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スーちゃんは俺の嫁 作者:赤砂多菜

一章 無限の供給炉

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10.家を買おう

10.家を買おう





 目的の家屋はすぐに分かった。
 恐らく中の上くらいの裕福度の人が住んでいたと思われる。お屋敷と言うには少し狭い程度。ただし、見た目が荒れている。
 ただ、不思議とおどろおどろしい雰囲気はない。
 昼間だからだろうか。でも、ニーナさんがいたら、途端に佐伯家(じゅおん)になるんだろうな。まじであの人が幽霊の中の人じゃなかろうか。

 とりあえず、敷地に入る。一応、鍵を預かってきてはいるが、そもそも鍵をかけていないとの事。幽霊の事は近所に知られていて、泥棒に入る者もいないとか。
 異世界でも幽霊は恐れられてるようで。生きた人間(ニーナさん)の方がよっぽど怖いと思うが。
 俺にはスーちゃんがついているので、あまり不安はない。スーちゃんが幽霊を倒せるのかは不明だが、スーちゃんに無理なら正直どうしようもないでしょ。

 という訳で、俺は家の中に足を踏み入れた。

「お邪魔します」

 誰もいないのは分かっていたが、つい言ってしまった。たぶん、元の世界でもそうだったんだろう。
 中はそれほど荒れていない。というよりも……。なんだろう? 家具こそないものの、普通の家に思える。外から見た時の印象もそうだが、本当にここに幽霊が出るのか?
 とりあえず、全部の部屋を確認するしかないな。結構大変な事になりそうだ。
 そう思った矢先、スーちゃんから警告が来る。【強化:気配察知】に何かひっかかったらしい。場所は2階。
 俺は総当り計画を中止して、2階に上がる。さて鬼が出るか、蛇がでるか。それとも本当に幽霊か。
 2階に上がると、スーちゃんが先を行く。後を着いていくと、閉められたドアの前で止る。その部屋に何かがいる訳ね。

 一呼吸入れて、俺はドアを開けた。


 確かにいた。
 前髪で隠れて目元が良く見えない。変色したカチューシャ。あちこちにほつれがある長いスカートのメイド服。
 そして、その姿が微かに透けて、後ろの壁が見える。

 俺は動かない。逃げない。なぜなら、スーちゃんが逃げろと言わないから。というか、スーちゃんの様子がおかしい。この感情はなんだ? 困惑?

 目の前の女性は、確かに幽霊だと言われればそうとしか言えない見た目だ。しかし、不思議と害意はないと確信出来る。彼女はいったい……。

 そして、どうやらスーちゃんは正解にたどり着いたようだ。彼女が何者なのか教えてくれた。


 精霊。


 魔物が魔力溜りから生まれた存在ならば、精霊は魔力自体が意思を持ったもの。
 彼女はこの家屋の精霊なのだそうだ。


 ………………。


 あれ? これで調査完了じゃね? 依頼ってこの家の異常の調査だよね? でも、冒険者ギルドが派遣した冒険者は怪我をしたって話だけど。
 彼女に事情が聞ければ話は早いのだが、どうもスーちゃんと同じタイプで意思はあっても喋れないようだ。

 ん? 同じタイプ?

 試してみるか。
 俺は彼女に向かって手を伸ばす。向こうも俺に害意がないのが分かるのか、身じろぎ一つしない。


【契約魔法:召喚契約】


 光が瞬くと共に、彼女の意思が流れてくる。
 彼女が精霊というのは間違いないそうだ。それも精霊でも格の高い上位精霊だそうだ。もっとも、俺には精霊の格というのは良く分からないが。
 この家の住人というのは他の街で引退した元冒険者だった。精霊使いという職業で、彼女は住人によって人為的に生み出されたそうだ。生み出された理由は家の管理。まぁ、家屋の精霊ならそうだろうな。
 その住人が生きている内はよかった。主人が命令してくれるから。彼女には意思はあっても、自発的な行動をする発想がなかったから。
 スーちゃん情報によると、別に全部の精霊がそうである訳ではないらしい。むしろ、人為的につくられたあたり、余計な事を考えないようにしていたのではないかとの事。
 そして、その主人が死んだ。普通に老衰だったらしい。彼女に命令する者はいなくなった。ここでせめて『俺が死んだら自由に生きろ』とでも言っていれば、また結果は違ったのかも知れないが。結局彼女は何もしないまま、ただ在り続けた。

