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スーちゃんは俺の嫁 作者:赤砂多菜

一章 無限の供給炉

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6.争いごとはよくありません

6.争いごとはよくありません





 いっせいに冒険者ギルド内部が静まり返った。
 同じようにカウンターで手続きしていた者。掲示板に貼られている紙――恐らくは依頼書を確認していた者。出入り口脇でこちらをちらちら見ながら、雑談していた者。カウンターから少し距離のある、ラウンジにいる人達までこっちを見ている。
 それも先程までのスーちゃんを見ていたような、物珍しさからのものとは違う、射るような視線。

 なぜこんなことに。

 一瞬、そんな事を考えたが、すぐに思い直した。

 なぜって決まってる。カイサルさんが放った爆弾発言のせいだ。
 シルヴィアさんも笑顔を引っ込めている。それだけ、あの発言は重大だったんだろう。

「ちょ、カイサルさん。まずいですよ。なんで俺だけ特別扱いなんですか」

 いくら俺の職業がレアなのだとしても、ランクを飛び級する理由にはならない。それは周りの視線からも良く分かる。

「いいから坊主は黙ってろ。で、シルヴィア。どうなんだ?」
「理由を伺っても?」

 シルヴィアさんは再び笑顔を浮かべたが、声が硬質なものになってる。

「カイサルさんはランクの意義を理解していますか?」
「もちろんだ。不相応な依頼を受ける事のないよう、知識と能力を区分けし、不幸な事故が起こらないように管理する為だ」
「認識は問題ないようですね。しかし、だったらなぜ、そのような無理を? ユニーク職業が理由にならないのはご承知ですよね?」
「当たり前だ。こいつがそんな大層な職業だなんてここに来て初めて知ったんだ。こいつをランクDにするってのは、ここに来る前から決めてたんだ」
「……それはどういう事ですか?」

 シルヴィアさんは眉を潜める。俺も意味が分からない。もし、カイサルさんがユニーク職業を理由としているならば、納得は出来ないが、理解は出来る。だが、それが理由じゃないとするならが、この強引さはなんなんだ?

「マサヨシ。ここで、あの魔石と毛皮を出してみな」
「え?」
「剣の休息亭で出した奴だ。早くしろ」

 急かされて、俺は混乱しながらも、スーちゃんにお願いして出してもらう。周囲が、スーちゃんから素材が出てきた事にざわめくが、あいにく俺はそれどころではない。
 剣の休息亭で出した魔石と毛皮を、それぞれ分けてカウンターに並べる。
 それを見てシルヴィアさんの顔色が変わった。

「この毛皮……まさかアルマリアウルフ? じゃぁ、こっちの魔石も? 確かに含有魔力はそれに相応しいけれど」
「魔石を調べればアルマリアウルフのものか分かるだろ。いや、なぁマサヨシ。お前の持っている魔石や素材類はこれで全部か?」
「まだありますけど」
「全部出してみな」

 言われるままにスーちゃんに出してもらう。毛皮はカウンターに乗せ切れなくなったので床に置いていく。
 シルヴィアさんはぽかんと俺の作業を眺めている。カイサルさんが呆れた顔をしているのは、たぶん彼が思っていたよりも量が多かったからだろう。
 ここまで来れば、俺にも分かる。恐らく、スーちゃんが倒した魔物はかなり強い部類に入り、素材も高価なものなのだろう。

「アルマリアウルフにアルマリアボア、アルマリアベア。こっちはスタンピートラビット。おいおい、スパイクボアまであるのかよ」

 スパイクボアってのは、たぶんやたらトゲトゲしいイノシシの事だろう。あのお肉はおいしかった。調味料無しであれだから、コショウなりタレなりがあれば、もっとおいしかったと思う。

「素材は毛皮だけか?」
「一応、イノシシは食用に肉をとってありますが。毛皮以外も素材になる部分があったんですか?」
「まぁ、肉は食材になるヤツが多いな。あと、サイズにもよるが爪や牙。スタンピートラビットは足が、魔法具の材料になる」

 シルヴィアさんがようやく再起動したようで、魔石を手にとって、ペンスタンドのようなものから真上に放たれる円筒上の光に、魔石を次々とくぐらせていく。たぶん、あれが魔石を調べる魔法具なんだろう。
 作業を続けながらシルヴィアさんが聞いてきた。

