挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
スーちゃんは俺の嫁 作者:赤砂多菜

一章 無限の供給炉

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

11/77

11.はじめてのダンジョン

11.はじめてのダンジョン





 俺がこの世界に来て一週間がたった。
 そして、俺が冒険者になってこなした依頼はただ一つだけだ。しかも、収支で言えば大赤字。
 いや、別に働いたら負けとか思ってないからな。ほんとだぞ。

 なぜ、冒険者として働こうとしないのか。
 ハウスさんの教育の為だ。
 実はハウスさん。見た目は普通の人間に見えるのだが、常識的なものが相当に欠けていた。それはもう、異世界から来た俺以上に。

 でもまぁ、考えてみればそれも当然。元々ハウスさんはイエスマン思考(しゃちくせいしん)で、命令がなければ延々と待ち状態な人(?)だった。
 どうやら、俺と契約を結んだ事で、多少変化があったのか、自発的に行動するようにはなったのだが。ハウスさんの本体である家屋と、俺の借りている宿の部屋をつなぐドアを作ってしまった。
 もちろん、ハウスさんに悪気はない。ないのだが、俺以外の人。例えば宿の人があるはずのないドアを見てしまった場合、どうなるのか考えていなかったのだ。
 幸いというか、ハウスさんには【強化:隠蔽】というスキルあり、俺以外にはドアが見えないようにする事が出来たので、問題なかったのだが。
 ただ、似たような事をまたされても困るので、数日間ハウスさんを教育する事になった。

 スーちゃんが。


 いや、だって。俺にしてもこの世界の常識知らないし。
 スーちゃんは図書館で、知識を吸収しまくった結果。かなり常識人(?)になっていた。それはもう、お金が少なくなっちゃったので、アルマリアの森で乱獲しようと言ったら。森の生態系に影響が出るかも知れないから控えたほうがいい。って窘められたし。スライムに窘められる俺っていったい。でも、いいんだ。スーちゃんだし。
 今もハウスさんの本体である、ハウスさん家でマンツーマンで、常識を教えている。
 ちなみにハウスさん家は俺が名付けた。何度でも言うが本人(?)以外の苦情は受け付けない。

 で、俺はその間何をしているかというと、図書館にて勉強である。――スーちゃんと一緒に。
 うん、一緒に居たんだ。
 え? ハウスさん家に居たんじゃないのかって? ちゃんと居たよ。
 どっちにも居たんだ。むろん、アルマリアの森でグリーンスライム捕まえて、影武者にしていた訳でもない。
 これはスーちゃんのスキルによるものだ。【種族:分離】というのだが、自分の体を分割出来るらしい。どちらが本体になるのか聞いてみたが、本体とか分身とかそういう区別はないらしい。どちらもまごうことなく、スーちゃん自身との事。どちらの知識や経験もリアルタイムでフィードバックされるらしい。
 パーマンのコピーロボットより便利である。

 じゃぁ、ハウスさんの教育をしながらダンジョン行けばいいじゃんとか思うだろうが、ある程度距離が離れてしまうと、スキルが無効となってしまって、片方が消滅するらしい。ハウスさんの方が消滅するならまだしも、ダンジョンに入っている時にスーちゃんが消滅したら、俺もこの世界から消滅する事間違いなし。



 まぁ、そういった事情があった訳だが、その間にお金が増えるはずもないので、俺の懐事情はちっとも改善するはずもなし。
 ただ、言っておくが冒険者ギルドに登録したてのFランクなんかよりは、よっぽど裕福だぞ。あくまで、最初に手にした大金と比較しての話だ。他人と比較しても空しいだけだが。

 基本的にハウスさんは物覚えがいいので、教育は数日で終了。なにせ、俺よりも知力が高いしな。
 とりあえず、ダンジョンの事をカイサルさんに相談してみる。敷居が低くてお金になるようなもの。虫のよい事を言ってる自覚はある。

「まぁ、手っ取り早いのは食材系の依頼だな。常に消費されるから常時依頼がある。食材を集めてから、依頼の受注と報告を同時にする奴もいるぐらいだしな」
「ありなんですか? それ」
「まぁ、問題ない。ただ供給過剰で一時依頼が取り下げられたら、泣くことになるがな」
「悲惨ですね」
「そうだな。自分で食うのにも限度があったしな」

