前半はらぶコメです。
後半は違います。長いです。
<注意>
「拷問」「拷問七箇条」この文面が出てきた時点で嫌悪感、ダメと感じた方は読まずに縦書きにして、後書き見て退避してくださいませ。
第31話 命の在処 救世の人~後編~ ★残酷な描写あり
第31話 命の在処 救世の人~後編~
ようやく会えた愛しい従兄弟。
なのにその従兄弟はただ今―――
ただ今―――
綺麗な男にキスされていた!!!!!!!!
そしてエレインは絶叫した。
「いっやーーー!!何してるのよ、馬鹿オカマ!!とっとと、私のセリーから離れなさい!!この変態!!」
一方綺麗な男、お姉マン・ピカゾーは、眠れる王太子へのCHU☆を止めた。
自分を罵倒する声、それは懐かしいかの国の皇女様の叫び声に酷似している。
タラリと汗を一筋流し振り向く先、そこには案の定、あり得ない女を見たピカゾーはギョッとした。
「…エ、エレイン…?」
「セリーとキスなんてしないでよ!!馬鹿オカマ~~~~!!早く離れて~~~!!!」
更に興奮したエレインは叫び、ピカゾーはたじろいた。
いや、彼だけでなく周囲のシレジア国王を筆頭とした面々も同じくらいに面食らっていた。
―――「あの美姫は誰~~?」
―――「それに今、セネリオ様の事を『私のセリー』とか言っていなかったか?」
―――「ああ、ウチの王太子に向かってだぞ……?」
―――「本当に…誰なんだ?」
そうぼそぼそ会議を始めたシレジアの面々だったが、程なく彼女の正体について回答が得られる。
この聖獣ヘスペリスによって。
「国王よ、喜べ!!主を治療できる者をフィンダリアから連れてきたぞ!!前にも話したな、フィンダリアの主の従姉妹でエレイン皇女だ」
ユーリー二世の周りを、鷲姿でパタパタ飛びながら嬉々として成果報告する黄昏乙女。
だがそれは。
―――ああ、フィンダリアより禍来たりて、ピーヒャララ~♪
セネリオの昔の恋人がやって来たー、来たー、来たー……
聖獣連れてやって来たー、来たー、来たー……
その正体が分かってしまったユーリー二世は、エドヴァルド・ムンク作『橋の上の叫ぶ男』と化した。
一方こちらはシレジアの武将達。
彼等はそんなムンク国王に気付かずに、遙々フィンダリアからやって来た従姉妹皇女もまた、心強い王太子の救済者だと聞くや喜びの民族舞曲が周囲に広がった。
「これでセネリオ様が助かるぞ!!」
「ヤッター!!」
と万歳三唱もした。
ムンク国王だけを取り残して……
他方、そんなシレジア期待の救世主(?)二人は、互いに仲良く協力し合ってセネリオの治療に取りかかるどころか、ますます言い合いを過熱していった。
「嘘、何で貴女が此処にいるのよ!?まさか押しかけ不倫でもしに来たの!?」
「ちょっと不謹慎な事を言わないでよ、この馬鹿オカマ!!私がそんな事する訳ないでしょ!!リオンじゃあるまいし!!」
「だったら何でシレジアに居るのよ!?それにリオンはこの事を知っているの!?」
「セリーの為に来たのよ!!このヘスペリスが私に助けを求めに来たからに決まっているでしょ!!勿論リオンだって黙認済みよ!!だってリオンが私の所に聖獣を連れて来たんだから!!」
「あら~、そうだったの」
「『あら~、そうだったの』じゃないわ!!よくも私のセリーに襲いかかったわね、変態!!」
