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スーちゃんは俺の嫁 作者:赤砂多菜

三章 虚本偽書がもたらすもの

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61.うらやましいと思えるなら上級者

61.うらやましいと思えるなら上級者





「こちらが、リバーシの売り上げの状況と、今後の展開などの予定、私案をまとめたものです」

 お茶が冷きった頃に、またどこからともなくニーナさんが羊皮紙を机に広げる。
 ダンジョンで普通の紙が手に入るので、羊皮紙の方がむしろ珍しく高級品なのだが。
 羊皮紙はだいたい大きな取引の契約や、街同士の取り決めの覚書に使われるそうである。
 実は俺も見るのは初めてだ。
 ハウスさん家の契約書も高級紙だが、植物由来のものだしな。超高級紙だと魔物のクモの糸で作られたものがあるらしいし、格調高い契約書には竹簡(ちくかん)が使われる事もあるそうな。

 おっと、話がそれた。

 と言っても、俺はリバーシで儲けるつもりはさらさらないので、こんなの見せられても困るんだけどなぁ。

 上目遣いにニーナさんを見る。

 ニーナさんは応じるようにカクリを首を傾げる。

 ……無理。

 髪の奥に瞳が爛々と俺の身動きを封じる(かなしばりの刑)
 諦めて、羊皮紙に目を通すと、体中からそれまで体に絡み付いていた見えない髪の毛のようなものが、解けて引いていくように感じた。

 零シリーズの射影機あったら、何が写っていただろうか。あっても、ニーナさんにもダメージ入りそうなので、使うわけにはいかないが。

 さて、羊皮紙の内容だが、素直に分からん。
 高校の選択授業で簿記があったので選んだのだが、ペーパーテストならともかく、実務レベルの技術なんて、それこそ実地で身につくもんだろ。
 そもそも、記帳の仕方が同じとは限らんしな。

 なんとなく、単式簿記とそれ補足する帳面の組み合わせっぽいが……。
 ダメだ。一応、俺は努力した。
 後は、スーちゃんお願い!


『この程度なら分かりますが』

 救世主(ヘルプさん)が降臨した。
 そういえば、ヘルプさんって理系の(あくま)だっけ。こういうの得意なんでしょ?

『……簿記会計は文系なんですが。数字が入ってればなんでも理系だと思ってませんか?』

 ………………。
 ソンナコトナイデスヨ。

『まぁ、いいです。細かい事は省きますが、売れ行き自体は好調ですね。今のアルマリスタの経済と政治の状況を考えると、この売れ行きの伸び率は出来すぎな位です。
 やはり、娯楽不足が影響しているのでしょうね』

 まぁ、そうだろうね。
 リバーシ。まぁオセロなんだけど、ルールがシンプルだし場所もあまりとらない。また将棋などと違って、千日手とかいつまでたっても終わらんという事もないのも良いんだと思う。仕事の空き時間に出来るからね。

 この世界の娯楽といえば、旅芸人の芸や飲食がメイン。それと楽団によるコンサート。ただし、楽団は譜面に曲を書き記すという文化がなかったので、どうしてもマンネリ化。たぶん、似たような理由だろうけど劇団はない。

 テーブルゲームの類ではテンカードとゼロカードというそれぞれ絵札のないトランプのようなものがあるが、ルールは固定だし、これはギャンブルメインに使われている。まぁ、ギャンブルも娯楽っちゃ娯楽だけど。アルマリスタの法ではギャンブルは合法だしな。


 売れ行きがいいのは良い事だと思う。俺の目から見ても安価で提供してるし。まぁ、そこら辺は信用出来るからニーナさんにまかせたんだけど。


 ただーし。ニーナさんが強制でこれを俺に見せているのは二つの理由からだろう。
 一つは、リバーシで賢者ギルドが得た純利益の5割が俺の取り分になっている事。
 一つは、リバーシは二人用のゲームなので、もっと家族で楽しめるような複数人で出来るゲームはないのかと、賢者ギルドに問い合わせが来ている事。

 前者は正直、割合も金額も大きすぎる。そもそもリバーシは俺が開発したものではない。別にそこまで潔癖症でもないが、あくまで羊皮紙に書かれた金額は、これまでの金額。これをOKしちゃうと、今後の純利益もこの割合で俺に回ってくる事になる。
 商人ギルドの方でもミスリル素材の売却益が莫大にプールされてるし、これ以上金だけ増えてもなぁ……。

