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一日2回の更新は初投稿以来ですね。こんなにも長くなるとは……。(R−18も更新したから三話投入です (@_@))
第28話 希望を託す子供達〜下〜
第28話 希望を託す子供達〜下〜




 さて、お腹の中の赤ん坊が動いた事で、その子の両親は嬉しそうに、ついつい尋ねてしまう。

 あらあら、あなたは女の子なのかしら?
 名前を気に入ってくれたのかな?

 そんな会話を二人は笑って交わした後、リオンはもう一つの名の由来をクラヴィアに話した。
「実はね、それだけじゃなくてね……ほら、こんな言葉も込めているんだ」
 そう言うとリオンは再びペンを走らせて、メモにその言葉を一つ書き示した。

―――「Filia」

 それを読んだクラヴィアは、今度はその古語の意味を知っていたので、リオンに確認するように尋ねた。
「『フィーリア』……つまり『娘』ですか?」
 リオンは頷いて肯定した後に、その理由を話した。
「そうだよ、私は産まれくるこの子の本当の父だと、今は名乗り出る訳にはいかない。だが、どんな形でも私はこの子を『娘だ』と呼び掛けたいから……だからこの名を与えたいんだ」
 そう語るリオンの声は優しくも…哀しさがあった。
 どんなに愛し合いながらも、不義を冒して生まれた子供は宗教上『悪魔の子』。
 教会の祝福すらも受けさせて貰えない。
 一生を差別の中…そんな人生を歩ませたくはない。

―――だからリオンは決意していた、まだクラヴィアには伝えていない、エレインに問詰められても話さなかった自分たちの『子を生かす道』。
 喩え何を犠牲にしても(・・・・・・・・)

 一方そんなリオンの内心を知らないクラヴィアは、生まれてくる予定の娘の名前を気に入って屈託無く喜んでいた。
「本当に素敵なお名前です。その名の意味も、そして名前の響きも、とてもに女の子らしく優しい感じがして、妾はとても気に入りました。もしこれから生まれてくる子供が女の子なら、是非その名を付けさせて頂きますね。『Thalia(サリア)Fine(フィーネ)』と……」
 ところが、名前を発表したリオンの方が反対に「待った」をかけた。
「いや、でもカルドラ語じゃ…この綴りだと『Thalia(タリア)』だから……もっと他のを考えるよ」
「いいえ、この『サリア』という名の響きがとても気に入りましたから、こう名付けませんかリオン様?それに名を新たに考えるのではなくて、この『サリア』の綴りを替えれば良いのでは?」
「それは?」
「カルドラでは『サリア』とはこう書くんです……」
 そう言うと今度はクラヴィアがペンを取り、その名を書いた。

―――「Sarria」

 博識高いフィンダリア皇太子も、世の中全ての事を把握している訳ではない。
 それに喩え語学力が堪能でも、個々の異国の単語のスペルをいちいち全て習得している訳でもない。
 よって知らなかった綴りを初めて教えられて、この時リオンは素直に感想を述べた。
「成る程。これで『Sarria(サリア)』と呼ぶのか…、スペルの『アール』がポイントかな?」
「フフフ…そうですね、ですがフィンダリア風にそのまま『エレ』を一つ取ってしまっても良いでしょうね……」
「ハハハ全くだね、これだと知らない者が見たら、『綴りが一つ多い』と誤解してしまうかな?」
「本当ですね」
 そう二人で大笑いした後、やがて笑いを収めたリオンは持論を述べた。
「だけどねファナ、言葉というものは普段私達が考える以上に大事な物だよ。これは君の国の言葉だ、だからこそ大事にしよう。『サリア』と言う発音がちゃんと残り、私達が望むこの子の未来の幸せを願ってね……」
「ええ、妾もそう思います」
 こうして娘の名前は内定した。