ギャー、ギャーわめく異国の王族二人。
そんな二人をシレジア側はどうしたものかと対応に困りながら見守っていた。
ちなみにシレジア国王はまだムンク中、気を取り直すまでまだかかりそうだった。
―――さてピカゾーとエレインの『吠え合戦』、この会話はフィンダリア語なので、シレジア側では理解不能の者もいる。
だが物事には必ず終局が訪れる。
それは先手ピカゾーからだった。
「もういい加減にしてよ、な~に勘違いしているのよ!!い~い?私はセリーに薬を飲ませていたの!!私の作った解毒剤をね!!」
「嘘を仰い!!どさくさに紛れてセリーに手を出したのに決まっているわ!!」
息切れしながらも一歩も引かないエレインに、遂にピカゾーは精神モードを切り替えた。
それに伴い表情から雰囲気まで一変させた。
「……本当に変わらないな、貴女は。仕方ないか…。だったら君に返せばいいな?」
お姉言葉から男っぽい口調に切り替えた、ピカゾー。
それに一瞬エレインは怯んだ。
それに対して国の者からは燁武帝「シャイニング・フォース」と呼ばれ、他国からは成人名で呼ばれる男は、セネリオの眠るベッドから立ち上がると、ずんずん真顔でエレインに近づき……
「な…何?」
近接した美形の真顔。
エレインがたじろくのも無理はない。
美形の凄みは三割り増し。
そのまま立ちすくんだエレインの顔にピカゾーの手が伸びる。
有無を言わさずクイっと上げた彼女の頤に、ピカゾーの声が続いた。
「はい、返してあげる、セリーのCHU☆!!」
「嘘!や!ム~~☆ζξ◆」
その直後、された行為の衝撃で硬直したエレイン。
外野(国王除く)もあんぐり。
―――くっついちゃった唇、PT2。
―――あ、でも今回は見てはならない禁断の世界ではないよな……?
―――そうだよあ、男と女だし……
何故か得心してしまったよ、シレジア側。
一方、瞬時に我に返り逃れようとするエレイン。
だがもがくも無理。
見かけとは対極で意外に力強い綺麗過ぎるお兄様。
けれども、そのCHU☆タイムは長いものでなく、ピカゾーがすぐに離れた事で終了した。
「これで文句ないでしょ?」
離れ終えた時、そうオカマ風に不敵に笑ったピカゾー。
エレインはわなわなと唇を手で押さえながら叫んだ。
「お…乙女の可憐な唇に何てことするのよ!!」
「だからセリーのCHU☆を貴女に返してあげたのよ~ん」
「お~の~れ~!!」
「あ~らら、ちょっと私とやり合う気?」
その軽い言いぐさに、とうとうエレインもまたブチ切れた。
「大地神!!」
名を呼ばれたエレインの聖獣アリサノスが、その声に呼応して有翼獅子の姿で主の前に立った。
エレインが僕の名を呼ぶやピカゾーはみるみる顔色を変えた。
そしてその様子を外野は、何が起こるか予測していないのでポカンと見ていた。
「あ…ちょっと…エレインちゃん?あの…ほら時と場所を考えて…ね?」
「五月蠅い、問答無用!!」
かなり狼狽えて一歩、二歩と後ずさるピカゾーにグツグツと怒りをため込んでいるエレイン。 まずい非常にまずい。
そう思うとすぐにピカゾーは咄嗟に判断して叫んだ。
「星天使!!」
≪はい!!≫
遂に怒りの沸点を限界にまで達した聖獣皇女の号令が飛ぶ。
「さぁ、アリサノス!!アイツを毬栗で攻撃!!」
≪是!!≫
オーマイーガー!!
聖獣大戦争勃発!!
