 ニーナさんにイカイシラベの存在を言ってなかった。
 そして、あれが危険なものと知っていた。

 それを、それを……。

 本当に俺はなんて事を――。

「何を謝るのですか?」
「何をって――」
あれ(イカイシラベ)を使うのにもっとも適していたのが私だから、マサヨシさんは私に任せたのでしょう?」
「それはそうですが」
「もし、使わなければ。誰か犠牲者が出ていたかも知れません。出なかったかも知れません。
 しかし、もしなんて意味はありません。
 私がイカイシラベを使い、今こうして皆が生き残った。それだけです」

 そして、ニーナさんは一言付け加えた。

「償いなんてお断りですよ。これは私が選んだ選択肢。その結果を受け取る権利も義務も私のものです」

 そう言って微笑むニーナさんに言葉もなかった。

「それよりも。ケリをつけましょう」
「分かりました」

 ニーナさんが何の事を言っているのかはすぐわかった。
 俺は立ち上がり、ただ宙を漂うだけの巨大な本に歩みよった。ベーススーちゃんもついて来る。

「終わらせよう、スーちゃん」


 【特殊:魔力供給炉】


「キメラモード」

 見る々々スーちゃんが増量していく。
 そして、太い触手がグレムリンの残骸にいくつも伸びていく。
 触手の先端が様々な獣の頭となり、牙をむく。

 そして、一欠けらも、(ページ)の破片すら残さず、食い尽くされていった。





「これは何の鍵だろう?」

 グレムリンを始末して、脱出の魔法陣が出ても皆しばらく動かなかった。
 生き残りの本の魔物も動く気配もないし、イカイシラベの件もあって皆力が抜けていた。ニーナさんは、今だクッション型スーちゃんの上で横になりながら、ニコライさんに消毒も兼ねて目の血のあとを拭かれていた。


 そんな時、スーちゃんが金色の鍵を俺に差し出したのだ。
 なんでも、グレムリンが落としたものらしい。

「鍵ですか?」

 誰もが疑問に思ったろうが、ニーナさんが代表して聞いて来る。

「ええ。スーちゃんによるとグレムリンが持っていたそうなんですが」

 何か記憶を探るように間をおいてからニーナさんが。

「もしかして、それはダンジョンマスターが持つという万能なる鍵(マスターキー)ではないですか?」
万能なる鍵(マスターキー)?」
「ダンジョンマスターが持つ、ダンジョンの権能の象徴です。グレムリンがダンジョンマスターを喰らい、ダンジョンの権限を奪っていたというのなら、持っているのも道理です」

『恐らく、ニーナの言う通りですね』

 ヘルプさん?

『まだ大した解析はしていませんが、ダンジョンに対する権限を物質化したものと思われます』

 ふーん。で、これで何か出来るわけ?

『先に言ったようにほとんど解析していないので断言は出来ませんが、ダンジョンに限って言えばだいたいの事は出来ると思います』

 ほとんどって……。例えば?

『そうですね。この〈赤い塔〉の構造を作り変えたり出来るのではないでしょうか? その前に改変期が発生するでしょうが』

 ……まぢで?


 とりあえず、皆の注目が集まってるので報告する。

「えー。うちの悪魔(ヘルプさん)が言うには、これってダンジョンを好きに作り変えられるものだそうです」

 予想していたニーナさんとこの世界(シードワルド)の人間でないエリカを除いて、皆絶句してた。
 まぁ、そうだろうなぁ。
 改変期が起きるのを想定してなかったぐらい、ダンジョンは変わらないというのが定着してたのに、それを作り変えられるって言われても困惑するよな。

「確かなのか? それは」
「うちの悪魔(ヘルプさん)は解析が終わるまで断言できないとか言ってましたが――」
「間違いないです」

 割って入った声は、(79階)で待機していた神明(バッタ)組の片割れ、アルラウネだ。イグドラシルも来ている。

「現在の私達は本体と接続出来ている状態です。本体はシステム管理者ですから、すぐに判別できました」
「うぇーい、うぇーい」
「それは間違いなく〈赤い塔〉の権限を物質化したものです。
 ただ、グレムリンがやったのでしょうが、少し改造が施されてますが」
「改造って? ヤバイ奴?」
「いえ、他の分岐型ダンジョンにも干渉出来るようになっています。それ以外にも見えざるシステムにもアクセス出来るようにされています
 まぁ、見えざるシステムの方は侵入経路(セキュリティホール)を塞ぎますから、じきにそっちは使えなくなりますが」