 『Sarria(サリア)Fine(フィーネ)』と……

 だが息子の名は今少し吟味が必要、「もう少し待って欲しい」とリオンはクラヴィアに伝えると、彼女は笑って了承した。
 この時、もうすぐ生まれて来る子供の誕生を待ちわびて、そしてその子供の名前を考えるこの二人。
 それは一見すればとても幸せな若い『夫婦』だった。
互いに深く愛し合う、まさに美男美女でそれこそお似合いの一組。
 それなのに彼らは夫婦ではない。
 かつての国と国とで決められた婚約者同志は、今では皇后はは皇太子むすこだった。
 どれほど愛し合っていても―――不倫と一言で難なく片付けられてしまうものだ。
 しかしそれでも二人は愛し合う、引き離されるほどに、年を重ねるほどにその愛と絆は深まり、互いを離れがたくして。
 それは密かに育む確かな愛。
 
 リオンとクラヴィアは、今もその想いを確かめ合うかのように、やがて口づけを交わし合った。
情熱的に触れあいながらも、しっかりと身重のクラヴィアの気遣いは忘れないリオンのキス。
 それにうっとりと酔わされていくクラヴィア。
 さてさて、このまま最後まで行ってしまうのか?
 妊娠中でも愛し合えるやり方で。
 だが此処に緊急警報が入る。
 
≪主…小さなお邪魔虫が『犬』と、その『犬』の飼い主に更に片眼鏡をかけたツン様と一緒にもうすぐ来ますよ≫

 皇后の胸元飾る『リーフペンダント』がそれを告げるや、どたどた聞こえる足音に、二人は瞬時に愛の時間の中断を余儀なくされた。
 そして。
長兄あに上!!」
 大きな音を立てて、自ら部屋の扉を開けてきたのは小さなお邪魔虫……いや、リオンの弟にしてクラヴィアの愛息ジュリアスだった。
 この時、彼の母親との熱いキス後でもあるが、その弟の凄い怒り具合にリオンはドキマキして声をかけた。
「や…やあ、ジュリアス、お邪魔しているよ」
「ずっと此処にいたんですか?」
「……此処に来ていた教母を訪ねて、それから少しうたた寝していたからそうなるのかな?」
「俺との約束は?」
「約束……」
 じっと恨めしそうに見つめる弟に、リオンはハテ?と考え込んだ。
 すると後からやって来たガルフォードがジュリアスの後から、小さな皇子にばれないように手話紛いのジェスチャーをしてリオンに伝えた。
 そのガルフォードの側でラインノールが苦笑を僅かに浮かべている。
 そんな中、リオンはガルフォードの伝言を解読していった。

(…今日…ジュリアス、剣の稽古…約束…あ!!そうだった!!)

 ようやく思い出したリオンは、直ぐに末の弟に詫びた。
「ご免よ…今日は色々とあって、その…君との約束を果たせなかった。許して欲しい」
 素直に悪かったと認めてシュンとうな垂れた長兄に、ムッツリしながらも物わかりの良い第五皇子は許してやった。
「もう良いですよ。長兄上の代わりにバイロンが相手をしてくれましたから……」
 そう言い終えたジュリアスはプイっとリオンから視線を外しそっぽを向く。
 その仕草は、大人びているとはいえまだ子供だった。
リオンは弟のそんな姿を可愛いと思いつつも、彼のご機嫌を取りながら後にいる武の腹心にも労いの声をかけた。
「……それからガルフォードもありがとう、ジュリアスの相手をしてくれてね」
 皇太子のこの言葉に、ガルフォードは「何の何の」と笑って応え、その後間髪入れずにラインノールがリオンの側に寄り耳打ちした。
 