外野のシレジア側がビックリして逃げまどう。
どこから出てきた毬栗さん。
大量だよ毬栗さん。
それが全部ピカゾーに襲いかかった。
だが瞬時に、その凶器となった秋の味覚は無力化した。
そう、彼にはこの子が居たからだ。
セネリオの様に火属性の聖獣コカビエルが、ピカゾーの周囲を炎のバリアを作って護り瞬時に毬栗を滅却、ご主人様を護った。
同時に聖獣ヘスペリスもまた、眠る主を護る為に寝台の周囲に結界を張った。
「ちょっと、病人が寝てる部屋で何てことするのよ!!」
なりふり構わぬ攻撃に、ピカゾーは猛抗議する。
しかし怒りの乙女皇女はそんな声に耳を貸す訳はなく……
「お黙り!!」
エレインの声と共にアリサノス毬栗第二波攻撃発動。
これも再び防御したピカゾーのコカビエル。
しかし毬栗攻撃は苛烈さを増し、ピカゾー達が防御している範囲外の射的された毬栗は、あっちこっちの天幕の壁面を破き、見事な蜂の巣となり、辺りは焼きすぎた栗の匂いが煙と共に立ちこめ始めた。
そして。
「ゲン☆痛…ハッ!!こ…これは!?コラ、何してる!?」
この時毬栗が頭に当たったユーリー二世は、ムンク状態から脱した。
同時に彼は状況把握、しかし既にそこは聖獣大戦争の中心地。
煙モクモク、毬栗ビュンビュン。
危険が一杯なので、すぐに床に伏せてまずは身の安全第一を確保してからシレジア国王は叫んだ。
「いい加減にせんか!!止めんかい、二人とも!!」
自らの身を守りつつ、最早国王というよりも子供の喧嘩を止める年長者の様に叫ぶユーリー二世だった。
こうして喧々囂々(けんけんごうごう)の天幕内。
いやもうこの時既に、シレジア王太子の天幕は使い物にならない程に穴が空き、綺麗なお空が丸見えで……
煙が揺らぎ、その周囲をシレジア兵が呆然と遠くから囲んで見学中。
交替で休んでいた兵達すら騒ぎに気付いて起き出す始末。
果たして彼等は本当に救世主?
そんな疑問がシレジア兵全体に起こっていた。
けれどもそんな中で。
―――(何だか……)
だが確実に小さな変化が寝台の中で起こった。
―――(何だか……五月蠅いぞ)
―――(ギャーギャー…五月蠅い)
―――(誰だよ……?)
―――(あれ…でもこの声…この声に……聞き覚えがある……)
―――(誰…だった……?)
―――(ああ、何だ……エリーとピカゾーが喧嘩しているのか……)
―――(フフ、それにしても懐かしい夢だな……あの二人の夢を見るなんて。さっきはもっと子供の頃夢を見た気がするし……。ああでも、これが夢なら……)
―――(そろそろ兄上が……二人とも早く喧嘩を止めないと……)
―――(兄上が怒るぞ…。それこそあの『恐怖のお仕置き数え歌』を歌ってやって来るじゃないか……)
辺りの喧噪は次第に冥府への夢路地から現実に引き戻す。
セネリオは…目をぼんやり開けた。
辺りは暗い、夜の…闇、だが目に映るそれは、満点の星空だった。
まだ微睡んでいる体で、セネリオは見たまま呟いた。
「…星……?」
それはまだとても弱々しい声、だがその声にヘスペリスが気付いた。
鷲姿の彼女は、ずっとセネリオの枕元にいたからだ。
≪主……?≫
主君に呼びかけ顔を覗き込んだ聖獣に、その主はまだ不明瞭な中で微笑した。
「―――ヘスペリス?」
≪主!!気がつかれたか!?≫
「やあ…私は何時の間に…外で寝ていたのだろうか……?」
最初の声よりも確かな声。
ヘスペリスは…もし人型ならさぞ輝く笑顔を見せたであろう喜びを感じると、その嬉しさのまま、彼女は周囲に高らかに報告した。
≪主が目を開けたぞ!!≫
その一声で聖獣大戦争はたちまち終結した。
当事者二人と仲裁しようとした国王は、我先にと寝台に集合して呼びかけた。
「セリー!!」
「セリー、気付いた!?」
「おお、セネリオ!!」
既に用をなさない天幕もどきに残っていた人間が一斉に寝台に詰め寄せる。
この時居たのは人騒がせな救世の人二人と、舅にして伯父王のユーリー二世の三人だけだった。
………他は全員退避していたので。
さて寝台に横たわる渦中の王太子は、目は開いているが、まだどこか焦点が合っていないような瞳。
その瞳がゆっくりと寝台の方に向いた。
セネリオの目に第一に入った視覚情報、それは伯父王と懐かしい夢の人物達。
彼の夢の中で喧嘩をしていた美人で優しい従姉妹皇女、そして自分を可愛がってくれたおかしな女男。
その誰彼もが、心配そうな顔をして自分を見ていた。
―――(夢の…続きか…?伯父上の側に、エリーとピカゾーがいる?)
