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スーちゃんは俺の嫁 作者:赤砂多菜

三章 虚本偽書がもたらすもの

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54.大は小をかねます

54.大は小をかねます





 砦の門を抜けた先にはすでに脱出用の魔法陣が出ていた。
 つまりはあのツイストギガスは紛れもなく守護者であったという事だ。


 あれ、毎回倒すのかぁ。
 スーちゃんに飲み込まれていくツイストギガスを眺めながら、そんな事を考えていると、コツンと後頭部を軽く叩かれた。

「小難しい事で悩むな。それは(おれたち)の仕事だ」
「といっても。あれがいたら、エリア難度Bでしょ」
「まぁ、実質はBプラス。Bランクパーティ複数推奨といったところだな」

 ホロウウォーカー達とツイストギガスをそれぞれ相手するにはそれぐらいいるだろう。

「エリア難度Aランクにはならないんですか?」

 エリア難度は正式にはBランクまでだ。プラスマイナスといった呼称も、冒険者がかってにつけただけで、正式なものではない。
 Aランクに至っては、危険物件(わりにあわない)という意味だ。

「それはこれから次第だな」

 カイサルさんの言葉が終わると同時にハリッサさんの『見つかったッスよー!』という声が届いた。

「まぁ、苦労の甲斐があるかどうかを見定めてから考えてもいいんじゃないか?」

 カイサルさんの不器用なウィンクに俺は苦笑を返した。

「そうですね」

 そして、俺達はハリッサさんの声のする方へ向かった。




 ハリッサさんは兵舎と思わしき中にいた。
 なんか楽しそうに、宝箱と向き合ってる。
 宝箱はハリッサさんが短剣をちらつかせる度に、ビクッと身を震わせている。

 ……調べるまでもなく、ミミックさんですな。

 ミミックというのは宝箱に擬態した魔物の総称であり、結構種類が多く、強さもピンキリであるのだが……。まぁ、ハリッサさんが遊んでるあたり、程度が知れよう。
 宝箱に擬態した魔物ではあるのだが、【種族:収納】持ちで倒すと一応アイテムを落とす上に、魔石は収納系魔法具の材料になるので、冒険者によってはむしろ当たりと思う人も少なくない。

 まぁ、だがたぶん。ハリッサさんにそんな考えはなく、ちょっと反応が面白いのでからかってるに過ぎないのだろう。

「ハリッサ。その辺でかんべんしてやれ」

 さすがに可哀想に思えたのか、カイサルさんがストップをかける。
 ハリッサさんが短剣をしまうのを確認してから、カイサルさんは俺に目を向ける。

 出番ですな。
 【無:念話】で降伏勧告(デッドオアライブ)


 あっさり受諾(イエッサー)されました。……まぁ、勝ち目ねぇしな。
 まだ満身創痍とかなら、一撃かまして離脱(ピンポンダッシュ)も出来たろうが無傷だし。

 ミミックさんが大人しく蓋を開けると中には、鞘付きの短剣と……本?
 ハリッサさんが短剣を、俺が本を手にするとミミックさんが蓋を閉める。

 あれ? 何かがおかしい?
 俺は本を手にとって、色々な角度から観察する。表紙が革張りで、たまに日記にあるような鍵付きのものである。その点を珍しいと言えば珍しいのだが。
 この違和感はなんだろう?

「カイサルさん。これって魔法具ッスか?」

 短剣を鞘から引き抜いてハリッサさん。刃の部分は赤銅色の金属で、微妙に木目のようなものが見える。俺が今まで見た事のない金属だ。
 赤銅色に木目という部分で何か思い出しそうだが……。

「違うな」

 あっさり否定され、肩を落とすハリッサさん。しかし、続く言葉に顔をパッと明るくさせる。

「恐らくそれはオリハルコン製だ。それの短剣とくれば、もしかすると――」
「ダマスカス!?」

 あまりの彼女の豹変振りにカイサルさんは苦笑する。
 まぁ、でも仕方ないか。
 俺も思い出した。


 オリハルコン。
 この世界の希少(レア)金属メタルの一種だ。決してレアメタルではない。意味が違うので注意な。試験で間違っても俺は知らんぞ。
 ミスリルよりも希少で、需要も高い為、金を積んでも手に入らない事が多い代物だ。なぜならオリハルコンには属性魔力を込める事が出来るからだ。
 もっとも、その希少さ故にその性質を残したまま、武具にする製法を残している街は大陸でも数えるほどらしが。

