久しぶりの「R-15」投稿です。この第29話はある意味挿入話です。
★「彼」の正体発表編★
第29話 遙かなる夜想曲
第29話 遙かなる夜想曲
ガイア大陸からかけ離れた、東の東のそのまた東にある国があった。
土着の文化と、そして伝えられる他国の文化を絶妙に取り入れて、更に独自の文化を発展させたその国は、非常に豊かでかつ平和な国であった。
その国はかつて長く男皇が治めていたが、過去争いが絶えず、人々は何時も目に見えぬ不安に怯えていた。
ある時、旅をしていた異国の皇子がこの国にやって来た。
異国から来たその皇子は、国の世継ぎだった。
そしてまるでその証の様に、皇子はその側に神秘的な獣を連れていた。
その獣は人語を解し、その姿は自在に変わり、多くは美しい天かける翼ある白色の馬の姿をしていた。
またその獣は不思議な力を持っていた。
一度皇子が命じれば、単独であるいは皇子と共に天変地異を引き起こした。
そんな異国の皇子が、旅の途中で訪れたこの国で、彼は一人の美しき乙女と出会った。
それは『神子媛』と呼ばれたこの国の皇女だった。
一方の神子媛もまた、それは不思議な力を持っていた。
時には過去の隠された真実を暴き、遠く離れた場所を覗き、そして未来の世界を視たという。
不思議な力を持つ聖獣を連れた皇子と、その国の神秘の皇女。
一目会ったその時から、二人は恋に落ちた―――。
しかし。
異国の世継ぎと神秘性を求められる神子媛との恋。
多くの者がこの恋を反対をした
ただでさえ争いの絶えぬ国は、ますます不穏となり、まるで不幸が重なるかのように当時の皇が崩御するや、直ぐに乱が起こった。
そして乱が勃発するや、たちまち神子媛は否応なしに、この不毛な世継ぎ争いに巻き込まれた。
……皇位継承権を持つ者達が、自身の皇位継承を優位にする為に、こぞって神子媛を妻にしようとしたのである。
しかし恋人である異国の皇子が、その野心を阻んだ。
幼少よりの極め続けた剣術と、そして自身の聖獣の助けを借りて、神子媛を我が物にしようとする権力欲に駈られた者達から、皇子は神子媛を守り抜いていく。
次第に争乱はこの二人が渦中となっていく。
やがて争乱の中、神子媛を守って戦い抜く皇子は決意した―――祖国を捨ててこの国で生きる事を。
そしてこの国に真の安息をもたらしてみせると。
それから同じ事を神子媛に誓った。
神子媛は皇子の誓いを心から嬉しく思った。
―――この国に真の平和と安らぎを。
こうして皇子は神子媛と共に争乱を平定していく、幾人者の皇位継承者を斥け、あるいは斃していった。
やがてこの皇子と神子媛の誓い―――国の平安と安息を求めるという―――に共感する者達が仲間となり、この二人と力を合わせて争乱を平定していった。
―――国の未来の為に。
かくて2年の歳月の後、最後の皇位継承者を屈服させて、遂に二人はこの国に平和をもたらした。
その後、多くの草民の支持を受けた神子媛は、この国の新たなる皇となり、皇子は新皇の補佐をして、新しい国造りをしていったのである。
聖なる獣を従えた異国の皇子と、神秘の力を持った神子媛。
彼等の治世は、この国の草民に圧倒的な支持を受けて続いた。
それ以降この国は平安の時を迎え、穏やかにそして豊かに繁栄を築いていく。
それから幾世紀が過ぎた。
国を治めし皇家は、国同様に今もなお二人の血統が脈々と受け継がれており、また神子媛から続く平和の治世が、末永く続く事を願って、この国の皇は何時しか代々神女皇が治めるのが仕来りとなった。
その国の名を神聖ジパング帝国という。
そしてこの神聖ジパング帝国に、時を経て再び異国の皇子がやって来た。