居る訳がない人物達。
だがその人物二人が次々と現実だと教え込んだ。
「セリー、会いたかったわよ~~~!!」
「!!」
ムギューっとその声と共に弱ったセネリオに、中腰で覆い被さって抱きしめたのは、まずピカゾー。
訳が分からず、まだ夢路気味のセネリオは寝台とピカゾーに挟まれ、そのギューに苦しんだ。
すぐさま。
「いっやーーー!!また先越さないでよ、この馬鹿オカマ!!」
絶対に許すまじ!!
背中が無防備お姉マンに、エレインは一撃必殺の攻撃を聖獣の手を借りずに自身で実行した。
それはある種の反則技、乙女の金的キック。
見事クリティカル☆
「★~~☆ζξ◆」
その攻撃を喰らったピカゾーは、寝台の下に崩れ落ち悶絶した。
喩え綺麗な男でも、そこはとっても痛いようだった。
片やピカゾーのギューから開放されたセネリオは、体は楽にはなった。
しかし、起き上がろうとするも体が重く、そして力が入らない。
これは身体機能の著しい低下に由来する……まだ、毒の後遺症があるのだ。
一方その場を目撃したユーリー二世。
自分がその一撃を受けた訳ではないが、何となく股間を押さえ込んだ。
女は怖いのお~、という感想と共に。
さて、こうしてさっさと邪魔者を禁断の一撃で排除したエレインは、ようやく…ようやく。
「セリー!!」
横になったままの愛しい人に抱きついた。
およそ四年分の想いを込めて―――。
エレインにとってそれは、本当に懐かしい温もりだった。
一方、抱きつかれたセネリオは、まだエレインに抱きつかれた事も含めて、彼女がここにいる実感がまだ分からない。
しかし。
甘い香りがした。
それは懐かしい人の匂いだ。
花が好きな君の匂い。
大好きだった従姉妹の―――
「―――エリー……?」
「セリー!!会いたかった、会いたかったの!!」
涙を浮かべてすがりつく懐かしい人に、体の自由が利かない手で彼女を抱きしめた。
「私もだよ、元気だった?」 声にならない返事は、彼の胸の中で応えたエレインだった。
かくて、すった~もんだがありまして、ようやく王太子セネリオの意識が回復した。
しかしまだ体調が完全に戻るまで二、三日はかかろうとの医師の診断はあるが、それでもひとまずシレジア遠征軍は安堵した。
―――ちなみにシレジア王太子のボロ天幕は、後から聖獣達が力を合わせて(?)不思議な力で修繕した。
三頭寄れば文殊の知恵ならぬ聖獣パワーらしい。
そんな復活したセネリオの天幕は賑やかな世界。
その天幕を頃合いを見て、頬を緩ませて出たユーリー二世だった。
セネリオはもう大丈夫だろうと。
エレイン皇女特性スタミナドリンクを強制的に飲まされていたし、それからマルクス・ヴァレリアヌス殿の『竜丹A』も追加して飲んでいたし。
後はゆっくり休めば若いセネリオの事、すぐに元に戻るだろうと思っての事。
それに久方ぶりの甥の彼等の再会を、余り水を差してはならぬという伯父心、義父心もあった。
―――エレイン皇女に関しては複雑だが。
そう兎にも角にも、これで一件落着。
本当ならそうしたいところだが、しかしシレジア国王ユーリー二世はそうはいかなかった。
天幕から出た国王は、直ぐに表情を引き締めて外に控えていた者に訊ねた。
「ア奴等は?」
外に控えていた者、それは国王付きの武将ネデリンだった。
かつて王太子となったセネリオに、シレジア最強部隊『鷲戦車隊』の講釈をした老将である。
この国王の下問に対してネデリンは、現在その表情を武人らしい厳格さを常より維持して報告した。
「今、執行者が相手をしています」
「吐くか?」
「そろそろ頃合いかと……立ち会いますか、陛下?」
「そうさな……」
ユーリー二世は呟きの後、少しの間を置いた。
セネリオは持ち直して一安心だ。
ならばその間に片付けておこう。
こうしてシレジア国王の腹は決まった。
「―――他にすべきこともないしの」
その表情は決して愉快な国王とは到底言えない、やや闇色を含んだ冷たいモノだった。
一方そんな国王の様子を長年仕えた忠臣ネデリンは、これを主君の『是』だと解釈して受け取った。
「御意、ではその場まで案内します」
