「聖獣」さんの秘密と、フィンダリア皇帝親子の今明かされる秘密です。
第11話 『雷帝』と『武帝』と『聖獣』と
第11話 『雷帝』と『武帝』と『聖獣』と
そして再び『翡翠宮殿』の『彼』の部屋。
祖国では既に兄皇太子が大物相手に『大対決』をしている事など露も知らぬフィンダリア皇子…現在はシレジア王太子セネリオ。
そんな彼の部屋は今、未だ降り止まぬ雨音さえも気付かぬほどに熱烈な世界パート2であった。
熱い抱擁の後、ただ今睦言中の既に『新婚王太子夫妻』ことセネリオとフレデリカ。
さて今宵の話題は『聖獣』の事。
真っ先に訊ねたのはフレデリカだった。
「ねぇセリー、貴方のお兄様…今の皇太子殿下はどんな『聖獣』を持っているの?」
「兄上の『聖獣』はね、私の『ヘスペリス』とまったく違うよ、性格だってそして性別も正反対、『ヘスペリス』は雌…いや『女性』かな…?なんだけど…兄上の『聖獣』の名前は『リーフ』って言ってね…何ていうか、う〜ん『男の子』みたいな感じなんだ」
「男の子?」
「なんかねこの頃…私がフィンダリアを出る前まではね、よくその『姿』でいたんだよ。兄上の側で『小姓』をしてたしね」
「人間になれるの!?」
フレデリカはびっくりした。
それは、彼女が今まで『天馬』か『鷲』以外の姿の『ヘスペリス』しか知らなかったからである。
ちなみにただ今『彼女』は、この部屋の隣室でいじけている。
理由はこの頃『主』と一緒に『おねんね』(添い寝)出来ないからである。
『聖獣』はとっても寂しがり屋さんなのだ、いつも一緒に『主』の側に居たいのである。
―――そんな『彼女』の欲求不満が……後の反乱に大影響するのであるが、今はまだそんな事など知るよしもないシレジア王太子であった。
さてそんな事は気にもしていないセネリオは、フレデリカの驚きに笑った。
「まぁね、『ヘスペリス』だって『綺麗な美女』になってくれるし」
「!!」
「あ、変な誤解しないでよリーケ。別に『そんな関係』じゃないし」
疑惑の眼差しを向ける未来の奥方様に、セネリオは必死に説明した。
「あのね、以前あいつら…異母兄弟をハメようとした時にちょっと協力して貰ったんだよ!!」
その時セネリオが説明したのは、後年彼が年の離れた『妹』に『セリー兄様武勇伝』と云われるものである。
それを聞いたフレデリカは吹き出した。
「本当にそんな事をしたの、セリー?」
「そうさ、あいつら全員鼻の下のばして取り巻き共々『仕掛け落とし穴・肥だめドボン』だったよ。言うなれば『セイレーン作戦』かな」
エッヘンと一威張るセネリオであった。
―――セイレーン。
ギリシア神話においては上半身が人間の女性で下半身が鳥の姿をしているとされている海の半人妖で、海の航路上の岩礁にいて、美しい歌声で航行中の人を惑わし、遭難、難破させるという。
つまり『人型』の『ヘスペリス』にこのセイレーン役をさせた悪戯王セネリオであった。
一笑いの後、再びセネリオは兄の『聖獣』について話し出した。
「それから兄上の『聖獣』はね、私の『ヘスペリス』と趣が違っているんだ。そう少し姿が異なるんだ。特性の違いかな?『天馬』になると鬣の色が異なって面白いよ」
「特性って何?」
「『聖獣』の持つ能力さ。私の『聖獣』は『火』の『力』を持ってるんだ。何でも燃やしちゃうのが得意!他にも松明やランプ代わりに明かりを灯す事も上手だよ。そして兄上の『聖獣』は『光』…」
「光?」
「う〜んお日様の力かな、とっても大きな力だよ。兄上はその気になれば、この世界の日の当たる場所を見渡せる。どんなに遠く離れた場所でもね、それこそ太陽みたいだよ。だからとても珍しいんだ『光の聖獣』は、それこそ百数十年ぶりに所有したんだよ兄上が!」
「そんなに珍しいの?」
「そう、普通『聖獣』は『四大元素』のどれかだと云われてる。この世界…人間世界を創世した『地』や『水』や『風』そして『火』の『力』を持ってる」