 カイサルさんが遠い目をする。どうやら、経験談らしい。

「お勧めはありますか?」
「そうだなぁ」

 カイサルさんはおとがいをさすりながら思案する。

「食材系だと、ついでに自分達の分も確保する場合が多いから、好みで決める場合が多いんだな。肉と野菜、上等な肉、肉大量、魚。どれが好みだ」

 肉多いな。そういえば、最近の食事は肉料理ばかりだっけ。

「魚で」
「OK。じゃぁ、〈海岸〉で決まりだな」

 アルマリスタの周囲には海はない。カイサルさんの言う〈海岸〉とはダンジョンの名前である。スーちゃん情報によると、本当にダンジョンの中に海があるらしい。

「じゃぁ、とりあえず〈海岸〉の依頼を受けるか」
「はい」

 こうして、俺にとっての初めてのダンジョンが始まった。


□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□


 という訳で、依頼を受注してダンジョンの入口前に来た。
 パーティメンバーは俺、スーちゃん、カイサルさん、ハリッサさん、ニコライさんの4人+一匹。
 俺以外はクラン《自由なる剣の宴》のメンバーである。

 職業は。
 俺が召喚師(しょうかんし)
 カイサルさんが魔装戦士(まそうせんし)
 ハリッサさんがスカウト。
 ニコライさんが治癒魔術師(ちゆまじゅつし)



「さっかなー。さっかなー。うー、にゃー。うー、にゃー」

 ハリッサさんが謎の儀式をしてるが放っておこう、害はない。他のメンバーも、周囲の人も誰も気にしていない。たまに気の毒そうな視線が混じるだけである。

「マサヨシ。帰還石は用意してるだろうな」
「ちゃんと、ギルドで買っておきましたよ」

 俺は証拠として、収納ポーチから赤黒く明滅する石を取り出して、カイサルさんに見せる。
 帰還石とは、ダンジョンでの緊急脱出手段である。緊急脱出といっても準備に数分かかる為、戦闘中には使えないが、ダンジョンの入口まで戻れるシロモノである。
 なぜ、アルマリアの森で魔物狩りをする人がいないのか。その理由がこれの存在である。これはダンジョン内でしか使えないのだ。
 確かにこれがあると非常時も安心だが、欠点もある。なんと、ダンジョンで手に入れた素材やアイテム類が全て失われるそうである。いったい、どういう仕組みなのか。非常に気になる。今度、スーちゃんに図書館で調べてもらおう。
 という訳で帰還石は本当に非常時しか使えない。とは言え、備えあれば憂いなし。危機に備えるのは冒険者の基本である。まぁ、スーちゃんがいるから、そんな事態にはならないとは思うが。
 とは言うものの、ここでスーちゃんの全力を見せるのは問題があると思うので適当に手を抜いてもらうようにお願いしている。
 そもそも、これから行くのはDランクの依頼難度で行く程度の場所。カイサルさんはBランク、他の二人はCランク。俺が何もしなくても楽勝なのだ。とは言っても、俺の為に一緒に来てくれたのだ。俺が何もしない訳にはいかない。……まぁ、何かするのはスーちゃんなんだけどね。

 さて、俺の目の前に6本の柱が立った円形の台座がある。そこがダンジョンの入口なのだ。もっとも入口というのは冒険者の認識で、本来は濃すぎる魔力溜りを隔離する為の結界なのだそうだ。
 意味が分からなくても心配はいらない。俺も分からない。
 まぁ、ダンジョンとは不思議空間にあり、この入口からワープで入る事が出来ると思っておけば問題ない。

「そんじゃ、行くぞ。お前ら」
「はい」
「はーい」
「了解、団長」

 台座へと続く階段を上り、台座の中央へ。すると6つの柱が輝きだし、それぞれがとなりの柱へと輝きを伸ばし光の壁となる。外側がまったく見えない。そして、フラッシュ。
 光が消えるとそこはアルマリスタではなく、海岸線が見える台地に俺達は立っていた。ダンジョンという割には青空が見えて太陽もある。


≪実績:はじめてのダンジョン を達成しました≫
≪アンロック:スキル【召喚魔法:五感共有】を習得しました≫


 うぇーい!?
 このタイミングでスキル追加はカンベンして!