 そして、ダマスカス。
 大昔、名のある名匠と弟子達によってオリハルコンでの数打ち(たいりょうせいさく)されたシリーズの一つらしい。数打ちと言っても100均ショップのようなものではなく、あくまで実用本位。

 短剣使いのハリッサさんにとって垂涎――って、ほんとに(よだれ)たらしてる!?

「ほ、本物ッス。本物のダマスカス!!」

 まるで神にささげるみたいに両手でダマスカスを掲げる。
 どうやら、【無:鑑定】で調べたらしい。ハリッサさんは頬を赤くし、普段細い目が開いて潤んでいる。
 ……なんか、絵的にやばいな。

 しかし、カイサルさんはそれを放置するつもりか、俺のもっている本に目を向けた。

「で、マサヨシ。それは何か分かるか? それも魔法具ではないようだが、何が書いてある?」
「何って、読めないので――」

 まて。
 読めないだと?

 【無:万能言語】持ちだぞ、俺。

 違和感の正体は単純だった。スキルのおかげで読める(・・・)のが当たり前だったので、文字が読めないという事に気付かなかった。



 どういう事だヘルプさん。

『【無:万能言語】はこの世界(シードワルド)で使用されているあらゆる言語をサポートします。推測ですが、それはこの世界由来のものではないのかも知れません』

 そんな事ってあるのか?

『実際、私達はこの世界由来の存在ではありません。絶対の否定は出来ないでしょう。それが宝箱(ミミック)から出たというのが、腑に落ちませんが』

 これが、この世界由来ではない。つまりは異世界の本?



「どうした、マサヨシ。何か気付いたのか?」

 カイサルさんがずっと本を見つめていた俺に気遣わしげに問いかける。

 いけね。本の由来がどうであれ、今考える事じゃないな。

「いえ。結局、これどうするのかと。読めない本とかってギルドの買取部門で買い取って貰えるんですか?」
「まぁ、物にもよるん(ケースバイケース)だがな」

 カイサルさんが頭をかく。

「本の査定は難しいからな。金額が確定するまで長引くんだよ。まぁ、たいがい賢者ギルドに流れる事になるんだがな。
 お前ならあっちに伝手があるんだから、直接もっていって調べてもらうのもありかもな」

 賢者ギルドか。そういえば、本はあそこの管轄だっけか。
 でも、今ニーナさん、忙しそうだしなぁ。

 ん? ハリッサさんがさっきまでと打って変わって涙目になってる。
 何事!?

「あ、あのう。これも、もしかして売るッスか?」

 震える声でハリッサさん。
 あー、俺が本を買い取り部門に流す話が聞こえて、ダマスカスもって思ったのか。

 オリハルコンはただでさえ高い。それもダマスカスという名品なら、桁を見るのも嫌になる金額だろう。
 たとえ冒険者ランクBのハリッサさんとはいえ、自腹で買うのは無理だろう。

 となると、後可能性があるのはパーティ内での分配だが。

「さて、どうするかなぁ」

 悪戯っぽい声でカイサルさんが、悩むようなフリをする。
 しかし、今の余裕がないハリッサさんはそれに気付かない。捨てられた猫が通りすがりの人を見るようなすがるような目をしている。


 意地が悪いですよ、カイサルさん。
 金を積んでも手に入らないようなものを、わざわざ手放すのはもったいないし、それ(ダマスカス)を使うのにもっとも相応しいのはハリッサさんでしょうに。


