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戦争へのモノローグ。
やっと「アリオール・タンク」の弱点を書けました。
他にも見つかるかも知れませんが。
第16話 レルカー会戦前(2)花里に落ちる影
第16話 レルカー会戦前(2)花里に落ちる影


 向日葵パトソールニチニク…天を仰ぎ見る花よ。
 永遠に恋いこがれし太陽を。
 決して届かぬ太陽を。
 何処までも追い求め、何時までも変わる事無く、そして最期は枯れて逝く。
 向日葵…お前はまるで――――


 今のセネリオには、咲き誇る向日葵の花畑は見えていない。
記憶の海の中に漂う青年には、その日の光を受けた鮮やかな向日葵色の黄色すらも。
 その色彩を瞳に映さない。
 代わりに…過去の言葉が昨日のように思い浮かんだ。

――――「ねぇセリーちゃん、キミが私のホントーの『名前』を…私の『真の正体』が分かったら、きっとその時こそがね、キミが一人前になったと言う証拠よ〜。うん、私が太鼓判を押しちゃうわ!!」

――――「…何でお前の名前を知ったら、私が一人前になったと認められるんだよ、ピカゾー?お前の名は『ValeryヴァレリーFlammaフラマEmballeinエムバーレン』だろう?しかも異国人でありながらフィンダリア帝国の爵位を授与された…それも前代未聞の準男爵、男爵、子爵位を『飛び級』しての授与!!フィンダリア帝国伯爵…『リプル伯爵』に叙された奴。その他に何かあるというのか?」

――――「オーホホホッ、可っ愛いセリーちゃん。うーん、そんなところがイケズ〜。ピカゾーお兄ちゃん食べちゃいたい!」

――――「うっ…抱き着くな、オカマ!!変態!!私にそんな趣味はなーい!!そもそも兄上じゃないだろう、お前!!それにお前みたいな♀男の兄上なんて嫌だー!!」

――――「フフフ…Chu-☆!!」

――――「うっわ〜〜〜!!ヤメロ〜キスするな!!バ、バーン!!レぇーイ!!何してるんだ、早く助けろ!!」

――――「いや…その…俺は『触らぬ神に祟りなし』と申しますし…」

――――「私は『君子危うきに近寄らず』ですからね……」

――――「薄情者ーーー!!」


 ……あの頃は『君』にからかわれてばかりだった。
だが今思えば、それは私が兄上に会えない寂しさを…何時しか薄れさせてくれるモノ。
そして時折『君』が語る意味深な言葉。
 やがて私は君の名を……シレジアに渡ってから初めて本当の君の真実を知った時、『君』は私を『これで一人前のシレジア王太子になったね』と言ってくれた。
 あれから四年が過ぎた。
果たして本当に…私は胸を晴れる様な王太子になったのだろうか?
 『君』とフィンダリア皇太子――――兄上と肩を並べる程の器量を、私は持ち合わせているのだろうか?

――――(私は…人を、国を導くたるに相応しい者なのだろうか……?)

 中傷は、人の心に負の動揺をもたらす。
例えどんな強靱な精神を持っていようともそれは同じだ。
個人差こそあれ、心に疵を作る。
 セネリオもまた同じ。
 鷲の姿となってシレジア王太子の肩に留まった、僕たる『聖獣ヘスペリス』は沈思したままの主を心配する。
 そんな時。
それは青雲のごとく変化し、風の様に吹き荒れるのであった。
 シレジア王太子セネリオを探していた兵達が、彼の元に駆け付けるやその急変を報告した事によって。

「敵軍襲来ーーー!!」

 その第一報がシレジア王太子セネリオにもたらされた時、既に敵リーヴェ軍は自ら優位になる陣形を整えて、シレジア街道都市パトソールニチニクグラード近郊の平野ロストフポーリで布陣していたのである。

