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第13話 人の思惑(こころ)と願うもの(★残酷な描写有り)
第13話 人の思惑こころと願うもの


 かつて少年だった皇太子マチス・レオナートは『聖獣王』に願い出た事があった。
もう一度『聖獣』を取り戻すために。

―――「一族の全てを代表して、過去の過ちを謝罪し、そして…償いましょう。どうすればその怒りを静めて下さるか?私は…この国の、フィンダリアの次代を担うものとして、出来る限りの事を致しましょう。この身は既にあらず、謂わばこの国のためにあるのですから!!」

―――「我に払えその対価、国のために殉じると言うのであれば。今一度『我が子』を望むのなら、我は今一度考えよう。 『我が子』を…汝らが『聖獣』と呼ぶモノらを、汝だけではなくその新しき可能性を持つ者にもな」

―――「その対価とは……?」

 この時『聖獣王』の出した対価…その条件を彼は受け入れた。
そして六年の歳月を経て今がある―――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 さぁ…これで終止符を打とう、そうしなければ、君が死ぬ。

 たとえどれ程手を汚そうとも―――私が愛した人たちが、『幸せ』になれるのなら、私はそれで構わない。
 
 笑ってくれるのなら……私はそれで良い―――

 どんなに我が身が報われなくても―――



 深夜の中、後宮の一角に人工的に作られた『光』の世界。
 皇太子リオンはすぐさまその一声、枢密院の運命を決する『命』をかけた。
「『リーフ』…我が前の、全ての敵を封じてくれ!!」
<はい>
「!!」
 枢密院と、そして『聖獣』の動きを『聖獣リーフ』は封じた。
手に触れられぬ光源が、彼らを蜘蛛の巣のように掛かったがごとく絡み取り、まるでその姿は生き餌の様である。
同時に枢密院に従う『聖獣』達が起こした天変地異も収まった。
恐らく封じられた所為であろう。
 そして枢密院側の具現化した聖獣たちは、猛禽もうきんや獅子や三頭犬などその各々の姿でリオンとそして彼らを封じた『同族』を睨んだ。
<許さん『リーフ』!!>
 同族に殺意のみなぎ敵愾てきがい心そのままをぶつけられ、『聖獣リーフ』は心苦しかった。
 例え主の命でもやはり同族とは争いたくはないのだ。

―――それは密かにこの現場にいる今一人の同族もまた同じだった。

 そして動けずに苦しむ枢密院と聖獣たちに、改めて皇太子は見据えた。
「まずは貴殿あなた方をこれから葬る前にしなければならない事があります」
 狼狽えた者達の中から一人が声を上げた。
「何を…一体何をする気だ?」
貴殿あなた方の『聖獣』の解放・・です、そうしないと貴殿方の死によって『聖獣かれら』が暴走・・しますからね。それに私としても『聖獣殺し』だけはしたくはない。例え人殺しは出来てもね」
 すぐさま声を張り上げて彼らの大叔父達は次々言い放った。
「はっ、そんな事出来るわけがないぞ皇太子!!」
「そうじゃ、我らと聖獣を切り離すなど…この血の主従を断ち切れると思うておるのかえ!?」
「思い上がるでないぞ、小僧わっぱ!!今が夜だと忘れたか!?己の持つ『聖獣』の力を過信しておるぞ」
 その罵声紛いの糾弾にもリオンは表情を変えなかった。
 だがその周りは許さなかった。
 まずは暗藍仮面が無言でその手にした『弓』を構えると、そのつがえと同時に氷の矢が作られていく。
 矢が完成するやそのまま彼は一矢放った。
 その矢は弧を描く間もなく瞬時に枢密院の近場の大地に突き刺さるや、その周囲を氷結させた。
 オオカミ仮面は『大剣』の一振りで風の太刀を作り、ピンク仮面が『鞭』を振ると火花を思わせる橙光の稲妻が放電スパークした。
 枢密院は慄然として息を飲んだ。
その奇抜抜きん出ている仮面軍団の威圧に対して。
 そう自らの『聖獣』を封じられている以上、彼らは只の…年老いた人間である。
何も出来ないのだ。
『老人達』が黙ったところで再び皇太子は口を開いた。
「さて先ほどの疑問の件ですが…【出来ますよ】。確かに貴殿方が仰るように、今は夜間・・ですので少々骨が折れるから、わざわざ『明かり』を作ったんです。本来なら…貴殿方と貴殿方の『聖獣』を封じ込めるだけなら、『聖獣リーフ』にそんな必要はなかったのですがね」
「!!」
「では『リーフ』始めようか」
<はい>
 振り返った主の呼び声に呼応して、『聖獣リーフ』は再びその姿を変える。
その姿は『黄金杖』。
 皇太子はその『杖』を握るや、かつて出会いしかの『聖獣王』より授けられた『神詞ことば』と共に振り下ろす。