「どうかしたか? マサヨシ」

 俺の様子に気付いたのか、カイサルさんが声をかけてくる。

「い、いえ。ちょっと、初めての経験だったのでびっくりして」
「分かる分かる。俺も団長に初めて連れてこられた時もそうだったなぁ」

 俺の適当な言い訳に、ニコライさんが同調してくれる。

「お前の時はもっと楽な所だったけどな」
「普通でしょ。マサヨシが特別なんですよ」
「まぁ、そうなんだけどな」

 カイサルさんが肩を竦め、台地を下る道を歩き出し、俺達はそれに続く。
 その間にヘルプさんに新しいスキルの事を教えて貰う。


『【召喚魔法:五感共有】
契約した存在の五感を共有出来る。
五感全てではなく、任意の五感だけを選択する事も可能。
また共有する感度や範囲も制御可能』


 つまり、スーちゃんが見たもの、聞いたものを俺も感じる事が出来るって事か。
 五感を任意にセレクトできるのもありがたい。他はともかく、味覚はちょっとな。
 便利そうなので、視覚と聴覚をオン。
 とたんにこけた。

「……何やってんだ。マサヨシ」
「いや、足が滑って」

 カイサルさんは呆れてため息をつく。

「しっかりしろよ。ダンジョンは初めてとは言え、お前はすでにDランクなんだぞ」
「すみません」

 俺は立ち上がって謝る。
 そして、【召喚魔法:五感共有】を調整する。
 スキル説明の最後の一行を甘く見てた。スーちゃんには目や耳はない。あえて言うなら全体が全て目や耳なのだ。それがいきなり俺の感覚と混ざったもんだから、平衡感覚がなくなって転んだ。
 360度の視覚や聴覚は、使いこなせれば便利なのかもしれないが、俺にはちょっときびしい。ので、スーちゃんが見ているもの、聞こえているものの中でも、焦点にあたる部分のみ俺に伝わるようにした。
 うん、これならなんとかなる。ただ、スーちゃんはぽよんぽよんと跳ねながら移動するので、酔いそうで怖いが。

 台地を下って、道がなだらかになった頃、ハリッサさんが軽く手を上げる。止まれの合図だ。

「いるっす」
「何か分かるか」
「たぶん。犬っぽい」

 魔物の種類だろう。スーちゃんの【強化:気配察知】にも引っかかってる。しかし、種類まで分かるのか。たぶん【特殊:第六感】って奴だと思うけど、確かに凄いな。さらにハリッサさんの言葉は続く。

「数は10匹程度。一匹はたぶん上位種っぽいっす」
「こっちに気付いてるか?」
「間違いなく気付いているっすね。そこの岩陰の左右それぞれ分かれて潜んでるっす。待ち伏せするつもりですね」
「まぁ、見事にばれた訳だが」

 カイサルさんは俺を見る。

「マサヨシ。いけるか?」

 俺は頷く。まぁ、戦うのはスーちゃんだけど、本人(?)はやる気まんまんだ。

「じゃ、あぶりだすぞ」

 カイサルさんが剣を抜いた。魔力を通すとそれは途端にクロスボウのような形態に変化する。
 カイサルさんの職業、魔装戦士は魔法具の取り扱いに特化している。並みの魔法具も、カイサルさんの手にかかれば、上級の魔法具となる。
 そして、カイサルさんの剣は、彼の二つ名である十装の由来となったもの。様々な武器に変化させる事が出来る、冒険者としては最高クラスの武装なんだそうだ。
 カイサルさんは絃を引き、そこに矢ではなく収納の背負い袋から出した、球状のものをセットする。

「いくぜっ」

 引き金を引くと玉は勢いよく発射され、いくつかある岩の内、ハリッサさんが示した二つの間の地面に激突する。途端にそこから火炎が噴き出し、同時に獣の悲鳴が響き渡る。

「サーベルハウンドか。爪に切られると痛いじゃすまないから気をつけろ」

 岩陰から大型犬クラスの大きさの魔物が飛び出して来る。先程の火炎に巻き込まれたのか、毛並みが一部焼け焦げているのがいる。そして、襲い来る魔物の中でも一匹だけ、一回り大きな個体がいる。
 スーちゃん情報によるとアークサーベルハウンドだそうだ。

