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戦い後半戦…そして編。
第19話 レルカー会戦前(5)相克惨花~後編~★残酷な描写有り
第19話 レルカー会戦前(5)相克惨花(後編)


 午前に切った戦闘の火ぶた、未だ分からぬ勝者の姿。
日は斜陽の時刻を迎えようとしていた矢先、その局面を変えるために、遂にシレジア王太子セネリオは動く。

 今のこの戦場の状況は…残念ながら中央は不利、敵が殺到し、今最も被害が甚大である。

きっとかなりの犠牲を出している事だろう。

 しかし、戦闘経過の中で中央主体にシレジア軍に攻め込んだ敵リーヴェ軍――否、連合軍と呼ぶのが妥当か――が指揮をしている左翼陣、そのリーヴェ左翼軍が今、ガーリチ将軍指揮下のシレジア軍右翼に撃破されつつあったのだ。

 敵の一角が崩れる!!

 これは―――包囲殲滅をしかける好機!!

 セネリオはそれに気付くや、敵に敗北という楔を打つために号令を出した。
鷲戦車隊アリオール・タンクに連絡しろ、丘から下りて敵中央側面を叩け!!」
「はい!!」
 副将シューイスキーは伝令兵達に命令下達のラッパを吹かせた。
 この命令ラッパ音が届くや、現在ロストフポーリ丘陵地斜面の有利な位置を占めたシレジア軍は、王太子の号令に従い各『クラースヌイ隊』『スィーニー隊』が、たちまち整然とした隊形を組んで斜面を怒濤のごとく降下した。
 これは彼らにとっても時機到来だった。
その攻撃力を最大限にアリオール・タンクが突撃した。
それは数で圧倒したはずのリーヴェ軍が、数で劣勢だったシレジア軍にまさに王手となる反撃を受けたのだ。
 このシレジア王太子の采配は、それは敵本陣と残る敵右翼の混乱をもたらす。
北の獰猛なるアリオールが、敵中央側面にその猛禽のくちばし穿うがつ時、それはリーヴェ連合軍の中央軍崩壊を促し、瓦解させる致命傷となる。
 それに間髪入れずに続くはシレジア王太子自ら率いる左翼軍、そして敵左翼を撃破した右側軍である。
 これこそが斜行陣を取る時の最大の理由最後の3つ目である。
そう斜行陣とは、防御しながらも反撃を狙える陣形。
 片翼下がりの守備隊形に徹し、敵陣が深く自軍―――片翼下がり陣形―――の懐に入ったら、すかさずもう一方の味方陣が回り込み、敵を囲んで叩く!!
 包囲殲滅!!
 これこそが狙いの陣形。
 世界戦術史を変えた最初の陣形。
 まさに最古の迎撃・反撃陣形であったのだ。
 そしてこの瞬間、初めて戦場で相争う2国間での優位体勢が確立した。
シレジア軍が優勢となったのだ。
 その猛攻勢にリーヴェ軍は次々討ち取られていく。
リーヴェ軍旗手兵が倒れる毎に、彼らの国旗も又地に崩れ落ちる。
 そんなリーヴェ共和国の国旗は―――紺碧色の旗地、中央に黄金の『マーライオン』(ライオンの上半身に、魚の下半身の獣)を配置し、その右に剣、そして左に錨をかたどった紋章である。
 この御旗を持つリーヴェ旗手兵たる彼らが倒れ、そして掲げしその御旗も同時に地にひれ伏すさまは、彼らに自分たちの劣勢さをますます重くのし掛からせる。
 だが一方で自軍の劣勢―――その様子を後方から見ていた、敵リーヴェ連合軍本陣総指揮官ペリノア王は直ぐに檄を飛ばした。
「怯むでない!!敵は全軍をもって我らを今まさに囲まんとす、だがこれこそがまさに反撃の時!!我は今こそ第1の投げ槍を投ずるであろう。ここで我に続くことを拒むものはただ死あるのみだ!!さぁ同胞達よ!!我に続けーー!!」
 この叱咤激励が崩壊しつつあったリーヴェ軍の、兵達の消失寸前の戦意に息吹を与えた。
 ペリノア王もまた自ら躍り出て大反撃に出たのだ!!
 それこそがまさにペリノア王の言う、第1の投げ槍を投ずるもの!! 
 包囲をかけようとしたシレジア軍を、反対に総司令官に鼓舞され活気づいたリーヴェ軍が迎え撃ったのだ。
 こうして戦場は再び乱戦になり、シレジア軍の優勢が瞬く間に振り出しに戻った。
だが敵総指揮官ベリノア王の『第1の投げ槍』、つまり反撃はこれだけでは済まなかった。
なんとシレジア軍の連携が、このリーヴェ連合軍の勢いで乱れたその隙をついて、今度は彼の方が全軍に命令を飛ばす。
「今だ!!シレジア軍を包囲せよ!!方角は【北東】だ!!け!!」
 戦意を盛り返して連携乱れていなかったリーヴェ連合軍!!
 その軍が今度はシレジア軍に逆襲しにかかったのだ。
 この襲撃をモロに喰らったのは、リーヴェ軍から見て北東にいたセネリオ率いる【左翼】である。
 ペリノア王は敵である総大将セネリオの本陣を狙ったのだ。
 敵軍の死力を投じたその大猛攻を受け、セネリオ率いる左翼は絶対絶命の危機に陥った。
「捕らえろ!!」
「殺せ!!」
 突撃してきたリーヴェ兵は、セネリオを大将…いや敵軍王太子と見分けるや歩兵も騎兵も関係なく彼に殺到して襲いかかった。
「く!!」
 セネリオは向かって来る敵兵を、数え切れないほど次々と刃で持って屈服させねばならなくなった。
 それはシレジア王太子の握る王家の剣、この剣が夕焼けの色を反射した刃なのか、それとも鮮血のに染まった色なのかが分からなくなるほどまでに。