「みんなと相談しなきゃな」
「呼んでくるッス!!」

 火が付いたロケット花火のように飛び出していった。ここにいる面子以外は砦内を探索している。

「少し、ハリッサ殿が気の毒ではありませんか?」

 笑っては悪いとは思いつつも、笑みを隠すのに失敗しているクロエさん。

「まぁ、調子に乗る奴だからな。しばらくはこのネタで手綱を引くか」

 つまり、ハリッサさんは当分弄られると。
 ご愁傷様です。





 ハリッサさんは見事に全員を連れて戻ってきた。
 砦内のどこにいるか分からなかったはずなのに。【特殊:第六感】仕事してるなぁ……。


「で、畑は見つかったか?」

 カイサルさんはダマスカスの件には触れず、みんなに聞いた。

「乾物の類は見つけたが」
「必要なのは新鮮な奴なんでしょ?」
「ここ、飛びにくくてあまり探せなかった」
「それらしいものは見つかりませんでした」

 ヴィクトールさん、リズさん、エリカ、ニコライさんと順に報告していく。
 エリカの言っている飛びにくいというのは、この砦が飛行スキル対策されているのだろう。ダンジョンはこの世界(シードワルド)の地形を模倣(コピー)する。恐らく、模倣された砦そのものの機能なんだろう。

 乾物(ほぞんしょく)、機能している飛行スキル対策。この分なら篭城用の畑もあっていいと思うが。

 ふと目がミミックさんにいった。
 ……というか、まだいたのね。てっきり謎空間にお帰りになったものと。

 そして、気付いた。
 このミミックさんに聞いてみればいいんじゃね?
 いやいや、いっそ契約しちゃうか。収納スキル持ちの魔物って貴重だろうし。

 思いついたが吉日(フラグ)


 【契約魔法:召喚契約】
 【契約魔法:権限委譲】


 とりあえず、ハウスさんに契約を委譲した。宝箱って家具っぽいし。

 ハコさんと命名。
 うん。本人(?)以外の苦情は受け付けないから。

 なんか、レジェンドミミックとか偉そうな種族に進化した。



 とりあえず、ハコさん。謎空間に帰る前に畑の場所知ってたら教えて。


 肯定の意思(こえ)が返ってきた瞬間、それは起こった。

 ハコさんの体のあちこちに切れ目が入ったかと思うと、それが分かれたり、裏返ったり、伸びたり。一瞬で子供くらいの人型モードに早変わり。

 うぇーい!?
 一体、どういう手順(プロセス)を踏めばそうなるのかと突っ込みたくなる。
 なんか、ポーズきめてるし。

 実はハコさんってトランスフォーマー(へんけいロボット)だったりする!?
 これは確かにレジェンド(でんせつ)の名に恥じないかもしれない。
 みんなも意外すぎる展開にぽかんとしている。

 そんな俺達を放って、ハコさんがとことこと歩きだした。
 そこで俺も我に返った。
 サイバトロンかデストロンか、所属を聞いてみたいところだったが、今はその時ではない。

「畑に案内してくれるみたいです」
「……わかった」

 みんな言いたい事があるような表情だったが、今はこらえて!

 ハコさんは砦の壁沿いを歩いていく。歩幅のわりにはかなりスピードが速い。徒競走やらせたら強いかもしれん。

 やがて、砦の壁と建物にはさまれた行き止まりに行き着いた。畑どころかただの通行止めにしか見えない。
 しかし、ハコさんは行き止まりの壁をこんこん叩いている。

「この壁の向こうにあるそうです。どうも、ギミックがあるみたいで、ツイストギガスやホロウウォーカーが出入りしていたそうですが、ギミックの動かし方までは知らないそうです」
「なら、やる事は一つだな。ヴィクトール」
「了解」

 ヴィクトールさんが行き止まりにメイスを叩き込む。恐らくバッシュ(スキル)込み。
 壁は一撃で崩れた。


 そして、崩れた壁の向こう側には確かに畑があった。
 大当たりだ。畑は大きく、さらに複数の作物がなっていた。

 ……大きい?