―――例の女の件、西の毒婦に無事に伝わりましたと。

 どうやら牽制にはなったようだ。
 これでしばらく大人しくしてくれると有り難い。
 何れは、長年積み重ねてきたその所行に対して、それ相応の待遇を与えるにしても、まだ時機早々だった。
 自身が帝位に就くまでは、彼女にはまだ生きていてもらおう。
 最も病死してくれればそれにこした事はないが、まだまだピンピンしている、同母弟セネリオ流でいうと第二正妃クソババーだった……。
 そう思い僅かにほくそ笑んで、フィンダリア皇太子は「分かった」と唯一言だけにそう智者の腹心に伝えた。
 それで彼には充分なのだ。
 その証拠に、ラインノールは彼らしい微笑を浮かべて皇太子の言葉を受けたのである。
 さて一方、おかんむりの皇子ジュリアスに母后クラヴィアは声をかけている。
「皇太子殿下はいつもご多忙なのですから、余り我が儘を言ってはいけません」
「ですが約束だったんです、母上……」
 この母の言葉に唸る息子。
 その時。

 グ〜〜〜キュルルルウ〜〜

 大きな腹の虫を鳴らしたのは、一番の食べ盛りの少年だった。
さぞバツが悪いのだろう。
それこそ怒っているのか、恥ずかしいのかが判別着かない位に顔を真っ赤っかにした皇子。
 瞬く間に周囲に笑いが起きるが、それは決してこの少年を馬鹿にしている訳ではない。
 それから子供ながらも、我が身の恥辱だと感じ入る弟にリオンは話しかけた。
「夕食を食べていないのかい?私も何だよ、そうだ、今夜はここでご馳走になろうかな?丁度そこにいる二人と一緒にね、それから食事の後は君とチェスをしたいんだが、相手をしてくれるかい、ジュリアス?」
 
―――チェス。

 今日に知られる最も有名なこのボードゲーム。
しかしこの遊び、実は『戦術』・『戦略』に基づいたものである。
 チェスの表すモノクロは二つの『国』、一回の試合はその王の『時代』、使う駒は二つの国の『兵種別部隊』。
 8×8のモノクロ盤上は『戦場』で、そして64の力の世界心理もまた表している。
キングはその時世の国家元首、様々な兵隊を使っての王同士の国盗り合戦。
如何に駒を進めて王手チェックメイト―――国を奪えるかというゲーム。 
 楽しいが、残酷な面も秘めている、言うなれば戦闘法を遊びながら学ぶのに適しているのがチェスだ。 
 そしてジュリアスはこのゲームが好きだった。
 すかさずこの長兄の言葉に、ジュリアスは喜び勇んで飛びついた。
「本当ですか!?」
「勿論だとも、昼間君の相手を出来なかった代わりにね。本当にご免よ、明日こそは君の相手をしっかりするから、それで許してくれるかい?」
「はい!!」
 こうして目を輝かせて喜ぶのは子供そのものだった。
 そんなジュリアスを見てリオンは内心ほっとした。
 昨今この弟が、次第に子供らしい感情を失いつつある事に対して、彼と母であるクラヴィアはとても心配していたのである。
 これは無理も無いの事かも知れない、女同士が一人の父帝おとこを巡って相争う後宮という複雑な世界を垣間かいま見て。
 そして聡い故に、陰謀巡らす宮廷人達を人一倍強く感じては嫌悪感を抱き、更に殺し屋に狙われてからというもの、この少年は人間不信になっていた節があったのだ。
 だからこの弟の無邪気な反応を見られて、彼等は嬉しかったのである。
 それからリオンはもっとジュリアスを喜ばせる事を話した。
「チェスなら私だけでなく、ここにいる彼等も強いよ」
 ジュリアスのチェス相手は、たまには父帝が構う時があるが、つい最近までずっとリオン一人だった。
 今でこそ宮廷に父親と共に顔を出すようになった、サイアスという神童で知られる少年が遊び相手として一人いるのみである。
そうチェスの対戦相手、同じ相手ばかりでは個人の攻防手段に癖が出て、それを覚えてしまえば飽きる。
 少年の興奮は絶好調になった。
「では食事の後は総当たり戦です!!改めて勝負を挑むぞバイロン、それからクレンネル!!」
 少年皇子の大胆不敵な宣戦布告に対して、大人達はそれぞれの性格で応じた。
「よ〜し、昼間に続き負けませんよ殿下!!」
「…フフ、たまには良いでしょう、退屈させる暇など与えませんよ、ジュリアス様」
「望むところだ!!」
 年の差なんてなんのその、勝負事には男は熱くなる。
 そんな彼等を笑って見守る皇后とそして兄皇太子だった。