―――ある者には剣で胸を突き刺し、次の者は武器を握る腕を刎ね、それから時には首を刎ねて。

 敵兵個人との対決ならばセネリオは負けない。
 しかし戦はそうではない。
 圧倒的な数で攻められ、そして総大将たるセネリオが結果として捕虜にでもなったら、その時点でシレジア軍は敗北である。
 だからこそ王太子を守る為、シューイスキーを始め幾人ものシレジア兵がセネリオの周囲に集まって壁を作った。
 必死で防御に徹する左翼シレジア兵!!
 片や敵の総大将を捕らえるか、あるいは殺害を目論むリーヴェ兵!!
 セネリオの周りはこれによって、大剣戟だいけんげきなる死の演舞が繰り広げられた。
殿下ツァーリ〜〜〜〜!!」
「セネリオ様ーーー!!」
 左翼軍の危機に気付いた鷲戦車部隊アリオール・タンクの『クラースヌイ隊』率いるスヴャトスラフ将軍、そして『スィーニー隊』率いるビリュコフ将軍の両部隊が直ぐに救援に駆け付けていく。
 そのアリオール・タンクの救援突撃が、結果として敵陣包囲の中にあったセネリオ左翼に退避の突破口を切り開く事となった。
「全軍アリオール・タンクが作った敵の歪みに突っ込め!!」
 セネリオが命令するや、左翼は必死にアリオール・タンク側へと合流する。
こうしてリーヴェ軍は左翼包囲を失敗し、一方で本当に間一髪で命拾いをしたセネリオだった。
 
 かくて両軍は日没を迎えた。
 一時は優勢になったシレジア軍も、更に反撃したリーヴェ軍も既に疲労の色が濃かった。
最早これまでと見た両軍の指揮官は、それぞれ軍をまとめ撤収を開始した。

―――この日、両軍の勝敗は着かなかった。

 やがて両軍は一夜を過ごす事になる。
 総力戦で戦い抜いた両軍は、その混戦のうちに夜を迎えており、互いに敵へ夜襲をかける事など、最早この時…そんな余力もなく不可能だったのだ。
 シレジア軍にしても、そしてリーヴェ連合軍にしても、辛うじてこの夜に出来たのは、互いの陣形を整え守陣を再編し保つ事だった……。