「まるで『精霊』ね!」
「そうだね。そしてその四種に当てはまらない『聖獣』が『光』と…それから『闇』…」
「『闇』?」
「『闇』の『聖獣』は…『禁断の聖獣』として、今ではもう一族は持つことを禁じられている。もしその『聖獣』に魅いられた者は…一族から追放される。『闇の聖獣』は『死』と『滅び』の象徴と言われているからね」
フレデリカは不思議がった。
「そうなの?でも同じ『聖獣』なのに…まるで魔物みたいね。『姿』もそうなの?」
これにはセネリオも少々困り顔で尋ね事に答えた。
「うーん、私も実際見たことがないんだ。『光の聖獣』は珍しいが何度も現れているのに、『闇の聖獣』だけはもう今日まで現れていないからね。ただ伝承では『黒天馬』らしいよ。フィンダリアの『創世記』によるとね」
「あの『伝説の乙女』と『六天馬』の物語ね!!」
フレデリカは目を輝かせた。
何を隠そうこの『フィンダリア創世記』は、フレデリカの愛読書だったりする。
そんな従姉妹姫にセネリオは破顔した。
「そうそう、創始の乙女ミラと天馬達!『光』を中心に『地』『水』『火』『風』そして『闇』の6つの『力』を持った『聖獣』達。この時ミラが従えていた『闇』は決して怖いものではなく、むしろ『夢』や『安らぎ』といった『癒しの力』を持っていたとされているんだ」
「それがどうして?何故今では『禁断の聖獣』なの?」
「昔…本当に大昔に希有な事に『闇の聖獣』が現れて、一人の皇女を『主』とした事があったんだ。だが運悪く折しもその時は…所謂フィンダリアの『政権抗争』の最中だったんだ……」
そう言ってセネリオが語り出したのは、かつて子供の頃に聞かされた一族の『話』。
次期皇帝を巡る一族の諍いの歴史である。
―――時の皇帝の頃…帝位継承権を持つ異母兄弟達が相争い、その中で犠牲になった一人の皇子がいた。
謀叛の疑いを掛けられ、身の潔白を信じてもらえずにその皇子は最後には処刑されてしまう。
謀反の疑いをその皇子にかけたのは、他の異母兄弟達である。
理由は出来の良かったその皇子を、妬みそして追い落とすためにである。
此所までは何処の国でも起こりうる話である。
しかし、此所はフィンダリア帝国、これからが違うのであった。
さて『無実の罪』によって処刑されたその非業の皇子には、とても仲の良い同母の姉皇女がいた。
この時代、それこそが希有なる『闇の聖獣』の『主』でもあった皇女である。
そして愛する弟を失った姉皇女は、その悲しみのあまり正気を失い…遂には発狂した。
そして―――
セネリオは声を低めた。
「―――『闇の聖獣』は『主』の…彼女の『絶望』と『愁嘆』の世界を、その望みの『世界』を作った。それこそ持てる『力』を全て『負の力』として暴走させてまでね。それはまさに『ニヴルヘイム』を具現化したものだったんだ」
「その話は…もしかしてガイア大陸の『暗黒時代』の話!?『死の女王』は、『伝説』じゃなかったの…!?」
「今となっては『伝説』のような史実だよ、そして『闇の聖獣』のその『力』は、あまりに巨大で…他の一族では…『四大元素』の『聖獣』達が束になっても誰も敵わなかったらしい。その結果彼女の弟を奸計に嵌めた全ての者達は勿論、係わった者…それこそ血縁なら何の罪のない女子供まで全て死んだ………」
「でも伝説ではそれだけでは済まなかったのよね、それこそガイア大陸中が『冥界』に変わったのでしょう?」
フレデリカは昔読んだ『伝説』について書かれていたことを思い出して口にした。
―――大陸中は凍てつき、草木は枯れ、作物は実ることなく…そして多くの民が飢えと寒さで倒れていったのだ。
それこそまさに『ニヴルヘイム』、氷獄と暗黒の世界であった。
セネリオは頷いた。
「そう彼女の望みの世界は『死と破滅の世界』…そこでは生者は生きられないのだから」
「伝説では、この大陸を救ったのは…フィンダリアの『聖皇』ね」