―――こうしてこの夜の王華殿は、賑やかで楽しい晩餐の後、チェス大会が開かれる事になった。 
 
 さてそのチェス大会中で、ある話題が上る。
「もうすぐジュリアス様に、ご弟妹きょうだいが生まれますね……」
 駒を差しながら、そうバイロンが感慨を込めて言った時、対戦している少年皇子は冷めたコメントをした。
「そんなの一杯いるだろう?」
 それが異母の兄弟姉妹がてんこ盛りに存在する皇子の感想だった。
 そんな事よりも今の一勝負が大事なジュリアスである。
「いやいや。今度お生まれになるのは正真正銘のご弟妹ですよ?母君が同じなのですから」
「変わらないさ」
 そう言って好手を出す少年。
 正規軍の副師団長(当時)は負けじと防衛した。
「そうですかぁ〜?俺は楽しみなんですよ、皇后陛下の新しい御子が……」
「女ならさぞ皆喜ぶだろうな、待望の正嫡・・の皇女だと騒いでな……」
 淡々と述べるその感想、この会話をワイン片手にチェス観戦していた残りの二人は一方はため息を吐き、もう一方は七歳の少年皇子の現実的な感想に成る程と思った。
 特に長兄である男の落ち込み具合が著しい。
そうっと熱戦をする二人から離れて、窓際に移った皇太子リオンは、ボソリと弟に気付かれないように呟いた。
「もう少しは喜んでくれてもいいのに……」
 彼に付随してきたラインノールは、年端のいかぬ第五皇子の先ほどの発言と心情を彼なりに分析した。
「そうですね、ジュリアス様にとっては、もし生まれるのが『弟君』でしたら、新しい帝位継承者候補ですから、そう安易に素直に喜べないのでしょうね、きっと……」
「……クスン、やっぱり女の子がいいな。彼女に似た可愛い女の子…そうしたらジュリアスの邪魔にはならないからね……それなら少しは『妹』と仲良くしてくれるかな……『妹』を可愛がってくれるかな……」
 イジイジ皇太子を情けなく思いつつ、ラインノールは如何にも彼らしい現実的な自身の意見を述べた。
「我が帝国では、女帝の例もありますよ?貴方の情が優先すれば、それこそ可能です―――」
「―――私はそこまで愚かじゃない、才無き者にこの国の未来を託せないよ。ジュリアスの才を私は誇りに思うしね……」
 リオンはラインノールの意見を直ぐに否定した。
 だがこの片眼鏡の冷徹者は、それだけでは退かない。
「ですから情だと私は言っています、言い切れますか?これから先、実子より実弟を優先できるかと」
 そうラインノールの言うとおりである。
 親子の親愛の情を優先するあまり、一体どれほどの国王達が後継者問題で愚行を働いた事であろうか。
 不出来な後継者を立てる為に、身内でも臣下でも優秀な人物を排除していったのが史実である。
 今でこそ英明なるフィンダリア皇太子マチス・レオナート、その彼がその清廉なる優秀な判断を人生最期まで失わないと何故言い切れるのか?
 ラインノールが真意に思うのはそこである。

 貴方にそれが出来ますか?
 これまでのように……そしてこれからも―――情によって国政を狂わす事態を招きませんか? 

