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ご無沙汰してごめんなさい、暑中お見舞い兼ねてます。
未来篇・挿入話~ジージと孫姫
 未来篇・挿入話~ジージと孫姫

 
 これは遙か遠いとまではいかないが、それでも未来のお話。
 今日も平和なシレジア王国の王都ホルムガルド、そして国王が鎮座する翡翠宮殿ニフリート・ドヴァリエーツ。
この春、王家の一員に可愛い天使が一人加わって、三ヶ月ほど経ったある夏の日の某日を……。


 ≪現在時刻 PM2:45≫
 

 シレジア国王ユーリー二世は、この時公務の一つ様々な書類決裁中だった。
宮宰チェブーニンから提示された諸々の案件を提示、それを自身の傍らに呼んだ王太子セネリオに補佐をさせてせっせと玉璽ぎょくじを押したり、サインをしたりとお片付けしていたユーリー二世。
 だがそろそろ彼、シレジア国王にある病の症状が表れようとしていた……。

 プルプルプルプル。

 書類にサインする腕が震え。
 終いには身体全体が小刻みに震え始めた。

 その国王の様子に気づいた王太子と宮宰は思う。

―――ああ、また(・・)でございますか陛下。

―――やれやれまた(・・)始まったか、しかし段々と間を置く時間か短くなってきたな、この伯父上の“禁断症状”は……。

そうして二人は互いに次はこうなるなと思った「そろそろ叫ぶな」と。
そしてこの二人の予測はまもなく的中し、国王が抱えてしまった病の主症状である欲求、この悶々とした激しい症状がユーリー二世の忍耐の度を超えていく。
 やがてとうとう彼に限界が訪れると、ユーリー二世は国王としての威厳を吹き飛ばして叫んだ。

「アンジュ~!!」

 職務机を叩いて国王が叫ぶのは、可愛い自身の初孫の愛称だった。
そうこの時シレジア国王ユーリー二世、彼が罹患りかんする病名は『初孫中毒』。
 治療法、薬まったく効果なし。
対処療法で孫を抱っこさせると落ち着く。
但し、抱き過ぎ注意……というどうしようもないものだった。

 よってこの国王ユーリー二世は、ただ今「孫姫抱っこ」がしたくて禁断症状を起こしていたのである。
 直ぐにシレジア最大の忠臣が国王の乱心―――イコール初孫中毒を鎮めに掛かった。
「まだいけません、陛下。公務が残っております。目を通して頂きたいモノがまだこんなにてんこ盛りです」
 厚さ十五センチは有ろうかという紙束を抱えて訴えるチェブーニン宮宰、彼が持つその紙全てが国王裁可が必要な国事案件。
しかし忍耐が切れている国王は、その国事行為一切にサジを投げた。
「そんなの後じゃ、今日はまだ一度もアンジュを抱っこしていないんじゃ!!」
 それが彼の言い分だった……。

―――これで良いのかシレジア王国……。

 宮廷ナンバーワン家臣と未来の国王は、そう自問自答したのは云うまでもない。
 一方でユーリー二世の悶々は高まるばかりだった。

 今朝、朝一に可愛い孫に会いに行ったらまだねんねしていた。
「抱っこして起こしちゃ駄目」と云われて、その愛くるしい寝顔だけしか見ていない。
次に今度は昼前に仕事をパパパと済ませて早めに行ったら、ちょっど可愛い孫はおっぱいの時間。
娘のフレデリカが授乳中の為、抱き上げられないどころか面会謝絶を言い渡されたユーリー二世。
当然彼は抗議をしたが……

「ちょっとだけでも会わせんかい!」
「貴方!! 娘の裸身を見る気なの!? 男子禁制、回れ右!!」
 
 シレジア国王が唯一逆らえない愛しの王妃イリーナ。
孫生誕の後、今では筆頭・愛孫養育係となった彼女のそれはそれは厳しい、恐い命令で扉の前ですごすごと帰るしかなかった。

