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スーちゃんは俺の嫁 作者:赤砂多菜

三章 虚本偽書がもたらすもの

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73.現在を予知するモノ

73.現在を予知するモノ





「ところで、この二人はどうするの?」

 これから出陣、となるところにリズさんの待ったがかかった。
 この二人とは勿論神明(バッタ)組である。
 現在も正座中。

「待機してもらうつもりです」

 まぁ、バッタだしな。……というのは冗談で、こいつら本体はめっぽう強いんだが、いかんせんここにいるのは分体。
 それでも並の冒険者レベルでは歯が立たないくらいには強いが、これから向かう先は並どころか特上つゆだく。
 戦いが終わるまでここで待ってもらうほうがいい。
 分体なので死んでも本体は無事だが、痛いもんは痛いだろうし。

 痛いといえば制裁(いやがらせ)がそのままだと、戦闘に支障をきたすのでヘルプさんに解除してもらった。おかげで今の俺は他人(バッタ)の痛みにも寛容なのだ。
 ……そのかわり、次の制裁レベルは3からだそうだ。泣いても許されると思う。

「そう」

 リズさんは頷いて二人の横を通りすぎ――るかと思ったら、足をとめた。

「ヴィクトールの件だけどね」

 二人はビクッと肩を震わせる。

「感謝してるわ。確かに無事と言うには無理があるけど。それでも……生きてる。
 冒険者をしている間に、大切な人を失った人も何人か見てきた。それに比べれば私は恵まれてるわ」

 そう言って、魔法陣の方へ歩いていった。

 二人(神明組)は改めて、深く頭を下げた。


 リズさんが離れると同時にメディックさんの姿が薄さを増した。

「じゃ、さよならだね。マサヨシ君」
「ちげーよ。一度別れるだけだ。また終わったら釣りの話でもしよーや」

 俺はメディックさんに背を向けた。
 彼女の気配が消えるのを感じたが、俺は振り向かなかった。
 代わりと言っていいのか、エリカにミギー()ヒダリーがついて来る。

「釣りって、海とか川とかあったっけ?」
「うぐっ」

 そーいや、〈海岸〉はもうないんだっけ。
 ここが大陸(・・)である以上、少なくとも海はあるはずなんだが、メディックさんを再度出現させる為には現在の面子(パーティメンバー)を一所に集めなきゃならんのだが……。

 これから創世神話に出てくるような魔物を倒しにいくのである。それ考えりゃどうとでもなるだろう。
 まぁ、すでに一体(セイントゴーレム)倒しちゃってるがな。
 神明教会に指名手配されない事を祈る。



 魔法陣前に急ぐでなく、皆が集まってくる。
 どの表情にも覚悟は見てとれたが、気負いはないように思える。

「スケルトンアーミーとかは呼ばないのか?」
「向こうの地形が分かりませんからね。ヴィクトールさんの時みたいに罠だったりしたら困りますし。一応、ケンザンやクロさん達に指揮は頼んでますが、カイサルさんも一部隊指揮して貰えます?」
「了解。まぁ、今回も俺は後方にいた方がいいだろうが。ハリッサ達は前衛(フロント)でも大丈夫だろ」
「まぁ、相手の出方次第ですが。いけそうなら各自の判断でお願いします」

 すでに、ユニーク職業がパラパラ混じってるからな。

 魔法陣の方をチェックしていたニーナさんが頷いた。

「少なくとも、変な手は加えられてはないみたいです」
「それは何より」

 まぁ、メディックさんの話では悪魔封じとかは一つしか作れなかったようだし。
 むしろ、ここ(80階)を目前にして(トラップ)だけに頼るようなアホウだと、力の大小抜きの小物でむしろ扱い易かったろう。

 メディックさんの個性は規格外(はんそく)度にかけてはエレディミーアームズ随一。それを手にして前に出られない奴などたかが知れてる。



 俺は、皆に感謝の言葉を述べた。

「ここまでのお付き合い感謝します。これが終わったら剣の休息亭貸切で派手にパーティー開きましょう」
「他の店で開くとカサンドラがうるさいっすからね」
「そーいう事です。その為にも誰一人欠けないようにお願いしますね」
「まかせて。……というには相手が無茶だけど。やってみるさ」

 片手に杖、片手に拳銃という、変則すぎるスタイルになっているニコライさん。

「保管屋にウチで最高の酒を持ち込むわよ」

 ゴキリと両手を鳴らすユリアさん。

「ちゃんと店の酒も飲んでやれよ。カサンドラがうるさいからな」

 頭を掻きながらカイサルさん。

「この子達もお酒飲めるかなぁ」

 エリカがミギー()ヒダリーを見ながら言うが……。
 そいつら生後一年未満じゃないのか?

