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スーちゃんは俺の嫁 作者:赤砂多菜

三章 虚本偽書がもたらすもの

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55.呪われた円錐形

55.呪われた円錐形





 俺がそれに気付いたのはほぼ収穫作業が終わった頃だった。

 ハリッサさんがある1点を見つめていた。
 視線の先には壁。ただし、砦を囲う外壁ではなく内側の建物の壁だ。それ自体は何の変哲もない、石レンガの壁だ。

「何かあるのか」

 やはりというか、ハリッサさんの様子に気付いていたカイサルさんが声をかける。

「あるッスね。まだ完全に正確な位置が絞れていないッスけど。それに――」
「それに? なんだ?」
「どうも、ここだけじゃない気がするッス」

 俺はため息をついた。
 どうやら、ここは単なる終端ではなく、複数の分岐(ハブ)地点らしい。

「とりあえず、それは今度にしませんか?」
「マサヨシ?」

 ハリッサさんが首を傾げる。カイサルさんも怪訝そうに俺を見ている。
 それはそうだろう。俺達の現在の仕事は調査。
 この面子なら、たいがいの事を切り抜けられるだろう。荷物(やさい)もスーちゃんがいたら問題ない。
 まぁ、分岐型ダンジョンの特性として、先に進むと後戻りが出来なくなり、ここの帰還魔法陣が使えなくなるが、分岐部分を探すだけで足を踏み入れなければ、問題がないと思うのは仕方ないだろう。



 実は問題大有りなのだ。


 一つの懸念がある。
 まさかとは思うが、それでも大当たりを引いてしまった場合、収集がつかなくなってしまう。


「クロさんがトレントの群れと遭遇したそうです。相手が降伏したので見逃したそうですが、果実類は置いていったそうです」

 嘘でこそないものの、ごまかし半分に報告する。

 トレントは樹の魔物。体は木材に、枝や葉も素材になり、実も食材になる。
 強さにばらつきはあるものの、魔物の中では相当実入りが良い部類にはいる。
 まぁ、降伏したので実だけしか手に入らなかったが、その分岐のトレントの集団が出るという情報と果実が手に入ったという結果で、十分収穫だろう。

「どんな実があるッスか?」

 うむ、ハリッサさんが釣れた。釣れてくれると信じてたよ!
 カイサルさんも追及をする気が薄れたようだ。まぁ、疑いは解けてないだろうけど。

「結構種類も量もありますね。リンゴ、オレンジ、カキ、ブドウにクリもあります。後はちょっと分かりません」

 スーちゃん情報で調べれば分かるだろうけど、どうせ合流するんだし、後で検品すればいいよな。

「カキってなんすか?」
「え?」
「俺も聞いた事がないが。果物なのか?」

 そーいや、今までアルマリスタでカキ見た事なかったな。アルマリスタにないのか、それとも大陸でも珍しい果実なのか。
 高校生だったころ、近所の和菓子屋で売っていた干し柿の月餅が好きで、値段が高いのに買っていた思い出が……いや、ちょっと脱線か。いらん事まで思い出しそうだし。

「俺の故郷にカキの木があったので食べてました。甘くて美味しいんですが、人を選ぶ味みたいですね」

 ……渋ガキだったらどうしよう。

「野菜類、果物類、両方手に入った事だし、一度戻りませんか? この分だったらまた来る事もあるでしょうし」

 目の前の隠し分岐を前に苦しい言い訳だったが、カイサルさんは頷いてくれた。ダンジョンから出たら、要説明なんだろうけど、どこまで話したものやら。
 今の所、推論で証拠ないしなぁ。


□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□


 朝、軽い朝食をとってから俺はハウスさん家の多目的室一号室に向かった。

 元々ハウスさん家にはなりゆきで会議室があったのだが、《自由なる剣の宴》の暫定拠点となってからは、それだけでは足りないので複数の部屋を統合して多目的室をいくつか作ったのだ。

 3分で。


 リフォーム屋は泣いていいと思う。


「おはようございます」

 特に時間は決めていなかったのだが、入るとどうやら俺とスーちゃんで最後らしかった。
 ……エリカとハリッサさんは、ここで朝食中だった。それともおやつか?
 あんたら、食堂で食いなさい。

 そして、別の一人が用意されたお茶菓子を口に運んでいるのが目にとまった。


 あの呪われた円錐形はまさか……、タケノコ!?


