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スーちゃんは俺の嫁 作者:赤砂多菜

三章 虚本偽書がもたらすもの

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74.悪意満ちたる書庫にて

74.悪意満ちたる書庫にて





「改めて、自己紹介を致しましょう。我は〈赤い塔〉80階の守護者、エルダーマギペディア」

 奴の表紙に埋め込まれた女性の上半身が、元のマネキンめいたものに戻っていく。

「どうやら見つけられなかった小バエと接触したようですね。
 とぼける意味もありません。
 マサヨシ様。私はこの〈赤い塔〉の守護者であり、かつてあなたの味方であった悪魔、詐称のグレムリンであります」

 詐称のグレムリン?

『奴の担当ですよ。私が嫉妬、彼女が色欲を司っているのと同じ事です』

 あいつは、この世界(シードワルド)の悪魔じゃなかったのか? なんで地球の罪の浄化フィルターやれんだよ。

『……出来ればその表現はやめて頂きたいのですが。
 七つの大罪や原罪クラスならいざしらず、スケールの小さいな罪は空いていたりするんですよ』

 その場合、罪の浄化はどうなるんだ。

『手の空いてる悪魔が片手間にやってましたね』

 結構、いい加減なシステムになってるようだ。


「お前の事なんてどうでもいいが。顔を会わす機会は今後ないだろう。せっかくだからもう少しおしゃべりに付き合ってやるよ」
「光栄です。マサヨシ様」

慇懃無礼、そんな言葉を形にしたようにマネキンが一礼する。

「お前が喰らったメディックさん。今も生きているのか?」

 (グレムリン)は低く嗤った。すごく耳障りでイラつく。

「逆にお尋ねしたい。あなたが今までに胃に収めた生物で、生きているものがいるのですか?」
「なるほどな」

 ……まぁ、分かっていた事だ。現実はいつだって非情。奇跡なんてどこにもころがっていない。


「なんで、裏切るくらいなら、初めから敵対していなかったんだ?」
「目立つからですかね。最初から向こう(地球)の悪魔と敵対なんて効率が悪い。理想は気付かれずに引き上げる事だったのですがね」
「なるほど。お前以外にも俺達を裏切り、生き残った悪魔はこの世界(シードワルド)にいるのか?」
「いるでしょうね。我々は各々の目的を達成する為に一時協力していただけ。現在、どこにいるのか、何をしているのかは我の与り知らぬ事ではありますが」

 こいつみたいなのがつるんでいないのはありがたいが、何かを目論んでいる奴がこの世界(シードワルド)のどこかにいるって事か。痛し痒しだな。

「マサヨシ様。我からも質問よろしいでしょうか?」

 ん? なんのつもりだ?

「なんだ、言ってみろよ」
「あなたはいつ我の目論見に気付いたのですか?」

 何言ってんだ? こいつ。

「知らねぇよ。お前が何考えてたなんて」
「ほう」

 グレムリンの声が低くなる。
 疑ってるようだが、こいつの目的なんてここで合流した神明組やメディックさんから初めて聞いたものばかりだ。

「では、なぜこの世界(シードワルド)へ来たのですか?」
「休暇だよ」

 即答。いや、事実以外のなにものでもないんだが。

 しかし、どうやら(グレムリン)はそうとらなかったようだ。

「とぼけられるか。七つの大罪の悪魔を伴い、神明の座を原罪の悪魔に守らせておいて」

 いや、それ単に偶然。
 まぁ、俺に誤解を解く理由もない。勝手に思ってろ。

「それより、なぜお前は神の座を望む? 悪魔は神を畏れ敬う存在だろう?」

 人の罪の浄化を任せられた(かみ)の使い。
 だからこそ悪魔(こいつら)には天使なんて別称がある。

 俺の質問は少なからず、グレムリンの心に刺さったようだ。
 マネキン部分の目から涙を流し始めた。

「その神はどこへ行かれた? 我らの創造主でありながら、我らは何も知らされずこの世界(シードワルド)に置き去りにされた。
どれだけ、人の罪を浄化しようと。我を評価して下さる方はもういない」

 グレムリンは目を見開いた。
 先ほど、メディックさんの姿をしていた時とは違い、そこにあったのは目ではなく、どこまでも深い闇そのものだった。

「ならば! 我が神となろう。ならば! 我が我を評価しよう!」

 浄化フィルターやめればいいじゃね? と思わなくもなかったが、それは出来なかったのだろう。
 技術的、生物的な問題ではなく、神からの役目を放棄できない。それが悪魔という存在。
 スーちゃんにしても、ヘルプさんにしても、こっちの世界(シードワルド)でも浄化してるしな。主にクロエさんを。逆に言うなら、浄化してあれなんだが。
 ガイドさんも、アルマリスタの下層区にあるスラムに漂う罪をしょっちゅう浄化してた。
 異世界来てまで仕事すんなよとか言ったら、悪魔としての存在意義にかかわる事なんだそうだ。