「≪八隅やすみしし我が『聖獣王おおきみ』よ、聞こし給えよ、そらにみつ大和の元に、此所に居ります我が子らを今一度いまひとたびのかいなの中へ!!≫」

 その声と同時に起こるは閃光、目を塞がねば耐えられぬほどの光が起こった。
深夜だというのにそこは光の世界。
 だがそれは長い時間ではなくややして収まり、周囲にいた者が再びその目を開けた時、そこにいた『聖獣』は……居なかった。
 唯一人の枢密院に従う『聖獣』を残して――― 
帝国宰相アゼル彼の従う『風』だけを残してその姿は消えた。
 枢密院側は放心状態である。
「ば…馬鹿な…」
 わなわなと震えまず呟いたのは枢相たる最長老の大叔父であるが、他の者達も皆個人差こそあれ同じであった。
「い…一体あの子らを何処へやったのか!?」
「…聖獣王の元に帰還させました、あとはかの王が全て引き受けてくれるでしょうよ」
「!!」
 信じられぬ言葉を聞いた年長の身内達。
 愕然とし既に彼らは抵抗など考えなかった。

―――最早彼らは『真の帝室者』では無くなったのだ。

 力とそして長年の半身とも言える存在を永久に失った事の為に―――
 皇太子リオンにしても、そして仮面組にしてもそれ以上の流血は望まなかった。
いくら「葬る」「戦う」と口にはしても、出来る事なら力なき老人をいたぶり殺す事などしたくはない。
そう抵抗さえしなければ、これで一件落着だったのだ。
 だから皇太子はこの時やっと自らの『聖獣』のかけた呪縛を解いた。
枢密院の動きを封じていたものをである。
 だがこの時突然の事態が起こる。
「己許さぬ!!死ね、小僧がーー!!」
「!!」
 聖獣を失い逆上した大叔父の一人が、護身用に持っていた短刀を皇太子リオンに突き刺した。
 年老いたとはいえ、武を極める事を家訓にしているフィンダリア帝室である。
その短刀術は衰えていなかった。
「リオン様!!」
 暗藍仮面男が悲鳴を上げた。
 リオンはこの時すっかり失念していたのだ、彼らはかつては『武人』であった事を。
突然の接近戦では長さは不利。
 リオンが手にしていたのは『黄金杖』、つまり長い!!
そして短刀はこの時有利に働いた。
 リオンが油断していた事もある、その刃が彼の体の一部…胸部を捕らえようとした。
しかし『若さ』は、瞬発力と反応を持ってこの時リオンを助けた。
 短刀はリオンの右肩を深く捕らえはしたものの、彼は紙一重で致命傷となる攻撃をかわすと、そのまま咄嗟に身を守るために持っていた『杖』で大叔父を打ち払う。
 手加減出来なかったその打ち払いは、大叔父の腹部に大当たりして彼はうめき声を上げて地にひれ伏した。
 肩を負傷したリオンに、仮面組は血相を変えて各々近づく。
すぐさま暗藍仮面が止血した。
<主!!>
 『聖獣リーフ』は主の身を護るために、三度姿を変えて『杖』から『オオカミ』となる。
 だがこれを切っ掛けに思いも寄らなかった惨劇の幕が上がる。
「皇太子殿下をお守りせよ!!」
 そう言うや軍務尚書以下負傷していない近衛兵が、全員で枢密院を取り囲んだ。
今まで枢密院側の方にくみしていたはずの彼らが、この機に皇太子側に寝返ったのだ。
「な、これはどういう事だ軍務尚書!?」
「わ、我らをなんとする!?」
「どうなのだ、答えよゴルバーン!?」
 悲鳴同然の訴えをするかつての『真の帝室者』達に、ゴルバーンはその命令を下した。
「構わん!!フィンダリア皇太子殿下を殺害しようとした、この不届きなる者どもを排除せよ!!」
「ヒッ!!」
 枢密院がそれぞれの形で悲鳴を上げた。
「待てゴルバーン!!」
 この時負傷した皇太子の制止は―――もう遅かった。
「大叔父様ーー!!大叔母様ーー!!」
 四阿あずまやで事の端倪たんげいを見守っていたローブ姿の人物エレインが悲鳴を上げた。
 次々と殺害されていく身内達―――
 耐えきれずエレインは気絶した。
病み上がりでもあったのだ、無理もない。
 すぐさま鉄仮面が駆け寄って倒れたその皇女を抱えた。
茫然とする皇太子とその側に駆け寄った仮面の者たちは、その光景を目の当たりにしたのである。
 惨劇の後に残るは…かつて『真の帝室者』と崇められ敬まれていた老人達の亡骸であった。
 そして最期辛うじて息があった枢相と皇太子が会話をするに至るのである。


