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第15話 追憶(1)君の為に出来る事を
第15話 追憶(1)〜君の為に出来る事を


 夜空に火の芸術の余韻が残る中、その発表者は感動中のセネリオにまた話し掛けた。
「麻陀麻陀、許无那能序能口佐!!」
訳:(まだまだ、こんなの序の口さ!!)
 花火を見て感動するセネリオに、『彼』はそう言って再び指を鳴らした。
そしてまた花火が上がる。
 今度上がったのは少し趣が違う花火。
 まるで奇術のように『彼』が指を鳴らす事に、不思議と着火する花火筒。
 何で火が付くのか?
そんな疑問が思い浮かば無いほど、セネリオはこの花火に夢中になった。
 その内……
 フィンダリアの泣く子も黙る恐怖の『坎の塔』は、今では夜空にキャンパスが広がる、美しくきらめく華やかな世界になった。
 そしていつの間にかに観客は、セネリオと『彼』だけでなく『坎の塔』に詰める兵士達も気付き観覧している。

 その余りの美しさに、陰気さ漂うだけの獄門塔警備任務をしている事すら忘れて。

 やがて、最後の花火筒が着火しその芸術の火花を天空に咲かせて、花火が打ち上げ終わった。
「とても貴重な体験だった。あれはお前の国の文化なのか?凄い……」
 その感動の冷め止まぬセネリオが、思わず興奮して『彼』に訊ねた言葉は途中で止まった。
 何故なら喜ぶセネリオとは対照に『彼』は…藤紫色の瞳に憂いを込めて塔の最上階を見つめ、そしてその事にセネリオが気付いて言葉をつぐんだからだった。
「――――気付伊弖久禮多加伊?我唯一那流許己呂能友世…朕波…此所邇伊流余、甚驚念陀呂宇泥。所以汝賀切憂情…。曾宇此所邇…『布伊イ无陀理阿』邇来弖斯麻都多余…。傳母碁免余…今麻傳会伊邇来那久弖。訳少々寄理道根、曾宇君邇会宇能賀一足遅禮多能波泥、以前汝賀話斯弖久禮多『聖地』邇行都多加良那无陀余。本当邇汝能話登我賀国能『伝承』能通理陀都多余。早久曾能顛末袁汝邇話斯多伊那…曾斯弖朕能新斯伊友袁紹介斯多伊余…阿阿、傳母…汝能…汝賀苦…念…波伊都晴流能加奈……?…璃王无リオン……」
訳:(――――気付いてくれたかい?我が唯一の心の友よ…わたしは…此所にいるよ、さぞ驚いただろうね。君がとても心配で…そう此所に…『フィンダリア』に来てしまったよ…。でもご免よ…今まで会いに来なくて。ちょっと先に行ってきたんだ…そう君に会うのが一足遅れたのはね、以前君が話してくれた『聖地』に行ったからなんだよ。本当に君の話と我国・・の『伝承』の通りだったよ。早くその時の事を君に話したいな…そして朕の新しい友を紹介したいよ…ああでも…君の…君の苦しみ…迷いは…何時晴れるのかな……?リオン……)
 それはまるで問いかけのような呟きだった。
 そして言葉が理解できないセネリオにも、『彼』の言葉はそう…ここには居ない、塔の上の人物に…兄リオンへ伝えているものだと漠然とだが感じた。

 (コイツ…一体兄上とどういう関係なんだろう……?)

 そうセネリオが考え始めた時だった。

 ――――♪ー♪〜……

 夜風に乗り、僅かな楽の音が彼らの耳に触れた。
聞こえてくるその音色は、リュートの様だった。
 獄門塔でそんな風雅な事を学びその素養を身につけた者は、紛れもなくこの塔の最上階にいる人物のみだろう。
 フィンダリア帝国皇太子…兄リオン。
「兄上…?」
 久しく耳にしていなかった、その美しい調べを聞いたセネリオは、気付くやすぐに高い塔を見上げた。
 一緒に観ていたのだろうか?
さっきの美しい光景を…例えその側にいなくとも同じ時間を共有したのだろうか?
 そんな事をセネリオが思った時だった。
「……セリー様ぁー!!」 
 フィンダリア帝国第三皇子を愛称で呼んで駆け寄る者がいた。
それは武官であり、皇太子付きの侍従でもある若者。
 名をバイロン・ガルフォード・シアルフィ、年少の皇子セネリオが付けたあだ名をバーンという。
 セネリオはバーンことガルフォードが、自分の方へやって来るのに気付いた。
「バーン!」
「はぁはぁ…またお一人でこんな所に…とに、誰にも伝えずにいなくなって心配しましたよ。余り俺を困らせんで下さいよ〜〜〜!!」
 今まで息を切らせてセネリオを探し回っていたガルフォードであった。