 同じ神不在の悪魔でありながら、グレムリンはスーちゃん達とは大きく違う。
 何が原因だったのか知る由もないが、(グレムリン)の心は壊れている。

 だが、グレムリンがそうなった原因も、グレムリンの今の現状も俺の知った事ではない。

 俺は正義(せいぎ)ではない。善人でもないし、常に正しくあろうとも思わない。
 俺がグレムリンと敵対するなんて理由なんて一つで事足りる。


「お前は、俺達(エレディミーアームズ)から。俺からメディックさんを奪った。その代価は払って貰う。支払うのはお前の命だ。随分と足りないが、それぐらいは負けてやるよ。せめてもの慈悲だ」

 それまでの熱意、熱唱ぶりはどこへやら。
 再び目を閉じたグレムリンは嘲笑うかのように言った。

「未来の改変を知るマサヨシ様が我の命を奪うと仰るのですか? それに我の命では足りないと仰りましたが……」

 グレムリンは片手を挙げ人差し指を伸ばす。そして、見えない何かをずらすかのように、その指を曲げていく。


 そこらじゅうの書架から、床に詰まれた本の山から、(グレムリン)意思(いし)を受けて、本性を現した奴らが集まってくる。



 地球で国連がつけたメディックさんのあだ名は亡霊艦群。
 だが、沈まないだけの船なんて大した脅威じゃない。まぁ、エレディミーアームズ基準ではあるが。

 メディックさんは空母群のエレディミーアームズ。
 艦載機、艦載ヘリ、護衛艦。その全てがメディックさん。
 そして、未来の改竄はメディックさんであるもの全てが対象だった。



 グレムリンを中心として書庫にエレディミーが満ちていくのを感じる。
 本の魔物達もまた、その内においては未来の改竄の対象となるのだ。



「あはははははははははっ!!!」

 その様に俺は思わず高笑いしていた。

 地面を這いずる虫のような足の生えた本。表紙と裏表紙を羽のようにして宙を舞う本。頁の隙間から鋭い刃を何本も突き出した手裏剣のような本が飛び回る。
 そこらじゅうが本の魔物だらけ。


「どうなされましたか? マサヨシ様。この程度で狂うような惰弱な方ではないと思っておりましたが」

 言葉とは裏腹に、すでに勝利をもぎ取ったかのような勝ち誇った声。



 だが、奴の気持ちなんて知ったこっちゃない。
 数で来るなら、俺もそれに応えるまで。

 良かったな、お前ら!
 (グレムリン)がわざわざ見せ場を作ってくれたぞ。


【召喚魔法:召喚】
【召喚魔法:代理召喚】


 対象は指定しなかった。しなくても勝手に出てきやがるからな。

 空間の揺らぎを纏う、ガイコツの戦士達が。
 16匹のクマの率いる一回り大きなクマの(つがい)が。
 生きた家具達が。

 俺の契約魔物(俺の仲間)達が次々と姿を現す。


「細かい指示は出さない。お前らに命じるのは二つだけだ。
 戦え。――そして、生き残れ!」


 俺の契約魔物達と本の魔物の集団。
 そして、グレムリンと俺達は、お互いを滅するべく動き出した。





 数では相手が上だった。
 その上、書架にはまだ待機中の奴らがいやがる。
 だが、その動きはてんでバラバラ。

 当たり前だ。
 ここはアルマリスタの最高難度ダンジョン、〈赤い塔〉。その最上階で戦う機会なんてどれだけあったのか。

 スケルトンアーミーの中でも特に装備の整ってる奴らが、虫型の本を駆除していく。
 ブックワーム、ブックローチ、セージインセクト。どれもが上位個体だろうが、スケルトンアーミー達は引かない。

 元々スケルトンアーミーは、アウタースケルトンと奴ら(アウタースケルトン)個々に相性の良かった武具系の魔物の組み合わせ。魔物の格じゃ負けないだろうし、何より錬度が違いすぎる。
 暇を嫌うこいつらは、する事がなければ村の畑の手伝いは勿論、特訓も大好物だ。
 図書館から戦術に関する本を借りてきてやれば、勝手に自習するし、仲間内でスキルを教えあったりもする。

 ……ただ、昇竜拳の特訓はさすがに止めたが。
 無敵時間が数フレームあれば有利に戦えるからというのが、そいつらの主張だったのだがな。リアルには無敵フレームなんてないから。波動拳は出来た? それただの【風魔法:風撃】だから!
 ハウスさんの言う事間に受けるのはいい加減にしろよ。二重の極み(るろうに剣心のやつ)やろうとして骨折したの忘れたのか!?