 シレジア王国には、国土とカレリア海を結ぶ大河川がありそれをオロフ河という。
一方で王都ホルムガルドから南地域には、大きな入り江湖がありその湖はフィンダリア、そしてガイア大陸『西』のアグストリアという大国等と繋がっている。
入り江湖の名を『黒真珠湖』と言い、王都ホルムガルドはその湖とマリエプル川という長く大きな大河で結ばれ、間接的ではあるが南海へと通じていた。
 都市というものはまず水源があって初めて誕生する。
 王都ホルムガルドにしてもそして此所パトソールニチニクグラードにしても発祥は水源である。
 シレジア街道都市パトソールニチニクグラードは、王都ホルムガルドと通じるマリエプル川沿いにある都市である。
 この位置関係は、王都よりマリエプル川上流域にパトソールニチニクグラードがあり、下流域が黒真珠湖に繋がっている事になる。
 布陣を知ったセネリオ率いるシレジア軍は、慎重にかつ速やかに軍を進軍させ敵陣と対峙することになった。
 睨み合う両軍の側面にはマリエプル川、そして中央部の横には隆起地形となっており見晴らしの良い丘が形成されていた。
 その丘は…平和な時であるのならさぞ美しい向日葵畑を見渡せる事が出来たであろう。
 だが戦争において高所とは、戦局を決定づける重要なファクターである。
見晴らしが良いと言う事は、自軍と敵軍を把握出来る事である。
 敵の動きが分かれば、その先手を取った戦闘号令をいち早く味方にかけて、相手に攻撃出来るのだ。
 
―――そうこれから起こる戦いはこの丘の争奪戦が鍵になる。

 この時丘に近いのは、自軍に有利な体勢をいち早く整えていた敵リーヴェ軍である。
 現在の布陣体勢は、方角で言うなら川のある側面が『東』で、シレジア軍が『北』に布陣し、対する敵リーヴェ軍が『南』を陣取っていた。

 両軍にらみ合いの中、しかしこの時のセネリオは状況の劣勢さをどうするかの思案の中だった。
 その理由はこの時のシレジア軍がまだ全軍が揃っていないのだ。
 この時のシレジア軍の編成は、騎兵2万と周辺区域の歩兵軍1万そして5千の『アリオール・タンク(鷲戦車隊)』のみであった。
 そうシレジア側は主力歩兵軍と合流成らずして、開戦を余儀なくされたのである。
 既にシレジア軍が放った偵察隊の報告だと、敵リーヴェ軍の総数はセネリオが単独行動で見てきた数の半数だという。
 敵方も主力全てではない、所謂先遣隊らしい。
敵もまた総兵力でない事は、不幸中の幸いか。
 たがその数、リーヴェ軍の中核は、歩兵を中心とした部隊約3万と騎兵1万6千、合わせて約5万6千はいる様であるとの報告だった。
対するシレジア軍はこの時点で3万5千…つまり敵兵力は1.6倍だったのだ。
加えてシレジア軍は現在多くの部隊がレルカー守備に回っていた為に、陸上戦力が半減していたのだ。
 例え主力歩兵部隊と合流するまでの一時的の事だったとは言え、これが兵力分散となり自軍の隙を敵に与え、この時シレジア軍は「先制された」と錯覚さえ感じたほどだ。
 その為総大将であるシレジア王太子は、防御陣形を取った。
数が不利である以上、敵が攻勢に出るのは必定であるからだ。
また反対にシレジア軍が先制攻撃を仕掛ける事は難しい、数が少ないのだから。
 守勢を決めたセネリオが選んだこの時の陣形は『逆八陣形』という。
まず『アリオール・タンク』を除く、騎兵を均等に分け右翼・左翼とし、そして歩兵を中央に置く。
 この時歩兵が少し前に出て突出した形に成るように布陣させている。
よって敵から見ると漢字の「八」が反対に見える事からこの陣形の名の由来となる。
あるいは傘型陣形とも言う。(敵側から傘の先端から広がる形「▼」に見えるからだ)
 さてこの陣形編成で何故セネリオが『アリオール・タンク』を組み込まなかったのか。
その理由の一つに『遊撃隊』運用がある。
 元々シレジア軍の『アリオール・タンク』は移動部隊である。
守勢には向かないのだ。
突撃を…前線投入主眼に重きを置いた部隊である。 
 だから敢えて守備から外したのだ。
この部隊を守備に回すのではなく、防御に徹する中でも敵の隙を突いて勝利への活路を切り開く為の切り札として。

 『アリオール・タンク(鷲戦車隊)』―――

 それはシレジアが誇る最強部隊である。
この部隊がいかなる存在かを説明する為に、この部隊に初めて会った時のセネリオの様子を紹介しよう。
 それは正式に新王太子となって間もない頃の事である―――