――――この当時のガルフォードは、皇太子リオンが遊学直前に「長く故国を離れるから」と弟セネリオの『子守り』…いや侍従兼護衛役を皇太子リオンより仰せつかっていた。
 故国を離れる皇太子リオンは、自分が不在の間、自ら最も信頼を寄せ、若くも腕の立つ侠気溢れる彼に大事な弟の事を託していたのである。
 それは皇太子が留学から帰れば終わる任務つとめであったのだが、例の騒動で今も尚、ガルフォードはその任を解かれる事なくセネリオの側に仕え、この時に至っているのであった。――――

 さてこの時、ガルフォードの小言にセネリオはカチンときた。
「別にいいだろうが、何処に来たって」
 プイっとご機嫌を損ねるお子様皇子に、子守りガルフォードはトホホと困り顔をさせてお願いする。
「もう、勘弁して下さいよ〜。ホント頼みます。こんな時刻にお一人で坎の塔に出向かないで下さい!!ましてや此所はあまり夜散歩には向きませんよ〜。皇太子殿下あにぎみにはまた明日改めてご面会を申し込まれてですね……」
「何時行ったって兄上は会ってくれないじゃないか!!それに今は一人じゃないやい!!ちゃんと此所にもう一人いるだろうが……って、あれ?」
 そう言って隣を向いたセネリオは、『彼』がいつの間にかにいなくなっていて驚いた。
「アイツ…何処に行ったんだ?」
「セリー様?」
 ガルフォードの方もどうしたのかと皇子の名を呼んで訊ねた。
 セネリオは自分を呼びかけた侍従兼護衛兼こもりガルフォードに振り向いた。
「バーン、お前…見なかったか?さっき此所に見慣れぬ者が…多分兄上の留学先の者だと思うのだが、今まで一緒に居たんだ。女みたいな容姿の男で、オマケに見た事もない鳥を連れていてさ、そしてとても不思議な体験をして…そう、夜空に花が咲いたんだよ!!」
「ああ…何やら此所に来る直前何だか周囲の空が光っていたような……?」
「そうなんだよ、アイツが持ってた変な筒から……」
 そうしてセネリオは今まで此所であった出来事の一部始終をガルフォードに説明し始めた。
 