 リズさんは黙ったまま。合図を待っている。

 俺は大きく息を吸い込んだ。

「では、行きます!!」

 全員で鬨の声(ときのこえ)を上げ、魔法陣になだれ込んだ。





 魔法陣で転送された先は、全員無事にそろっていた。
 しかし、本来は一度出現させれば消えないのが〈赤い塔〉の魔法陣の仕様なのだが、足元にはその痕跡すら残ってなかった。

 まぁ、その事情も分からないでもない。
 無数に並ぶ書架。
 どうやら80階はまるごと書庫らしく、恐らくはフロアが丸々ボスエリアなんだろう。

 こちらとしても、無駄な戦闘をせずに済むのでありがたいっちゃありがたいのだが。しかし……。


「これ、どうやって読むんでしょう。ニーナさん」
「そもそも、人の為の本とは限りませんから」

 なるほど。
 コミケ(紳士淑女の祭典)のカタログは鈍器としても優秀なのは有名だ。しかし、ここの本はそれを上回る。人を叩き潰せるサイズなのだ。



 そして、奴はこの書庫の中央と思わしき開けた場所にいた。

 エルダーマギペディア。その姿は厚めの表紙、分厚い(ページ)数。背表紙や表紙に書かれている文字は共通(コモン)語でないので読めない。
 そして、表紙には壁に塗りこまれたように女性の上半身が突き出している。その質感は陶器のようなつやがあり、マネキンを思わせた。

「久しぶりです。マサヨシ様」

 そいつ(・・・)の声に怖気が走った。
 かつてエレディミーアームズとしてリンクシステムで交わしたあの意思(こえ)そのものだったからだ。

「あいにく、俺はお前を知らない」
「確かに」

 そいつは嗤った。
 マネキンじみた女性の上半身が変化していく。
 ハゲだった頭には見るみる毛が生えていき、肌が盛り上がり服と化す。顔の輪郭も若干かわり、閉じられていた目が開く。
 ……そして、腕には赤十字の腕章。

「私のような下っ端悪魔など知らぬも道理。なにせ、向こう(地球)の人類を滅ぼした魔王とも呼べるお方だ。
 ならば、我が名は――」
「誰も聞いてねぇよ」

 やれ、エリカ。


 次の瞬間、エルダーマギペディアの体は縦に破砕された。


 エリカはスラッシュやピアスの適正が低いらしく、未だもって未修得のままだったが、裏庭での特訓で真っ先に覚えたスキルは、ハリッサさんの【暗技:隠遁】だった。

 元々あいつの機体のベースとなったのはステルス戦闘機だったのだ。そっちの適性があっても不思議でもなんでもない。
 向こう(地球)では個性の関係でレーダーに鮮明に捕らえられてたらしいが。

 この書庫に入った時から、エリカには隠遁で隠れたまま空中で待機してもらった。ありがたい事に隠遁は戦闘行為をしなければ、移動しても効果は消えない。何をもってして戦闘行為となるのかは分からないが、スキルの仕様らしい。

 そして、()がもったいぶっている間に真上に移動して、俺の指示を待っていたのだ。

 あるいはもっと喋らせてやってもよかったが、メディックさんの外見を。何よりも俺達(エレディミーアームズ)にとって、リンクシステム内で唯一個を識別する、大事な、とても大事な意思(こえ)を真似たのが許しがたかった。


 ……例え偽者であっても、メディックさんの意思(こえ)を放つそいつを攻撃するのは躊躇われたかも知れない。それが万が一の事だとしても。


 だから、先制はエリカだ。
 あいつもメディックさんを慕っていた。いや、エレディミーアームズの中で、もっともメディックさんを好いていたのはあいつだったのかも知れない。
 決断を預かっている俺以外では、メディックさんだけがエリカを(たしな)める事が出来た存在だ。

 それでも、エリカは俺が決断を下せば、攻撃を躊躇わない。
 それが本物だろうが、偽者だろうが。

 俺に精神的な揺さぶりは通じたとしてもエリカクラウゼンには通じない。
 社会性をもったサイコパス。道徳を理解出来る異常者。
 普通を学び、普通に生きる事は出来ても、普通から自由に抜け出せる刃を持つモノ。



 だから、俺は何も言わない。

 避けろ、とも。



 皆の驚愕が伝わって来る。
 メディックさんのエレディミーコアが持つ個性については散々教えてあった。

 それでも、それでもだ。
 その目で見ない事には実感なんて出来ないだろう。



「乱暴な挨拶ですね。エリカ様」

 縦に裂かれ、ページを撒き散らし、エリカの眼前ででかいだけの可燃ごみになったはずのエルダーマギペディアが、エリカの背後から抱きしめるようにその手を体に回そうとする。
 勿論、エリカはそれに捕まる間抜けではない。すでに上空に逃れている。

