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遂に登場「ペリノア王」編です。
第17話 レルカー会戦前(3)決意の戦い
第17話 レルカー会戦前(3)決意の戦い


 シレジア王国、パトソールニチニクグラード周辺の平野ロストフポーリ。
 この日の夏の朝靄あさもやの静けさは、まるでこれからの血の激突を待つ上演幕の様だった。
この時反シレジア側、敵リーヴェ軍に現在の天候を気にする一人の男がいた。
年の頃は現シレジア国王と同年代に見える男で、その体躯は中々に鍛えている勇壮な老練の将を連想させる。
 その引き締まった表情も、その身同様に他の者を従えさせるべき様をかもし出していた。
 彼の名はペリノアという。
 カレリア海―――ガイア大陸の北方の海にして、シレジアにとっては国土の西から南に面した大海。
 そこに点在する島国の一つノーサンバランド。
 その男の畏怖堂々とした風袋は当然の事で、彼はその国の正統な国王だった。 

―――このもやは、日が昇れば消え失せるだろう。
きっと今日は…さぞ晴れ渡る事だろうて。
我が国の空もこうだと良いな、麦が良く育つだろう……

 そうベリノア王は思索した。
 はるばる朝貢国リーヴェに従い、彼はもう既に半年余り故国の地を踏みしめていない。
彼の治めるノーサンバランド国は、形式上海洋国リーヴェ共和国と朝貢関係にある国の一つだ。
 しかし実質隷属されていると言い切っても過言ではない。
 ノーサンバランドは、その領土と国力の差、そして位置的関係からもっとも強くリーヴェ共和国の脅威を昔から受けていた。
 それはいつ何時侵略され、そして併呑されてもおかしくないほどにである。
だからこそこの国の歴代の王達は、辛うじて国家独立を保つ事に心血を注いできた。
 たとえどのような煮え湯を幾度と無く飲み干そうとも、国の存続を守る事が第一だと考えていたのである。
 この度の出兵もまた同じで、朝献するリーヴェ共和国に忠誠の意志を示すためであった。
そうペリノア王が率いるノーサンバランド軍は、自ら臨んでシレジア出兵をしたわけではなかった。
 その数3千余りの軽騎兵団。
 大国から見れば取るに足りぬ小国の戦力。
 しかし彼らは戦いを望まず、平和を愛する素朴な国民だった。
 それでも全ては祖国の威信と未来の為に武器を取る。
 もし一度でもリーヴェからの『同盟』と言う名の強制的な従軍要請を断れば、彼らこそがリーヴェに攻め滅ぼされるのだ。
一度強国に完全に飲み込まれてその支配に受ける事になれば、どのような情勢が国土に降りかかるか―――。
 重税、重度の賦役、権利の剥奪……さまざまな圧政が民に待っているだろう。
 これらの事の予測は想像し難くはない。
 だからこそ彼らはリーヴェに従軍した。
 愛する祖国の平和の為に、そして愛する家族、あるいは恋人と友に暮らす幸福の為に。
 
―――自国ノーサンバランド強国リーヴェに侵略されないために、他国シレジアを侵略する。

 如何にも矛盾していると、そうペリノア王自身が思わぬでもない。
また侵略を受けるシレジア国側からすれば、「ふざけるな!!」「何を勝手な事を云うんだ!!」と罵られるだろう。
 だが誰しも我が身が可愛いのだ。

 誰しも愛するモノの為に、守るために戦う。

 こうして……平和を愛しながらも、自国民からはその公正さと信義に篤い善王と慕われるノーサンバランド国王は、その戦闘手腕をリーヴェに買われたが故に、平野ロストフポーリに布陣した『陸シレジア侵略軍』の総大将・・・に変貌するのだった。