 ……そうじゃなくて。いや、それも大問題(マスターぎかいクラス)だが、昨日のパーティの反省会みたいなものを開くためにこの部屋に集まる事になっていたのだが、当たり前のように賢者ギルドトップの人がいる。

 俺の視線にニーナさんがカクンと首を傾げる。

「どうやらこのチョコ菓子は二種類がセットになっているそうで、(タケノコ派)に食べ比べて下さいと言われていたのです。幸いハウスさんが再現(・・)の努力をしているそうだったので、お願いしてみました」

 ハウスさん。それ(タケノコ)だけは作っちゃダメだって言っておいたのに。
 いつも素直なハウスさんが命令無視したのは、料理、菓子類を作る研究熱心さが故か。

「再現度が低いらしいですが、おいしいですよね」

 まぁ、俺には製菓の知識ないし、見た目と俺の個人の味覚、食感から再現させるというのは結構な無茶振りではあるのだ。
 その意味でハウスさんのつくるこれ(キノコ、タケノコ)は相当な研鑽の賜物だ。


 まぁ、それはさておくとして。

「なぜ、ニーナさんがここに?」
「呼ばれた気がしましたので」

 珍しく、ついっと視線をそらす。
 霊界ネットワークで本の事を知ったのだろうが。それを口実に仕事から逃げてきたんだな? まぁ、いいけどさ。どの道、この人には相談とかしにいくつもりがあったしな。

「先に渡しておきますね」

 スーちゃんにお願いして例の本を出してもらう。それをそのままニーナさんに手渡した。

「今回、宝箱で得たものです。これの調査を賢者ギルドでお願いしたいんですが」

 本を渡してから、カイサルさんに許可をまだ貰ってなかった事を思い出した。

「渡しちゃっていいんですよね?」
「ああ。どの道賢者ギルドに回るんだ。そこらの下っ端ならいざ知らず、トップに受け取って貰えるなら問題ない」

 カイサルさんは鷹揚に頷いた。
 このパーティのリーダーはカイサルさんだ。俺ももうちょっと自制しなきゃな。
 と思ったら、額にきのこ(キノコのような)チョコをぶつけられた。

「つまらん事考えるな。でしゃばりが良いわけじゃないが、自分で行動できんような奴にはなるな。いずれ、お前にはこのクランの幹部になってもらうつもりだからな」

 うぇーい。
 まぢっすか?
 俺が嫌そうな顔をすると、カイサルさんはニヤリと笑った。……冗談ではなさそうだ。

 ニーナさんは受け取った本をしばらく見た後、それを脇においてまたチョコ菓子に手を伸ばした。

 また、タケノコ!?

 まずい、まずい、まずい!!

 俺の高校時代、すでに世界はタケノコに汚染されていた。
 どれくらい汚染されていたか。
 近くのコンビニでは、置かれている割合が、キノコとタケノコで1:2。にもかかわらず、たまにタケノコが売り切れ。
 キノコ、タケノコの争いはオンラインゲーム化されたが、プレイヤーがキノコ派にしかなれなかったせいか、運営がうまくいかず開発会社は倒産。
 キノコ、タケノコ議論で広域暴力団で抗争が勃発し、キノコ派が壊滅(くみちょうオワタ)した。


 メーデー、メーデー! ハウスさん! 至急ニーナさんのおみやげようにタケノコ以外のお菓子詰め合わせ用意して!!


 俺の心が激しく揺れ動いている中、ニーナさんが話を進めていた。


「では、お預かりします。結果は分かり次第必ずお知らせします。一時金が必要でしたらお支払いしますが」
「いや、結構。そこまで金に困ってるわけじゃないですからね」
「……そうですか。ただ、全てのクランがそうではないようですが」

 ニーナさんの指摘に、カイサルさんが困った顔で頭をかく。

「ある程度は仕方ないでしょう。ウチは正直ランクが高いだけでなく実力も伴っているのが多いのが幸いしています。
 中には上位ランクのパーティにまぎれて自分のランクを上げてる奴もいますし。そもそも、今回の調査に加われないような弱小クランもあります。まぁ、間違っても暴動を起こさせたりはしませんが」
「それは確かですか?」

 聞き方によっては挑発ともとれるニーナさんの言葉。
 しかし、カイサルさんはあっさりと受け流す。

「しなきゃならんでしょうよ。それはギルドの最大手クランのリーダーにして、ランクA冒険者としての義務でしょう」
「お互い、立場があると大変ですね」
「まったくです」

 ニーナさん、偉そうな事言ってるけど、仕事から逃げてきた――
 やべっ! 視線だけがこっちに向いた!?