 商人ギルドの調査官が来るまでは。

 特に彼女が何かをした訳ではない。ただ、彼女の外見に勝手に調査官達が驚いて逃げただけだ。まぁ、分からなくもないけど。
 怪我をした冒険者は、はっきり言って自業自得だ。相手の害意を確認せずに攻撃したらしい。彼女の仕事は家の管理。そして、家財を害するもの、すなわち泥棒、強盗の類の対処も仕事の範疇だ。
 戦闘能力的には大した事は出来ないらしいが、ポルターガイストちっくな事で返り討ちにしたらしい。

 とりあえず、事情は分かった。問題はどうするか、だけど。
 このまま商人ギルドにありのまま報告するとする。元々、幽霊騒ぎで土地家屋が接収出来なかったのが問題だったので、彼女が無害だと分かればOKなんだとは思うけど。
 問題はその後、なんだよな。

 確認したいんだけど、この家を壊されたりするとあなたはどうなる?

 消えてしまうそうだ。彼女の本体はあくまでこの家屋であって、今目の前にいる女性はあくまで主人とやりとりする為の姿。単なるインターフェースな訳だ。

 さて、困ったぞ。果たして商人ギルドがこの家をこのまま残してくれるのか? 可能性はなくはないが、普通はケチがついた建物は取り壊したいと思うだろう。家の外観が荒れてるから余計にな。

 あーでもない。こーでもない。そう頭を悩ませてると、スーちゃんからのコンタクトが。

 ん? スキル?

 どうも、あるスキルを使えと言っているらしい。しかし、俺にはそれで何かが変わるとも思えない。
 が、スーちゃんの意見だ。もちろん、俺は従う。俺とスーちゃん、どちらかの意見を選べと言われれば、スーちゃんの意見を選ぶ。
 という訳で発動。


【召喚魔法:強化】


 俺は思った。――変わりすぎじゃね?

 今、俺の前にいる女性は先程までのぼろいメイド服ではなく、清潔感漂うドレス風なメイド服になっている。前髪もすっきりし、清楚さを思わせる表情が見てとれる。存在感が増して、透けて見えたはずの背後の壁も見えない。
 彼女だけではない、まるで輝いてると錯覚を覚えるほど、家が生き々々している。


 アリガトウゴザイマス、ゴシュジンサマ。


 彼女はスカートをつまんで、軽く膝をまげて挨拶してくる。
 ゴシュジンサマ? ご主人様って俺!?

 ……あ、召還契約したんだっけ。そんなつもりでやった訳じゃなかったんだが。
 しかし、そうなると間違ってもこの家屋を取り壊しなんてさせる訳にはいかなくなった。
 むしろ、それで腹がくくれた。当たって砕けろだ。

 商人ギルドへ向かうべく部屋から出ようとして気付いた。

「名前はあるのかな?」

 彼女は小首をかしげる。うん、この様子だとないな。
 よし、命名。家屋の精霊だから、ハウスさんだ。むろん、本人(?)以外の異論は認めない。
 彼女は笑顔で頭を足れた。

 そして、俺は家を出てびっくりした。
 荒れていたはずの家の外観が、新築みたいになってた。

 うぇーい!
 どんだけ強化したんよ。
 ハウスさんでこんだけなら、ラスボスステータスのスーちゃん強化したらどうなっちゃうの? 怖いよ、まぢで。
 なんか、近所の人も指差してるよ。そりゃ、びっくりするよ。

 俺は逃げるようにして、その場を去った。



 そして、商人ギルドにやってきた。
 商人ギルド……なんだよな? 特売やってるスーパーじゃなくて。
 とりあえず、建物前で魚を売ってる声の大きなおばさんに聞いてみる。

「すいません。ここって商人ギルドですか?」
「当たり前だろう。見て分からないかいっ」

 すいません。分かりませんでした。むしろ、どうすれば分かるようになりますか?