 カイサルさんが武器を剣に戻して迎撃しに走り出す。そして、それを追い越す形でハリッサさん。ニコライさんも続く――って、ニコライさん、治癒魔術師でしょ、ヒーラーでしょ? 後衛の人じゃないの!?
 驚きつつも俺も――いや、俺達も戦闘を開始する。


【召喚魔法:召喚】


 召喚はスキル使用者から遠い位置になればなるほど、魔力を消費する。言い換えれば魔力さえあれば、遠くにでも、どこにでも召喚出来る。
 そう、例えばこんな、魔物の真上とかでも。

 最初に接敵したのは、最初に走り出したカイサルさんでも、それを追い越したハリッサさんでもなく、スーちゃんだった。
 必殺、スーちゃんダイブ。
 アルマリアの森で数々の魔物を屠ったそれは、ここでもその威力は健在だった。一瞬で二匹を取り込み無力化してしまう。

「うにゃ!? っす」

 ハリッサさんは驚きながらも、サーベルハウンドの爪を危なげなくかわし、喉をダガーで切り裂く。
 カイサルさんは真っ向から一刀両断。すげぇ……。
 そして、治癒魔術師のはずのニコライさんは、杖を回転させながら二匹相手に牽制しながら、隙あらば突いて、払って、跳ね上げる。
 いや、治癒でしょ。魔術師でしょ。魔術師系は戦士系のスキルとは相性悪いって設定どこいったのよ。

 三人をよけて回り込もうとしたのがいたので、再度スーちゃんをそこに召喚、手早く無力化する。
 さらにハリッサさんが一匹。カイサルさんも一匹倒し、ついでとばかりにニコライさんが足止めしていたサーベルハウンドを切り払う。

 残るは2匹とその親玉。2匹は仲間の惨状に及び腰で、何度もアークサーベルハウンドを振り返るが、奴はそれを許さない。

 ……ふむ。

 アークサーベルハウンドの思惑は分からない。あくまで戦い抜くつもりなのか。……それとも手下を捨て駒にして逃げるつもりなのか。ただ、手下がやられる様子を後ろから見物してるだけなのが気にいらない。
 俺も似たようなものだが、一点だけ譲れないものがある。俺はスーちゃんと運命を共にする覚悟がある。スーちゃんが死ぬ時は俺が死ぬ時だ。スーちゃんに愛想をつかされ、契約を切られた時が俺の最後だ。

 お前はどうなんだ?

 アークサーベルハウンドの上にスーちゃんを召喚した。
 2度も見られているので、かわされた。さすがは上位個体と言ったところだが、甘い。地面に着地したスーちゃんはすかさず補足する。
 ラスボスから逃げられるとでも思ったのか?
 アークサーベルハウンドは逃れようともがく。もしも、スーちゃんがただのグリーンスライムなら逃げる事も出来ただろう。【状態:毒】によって命が尽きる前に振り払えばいいのだから。しかし、スーちゃんには【状態:麻痺】もある。なによりもその高すぎなステータスは鋼鉄の鎖よりも強固な拘束具となる。

 そしてアークサーベルハウンドが落ちた。
 まぁ、スペランカーに『ダークソウル3を初見でクリアしてね』というくらいのムリゲーではあったのだが。いや、実際それぐらいの差はあったのだ。が、哀れとは思わない。待ち伏せしようとしていたのが悪い。

 残った2匹はアークサーベルハウンドがやられる様子を見ているだけだったが、奴が死んだと同時に逃げていった。スーちゃんに追わなくていいよと指示を出して、送還を使って足元に呼び戻した。
 実戦で使うのは初めてだけど、便利だな。これ。いざという時には呼び戻せる。攻防一体というべきなんだろうな。

 こんな風に、俺にとって始めてのダンジョンでの戦闘が終了した。


i219707
面白い作品だと思って下さった方は、ブックマークをして下さると励みになります。
また、下をポチって下さるとありがたいです。もちろん、面白いと思って頂けたらです。
小説家になろう 勝手にランキング
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