「ふむ」
一言漏らした国王ユーリー二世はその場に足を運ぶ事になった。
ネデリンはその後ろ姿に付随した。
やがてユーリ二世とネデリンは【その場所】に辿り着いた。
シレジア陣営のその一角に張られた天幕に、その場所はひっそり設置されていた。
厳重な警戒、そして同時に一般兵からは隔離されたその場所は、とある囚人等が現在押し込められている。
囚人の罪状は国家反逆罪―――大逆罪である。
具体的な事例は諜報活動、王太子暗殺未遂の手引きなどが加わっている。
セネリオを手にかけようとした男を軍内部に密かに手引きしたのである。
王家の者に害成した者、即ち極刑である。
たとえ未遂でもそれは変わらない。
そしてその咎は、勿論本人だけに留まらず―――多くは一族郎党、全てに降りかかる。
国王の怒髪衝天の怒りを受けたのだ。
無論無事に済む訳がない。
―――決して殺してはならぬ。だがいかなる手段を用いても構わん、必ず吐かせろ!!
―――そう喩えどのような手を使っても。
シレジア国王の勅命である。
その命のまま逆賊である彼等は、過酷な取り調べを受けていた。
「誰が吐くか!!仲間を裏切ってたまるか!!」
「そうか」
こう啖呵やあるいはシラを切る人間に対して手っ取り早く自白させるには、古今東西使われる拷問がセオリーだ。
国王等が訪れるまで、いや正確に言うと彼等が捕まってから、此処ではずっとそれが行われていた。
さてそんな拷問には幾つかの心得がある。
只人間を痛めつけるのは普通の暴力に過ぎない、それだけでは拷問とは言えないのだ。
何故なら拷問とは、相手の身体自由を奪った上で肉体的にも精神的にも耐え難い苦痛を与えることにより、自白を強要するものだからだ。
そして拷問とは、只虐待し人間を死なせる事でもない。
―――拷問七箇条、その1。
自白を強要する時は、証言が得られるまで殺してはならない。
程よく痛めつけるべし。
その心掛けがまず必要である。
そう言う訳で今回シレジア兵の執行人が選んだ手段は、あまり手間と道具の掛からない鞭打ちと、塩水がけを行っていた。
相手の上半身を裸体にし、その上で手加減なく鞭を振るう。
打ち付ける内に相手の体が鞭が与えた力により裂傷を創る。
裂けた皮膚、血が流れる。
そこに塩水をぶっかけるのだ。
男でも悲鳴を上げない訳はない。
だが、その様子を見ても執行者達は表情を変えることなく、激痛にわめき暴れる相手を見ていた。
―――拷問七箇条、その2。
拷問をする者は、拷問を受ける側に同情してはならない。
これは当然の事だろう、相手に感情移入して哀れんだり、慈悲など与えては拷問は成り立たない。
そして拷問を行う執行者達は必要以上に加害する相手と話さない。
会話は人の交流を作る。
人の交流は心を生む。
そんなモノを持ってはならない。
―――拷問七箇条、その3。
趣味に走ってはならない。
拷問とは自白を得る為に行う手段であり楽しみではない。
相手を虐待して喜ぶ事は、拷問を受ける側に反骨精神を起こす。
そうなると自白が得られにくくなるのだ。
耐えるという感情を与えてしまう。
出来る限り割り切って、そうこれは職務行為だと思い加害を与えるべし。
しばらくして与え続けられた加虐の末、遂に一人の男が意識を失った。
その男を医師が無表情に近づき、そしてその男の状態の確認し淡々と診察結果を述べた。
「気絶しただけです」
「では、また一時間後に行う」
「分かりました、それまで治療します」
―――拷問七箇条、その4。
拷問行為の後は、必ず対象者の治療をしよう。
無論死なせない為である。
飢餓状態にする拷問以外は、適度な食事と休息を与えるのだ。
丸一日彼等はこれを繰り返した。
翌明けて、執行人はやや趣向を転換した。
自白に時間をかけるなと、上から命じられたからである。
よって拷問方法に新たなスパイスを加える事にした。
―――拷問七箇条、その5。
肉体は勿論、精神的苦痛を与える事を忘れてはならない。
拷問で痛めつけるのは体だけではない、心を痛めつけなければならない。
自白を強要するのだ、精神を揺さぶらずして何とする?