伝説の聖獣と共に、同じく次代を担う責務を負った世継ぎの皇子。
この国に古く名を残す異国の地―――フィンダリアから、遙々遊学という名目で訪れたのである。
そしてこの皇子もまた古に漏れず、この国の『神子媛』と呼ばれる人物に出会ってしまった。
しかし。
この時の異国の世継ぎ皇子が―――フィンダリア皇太子マチス・レオナートが出会った『神子媛』は、皇女ではなく…超絶世の美貌を持つ『美少年』だった……。
更に運が良いのか悪いのか……フィンダリア皇太子は大層彼に好意を寄せられた。
此処でのフィンダリア皇太子の滞在は、それこそ短いものであったが、時の神女皇や先代皇を始めとした人々に彼はとても慕われた。
その後、彼がこの国から出て祖国の帰路に発つ時は、大層別れを惜しまれたという。
更にそれから8年の時が流れていった。
☆°*。+°☆*。+°☆°*。+°☆°*。+°☆*。+°☆°*。+°☆°☆°*。+°☆*。
時はまだシレジア王国とリーヴェ共和国が、互いの領海となる北方の海、カレリア海の覇権を巡って大規模な軍事行動を起こす直前の頃。
神聖ジパング帝国、その都は平和京。
チェスの盤目のように整えられた都、その中央に大きな峰があり、その峰を中心とした一帯が、広大な敷地面積を持つこの国の統治者の居城だった。
そんな宮殿のとある楼閣に、一人の佳人がいた。
その姿は黄檗色の金の髪、瞳は透き通ったまるで紫水晶を思わせる藤紫色をした瞳は、それは目を見張るような美しさ。
まさに絶世の美女と言いたいが…残念ながら彼は男だった。
さてその佳人は、届いたばかりの懐かしい人物からの便りに目を通していた。
目元を綻ばせて読む便り。
その最初の文面はこうであった。
≪ピカゾー、元気か?≫
クスクスと笑いが起こる。
こう言うところは全然変わってないなと、『ピカゾー』は思った。
そうこの佳人のフィンダリア名は『ヴァレリー・フラマ・エムバーレン』という。
そしてまたの名を、セネリオ命名『ピカゾー』といった。
この時、『ピカゾー』が手にして読む便りは、シレジアの王太子セネリオが書いたものである。
≪シレジアも、フィンダリアより少し遅れて木々の緑が色濃くなり、日々温かくなる今日この頃。菫もたんぽぽも咲き始めた。そちらの国ではどんな草花が咲いているのだろうか?まぁ、ピカゾー、どうせお前の事だから、相変わらず花火の打ち上げでもしているのだろ?良い新作が出来たか?もし会心作が出来たら今度シレジアに送ってくれよ、こっちでみんなと一緒に観戦したいからさ―――≫
(フフフ、君は朕の花火だけは、お気に入りだったからな。……よし!!今度とっておきの仕掛け花火を送ろう!!)
便りをくれた可愛い異国の王太子を想い、そう『ピカゾー』は考えた。
再び便りを彼は読み始めた。
≪―――(中略)それからこの前送ってくれたジパングの地酒…「スッポン・一本」の事なのだが、アレは私ではなく伯父上が非常に喜んで飲んでいたぞ。
そう試飲した次の日などは、「ウッホホーイ、ウッホホーイ!!」と何だか凄くご機嫌で、近頃お悩みだったらしい腰痛にも効果覿面だったそうだ≫
プププ…その光景が目に浮かんだ。
四年前に会った愉快なシレジア国王の姿が。
≪……(中略)まぁ、そんな訳で、今ではすっかり伯父上のお気に入りになってしまって、「もっと欲しい!!」と頼まれた。
済まんがまたあの地酒を送って欲しいのだが。
替わりにこちらからは、シレジア特産・白詰草蜂蜜とそれを使って作った蜂蜜酒、そして同じく特産のミスリルをこの手紙と一緒にたっぷり届けるから―――≫
(OK!!OK!!「スッポン・一本」直ぐに沢山送るからね~~!!)