 同じ頃、シレジア軍大本営の天幕内。
総大将シレジア王太子を中心に、軍首脳部は早い朝食を頬張り作戦会議の中だった。
 食事?何を暢気のんきな事と言う無かれ。
何ごとも「腹が減っては戦は出来ぬ」という格言然り。
これは事実であるし、そもそも軍隊とは、食糧が無くなった時点で秩序を無くして瓦解する事は史実である。
 さてこの時の作戦会議の場。
ここには長く大きなテーブルがあり、その上にはマリエプル川上流域とパトソールニチニクグラード周辺、特に布陣した平野ロストフポーリの詳細な見取り図が広げられていた。
そして偵察隊の掴んだ情報から、両軍の配置関係も後から追記して記載もされている。
地図を睨み総大将たるセネリオが、地図から顔を上げ側に集う武将達を見回した。
「今の状況では残念ながら数でわが軍は負けている。だから今の守陣に『仕掛け』を含ませる」
 その場に列する武将たちは一同セネリオに同意した。
此所にいる武将達は全てセネリオに忠誠を誓う者達である。
 武将達の方はシレジア王太子のセネリオと過ごした四年の歳月の中で、実際の彼と共に戦い―――初陣はともかく、その後の戦闘を経て彼の指揮官としての能力を、『アリオール・タンク』の一件もあり、戦争屋プロとして認めるようになっていた。
 つまり『廟算ちょうさん』の一つ『人の和』を、セネリオは彼らから得ているのだ。
 廟算ちょうさんとは、あるいは『五事』ともいう『兵法』の言葉である。
この中で有名なのは「天の刻あるいは天の利、地の利、人の和」というものだ。
残り二つは「将(指揮官の統率力)、法(軍律・軍規)」である。
 人の和――それは為政者と民、そして将「指揮をする者」と兵「従う者」の心、兵の士気力・団結力である。
 勝ち続ければ戦意は高い。
 だが戦意―――兵の士気力・団結力はさまざまなもので大きく左右される。
人は全てに満ち足りていれば満足して従う。
だが反対に飢えていれば反抗する。
『飢え』とは色々ある。
食事、水、睡眠、心……。
飲み食い出来なければ動けない、睡眠取れず疲れていれば動けない、心が満たされなければ意欲が湧かない。
『心』を飢えさせるもの、これもまた色々ある。
遠征する兵の最たる『心の飢え』は望郷の念。
他にもまだあり、気候の影響もまた戦意に影響がある。
 凍えるような寒さ、唸るような暑さ…そんな時に人は積極的に動こうとするだろうか。
おそらくは動けないだろう。
 そしてこの時のシレジア軍。
無論言わずとも国防の為に戦意は高い。
たとえ数において劣勢であっても負けるわけにはいかない。
 そして総指揮官たるシレジア王太子セネリオ個人の人望もまた重要だ。
セネリオは…確かに地方を治める地方貴族・豪族達には、未だに反発を受ける立場だった。
 しかし実際に率いる軍、それこそ一武将から徴収された農奴階級の一兵卒に至るまで、実戦に挑む兵達からは圧倒的な支持を受けているのだ。
 意外な事かと思うが、これには幾つも理由がある。
 これは昔行われた『フレデリカ王女の花婿争奪試合』なるものが多大に影響しているだろう。
 まず反王太子派といえる地方を治める地方貴族・豪族。
この時彼らの子弟達は、当時皆こぞって美しい跡取り王女フレデリカに求婚し、そしてことごとくセネリオに負けた経緯がある。
「あんな異国の王太子など認めてたまるか!!」
 要するにあの時の恨みを、あまり表立って言えないが、このような形で晴らしていたのだ。
 たがその一方で、シレジア王国に暮らす大多数の民達の方はというと、彼らは直接な支配者階級である地方貴族・豪族とは考えが同じではない。
 そう地方貴族・豪族には疎まれた現在のシレジア王太子だが、国民からは絶大の人気を誇っていた。
 まず民衆というものは、強くて格好良い素敵な王子様なるものが大好きなのだ。
 それはかつて行われた『フレデリカ王女の花婿争奪試合』の一件。
この出来事は当初、布告でのみしか伝わらなかったので、国民の大半はどういった事がシレジア王家で行われたのか分からなかった。
しかしその後、シレジア王宮に仕える下働きの者や出入りする商人達の口から、あっと言う間に国中に広まり、見事最後まで全戦連勝を飾って目出度くゴールインした(?)フィンダリア皇子の事を、シレジア国民は『愛の勇者』として大喝采した。
 これはシレジア地方貴族の中には、国王に隠れて自領民を酷使するものがおり、その領主一族を間接的にではあるが、試合でセネリオが「コテンパンにやっつけた、成敗した」事になって領民達から感謝されたのである。
 また結婚式直前に現れた、シレジア王国だけでなくセネリオ自身にとっても最強・・となった『求婚者二名』を退けた事も大きい。
 この事―――『フレデリカ王女の花婿争奪試合』―――は、様々な文芸家により色々と脚色されて、後世シレジアの代表的な英雄叙事詩ブィリーナの一つとなる。
 次にセネリオが民衆の支持を受けるその理由。
 彼ことセネリオ・レグランド・ディス=ツァーリ・フィンダリア=シグルフ…故国フィンダリアで自由奔放に育ったこの三男坊は、よくニフリート・ドヴァリエーツ(翡翠宮殿)から飛び出ては、王都ホルムガルドや近郊の街に出掛けていた。
 これは実際のシレジア国内の世情を知るための事。
肌で感じなければ、宮殿の中にいては分からぬ世界を知るために。
大抵は身分を隠すが、時には素性を敢えて隠さずに宮殿の外に出る事もある。
そこで買い物をしたり、酒場で飲んだりすれば自ずと国の姿が見えてくるのだ。

