番外編 ヴァリンティーナ~愛の日に~☆性描写あり
番外編 ヴァリンティーナ~愛の日に~
その日は、大切な人に愛の言葉と感謝を伝える日。
私は、どうやってその事を伝えれば良いかしら。
私の年下の旦那様。
シレジア王の一人娘フレデリカ。
彼女は今、非常に悩んでいた。
その理由は間近に迫った2月14日、『ヴァリンティーナ』だった。
ヴァリンティーナとは、それはガイア大陸中に広まっている恋人達が愛を確かめ会う日。
特にこのシレジアでは、押し花、絵、愛の詩など、工夫を凝らして書き綴った愛のカード、通称『ヴァレンティーンカ』を意中の人に贈るという日だった。
カード交換。
そもそもこの国では、質にもよるが紙は安価で手に入るので、カード交換は風習なのだ。
贈り物には必ず添える。
そして更にプラス・アルファ。
男なら奮発して買った小物や花、お菓子、宝石などを添え、女性なら手作りの物を一緒に贈るのが慣わしで、この時期シレジア王都ホルムガルドは贈り物を取り扱った店が大層賑わう。
特にそんな店の中でも群を抜いて大繁盛な店がある。
花とお菓子の店、コスモポリターン。
そこには美味しそうなシャカラート(チョコレート)、クレーモフ(シュークリーム)、シレジア風ケーキのピロージナエや、焼き菓子プリニャキ等が並び、そのお菓子の側には綺麗なチューリップと薔薇が鎮座している。
真冬のこの時期、雪の覆われるシレジアで売られる花は宝石よりも高級品。
金のある貴族や大商人なら、自宅に温室を完備していることも多いが、大多数はそうはいかない。
けれでもこのヴァリンティーナの日は、多くの恋人達にとって求婚行事でもある。
求婚には趣向を凝らしたカードの他にも、どうしても彼女に捧げる花が欲しい。
そんなシレジア王都の男心に着目したこの菓子屋を営む男が、一世一代の借金をして一年を通じて花を供給する温室を建て、作っていたお菓子と一緒に花屋を始めたら大ヒット。
シレジアの男達は、貴族も平民もわんさか押しかけた。
そして人生最大の勝負に挑む前に、彼らはこぞって大金をはたいて高級な花を予算内で買うのだった。
勿論フレデリカはこの店に買い物には行かない、いや行けない。
しかし贈り物は用意しなければならなかった。
何故ならもう人妻だから。
そう去年、てんやわんやの末に結婚して、王女から晴れて王太子妃と呼ばれるようになった今年二十歳になるフレデリカ。
そんな彼女の夫は、年下の従兄弟で入り婿の旦那様、セネリオ。
その彼に贈り物をしたい。
初めて父親以外の男性に物を贈りたいと思ったフレデリカ。
しかしそう思い立ったのは良いが、何を贈ればよいのか分からなかったのだ。
(こんなの事ではいけないわね、貴方の妻なのに…私の方が年上なのに……)
はぁーと大きく出てしまう彼女のため息は、今日一体何度目だろうか?
「何を贈ったら喜ばれるのかしら?」
また一つため息が零れた。
夫より三つも年上だからと、気にしてしまう乙女心を持った若妻フレデリカはホトホト困っていた。
こうして部屋にいても鬱々として悩むだけ。
これではいけないと思ったフレデリカは、気分を変える為に部屋を出た。
でもやはり歩きながらも贈り物の事を考える。
すると妙案も浮かんだ。
(はぁ、お母様に相談してみようかしら?)
人生の先輩、妻暦ン十年の実母イリーナ。
きっと今まで色んなものを父に贈った事だろうから、参考に聞いてみようかと新米妻の娘フレデリカは考えた。
廊下を歩き、母のいるだろうその部屋に向かったその先。
母の私室の控え部屋。
その時、フレデリカの目にある光景が目に留まった。
(あれは……?)
