第2話 『仮』王太子セネリオ・レグランド
第2話 『仮』王太子セネリオ・レグランド
そして再びシレジアの王宮、『翡翠宮殿』の『彼』の部屋。
「はぁー」
『セリー』ことセネリオは、再度ため息をついていた。
<主……>
気遣う『聖獣』は、ただ今『鷲』。
『黄昏乙女』は心配げに声をかけた。
そんな時、彼の部屋に入ってくる者がいた。
セネリオに付けられた侍従の男で名をアキーム、その姓を『シューイスキー』と言う。
この時20代…23才頃であろうか、武家の出自の貴族であり、彼自身は準男爵である。
なかなかに面倒見の良い、侠気ある男であった。
「『王太子殿下』、ご準備は宜しいですか?」
にこやかに声をかけ、『今日』の彼の予定を伺う。
セネリオはウンザリしながらも、了解の意志を示した。
「ああ、いいよ。ところで今日は『何人』いるんだい?」
「今日は少なくて『5人』ですよ、『王太子殿下』。国王夫妻と王女殿下も皆でお待ちです、今日も頑張って下さいね!!」
笑いながら答える侍従シューイスキー。
(5人か……いい加減早く諦めろよ、『求婚者』め……)
ウンザリと思っていても仮『ツァーリ』ことセネリオは、肩に『鷲』を乗せて侍従の彼と共にこの部屋を後にした。
一方その頃…シレジア王宮を取り巻く面々。
国王ユーリー二世はいたく今日もご機嫌である。
鼻歌交じりに今日の予定を聞いていた。
予定を告げるのは彼の宮宰にして、腹心たるチェブーニン侯爵リュドミール卿である。
宮宰とは『宰相』とほぼ同意である。
その彼は、にこやかに今日の予定を国王に報告していた。
「…(中略)の件で以上でございます、陛下。そしてこれよりは例の『御前試合』の御観覧で如何でしょうか?」
『御前試合』と聞いて、ユーリー二世はヤッターと言わんばかりに訊ねた。
「おお!!今日もいるのか?それは楽しみだのう~。して『ツァーリ』は?」
宮宰もにこやかに国王の問に応じた。
「はい、先ほどお知らせに人をやりました。王后陛下も姫様も、既に観覧席に着いて今か今かと『スタンバイOK!!』でございます!!」
「グフフ、今日もセリーの『活躍』が見られるの~。本当に良い『王太子』じゃて!!」
「ええ陛下、本当にあのセリー様が来られて以来、宮廷は『飽きません』ね~!!」
うんうんと宮宰に頷きつつ、国王は『観覧席』に向かった。
そして―――
「セネリオ皇子!!我こそは代々シレジア王家の『鉄の門』と自負するストラデスキー伯爵家。その現当主が次男ヤコフと言う!!いざ尋常に勝負!!」
宮殿内の野外謁見場に設けられた『簡易闘技場』で、その男は堂々と相対するセネリオに向かって啖呵を切った。
セネリオはウンザリしながらもその男に応えた。
「はいはい分かったよ、君も『リーケ』の『求婚者』かい?」
『リーケ』とは、セリーが考えたシレジア王女の愛称である。
そんな王女こと彼女の名は、イリーナ・フレデリカ・リューリク=シグルフと云う。
美人で優しく、そして賢い19才の王女はこの国中のアイドルでもあった。
そのためセネリオが王女を愛称呼ぶ事に、この男もとい求婚者Aは過剰反応した。
「なっ…ひ、姫様をそのように慣れ慣れしく呼ぶとは…!?何と無礼な!!」
何を馬鹿らしいとセリー相手にしなかった。
「従姉妹何だから良いだろう、別に~~」
「そ…それは…う、いや、しかーし!!俺は認めん!!認めんぞ!!」
求婚者Aは至極当然な事を言われて狼狽えたが、すぐに発奮した。
そんな男にセネリオは冷めた突っ込みをした。
「……何で君の許可がいる?」
「ぐぐっ、そ…それは…」
「好きなのか?」
ドッキーン★
2度目の突っ込みは、大図星。
求婚者Aは開き直ってセネリオに叫んだ。
「そうだ!!悪いかぁ~~!!」
やれやれと云わんばかりにセネリオは口を開く。
「……じゃあ本人に聞いてやるよ。おーい!!リーケ~!!この男はどうだい?」
