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スーちゃんは俺の嫁 作者:赤砂多菜

三章 虚本偽書がもたらすもの

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63.逃亡不可

63.逃亡不可





 かろうじてカイサルさんは軽傷で済んだようである。
 めでたい。
 これでダンジョンに入る日をずらす必要がなくなる。
 心なしかクロエさんがヤンデレっぽさを隠さなくなってきてる。
 カイサルさん。身体に穴があく奇病で入院するか、それとも拉致監禁コースが先か。

 まぁ、仲間内でトラブルはよくないのだが、スーちゃん曰く。


 そもそも、クロエさんが現れるまではっきりとしなかったカイサルさんが悪い、との事。
 スーちゃんがそういうならそうなんだろう。
 俺の(せかい)では、スーちゃんは常に正しいのだ。





 まぁ、俺に出来る事は何もないし、出来ればこの件についてはノータッチの(逃げる)つもりなので、ちょっと用事を片付けにと思ったのだが……。

「何やってんですか? ラヴレンチさん」
「何って、野菜売りには見えないかい?」
「いえ、そうとしか見えませんが」

 俺は時々、商人ギルドにも顔を出す。
 といっても、大した用事ではなく、ゴブリン族やドラゴン族の事関連で責任者っぽい立場となってしまったので、色々と雑務が出来てしまっていたのだ。

 いつもはギルド前では元気なおばちゃんがスーパーの特価品売り場のような、というかそのものな感じで、声を張り上げているのだが。

「なぜ、あなたがギルド舎前で野菜売ってんですか?」
「ちょっと、いつも店先を任している人が風邪で入院してて、持ち回りで替わりをやってるのさ」

 いまギルド舎前を店先つったよ、この人(ギルドマスター)
 しかし、ニーナさんといい、アルマリスタでは偉いさんは下っ端仕事もこなさなければならないのだろうか?
 俺が何か言う前に客と思われる人が割ってはいる。

「これとこれとこれ。全部あわせていくらになる?」
「大銀貨1枚と小銀貨4枚ですねぇ」
「高くねぇか?」
「そちらはまだ実験的に仕入れている品でして」

 ゴブリン村でとれた作物だな。

「サイズの大きい方ではダメでしたか?」
「あれはなぁ。たしかに大きさを考えりゃ安いんだがなぁ。やっぱりというか、客の受けが悪いんだよ。
 まぁ、味以外の部分でボリューム感を出すのには丁度いいがね」

 料理人と思われるそのお客さんは、代金をはらって恐らく弟子と思われる青年に命じて、荷車に買った野菜を載せていく。

「忙しいなら出直しますけど」

 俺の遠慮がちの声に、ラヴレンチさんは首を横に振った。

「君とて暇ではないだろう? おい、誰か店先を替わってくれ」

 ラヴレンチさんが開け放たれたギルド舎のドアに声をかけると、エプロンをかけながら女性のギルド員が出てきた。

「じゃ、頼むよ」
「はい」

 店先コーナーから入れ替わりに出てきたラヴレンチさんに促され、そのまま空いている商談ブースに入る。

「こんな格好ですまないね。一応、また店先に戻るつもりだから」

 こんな姿と言ってもごく普通のスーパーの仕事着だ。つけてたエプロンは外してる。
 ただ、今までは素人目にも高いだろうと分かる生地のスーツを着た姿しか見た事ない。スーツといってもあくまでこの世界風のものだ。具体的にはネクタイのような邪魔な(死因になるような)ものはない。

 そういえば、ニーナさんも公的にギルド長の地位についてからは服装はギルドの長に相応しいものになってたな。……あの人の場合、どっちかというと魔王の城の王座に相応しいのだが。

「別に気にしないですよ。俺もいつも通りの服装でしょ」
「冒険者と商人ではまた違ってね」

 苦笑するラヴレンチさん。
 たぶん、マナーとかそういうのがあるんだろう。

「じゃぁ、さっさと話を始めましょうか。あ、スーちゃん、荷物を倉庫の人に渡してきてくれる?」

 スーちゃんはふよんと頷いて、分裂する。そして片方が倉庫のあるほうへ向かっていった。
 スライムが単独で商人ギルド舎内をうろついている訳だが、誰も気にしない。ちゃんと契約魔物を示すタグを表面近くに浮かしているし、何よりも俺と一緒に何度もここにきているのでお馴染みさんなのだ。

 惣菜コーナーでスーちゃんがギルド員さんに試食品もらってる。これもおなじみの光景である。
 初めは、ギルド員の一人が面白半分で試食品をあげたら、スーちゃんが事細かな感想を書いた紙を返したのだ。
 今では新作の惣菜が出来るたびにあーやって、試食してもらい感想もらってる訳だ。