「これ、マサヨシ君が一人で狩ったの?」
「俺というかスーちゃんが狩ったんです。丸二日かかりましたけど」
「ふ、二日でこの量!?」

 魔石の鑑定作業を中断して彼女は俺の方を仰ぎ見る。
 いや、狩ったのはスーちゃんであって、俺ではないんだけど……。

「……さすがにこの量は俺も予想してなかったが。どうだ。これでもDランクスタートの理由にはならないか? 討伐依頼ならソロでDランク相当、スパイクボアにいたってはCランク相当だぞ」
「いいや、理由にならないな!」

 声はラウンジから来た。わざとらしく、大きな物音を立てて椅子から立ち上がりこちらに向かってくる大男。左右の腰に剣をぶら下げている。
 カイサルさんはその大男の方を向いて、大げさに両手を広げる。

「おや、これはこれは。三剣のリガス殿のお出ましとは。いつから、冒険者とギルド職員を兼任に? それとも冒険者は引退されましたか?」

 リガスと呼ばれた大男は、挑発に乗らないとばかりにフンッと鳴らす。

「さっきから聞いてりゃ、調子に乗りやがって。ギルドの原則は登録時はFランクスタートだ。みんなそうしてる。俺もそうだったし、お前もそうだ。違うか? 十装のカイサルよ」
「その通りだな。俺も冒険者になったばかりの頃は必死に依頼をこなしたよ。あの頃が懐かしい限りだ。だが、それは俺にふさわしい能力がなかったからだ。原則だという事は例外もあるという事だし、前例もあるのはお前も承知のはずだ。
 すでにマサヨシはDランクの討伐依頼をこなせる資質を有している」
「詭弁だろう、それは。確かにそこの素材を見る限り、大したものだろうとは思う。本当に一人でやったのかどうかは分からないがな」

 おっしゃる通り、やったのはスーちゃんです。
 しかし、そんな心の声は誰にも聞こえない。

「仮にそいつにDランク相当の力があったとしよう。だが、冒険者のランクってのは力だけなのか? Fランクから昇格の為に何度も依頼を繰り返させるのは、知識と経験を積ませる為だろう? それとも、そのガキはそれも備えているとでも? そうは見えないがな」

 俺にはリガスさんの言い分が正論に聞こえる。確かに俺には知識と経験が足りない。というよりないに等しい。筋論としても、原則がFスタートとなっているのだから、俺もそうなるべきというのは妥当だと思う。
 しかし、なぜかカイサルさんは引かない。
 ……なんで、俺の事なのに、この人が粘るんだろうか。

「固い事言うなよ、リガス。俺達先輩がフォローすればいいだろ、んなもんよ」
「それはつまり、《自由なる剣の宴》がバックアップするって事か? こいつの飛び級はクランの総意って事だと受け取っていいんだな?」
「それは違う。こいつはクランに入ってない。勧誘したんだが、断られた。まぁ、今後はどうなるか分からんがな。こいつを後押しするのは未来への投資って所だ」
「ほぉ?」

 リガスさんの瞳が剣呑な光を帯びる。
 いや、ちょっと待って。なんで手が剣の柄に伸びてるんですか?

「ハリッサの件といい、今度といい。お前は規約を軽んじすぎるな」

 ハリッサさん?
 しかし、疑問はゆっくりと抜き放たれた剣を前に霧散する。

「いいだろう。小僧、表にでな。飛び級に相応しい腕があるか、試験してやるからよ」

 え? ちょっと!?

「勝手に決めないでくれ! 俺は――」
「なんだ? クラン《オモイカネ》のリーダー。三剣のリガスが相手では不服だってのか?」

 剣の先を向けられ身を竦ませた。俺自身に飛び級の意思はない。そう言おうとしても、剣先から放たれる圧力で言葉がでない。


 そして、突然閃光が走ったのと同時に澄んだ音が響く。一瞬遅れて、剣先が床に突き刺さっていた。剣の柄は未だリガスさんの手にある。剣が半ばから切断されて、床に落下したのだ。

 みんな驚きのあまり一言も発しない。そして、みんなの中に俺は含まれていない。

 スーちゃんがやったのだ。リガスさんが腰にさしていた剣は二本。抜いたのはその内一本だけだ。スーちゃんが触手を伸ばして残ったもう一本を抜いて、リガスさんが持っている剣を切ったのだ。
 俺が頼んだ訳じゃない。俺の身に危険が迫っていると判断して、スーちゃんの意思で動いたのだ。結果として、状況は悪化したのかも知れないが、スーちゃんは俺の事を思って行動したのだ。責める訳にはいかない。

