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スーちゃんは俺の嫁 作者:赤砂多菜

三章 虚本偽書がもたらすもの

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64.現実というもの

64.現実というもの





 アルマリスタの南門。
 そこで俺と、クレメンティさんが並んで同じ空を眺めていた。

 ちなみにかつて《アルマリスタの盾》のトップだったクレメンティさんだが、ドラゴンとの決闘の後、クランを抜け南側の街兵士を束ねる立場になっていた。

「しかし、お前もよくこんな事を考え付くなぁ」

 呆れたようなクレメンティさんの声だが……。
 いや、俺も思い付きを口にしただけなんですが。

 あれよ、あれよと言う間に話が進み、今日に至った。
 ねぇ、誰かストップかけようとは思わなかったの?

「お、戻ってきたぞ」

 クレメンティさんの言葉に、意識を空に戻す。
 同じ所を見ていたのだから、当然見えるものも同じ。

 すなわち、こっちに飛んで来るエリカだ。
 普段は飛ぶなとは言っているが、今回は距離が距離なので許可した。というか、歩かれると俺らが帰れねぇ。

「よっ、と」

 軽く地面をする音だけでエリカは着地した。
 変われば変わるものだ。初めは砲弾着弾って感じだったんだがな。
 裏庭でのハリッサさんとリズさんとの特訓が、ここでも芽をだしてる感じだな。スラッシュやピアスの習得はいまだにダメだそうだが。やはり、そっち方面の適性がないと見るべきなのか。
 なにせ、元戦闘機だし。

「で、どんな感じだった?」
「え、えーと」

 クレメンティさんはまだエリカのキャラがわかってないらしい。
 まぁ、様子を見にいかせたのは俺なのだが。


 ガイドさん。スナップショット(静止画)ムービー(動画)とってきてるよね? こっちに転送して。

 で、スーちゃん。プリントアウト(手書き出力)お願い。


 収納スペースから数枚の紙をとりだしたスーちゃんは凄い勢いで書き込んでいく。
 ちなみにフルカラーだ。最近やたらと黒以外のインクを欲しがると思っていたら……。

「す、すごいな」
「凄いでしょ」

 思わずかがんでなでなでしちゃう。ひんやりつるつるした感触が気持ちよい。
 エレディミーアームズ(のうみそだけの状態)の時は、常に接触している状態だったけど、脳みそに触覚なんてないものなぁ。
 つくづく身体があるってありがたい。

「とりあえず、場所もあってるし、荷解きもほぼ済んでいるか。さすがに完成までは時間がかかるだろうが」
「そりゃ、さすがに無茶ですよ」

 俺が言うと呆れたようにクレメンティさん。

「お前のアイデアの方が余程無茶だよ」

 そして、エリカが飛んできたほうを向いた。

「それにしても宿場街ねぇ。ダンジョンもない所に街を作ろうなんて、近くにダンジョンのない辺境でもなきゃ思いつかないぞ」
「そんな大層な話じゃないですよ。宿をいくつかに、魔物等の素材の解体場。それに各ギルドの出張所と簡易な軍用設備程度ですよ」
「いや、それはもう程度ってレベルじゃねぇだろ。それにその宿場街で魔物が生まれないように魔力を薄めるって魔法具もお前ら(自由なる剣の宴)の持ち出しだって聞いたぞ」
「いや、正確には薄める訳じゃないし、無駄にあまってましたからねぇ」

 クレメンティさんが言っているのはホロウウォーカーとナイトメアホースの魔石だ。
 この魔石は魔力量こそ高いのだが、もっている性質に問題がある為、あまり金銭価値がなく、スーちゃんの収納スペースに大量に余っているのだ。

 何が問題かというと、こいつらの魔石は周囲の魔力を集めてしまうというもの。
 元々、魔力というのは濃いほうへ流れる性質を持つが、それをさらに強化してしまうのだ。

 ダンジョンという巨大な魔力溜りがある為、アルマリスタの魔力濃度は極めて低く、深く考えずにハウスさん家の倉庫に平積みしてたら、魔物が発生してしまったのだ。
 まぁ、ハウスさんが即座に一蹴してしまったが。
 さすがのハウスさんにも迷惑です、とつき返されてしまう始末。
 一応、砕いて粉にすればカイサルさんが使う爆裂玉の材料にはなるので、スーちゃんの収納スペースに溜めておいたのだが。


 それがこんな形で役に立つとは。


 クレメンティさんが言ったように南の街道、それも遠く離れた所で今急ピッチで宿場街が作られている。
 いやまぁ、元々はそんな大げさな考えじゃなかったんだ。

 南側では遠くの魔物の掃討はそんな頻繁に行われない。
 理由は簡単。野宿になるからだ。
 誰だっておいしいご飯は食べたいし、柔らかいベッドで寝たい。しかし、そんなものは街の外では望めない。
 そして、せっかく魔物を狩っても魔石くらいでほとんどが死骸を焼却処分している。
 そもそも街兵士は街から賃金が支払われているし、長距離の移動に素材は荷物になる。