 まぁ、時々お馬鹿な事もする連中ではあるが――けしかけるハウスさんや家具ズが悪いという説もあるが――、上位種であったはずのアークアウタースケルトンの能力をすでに超えており、上位ダンジョンの守護者相手でも平気でわたりあえる。



 地上の方は無事戦えているが、敵は空中にもいる。というよりも、むしろ空飛ぶ奴のほうが多い。しかも、無闇に接近してこないで、魔法スキルによる遠隔攻撃を雨のように降らせてくる。
 それの防御担当は盾持ち、あるいは武具ズの盾部門。
 ドラゴン族の族次長、弓使いのセレーネさんの攻撃を防いだ実績もあり、並の攻撃は通らない。

 しかも、守ってるだけではない。
 基本、スケルトンアーミーは物量攻撃担当なので近接戦闘だけの場合が多いが、弓持ちや魔法スキル持ちもいる。
 今も弓スキルの三連やら、風魔法の連鎖電撃、火魔法の爆撃が飛び交っている。
 敵さんも防御スキル持ちのようだが、こっちは攻防の分担が出来る分、かなり優位に戦えている。


 空中から落ちてくるのもあって、周囲には破れたページや剥がれた表紙などが散乱していたが、それが不意に消える。

 未来の改竄は自身と放射したエレディミーの範囲内にいる味方に作用する。
 すなわち、潰したはずの地上の虫型の本も、打ち落とした空中の本も、何事もなかったかのように――、いや、本当に何事もなかった事になってしまう。


 だが、それで十分だ。
 未来の改竄は防御に特化した個性。
 スケルトンアーミーの防衛を突破するには個性以外の力がいるが、状況を見る限り防御を貫くにはいたらない。

 スケルトンアーミーを無視しようとする奴もいたが、空中にも連中(スケルトンアーミー)はいるのだ。
 重ねて言うが、スケルトンアーミーはアウタースケルトンと、武具系魔物の組み合わせ。
 そして、マントや足具系の魔物には飛行やエアステップを使用者に付与出来る奴もいる。
 さらにはアウタースケルトンの方でも、エリカの裏庭での特訓に混じって、飛行やエアステップをものにした猛者達もいるのだ。

 ……いささか、やりすぎな気もするがな。お前ら(アウタースケルトン)、自分達がなんの魔物か忘れてないか?


クマ軍団も家具ズも参戦している。数ではスケルトンアーミーに圧倒的に負けてるが、復活する本の魔物をものともせず、再び紙くずへと戻していく。



「さてさて、とりあえず邪魔者は忙しいようだが?」

 出来るだけ皮肉っぽく、グレムリンに向けてそう言った。
 内心は冷や汗モノだったが。

 なんせ、初めはスーちゃんとエリカだけで突入する予定だったのだ。
 メディックさんのエレディミーアームズの仕様を知っていたので、邪魔な取り巻きがいるだろうくらいに考えていたが、ちょっと数の桁が違ったわ。

 俺は何をのぼせ上がっていたんだろうな。学習しないというか。


 向こう側(グレムリン)もしばらく言葉を発しなかった。なにせマネキンそのものな顔なので表情が読みにくいが、あちらの想定が外れたのは間違いないと思う。
 ただ、同時に奴の余裕が崩れていないのも分かる。


 未来の改竄は、エリカのそれ(絶対矛盾)とは違う形の絶対防御と言っていい。
 頭数をそろえた程度では、どうなるものではない。

 この世界(シードワルド)に戦略兵器クラスの広範囲攻撃手段が存在しない以上、こっち側がとれるのはもう一つの手段のみ。

 それは、(グレムリン)が遡れる時間を無意味にする継続攻撃。
 本質的に、予知をして安全な未来になる行動をとるというそれ(未来の改竄)は、選択肢の結果を先読みして無難な結果である事を確認してから選択するという事。
 ならば全ての選択肢を潰す。

 10分という時間を潰しきるのは、正直スーちゃんダイブ増量版を延々と繰り返すという行為をエリカにフォローさせても厳しかった。
 たかが、どん兵衛(べえ)x2個分の時間とはいえ、一秒にも満たない時間が死に直結するのだから。

 だが、俺は悲観してはいない。
 (グレムリン)に通用する力は今やスーちゃんやエリカだけじゃない。
 俺には仲間がいる。向こう(地球)側と比べても信頼度で負けてない仲間達だ。

「こっちも始めますよ!!」

 俺の叫びを合図に時を()る悪魔との戦いの火蓋が切って落とされた。

i219707
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