それは、年頃の女官が数名集まって何か手作業をしている場面。
おしゃべりで華やぎながら、それでも手はずっと動かしている。
その作業。
気になったフレデリカは彼女達に声を掛けた。
「ねえ、何をしているの?」
「フ、フレデリカ様!?」
「王太子妃様」
フレデリカに話しかけられた女官たちは慌てて王太子妃に礼を払う。
一方フレデリカはその事よりも、彼女達がしていた事の方に関心があった。
「何をしていたか教えて頂戴、それはヴァリンティーナの贈り物でしょう?」
優しくにこやかに訊ねるて王太子妃に、女官達は恐縮しながらも答えた。
「はい、ハンカチーフに刺繍をしていたんです」
「まあ、刺繍だったの!」
フレデリカは目を輝かせた。
(そうよ、贈り物は手作りだったわ!!刺繍は良い考えね、早速私もハンカチーフに刺繍をしましょう!!)
実母に相談前にお悩み解決。
フレデリカは憂いが晴れて気分爽快になった。
こうしてニコニコ笑う王太子妃に、女官達の一人がこうはにかみながら話しかけた。
「フレデリカ様、これは、私達がヴァリンティーナの日に、それぞれの相手に贈る贈り物なのですが、同時に、私達の祈りも込めているんですよ」
その言葉にフレデリカは疑問に思うと聞き返した。
「祈り?」
「はい、それは……」
女官の一人がちょっぴり切なくその訳を話すと、聞いているフレデリカも考え込んだ。
それは彼女にも当てはまる事。
何時起こるかも知れない事。
だから、フレデリカもそれに倣う事にした。
「……ありがとう、貴女達。お陰で私も良いヴァリンティーナの贈り物が見つかったわ」
最後は微笑んで、贈り物のヒントをくれた女官達に礼を言うと足早にフレデリカは私室に戻った。
贈り物を用意するために。
一方その頃。
シレジア王ユーリー二世は、愛妻と定例のお茶の時間を過ごしていた。
「フムフム、もうすぐ2月14日、恋人達の日だのう、イリーナや♪」
「そうですわね~、貴方♪」
話題に上るのは今年の2月14日、目前に迫った恋人達が愛を確かめあう日だった。
ニコニコと笑い合ってお茶をすすりながら、シレジア伝統焼き菓子プリャニキを頬張る二人。
今日もとっても夫婦円満だった。
この時、ホクホクしながら来るべき2月14日について国王は語る。
「ちゃーんと、とっておきの贈り物を用意したからのう」 そう、シレジアでは男が女に物を贈る習慣が多い。
物は愛情表現の証。
去年は大粒の天然真珠の首飾り、その前はエメラルドの髪飾り、その前は……と考えはじめると結婚年数、スイートテンダイヤが幾つあっても足りないので省略。
だから夫の言葉に王妃イリーナは喜びながらこう話した。
「まあ、素敵!!楽しみですわ、ア・ナ・タ!!私も用意してますわよ~」
そう、2月14日は女も男にプレゼントデー。
互いに贈りあう日なのだ。
愛する夫への贈り物は、王妃イリーナのアミアミ内職・編み物である。
その愛妻の言葉を聞いてシレジア国王の目尻は垂れた。
「おうおう、楽しみにしておるぞ、リゥビーマヤ(マイ・ハニー)♪」
「ええ、リゥビームイー(マイ・ダーリン)♪」
幾つになっても新婚夫婦。
とっても仲良しシレジア国王夫妻の昼下がりのお茶タイムは、年季の入った接吻で閉じられた。
かくてヴァリンティーナは訪れる。
☆。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜☆
ヴァリンティーナ、2月14日当日
この日、シレジア王太子セネリオは、朝早くから密かに妻フレデリカに隠れてある事をしていた。
別に浮気ではない。
聖獣ヘスペリスだけをお供に、冬のシレジアの野山を上空から散策しているのだ。
実は何日も前から……
ずっと探している物がある。
大切なこの日の為に。
君と迎える初めてのヴァリンティーナ。
君に贈るプレゼント『早春の花』を。
こうして天馬になったヘスペリスに跨り、空から花を探して見渡せば、そこは北国名物白銀の世界。
無論そこにセネリオが探し求める物はない。
「やっぱり、無いのかな……?こんなに雪深いと……」
ため息、ぼやきを繰り返し、それでもセネリオはどうしても諦め切れなかった。
(こうなったら、どこまでも探してやる!!)