 だから、その遠征討伐が行われているあたりの街道沿いに簡易宿泊施設を作り、今ヒマしてる低ランク冒険者にお仕事として、周囲の魔物(プラス)害獣狩りをしてもらえばと思ったのだ。

 備品の補充や食事に使う食材等は、定期的に商人ギルドが手配する商隊が届け、その帰りに素材と現場の状況レポートを持って帰る。
 ついでに街兵士も遠征のついでによってくれるなら御の字かなと思ってた。職業軍人と冒険者では仕事内容は違うが、それでもどちらも戦闘技術を必要としている。親切心で若手の冒険者に手ほどきしてくれればと虫の良い事を考えていた。いたんだが。



 ラブレンチさん。やりすぎデース!!

 自炊場に簡易な寝床。素材解体スペースに倉庫。
 それが俺の青写真だったに……。

 各ギルドの出張所って何!?
 簡易どころか、アルマリスタのいくつかの宿の分店になってるし。その中に剣の休息亭もあったヨ!!
 武具も雑貨も衣装も小さいながら店がある。神明教会とか必要なの!?
 設計図に目を通せば、井戸、物見やぐら、宿場街周囲を空堀と壁が守る事になってる。

 ちげぇよっ、なんかちげぇよ!
 俺の考えてたのと、きのこの山と大人のヤツ(大人のきのこの山)くらいちげぇよ!!!

 もう、アルマリスタの縮小版って感じ。
 ただ問題は近くに魔力溜りがないので、宿場街内で魔物が発生する可能性があったのだが、これはスーちゃんの案によって解決した。

 それがホロウウォーカーとナイトメアホースの魔石。
 これを宿場街から少し離れた場所に円状に等間隔でどっさり埋める。
 これによって、周囲の魔石が魔力を吸い寄せ、中央の宿場街の魔力は薄れ、魔物が発生しなくなる。
 そのかわり、逆に宿場街周囲は魔力が濃くなるから魔物が発生しやすくなるが、元々魔物を狩る為に作る街だから問題なし。まぁ、発生する魔物のランクが上がる可能性もあるが、数で攻めればどうとでもなると思ってる。

 計画通りに宿場街が機能すれば、低ランク冒険者の狩場兼修行場ができ、そこに常駐している訳だから、街兵士が遠征してた頃よりも街道の安全性はあがる。また、他の街への交易する商隊の休息場としても機能する。


 ………………。


 ちなみにだ。ここの管理責任者は言うまでもなく――。

「大出世だな、ここを任されたって?」

 責任重すぎデース!!

「ここがうまく行ったら、第二、第三の宿場街を作るって?」

 やめて、クレメンティさん。俺のメンタル、崩壊(リミットブレイク)寸前だからっ!!

「でも、せっかくの命名権を放棄なんてマサヨシらしくないよ?」
「……いくら俺でも街の名前を適当につけられるか」

 エリカが不思議そうに言うが……。
 ちょっとした茶目っ気で、本気(マジ)で命取りになりかねんもんにまで、トライ(I Can Fry)するつもりはない。

「街の名前はアルマエークだっけ?」
「ああ。命名者はラヴレンチさんだ」

 宿場街がうまくいけばの話だが。
 もっとも、現状でも工事の警備に低ランク冒険者が多数現場にいるはずだし、冒険者ギルド舎のよどんだ空気も消えつつある。
 なんとかなって欲しいところだ。


□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□


 何事も変わる時は突然だ。
 俺が拉致されて脳をくり貫かれた時。
 エレディミーアームズであったころ、初めてスーちゃん意思(こころ)に触れた時。

 俺はそれを良く知っていた。
 知っていたはずだった。

 だが、今度も現実に出し抜かれた。

 今日、俺達はダンジョンに入る予定だったが、中止になった。
 ラシードさんのパーティがダンジョンから戻って来なかったのだ。

 一人を残して。


「バカヤロウッ、なぜ()を連れて行った!?」

 ここはハウスさん家の会議室だ。
 ここに他にいるのはカイサルさんのパーティ(俺達)、それにユリアさん。そして、もう一人。
 カイサルさんが怒鳴っている相手はラシードさんのパーティの魔術師の女性だ。名前は――思い出せない。それにそれどころじゃないっ。
 帰還石で戻って来たらしい。

 カイサルさんの言う奴とはラスカーさんの事だ。Dランクのスカウトで細工師。そして、ダンジョンの声を聞いた人だ。
 ユリアさんの警告もあってダンジョンの声を聞いたラスカーさんは、しばらく待機のはずだった。
 それに宿場街の方へ行く話も出ていた。