 そんなシレジア王国軍宿営地。
 大本営、その宿営天幕に引き上げたセネリオも又、一般兵のように疲労困憊ひろうこんぱいは同じだった。
 しかし彼には総大将としての責務がある。
身に包んだ返り血と埃にまみれた鎧を近持の者に解かせ、そして付着した返り血を拭わせつつ、疲労が濃いながらも味方の損害を確認した。
 どれほどの犠牲を出したのかを―――
 この報告したのは副官シューイスキー将軍だった。
「現在、宿営陣地ここに無事辿りついた者の内、その多くの者が負傷。傷の程度にもよりますが、明日五体満足に戦える者はおよそ…半数を割るかと……」
 苦渋に満ちた表情で、そうシューイスキーはシレジア軍の損耗状況を王太子に告げた。
 戦争における『損耗』とは、戦闘における兵員の疾病・負傷者、また脱走などを含む兵の『実戦戦闘要員の減少』である。
 つまり戦死者ではない。
 この事を報告したシューイスキーもまた左腕を負傷している、セネリオと共に前戦で戦い抜いたからだ。
彼もまたなかなかの剣豪であった、それ故に王太子の侍従として王命によって命じられていたのであろう。
 一方報告するシューイスキー同様、こんなあまり芳しくない報告を受けるセネリオも心晴れるわけがない。
 けれどもまだ肝心の事を、このシレジア王太子は聞いていなかった。
だからセネリオは改めて尋ねなければならない……この苦痛なる問を。
「………して死者は…?」
「確かな事はその…明朝にならないとまだ分かりませんが……我が方の損失、約7000にはなるとの事です……」
 更に続いたシューイスキーの報告は深刻だった。
 シレジア軍は開戦時3万5千の兵を動員していた。
 つまり…その犠牲者は……
「……7000…2割を失ったのか……」
 その犠牲の数に―――セネリオは表情に一層陰を増し呟いた。

―――ここで中世年代の損害率、あるいは損失率と云われるものについて触れておく。

 損害率、あるいは損失率とはズバリ戦争における犠牲そのものである。
 そう戦において犠牲が出るのは必然である。
しかしそれは戦死者だけでなく、前述した『損耗率』の為の戦線離脱のことも含めて云うのだ。
それは割合にすると『損耗>死者』である。
 この時代ときにおける犠牲の大半は必ずしも『死者』ではない。
 理由は手に持って戦う武器だ。
 剣、槍、斧、中には弓もあるが、とにかく兵の多くは即死ではなく刃傷等により負傷する為である。
よって中世(この世界〜ガイア大陸を含む)での損害率とは、勿論死者を加えるが主に戦闘不能者である。
 だから中世の戦闘中での戦死者というものは意外に少ない。
最も首を刎ねられる、あるいは心臓一突き等なら即死だが、戦場で怪我人が放置されて死ぬ事はあっても、すぐに即死ではないのだ。
 時には降伏して全員処刑される事もあるだろう。
 けれどもその多くは戦闘による負傷の程度が生存の明暗を分ける。
 片足、片腕を無くしたり、失明する事はあっても……。
(損害率というものが死亡率とほぼ同義となって一般に解釈されるようになったのは、文明が発達し兵器が格段に殺傷能力をつけ、一度に何人もの兵を、無差別に且つ一纏ひとまとめにして効率よく殺す事が出来るようになった頃からだ。   閑話休題)