「……何故…『聖獣』を…一族以外で持つ事が出来たのかを、教えてくれ…マチス・レオナート………」
 既に呼吸が苦しいであろうその大叔父の言葉に、皇太子は目元にだけはその感情の揺らぎを見せて言った。
「それは私ではなく彼らに聞くと良いでしょう。何故その側に『聖獣』が居るのかを」
 そう言って皇太子は仮面の仲間達の方に向いた。
 まず最初に進み出たのはオオカミ仮面である。
「俺は別に『聖獣』の主になった訳でありませんよ。そう、俺の場合は聖獣こいつ…『聖剣ティルフィング』は『相棒』ですね…それこそ生死を分かちあった大事なね」
 そう言って『大剣』を撫でると声が返ってきた。
<『相棒』か、その言葉は良いな『主』よ>
 その言葉に次に異論を唱えたのは『ピカゾー』である。
「あら私の場合はとっても素直な可愛い『弟子』よ、だって『この子』たら私の研究を見るのが好きなの!私の作る花火が大好きだし、それに一緒に究極・・の『ギリシャ火』を完成させるのよ!!」
<あなたの作る火の芸術が好きです、あなたは燃やす事しか出来ない我に、それ以外の事を教えてくれた大切な人です>
 そう黄金キンキラの『鞭』は囁いた。
 最後に死に逝く枢相に伝えたのは暗藍仮面の男であった。
癖なのだろう、仮面を少し片手で直した。
「さて私の場合はどうなのでしょうかね?何故『彼女』…『冬女神アンドルディース』が私にくっついて居るのか分かりかねます。特に何もしていませんから」
 あまりに素っ気ない言葉であった。
 しかしそんな言葉に応えたのは『弓』である。
<我は貴方の冷たくて、つれなくて…そんなところが静かで落ち着いて…心地良い>
 それは聞く者にしたら「なんだそれは?」という理由であった。
しかし分かる事は少なくとも暗藍仮面は、このマゾっ気…(?)のある『聖獣』と信頼を得ているのだという事であった。