 後者はつまり、アイデア頂戴というおねだり(きょうはく)なのだろうが、そんなポイポイ地球の文化をこっちに持ってくるのもなぁ。ハウスさんが結構やらかしてて、その度に釘を刺しているが。
 地球のパーティゲームをもってくるとして、真っ先に思い浮かぶのはトランプだが、あれはゲームの種類が多い上、どのゲームもローカルルールが多い。シンプルにはほど遠い。

 パーティゲームなら人数が多くなる分、なおさらルールも全員が等しく把握している必要がある。

 俺はカイサルさんのように頭を書きながら思案した。

 まぁ、後者は急ぎじゃないからおいとくとして。

「この金額。どうしても受け取らなくちゃダメですか? すっごい金額ですよね」
「上層区に居を構えるレベルですね」

 上層区は高級住宅が大部分を占める地区だ。
 アルマリスタには貴族という概念はないが、まぁお偉いさんの多くがそこに居を構えている。

「俺はただのCランク冒険者なんです。分相応でありたいんですが、ダメですか」
「言ってる事は理解出来ます。ただ、賢者ギルドも委託を受けて販売しただけで、ギルド員の知の成果を搾取している、と噂されるのも困るのです」

 うぇーい。

 スーちゃんがお茶を入れなおしてくれたので、それを啜りながら考える。
 俺がリバーシの発案者である事は賢者ギルド全体に知れ渡っている。まぁ、数人裏庭に出入りしてるんだから、それは仕方ない。
 ニーナさんが心配してるのは、俺がお金を受け取らなかった場合、賢者ギルド員――特に研究をメインとしているギルド員の成果の出し渋りに繋がりかねないかだろう。

 そもそもニーナさんがギルド長になった決め手は霊能者という職業である事。
 一人で研究を続け、そして誰に受け継がせる事もなく没し、失われた成果。ニーナさんの死者と会話するスキルがあれば、その手のものは容易に発掘できる。
 逆に言うなら、発掘するような状況になってたケースが複数(たくさん)あったそうな。

 ニーナさんがいる内はそれでもいいが、ニーナさんだっていつまでもギルド長である訳ではない。
 面倒のタネは摘み取って置きたいってところか。

「せめて、冒険者ギルドや商人ギルドみたいに口座とかないんですか」

 お金をそのままどちらかのギルドの口座に流しても、金の動きがばれる。人の口に戸は立てられないというしな。
 いや、本当は出来ない訳じゃない。お金じゃないが、セイントクレイ(宗教戦争の火種)の件はちゃんと秘匿されてるし。
 ただ、このお金。別に後ろ暗いお金って訳じゃないしな。額がでかすぎて、悪目立ちしたくないってだけで。

 ん?

 スーちゃんからコンタクトは入った。

 なに?
 研究費?

「えーと。スーちゃんが、今の研究室の研究費に割り当てたらどうかと言ってますが」

 でも、それで何が変わるんだろう? 研究費という事は賢者ギルドのお金扱いという事じゃ――。

「なるほど。自費を自分の研究につぎ込んだというシナリオにするのですね」

 しかし、賢い(スーちゃん&)人達(ニーナさん)の考えは違ったらしい。
 いったんお金を受け取って、自分の研究の為に使うと。

 要はマネーロンダリングですね。
 ……黒いよ。

「でも、研究費つっても多すぎな気が――って、え?」

 またまたスーちゃんから。

 研究費不足で困っている賢者ギルド員を雇う形で吸収合併して、研究費諸々の面倒を見れば良い?

 ニーナさんにつっかえながら、説明すると目をギラギラと輝かせ、口は裂けたような三日月型。たぶん、あれは笑顔なんだろうな。暗闇で見たら、悲鳴(断末魔)が出るレベルだが。

「すばらしいアイデアです。スーちゃん」

 なんか、ニーナさんがスーちゃんの触手と握手をしてる。
 黒い気配濃厚。グレーゾーンの相談を耳にしちゃったような感じがする。



 結局、お金の話はそれで決着したのだが……。
 えー、後日談があったりする。
 賢者ギルドでスーちゃんは予算不足の研究者はもちろん、予算は足りてるけど有望そうな研究をしている研究者を、潤沢な予算をエサに取り込んでしまったらしい。
 かくして。名義は俺、中の人はスーちゃんで賢者ギルドに一大派閥を作ってしまった。