 そして本日、現在に至るまで孫に会えぬまま過ごしたユーリー二世。
孫が抱きたくって仕方がない彼は今、非常に、そうヒジョ~に孫の感触に飢えていた。
何故ならシレジア国王は、念願叶ってようやく生まれた可愛い孫に首っ丈。

 一日一抱っこ、そんな程度では足りない可愛い盛りの赤ん坊の孫。

 とにかく暇さえあれば抱っこしたいおじいちゃま王ユーリー二世。
言うなれば孫激LOVE、堅苦しく云うと好々爺(こうこうや)
だから初孫中毒なのだった。

「ああ、アンジュ~。ジージはお前に会いたいよ~」
 さてそんな悶える初孫中毒全開の伯父王に、セネリオは呆れながら忠言する。
「小休止の茶の時間まで後15分ほどじゃないですか、それまで我慢して下さいよ伯父上」
「嫌じゃ、嫌じゃ!!」
「シレジア国王とも有ろう人が、そんな子供の様に駄々をこねないで下さいよ」
 するとそんなセネリオをユーリ二世は、嫉妬たっぷり恨めしい目をさせてじっと見た。
「うう~、セリー、お前は既に今日アンジュを抱っこしているからそう涼しげにしておられるんじゃ!!」
 ご機嫌斜めの伯父にして舅王。
そんな彼にセネリオは呆れた。
「父親ですからね、我が子を抱き上げてもおかしくないでしょう」
 そう言ってセネリオは頭を抱えて深いため息をついた。

 そうこうしている内に、三時を告げる鐘が鳴る。
 これをもってただ今の公務、サインと国璽ハンコ押し終了、イコールいざ休憩時間。
待ちに待っていたこの時を、シレジア国王は雄叫びあげて歓喜した。

「うっほっほ~いアンジュ~、今ジージが会いに行くぞい、待ってての~!!」

 こうしてシレジア国王は、宮宰と王太子を執務室にまだ残し、脱兎のごとく可愛い孫のいる場所まで向かうのだった。

 ああどうか、ねんねしていないでおくれ。
 おっきしていて欲しいの~。
 グズグズも困るけどの~。

 そんな事を考えながら、走る、走るよユーリー二世。
可愛い孫に会う為に、五十路男が息を切らしてアラエッサッサ。
一目散に走るよアラエッサッサ。

 そしてようやく目的地、シレジア王家の憩いの場となっている部屋に辿り着くのだった。
「アンジュ~、ジージですよ~!!」
 ウキウキして開けさせた扉の奧には、綺麗な金髪、翡翠色をしたくりくりお目々の可愛い孫は母である娘フレデリカに抱かれて起きていた。

「おお、アンジュ、アンジュ」

 既にこの時、初孫中毒患者には孫以外のモノは視界に入っていない。
抱っこがしたいという本能だけで行動中。
ひたすら孫とカッコ娘イリーナに近づくユーリ二世。
そのため、孫の事になると恐~い嫁が直ぐ側に居る事も分かっておらず―――したがってこうなった。
 
 バチーン!!

 携帯していたお仕置きハリセン。
 それを鞭の様に翻し、夫の手の甲を打った王妃イリーナ。
続く彼女の言葉はこうだった。
「手が汚い!! そのインクが着いた汚い手でアンジュを抱っこ出来ません。 はい、手洗い!!」
「ううう…イリーナ、そんな堅い事を」
 打たれた手の甲をさすり、涙目で寛容を求めるユーリ二世。
 しかし、妻は断固として認めなかった。
「何を言うの貴方!! しっかり周りが気をつけないと、可愛いアンジュが病気になっちゃうでしょう! アンジュを抱っこしたかったら、さっさと手を綺麗にしていらっしゃいな」
 愛しの夫、シレジア国王をまるで病原菌扱いするおばあちゃま王妃イリーナ。
夫である国王は、このおばあちゃまパワーに負けて今度はすごすご手洗いに向かった。
 可愛い孫を抱っこする為に……。
 ああ、孫までの道のり遠し。