――― 一体何がこの国に必要なのかを。
 
 勿論これだけではなく、同時に息抜きも兼ねているし、その他にも妻を伴って天馬に跨りデートをする事もある。
 その姿を見られる内にセネリオは「何時も気軽に民と親しむ王太子」と評判になり、そしてその気さくさが民に受け入れられたのだ。
 また聖獣を持っているという神秘性も人気に一役買った。
 だがこれだけではそこまで民に支持されない。
そうセネリオ王太子がシレジア国民から最大の支持を受ける要因。
 それは国内の環境と福祉の充実。
 この2つをセネリオは実行した。
老朽化した橋の工事、灌漑と河川の整備、教会の修復、孤児院への寄付etc……具体的に上げると枚挙まいきょいとまがない。
 だがそんな国家予算かねはどこから出てきたのだろうか?
 それはシレジアの国費には何も影響はないところから、所謂セネリオ個人のポケットマネーからである。
 そんな大金をセネリオが所持している理由は、彼の祖国フィンダリア帝国にあるセネリオ自身の奉領地にある。
 ルネス公―――その地位と領地。
 現在フィンダリアの帝位継承権を放棄したセネリオであったが、この爵位と奉領地だけはまだ彼は喪失していなかったのだ。
 そして彼の治める奉領地ルネスは、フィンダリアでも豊かな穀倉地帯の一つ。
そこから毎年収穫される実りは、ルネス公たる彼に毎年租税として定期的に入る収入である。
 それを受け取ったセネリオは、その租税額の多くを公共事業費としてシレジア中に使ったのだ。
さてここだけ聞いていると、フィンダリア帝国のルネスの民は、まるで自分たちの血税を間接的にシレジア国民に搾取されている様に思うだろう。
 しかし実際はルネスの民も恩寵を受けていた。
 それは本来ルネスの民が納めなければならない税の改訂である。
 フィンダリア帝国の租税法によると、民は国に1割の国税の納付義務がある。
そしてもう一つ地方税に当たるその地域の領主への納税もある。
これは地方領主あるいは奉領地の所有者により様々だが、大体地方税は2割となっている。
つまり全収入の内約3割が徴税される。
 しかしセネリオは、地方税にあたる自分に納めさせるべき税を「1割」とした。
 つまりルネスの民は今まで納めていた納税額が、今まで「国税1+地方税2=3割」だったものが、これからは「国税1+地方税1=2割」に減額されたのである。
 これにはルネスの民も大喜びだった。
 セネリオがそうした理由。
 それはシレジア王太子になったので、それほど私人として金銭を必要としなくなった事もある。
 もしフィンダリアにいたのなら、フィンダリア帝城の後宮内にある自分の所有する離宮の管理維持・人件費等に使うが、既に閉鎖しているので最早そんな事が無くなった。
 だからルネスからは必要以上に税をせしめる必要性がない。
 同時にそれでも手に入る収入は、これからシレジアの役に立つ事の為に使いたい。
このことを国王ユーリー二世をはじめとした、並み居る宮廷人に申し出たセネリオは、この時、後世シレジア史に大帝としての器を示す名言を残す事になる。