 念の為にスーちゃんに確認した。


 権力が必要な時が来るかもと思って、との事。


 黒いっ、真っ黒(計画的犯行)すぎだよ! スーちゃん!
 その日からしばらく、ニーナさんのうっすらとした笑い声の幻聴に悩まされる事になる。




 まぁ、未来の話は置いておいて。
 その後、パーティゲームの件はスーちゃんから後日企画書を出すという事で、話し合いは打ち切りになった。

 ヘルプさんから、UNOやビンゴはどうかと言われたのだが……。
 UNOも実はローカルルールが多い。いや、UNO買ったら箱の中に説明書が入っているのだが、俺の人生で一度もそれを読んでいる奴を見た事がない。もちろん、俺も読んだ事はない。
 なんとなくでも出来てしまうのは利点かも知れないが、広める時にはそれでは困る。

 ビンゴそのものは悪くない案ではあると思う。実際、パーティの余興としてはありだろう。ただ、ビンゴに使うカードは消耗品だ。日が決まってるパーティならともかく、突発的な遊びには向いてない。
 手書きでも出来る事は出来るんだが、何回かやるとランダムに数字を書くのが面倒臭くなり規則性をもたせる奴が出てくる。
 特に多いのが数字を渦巻状に配置する奴。そのせいで、同じ数字配列の持ち主が複数出来てしまう訳だ。


 研究型スーちゃんを回収して、受付さんの様子を伺うと、落ち着いた様子で接客中だった。
 だが、どうせまたニーナさんの試練(ウサばらし)を受ける事になるのかと思うと不憫でならない。
 すまん。俺にはあなたは助けられません。

 そそくさと賢者ギルド舎を後にした。



 さてさて、この後どうするか。
 まぁ、順当に考えて冒険者ギルドの様子を見に行くのが正解だろうな。
 賢者ギルドと同じ中央区とあって近いし。
 別にこまめにチェックを入れなくても、最近はほぼ固定パーティなのでリーダーのカイサルさんが依頼などを確認してるが、今の冒険者ギルドの状況は少し気になる。


 図書館でエリカと合流というのも手かもだが、最近ラシードさんのパーティと一緒の事が多い。
 監視型スーちゃんをつけてるので、何かあってもどうとでもなるし。正直、常に一緒にいるのは過保護すぎたと反省しているのだ。
 あるいはエリカの持つ異常性(サイコパスもどき)は、先天的なものでこそあったが周りの人間が過保護な扱いをして悪化したのかも知れない。
 まぁ、とはいえエリカの精神性(サイコパスもどき)が危険なものに変わりなく、俺とて監視型スーちゃんをつけているからこそ放置出来るのだから、エリカの両親や親族を責められる立場にない。いや、元より責めるつもりはないけどさ。



 という訳で行き先は冒険者ギルドへ決定。





 結論から言う。選択肢を間違えた。
 カイサルさん、シルヴィアさん、そしてクロエさんによって、ロビーが危険地帯と化していた。

 ああ、たぶん例の件(フラグ回収)だなと思ってラウンジへ退避。

「依頼受付にいけねぇじゃん」
「あ」
「おい、マサヨシ。あれなんとかしろよ」

 とりあえず、俺も《自由なる剣の宴》のメンバーを見習って、社交的に振舞うよう意識した結果、顔見知り程度なら知り合いの冒険者も増えたのだが。

「出来る訳ないでしょ!? 俺に死んで来いと?」
「だって、あれお前のところのクラン員だろ」
「それも、どうみてもトップ(カイサル)だよな」
「恋路にクランは関係ありません!」
「……何が恋路だって?」

 最後の声は当人(カイサルさん)だった。

「ええと? おめでとうございます?」
「何がだ! マサヨシッ、てめぇ知ってたそうじゃねぇか」
「何の事ですか?」
「とぼけんな! クロエが氏族抜けた件だ!」

 危険な三角地帯を形成していた一人がなぜここにと思ったら、残りの二人は受付カウンターを挟んで火花を散らしていた。……いや、比喩でなしに。
 スーちゃんの分析によると、無意識に発せられた魔力が干渉しあってるとの事で、人体には影響はないそうだが。
 ……まぁ、だからといってあんなもん見て近づこうという命知らずはそうはいないわな。
 そして、そのスキにカイサルさんは俺を見つけて、こっち(ラウンジ)側に来た訳だ。