贈り物が喜ばれて、とても嬉しい『ピカゾー』だった。
ちなみにこの便り、『ピカゾー』がセネリオに贈った物に対しての、彼からのお礼状でもあったのだ。
そして。
―――『ピカゾー』。
便りの所々に書かれたこの呼び名。
それにしても、今となっては非常に懐かしい呼び名だった。
セネリオが『彼』を呼ぶ時に、何時も用いてたその『名』は、その後フィンダリア宮廷で瞬く間に浸透していったあだ名だった。
しかしこの国では―――無論そのような名で『彼』が呼ばれる事はない。
そして『彼』の事を名指しで呼ぶ者もない。
この国では『彼』は尊称で呼ばれていた。
もしこの国で『彼』の事を名で呼ぶ者があるとすれば、それは肉親しかあり得ないだろう。
しかしそれは本名ではない。
この国では本当の名は隠される。
決して人に知られてはならぬ物、本当の名を知った者は、その名を持つ者を支配し、また自身が知られれば他者に支配されると考えられていた。
故に本当の名は『真名』、そして『諱=忌み名』と呼ばれていた。
―――『ピカゾー』。
今思えば『ピカゾー』として彼等と過ごしたフィンダリアの数年の日々が、『彼』にとっての最も輝いた日々だった。
しかしその切っ掛けは、友の悲劇が発端だった。
傷つきボロボロで祖国に帰って行く心の友リオンが心配で、後からフィンダリアへ追いかけていったのだ。
この国ジパングから飛び出して―――そして『彼』は自由を手にした。
何者にも捕らわれず、自由に、それこそ天馬のように羽ばたいていた日々だったと思う。
本当に楽しかった日々―――
しかしそこに何時までも留まる訳にはいかなかった。
どんなに離れがたくとも、自身に課せられたモノがある限り。
だから己の友が、自身の行く『道』を決めるまで側にいて見届けた。
それは数年かかった。
無理もないと思う、愛する人を奪われた心の深手。
その疵を癒すのに、歳月が必要だった。
けれども、もう大丈夫だと思ったから帰国した。
それはもう容易に会う事が叶わないと分かっていた別れ。
だが、それでも生きていればまた逢う時がくるだろう。
その時まで―――
≪……(中略)それから、有難う。
お前がこうして私にこまめに手紙を寄越すのは、私の事を気にかけてくれているのだろう?
今のシレジアは、フィンダリアとの関係が正直に言ってあまり芳しくない。
あのクズの…いや、違うな、私の所為か。
全ては軽率だった私の行いの所為だ。
シレジアとフィンダリアの関係が著しく悪化したのは。
私がシレジアの王太子になる事が、同胞だったフィンダリア人の潜在意識に恐怖を与えるとは、あの時露程も思わなかった。
聖獣を持った私が、祖国フィンダリアを離れて他国に身を置くという事は。
無論それは伯父上達にしてもそうだ。
その為、あの時フィンダリアが、このシレジアに対して、私の身柄を引き渡すように、武力をかざして要求してくるとは、全く考えていなかった。
本当に思ってもみなかった。
だってそうだろう?
あの時はもう、私はリーケと結婚していたんだ。
だからもうフィンダリアには、祖国だったあの国へ帰る訳には行かなかったんだ。
彼女を置いてフィンダリアには帰れない、喩え兄上が迎えに来てくれても……≫
(……あれは哀しい兄離れだったね、セリー……)
(きっとリオンも悲しかったはずだよ。大切な弟の幸せに水を差したんだからね、それも思いっきり氷水……)
≪……(中略)なぁ、ピカゾー。私は何時の日にか、また兄上のお役に立てる時があるだろうか?
―――もう一度兄上に会えるのだろうか?≫
(……今はまだ無理だけれど、何時かそれは叶うよセリー)
(国と国との対立なんて、お互いに抱える利益を共有したいと考えているのなら、永久には続かない。王が代われば、自ずと国政も変えられるよ……)
(そう君達が互いに『王』となって、君達が新しい国交を結べばいいのさ)
「そうしたら昔の様に笑えるさ、きっとね……」
ふと手紙を読む手を置いて呟くと、彼の側に近づく者がいた。
『彼』はその人物を目聡く視界に捕らえると、口の端を少し上げた。
「……随分と早いな。お前を呼びに人を遣わして、まだ半刻も経ってないぞ、来真。来ていたのか?」
顕れたのは若い女だった。
だが驚くべき事に只の女ではなかった。
それは彼女の容姿そのものが、それを物語っていた。
性別と髪の色を除けば……もしこの場に第三者が居れば、それはさぞド肝を抜かすだろうと思われた。
さて顕れた来真と呼ばれた女の方は、静かに『ピカゾー』の疑問を解いた。
「貴方の親しきお国より便りが届いたとの事、そう聞き及びまして参じました。八卦にも動乱の相が出ましたので。そろそろ風が動くと……。そうなれば私にお声をかけるでしょうから……」