 暗い事実は天幕内に重苦しく流れて沈黙の時が続いた―――。
「王太子殿下…」
 黙止したままのセネリオにシューイスキーは躊躇いつつも声をかけた。
 声をかけられた王太子は、僅かに笑みを見せ部下の労を労った。
「ご苦労だった、シューイスキー。全将兵を出来る限り休ませろ、奇襲戦はしない。だから、もうお前も休め…そして明日に備えろ。全ては明日だ……」
「はい、ですがお食事はいかがなさいますか……?」
「携行食で済ませる、だから私に構わなくて良い」
「は……。では御前を失礼させて頂きます」
 一礼してシューイスキーは天幕を出た。
 この時王太子の鎧を外していた者も、既に一足早くセネリオの御前から退出している。
 彼は一人になった。
 誰も居なくなってからセネリオは、重い足取りを引きずって、その奥にある自身の宿営用寝台に倒れ込んだ。
 その寝台の冷たさと柔らかさが、俯せた顔と疲労困憊へとへとの彼のその身を心地よく包んだ。
 そんな彼の元に、ずっと静かに待っていた『聖獣ヘスペリス』が、その美しい白鷲の羽を広げて舞い降りた。
<主……>
「ヘスペリス…ただいま、良い子で待っていてくれて有難う」
 突っ伏したままでそうセネリオは声をかけた。
<主……何か我に出来る事がありますか?>
 疲れ果てている主に、忠実な僕は何か役に立ちたくてご用聞きをした。
「…水が欲しいよ」
<是、直ぐにお持ちします>
 主の願いを叶えるため、聖獣ヘスペリスは『鷲』の姿から見事な紅緋色べにひいろの髪の美しき『乙女』の姿になった。
 人型をとった彼女の出で立ちは軽武装、その姿はまさに戦乙女である。
 彼女はその姿になると、天幕内に備え置いてあった水瓶から、同じく置いてある銀杯に水を注ぐ。
 こうしてヘスペリスは、主の所望する水を運んで来て手渡した。
 水を飲むために半身を起こしたセネリオは、彼女が運んできた水の満たした銀杯を受け取ると瞬く間に飲み干した。
 それ程喉が渇いていたのである。
 水を飲んで一息ついたセネリオは、その久方ぶりの艶姿の『彼女』に顔を綻ばせた。
「たまにはその姿も良いね、ヘスペリス」
<主が望むならずっとこのままでいます>
「う〜ん、私は嬉しいけれど、その姿の『君』と私が一緒にいて、べったりするのはマズイよ。リーケがいるし、それにね王宮内の周知の目もあるし…」
 入り婿王太子は微妙に困惑してそう云った。
 それは下手をすると『聖獣ヘスペリス』が『愛人』と間違われる可能性が有る為だ。
 セネリオがそう危惧する理由は…それは故国からの風の便りで聞いた、兄皇太子と『聖獣リーフ』の今の関係だった。
 聖獣リーフが四六時中『美少年小姓』として兄とくっついているために、婚約解消の一件の後、未だに独身貫く兄が、いつの間にかに同性愛指向者に転向したのだと、祖国の宮廷でまことしやかに云われている事であった。
 その話を開口一番に聞いた、流石のブラコン弟セネリオも「兄上それは情けないです……」と、この時ばかりは呟いた。
 その後…そんな事にだけはつくづくなりたくないと誓う弟セネリオだった……。
 こうしてその轍を踏まえて彼は、美しい乙女状態の聖獣ヘスペリスに伝える。
「だから今まで通りの『姿』でいて欲しい。その方が気楽に一緒にいる事が出来るよ」
<是、ですが今は『側使え』をさせて頂きたいのでこのままでいます>
 そう言って微笑む『彼女』に、同じように笑みを見せたセネリオは頷いた。
「ん、じゃあもう一杯水を頼むよ」
 そう言って杯をヘスペリスに差し出したセネリオに、『給仕ヘスペリス』はニコリと微笑して水瓶を取ってくると水を注いだ。
 やがて水をもう一杯飲みつつセネリオは、所持していた携行食を軽く頬張った。

―――戦場においては、将も一兵卒も戦う時は水と食糧だけは所持している。

 これは戦闘の合間に個人で飲み食いする為だ。
戦闘の流れに比較的余裕が有れば集団で時間を取って食事を摂る軍隊。
しかし激戦の最中になると、いちいち司令官は「メシ喰え!」と、許可命令を掛けている余裕がない。
 だから食べやすく、所持しやすい保存が効く物を個人が持って密かに食べる。
 それにいざ戦えば、当然汗をかいて喉が渇けば水が欲しいだろう。
そんな事は許可無く勝手に水を飲む。
 騎乗で、歩兵なら立って持っている水筒で飲むのだ。
 仕事の最中にコーヒー飲むのと同じである。
 従ってセネリオが今食しているのもこれで、この時口にしたのは干し杏と干し肉を一つずつだった。
成人男子には少量だが、この時のセネリオは疲労の方が重きを占めていたので、それだけ頬張るとすぐに寝台に横になった。
 この頃にはヘスペリスも再び『鷲』に戻り、セネリオの寝台の側で羽を休めている。
 寝台の中で瞼が重くなったセネリオは呟くように聖獣に告げた。
「ヘスペリス…今日はごめんよ…」
<主……?>
 ヘスペリスが声を掛けた時、そう謝罪の言葉を囁いたセネリオは…もう既に眠りの中だった。