 うそです! どんなに忙しくても休息って大事ですよね! ね!!

 まるで、全てを見透かすようにニーナさんは頷いて視線を戻す。

 ……今、俺は非常に危険な橋を渡っていた。もうちょっと注意しないと。

「こちらへと伺った用向きはこの本ですが、このまま打ち合わせに参加してもよろしいですか?」

 ニーナさんがカイサルさんに許可を求める。
 単なる息抜きなら、ニーナさんの場合黙って居残るだろうしな。そして、誰も止められない。……誰だって命は惜しい。
 わざわざ許可を求める形にしたのは、ニーナさん個人ではなく、賢者ギルド長としての発言という事だろう。

「かまいませんが。理由を伺っても?」
「ギルド舎にいても情報はいずれ来るでしょうが、出来れば生の意見を伺ってみたいと思っていたのです。皆さんだったら遠慮もいらないでしょうし」

 そういって、彼女は裏庭特産の麦茶もどきをすする。
 カイサルさんは俺とヴィクトールさんに目で確認するが、特に彼女に知られて困るものもないしな。二人して頷いた。

「そういう事でしたら、道中の様子から説明したほうがよさそうですね。ハリッサ、地図を出せ」
「はいっす」

 ハリッサさんが収納の小袋から手書きの地図を取り出した。書いたのはハリッサさんが全体像を、修正や補足はスーちゃんが担当。
 ……精密さを求めるとスーちゃんだけでもいいのだが、精密すぎて情報過多になるんだよな。適当な――というと言葉が悪いけど、要点を押さえた情報の抜き出しはハリッサさんの方が上なんだよな。ここら辺は冒険者としての経験の差だろう。

 すでにその地図はスーちゃんの手書きコピーによって複製品が何枚もあるので、遠慮なく書き込みつつ、反省会はスタートした。





「腕が伸びる、ですか」

 ニーナさんが特大キャベツを興味深げに見ながら頷いている。
 ツイストギガスの情報は、図書館にも少なかったからな。

「やはり、体がゴムみたいだからですかね?」

 ツイストギガスの肉は食材ではなく、主に乗り物のサスペンション(かんしょうざい)みたいな使い方や、繊維状にしてスリング等の武器の素材としても使われる。

「それも一因ではあるでしょうが、それ以外にもあるでしょうね」
「というと?」
「弾力性は比較になりませんが人の筋肉にもあります。では人は果たしてそれを真似出来るのか」

 実演するように腕を伸ばすニーナさんだが。
 ぶっちゃけ、ニーナさんの場合ありえそうで怖い。髪なんかいつ伸びて扉を封鎖しても俺は驚かない。

「関節が特殊、なのか?」

 カイサルさんが考え込みながら呟く。

「資料では関節の可動域が広いとありましたが、そもそも関節が着脱可能なのではないでしょうか? それでしたら、関節が逆に曲がるという理由にもなります」

 ああ、なるほど。確かに考えられる説だ。
 カイサルさんも頷いている。

「出来れば、賢者ギルドで死骸を調べたいところですが。すでに解体屋に出してますか?」
「いえ、スーちゃんに保管してもらってます。今までアルマリスタで扱ってなかった素材になりますので、需要が分からなくて。その件でもニーナさんに相談しようと思ってたんです」
「では、ツイストギガスの死骸もこちらで預かりましょう。あのこむす――いえ、受付に言っていただければ、賢者ギルドの保管庫に案内してくれるでしょう」


 ……受付の人。無事だといいのだが。


「後はこの野菜の巨大化の原因ですね。ダンジョンの意思ですか」

 ニーナさんは意味ありげに呟く。この口調だと何か知ってるっぽい。

「禁書の一つにダンジョンの性質について触れているものがあるのですが。それによるとダンジョンマスターと呼ばれる存在が、ダンジョンの種類を問わずいるらしいです。
 ダンジョンの仕組み(システム)をある程度操作出来るらしいとの事ですので、同一の存在と見ていいかと思います」