「な、んだ。今のは」

 カイサルさんが枯れた声をもらす。


 説明しましたよね? なんて言わない。
 言葉で理解しろという方が間違ってる。

 俺も記憶をさかのぼれば、エリカが見当違いなところを攻撃して、その背後を捕られそうになった事になっている。


「あれが、メディックさんの――。いや、奴のもつ力です」



 未来の改竄(かいざん)



 起きた事象を過去にて予知として察知。それを元に事象を回避し新たな未来を作り出すという、規格外(はんそく)のオンパレードであったエレディミーアームズにあってすら、群を抜いたデタラメ(はんそく)度を誇る個性。

 この個性のキモは、今起きたような派手な復活劇ではなく、あくまで個性の発動が過去で予知によって変えられた事になる点だ。

 エリカの攻撃によって縦に裂かれたという現在(・・)を変えたのではなく、元々エリカの攻撃が当たらない位置に回避しただけ。

 エリカの持つ絶対矛盾は強力無比。一撃(・・)必殺と言い換えてもいいだろう。
 だが、その一撃が当たったという未来情報を元に、防御、回避行動をとられてしまう。


 地球においては国連にいくら攻撃を当てても、当たらなかった事になってしまう。
 故に亡霊艦群と恐れられたのだ。

 エリカがメディックさん生存説にすがったのも、この個性あっての事だ。



「マサヨシさん。こんな時になんですが、質問があります」

 皆が動揺を隠せぬままの中、揺れる事のないニーナさんの声が届く。

「このような力がありながら、なぜ彼女(メディックさん)が死んだと思っていたのですか?」

 確かに詳しい事――つっても技術面はさっぱりだが――を知らなきゃそう思うか。

「説明したように、あれは未来予知に近い能力です。ぶっちゃければ、予知してもどうしようもない事には対応出来ないんです。
 例えば明日、アルマリスタを大地震が襲うなんて事を予知できたとして、対応できますか?」
「……被害の軽減は多少なら出来るでしょうが。恐らく誤差レベルよりマシ程度ですね」
「まぁ、そういう事です」



 魚雷やミサイル程度ならどうにでもなるのだが。


 アメリカの質量兵器、神の杖。
 中国の気象兵器、雷帝。
 バチカンが何故か保有していた核搭載レールガン、終末の日。


 このあたりはどうにもならんし、実際につかわれ俺達(エレディミーアームズ)にも被害が出た。それ以上に国連側に被害が出てたし、週末の日に関しては、こっち(エレディミーアームズ)じゃなくイギリス潰してた気もするが。

 まぁ、そんなネットの都市伝説じみた超兵器じゃなくても、戦略級核兵器で十分メディックさんに通用する。

 メディックさんの予知(・・)の限度は10分だからだ。さすがに逃げられん。
 しかも、この個性は防御、回避的な事にしか使われない。つまり、核兵器の発射元を事前に潰すとかは無理。
 なぜ、こんな不自然な仕様になっているのかというと、単に個性の研究不足から来るものだ。

 エレディミーの運用技術は、エレディミーの活用やエレディミーアームズの運用についてのもので、実はエレディミーコアの個性は含まれていない。
 恐らくは、個性に関しては悪魔から施された技術ではなく、あの国が独自で編み出したものなのだろう。
 ただ、同時に手探りの研究だった為、個性の研究は多数の研究者の死者を出した。
 なんせ、どのエレディミーコアがどんな個性もってるか、事前にわからんからな。
 どれだけ実験室を強固にしようとしても、何が起きるか分からなければ備えようがない。
 とりわけ、メディックさんのエレディミーアームズの個性は研究者どころか、国民の1割以上を消した(・・・)


 いくら人権皆無(それって食えるの?)のあの国でも、メディックさんに関しては現状の仕様で我慢するしかなかったんだろう。
 下手したら国ごと消滅だからな。


 だからこそ、メディックさんがリンクシステムから消えた時、不自然に思わなかったんだ。
 メディックさんのエレディミーコアの個性とて、完全無欠ではないから。
 ……あっち(地球)ではな。



 こちら(シードワルド)側にそんな広域攻撃手段なんて存在しない。
 兵器の技術水準は低いし、スキルにしても核兵器には及ばない。

 なんせ、ドラゴン族が脅威となる世界だ。
 ブレスの炎よりもナパーム弾の方がよっぽど脅威だ。






 悪魔グレムリンは無作為にエレディミーアームズを喰らったのではない。
 奴は選択したんだ。
 この世界(シードワルド)で不死になれるエレディミーコアの個性を。


i219707
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