 それは後世に名を成す為政者としての命題か?
フィンダリア皇太子もまたそう思わぬでもない。
 子供可愛さに、愛故に―――
国家の為にクラヴィアという名目上の愛を一度捨てた、だがもう一度それが出来るのか?
 思わぬ苦渋の思惟を、この腹心にして幼なじみに強いられたリオンだった。
 沈黙の時が僅かに流れた、室内ではチェス試合がまだ続いている。
 開放された窓辺に立ち、夜の外気を受けながらやがてリオンは呟いた。
「…………嫌な質問だ」
 今はそう答える事しかできない。
それはラインノールが望む答えではないと分かっていたが、それしか今の彼には言えなかった。
何れ訪れるであろう未来に対して、国政とは別次元の問題に。
 しかし当のラインノールにしても、リオンの明解な回答が欲しかった訳ではない。
 少しはぐらかされた気がしたが、それで良かった。
だが自分の出した未来の可能性ある問題について、皇太子に対して少々度の過ぎた意見であった。
 そうラインノール自身が認めざるを得ないのもまた事実だ。
「……申し訳ありません。一臣下として意見させていただきました。最も貴方がそのようなお方ではないと、私は信じていますよ」
 そうラインノールは皇太子に対して謝罪と信頼の言葉を口にした。
 リオンの方もそれを受けて短く笑い、「もういいさ」と伝えてこの話を流した。

 さて皇太子と若き富豪侯爵がシリアスしている頃、チェス駒を差しながらガルフォードとジュリアスは兄弟について語り合っていた。
「……まぁ、ジュリアス様も本当のご弟妹きょうだいが生まれたら、お気持ちが変わりますよ」
 コトンと一つ駒を進める。
「お前の事か?」
 同じくジュリアスも駒を一手動かした。
「はぁ〜〜、こう言っては何ですが、俺は今までず〜〜〜っと男子一人で育てられましてね、それがひょんな事から両親に赤ん坊が出来たんですよ」
 コトン。
「ああ、お前の年の離れた弟の事だな」
コトン。
コトン。
「はい、年はそうですね……殿下より三つほど上です。まぁ両親から見れば『恥かきっ子』と言うヤツで……」
 駒を移動する動作を止めてジュリアスが聞いた。
「何だそれは?」
「母……いや女性が年を取ってから出来た子供をそう言うのですよ」
「ふ〜ん、そうなのか?初めて知った」
 問題解決をしたのでジュリアスは駒を置いた。
「ハハハハ、ウチんトコの両親が年甲斐もなく熱かったんですよね〜これがまた」
 コトン。
「?良く判らんが、要するに仲が良いんだな」
コトン。
「まぁ、そう言うヤツで、トトト…ほい、ルーク頂き!」
 コトンと駒を進めてジュリアスの黒駒ルークを取ったガルフォード。
 対戦する皇子は悔しがった。
「〜〜〜油断した、で、お前は俺に何が言いたい?」
 次に進ませる駒を握りしめて、ジュリアスは彼の真意を探ろうとした。
 ガルフォードは優しい年長者、そして年の離れた兄弟を持った経験者として伝えた。
「生まれてみれば分かりますよ……同じ母君から生まれた大切なご弟妹の事」
 そう言われてもジュリアスには実感が湧かなかった。
「……長兄はともかく、あの愚兄共や姉達、そして妹らと何が違う?」
「違いますよ……。それは生まれてからのお楽しみですね」
 そう目を細めてジュリアスを見るガルフォードは、こう思う。

―――今はまだ分からなくとも、きっと大切にお思いになりますよ。
 あのリオン様やセリー様のように。
たとえ離ればなれになろうとも、心が繋がり合う兄弟に。

 ジュリアスはそんなガルフォードの言葉にまだ半信半疑であったが、何れ生まれれば分かる事だと、そう自己解決した。 
 そして再びチェス盤に向かう。

 その後に、この時ガルフォードが予想した事―――。
それは見事に的中し、ジュリアスは生まれた『妹』を非常に可愛がる事になる。
そしてリオンが願っていた「妹と仲良くして欲しい」―――そのリオンの願いは、彼が思う以上にジュリアスは叶えるのだ。