 この時謎の『彼』が姿を消したように、塔からはもうリュートの音色は止んでいた。

 一方、そこから少し離れた場所。
木々の木立でセネリオ達からは陰になり、分かりにくいであろう所に『彼』と今一人の人物が鉢合わせていた。
 『彼』はその人物を見て破顔した。
「夜阿!御無沙汰『冬賀ヒエムサーレ』、伊椰、此所傳波正解…『良伊无能宇流らいんのーる』陀都多那」
訳:(やあ!久しぶりだな『冬賀』、いや、ここでは確か…本名は『ラインノール』だったな)
「曾能『名』傳呼婆禮流能母久斯伊事傳須。貴方・・賀贈位同様結構気邇入都弖伊麻須余」
訳:(その『名』で呼ばれるのも久しい事です。貴方・・が与えてくれた官位同様結構気に入っていますよ)
 『彼』はラインノールを見遣りクスリと笑った。
 ラインノールもそれにつられて表情が柔らかく変化した。
「迎延邇行都多能傳須賀、須禮違都弖斯麻異麻斯多泥。傳須賀無事邇游着岐傳何余理傳須。曾禮邇余久此所麻傳案内那久辿理着氣麻斯多泥。登許呂傳…此所傳何袁斯弖伊多能傳須加?」
訳:(迎えに行ったのですが、すれ違ってしまいましたね。ですが無事にお着きで何よりです。それによく此所まで案内なく辿り着けましたね。ところで…此所で何をしていたのですか?)
「合図を送ったんだよ、『花火』でね…わたしが此所にいることを教える為にね」
 そう『彼』は笑って答えた。
その話す言葉はフィンダリア語…しかも発音は完璧。
何と『彼』はこの国の言葉を流暢に話せるほどの会話能力があったのだ。
『彼』がフィンダリア語にスイッチしたので、ラインノールも母語に切り替えた。
「そんな事わざわざしなくとも…ちゃんと明日にでも私が改めて伝えます」
「イヤイヤ、それは必要無い無い!!だって、リオンは『花火』で分かったはずだろ?」
「ええ、確かによく見えたでしょうね。新作ですか?」
「そうだ、名付けて『快刀乱麻』!!次に上げたのは『ざ・奇面組』でね……!!」
 嬉々として話す『彼』に、ラインノールはこめかみを押さえた。
「相変わらずのネーミングセンスですね……」
「花火は中々の出来だったさ。お前も見えたか?」
 エッヘンと言わんばかりに胸を張る『彼』に、つれないフィンダリア名家の若者はその感想を如何にも彼らしく述べた。
「ええ、すばらしい花火でしたよ、本当に花火だけはね。ご趣味・・とはいえ、花火師としては一流ですね。一生それで食って行けますよ。それだけは保証します」
 その冷たい感想に、じっとラインノールを見る『彼』。
「お前はそれに乗じて更に金儲けしそうだな……。我国ウチでも散々やったように……」
「当然です。資産は増やして何ぼの世界です」
 片眼鏡がきらりと光った。
 どうやら先祖伝来の金の増やし方に対する血が騒いだらしい。
 その様子を見た『彼』は呆れた。
「立派な心がけだな……」
 ボソリと言ったその皮肉混じりの言葉も、ラインノールはびくとも動じなかった。
「それ程でも……さてフィンダリア帝国にいる限り、私はこれから貴方を格別な御仁として扱いません。それが此所にいる事を認める『条件』です、よって貴方は『表向き』皇太子殿下が招き入れた学者・・の内の一人という事になります……宜しいですか?」
 その代わり今後の確認事項を告げたラインノールだった。
『彼』は頷いた。
「――――構わないよ、それでこそ醍醐味さ。はるばる苦労して異国に来た甲斐があるというものだよ」
「……密航・・の事ですか……しかしお国の方は大丈夫なんですか?」
「大事ない。それに大上皇はは様はまだ元気だし、ちゃんとあね様がいるし、更に摂政上宮ぎりのあにさまを筆頭に、臣下みんながしっかり二人を補佐してくれるだろうから、しばらくこっちでゆっくり羽を伸ばす事にする。こんなチャンスは滅多にない!!まるで春宮時代に戻ったようだ!」
 ほくほく嬉しそうな『彼』に対して、ラインノールの方はこの人物にしては珍しく狼狽えていた。
「は…羽を伸ばすって…それで済む事なんですか?畏れ多くも貴方は……」
「言うな、朕は此処では只の異国から来た学者(・・・・・・・・・・)だぞ?…お前もたった今そう言っただろうが」
「…た…確かにそうは言いましたが……」
 彼にそう言い切られてしまったので、やや口ごもるラインノールであった。
 一方既にフィンダリア帝国ライフに夢を馳せている『彼』は、此所で使う自分の名前について考え始めた。
「フンフンフン〜♪さぁて、朕はこれからフィンダリアでどんな名で通そうかな〜?流石に『正式名』は使えない。『真名』は以ての外だし…『幼名』にしようかな?う〜んそれとも『元服名』で通すか……?」
 そう浮かれて自分の公称フィンダリア名を考えている『彼』に、第三の人物が声をかけた。
「…だったら『ValeryヴァレリーFatousファトゥスEssentiaエッセンティア』というのはどうだい?」
「!!」
「!!」
 『彼』とラインノールの二人は「え?」と、思わず思考回路の中でその名の意味を検索した。

 ファトゥス!?(=ラテン語で「馬鹿」)
 エッセンティア!?(=ラテン語で「本質・生命・光・真髄」等あるがここでは「本質・真髄」の意で)……つまり「本当の馬鹿、ヴァレリーさん」

