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喰らう話
作:来々






―――海の上に、それはポツンと浮いていた。他に見えるものは無かった。それは客船等に付いている、緊急用のゴムボートだった。
ボートには、沢山の人が乗っていた。
男、女、子供、老人。
ボートにいる人々は、とある客船にたまたま乗っていただけの、本来関わりを持つハズの無い人々だった。
しかし、彼らの乗っていた客船は太平洋の真ん中で転覆した。当然、人々は緊急用のゴムボートに向かう。彼らも例外では無かった。そして、無事に脱出できたのだ。
しかし、救助船は彼らの乗るゴムボートに気が付かなかった。次々と他のボートが救出されるのを見ながら、このボートだけが少しずつ離れていった。
彼らは声をからすほど叫び続けたが、それでも救助船は気が付かない。そして彼らの乗るゴムボート以外の全てを救出し帰って行った。

戸惑う人々。少しずつ外海へと向かって行くボートの上で、それぞれが
「自分が漂流した」
と言う紛れもない事実をなげく。


これが、ボートが太平洋の真ん中に浮いている理由。これから彼らは、助けを待って海をさ迷う事となる。






漂流一日目
ボート上にいる人々に流れている空気は、日常では有り得ない程に沈んでいた。普段は煩いハズの子供達でさえ、今自分達が置かれている状況を理解し、その上で落胆していた。夜があけてから数時間。人々は沈黙していたのだが、やがて腹が減った事に気が付いた。その空腹こそが彼らが生きている証拠だと言うのに、この状況では煩わしい以外の何物でも無かった。そしてついに我慢の限界を迎えた子供達が、自分の持っている小さなバッグからお菓子を取り出し始めた。それを見た大人達は、
「それをよこせ!!」
と怒鳴り始める。この空腹でどうしようもないこの状況で、一人冷静な男がいた。

やがて男は、一度全員を黙らせ、そしてこう話した。
「皆さん!少し聞いて下さい!そのお菓子はその子供達のものです。しかしながら、この老人もいるような状況下で、子供だけに食料を与えるのもどうかと思います。ですからここはもし皆さんがよろしければ、子供達のお菓子を全員で均等に分け、それを今日の食料としてはどうでしょうか?」
こう話した男は、まだ三十歳前に見える若者だった。
初めはこの若者の意見に反対をするものもいたが、やがてそれが最良だと気づき、全員で食料を分けて食べた。その後は若者の
「腹がまた空きはじめる前に今日は寝よう。」
と言う指示により、全員が睡眠をたっぷりとった。
こうして一人の若者のお陰でボートの一日目は、奇跡的に死者がでずに終わる事が出来たのだった。



漂流二日目
さすがにもう限界だった。昨日食べたお菓子はたいして腹を満たしてはくれなかった。しかしボートにはもう食料など有るハズも無い。
……やがてまた複数の男が騒ぎ出した。

「おい!兄ちゃん!!昨日みたいにオレ達を助けてくれよ!!もう腹が減って死にそうなんだ!!」

こう言われて、昨日このボートの指導者とも言える立場に立った青年は言った。

「……ひとつ考えが有るには有るのですが……、私が考えた方法では、全員を助ける事は出来ません」

すると先程まで騒いでいた男はこう言った。

「全員助かろうが助かるまいがそんな事はどうでも良い!!その考えってのは、空腹をどうにか出来るモンなのか?って事だけだ!!」

「間違いなく私の考えが一番生きられる可能性が高い事は保証します」

「じゃあそれに乗った!!話して見ろ!!他の奴らも良いな!!」

しばらくボートをつつむ沈黙。しかし男はそれを肯定と取ったらしく

「よし!皆良いようだな!!じゃあ話せ!!」

と言った。
青年は軽く頷き口を開いた。


「……じゃんけんをしましょう」

――?
疑問しか浮かばない人々を無視して、青年は続ける。

「一日一回じゃんけんをするんです。それで最後まで負けた人を………食べましょう。そうすれば、このボートに乗っている人の数だけ、誰かが生き残る事が出来ます」

人々にざわめきが起こる。しかしそんな中、男はこう言った。

「はッ……ハハッ……面白いじゃねーか!!良いだろう、上等だ!!俺は生き残ってやる!!助けが来るまで生きてやるからな!!」

人々は再び静まりかえる。

「じゃあ、さっそく今日の分のじゃんけんをしようじゃないか!!」
男に言われて嫌々手を上げる人々。中には震えている者もいた。
手を上げていないのは一人だけ。指導者の青年だけだった。

皆に見つめられ、青年はこう言った。

「……良いですか皆さん。このじゃんけんは全員、誰が食われても恨みは無しですからね?」

そして手を上げた。






―――――――――――



「……う、嘘だ!!有り得ない!!嫌だ、嫌だ!!」

騒いでいるのは一人、あの煩い男だけだ。

「静かにして下さい。今日は……貴方のようです」

そう、じゃんけんで負けたのは彼だった。

「嫌だ!!俺は生きるんだ!!死にたく無い!!」

「静かにと言ったでしょう。では誰か……ナイフ等を持っている方、貸して下さい」

「い、嫌だ!!止めろ!!止めろ〜!!」

「貴方のお陰で、私達は今日を生きる事が出来ます。有難う。さようなら」

「ぁ……ィや……やめッ……うわぁぁぁぁッッッッ!!?」






―――
「皆さん………食べましたか?では、彼の服や私物を海に捨てて下さい」

与えられた指示通りに動く人々。

「皆さん、彼はもともとこのボートには乗っていませんでした。あの服はきっと事故で溺れ死んだ人のでしょう」

コクリと頷く人々。

「では今日はもう寝ましょう」






漂流三日目
朝。奇跡的に近くを通った船に助けられ、ボートの上で二日間を過ごした人々はもう一度地面に足をつける事が出来た。





人々は助かったのだ





………一人を除いて


皆様お元気でしょうか、来々です。今気付いたのですが私はどうやら短編しか書けないようです。こんな私ですが頑張ります。次回もご期待下さい。













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