セネリオは大きな声で観覧席の従姉妹姫に問いかけた。
すると……
「あ…胸の前で『ペケマーク 』。しかも笑ってるしー、残念だね『君』、失格だよ。諦めて他の娘探してくれる?」
観覧席では、セネリオの『挑戦者』を第一印象で婿候補にするかを判別している、シレジア王家の一家がいるのであった。
……それを家族みんなでジェスチャー中。
……なんとアットホームで愉快な国王一家である。
「なっ?そ…そんなぁフレデリカさまぁ~~」
そんなジェスチャー中の国王一家を見た求婚者Aは嘆いた。
「ハイハイ、男は諦らめが肝心さ」
セネリオはさらりと言い切った。
だが、恋に破れてもまだ挽回の機会がある。
「くっそー、こうなったら『実力』で姫様を頂きにあがる!!」
求婚者Aは直ぐさま切り替えて、セネリオに戦意を向けた。
ようやく相手をする時が来たセネリオは、不敵に笑って言い返した。
「それは『私を倒して』からだよ、『布告通り』にね。……じゃあ始めようか?」
「おう!!いざ尋常に勝負!!」
そうして彼らは剣を交えて、1・2・3。
「スキあり!!」
「ぎゃん!」
求婚者Aの剣をすぐさま叩き落として勝負がついた。
観覧席からは歓声が上がった。
「先ずは『一人』片付けた、ハイ次行こうか?」
セネリオの言葉に進行役を努める男が畏まって了解した。
「次の王女殿下の婿決め御前試合挑戦者、前へー!!」
進行役に呼ばれて、また男…求婚者Bが現れた。
「我こそは…!!」
そう名乗りを上げ、そして王女にアピールし、国王一家がジェスチャーで『第一印象』を良いか悪いかを応えて――すべて『×(ペケ)』――、そしてセリーがトドメを刺す。
もう毎日がこの繰り返しであった。
――――何故セネリオがこんな事をしているのかと云うと、それは二ヶ月前、シレジア王国中に国王の名でこんな布告が出された事に端を発する。
【シレジア国王ユーリー・コンスタンチン・リューリク=シグルフ(ユーリー二世)は、我が甥にして『フィンダリア帝国第三皇子、セネリオ・レグランド・フィンダリア』を『王太子』として迎え入れ、また我が一人娘の『最有力婿候補』に『決意』した。異議ある者は訴えよ、そしてかの者より武勇に優れていれば、改めてその者を我が一人娘の『婿候補』、そして『次代のシレジア国王』とする】
『フィンダリア帝国』――――
この世界――ガイア大陸の「北東」~「中央」にかけての大帝国にして最古の王国。
そのフィンダリア帝国の現皇帝にして、セネリオの父マチス・ガルボ3世。
彼は若い頃より戦に明け暮れては、その都度勝利を重ね『武帝』で知られた男であった。
その武帝の異名――実は『戦』だけではない。
彼もそうだが歴代のフィンダリア皇帝は、多くが武芸の達人であった。
中には例外もあったが、その理由は『聖獣』にある。
フィンダリアの皇家の者は成人すると、『聖獣』を持てるか儀式によって試される。
見事『聖獣』を手にする事が出来れば、その比類なき『力』を手に出きるが、それを手にする前は――普通の人間と何ら変わりない。
(最も、見事『聖獣』の『主』となっても、様々な『魔法』を使えたり、『不老不死』になるわけではないのだが……)
よって遙か昔から、フィンダリア皇室の者を暗殺する時は『幼少時代』というのが定石で、刺客達はこぞって皇家の『子供』を暗殺してきた。
そうなるとフィンダリア皇室の者も暗殺されないように考え、そして武芸を磨くようになる。
それも物心つく前から始められるのだ。
セネリオことセリーもその一人。
幼き頃から皇太子である兄と共に武芸を切磋琢磨してきたのだ。
その甲斐があって、齢十を迎える頃には並みの大人の剣士では、彼には歯が立たない程にまで腕を上げたのだ。
そんなセネリオと現在互角に戦えるのは、父帝と、そして兄である皇太子、幾人かの剣豪として謳われる人物だと、専ら母国の宮廷で云われていた。