「ウ、ウェポンブレイクだと! スライムが武器系統スキルを使った!?」
「まじかよ!」

 周囲がざわめく。

「違うな。どこに目をつけてやがる。スキルなんかじゃねぇよ。ただ、普通に切っただけの話だ。パワーとスピード、そしてそれらを最も的確に伝える角度と位置を狙う正確さがあっただけだ」

 カイサルさんの解説に、ざわめきはさらに大きくなる。

「てめぇ」

 低い声。リガスさんから、凄まじい圧力を感じる。さっきまでも威圧感はあったが、まるで違う。本気にさせてしまったのか? それに、たぶんこの人の仲間と思わしき人達も寄って来る。

 どうすればいいんだ!?


そして、空間が凍った。


 まるで一面白一色。そんな幻覚さえ見えた。
 静寂の中で冷たい声音が響く。

「リガスさん。剣をしまって下さい。スーちゃんもリガスさんに剣を返してあげて」
「シ、シルヴィア。これはっ!」
「規則を重んじるのであれば、ギルド舎内においての喧嘩を含む戦闘行為は御法度。それは存じていますよね」

 シルヴィアさんの冷たい声にリガスさんが凍りつく。
 凍った空間はシルヴィアさんの重いため息に、ようやく溶けていく。今のはシルヴィアさんが起こした事なんだろうけど、彼女は何者なんだ? 元冒険者とは言っていたけれど。

「Bランク冒険者を抑える契約魔物を持つ、か。そうね。確かにこれでFランクスタートさせた場合、以前の繰り返しになる可能性を否定出来ないわね。とりあえず、私の権限において暫定的にDランクで登録させてもらうわ。
 正式にどうするかは冒険者ギルドの最高責任者。ギルドマスターと相談の上で決めさせて頂きます。カイサルさん、それでよろしいですね?」
「ああ、かまわねぇよ」
「マサヨシ君もそれでいい?」
「え、あ。はい!」

 Fにして下さいと言える空気じゃなかった。

 それから登録作業は滞りなく進んだ。途中、何度かシルヴィアさんから質問があるか聞かれたが、出来る精神状態ではなかった。早く終わらせたい……。
 登録証とタグが無事に発行された。タグは予定通りにスーちゃんに取り込んでもらった。
 タグがスーちゃんの中でめぐるましく動いているのは喜んでいるのだろうか?

「後は素材を買い取ってもらわなきゃな」

 俺の精神を追い込んだ張本人のカイサルさんは、特に気にしているそぶりもなくそう言った。
 いや、まーね。必要な事だと思うけど、そう何事もなく言われると腹が立つね。文句を言うと言いくるめられると思うから言わないけど。

「量が多いから、査定に時間がかかると思うの。マサヨシ君さえよければ概算の半分渡しで、残りはギルド預かりでいいかしら?」
「ギルド預かり?」

 シルヴィアさんによると冒険者ギルドでは、銀行のようにお金を預かるような事もしているらしい。ただ、元の世界の銀行と違って利子はつかず、逆に月区切りで手数料が取られるとの事。
 まぁ、みんながみんな収納スキルや収納の魔法具を持っている訳ではないらしいので、安全保障つきの金庫と考えれば、納得かな。後、登録証を店に提示する事でギルドへ請求してもらう事も出来るそうだ。
 便利そうだけど、全額でもスーちゃんの収納スキルに納まりそうなんだよな。
 とりあえず、今回は半現金、半ギルド預かりという事に決まった。
 そして、素材買取の受付場所は別らしいので移動して、素材の代金が支払われたのだが……。

 シルヴィアさんが軽々とカウンターに置いたので、手にとってみたが、貨幣袋が持ち上がらなかった。シルヴィアさんの筋力いくらなんだろう。

「こ、これ。本当に半分なんですか?」
「私の経験上からの概算だけどね。ただ、毛皮の状態が良いので、たぶん総合額はもっと上がると思うわ」

 まぢで?