「お見通しと言う事か……。流石我が国最高の『星読み』、余計な手間が省けて助かるな」
全てを悟る来真は『ピカゾー』の言葉に微笑を浮かべて頷くと、『ピカゾー』はすれ違いとなってしまったが、彼女を呼び寄せた訳を明かした。
「星の巡りを感じた……。北星のざわめきと、不吉なる流れ……だから、向かう事にする。暫く留守にする、後を頼む」
「行く先は何処へ?」
「シレジアへ」
来真の問に『ピカゾー』は目を閉じて完結に答えた。
一方のその答えに、来真はやはりと思った。
―――不穏なる相は北から流れてきていたのだ。
―――そして『北』には、この御前の君に深い縁の者がいた。
―――だから、きっと駆け付けずにはいられないのだろう……
一呼吸の後、来真は再び訊ねた。
「この度は如何程迄でありましょう?」
「国内ではない以上少々長く空ける、だが今度はそんなに掛からない、せいぜい2ヶ月程だ」
「お一人で?」
「先に単独で向かうが、後から朕の迎えに船艦を出せ」
「……では後から『赤潮』『黒潮』『漣』『鳴門』を」
「悪くないな、平和に慣れた蒙を啓かせるのに、それで充分事足りるだろう」
クスリと笑った『ピカゾー』と、そして来真。
彼等はそれからこんなやり取りをした。
「何、何かあれば『チャッピー』に押しつけとけ」
「ええ、困った事があったら関白にご相談します」
「ああ、そう言えば来週小除目があったな。小除目は太政大臣にでも読ませておけ、それから朝議は他の大臣共が勝手に仕切って決めてくれるから、お前は適当に相づち打って御簾の中で昼寝でもしてろ」
小除目とは、臨時に行われる官僚の任官式。
朝議とは、この国の閣僚会議に匹敵する。
御簾とは、この国独自のカーテンか―――この国の貴人は余り人前に顔を見せないので、姿を隠すものである。
余程親しい者は別として、人との対面は御簾ごしが慣例であった。
……しかし、重要な朝議に昼寝はないだろう。
だから来真はこう答えた。
「はぁ、昼寝は無理ですが、御簾内でそれなりに過ごさせて頂きます」
来真の返事に頷いて、さらに『ピカゾー』はこう続けた。
「母様は今若返りに聞くという温泉巡りでお留守だし~、姉様達は…仕方ない誤魔化せ!」
「……毎度の事ながら、本当に進歩のない事を仰いますね…”天藍”。大上皇様や院様も、そんな貴方に呆れてばかりですよ」
ため息混じりの来真の声に、『彼』は破顔した。
『天藍』―――それは『ピカゾー』という呼び名同様に、『彼』にとっては非常に懐かしい、『彼』が幼少のみぎりに呼ばれていた名だった。
幼なじみとして育った従姉妹に、『ピカゾー』はその呼び名で呼ぶ事を許していた。
やがて笑いを治めた『ピカゾー』はこう来真に告げた。
「良いのさ、これくらいで。そう男だからね……」
来真はそれを聞いて目を細めた。
その通りだと思ったのだ。
―――二人の話はそれから直ぐに終わった。
「ではこれをお前に預ける」
『ピカゾー』は自ら今羽織っていた衣を脱ぐと、来真に手渡した。
その衣の色は黄色の様でありながら、光に当たれば七変化する不思議な色彩を放つものだった。
その色彩の名を黄櫨染という。
―――それはジパングで唯一人の為に存在する最高位の色である。
来真はその衣を恭しく預かった。
「確かに玉命謹んで承りました」
恭しく頭を垂れて衣を受け取った来真の顔、それはもう一人のピカゾーそのものだった。
「では行ってくるぞ、我が影星!!」
告げた旅立ちの言葉。
来真は主君に見送りの言葉をかけた。
「はい、どうぞ行ってらっしゃいませ、我が皇。燁武帝、一日も早いお帰りをお待ちしております」
来真の言葉を聞いた『ピカゾー』―――神聖ジパングの統治者は、笑顔で踵を返して部屋を出て行った。
また彼の自由なる刻が始まる―――。
☆°*。+°☆~~☆°*。+°☆°☆°*。+°☆~~☆°*。+°☆°
※作者からのお詫び※
「シャイニング」を表す一文字。おそらく「携帯」で読まれている方は文字化けしている事と思います。この箇所には「火ヘン」に「華」という一字を使用していますが、携帯ではこの漢字は認識しませんでした。(PCでは認識しましたが)
訓読みで「ヨウブテイ」と読みます。煌びやかな花火好きの彼にどうしてもこの一字を名として使用したかった作者の我が儘です。済みません。
彼には一緒にセリーとレルカー戦出て貰います。
何故かは…まて次話ですが、彼を出すのは科学者の悲哀なるものを書きたかった為です。いうなれば「ピカゾー」は、作者にとって「フォン・ブラウン博士」です……
つたない小説を最後まで読んでいただき有難うございました。何か表現等でアドバイスがありましたらお待ちしております。_(^v^)_。
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