「次期国王たる者、自ら進んで義務と責任を引き受けなければならない」

 それがセネリオの王太子ツァーリとしての矜恃だ。
 自らに課せられたモノだけは必ず果たす。
 その為に、今、シレジア(ここ)にいるのだから。
 
 ……さて話は軍議の場に戻る。
セネリオの『守陣の仕掛け』とは何か、これを列席者の一人でスヴャトスラフという武将が聞いた。
彼はまだ二十代後半で、しかも精鋭『鷲戦車隊アリオール・タンク』の分隊指揮官の一人である。
 それに対しセネリオは口の端を上げた。
「攻撃は最大の防御となる」
「は?」
 王太子の言葉に、ついスヴャトスラフは間抜け声を出してしまった。
「それを生かすためにまず敵の攻撃法を見極める!!」
「へ?」
 更に続いたセネリオの謎解きのような説明に、ますます分からんというスヴャトスラフを始めとする一同。
 攻撃は最大の防御とは、矛盾しているがこれは如何に?
何故なら現在は守陣、即ち防御陣形であるのに?
 直ぐにセネリオはその事をかみ砕いて説明した。
「いいか、この戦いは丘を奪う事が決め手となる。それにはまず敵がどこまで我が軍に対し攻めてくるかが問題だ。戦闘開始時に丘の方が手空きになればすかさずそこを奪取する。その役はアリオール・タンクに任せる。頃合いの合図は私が出す、そして合図が出たら主力が敵を抑えている間に、卿達けいらは【後方最左翼】から何振り構わず突進して奪え!!」
 そう言って鷲戦車部隊アリオール・タンクを率いる武将の二名顧みた。
 一人はスヴャトスラフ、そして今一人はビリュコフという武将である。
「は…はい!!」
「お任せあれ殿下、例の試作品・・・も…急あしらえでありますが、辛うじて300両に設置完了しております」
 こうビリュコフが報告をするや、例の試作品と聞いたセネリオは破顔した。
「そうか、なれば心強いな。ではその車両を最前列・・・にし、敵陣を突っ切れ!!」
「はっ!!」
「了解しました!!」
 二人の命令受託にセネリオは頷き、更に命令下達する。
「無論こちらも戦いつつ陣形を右構えに少しずつ変化させ、丘の奪取に援護はするが…実際の手腕は卿達が率いる『アリオール・タンク』に掛かっている。私は本営を【左翼】に構える、そこが一番の…恐らく激戦区となろう、敵とて丘が欲しいのは必然だからな」
「確かに」
 武将達はそれぞれの態で最高司令官を肯定した。
 やがて幾つかの意見を交わした後、セネリオは遂に始動する。
「では皆行くぞ、右翼はガーリチ!!ボゴリュープスキーは中央の歩兵部隊を頼むぞ!!」
「は!!」
 総指揮官から名を呼ばれた者は次々と返事をしていった。
 そしてセネリオは最後の将の名を呼んだ。
「それからシューイスキーは……」
「はい!!」
 かつて王太子の侍従を務めた事もある武将は快活な返事をすると、セネリオは命じた。
「『お前』は私の副官を頼む、場合によってはお前が指揮を執る事も念頭に置いてくれ…私は最前戦・・・に出る!!」
「!!」
 総司令が最前戦に出る!?
 これにはシューイスキーだけでなく他の一同も息を飲んだ。
 だが一驚の後に、直ぐさま武将達はセネリオに思いとどまるよう忠言し始めた。
「ツ…ツァーリ!?」
「ツァーリ、何を言われるか!!」
「おやめ下さい!!危険です!!」
 戦とは最高司令官の死によって多くは『負け』となる。
 諸将が止めるのも当たり前だった。
 しかし王太子は頑として受け付けず、彼らの言葉を流していた。
 そんな時、同じようにセネリオを止めに入った一人の将が、仲間の言動に追従した。
「そうですとも!!我らの最高司令官たる貴方に万が一の事があれば……あ、もしや初陣の時のような事を…?」
 それは奇跡の再来を期待する発言だった。
 だがすぐさまセネリオは否定した。
「違う!!強き者が戦うべきだからだ、現に此所にいる者で私よりも強い奴がいるか?」
 そう王太子に否定され、更に一同は切り返えされた。
 そう言われた武将達は押し黙った。
 やがて若手に入る武将ビリュコフが、一同を代表するようにセネリオに答えた。
「……いません、恥ずかしながら。何度か貴方様より一本を取ったことがある者はいますが……」
 彼の言葉に頷いた王太子は、間を空けずに自慢を表情に含み微笑した。
「戦力は一人でも惜しいだろう?」
 そうセネリオは場の雰囲気を一新する為に明るく言った後、声調を変えてその本心を列席する全ての武将に向けて告げた。
「…一つ言っておく、『聖獣』に頼る事なかれ。その訳はもし私が死ねば…それは失われる力だからだ。無限ではないのだよ、この力はね。だから…フィンダリア帝国にも軍隊が存在し、お前達の様に切磋琢磨している。そしていざ戦闘が起これば、国家間の闘争である限りその力は使わない。そう一族は自戒している。これは振るう力には限度があり、その力の強さに比例して代償を求められるからだよ。……その良い例が2年前に起きた、此所シレジアにも届く程の大きなフィンダリアの内乱だったな。その時にフィンダリアの宰相は…私の叔父上はね、その力を引き出す事と引き替えに…死んだよ……」
 それはセネリオから武将達、否、全てのシレジア国民への訓諭くんゆである。
しかしその訓諭の最後の言い回しは何処か哀しげであった。

