「だるいなぁ…」
自室のベッドに寝っ転がったまま、ギリギリと痛む頭で思った。
風邪、引いてまったな…。
昨日の練習中から、ちょっと体調が変やった。
真夏にあの防具付けてやる、サウナ以上の環境には慣れとるつもりやったけど、昨日はついに、気持ち悪くなってもうた。
もやが掛かったみたいな頭で、横の勉強机を見る。
机の上には、レザー張りの少し分厚い本が一冊。
もう一度、視線を天井に戻した。
「ったく、和葉も…」
半分ふらふらする頭抱えて、なんとか部活乗り切った昨日の帰り。
「なんなん、今日の練習は?平次、ボロボロやったやん!」
こっちの気分も知らんとやかましゅー話しかけてきよった和葉。
いつもは適当に流しとるんやけど、そん時はこっちも気分悪くて、ついカチンときてまったんや。
「別に和葉には関係あらへんやろが」
「アタシかて心配してゆうとるのに、そんな風に言わんでもええやん!」
そこまではいわゆる、「日常会話」ちゅーやつやったんやけど、頭痛いとどこまで言っていいかの区別が曖昧になるよって…。
言い過ぎてまったんや、正直。
あ、こらあかんな、思うたときには、もう遅かりし由良之助。
「もう平次なんか知らへん!勝手にしとき!」
ほんで和葉とは喧嘩別れ。おまけに本格的に風邪になりよった。
もう最悪や…。
「え?平次、風邪引いたん?」
アタシは思わず、平次のおばちゃんに聞き返した。
せやから、昨日練習調子悪かったんや。
それなのに、アタシ早とちりしてもうて…。
せやけど、面と向かって謝るんもなぁ…なんか気ぃ進まへんし…。
なんぼ頭痛かったからって、平次もあんなキツイこと言わへんでもええやん、な?
ほんのちょこっとだけアタシ自身も正当化して、気が少し楽になったんよ。
なんぼ幼馴染ゆうたって、喧嘩した次の日。これでやっと平次の顔が真っ直ぐ見れるわ、
そう思って、アタシは平次の家へ行った。
「平次〜、大丈夫なん?」
声掛けてみたけど、平次は壁のほう向いたまま、蒲団かぶった背中をアタシに向けとる。
ひょっとしてまだ怒っとるんかな、
ちょっと思ったけど、よく見たら、規則正しく動く背中、微かに聞こえる寝息。
平次、寝ちゃっとるんやわ。
病人の邪魔しちゃさすがにアカンとアタシも思うて、そっと帰ろうとしたんやけど、
ふっと目に入ってきてしまったんよね…、平次の向かっとる姿を一度も見たことが無い勉強机、
その机の上に一冊だけおかれた本が。
「なんやろう、これ…」
分厚い革張りの本。平次に全然似合わへんそれが妙に気になって、恐る恐る開いてみた。
『8月6日』
その出だしで日記や、ってわかったんやけど、人の日記、覗いたらアカン、って思うたんやけど…。
ちらっと平次のほう見たら、まだ壁のほう向いて寝むっとったもんやから…、つい。
8月6日
和葉としょーもないことでまた喧嘩してもうた。
和葉がオレのこと心配してくれとるんはわかっとったんやけど、気分悪かったせいか、ちょっと言い過ぎてまって…。
あ〜、まだ頭ズキズキするわ。風邪引いたんかな。
どっちにしろ、悪かったんはオレや。明日にでも、和葉に謝らなアカンなぁ。
…和葉、スマン。
…平次…。
アタシかて、自分が悪い思うて、謝ろう思うて今日来たんよ。
平次は寝とったままで気づかへんかったけど。
アタシら、お互いに意地張り合ってただけなんやね。
平次…ゴメンな。
閉じよう思って、アタシはもう一度日記に目を落とした。
「なんやろ…?」
一番下に赤で矢印が引いてあって、次のページに向かっとった。
もう一枚ページをめくる。
見舞いにくるんはありがたいけど、
人の日記勝手に見るんはマズイな、和葉
「なんやの、コレ…!」
平次…まさかアタシに見せるためにわざと机の上に出しっぱなしにしとったん?
「なんや和葉、来とったんか」
慌てて振り返ると、ベッドから上半身起こした平次。
「ん?和葉、その手に持っとるもんはなんや?」
意地悪く、そや、ホンマに意地悪く、平次が笑った。
「平次のアホっ!!」
「病人の前でそんな大きな声出すなや」
「なにが病人やのっ!こんな罠みたいなことしよって!」
「和葉が勝手に人の日記見るんがアカンのやろが!」
結局、二日連続で平次と喧嘩。
今度は悪いのは、どっちなんやろ?
〜FIN〜
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