「俺は冒険者で、商人ギルドの依頼の達成報告にきたのですが」
「ああ、そういった話なら、奥で聞いとくれ。こっちは忙しいんだ」
「分かりました。すいません」

 恐縮して、俺はその場を離れ、建物の中に入る。
 中でも色々なモノが売っていた。イオン系列が異世界にまで侵略してきたのかと思うほどだ。
 ただ、一番奥はさすがに事務的な雰囲気の人達がたむろしていた。
 いや、真面目にこの雰囲気が最後まで続いたらどうしてくれようかと、本気で心配だったんだ。

「君、何か用かな?」

 黄色と黒の栄養ドリンクが似合いそうな雰囲気を漂わせた男性に声をかけられた。まぁ、あの歌詞は、今じゃ内容的にちょっと危険だが。
 とりあえず、依頼の件を伝えるとどうやらちょうど担当の人だったらしく、商談ブースに案内された。

「では、話を聞こうか」

 落ち着いた雰囲気の担当さんに、幽霊の正体が精霊であった事。そして、なんの害意もない事を伝える。
 それを聞いた担当さんは、ほぅっとため息をついた。

「一時はどうなるかと思ったが。ようやくあの土地をどうにかできる」
「あの」
「ん? なにかな?」
「あの家って、今後どうなります?」

 俺が聞くと、担当さんは少し考えて答えた。

「とりあえず、一度更地になるだろうね。なにせ、近隣の住民からも気味が悪いと苦情が来ていてね。幽霊騒ぎのあった家を買うような人もいないだろうし」

 ……やっぱりか。
 まぁ、この展開は予想していた。
 ので、予定通りの行動を実行した。

「あの」
「まだ何かあるのかな? 依頼が達成されたのは了解したが」
「あの家を売ってもらえますか?」
「は?」

 担当さんの目が点になった。


□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□


「ふぅ、セーフセーフ」
「あら、マサヨシ君。どうしたの?」

 依頼受付のカウンターでシルヴィアさんが首を傾げる。
 ギルドの事務手続きは16時まで。まだ10分前だ。

「依頼が完了しましたので報告に来ました」
「え? あの依頼終わったの? それももう!?」

 目を丸くするシルヴィアさんに事の次第を説明する。

「精霊ねぇ。見抜けなかったのは、まぁ経験の無さから仕方がないとしても。敵意の有無を見抜けないのは……困った子達ねぇ」

 シルヴィアさんは、頭痛を堪えるような表情で、依頼に失敗した冒険者の事を嘆いている。
 しかし、俺の用事は報告だけではない。

「すいません。昨日の素材の査定ってどうなってるか分かりますか?」
「えーと。私の担当じゃないから正確には分からないけど、さっき小耳に挟んだ限りではほとんど終わってるみたいよ。普通は毛皮なんて多少はキズがあるものなのに、君のはまったくないから、概算より3割増しくらいになりそうだって言ってたけど」
「そのお金、半分くらい使えるように出来ませんか?」
「無理ではないけど。どうしたの? 昨日の現金だけでしばらくお金には困らないはずよ?」
「あ、それ。全部使っちゃいました」
「は、はい?」