腹をくくったセネリオは、自分を乗せる僕に声を掛けた。
「仕方がない、シレジア南部の国境付近まで行こう……ヘスペリス、向かってくれ!!」
≪是!≫
彼にのみ従う天馬は、その言葉を聞き入れた。
主命のままにセネリオを背に乗せて、遙か南方の空を大きく翔ていった。
かくて向かうシレジアの南方、そこは彼の生まれ故郷フィンダリアの国境沿いでもある。
(本当はあまり近づきたくはないが……)
躊躇いの中、セネリオは思う。
それでも君の為に……フレデリカ。
どうしても花を贈りたいから。
温室に只年柄年中咲き誇っている花ではなく、無碍に咲く花を。
言葉で言っても伝わらない時がある。
そして言葉に言えない事もある。
その為に見つけたいのが花。
「……本当に何時も君は気にしているからね。別に年の差なんて関係ないのにな、そのままの君で良いのにさ」
南方に向かいながらセネリオはそう呟いた。
☆。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜☆
さてところ変わり翡翠宮殿、ニフリート・ドヴァリエーツの王太子妃フレデリカの私室。
いよいよ今日はヴァリンティーナ当日である。
この日夫セネリオが朝早くから出かけた事も気づかずに、妻フレデリカは贈り物をチクチク仕上げていた。
一針、一針思いを込めて。
そして。
「出来たわ!」
最後の一針を終えたフレデリカは、満足げにその刺繍を見た。
フレデリカの刺繍入りハンカチーフ。
夫の為に渡す初めて手作り品。
その文様から全て自分で考えた力作は、城内お抱えのお針子達に勝るとも劣らない一品だった。
―――刺繍はお姫様の嗜み、上手くて当然と思ってはいけない。
完成品をほれぼれ眺めながら、フレデリカは同時に気恥ずかしさが起こる。
今まで知らなかった思い。
結婚してから初めて感じたときめき。
「セリー、喜んでくれるかしら?」
初めて作った夫への贈り物を見つめてフレデリカはそう呟いた。
その頃。
(大分遠くまで来てしまったな……)
そう思うセネリオがいた。
だがその甲斐があって、雪解けの大地が垣間見える地域まで彼は遥々やってきた。
しかし、まだセネリオが見渡す限りその大地に花はない。
やはりまだここは冬の季節、春遅い北国の大地。
「やっぱり無謀だったかな?」
とうとうセネリオがそう自嘲し始めた時だった。
人にあらざる神秘の獣は、人よりも視力が優れている。
彼女の目にある物が映った。
あれは紛れもなく―――
≪主、見つけました!!≫
「!! 本当か、そこに降りてくれ!!」
≪是!≫
気が逸る。
そして急いで二人が降り立ったその場所。
そこは、日当たりの良いまだ雪の名残が残る山の中腹。
その白と黒のまだらになった大地の地肌から、それは確かに顔を覗かしていた。
雪を被りながらもそれでもなお、強く花開いて咲き誇る。
小さな黄金色の様に黄色いその花。
その花を見て自然とセネリオの顔が綻んだ。
「これは『福寿草』か……」
そう寒冷地、荒地にも根をはる春の野花だった。
ここではまだ群生とはいかないが、セネリオとヘスペリスが降り立った辺りはポツポツと、小さな福寿草がそこかしこに見え隠れしていた。
まるで春だよとお茶目に知らせているように。
雪があろうと咲くその花は、まさに春告げ草の代名詞である。
≪是、お気に召しませんか、主?≫
花に見とれて暫し無言の主を心配した聖獣が主君を省みて伺った。
すぐにセネリオは首を振って、笑顔で笑い返した。
「いや、ありがとうヘスペリス」
まさに無碍の花。
彼が捜し求めていた花だった。
「これにしよう」
ようやく見つかった贈り物に、セネリオは嬉々としてその花を種根ごと持ち帰る事にした。
ヴァリンティーナ、それは恋人達、夫婦の甘い一日。
万年新婚おしどり夫婦は、本日公務を全面休業中。
娘夫婦にもお構いなしで、朝からイチャイチャしていた。
まずは互いに贈り物交換。
国王から王妃へは、大きなピンクダイヤモンド・カッコ“ハートアンドキューピットエクセレント”付きの薔薇のブローチだった。
おそらく時価総額ゼロが並ぶよ、ン桁までだろう。
無論貰った王妃はご満悦である。
「ありがとう貴方~!!」
「気に入ってくれたかの~?」
「ええ、勿論!!」
当然、当然。
これで落ちない女はいない。
そう彼女の夫は思ったかは別にして。
今度は妻から夫への贈り物とは。
「はい、貴方。今年は腰痛対策の為に、腰を冷やすといけないから毛糸のコルセットを作ったのよ♪」
王妃イリーナが作ったこの贈り物、本当は毛糸の“腹巻き”だろう。
色は赤、ちゃんとシレジア国王の御印をアップリケしていた。
妻の手製の赤いコルセットを手にした国王ユーリー二世は素直に喜んだ。
「おお、赤が何ともお洒落だのう」