 それから一五分あまり経って、手洗いを終えたユーリ二世。

―――これでようやく可愛い孫を抱けるぞい。

「アンジュ~、お待たせジージですよ~!!」

 そう意気込んで部屋に戻ってくると……既に“後から”やって来た先客が、可愛い孫の抱っこ権を手中に収めていた……。

「やあアンジュ、元気だったかい?」
「ダ~」

 父セネリオに抱かれた娘アンジュは、とっても眩しい笑顔をおじいちゃまに見せるのだった。
それを見たユーリー二世、もう羨ましくて居ても立っても居られずに、興奮して叫ぶのだった。
「予にも抱かせんかい、セリー!!」
「そんなに大声出さなくとも、抱っこぐらいさせますよ」
 やれやれと思うセネリオ、それは部屋に居合わす女性陣も同じだった。
「もうお父様ったら……」
「まったく困った人ね」
 彼の娘と妻は共にため息一つ零すのだった。

 とはいえ、これもシレジア王室にとって大切な家族の団欒には違いなく、その後は和やかな午後の一時が流れる。

 この時、やっと叶って孫を抱っこしたユーリー二世は、直ぐに孫をあやすのに夢中になっていた。
「ほーれ、アンジュ。ベロベロバー!」
「ダー、キャア」
 ヒョットコに負けないシレジア王の百面相、その爆笑顔は孫姫に受けて、彼女はキャッキャッとニコニコ天使の笑顔を返す。
 もうそれだけで孫中毒者はメロメロになる。

「ああ、何でこんなに可愛いのかのお~。 流石予の孫じゃい、のうアンジュ」
「だー」
 それは偶然とはいえ、愛しの赤ん坊が祖父の言葉を肯定するように声を出すと、嬉しさのあまり祖父の目尻はますます垂れた。
「もうたまらん、可愛い、可愛いのお」
 もうこうなるとユーリー二世は孫を抱っこだけでは飽きたらず、更なるスキンシップを求める。
 そう、その名はズバリ頬擦り。
お首が座って間もない可愛い孫、そのプニプニお肌をスリスリしたい。
おじいちゃまは頬擦り体制を取るべく、孫姫を自分の顔の位置まで合わせてる為に一段と高く掲げて抱いた。
そうして二人の顔がちょうど同じ高さになったので、さあ頬擦りしようとルンルン国王が孫の頬をくっつけようとしたまさにその時。

 ジョリ。

 国王の顔に触れたのは、柔らか天使のほっぺではなくシレジア産の砂糖大根ビートだった。
この時、孫より先にユーリー二世が頬擦りした砂糖大根。
その白く硬いひんやりお肌が音を立てて楽器になった。
その事態に呆然とするユーリー二世、そして彼に躊躇いなく大根を当てた人物の厳しいアウトカウントが告げられた。
「駄目よ、貴方。 もうお髭が伸びてるわ、はい頬擦ほおずり禁止」
 可愛い孫を大事に養育する王妃イリーナ、その行動は愛する夫にも容赦なし。
厳しい孫触れ合い検閲官チェッカーとなる。
これに引っかかったユーリー二世は唸った。
「ぐお~、何故じゃ~!? 毎日念入りにそり込ませているのに!!」
「仕方ないでしょう、貴方。 貴方のお髭は濃いのだから、金髪だから見た目は分からないけれど」
「よよよ~」
「今は頬擦り諦めてね、貴方」
「そんな~!!頬擦り~、頬擦りじゃあ、アンジュ~……ルルル」
「そんなうるうる目をさせても駄目よ、貴方。 貴方が頬擦りしたら、アンジェのお肌が傷ついちゃうのよ。 この柔らかいホッペが、分かるでしょう?」