「これがシレジアの鷲戦車部隊アリオール・タンク?」
如何様いかさま、これこそ我が軍が誇ります最強部隊、『北』の切り札でありますよ!!」
 セネリオの説明役をする『アリオール・タンク』のネデリンという初老のギニラール(将軍)は、そう誇りを込めた声で新王太子に自らの部隊の装備をそう紹介した。
 セネリオが案内された場所のその先にあったのは、武装を施した大きな六頭だて馬車。
それは大型の人馬式戦車だった。
それが何百台も整然と並んでいたのである。
 その戦車らは余程念入りに整備が行き届いているのだろう、全て美しく土一つ付着せず光輝いていた。
「この戦車が戦場を駆け抜けるのかい!?」
 初めて紹介されたそのシレジア軍の最精鋭戦車を見た16才の王太子は、素直に凄いと感動した。
 ネデリン将軍は表情を綻ばせ頷いた。
「いかにも、宜しければ小隊訓練をご覧になりますかな、王太子殿下ツァーリ?」
「見せてくれ!!」
 セネリオは一も二もなく力を込めて頷いた。
 それから案内役を務めるネデリン将軍は、快く部隊訓練をセネリオに見せてくれた。
 長くシレジア王家に仕えるこの武人は、同じく武に優れたこの新王太子に好感を持つ、当時はまだ少数派のセネリオの味方であったのだ。
 そうして行われた王都ホルムガルド郊外の模擬戦車戦。
大型の六頭だて馬車・人馬式戦車に先頭は御者、そして後方に4人の兵士が乗り込んだ。
紅白に分かれて模擬戦場を突進する部隊。
 この時セネリオは疑問を投げかけた。
「何故あれだけ大きな戦車なのに、四人しか乗り込まない?」
「ああ…それはですねツァーリ、『矢』を搭載するからですよ」
「矢?」
「はい、我が隊…『アリオール・タンク』の攻撃は、乗員兵四人からなる『石弓クロスボウ』でございますれば、矢切れをおこさぬ為にも出来る限り詰め込みます」
「つまり射撃なのか?」
「如何様、とにかくご覧下さい」
「…………」
 ネデリン将軍に言われるままセネリオは無言で模擬会場に再び目を移した。
 戦時ならこの戦車に乗り込んだ4人の乗員兵が、それぞれ手にする『石弓クロスボウ』で次々と敵兵を狙い撃ちをするのだ。
 だが今回は味方相手にそんな事はせず、選ばれた小隊が的に向けて石弓クロスボウを発射する。
 狙い外さず正確に全て突き刺さる石弓の矢の数々。
 その小隊の勇姿にセネリオは「凄い!!凄い」と凡庸だが、それ以外言いようがないので感動の声を何度も上げた。 

―――ここで『弓』と『石弓クロスボウ』の大きな違い。

石弓クロスボウ』、別名『機械弓』あるいは『洋弓銃』、当て字『十字弓』ともいう。
 まず普通の弓と違い石弓クロスボウは狙撃が簡単なのだ。
引き金部に矢を引っかけて発射する装置がついているから、しかも安定して発射できる。
貫通力も高く、だれでも直ぐに使いこなせる武器である。
 例を挙げるならかつてイギリスの『ライオンハート』と言われた勇王を殺したのは―――正確に言うと死因になる事をしたのは―――名も無きフランスの農奴が放った一本のクロスボウであった。
 戦う事に慣れていない者でも、こんなにも石弓は扱い易い武器であると分かるだろう。
 一方の『弓』は、和弓を思い描いていただくと分かるが、弓を引き絞って構える為の筋力と、その状態で狙いをつけて放つ為の技術・訓練が必要となる。
つまり今日明日習った程度では使いこなせない。
 そして石弓は連射が可能である。
 素早く攻撃できるのだ。
 だが飛距離なら『石弓クロスボウ』よりも『弓』、特に『長弓』である。
これは「銃」が登場するまで変わらなかったのだ。