この点――『武芸』と云う事に限れば、彼が馬鹿にする異母兄弟である『馬鹿ジョン』もまた『阿呆トニー』も『凄腕』であった。
しかし個人の武勇だけでは『戦』には勝てない、それは後にこの二人は証明することになる――
その事を国王の独自情報網…いわゆる密偵で熟知していたユーリー二世は、セリーをダシにして、『国内』で『婿捜し』をすることを、セネリオと妻と娘の4人で『家族会議』をして決めたのであった。
その時の会話。
「まあ、素敵!!きっと云いお婿さんが出来ますわ、ねえ、フレデリカ?」
王妃にして王女の母たる、母后イリーナ・アナスタシアは嬉々として夫たる国王ユーリー二世の提案を娘に話しかけた。
しかし、当の王女フレデリカは余り乗り気では無かった。
「お父様…お母様も、本当にこんな事をして私の夫を探す気ですか?これではまるで『力自慢大会』ではありませんか。確かに武勇は大事ですが、『国王の資質』とは武芸だけではなく、もっと違うモノがあります」
「大丈夫だよ、我が娘よ~。実際はお前が『女王』だよ~ん。内政はお前が行い、何か敵が攻めてきたら選んだ『夫』征って貰いなさい。気に入らない『夫』だったらそこでそのまま暗殺…いや、名誉の戦死を遂げて貰いなさい」
娘を宥めるように、そう国王は話かけていた。
(は、始めから娘の夫を殺す気ですか、伯父上……)
この時その様子を見ていたセネリオはそう思った。
だが一方でこんな意見を王后イリーナは夫に訴えた。
「しかし、ねぇーあなた?私、娘の夫つまり『婿』になる殿方は、素敵な『美形』でないとイヤですわ…見栄えの良くない『婿』なんか―――」
すぐに娘は母に反発した。
「お母様、国王の資質には『顔』も余り重視してはいけません」
「あらそんな事云わないでよ~!!『国王の資質』も大事ですけどね~、はぁー、だって『息子』になるのですもの~。だってこの『私』の!!お母様は、お婿さんは可愛くないと絶対イヤ!!」
そう言い終えた王后イリーナは、「はぁ」と一つため息をついた。
(―――伯母上『おもちゃ』じゃないですよ、『ペット』じゃないですよ、『婿』は……)
この時その様子を見ていたセネリオは、またそう思った。
すぐに国王ユーリー二世は笑顔で妻と娘に向かって宣言した。
「大丈夫だよ、我が妻よ~、我が娘よ~。だってこのためにセリーには頑張って貰うのだよ~ん。『仮』の王太子としてね。彼の『名』にびびった者はもう求婚者から外して良いし、異議があれば『挑戦者』としてこちらに来るだろう。そして彼らが刃向かって来たら、この甥が片付けてくれる。そうだな、セリーや?」
国王に意見を向けられて、セネリオは表情は笑顔でにっこり答えた。
しかし内心はまだ軽い躊躇いがあるのだが……
「ええ、構いません。伯父上達のために一肌脱ぎましょう。丁度武者修行でもしようかと思っていたところですし、良い挑戦者に当たりたいですね」
そのセネリオの自信たっぷりの言葉を受けて、王后イリーナはまるで娘の世代に戻ったかのように、はしゃいだ。
「まぁ素敵ですことセリー!!期待していますよーー!!醜男の求婚者などはもうめったんぎったんに返り討ちにして頂戴ね~!!」
「はい、伯母上。期待に充分に応えますから安心して下さい、それから、『リーケ』、君も安心してくれていい。ちゃんと君に相応しい『婿』が現れるまで、変な男は私が撃退するからね」
「セリー……」
憂い顔をさせた年上の従姉妹姫は、そうセネリオを呼びかける。
セネリオはそんな彼女の心配を払う事にした。
「私は君より年下だけどね、ちゃんと君を守るよ……!!」
そうセネリオは笑顔で約束した。
そんな風に会話をする年頃の二人の従姉弟同士。
そしてその様子を尻尾を生やした国王夫妻がニコニコ笑って見ていた。
それから『家族会議』の済んだその夜、シレジア国王夫妻は寝台の中の睦言でこう話し合っていた。
王后イリーナはウキウキしてその時の事を振り返った。