「そうでしょう、赤は元気の源なのよ♪腰が痛い時はちゃんとつけてね、ユーリー」
「イリーナ……」
じーんと来る国王だった。
昔はハンカチーフや、腰ベルトの刺繍などをたくさんして贈ってくれた愛妻。
昨今はお洒落よりも自分の身体を気遣ってくれる物をくれる優しい妻。
この心の籠もった贈り物を手にして、本当に嬉しかった国王は、ふと、貰い受けたコルセットに小さく文字が刺繍されていることに気付いた。
手にとってよく見なければ分からないその文字を。
『я хочу всегда быть с тобой』
~何時も貴方と共にいたい。
それは妻からの密かなメッセージ。
その文言を感慨深く見つめていた夫は、視線を送り主に移した。
そこにはにっこり笑った愛妻がある。
お互い年もとったし、中年腹だの皺だの、白髪だのと姿が変わっていくけれども、そこにいたのは確かに変わらぬ愛を持った女性の姿だった。
「何時までも一緒にいて下さいね、貴方」
イリーナが、メッセージに気付いてくれた夫に微笑んだ。
刺繍の言葉、それは彼女の今の気持ち。
初老に差し掛かった王妃はこう思う事が多くなった。
『いつも愛している夫、だけどいつかはお別れが来る』と。
だからこの言葉をイリーナは刺繍にしたためたのだ。
何時も貴方と共にいたい、
生きている限り貴方を愛したい。
死が二人を分かつ時まで。
ただの『愛している』はありきたりだからと。
その気持ちをくみ取った国王は、婚姻の宣誓をした若き頃の様に頷いた。
「ああ、勿論だとも……」
贈り物を手にしたまま、ユーリー二世は愛后の腰に手を回して抱擁した。
……愛と感謝の気持ちは態度で示そう。
その日のシレジア国王夫妻の寝室は、昼間から新婚夫妻に負けないくらいに熱かった。
☆。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜☆
愛の日は過ぎるのが早く、もう夕暮れを迎えた。
せっかく作った贈り物を抱え、フレデリカはため息を零した。
「セリー、何処に行ったのかしら?」
朝から出かけた夫が戻らない。
もう辺りは薄暗いのに。
どうして帰ってきてくれないの?
一体何処に行ったのか分からない、万が一にも危険は無いと思うが不安である。
不安。
考えたくない不安。
他に好きな人。
それだけは考えたくはない。
そんな時。
「ただ今、リーケ!」
雪が舞った後が残る外套を身につけたまま、セネリオが帰ってきた。
「セリー、お帰りなさい。何処に行っていたの、貴方?」
年下夫を見るなりフレデリカは、直ぐに心配して駆け寄った。
「帰りが遅くなってごめん、どうしてもコレを君に贈りたくて」
「え?」
セネリオは外套の中から隠し持っていた福寿草を妻に見せた。
無論フレデリカはその花に驚いた。
それは彼女も知る春一番に咲く馴染みの花だった。
そうこの花は、北の大地でも根付く花。
雪の中、ほんの僅かな太陽の温もりを受けて咲く花だ。
春の訪れと共に積雪が薄れて、王宮の森に群生している姿を見かける事が出来る黄色い小花。
だが今はまだ王宮の森は雪深い、後一月の時が過ぎなければ、決して見ることが出来ない花。
その花をこんなに早くに見られるとは。
「これ…は、福寿草?」
驚きと不思議が内包した妻の問いに、セネリオは新発見と共に笑顔で頷くのだった。
「アドーニス…そうなるのかな?ふ~ん、シレジアではこの花をそう呼ぶのか。フィンダリアでは《フェズンツ・アイ》(福寿草)と云うんだけれどね。今日はあっちこっち花を探してさ、南の国境沿いまで行ってようやくこの花を見つけたんだ」
それを聞いてフレデリカは再び驚いた。
「南の国境沿い!?そんな遠くまで行って帰ってきたの!?」
「うん」
セネリオはニッコリ肯定した。
フレデリカの方は、ただ驚くばかりである。
普通なら何日もかかる距離なのだから。
一日で行って帰れる訳がない。
そんな驚く妻に、セネリオは彼なりの言い訳をした。
「どうしても君に花を、この王宮の温室に咲く花でない自然に咲く花を贈りたかったんだ。今日はヴァリンティーナだから」
「セリー……」
フレデリカの心に嬉しさがこみ上げてくる。
気色が浮かび始めた美人妻に、セネリオは自信たっぷりで訊ねた。
「気に入ってくれた?」
「ええ」
フレデリカは、この小さく愛らしくも逞しいこの花を見て微笑んだ。
「可愛いわね、南ではもうこの花が咲いているのね。見ているだけで幸せになる綺麗な花」
「そうだね、“永久の幸福”を表す花だよ」
「え?」
フレデリカはハッとしながら、セネリオの顔を見上げた。
その彼女の若草色の瞳に映るのは、真摯な微笑を見せる夫。
「福寿草の花言葉さ、君に贈るのに相応しいからね」
君に贈る花。
赤薔薇?