 何か視覚情報に異常なものを感じた。それをスーちゃんが補完してくれたので、何がおかしいのか分かった。

 大きいのである。

 畑が、ではない。いや、畑も砦内につくられたものと考えれば十分大きいのだが、なっている作物のサイズが大きいのだ。

 一番近かったキャベツ畑にいってみると、瑞々しいのはいいのだが一玉が俺の知っているキャベツの2倍以上のサイズ。
 X軸、Y軸、Z軸。全部2倍。2x2x2になるので体積で考えると8倍。
 キャベツだけではなく、見る限りトマト、ナス、根菜。イモ畑っぽいのもあるが、たぶんあれもおっきい予感しかしない。

「……ダンジョンの作物って、こんな事もあるんですか?」
「いや、聞いた事ないね」

 ニコライさんが首を振る。


 くいくいっ。

 ん?
 なんかハコさんが俺のズボンを引っ張ってる。

 ……え? それまぢ?

「どうした、マサヨシ。そのミミックはなんて言っているんだ?」

 ハコさんが俺に何かを伝えているのは仕草で分かったのだろう。カイサルさんが聞いて来る。みんなの視線も集中する。
 まぁ、別に黙ってる事じゃないしな。

「えーと。どうも、この畑って魔物用に改良されてるようです」
「魔物用に改良?」

 カイサルさんが首を捻る。

「具体的には、ツイストギガスの食事用だったようです」
「……なに?」

 ハコさんによると、なんとツイストギガスは菜食(ベジタリアン)だったらしい。……あの外見でかよ。
 元々はここの畑の作物は普通サイズだったらしいが、ツイストギガスが要望し、ダンジョンの意思(・・・・・・・・)が応えた結果らしい。

「ダンジョンの意思とはなんだ?」

 カイサルさんが当然の疑問を聞いて来る。図書館にもその手の情報なかったし、俺がその存在を知っているのはクロさんに聞いたからだからね。
 あるいは禁書あたりには情報があるかもしれないが、それをニーナさんから聞き出すのは|命がいくつあっても足らん《じさつこうい》。


「説明すると長くなるかも知れませんから、とりあえずやる事から済ませましょう」
「やる事って、まさか」
「もちろん、収穫です」

 その為に来たんだし。
 しかし、カイサルさんは疑わしそうに作物を流し見る。

「食えるんだろうな、これ」
「……言われてみると」

 ツイストギガス用だもんなぁ。

 と、スーちゃんが毒見を申し出た。
 触手を伸ばしてキャベツの葉をちぎり取り込む。
 ちなみにスーちゃんにはちゃんと味覚がある。というかなければ料理スキルは習得出来ない。まぁ、自分のご飯は調理せずそのまま食べる事が多いが。味(より)手間なようだ。俺の食事の時はちゃんとしたものを作ってくれるのだが。

 ん。スーちゃんからオーケーが出た。

 俺もキャベツをちぎって、念の為に竹筒の水筒をとりだし、葉を洗う。
 そして、噛み々々。
 うーん。微妙?
 まずくはない。まずくはないが大味? まぁ、とりあえず食えるんだ。贅沢を言うべきではないだろう。サイズの関係で一回の往復で量を確保出来るし。
 ふと、周りを見れば、みんなも色々な作物を口にしている。

 そして、お互いを見て頷きあう。食えるという事で意見が一致。


「さて、問題は収穫か」

 カイサルさんが呟くがそこは問題じゃないんだよね。

「大丈夫ですよ」
「いくらスーちゃんでも、これ全部はきついだろ? 大根やイモとかは掘らないといけないだろうし」
「何言ってるんですか、カイサルさん」
「あん?」
「頭数なら俺の得意技ですよ」


 【召喚魔法:代理召喚】


 俺の召喚に応じて、姿を現すスケルトンアーミー達。
 本来はケンザンが指揮するはずだった面々だ。

 こいつら暇を嫌うから、雑用でも進んでやるんだよな。オフ日とかゴブリン村で手伝いとかしてるから、農業系スキル持ってる奴までいるし。

「さぁ、皆の衆。収穫開始!」

 なんか、自衛隊式の敬礼をしてからスケルトンアーミーが散っていった。

i219707
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