 シクシクシクシク。

 事実だから反駁はんばく出来ないユーリ二世。
抱いていた孫も腕から抱き取られて、手持ちぶさたのその手が虚しく哀れを誘う。
だがどうしても孫姫に頬擦りしたいお祖父様は、妥協案を模索していくのだった。
「あうう、じゃあホッペの代わりに背中に頬擦りしたいのお?」
「まあ貴方、アンジュを裸にするの? 背中だってホッペと同じくらいにとってもお肌が柔らかいのよ!」
「う…腕は?」
「ダ~メ」
太腿フトモモも?」
「駄目駄目」
「オヨヨ…それならおしりに頬擦りさせてくれ~」
「そこはもっと駄目でしょ!!」
 妻イリーナは目くじら立てて怒り、同じく赤ん坊の両親も顔を赤くして抗議した。
「何考えてるんですか、伯父上!!」
「お父様のエッチ!!」

―――いけませんよ、お祖父様。
 孫はとっても可愛い女の子。
 そんな事をしたら、溺愛を超えてロリロリ変態君になっちゃうよ。

―――そうそう、やるんなら嫁にしとこうね、だ~れも文句は言わないからさ。

 そんな天の神様の声が届いたかどうかは分からぬが、ユーリー二世は「オヨヨ」と孫頬擦り禁止に泣いた。
 この大人げなく泣くシレジア国王、このままだと国事に悪影響。
それを見かねた王太子がため息をしながら女性陣に折衷案を出した。
「アンジュの“足の裏”なら伯父上に頬擦りを許可しても大丈夫なのでは? 赤ん坊の身体で一番の丈夫なところであり、伯父上も頬擦りしやすいでしょうし……」
「そうね……背中やおしりよりはマシよね」
「しょうがないわね……」
 お祖母様王妃イリーナは、やれやれと抱っこしている孫の体制を変え、片足あんよを夫の顔に向けて許可を出す。
「はい貴方、アンジュに頬擦りをどうぞ」
「おお!!」
 ユーリー二世は喜び勇んで孫の足裏に髭でざらついた頬をつけると、ニコニコ頬擦りをし始めた。

 スリスリ。

 孫の足裏に頬擦りをして、幸せ一杯で恍惚とした表情を見せるシレジア国王。
 この姿に呆れる家族。
これが北の大国、『北の居眠り獅子』と畏怖されるシレジア国王その人なのかと……

<ああ、情けなや(伯父上……)(お父様……)(貴方……)>

 そう思う彼らであったが、しかし祖父に足裏を頬擦りされた当の赤ん坊だけは違った。
 
「ウキャキャ!!」
「おお!!アンジュが笑ったぞい」

 もの凄く喜んで絶笑する赤ん坊。
これには彼女の両親も、そして祖母も目が点になった。

「凄く喜んでるわねあの子……」
「何でだ?」
「本当にどうしてかしら……?」

 そう三人には疑問符だらけの光景だった。
 足の裏を頬擦りされキャッキャッと笑う赤ん坊、そして足裏にただ頬擦りをする祖父の姿。
 そこに赤ん坊にとって笑いの要素があるのかと。
しかし赤ん坊のアンジュが喜んだ訳、これにはちゃんと理由付けがある。
人間の足の裏は手の平と同じで、皮膚が厚いが知覚神経が一杯あるのだ。
だからそこをほどよく刺激されると気持ちいい、所謂足裏マッサージ効果。
つまりお祖父ちゃまの頬擦りは、赤ん坊のアンジュにとって心地よい足裏刺激反応そのものだったのである。
従ってアンジュはユーリー二世の“頬擦り”ならぬ“足の裏スリスリ”喜んだのだった。
 その孫の嬉しいニコニコ声に、すっかり気を良くしたユーリー二世は更に孫の足裏に頬擦りを施したのは語るまでもない。
 
 こうして可愛い孫に喜ばれたおじいちゃまの“足の裏スリスリ”……なのだが、これ以降アンジュ姫は困った事にしょっちゅうおじいちゃまにこれをおねだりするようになる。
それもアンジュ姫がここかしこでむずがると、一発で泣きやむ父親セネリオにも出来ない強力なあやし技だった。
 そうまさに祖父冥利に尽きるのだが、あまり人前で行うのは何とも恥ずかしいおじいちゃまのあやし技である……。


  ああ、こんなシレジア王家、永遠な~れ。


             おしまい♪
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