 とりあえず、俺が持ち上げられないのでスーちゃんに直接収納スキルにしまってもらった。収納スキルにしまう前に中を見せてもらったけど、紐でしばった金貨と思わしきモノの列がぎっしりと……。

「カイサルさん。これ一枚と、昨日の宿代の差ってどれくらいですか?」
「通貨の相場にもよるがな。昨日の宿代が銀貨一枚。そこに入ってるのが金貨だから、50倍かな?」
「………………」

 元の世界との価値基準は違うと思うが、一気にお金持ちになったようです。

「ところでシルヴィア。どうして金貨なんだ? 白金(プラチナ)貨ならもう少しコンパクトになっただろう?」
白金(プラチナ)貨だと価値が高すぎて使えないところもあるでしょう?」
「ああ、なるほど。確かにな」

 貨幣の価値は順に。白金(プラチナ)貨、金貨、大銀貨、小銀貨、銅貨、半銅貨だそうだ。銀貨と言った場合は小銀貨の方の事をさすらしい。
 ちなみに通貨の流通量により、通貨間の価値の差が変動するとの事。通貨の管理は商人ギルドの管轄で、なるべく変動しないようにがんばっているが、通貨価値変動で儲けようとする者が後を絶たないとか。
 FXみたいなものかな?

 とりあえず、冒険者ギルドでの用事は済んだ。本当は色々情報を集めたかったのだが、ここに残る勇気はない。
 カイサルさんはラウンジでお茶しようなどと言っていたが、この人の心臓は鉄で出来ているに違いない。

 ギルドを出た所でカイサルさんに、これからの事を聞かれた。
 昨晩考えた候補は確か三つ。


 1.図書館に行く。
 2.服と今後必要になりそうな物を買う。
 3.働いてお金をかせぐ。


 このうち、3は当分問題なさそうである。もちろん、いつまでもって訳ではない。俺が無限なのは契約数と召喚数であって、お金ではない。
 ただ、いますぐ行動する必要はないだろう。とりあえず、今は他を優先しよう。

 すると1と2のどちらを選ぶかだが……。
 俺は自分の服を見た。うん、汚れてるね。着替え欲しい。下着も替えたい。
 冒険者ギルドでは大丈夫だったが、賢者ギルドでは身なりでアウトの可能性もある。
 それにせっかく、お金が手に入ったので買い物がしたいという気持ちも抑えられない。

「カイサルさん。服とか買いたいんですが、良い店知ってますか?」
「普通の服か?」
「……むしろ、普通でない服ってどんなですか?」
「一応、冒険者用に丈夫だったり、特殊効果のある服があるんだよ」
「いや、普段着がまず欲しいんですが」
「冒険者なんてしてると、いつ何があるかわからんからな。俺なんて、鎧着込んでるだろ」
「ああ、そう言えばそうですね」
「まぁ、普段着用であっても、冒険者用のものを着ていた方がいいぞ。仕事着と分ければいいだけだし」
「分かりました。それと、これから冒険者として生きていくにあたって必要な雑貨類を買いたいのですが」

 カイサルさんは来た道を振り向いた。

「冒険者ギルドで、服も冒険者の必需品も売ってるぞ」
「Uターンは無しの方向で」

 今日はもう、あそこに入りたくない。

「じゃぁ、冒険者ギルドに商品を卸してる問屋があるから、そこにするか?」
「問屋が直接売ってくれるんですか?」
「そりゃ、商いのチャンスだからな。断る理由もないだろう。冒険者ギルドで買うよりも多少割高になるんだが、かまわないな?」
「ええ」

 お金持ちの余裕である。

「後、買い物が終わったら賢者ギルドに行きたいんですけど」

 そう言うと、カイサルさんは怪訝な顔をした。

「何しに? 賢者ギルドにも入るのか?」
「場合によっては。図書館を利用したいのですが」
「ああ、なるほど。しかし、何の為だ? 正直利用料が高いぞ、あそこは」

 う、やっぱり有料か。

「色々と調べものを。知識は無駄にならないでしょ」
「確かにそうだが。普通、知識を求めるなら、たいてい先輩冒険者や冒険者ギルドを頼るものだけどな」
「色々と幅広い知識が欲しいので」

 なにせ、基本的な常識すら欠如してますので。
 聞くのが恥ずかしいを通り越して、変に怪しまれたくない。

「まぁ、それじゃ、問屋と賢者ギルドまでは案内してやる。図書館については賢者ギルドの職員に聞いてくれ。俺は宿に残してきた奴らが気になるから、そこで一度別れよう」

 ここまで善意で(クランに勧誘したいのもあるだろうけど)案内してくれたので、否とも言えず、頷いた。


i219707
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