 
―――限りある力に頼るな。

―――自分たちの力こそ信じろ。

 セネリオが言いたかった言葉。
 それが伝わったのか、やがて武将達は襟を正した。
 セネリオは瞑目した後、改めて列席する一同を見渡し右手を掲げて振り下ろした。 
「出陣せよ!!」
了解ダー・ポーニャル!!神よ、我らが緑の白詰草トリフォリムの大地に祝福を、銀双頭の鷲に光あれ!!」 
 それがシレジア軍の出陣のかけ声。
そのかけ声の後、王太子に敬礼を施した各々の武将達は散会し、直ぐに陣頭指揮を執る部隊へ移動した。
 そして大本営の天幕から部下達が不在となった後、天幕の隅の椅子を止まり木に代わり留まっていた『鷲』が、待ちかねていたようにセネリオの元に飛んでいくや肩に留まった。
やって来た『彼女』の体躯を、顔を綻ばせたセネリオは撫でてやる。
忠実な僕はおずおずと主に訊ねた。
<主……我はどうします?>
「君には…本当は天幕ここにいて貰いたいんだ、その方が良いのだが……」
<もうあのような真似は致しません!!あれから我はそうしてきました!!それにこれほどの危険な戦いにお側を離れたく有りません!!だから……>
「周知がある…。それに皆にああ言ってしまった以上、君の力を借りるわけにはいかないよ」
<主……剣でも、槍でも、あるいは斧でも貴方の望む姿でいますから、我を連れて行って下さい!!>
「ご免よ……私の黄昏乙女ヘスペリス、今回は此所にいてくれ。命令だよ」
 それは強い口調ではなかったが、聖獣たる彼女を傷つけるのに充分だった。
 セネリオにもそれは分かる、だが……決断した。
彼は肩の鷲をそっと包むように振り払うと天幕を出て行った。
そして取り残された『鷲』は、沈黙して下を向き、まるで泣いているようだった。 


 それからやや時が経つ。
 今日の太陽が地平から顔を出し、朝靄が薄れるに連れて朝日を強く放ち始める。
そうして次第にロストフポーリの平野の視界が鮮明になる。
輝き増す陽光は広がる向日葵畑と、そして対峙する両軍と丘を照らし出す。
それはどちらとも成しに上がる一号、そして進撃ラッパ。
『南』リーヴェ軍より上がるは「アンファール(攻撃せよ)!!」の声、それを迎え伐つは『北』シレジア軍の「ナパディエーニイ(攻撃せよ)!!」の声!!
 人馬それぞれの喊声かんせいが上がり、両陣営は刃を交えた。
『南』率いるは小国の王でありながら名将と称えられた武王ペリノア、そして『北』は若き日のシレジア大帝セネリオ・レグランド。

 これは後にロストフポーリの戦いと呼ばれる名戦の始まりであった。
ま、まさか戦闘開始にここまでかかるとは……。(-_-;)
「カタラウヌムの戦い」は名将VS名王の長上場なる名戦です。調べる程に奥が深いんです。
そして本編にチョロ出しした「ペリノア王」をクローズアップしたかったんです。小国の悲哀さというモノを……だから済みません。_(_^_)_
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