―――従来の様に血筋ではなく、全く別の形で『聖獣』の信頼を得て共に生きている。

 次第に尽きていこうとする意識の中、枢相は最期…本当に最期の疑問を口にした。
「…皇太子よ…お主が払う…対価とは何か…良ければ…この愚かだった大叔父に教えてくれぬか…?」
「…………大叔父上……」
 リオンはこの時の枢相の…その優しい瞳には覚えがあった。
幼少の頃に可愛がってくれた人であったのだ。
 目を瞑りその思いに応える…恐らくは最期の……問いかけに。
「………【しょく】だそうです」
 この言葉に枢相だけでなく、その場にいた者達も息を飲んだ。
「!!贖…まさかお主、それを受け入れたのか…?」
「はい受け入れました。だから此所に『リーフ』が居て…そして再び一族で『聖獣』を持てる者達が現れたのです」
 その時の事をリオンは思い出す。


―――「我に払えその対価、国のために殉じると言うのであれば。今一度『我が子』を望むのなら、我は今一度考えよう。『我が子』を…汝らが『聖獣』と呼ぶモノらを、汝だけではなくその新しき可能性を持つ者にもな」

―――「その対価とは……?」

―――「汝は終生…しょくを受ける、時には辛く報われぬ事もあろう」

―――「!?」

―――「それが対価だ、生まれたばかりの『我が子』を…やっと生まれた『闇の子』を、要らぬと言って殺そうとした、汝ら一族の…かつての心を忘れた汝らの…そのおごりに対してのな」

―――「『聖獣王』……」

―――「それでも良いか、ミラの末裔すえ……?あれの面影を持つ者よ……」

 『贖』とは贖罪、宗教用語では『犠牲の死』を遂げることによって、人類の罪を償い、救いをもたらしたという(キリスト教の)教義。罪のあがない。
 『聖獣王』はそれをリオンに求めたのだ。
一生をその『罪』を代わりに受け償えと。

 枢相は悟った。
自分たちが犯した大罪をこの皇太子おいは背負うと誓約したのだ。
その罪を……身代わりになって。
 最早死に逝く者には何も出来ないのが口惜しかった。

―――せめてこの皇太子に…何か救いを…救世を…神よ…

「済まぬ…許せよ……」
 それが彼の臨終の遺言ことばであった。
 皇太子…リオンはうな垂れた。
 これがフィンダリア帝国を影で支えた枢密院の最後であった。
 
―――いづれは再興することも出来るだろうが、今の時点では無理であった。
枢密院、その構成員は『真の帝室者』でなければならないのだから。

 そして今の今まで―――半ば傍観者のようになっていた帝国宰相アゼルは甥に問いかけた。
「何故私だけこの『聖獣』を残したのか聞いて良いかレオナート…?」
 リオンはうな垂れていた顔を起こし、だが叔父の顔を見ることなく答えた。
「貴方は…『彼』の、皇帝の『最後の盾』でしょう?貴方は父を裏切らない。そして…貴方に何かあればエレインが悲しみます、それに貴方は……いや、これは言わないが良いですね」
 甥の意味深なその後半の言葉に帝国宰相は悟った。
「……知っておったのか?」
「一つ頼んでも言いですか、叔父上?」
 だが叔父の問いかけには答ずに、自らの頼みを言うリオンであった。
 帝国宰相も敢えてそれ以上は聞かずに、甥の頼みの方を訊ねた。
「何をだ?」
「皇帝陛下に事の顛末の報告を。帝国宰相たる方に伝令を頼むのは心苦しいのですが、貴方なら父が何をしているか『頃合いを見て』上手くはなせると思いますのでね」
 その『伝令役』を頼まれた帝国宰相は僅かに笑った。
「閨の最中・・かか…?お主でも出来ように」
「やりたいとも思いませんよ、あんな…」
「そうじゃな、その方が良い。確か今の相手は…第三皇子セネリオと変わらぬ年であったよ」
「………………」
「分かった」
 無言の甥に苦笑した後、帝国宰相は了承し自身の『聖獣』の『力』でその場から消えた。
この時既にエレインと鉄仮面…『聖獣アリサノス』はもう居ない。
気絶したエレインを休ませるようにリオンが言ったからだ。
 後に残ったのは仮面三人組と軍務尚書一行である。
皇太子はその心情を幾つかの思惑を隠し、そして彼に命じた。
「枢密院の方々を丁重・・にお運びせよ。帝室の方々に相応しい礼節を求む」
「畏まりました……」
 軍務尚書ゴルバーンは直ぐに手の者に命じて、枢密院の犠牲者を運び始めた。
指示通りその場を何ごともなかったように。

 その様子を見ながら皇太子リオンは考える。
彼の意図を―――何故彼が『皇太子じぶん』を助けに入ったのかを。
 その必要が無かったのだが、一応彼は恩人になるのだ。
今まで皇帝ちちの腹心として名高いこの男が。

(果たして何が狙いか?)