拷問、つまり苦痛を受ける事への恐怖を与えるのだ、そして忍耐力を削ぐ為にも精神攻撃は行うべし。
この時執行人はこういう手段を取った。
「お前は運が良い」
「……何処がだ?」
「真冬ではないからな。そうであればお前など一時間も待たずして憤死する」
「……」
「真冬のシレジア軍の公開極刑の一つを教えてやろうか?」
「…裸にして外に放り出すのか?」
「違うな、死刑囚を楽に死なせてどうする」
「は、火あぶりにでもするのか」
「……少し近づいたが違うな」
「?」
「まず裸にはしない、薄布を着せて固定台に張り付ける」
「ほう、寛大だな」
「そう思うか?」
「どういう…意味だ…?」
「まぁ、聞け。それから張り付けた囚人をどうするか。普通ならそのまま放置するとそれだけで直ぐに凍死だ、だから次は十二分に煮え立った熱湯を囚人にかける」
「!!」
「……どうなると思う」
「さぞ熱かろうな、だがいっそのこと熱した油の方が効果があるだろうに」
「熱傷を負わせるのが目的ならな。だが熱湯にすることにこそ意味がある」
「!?」
「……湯は冷めればどうなる?」
「水だ。それが何だと言うんだ?」
「水が更に冷えればどうなる?」
「凍るだろうな……」
「そう、そこが大事だ。シレジアの真冬の大気はみるみるうちに囚人に浴びせかけた熱湯を水、そして氷に変化させる」
「!!!」
「濡れた体は体温を奪う。だが油だとそこまで効果的に得られない。油は凍らないからな」
執行人の極刑語りはまだ続いた、目の前の拷問対象者に向かって……
「囚人は極寒の大気でまず、氷結地獄を味わい、熱湯で灼熱地獄を味わい、その熱が冷めれば更なる氷結地獄だ。だがこれもまだ序の口だろう」
床に転がった男の顔から次第に精気失せていった。
執行人はその声を変えずに只ありありと、囚人が聞きたいと望んでいる訳でもない真冬の極刑について語っていった。
「熱湯を浴びせ放置、それを何度繰り返してやっても良いが…やはり最後は放置する。するとな、面白い事に濡れた臼布は凍り付き、火傷でただれた皮膚とくっつき離れなくなる―――」
想像をしたくない世界がある。
囚人の背に忍び寄るのは、恐怖から生まれる悪寒。
「そのまま服を引っ張ると『皮剥の刑』だ。もっともその頃になると寒さの余り意識を失い、体中が凍傷になっている事だろうよ」
聞き語りの恐怖を極めた男に対し、更に執行者はこう付け加えるのも忘れない。
「まあ、それから助命されたとしても、皮膚は皮下組織までボロボロ。体中の体液が溢れて、運良く一命を取り留めても、元の姿には戻れないだろうな。四肢も腐っていくだけだし、死んだ方がマシだろうよ……」
執行者はそう冷たく言い放った。
拷問と処刑法は同義ではない、だが拷問はいつでも処刑法に変わる。
そして執行人はその方法を具体的に囚人に語る事によって恐怖を与える。
それは精神的苦痛に変わるのだ。
人は誰しも苦痛から逃れようとする。
自白を強要されて、それに対して頑固に口を割らない猛者も、絶え間なく続く責め苦の刻の中で、いつしか精神の箍が緩む時がある。
恐怖、痛み。
そして……救いを求める。
こうして、拷問という加虐を与えられし者にその『兆し』が相手に見て取れた時、執行者達は与えて反応を見るお約束がある。
―――拷問七箇条、その6。
飴と鞭。
相手を懐柔する役を用意すべし。
ずっと拷問を与えて自白の強要をし続ける相手に「吐け!!吐くんだ!!」と怒鳴るだけでは余りに能がない。
もし、拷問を受け続け弱ってきた相手に、拷問役以外の別の第三者が「大丈夫ですか?」
と優しい声をかけてきたら、その相手はどう思うだろうか?