「そりゃ、クロエさんが帰省した時は、ハウスさんの【特殊:空間接続】(どこでもドア)使ってもらったんで知ってましたけど」
「なんで俺にそれを教えなかった。帰省の理由も知っていたんだろう!」

 確かに聞きました。聞きましたけど……。

 普通、ドラゴン族は同族と(つがい)、つまり夫婦となる。これはまぁ、別にドラゴン族に限った話じゃないけど、人族と猫人族や犬人族、外見が似ている種族は異種族婚というのもない話じゃない。
 ただ、ドラゴン族にしても人化スキルのおかげで人と結ばれる事も可能で、子を成す事も出来るそうだ。

 問題はドラゴン族は氏族の結束が固い。自らを人ではなく獣であると貶めるくらいである。その氏族を抜けるという事はドラゴン族である事捨てる事を意味する。

 もちろん、氏族を抜けたからといってクロエさんが種族としてはドラゴン族である事には違いないが、例えるとヤクザの破門や杯を割るのに近いか? これからは(カタギ)として生きていきますって。


想い人(カイサル殿)と共に生きる為に』


「参考までに聞きますが、クロエさんの帰省を知ってどうするつもりだったんです?」
「どうって! 追いかけて止めるに――」
「アルマリアの森の集落の最短コースって、ハウスさん家でショートカット。つまりはクロエさんと同じコース。
 最悪、クロエさんの氏族抜けます宣言してる最中に飛び込む事になりますが」
「うっ!?」

 カイサルさんが怯む。
 想像しているのだろう。
 クロエさんの氏族抜けます宣言は、当然その原因(カイサルさん)にドラゴン族の怒りが向くと誰もが想像できるであろう。
 ドラゴン族では好まれない治癒魔法の使い手であるので冷遇こそされていたが、族長や幹部達の覚えはまた違うだろうし、当然クロエさんにも両親や親族もいる訳で。
 ちなみに族長のサンドロスさんは、武器系統最高位スキルの一つであるフェイタルクラッシュまで使えます。

「カイサルさんが行ったら、生きて帰ってこれる保障はなかったですよ」
「し、しかしだな。だったら、せめてお前がクロエを止めてくれても」
「『二位でかまわない。あの人の傍にさえいられれば』とか言っちゃってる人を、彼女いない歴=年齢(魔法使い予備軍)な俺に出来る訳ないでしょう」

 そこまで言うとさすがにカイサルさんも言葉を失う。
 ちなみに二位とは第二夫人の事。アルマリスタでは重婚許されてるので。その代わり浮気は殺人クラスの重刑。特に男の場合は最悪のケースでは去勢(象さんチョッキン)もある。

 んー、さすがに心が痛むなー。
 なぜって、実はほんの(20ゲージ)すこーし(注射針ぐらい)嘘混じってマース。

 まず、クロエさんの帰省の理由を聞いてさすがにヤバイと思ったので止めようとしたのだが、スーちゃんにストップさせられた。


 恋愛は当人達の意思にまかせるべきだ、と。


 ……うん、お説ごもっとも。
 でもね? なぜだろうね。スーちゃんにうっすら黒い翼(デビルウィング)が見えた気がしたのは。ヘルプさんも機嫌がよさそうだったし。

 そういえば二人ともドロドロの愛憎劇なドラマが好きで、ヘルプさんなんか某国のハッキング中にその手の動画をこっそり施設に持ち込んだPCに保存してたな。

 ……まぁ、スーちゃんの真意は闇の中だが、俺は基本的にスーちゃんに対しては『はい』か『イエス』しかないので、そのままクロエさんを送り出した訳だ。


 後、一応契約ネットワーク経由でサンドロスさんに確認したけど、治癒魔法の使い手故に冷遇せざるをえなかったクロエさんを以前から不憫に思っていたそうで、自分の道を見つけたのなら、祝福をするとの事だった。

 まぁ、だからカイサルさんがその場に飛び込んでも袋叩きにはならなかった。ただし、その場でクロエさんの好意を拒否したら、どうなるかはわかんないけど。



 受付カウンターではいまだ、二人が火花――を通り越して紫電が飛び交ってた。無害なんだろうけど、今日のギルドの業務、止まるんじゃないかな?


i219707
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