 そう思いつつ隣の暗藍仮面に目配せした。
彼も同様の考えだったらしい。
 同じように『回答』をした―――「ご注意を」と。
 程なく全てが終わった時、軍務尚書ゴルバーンは皇太子に完了報告をした。
「ご苦労だったね軍務尚書、お陰で枢密院の方々もそうだが、【ありがとう】私を助けてくれてね」
 リオンは一見感謝を見せてその労をねぎらった。
 ゴルバーンは表情を緩ませ恐縮した。
「いえ臣下と致しましては当然のことをしたまででございます、皇太子殿下…」
「君の部下達にも少々(・・)手荒な事をした、後で私の名で見舞いを出す。それで許して欲しい」
「何の、皆命を取られた訳でもありません。お気になさることはありません。ですが皇太子殿下、もしお宜しければ一つお願いがございます…此度の褒賞代わりに。叶えていただけますかな?」
 そう彼は皇太子に願い出た。

 (やはり裏があったか…)
 
 そう内心ほくそ笑んで快諾するような素振りを見せた。
「私で出来る事ならね」
「もちろんでございます、そう皇太子殿下からの後一押・・・しさえあれば…と。お願いできますか?」
 この男にしては、やけに自分に対して畏まっていると感じた皇太子リオンである。 
「―――聞こうか、話せ」
「はい、有難うございます、ではその我が願いと申しますのは『娘』の事です」
 そう言って軍務尚書は娘の事を切り出した。
 そう彼の娘は現在皇帝の後宮にいるのであった。
 皇太子は曖昧な記憶の中で思い出す。
 確か年は自分や第二皇子ジョアンと大して変わらない程の娘で、そして―――ある事にも気付いた。
「ああ、確か今……『おめでた』だったね……?」
 そう彼の娘は所謂身重、つまり皇帝の子を…リオン達の弟妹を宿していたのである。
 軍務尚書は頷いた。
「はい、もうすぐ娘も産み月を迎え『子』が生まれます。つきましては無事生誕の後、是非皇太子殿下の『弟妹』に列して頂けるよう、長兄にあられます皇太子殿下…リオン様からもそう後押しして頂きたく存じます」
 皇太子はその事を充分に察した、彼の望みもである。
「つまり『皇位』をということかい?」
「左様でございます」

―――フィンダリア帝国では正妃の子である『嫡子』を除き、皇帝の『子』だからといって誕生と同時に『皇子・皇女』になる訳ではない。
 愛妾の子は所詮『庶子』なのだ、よって『公子・公女』とされる。
いや場合に寄れば、それすらも名乗らせて貰えずに日陰者としてその生涯を終える事もあるのだ。
 たが庶子を『皇子・皇女』とする事は出来ないのか?
 いや一つだけある。
それは特別に認められた庶子のみが、『皇子・皇女』と認められるのだ。
そう、準妃から生まれた『庶子』が『第二皇子』と認められた例があるように!!
 もうすぐ生まれる軍務尚書の娘の子は、彼にとっては尊き『外孫』になるであろう。
 その『外孫』…誕生する皇帝の『庶子こども』の身分の確保。
それが彼の望みであった。
 皇太子に与したのもひとえにそれである。