 翌日、朝日が昇り空と共に陣営が明るくなると、シレジア軍の状況もまた明るみに出る事となった。
 夜間では分かりにくかったその悲惨さに……シレジア王太子は自軍の損害に心痛めた。
 強兵と言われたシレジア軍のそのあまりに疲弊した姿。
 傷つき座り込んだその兵の姿。
 これからの戦闘行動について思惟に入ったセネリオの元に、シューイスキーがやって来て報告した。
「リーヴェの捕虜を捕らえたとの事です。お会いになりますか?」
 その報告を受けたセネリオは謁見をする意志を示した。
シューイスキーは頷いて「捕虜を此所へ!!」と下士官に命じると、その下士官が更に部下を呼び、程なく負傷し縛り付けられた敵の青年兵を引っ立てて歩いてきた。
王太子の直ぐ側まで来ると、捕虜を引っ立ててきた兵―――監視兵―――は、捕虜を地べたに平伏せるように座らせた。
そうして捕虜を地べたに座らせた監視兵は、すぐに王太子に恐縮して礼を取った。
 セネリオは黙ってその捕虜を洞察し、一方の捕虜の青年兵は敵王太子を睨み付けた。
 その視線を受けてフッと笑ったセネリオは、捕虜に向けて一声をかけた。
「威勢がいいな…名を聞いておこうか?」
 これはシレジア語で話しかけた。
 ガイア大陸の大華五ヵ国と云われる国々の言葉は公用語でもあるからだ。
 だからそのままシレジア語で話した王太子であったが、しかし捕虜の方はシレジア語とは又別の…この公用語ことばを使って叫んだ。
「It has nothing to talk to you!! There are not the names to give to you!!I do not take begging for life either!! Murder me quickly! !」
訳:(貴様らに話す事は何もない!!お前に名乗る名など無いしな!!命乞いもするもんか!!さっさと俺を殺せ!!)
 セネリオは目を見開いた、それはフィンダリア語であったからだ。
 驚くセネリオの側でフィンダリア語の分かる将兵は「王太子殿下に対して何たる無礼なる言葉を吐くか!!」と、この青年捕虜の言葉にいきり立った。
 しかしセネリオはそんな将兵達を片手で制止し、久しい祖国語で再び捕虜の青年に訊ねた。
「Are you people of the Findahlia? Or…Are you a hired soldier?」
訳:(君はフィンダリア人か?それとも…傭兵か?)
 思わずセネリオの目元が緩むのは、やはり話す懐かしい言葉の所為だろう。
 その柔らかな敵国王太子の瞳を受けて、またフィンダリア語で語りかけられた事により、捕虜の青年もやや態度を軟化させた。
「Ah…I am not a hired soldier, but my mother is people of the Findahlia.And my father was people of Northumberland, and I was born and raised in a country of father. Therefore I myself am people of Northumberland」
訳:(ああ…おれは傭兵ではない、しかし俺の母親はフィンダリア人だ。そして俺の父親がノーサンバーランド人で、俺は父の祖国で生まれ育った。だから俺自身はノーサンバーランド人だ)
 彼の答えに「成る程、母親がフィンダリア人なら話せて当然か」と、セネリオは納得したが、疑問が残る。
 何故傭兵でもないのに敵軍にいたのか?
「However, why did you who were people of Northumberland participate in this war whether it was so?」
訳:(そうか、しかし何故ノーサンバランド人の君がこの戦争に参加したのか?)
「Who participates in the war willingly!? It is that country entirely…The Liebe is the cause!!The guys Liebe is all the cause that our country was made to participate in a fight!!」
訳:(誰が好き好んで参戦するか!!すべてはあの国…リーヴェの所為だ!!俺たちの国が戦いに参加させられたのも、全部、奴らリーヴェの所為だ!!)
 青年は怒りをそのまま発憤させて、セネリオに言い放った。
 どういう事か、セネリオは彼に問い糾す。
「Did you participate in the war on the coattails of Liebe? On earth, as for it, why did your country participate in the war as a member of the Liebe force? Did you do so it for an alliance?」
訳:(リーヴェの所為で参戦した?それは、一体どうして君の国はリーヴェ軍として参戦したのか?同盟の為なのか?)
 その異国の王太子の質問に彼は俯いた。
「The,the reason……」
訳:(そ…それは……)
 そう言って捕虜の青年は口ごもった。
 やがてそんな口を閉ざした青年から、セネリオを始めとするシレジア軍はこの時初めて自分達がいかなる軍と戦っていたのかを知る。
 それから半刻が過ぎた――― 

