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虹の彼方へ

作者:KMIF
「ねぇ、あの虹の向こうには何があるかな?」
 それが彼女――仁菜の口癖だった。彼女は体を悪くして入院するなり、病室の窓から見える虹を見てはそう言った。そして今日も窓の外に見える虹を指さして告げる。
 俺は決まり文句を返す。
「あの向こうには空が広がってるんだよ」
 その答えに彼女は不満げな反応を返した。だが、そうだろう。虹はそこにただ出現しているにすぎない。あの向こうには別に何もおかしなものなどないのだ。
 だというのに、彼女は俺を見つめてこう漏らす。
「つまらない人。ロマンがないのよ」
「知るかよ。ロマンとかじゃないだろ」
 俺の言葉に仁菜は苦笑を返した。その後で、再び窓の外に広がっている虹に目をやる。
「あの向こうに行ってみたいなぁ……」
「そうか。なら、連れて行ってやるよ。お前の病気が治ったらな」
「本当? 本当に言ってるの?」
「当たり前だろ。俺は約束を守る。そういう男だ」
「……知ってる」
 彼女は深いため息をついた後で病室のベッドに横たわった。
「じゃあ、早く治さなきゃね」
「おう、そうしろ。そしたら連れて行ってやるよ。あの虹の向こうとやらだけじゃなくて、どこへでも。どこまででもだ」
「ありがとう。すごく嬉しい」
 彼女はふっと微笑んでみせる。だが、そこにいつもの覇気はない。
 仁菜も気付いてはいるのだろう。自分の命が残り少ないということに。回復する見込みは万に一つもないということに。
 俺は涙を浮かべているのがばれないようにサッと身を翻し、彼女に背を向けたまま口を開く。
「そろそろ帰るよ。お前も、早く元気になれよ」
「うん、ありがとう。またね」
 俺は足早に病室を後にした。すると、ちょうど診察に入ろうとしていたドクターとばったり出会う。彼はこちらに会釈を返し、すれ違いざま呟いた。
「……覚悟はしておいてください」
 その言葉が何を意味するかは俺もすぐにわかった。おそらく彼女はもうごくわずかな時間しか生きられないのだろう。つまりは、別れを告げる準備をしておけということだ。
 俺は小さく頷きすぐさま駆けていく。その場にいるだけで、涙が溢れてきそうだった。

 ――それから一週間もしないうちに、彼女は亡くなった。多くの人々が涙を流しているのが見て取れる。だが、ほとんどは彼女が病気だったことすら知らないものばかりだ。何だか自分の中で冷めていくものを感じる。
 仁菜が病気だったと知らないのに、彼女の死を悔やんでいるのだ。それだけ関心もなかっただろうに。馬鹿らしい。
 ……いや、違うな。おそらくこの考えは俺のエゴだ。彼女と一番親しかった俺以外が彼女の死を悼んでいるのが気に食わないだけなのだ。
 俺は視線を下に向けたまま葬儀場を後にする。あの場にいることすらもはや耐えられない。
 俺は近くにあるコンビニに駆け込み、そこで煙草を買って気分でも晴らそうと思ったその時だった。葬儀場の外に広がっている綺麗な虹が見えたのは。
 色の境目まできっちり見える。彼女が、一番好きだと言っていた虹だ。
 俺はそれを見ながらふっと口元を綻ばせる。
「なぁ、仁菜。どうだ? その向こうには何かあったか?」
 答えはない。けれど、確証はある。
 今頃きっと仁菜は虹の向こう側にいるのだろう。
 俺は少しだけ晴れやかな気分になりながら再び葬儀場の中へ戻っていった。

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