 妹と兄妹の垣根を越えて愛し合う事によって―――

 だがそれはまだ将来さきの話。
その後に訪れる数奇な……そして狂った運命の果てをまだ彼等は知らない。 


 さて、窓際に移った皇太子リオンとクレンネル侯ラインノール、しこりを残すあの話の後、二人はワイン片手に別な話題を話していた。
 すると。
「うわ〜〜〜!!ジュリアス様、そ、それは待った!!」
「戦場に『待った』が通用するのか?潔く負けを認めろ、バイロン」
 どうやら勝負が着いたらしい、
 御年七歳の皇子に、フィンダリア正規軍の第一副師団長は黒星を付けられたようである。
窓際のリオンとラインノールは室内の勝負会場を見遣る。
 そこには頭を抱え込んで落ち込む蜂蜜頭の大男、そんな彼を情けなさそう見上げる犬、そして内心はご機嫌なのにすましている皇子がそこにいた。
 更にその周囲はクスクス笑って観戦していた皇后を始めとした、側付き女官が数名いる。
 その様子を愉快げに見ていた、窓際の長兄と名門侯爵家の若き当主の視線に気付いたジュリアスはその二人に声をかけた。
「さぁ、次の相手はどちらですか?俺の方はウォーミングアップが済みましたよ」
 自信たっぷりの皇子の発言に、新たなる対戦者となる二人は顔を見合わせた。
「どっちから先に勝負しようか?」
先発・・があまりに情けなかったですね、こう言う時は中堅・・が挽回しないといけません。どうか大将・・は大仰にお待ちを、私が先に出ます」
 その言葉を聞いた皇子は不敵に笑った。
「クレンネルか…お前に勝ったら、たっぷり小遣いを頂くとしよう」
「あ〜、ジュリアス…ラインノールと戦う時はお金の話をしてはいけないよ〜、絶対に勝ちに来るんだよ〜〜、容赦ないんだよ〜〜」
 長兄がすかさずラインノールの真の恐ろしさを伝えるも遅かった。
「フフフ…宜しいでしょう、お互い手を抜かずに戦いましょうか、ジュリアス様」
 キラリンと片眼鏡を光らせ、真剣モードに突入した大蔵侯爵クレンネルがそこに誕生した。
 かくて第二番のチェス勝負が開始する。
 このチェス大会は、それからもかなりの熱戦の為に夜遅くまで開かれて―――対戦者達は、この王華殿内に寝所を与えられて、異例の一夜をここで過ごす事になる。

 
 それから疲労を負った人の上に、眠りは等しく訪れる。
そして眠りは人を再び夢幻回廊へと誘って行く。


 セリー………

 君に会う事が叶わなくなって幾数年。

 君がフィンダリアにいた頃は、君は常に私を不幸だと、そう私よりも嘆いていたけれど……それでも私は今…『幸せ』なんだよ、こんなにも入り組んで複雑な関係を愛する女性と結んでいても。
 そんな彼女が産んだ弟が、今の私には息子同然で―――そしてもうすぐ、私の本当の子供が生まれるんだよ。

 守る者がある限り、人は強く生きてゆける。

 それが私がこのフィンダリアにいる理由だよ。
どんなに『彼』を怨嗟しようとも、それが『彼』の側に留まる理由だ。
 
 『あの時』―――もし、私に『あの時』振り払った君への心残りがあるとすれば、それは唯一つだよ。

 君は今…幸せかい?

 君の幸せだけをこの母国フィンダリアから祈るよ、セリー……もう一人の弟よ……


次話からやっとセリーだよ。国王を出そう、やっぱり拷問ありかな毒使いの刺客……再会するエレインとはどうしようかな?
まだ未定です。
つたない小説を最後まで読んでいただき有難うございました。何か表現等でアドバイスがありましたらお待ちしております

追記:作中に「恥かきっ子」と言う表現がありますが、高齢出産をする女性とその子供を侮蔑して用いてはおりません。
あくまで昔の人は(日本)こういう風に言いました。
閉経間近い女性が出産することをです。(正確に言うと「初子」を産んでから長い間子供を産まなかったお母さんが、突然子供が出来て産んだ子供…兄弟が親子になる状態であります)

ご了承下さい。
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