 シルヴィアさんが唖然とした表情になる。

「どういう事? そうそう使いきれる額じゃなかったでしょ?」
「家を買ったんですよ。土地ごと」
「家って、いったい――」

 そこでシルヴィアさんも気付いたのだろう。

「まさか、この依頼書の?」
「はい。手持ちのお金だけじゃ足りなかったので、それを手付金にしてもらいました」

 彼女は呆れたように嘆息する。

「こんな新人(ルーキー)初めて。大量の高級素材を持ち込んで、いきなりDランク。そして、翌日には家を買い……」

 ……なんか、色々とすみません。

「分かったわ。そう言う事なら、素材部門と掛け合ってみるわ。でも家と土地でしょ? 半分で足りるの?」
「向こうも対処に困っていた土地と家だったので安くして貰いました。まぁ、多少脅すような真似もしちゃいましたけど。精霊を怒らせると怖いって」
「若いのに悪党ねー」
「いいじゃないですか。それでみんな幸せになれるんなら」
「いい性格してるじゃない。若い頃のカイサルに似てるわ」
「え? まじですかっ!?」

 とすると、俺が歳をとるとああなると。カイサルさんは嫌いじゃないけど、何か嫌だなー。


□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□


 夕食を終えて部屋に戻ってきて、今日一日を振り返る。
 いやー、無事に済んで良かった。
 正直、家購入の交渉はかなり危うかった。仮にも相手は商人ギルドの人間。交渉事に関しては、冒険者よりも上のはず。ましては俺みたいな若造で冒険者のなりたてなんて、鼻であしらう事も出来たと思う。
 だけど、最後には笑ってOKしてくれた。ついでに名刺までもらいました。この世界にも名刺ってあるのね。
 あれはたぶん、俺の事を認めた上で譲ってくれたんだと思う。もちろん、これはあの人に貸しが出来たって事で、いつか返せよって感じ。手のひらの上って感じはしゃくだけど、これが大人の対応って奴なんだろうな。いつかみてろ。ドカンとでかいの返してやるからな。
 さて、余裕があったはずのお金も心もとなくなりつつあるし、本気でダンジョン行く事を考えなきゃな。あるいはアルマリアの森でまた狩るか。
 まぁ、どっちにしてもスーちゃん頼みの部分があるのでスーちゃんと相談で……。

 どうしたの、スーちゃん。

 スーちゃんの様子が変だ。壁――というか扉を見て(?)いる。
 ……いや、まて。あそこに扉なんかあったか?
 ちょ、それ以前に。この部屋って建物の端。そして、扉のある壁は端側だ。
 何がどうなってるの?
 恐る々々、扉のノブを手にする。そして、ゆっくりと開く。

 メイドさんがいた。
 ……ハウスさん。何してるの。

 扉の向こうは建物の外のはずなのに、そこは見た事のある部屋だった。そう、俺とハウスさんが出会ったあの部屋。ここって、あの家の中?

 ……は? 空間をつないだ? こうすれば家の外でもそばにいられる?
 いやいやいや、どうやったらそんな事できるの? は? スキル?

 さらっととんでもない事をのたまうハウスさん。
 どんなスキルがあれば、そんな事ができんの?

 嫌な予感がして、ハウスさんのステータスを見てみる。


【無:ステータス解析】

 名前:ハウスさん
 種族:上位精霊(家)

 生命力:500/500
 精神力:500/500
 体力:200/200
 魔力:600/600

 筋力:50
 耐久力:60
 知力:50
 器用度:90
 敏捷度:90
 幸運度:50

 スキル
  【種族:同族支配】
  【種族:分霊】
  【建築:増改築】
  【工芸:家具作成】
  【支配:家具操作】
  【強化:家強化】
  【強化:家具強化】
  【強化:隠蔽】
  【特殊:異界ノ裏庭】
  【特殊:空間接続】

 召還契約主:丸井正義



 うぇーい!
 うぇーい!!
 うぇーい!!!!?


 ハウスさんも普通にラスボスステータスだった。
 俺は頭を抱えるしかなかった。

 別に助ける必要なかったんじゃねーの、これって!



i219707
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