 ああ、なるほど。
 他のダンジョンに〈赤い塔〉の魔法陣だしたり、改変期起こさせたりは、全てこれ(マスターキー)一本でやられてたわけか。

「うぇーい、うぇーい」
「イグドラシルはそれ(うぇーい)控えて下さい。存在(エネルギー)値大きいから、精神汚染に近いですよ」

 うつるんだよなぁ、あれ(うぇーい)

「すいません。イグドラシルは万能なる鍵(マスターキー)をどうするのか尋ねてますね」
「どうするって?」

 むしろ、どうしろと?

それ(マスターキー)は権能の象徴であると同時に、ダンジョンマスターを倒したものへの報酬でもあるのです。魔石のかわりなんです」

 ……おい。

「何か? 代わりに俺にここのダンジョンマスターをしろとでも?」
「いえ、ダンジョンマスター自体は自動的に再発生します。恐らく、ここの魔物のどれかが昇格という形になるでしょう。
 ただ、ダンジョンというのは特大の魔力溜り。正当な手段、つまりはダンジョンマスターを倒して入手した人には、一時的にその魔力を使用する権限が与えられます。その権限の行使に使うのが、それ(マスターキー)なんです」


 唐突にカイサルさんがぽんと手を叩いた。

「階層型ダンジョンの最終層到達者は、なんでも願いが適うってのはそれか」
「はい。人の欲を満たす事なら大抵の事は可能だと思います。
 ただ、なんでもというのは御幣があります。死者の復活などは、ダンジョンの機能の上位にある見えざるシステムによって禁止されていますし、ヴィクトールさんを元に戻す事も無理です」

 あ、言う前に拒否られた。

「どうしましょうか、カイサルさん」
「俺に振るのか?」
「いや、リーダーでしょ? クランのトップでしょ?」
「グレムリン倒したのはおめーじゃねーか!」

 むぅ、皆の顔を見ると途端に視線をそらされる。

「私に振らないで下さいね」

 ニーナさんまで。

 いや、本気でどうしようかね。
 アルマリスタ最難度にして80階もあるダンジョンの魔力なんぞ、どうしろと。


 と、スーちゃんからコンタクト。

 ……え? スーちゃん。それまじで言ってる?

 ぷにぷにと頷かれた。本気案らしい。


 まぁ、聞くだけ聞いてみようか。
 神明(かみ)様いるんだし。

「というか、私達も悪魔なので契約ネットワークで聞こえるのですけど」

 アルラウネが申し訳なさそうに言う。
 そうだった。

「で、どうなの? スーちゃん案は可能なの?」
万能なる鍵(マスターキー)単体では無理ですが――」

 あ、やっぱり。

私達(神明組)が関与すれば可能ですね」

 いいのか、おい。

「職権乱用にならんのか?」
「取り締まる(かみ)もいませんので」

 まぁ、実現するなら色々な問題が一気に解決する気がする。
 ただーし、同時に大騒ぎにもなるだろうが……。

「とりあえず、準備がいるから。実行は少しまって」
「はい。実行にあたって、こちらもやる事とかありますので、どちらにしても今すぐというのは無理です」

 俺は皆の顔を見渡す。

「という訳だけど、皆さんどうです?」
「どうって」

 カイサルさんが悩ましげに頭を掻きながら。

「スケールがでかすぎて頭がおいつかねぇよ」

 ユリアさんも額に手を当てて頷いている。
 ハリッサさんは、何故か謎儀式(うーにゃー)を始めてしまった。

「色々と根回しが必要そうですね」

 ニーナさんの言葉にニコライさんとリズさんが頷いている。

「とりあえずは――」

 俺は万能なる鍵(マスターキー)を手で弄びながら言った。

「帰ってから考えましょうか?」
「さんせー」

 エリカの同意に、皆気の抜けた笑顔を浮かべて頷いた。


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