―――例え長年皇帝の腹心と言われた男でも、時が経つに連れ権力欲が生まれるのであった。

 軍務尚書の肯定に、周囲は固唾を飲んで見守っていた。
やがて皇太子は口を開いた。
「よかろう、女子は勿論・・男子でも『弟』として…『第六皇子』として遇するよう、そう皇帝陛下ちちうえに口添えしよう。それで良いかゴルバーン?」
「有り難き幸せ、これで娘も晴れて後宮で独り立ちできましょう!!」
「………………」
 大仰な喜び様だと周囲は思ったが、皇太子ならい敢えて沈黙していた。
 それからゴルバーンは、リオンに膝を折る。
「未来の皇帝陛下に忠誠を」
『臣下の礼』をとった軍務尚書に、皇太子たる彼は礼節に習いその右手を差し出した。
恭しくその手を取った男は、皇子の手甲に誓いの接吻をするとこう言った。
「では此にて御前を離れます」
「ご苦労だった、後はゆっくり休むといい…最もこれから日が昇れば、そうも言ってはいられないかもしれないね」
 皇太子の言葉にゴルバーンはうっすらとわらいを浮かべた後、彼の側を一礼して去っていった。
彼の姿が見えなくなると、皇太子は怪我で痛む右肩を労りつつ右手を軽く振った。
直ぐ様変身した『小姓リーフ』がいつの間にかに用意したおてふきで、キュッキュッとリオンの手の甲を拭く。
<主、今夜はついてませんね。怪我はするし『手にばい菌』が付着するし>
「ハハハ、そうだね」
 そんな時、暗藍仮面男は主君に問うた。
「宣しいのですか?あんな約定を受け入れても?」
 リオンは手を清拭して貰いつつ答えた。
「別に構わない、また『弟妹きょうだい』が増えるだけだ。『妹』だったら『政略結婚』の良い皇女こまが、そして『弟』だったらきっと年の近いジュリアスのいい『異母弟あそびあいて』になるだろう?」
「それだけとも思えませんが」
「そうだね、せいぜい強力な外戚が一つ誕生するだけだ、今のうちだけはね……」
「確かに貴方が実権を握ればそうなりますね……。しかし他の不安要素にもなり得ましょう?男子でしたら」
 清拭が完了したリオンは口の端を上げて答えた。
「面白いさ、【私】の後釜を狙うのであれば、それ相応の力を見せて貰いたいよ」
「!!」
 『氷弓』の暗藍色仮面男は目を輝かせた。
それは皇太子リオンが、再びその地位を維持すると示したに他ならないからである。
「リオン様…!!」
「君がそんなに喜ぶとは思わなかったよ、『ラインノール』」
「当たり前ですよ、私は他の主君に使える気など有りませんからね!!特に数字に弱いあの『第四皇子』などは語るに値しません!!」
 そう拳に力を込めて『氷弓』の暗藍仮面男…ラインノールは発言した。
 リオンは決意の笑みを浮かべた。
「ああ、もう迷わない、私は私であり続けるよ。……例えそれがどんな道でもね。そう、もうセリーは居ないのだから」
「リオン様……」
「私は皇太子で有り続ける、そして何れ帝位に就いた時…その後はジュリアスに私の後を託す。そうする事にするよ………」
 それは新たなる決意でもある。
 その言葉を聞いてラインノールだけではなく、他の二人も喜んだ。
「キャー、リオン様やったわねー!!私感激よ〜!!だって〜、ずっ〜と落ち込んでたでしょ?うっれしーわ!!」
「俺もですよ、リオン様!!やっとやる気になってくれて、ようやく始動ですか?」
「ハハハそうだね、取り敢えず『枢密院』は消した。これからは本格的に切り込んでいくとしよう、まずは『内閣改造計画』だね。だが、差し当たり当分はセリーの方に掛かりきりだよ、まだ終わりじゃない。【神官】の追っ手が出た以上は追撃・・しないとね……そう帝都を出てね。さぁ、私はこれから一休みしたら『奉領地』に行く事にする。しばらく帝都パレスを留守にするよ……長旅になるからね」
 この皇太子の台詞を聞いて側近仮面三人集(?)は、まだ仮面をしているが顔を輝かせた。
どうやら旅に出る事になりそうだ、それもなかなか面白い。
 
 この時既に深夜から未明に移りゆく空は、次第に本物の明るさを取り戻そうとしていた。

 
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