 魔術師の女性は涙声だったが、返答ははっきりしていた。

「声が聞こえる、呼んでいるって暴れだしたんです。このままじゃ一人でもダンジョンに入りかねないって、結局私達と一緒に入る事になったんです」

 カイサルさんはいらだたしそうに乱暴に頭をかいた。

「で、ラスカーが隠し分岐を見つけて一人でそこに入って、お前らはその後を追ったって訳か」
「はい。最悪でも、彼を捕まえて帰還石を使えば良いってラシードさんが言ってました」

 間違ってはいないと思う。
 入ったのが分岐型ダンジョンである以上、ラスカーさんは戻る(・・)事は出来ないが、他のパーティメンバーは進む(・・)事は出来る。追いつこうと考えるのは常識的な判断だと思う。
 念の為に、ニコライさんやヴィクトールさんを見るが二人とも何も言わなかったが頷いた。

「……だが、戻って来たのはお前だけなんだな? マイア」

 そうだ、今更ながら女性の顔と名前が一致した。Cランクプラスの水魔術師のマイアさんだ。

 マイアさんは頷きつつたどたどしい言葉で語る。

「分岐の先はすぐに行き止まりにたどり着きました。そして、そこに魔法陣がありました」
「魔法陣? ダンジョン脱出用のか?」

 カイサルさんの言葉にマイアさんは首を横に振る。

「色と模様がどこか違いました。共通した部分もありましたけど。どこかで見た覚えがある気もするのですが、思い出せないです」
「魔法陣だけ……か。守護者もいなかったんだな?」
「はい。それで、ラスカーさんも見当たらないので、たぶん魔法陣でどこかに転送されたんだろうって。
 いざとなれば帰還石があるのでなんとかなるからって、念の為に私だけ残してみんな魔法陣に入って転送されていきました。
 しばらく待っても戻ってこないので、もうみんな帰還石で戻ってる事を願って、私も帰還石を使ったんですが……、誰も戻っていませんでした」

 カイサルさんが舌打ちをし、マイアさんは肩を震わせるが、あれは別に彼女を責めている訳ではない。
 苛立ちの持って行き場がないのだ。
 だってそうだろう? まさか、ラスカーさんを放っておけなんて言えないし、彼女が一人で戻って来たのだって責められない。
 もし、彼女が戻ってこなければ、この情報も手に入らなかったのだから。

「魔法陣以外に何かなかった? ギミック的なものじゃなくて、何かが落ちていたとか」

 唐突にユリアさんが口を開く。

「何か引っかかる事でもあるのか、ユリア」
「ダンジョンの声の件で、再度ギルドに確認したら他にも失踪者が出ていたわ。やはり、隠し分岐に魔法陣。そして、帰還石で戻ったメンバーが、見知らぬ模様の入った布地を拾ったそうよ」
「布地だと?」
「形状から腕章の類らしいけど。何かの魔法具というわけではないみたいだけど、なぜか帰還石を使ったにも関わらずダンジョンから持ち出せたらしいわ。ギルドがそれを調査してて持ち出せなかったけど」

 それを聞いた瞬間、マイアさんは目を見開いた。

「あ、ありましたっ。もってきてます!」

 そう言って、リュックタイプの背負い袋をあさりだした。

「そういうのは最初に出しとけ」

 呆れたようなカイサルさんの声。少し感情が落ち着いた様子だった。
 まぁ、そっちのほうがカイサルさんらしいよ。


 だが、次の瞬間。今度は俺の感情が揺さぶられる事になった。


「あった! これです!」

 彼女が差し出したもの。……確かにそれは腕章だった。

「確かに見た事がない――おい、マサヨシ?」

 カイサルさんが俺を見てる。ハリッサさんが、ニコライさんが、ユリアさんが。
 みんなが俺を見た。


 今更取り繕うのは無駄だろう。
 俺の表情はただでさえ読まれやすいのに。……それは不意打ち過ぎる。

 それはこの世界(シードワルド)にはないもの。存在しない概念。
 そして、向こう(地球)にはかつて存在したもの。

 改変期に悪魔が関わっている可能性が高い。
 ならば、これはメッセージなんだろう。


 白地に赤十字の腕章。
 衛生兵を示すもの。


 どうせ、バレてるんだ。
 開き直って俺はぎゅっと目をつぶった。


 人間だった頃、衛生兵だったから。そんな単純な理由で俺は彼をこう呼んでいた。


 メディックさん。あんたはここ(シードワルド)にいるのか。いたのか。

 最後の決戦時のエレディミーアームズのリンクシステムから存在がロストしていた。
 てっきり、戦死したと思っていた。


 忘れていたよ。
 現実がいかに残酷かって事。

 味方だと思っていた国連が裏切った時にいやってほど思い知っただろうに。学習力ないな俺。

 どういう経緯でこうなったのか分からない。
 だが、俺は再び同胞(なかま)と。……親友(なかま)と殺しあわなければならないらしい。

i219707
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