 ダンジョンマスターね。やっぱ賢者ギルドでは把握されていたか。

「マサヨシは知っていたんだよな、そのダンジョンの意思って奴を」
「ええ。と言っても、クロさんからの聞きかじりなんですが」

 カイサルさんの言葉に頷く俺。
 そして、不穏な視線が俺を貫く。

 いや、そんなに視線に力を込めなくても話しますって。ニーナさん!

「予め言っておきますが、あくまで聞きかじりですからねっ」

 一応、前置き(ほけん)をしてから俺は知っている事を話した。


 ダンジョンには意思がある。
 それはダンジョンの管理を担う存在であり、そしてその存在の一部はダンジョン内に守護者として存在する。
 ダンジョンの意思はある意味ではダンジョン内にいる守護者達の一つとも言える存在であるが、他の守護者とは決定的に違う部分が存在する。


 それはダンジョンの意思たる守護者が倒される時、そのダンジョンは終焉を迎える、との事だ。


「終焉とはなんだ?」

 カイサルさんは首を傾げている。他のパーティ面子も同様。
 ニーナさんだけは何かに気付いたようだ。まぁ、前知識があればそこ(・・)にたどり着くよな。

「クロさんもそういうものとしか知らないとの事です。ただ、俺の推測では、恐らく改変期の事なんじゃないかと」

 俺の言葉に、ニーナさんとエリカを除いた面々が驚いている。
 まぁ、改変期がなぜ起こるのか。それは知られていなかったからな。
 ニーナさんにしても、ダンジョンの意思が何らかの介入によって発生するくらいには考えていたかも知れないが、そもそも倒せるという可能性は考えてはいなかっただろう。


「んー。でも、それっておかしくない?」
「何がだ、エリカ」
「アルマリスタのダンジョンって、全て調べられているんでしょ?」
「まぁ、〈赤い塔〉を除いてだがな。それに残りの三つも(もと)がつく。」
「マサヨシ細かい! 悪魔みたい」

 悪魔と聞いた瞬間、部屋がざわついた。

 うぇーい!

 うかつな事を口走るな!!
 この世界でも悪魔は良い印象もたれてないんだぞ!

『というより、普通に人の敵扱いですね』
『じゃな』

 ほら、本人(あくま)達もそう言ってるだろ!

「エリカさんはアルマリスタの過去となったダンジョンが全て捜索済みなら、そのダンジョンの意思の化身たる守護者も倒されているはず。そう言いたいのでしょう?」

 悪魔関係の事情を知っているニーナさんからフォローが入る。
 正直助かった。俺が言ったなら、今度は俺が悪魔との関連を疑われたのかも知れないが、ニーナさんなら問題ない。

 普通に悪魔と知り合いか、当人でもおかしくない雰囲気だもんな、この人。

「記録上、アルマリスタのダンジョンは改変期が起こった事がありません。ダンジョンの全てが捜索済みとされていたにも関わらず。
 しかし、この矛盾は簡単に解決できます」
「……なるほどな」

 カイサルさんは俺を見た。

「だからあの時」
「ええ、万が一とは思いますが、大当たり引いちゃったら困るので」

 カイサルさんが言っているのは、砦でハリッサさんが新たな分岐らしきところを感じた時に俺が止めた事だ。

「え? どーいう事?」

 発端のエリカが首を傾げている。こいつは鋭いんだか、鈍いんだかわからんな。

 もはや、元になってしまった以上証明しようが無いが、俺はこれが真実だと思ってる。

「つまり、〈海岸〉、〈常闇の森〉、〈岩山〉、この三つの(もと)ダンジョンは全て捜索済みと勝手に思ってただけで未捜索の部分があったんだよ。
 隠し分岐だったんだろうな」

 そこにダンジョンの意思。その化身たる守護者がいたんだろう。
 そして、それが倒された。三つのダンジョンの三体が同時に。

 確証なんてない。だが俺の中の何かが、それこそが今回の改変期騒動の発端だと告げていた。

i219707
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