(この解説は以前にも「R−18」本編でやりましたが、それを読んでいない方の為です。バージョンアップもしてます。 閑話休題)―――

 だがこの時セネリオが見学したのは、何も鷲戦車隊アリオール・タンク小隊の石弓射撃だけではない。
 その戦車の滑走もである。
一矢乱れぬその隊列前進、号令による反転行動、突撃、小隊が見事に分割して駆ける両翼旋回……
 御者個人毎の優れた馬車操作技術と部隊の息が合わなければ、それは到底出来ぬモノである。
 余程の訓練をしている事だろう。
 それ故に『鷲戦車隊アリオール・タンク』は、シレジア軍では特に選抜された第一級の優秀な兵士のみが、貴族から農奴まで身分制度に関係なく配属される。
 この部隊に配属される事が、シレジア軍人として最も憧れを抱き、また我が身の誉なのであった。
 そのような話をセネリオは模擬戦を見学しながらネデリン将軍より聞いた。
 その話を聞いた後、もっともだろうとセネリオは感想を持った。
 やがて迫力ある勇壮な模擬戦は終わり、老将軍は王太子に部隊見学の感想を聞いた。 
「どうですかな?初めてご覧になった感想は?」
「圧巻だね、まさに突撃の要だ!!」
「左様でございましょう!」
 ネデリン将軍はセネリオの告げた自身の部隊の称賛に素直に喜んだ。
 しかし、この後セネリオが続けた言葉は―――
「たが…所詮は戦車だ。この部隊を生かすには…いや如何に効率化して運用するか、そしてこの弱点をこれからどうするかが、新王太子たる私の今後の課題になるだろうね」
「!?」
 口の端を僅かに上げ、優れた洞察力を持つセネリオは、鷲戦車隊アリオール・タンクの弱点を看破した。
 その時側にいた老将軍は、この時だけは目前の少年が一瞬『敵』フィンダリア第三皇子のような姿に映った。
「まず弱点の一つ目だが、この部隊は荒れ地では戦えない、泥炭地でも難しいだろう?車輪が立地面に合わなければ、要するに泥濘ぬかりや深いわだちにはまったら戦車は前に進めない。つまり烏合の集だ。もし私が敵将なら先手を打ってそういう場所に布陣して待ちかまえるし、あるいはワザと平地に布陣して、『アリオールタンク』が突進してくるであろう場所に罠を張って掛かった所で反撃するさ。次に弱点の二つめは万物共通、人も動物も背後は無防備なのさ」
 まさかたった一度の視察でそこまで見抜かれるとは…老将軍は舌を巻いて感嘆した。
 しかしセネリオの『感想』はまだ続いた。
 それは今後のシレジア王太子としての、彼の課題である。
「だが弱点だけではないさ。戦車の旋回運動は御者の手綱捌きのレベルに大きく左右されるだろう?御者を狙われれば、戦車の操作が出来ない。その為には御者と同等の実力を持つ乗員兵を他にももっと養成しなければならない」
 そうセネリオはシレジア王太子として、この最強部隊を国王カローリユーリー二世より預かっているネデリン将軍に伝えた。
 ネデリンも同様に「然り」と頷いた。

―――そうこの人馬式馬車というモノは、引かれる車両に旋回装置がない。
 言うなればハンドルがないので「右なら右」と直ぐには曲がれない。
お馬さんの手綱をひっぱって「こっちだコラ!」と無理矢理言い聞かせるのである。
なので、走る馬車形態戦車は無理矢理車体をスライドさせるドリフト走行のような方法で曲がるしかなく、不安定アンバランスな上に車体自体の強度も左右されやすいし、当然のごとく熟練した技術が必要になる。
 だから一流の兵士が特に選抜されて配属されるのであった。
馬術、特に馭者として戦馬車を操作できない、または下手くそには俄然無理な『アリオール・タンク』入隊であった。
この際射撃能力は二の次だろう。
そもそもクロスボウは良く当たるし、戦場では慣れないうちは…恐らくは様々な極限状態で乱れ打ちになるだろうから。
 以上のような鷲戦車部隊に関する考察をしたセネリオ。
しかしこの時同時に彼は新しい発見もした。
 それをまとめたセネリオは、改めてネデリン将軍に興奮して話すのだった。
「でも非常に面白い部隊だよ!!使い所さえ間違えなければ、確かに最強だよ!!フィンダリアの戦車シャリオットとは全く違う戦法を!!」
「それは…?」
「フィンダリア帝国の『戦車部隊シャリオット』は、戦場では前線には出さないからね」
 そうセネリオはさらりと答えた。
 