「なんか、本当にすまないね。ウチのギルド員が」
「まぁ、スーちゃんも楽しんでいるのでかまいませんよ」

 ついでに惣菜のレシピを解析とかささやかな(真っ黒な)思惑もあるようだし。

「さっきの様子だと裏庭の作物は好評のようですね」

 アースさんもがんばってるしなぁ。

「もっとも、君たちがせっかく命懸けで取ってきてくれてる、あのジャンボ野菜の人気は今一つだね。普通の野菜が品薄なので、あちらのほうが売れてほしいところなんだけど」
「仕方ありませんよ。味に違いがありすぎますから。でも、そこまで不人気なんですか? 味が落ちるとはいえ、その分値段は安くなるでしょ?」

 なにせ、単純比較するのもあれだが、体積比8倍だからな。

「そこはなんというか。これまでダンジョン産の野菜が当たり前だったからね。
 ダンジョン外での農作物は君たちの裏庭産以外では、ジャンボ野菜よりも味が落ちるしねぇ」

 うぇーい。
 まじすか?
 興味がないと言えば嘘になるが、まぁいつか口にする機会があるだろ。

 「ところで、先日またダンジョンで畑が見つかったそうだけど……。マサヨシ君達はそこにいった事があるのかな? 大量に持ち帰るのは無理?」

 ん?
 あー、あそこか。

「オレンジガーゴイルのスポーンゲートがありますからねぇ。ある程度回収したら、即引き上げじゃないと危険なんですよね。守護者でもその取り巻きでもないから、延々ときりがないですし」

 オレンジガーゴイルはガーゴイルの亜種であり、常にオレンジ色のオーラに包まれている。
 オーラの正体はスキルによるもので、【種族:自爆】。
 近づいてきて、スキルの字面通りに自爆を起こすという非常に迷惑な魔物だ。おまけに自爆されると死亡とは判定されないのか、魔石が発生しないのだ。

 剣の休息亭と《御馳走万歳》が懇意にしているいくつかの店の分だけ取って魔法陣に逃げた。
 個人的にはあんまりいきたくない場所である。
 あのスポーンゲートの解除方法、誰か見つけてくんないかなぁ。

「作物の回収なんて、以前は比較的低ランクの依頼ですんだのに、ジャンボも含めて高ランクばかり。商人ギルドにくる苦情が絶えなくて頭が痛いよ」
「こちらも低ランクの依頼がなくて、頭を抱えている状況ですよ」

 苦く笑うラヴレンチさんに俺も苦笑を返す。
 どうしようもない事というは、言ってもしかたないのは分かっていても、言いたい時はある。

 その後も、愚痴を交えながら色々と雑事を済ませていった。

「こんな所かな。思ったより時間を食ってしまったな」
「そうですね」

 本気で雑事だけだと数分もかからないのに、愚痴の方が長くなってしまった。
 ラヴレンチさんが席を立とうとし、ふと思い出したように。

「そういえばミスリルの売却益がかなりの額になっているけど、使わないのかい? 一度引き出したきりだろう?」
「といっても、なまじ金額がでかすぎるんですよねぇ。あれ」

 あの時のメンバーの装備強化に使ったきりで、放置プレイ状態。
 まぁ、商人ギルドの口座は担当のギルド員によって運用されて、その一部が利息としてつくから冒険者ギルド口座と違って金額が増える。
 その代わり運用失敗による損益をかぶる事もあるから一長一短か?

 まぁ、その担当がラヴレンチさんだしそうそうミスるとは思えないし。
 そもそもの話、ミスリルゴーレムを狩ったのはリガスがアルマリアの森に保証金を積んだのに対抗する為であって――


 リガス? 保証金?
 そうだ。あの時、リガスがアルマリアの森で非道を働いたのにうかつな事が出来なかったのは、商人ギルドに保証金を積んでいたからだ。

 アルマリスタの管理外の土地が、保証金を積む事によって仮所有者扱いになる。
 いや、そもそも前提としてマスター議会で議題にあがるのが前提であって――。

 しかし、それがクリア出来るとしたらどうなる?
 街道の管理は商人ギルドの管轄だったはず。


 俺の脳裏で真っ白だった枠組みに次々とパズルのピースがハマっていく。


 これ、いけるんじゃないか?


 そして、俺は黙りっぱなしでラヴレンチさんをそのまま放置したままだった事に気付いた。

「あ、すいませんっ。俺っ」

 しかし、ラヴレンチさんは慌てる俺をなだめるよう手で制した。

「かまわないよ。マサヨシ君の事だ。何か重要な事を考えてたんだろう?」

 俺を買いかぶりすぎです。
 だが、俺が思いついた案にはアルマリスタの様々な組織を巻き込む必要がある。
 商人ギルドもその一つで、そのトップが目の前にいる。

「ちょっと、色々聞きたい事があるんですが、時間大丈夫ですか?」
「ふむ」

 ラヴレンチさんは考えるようにあごをなでる。

「時間は問題ないが、私の勘ではこんな場所でする話ではなくなりそうだね。私の部屋で話そうか」


□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□


 商人ギルド舎の執務室。
 そこで俺とラヴレンチさんは話し合った。
 時折、俺が自分のアイデアに言葉が追いつかなかった場面(シーン)もあったが、そこはスーちゃんのフォローでなんとかなった。