 
 さてその頃の敵陣営、リーヴェ軍である。
 この時の彼らは、朝を迎えどうにか少しの緊張が解けたところだった。
理由は奇襲を恐れる必要が無くなったからである。
現在のリーヴェ軍は昨夜シレジアの奇襲をおそれ、特殊陣形を組んだままの状態であった。
 それは遙々遠征する彼らの独自の移動手段を使ったもので、何とほろ付き馬車である。
リーヴェ兵達は遠征中、宿営用天幕を兼ねたほろ付きの馬車を使っていた。
これを即席の遮蔽しゃへい物としたのだ。
 陣形の外堀のようにして周囲をその馬車で囲み、この中でリーヴェ軍は交替で休む。
そしてシレジア兵が万一奇襲を掛けてきたら、そのほろ付きの馬車から弓を使って反撃する。
 この馬車によるサークルを組んだ陣形は『ワゴン陣形』と呼ばれるものだ。
これは遊牧民の徹底した防御陣形として知られる。
 ここにいるリーヴェ軍は連合軍。
 戦う事を強制された同盟国という名の連合軍。
 この中で一割しか見たぬリーヴェ正規軍は、前日の戦いでは最後方で存在していたに過ぎなかった。
 正確に言うとこのワゴン陣形の中で、安全に過ごしていたのである。
 実戦に戦わされていたのは…リーヴェの国旗を掲げ、その名を持たされた『他国軍』だったのだ。
 朝貢する国々の王族を人質としてリーヴェの首都に住まわせて、その命を盾に背後から操っていたのである。
 強いられし者の戦い。
 そんな彼らは思う。
 今日の戦い、それは消耗戦となるだろう。
 
――――シレジア軍も被害が甚大だが、リーヴェ軍もまた同じ、いやそれ以上の犠牲を払っていたのである。

 そのため、長引けば不利になる。
 命じられて戦う彼らの攻防戦は、これから果てしなく続くかの様にみえた。
 だが突如として、それは上空よりリーヴェ軍陣営に飛来する。
 それはリーヴェ軍、彼らが今だかつて遭遇した事はなく、又話でしか聞いたことが無かった巨大な存在だった。
 その姿は美しく光沢放つ白銀の体と翼、そして紅緋色べにひいろの目と尾を持つ――――伝説の生物、そう『竜』だったのだ。
 しかしその竜の背には人がいた。
 年の頃なら二十歳前後、陽の光のような髪と翡翠の瞳、秀麗なる美貌の若者。
 その若者は名乗る。
 上空より全てのリーヴェ兵に向けて!!
「私はシレジア王国王太子、セネリオ・レグランド・ディス=ツァーリ・フィンダリア=シグルフと言う。私がここに来たのは他でもない、停戦を要求する!!貴殿らの総指揮官は何処であるか?」
 この晴天の霹靂へきれきにリーヴェ軍に動揺が走った。


遂に対面セリーとペリノア王。
正史の「カタラウヌムの戦い」も実は停戦で終了してるし良しとして下さい。<(_ _)>
次回は急展開かもです。
※「On earth」は直訳すると「地上」ですが、ここでは慣用句です。意味は辞書に載ってます。(意外とセンターに出るか?)
英語に関してはもう、作者最早うる覚え…です。(^^;)
文法とかはもうね、十ん年前の学生なんで…過去の遺物。
あ…あまり突っ込まないで下さい。
比喩してる文面もありますし。(詳しい方、メール添削求む!!)
つたない小説を最後まで読んでいただき有難うございました。何か表現等でアドバイスがありましたらお待ちしております。_(^v^)_。
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