「先ずは『作戦その1』は、見事成功でしたわね~あ・な・た♪」
「おお、そうじゃ!!グフフフ…!先ずは『セリー』を『国内で認めさせる事』が肝心だからの~♪……絶対に逃せられない『婿候補』、引いては『息子』じゃ!!」
国王ユーリー二世も、喜んで妻の言葉に同調した。
「ええ本当に、私もあの子なら大歓迎でしてよ~!!あん、もう本当に可愛くって~!!はぁ、あんな息子が欲しかったのよーー!!金髪に、素敵な翡翠の瞳をした綺麗なお顔のお・と・こ・の・こ!!」
ショタコン気味の王后イリーナはかなり興奮していた。
一方の甥に惚れ込んだ国王もまた、妻と大して変わらなかった。
「うんうん、そうだろうイリーナや!!しかも『セリー』はホントに出来が良い。武芸ヨシ!!頭ヨシ!!性格ヨシ!!」
「ああ、何より『セリー』はとっても可愛いのよ~~!!ああん、もう早く『お義母様』と呼んで~『セリー』!!」
―――そして夫婦の結論は。
『絶対に逃さないぞ(ですよ)、セリー!!』
かくて国王夫妻は一致団結したのであった。
余談だが、その夜のセネリオは何故か悪寒が走った様な気がした……。
そういう事情で日々行われているこの『御前試合』――別名、『フレデリカ王女の花婿争奪試合』あるいは『次期シレジア国王位争奪戦』。
既に布告より2ヶ月余り、当初よりは求婚者数はかなり減ったとはいえ、未だ続いていたのであった。
基本は、『仮王太子』セネリオと求婚者本人の一騎打ちであった。
中には代理を立てる者がいたが、その強敵すらも彼、セネリオは難なく打ちのめした。
若干16才にして、彼は既にその剣技は『超一流』であったのだ。
(ああ、何か物足りないな。母国で異母兄弟と打ち合っていた方が、まだ訓練になるなぁ~)
そうぼやきつつ、セネリオは順調に二人目、三人目、四人目を難なく倒し終えた時、本日最後の挑戦者が登場した。
そうして現れた五人目は、鉤鼻の目立つ、肌がでこぼこした大きな熊男であった。
「我こそは…!」
そう言って又一人若い男がセリーの元にやって来た。
だがセネリオは……
「もう聞くの飽きた、君の名前なんて知らなくていいや、…おーい!リーケ~!!この男はどうだい?あらら、すぐに大きく『ペケマーク 』。しかも伯母上まで力入れて『駄目だー』って言ってるしー、残念だね『君』も失格だよ。まぁ悪い事云わないからさ、これで諦めて他の娘探してくれる?」
「なっ…何でだ~!!」
男…名乗らせて貰えなかった求婚者Cは叫んだ。
「う~ん、そりゃ『顔』じゃないかな君の場合は。伯母上『面食い』みたいだし~、やっぱり見かけは大事だよ、君もせめてお洒落だけでも気を遣ったら?」
「ふ…ふざけるな~~!!男は顔じゃない!!強さだ!!あっちもこっちも!!」
「……何だよ、その『あっち』も『こっち』って…一体何が言いたいんだ……?」
「そそ…それはだな、やっぱり『アレ』だ、男は『床』で勝負だーー!!」
少々顔を赤らめた後、求婚者Cは手に握り拳を作って持論を述べた。
セネリオは馬鹿らしい彼の持論について聞き返した。
「お前……それは駄洒落か?『オトコはトコ』でってトコロがさ、それとも単なる下品な言い回しか?」
「フ、童貞には分からんだろうがな~、女はみんなこうなのさ」
求婚者Cはセネリオを、只『年下』という事を根拠にして彼を小馬鹿にした。
セネリオはその事にピクリと反応し、冷ややかな瞳をさせて彼お得意の『毒舌』を披露した。
「――――分かっているさ、お前が『下種』だと言う事はな。『女はみんなこうなのさ』だって?お前を基準に考えるな、それはお前が今まで相手をした『女』達だけが言うことだろう?しかもお前の事だ、所詮金で購った『女』達なんだろう?そんな『女』達だけしかお前は相手をしてもらえないのだろう?この、『“玄人”しか知らない“脱童貞者”』が!!」
グサリ★
「ん、なななっ、何だと~~!?」