 俺一人では説明仕切れ無かったよ。
 ホント、スーちゃんいつもありがと。

「なるほど、ねぇ……」

 ラヴレンチさんは思案顔だ。
 まぁ、そりゃこんなもん即決できるような話じゃないだろうし――。

「マサヨシ君の口座から保証金を出すって事でいいのかな?」
「え? あ、はい」
「そうか、じゃぁ早速動いてみようか?」

 うぇーい?

「え、あの動くって?」
ウチ(商人ギルド)だけの問題じゃないからねぇ。街役所、冒険者ギルド、たぶん料理人ギルドと職人ギルドにも声をかけるべきだろうね。じゃないと後々、面倒な事(政治的問題)になりそうだ」

 えーと?
 ラヴレンチさん(商人ギルド長)がすっごい乗り気?

「あのー。結構な大事だと思うんですけど。商人ギルドの幹部の人達と話し合わなくていいんですか?」
「ははっ」

 白い歯を見せるラヴレンチさんは服装こそ作業着だが、まとうオーラはデキるビジネスマンだった。

「マサヨシ君。商人の極意を一つ教えてあげるよ。
 それは機をいかに逃さないかだよ。
 全てのお膳立てを整えたところで、機を逃してしまっては意味がない。保証金による仮所有者扱いの制度だって、本来はその為のものだ」
「は、はぁ……」

 ラヴレンチさんの勢いに押されて、俺は引き気味になる。

「次のマスター議会まで期間がありすぎるな」

 すかさず卓上ベルみたいなものを押すラヴレンチさん。数秒後に、どこかで聞いたような声がそこから聞こえる。

「御用ですか、ギルド長」
「おお、ブラートか、丁度良い!」

 あ、思い出した。
 リガスの件で奴の所業に付き合わされた商人ギルドの人だ。そういやラヴレンチさんの部下だったよな、あの人。

「臨時マスター議会召集の手続きをとってくれ」

 うぇーい!?
 ちょっと待って!!

「臨時召集の責任者はギルド長でよろしいですか?」
「もちろん、私だ」
「日程については何か?」
「可能な限り最短だ。調整はお前に任す」
「承知しました。商人ギルドで専任のチームを組みますが、人選は私の判断でよろしいですか?」
「無論だ。詳細は後で話すが、これは商人ギルドでも最上級ランクの優先度をもって事にあたってくれ」
「承知いたしました」

 うぇーい!
 うぇーい!!
 うぇぇーい!!!?

 なんで?
 どうしてこうなった!?

 愚痴の言い合いからなんかスッゴイ超展開になってる気がする。

「い、いいんですか!? 俺のっ! 素人の思いつきですよ!」
「まぁ、専門的(政治的)なところはまかせてくれたまえ。何もマサヨシ君にマスター議会に出ろとまでは言わないから」
「当然でじゃないですかっ! 俺は保証金を出すだけで――」

 しかし、ラヴレンチさんは俺に優しくかんで含めるように言った。

「マサヨシ君。保証金を積むという事は、君は立派な仮所有者という事になる」
「えーと、はい。そうですよね」
「そして、マスター議会で議案が通った場合、君はそこ(・・)の管理者になる」

 ……え?

「ようこそ、アルマリスタの(まつりごと)の世界へ」

 にっこりと両手を広げるラヴレンチさんだが、もうだまされない。

 は・め・ら・れ・た!

 わざとやったなこの人!
 俺が商人ギルドに入らないからって、商人ギルドに頼らないわけにはいかない状況においやって!

「か、管理者って交代出来ないんですか?」
「可能だよ。ただ、相応の保証金は積んでもらうよ? さすがに以前のような保証金の積み合いにはならないけど。誰か当てはあるのかい?」
「うっ、……例えばカイサルさんとか」

 ミスリルの売却益は俺の口座だけではなく、あの時のパーティそれぞれの口座に平等に振り分けられているはずである。

「カイサルの奴が引き受けると思うかい?」

 ラヴレンチさんに微笑みかけられて、俺はあっさり轟沈した。

 ただでさえ、今は三角関係(デッドオアライブ)忙しい(阿鼻叫喚)だろうしな。
 それでなくても、面倒事なのは分かりきってるから引き受けないだろう。他の面子(パーティメンバー)も同様だろう。

 俺に出来る事といったら、その日受付で商人ギルドに泣く々々登録する事だけだった。



 責任とかいらんからー!!!


 そんな俺の胸の内の叫びは、慰めてくれるスーちゃんにしか届かなかった。

i219707
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