ピンクのチューリップ?
そんなありきたりな物、みんなが愛を語る日に、こぞって贈るような花なんて贈りたくはない。
それは自己の捻くれた考えかもしれないが、セネリオはそう思う。
「私たちは夫婦だよ、リーケ。“永久の幸福”を感じなくてどうするんだよ?」
「あ…」
その言葉にフレデリカは胸をドキっとさせた。
ひょんな事から夫婦になったけれども、だが君を最終的に選んだのは自分だ。
故国の従姉妹皇女ではなく。
君に贈る言葉。
年の差なんて関係ない。
寧ろその姉の様な君に、どんなに自分が救われたのかを。
居場所を見失った自分を、必要としてくれてありがとうと。
「リーケ、私は君と結婚したことを後悔していない。だから、もう気にしないで欲しい」
「セリー……」
フレデリカの声が打ち震える。
嬉しさで溢れて。
「ずっと夫婦として仲良く暮らそう、伯父上達の様にね」
「はい……」
伝えられた愛の言葉は、年の差なんて関係なかった。
愛のカード・ヴァレンティーンカに書かれた物よりも、それは何よりフレデリカの心に染み入った。
それから、涙を滲ませた年上妻は、自らも手作りカード、ヴァレンティーンカを付けて贈り物を手渡した。
「はい、セリー。これは私からよ」
「ありがとう、リーケ。ヘー、ドレドレ……と!凄いな、刺繍入りのハンカチーフか!!」
「気に入ってくれた?」
「勿論だよ、私の紋章入りなんて手が込んでいるね」
見事な出来映えに喜ぶ夫。
刺繍の巧さは良い妻のパロメータ。
勿論嬉しいに決まっている。
そんなニコニコセネリオに、フレデリカは少々切なく打ち明けた。
「……それだけじゃないわ。願掛けをしているの」
「願掛け?」
はたと、それは何か疑問に思うセネリオの声に、フレデリカの答えが返ってきた。
「“貴方がたとえ戦場に旅立っても、必ず無事で戻ってきますように”って」
彼女に刺繍の贈り物をする切っ掛けを作った女官達。
彼女達の恋人や、婚約者は皆王宮務めの騎士だった。
戦場に一度赴けば、再び生きて帰って来られるか分からない。
だから女は再会の願いを託して、旅立つ兵士の持ち物に刺繍をする。
天使、雄々しい動物、祝福の花など縁起の良い物を模様にして、一針、一針思いを込めて刺していく。
少しでも愛しい人の加護になるようにと。
だからフレデリカもそれに倣った。
死んで欲しくないから。
国が攻められた時、大切な夫に絶対に戦争に行かないでと引き留める事が出来ないから。
今は王太子、そして未来の国王に。
そんなフレデリカの祈りが込められたハンカチーフ。
今度はセネリオの方が感動する番だった。
大切なお守りがまた一つ増えた。
妻のハンカチーフとそして……兄がくれた護身剣。
此処にいる幸せを。
「……リーケ、ありがとう。戦場に赴く時は、必ずコレを持って行く」
感謝の言葉と共に、セネリオは妻を抱きしめた。
その後、少し遅くなったけれども夕食を取る二人。
普段は伯父王夫妻を加えて4人で囲む食卓なのだが、珍しい事にそこに伯父王夫妻がいない。
しかし彼らが居ないことは幸いか、ヴァリンティーナの夜らしく、夫婦水入らずとなった。
さてその夜半。
王太子夫妻の寝室。
窓際に贈り物として貰った福寿草の鉢を置いて、微笑んで眺めていたフレデリカの背後を取り、セネリオは愛しの妻に抱きついた。
「愛し合おうよ~~~~♪」
「もう、セリーったら…!!」
赤くなりながらも、その手をどかせられないフレデリカ。