求婚者Cは見る間に顔色を変えていく、セネリオは続けて指摘した。
「違うのか?そう言う台詞を吐くのなら、『実力』で落とした女を抱いてから初めて言え、馬鹿なヤツ」
グサリ★グサリ★
「こ、このくそガキ~~、貴様なんぞはまだ『童貞』だろうがーー!?」
立て続けのセネリオの毒舌に、顔をトマトのようにさせて求婚者Cは彼に怒鳴った。
しかし、当のセネリオは、「フ…」と意味深に鼻で笑って一蹴した。
その態度に求婚者Cはいぶかしむ。
「おい、何だ!?何だその顔は!?その余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)とした態度は?」
セネリオはその事には応えずに、只、フフフと笑っていた。
しかし求婚者Cがあまりにしつこく聞きたがるので、セネリオはこう言った。
「私を誰と心得る?このフィンダリア帝国第三皇子、セネリオ・レグランド・フィンダリア、またの名をルネス公。『君』とは『違う』よ」
「何…!?」
「生憎『君』と違って何もしなくても『女』は寄ってくるのだよ、『お兄さん』!!」
グサリ★グサリ★グサリ★
トドメの一言をもって求婚者Cを半瞬の間、戦闘不能に陥れた。
つまりセリー君は『脱童貞者』であったとさ。
だがこの求婚者Cは今までのヤツとは違った。
僅かな茫然自失の後、彼は言い放ったのだ。
「はっ、確かに俺は金で買った女共ばかりを相手にしているさ!!だがな、何処かの国の【寝取られ皇太子】よりは遙かにマシさ!!」
――――寝取られ皇太子。
この言葉を聞いた途端、セネリオの表情が、いや、醸し出す全ての気配が一変した。
その様はまさに、鬼哭啾々(きこくしゅうしゅう)のごとくである。
そのセネリオの変貌に、今までやんややんやの歓声を上げて『御前試合』を見ていた国王一家、そして周りを鈴なり押し寄せ『闘技場』囲んで観戦していた宮廷人を始めとした観衆達は驚愕した。
それは、その言葉をつい云ってしまった求婚者Cもである。
云う慣れば『売り言葉に買い言葉』であったのだが……それはセネリオの逆鱗に触れてしまったのだ。
求婚者Cは、慄然としたものをそのまま体で表し始めていた。
「あ…あ…」
やがて、変貌を遂げた【フィンダリア帝国第三皇子】が降臨した。
「……よくも…よくも、『兄上』を侮辱したな…貴様~~~~!!」
セネリオの声に『聖獣』が呼応した。
<主……!!>
『鷲』の姿を変化させ、それは『炎』となり、『主』の手に『剣』となって収まった。
「ヒーーーー!!」
求婚者Cは恐懼した。
その非現実的な光景、そしてその余りのセネリオの放つ殺気に……!!
セネリオはその放つ殺気と共に、その『力』の一端を解放した。
それは――――
――――求婚者Cを一刀両断すると同時に瞬時にして『灰』にしたのだ。
彼が持っていたその『剣』、それは『聖獣』たる彼の僕の別姿。
その名を『塵灰の剣』。
触れるモノを全て、その名の通りに『灰』にする『剣』。
セネリオに従うその『聖獣』、『黄昏乙女』の『火』の『力』であった。
シレジア王国の人々にとっては、それはあり得ない出来事であった。
その一驚が、その全てを包み込んでいた。
国王も、王妃も、そして王女も、進行役の男でさえ――――
程なく。
兄を侮辱した男を激情のままに消し去った少年は、そのすぐ後に冷静さを取り戻したが、何となく場の雰囲気を感じ『聖獣』と共にその場を去った。
『天馬』に乗って空へと……
「セリー……!!」
フレデリカは天空に去っていく年下の従兄弟の背に向けて呼びかけた。
だがセネリオは……その呼び声に振り向く事は無かった。
そして未だ驚きの中の王女、けれども彼女は思わずセネリオに呼びかけずにはいられなかったのだ。
――――その…もの悲しく、とても傷ついているように見えた少年に。
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