「……お可哀想にこんなに傷ついて。さぁ、真実を話しなさい。そうすればもうこれ以上は我々も何もしません」
差し伸べられた救いの手。
この誘惑に、一体何人の者が勝てるだろうか……?
ましてや、疲労と痛みによる意識混濁の中でこの言葉を囁かれたら……?
苦痛に耐えきれぬ者は直ぐに洗いざらい吐く。
反骨精神の持ち主も、拷問を受け続ける内に観念する。
そしてこれより更に強靱な精神の持ち主も、誘惑に大きく揺さぶられていくだろう。
シレジアの執行者は、強情な人間も多くがこの段階で自白させていった。
だがそれでも吐かない人間は……?
そして拷問七箇条、その7に続く。
ではその拷問七箇条、残り最後の一つは……
男の絶叫が上がる。
この時に、訪れたユーリー二世は行われている拷問も、そしてそれを受け続ける男の悲鳴にも動じることなく、シレジア永久凍土を思わせる眼光を向けた。
やがて拷問者の悲鳴が絶えず届く中、国王はこの取り調べの長に問うた。
「大分効果はあったか?」
「はい、主立ったレルカー側の賛同者、そして陛下に畏れ多くも叛旗を翻そうとした輩につきましても、かなり情報が集まりまして御座います」
なかなかの成果だ。
そう判断づけた国王は、執行者の長に新たな命を与えてその場を去った。
拷問七箇条、最後の残りの一つ。
その一つとは、決して拷問を受ける側に与えてはならないものだ。
それは睡眠でも、食事でもない。
なぜならそれらは【奪うべきモノ】であり、与えてはならないモノではない。
時にはじわじわと苦しめる為に、僅かな食物を与えて緩慢に餓死させる刑もある。
与えてはならないもの。
恐らくこれは死刑囚にも当てはまる。
拷問七箇条、最後、それは『希望』である。
「……助けてくれ…いやもういっそ殺せ、殺してくれ!!」
遂に耐えきれず男は哀願し始めた。
「さあな」
そんな哀願など聞き入れず、鞭を一振りして男の答えとした。
もう一人がその直後に、むち打たれて苦悶した男に塩水を柄杓でぶっかけた。
「ぎゃー!!」 男はなおのたうち回った。
「安心しろ、お前の望むものは何れあたえられる。我が軍の公開処刑としてな。最もお前がその時まで生きていればの話だ。聞きたい事は全て聴き終えた以上、もうお前に用はないとの陛下の御沙汰があったからな」
再び振るわれた鞭。
また悲愴なる悲鳴が響き、そして執行者は更に事実を告げるのだった。
「それから……お前が捕らえられたと同時に、伝令の早馬がお前の郷里に向かったそうだ。ここからだと10日かかるそうだな?そしてその馬が郷里に着けば、おそらくお前の家族はもう生きてはいないだろう。一族連座だそうだからな……」
その攻めこそ、何より苦しい彼の拷問となった。
「うわーーーー!!」
上がる悲鳴は、嘆きの声。
そこには絶望しか残されていなかった。
……希望を与えてはならない。
……裏切り者には死を、王家を脅かした国賊には極刑を。
これは絶対王政の理。
次話は、再び過去編に入って行く予定です。
明るく楽しく進む予定……
途中途切れた様になっていたシレジア反乱、暗殺の追っ手、ピカゾーともう一人がフレデリカに求婚した訳の話を。
つたない小説を最後まで読んでいただき有難うございました。何か表現等でアドバイスがありましたらお待ちしております。
ログイン不要の作者への気軽な応援をお願いします!!
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。