やがて後ろに振り向いた彼女を、彼女の夫は微笑みながら反論させないよう彼女にキスをした。
甘い口づけは、今日の夕食で食べたシャカラートよりも甘く。
触れる指先は、何処までも熱い。
長く交わされた口づけ。
ゆっくりと惜しむように離れた唇は、熱い吐息を伴った。
「ん、はぁ……」
「……続きはあっちでしよう」
口づけが離れた後のセネリオの誘いに、フレデリカは頬を上気させ小さく頷いた。
それは妻のお許し。
年下の夫は、瞳を潤ませ夢見心地の年上妻を軽く抱き上げる。
それはお姫様抱っこ。
ますます恥ずかしいがって、フレデリカは顔を赤らめたが、気にせずに彼女の夫はそのまま恥じらう妻を抱いて目的地帯『寝台』まで急行した。
ほら、冬の寒さも打ち消すほどに。
君の雪色の肌は、仄かに色づき。
愛の色に染まって、私を翻弄するんだよ。
「リーケ、隠したらせっかくの君の胸が見えないよ」
「あ……」
祖国を追われたこの私を、君という女性が。
この奥ゆかしい愛を捧げて、私を救ってくれたんだ。
私を包むこの君の温もりが。
時には母の様でいて、今はこんなにも恥じらいのある乙女になって。
「あ…セ…セリー……駄目…あ、ああ!!」
「感じているんだね…可愛いよ、リーケ……」
最初に君に歓喜の瞬間を。
それがまた愛らしいから。
「もう待てない…挿れるよ」
「ん!あ…ん」
こうして今。
求める君の中に入った時、私は落ち着くんだ。
それは快楽だけではなくて。
「セ…セリー……!!ああ、はあ、ああ!!」
「ーーーー!!」
ふれ合う君と、愛の喜びに酔いしれる。
君が私の至福。
北国の雪は深く降り積もり、まだ降り止まないだろう。
だが、その寒さ厳しい大地にも、愛は変わらず満ちあふれる。
恋人達、夫婦がそれぞれ互いの愛を確かめ合うこの日。
その夜は、南国の熱砂に負けないほど熱い。
セネリオとフレデリカが愛の交歓真っ盛りの頃、寝室の片隅の窓辺には、春の息吹を運んだ福寿草が、静かに花閉じて明日の陽の光を待っていた。
С днём Святого Валентина!
《ス・ドゥニョーム・スヴィトゥーヴァ・ヴァリンティーナ》
聖バレンタインデーおめでとう!!
恋人達に幸あーれ!!
<おしまい♪>
昔ロシアじゃ「クパーラ祭」という恋人祭りがあったそうです。
そして現在は「2/23」が男性を祝う日(祖国防衛の日)で、「3/8」が女性を祝う日(国際婦人デー)でプレゼント交換。
近年はロシアでもバレンタインはポピュラー行事だそうですが、チョコを一方的に贈るのではなくお互いカード交換だそうです。(花必須)
和名「福寿草」:別名いろいろありますね。珍しいのは「雪蓮」か。北海道では「フキタンポポ」と呼ぶ地域あり。日本・ロシアだけでなく世界に分布する早春の花です。ちなみにラテン語では「アムール・アドニス」といいます。日本の「福寿草」は「黄色」ですが、外国には「赤」もあります。
花言葉は「永久の幸福」「思い出」「幸福を招く」「祝福」etc……
こう書くとR-18「恋・花葛篭」ですね。
番外編ばかりですが、次話はちゃんと「34話」計画しております。
つたない小説を最後まで読んでいただき有難うございました。何か表現等でアドバイスがありましたらお待ちしております。
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