―――フィンダリアの戦車部隊。

 それは長槍を思わせる大型のいしゆみをバネ式機会弓を発射するものだった。
他にも種類があり、射出機カタパルトによる巨大パチンコの設計を搭載した戦車。
あるいは『バリスタ式』と言われる紐のねじり力を利用した投石機を搭載した戦車。
 殊に『バリスタ式』で有名なのは、あのアルキメデスが発明した投石機で、それは第二次ポエニ戦争で実際使用され、ローマ軍を苦戦させた記述が残っている程だ。
 そうシレジアとフィンダリアでは、それぞれ戦車部隊が存在するが、その形態と使用方法が大きく異なっていたのである。
 つまりフィンダリア帝国の使用方法は、シレジア王国のような『接近戦』ではなく、後方から味方を『援護』したり、あるいは『攻城戦』…所謂城攻めに使われる物だった。
 多くは据え置き固定台を備えた大型の物となる。
扱い易い小型の戦車であれば、時には味方を乗せて運んだり、捕まえた捕虜を輸送したりもする。
 だからフィンダリアの戦車は機動力はあまり重視しない。
反対に重視するのは『射撃力』である。
 射撃力とは『射撃の正確性』と『射撃の威力』である。
 近接戦闘する味方を効率よく援護するために、もっとも多くの敵を叩き、且つ味方を巻き込まない攻撃をする事が要求されるのだった。
 このように『戦車部隊』のあり方が全く違うシレジアとフィンダリア。
この考えは後世、シレジア側は『迫撃戦車』、フィンダリア側は『高射特科部隊』へと流れを組むことになるだろう。
 さてこの後少し何かに気付いて考え込んだセネリオは、その考えがまとまると説明役の武人の方に顔を向けた。
「ところでギニラール・ネデリン?」
「はい、王太子殿下ツァーリ
「『アリオール・タンク』のこと何だけどね……」
「はい?」
 それからセネリオはネデリン将軍に素朴な質問をした。
「夜の訓練はするのか?」
「!!それは……?」
 老指揮官は思わぬ衝撃を受けた。
 セネリオは構わずに続けた。
「いやね…少し気になったんだ…。戦闘というものは夜間を避けて行うが、やはり奇襲はあるだろうし……それに機動力自慢の突撃部隊だからさ、夜でもしっかり動ける方がいいだろう?だからそんな訓練は今までしていたのか?」
 それはセネリオにとっては半分好奇心が入り交じった質問だった。
 老将軍は半拍の後に改めて王太子の質問に回答をした。
「今まで…そのような考えを我らはとんと持ち得ませんでした」
 老将軍は降参するように王太子に深く一礼した。
 セネリオは破顔して彼に顔を上げるように言った後、こう伝えた。
「じゃあ、これから行えばいいのさ。それでこそ『北』の異名で呼ばれるシレジア王国、最強の部隊となる!!」
 そのことをシレジアの老将軍に力説したセネリオ。
聞き終えたネデリンは心底感服した。
「いや、すばらしい博識でございます王太子殿下。此所までとは正直臣は思いもよりませんでした。余程故国で戦う術を学ばれていたようですな」
「そうだね、兄上と一緒に覚えたよ……何れ必要になる事だからとね……」
 そういった少年が少し寂しい表情を浮かべたのに、経験豊かな老将軍は気付いた。
しかしネデリンが声をかける前に、セネリオの方がその憂いを取り払った。
「戦車にこんな可能性があるとは正直思わなかったよ」
 それが二つの戦車部隊を知り感じたセネリオの正直な感想だった。


 こうしてシレジアの初夏の夜。
空はその戦いの前の陰気さとは、まさに無縁の満点の星空。
 対峙して互いに睨み合う両軍はそのまま一夜を越す事になる。
『北』布陣するも数が劣勢のシレジア軍。
 御旗に掲げるその国旗は、黒一色の生地に銀双頭の鷲に剣、白詰草トリフォリウムをちりばめた盾紋章を掲げるその『銀双頭の鷲』(ドゥヴグラーヴィ・スィレーブリャヌィ・アリオール)。
 
 今はまだ誰も知らないこの戦いの行く末を――――。
星影は何も語らずに、あまねく静かな光を分け隔て無くただ両軍にもたらす。

 そしてあくる次の午前…向日葵は血を欲す。

次回戦闘開始。テーマは「カタラウヌムの戦い」です。
つたない小説を最後まで読んでいただき有難うございました。何か表現等でアドバイスがありましたらお待ちしております。_(^v^)_。
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