 非道い、非道すぎるそんな名前を言ったのは――――『彼』とラインノールの二人は、声がした方にまさかまさかと思いつつ振り向いた。
 そして予感的中、そこには眉間に青筋立てた皇太子マチス・レオナート殿下が立っていた。
「リオン……!!」
「リオン様……」
 リオンの普段は見えぬそのオ〜ラ。
 私怒ってますモードに、ラインノールは鉄面皮にマズイと言葉が浮き出たようであった。
 一方の『彼』の方は、リオンの怒りそんな事はどうでも良いくらいに顔を輝かせた。
「何で君が此所にいる?これは一体どういう事か、説明してくれラインノール!?」
「それは……」
「リ、オ〜〜ン!!」
 リオンが怒っていようが構わずに『彼』はリオンに突進し抱きついた。
 超絶美女・・・・のような男に抱きつかれたフィンダリア皇太子の方は、怒り心頭であった、余りにも奔放過ぎた『彼』に対して。
 リオンは抱きつかれながらも言うべき非難を言った。
「国を放り出して来たのか!?一国を既に背負っている君が!?何で!?」
「……痩せたね、ちゃんとご飯食べてる?顔色も…こんなに悪いよ……」
「!?」
 抱きついた感触、そして間近で見た顔。
 例え怒っていようと、自分の軽率な行動を非難されようと、一瞬で洞察した『彼』はそうリオンに伝えた。
 ズバリ言い当てられてフィンダリア皇太子は、その後怒りが消え去り言葉を失った。
「やせ我慢し過ぎなんだよ…君は。何故…全てを諦めた?まだ遅くはない!!もう一度取り戻せよ!!朕はそれを言いたくて此所まで来た!!」
「………ヴァレリー?」
 リオンは目を見開いた。
 やがて興奮した『ヴァレリー』は、フィンダリア語ではなく母語で訴えた。
「『Fatous』那能波汝陀!!曾禮模『Essentia』模能能那!!朕袁…頼都弖久零弖母良伊无陀余?加都弖能布伊イ无陀理阿春宮能余宇邇!!汝模『汝妹』模麻登賣弖面倒袁見弖夜流余!!汝能優秀佐波母様達模我賀国能臣下達模認賣弖流!!遊学中能以上能地位袁約束須流余、陀加良……亡命斯弖許伊!!」
訳:(『ファトゥス』なのは君だ!!それも正真正銘エッセンティアもののな!!朕を…頼ってくれても良いんだよ?かつてのフィンダリア皇太子のように!!君も『君の大切な女性』もまとめて面倒を見てやるよ!!君の優秀さは母様達も我が国の臣下達も認めてる!!遊学中以上の地位を約束するよ、だから……亡命して来い!!)
 『彼』ヴァレリーの無謀なる行動の訳を、ようやく悟ったフィンダリア皇太子は、目頭が熱くなった。
 自分の為に…わざわざ無茶をしてフィンダリアまで来訪したこの『友』に。
「感謝、曾能言葉陀氣傳充分陀余…碁免…碁免余……麻流久須マルクス・宇゛阿黎理阿奴珠ヴァレリアヌス…『Fatous』那无弖言都弖泥。真波『Familiaris amicus』能汝邇…甚真感謝……」
訳:(有難う、その言葉だけで充分だよ…ご免…ご免よ……マルクス・ヴァレリアヌス…『ファトゥス』なんて言ってね。本当は『親愛ファミリアーリスなるアミクス』の君なのに…本当に有難う……)

 静けさを取り戻したフィンダリア城内北の果て……
 決して見せない、見せる事が出来なかった心を初めて見せたリオンだった。

 さて静かな獄門塔の森の陰で、熱い友情劇が繰り広げられている時。
セネリオはようやくガルフォードに事情を説明し終えた所だった。
 そんな聞き終えた『子守り君』は、何だか気のない応答をした。
「はぁ……そんな事が」
「な…なんだよ疑っているのかよ、お前?」
「疑ってませんよ。ほらまた風邪をひいたら一大事です、今夜はもうご自身の離宮にお戻り下さい。そうして頂かないと上官ジジイ共に俺が後でどやされるんですから〜」
 ムッスーっとしたセネリオは、ひたすら宥め回るガルフォードに引率されて、この夜しぶしぶ離宮おへやへの帰路に着く事になった。

 そうしてセネリオが『彼』の名を知るのは翌日の事になる――――

「彼」の名前は掟破りの名前です。
お国の名前もそうなるでしょう。σ(^◇^;)。。。
ああ2W連続土曜がないし……何度も書き直してるし…休みを48時間下さいの作者です。

追伸:「快刀乱麻」と言う花火は実在します。「ざ・鬼面組」は「五人衆」という花火からヒントを得ました。


つたない小説を最後まで読んでいただき有難うございました。何か表現等でアドバイスがありましたらお待ちしております。_(^v^)_。




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