「そう『聖皇』が自分の『聖獣』…唯一対抗できる『力』を持った『光の聖獣』と出会い、そして共に戦って、最後に彼女を討った」
セネリオの話に、今まで『伝説』としてでしか認識していなかった『死の女王』について従姉妹姫は感慨深げであった。
「……そうする事でしか…その可哀想な皇女を止める事が出来なかったのよね……?」
「そうだね…そしてこれは余談かな?帝室の系譜に寄れば『聖皇』は、彼女の『甥』だったらしいよ…それこそ愛する『弟皇子』の子供さ…。いや、もしかしたらあるいは実子だったかも知れないけれどね」
「嘘!?」
さりげない彼の爆弾発言に、フレデリカは目を丸くして驚いた。
さもあろう『伝説』がいきなり『禁断の世界』になったのだから。
セネリオはそんな従姉妹姫に、やや茶目っ気のある目をさせて理由を話した。
「系譜じゃ『聖皇』の『父親』は、確かに謀反疑いをかけられた『非業の皇子』だと記載があるのだけれど、『母親』の方が何故か不明なんだ。だからフィンダリアの史家研究してる一部じゃそう言われているという説話なんだ。まぁ、古代のフィンダリア帝室じゃ『異母姉弟婚』も有りだしね、ただ同父同母の『姉弟』だったら『禁止』なんだけれど…だからと言って帝室では全くあり得ない話じゃないし、それに昔の系譜なんて余りアテには出来ないし、一体何処までが本当の事何だか分からないのが『古代』だよ。何せみんなで好き勝手に自分の都合の良いところだけを『事実』として残してあるんだからね」
―――そう『歴史』とは、全ては『時の足跡』。
『真』の事実を知る事は、後世に生きる人々には限りなく難しい。
その名の上がる人々が何を思い…そして生きたのかを。
全ては『時の神』アリアンロードのみぞ知る。
やがてフレデリカは本題に戻った。
「……そうね、だから『闇の聖獣』が『禁獣』とされてしまったの?」
「―――そうだよ。でも不思議な事にそれ以降『闇の聖獣』が現れた事はないんだ、『光の聖獣』は何度かあるのにね……」
セネリオはそう頷いた。
それからフレデリカは再び質問した。
「では今のフィンダリアの皇帝陛下はどんな『聖獣』をお持ちなの?」
―――今のフィンダリアの皇帝陛下はどんな『聖獣』をお持ちなの?
それはフレデリカ…異国の王女にとっては何の事はない、素朴な疑問だった。
だが、この質問を受けたセネリオは表情を変えた。
それはこの質問が…セネリオにとってはひどく葛藤をもたらすモノであった。
今までの和やかな雰囲気は瞬時に消え去り、そして重々しい空気へと変わる。
フレデリカは目を見張る、そして……セネリオは何かを思い沈思していた。
だがそれ程長い事ではなかった。
表情を何か思う様な素振りを見せて、そして愛する従姉妹姫の質問に答えた。 セネリオに葛藤をもたらしたその『質問』の答えを。
何故なら―――
「今のフィンダリア皇帝は『聖獣』を持っていない。いや正確に言うと持つための『儀式』そのものをやっていない」
「え!?」
「それはあのクズが…いや『父』が、フィンダリア帝国史上初の【『聖獣』を持たない】と宣言して、【帝位に就いた『皇帝』】だからだよ」
「!!」
そのセネリオの告白にフレデリカは一驚した。
―――そう、これだけは…例えセネリオがどんなに父帝を軽蔑し憎もうとも、唯一認めるべき【父帝の理想】であったからだ。
いや彼だけではない、これは彼の兄皇太子…リオンも又同様だった。
★*:..。★*:..。★*:..。★*:..。★*:..。
同じ頃―――フィンダリア後宮のある離宮。
皇太子リオンの声が夜の帷の中に響いた。
「だから『彼』は決断した!!『聖獣』に頼らない国を作る事を!!【現皇帝マチス・ガルボ三世】が…!!」
この言葉に『枢密院』側は沈黙し、現皇帝の腹心ゴルバーンは大きく頷いた。
そうこの父帝の『理想』が皇太子マチス・レオナートの『叛逆』を押し殺した最大の【理由】でもあった。
そう、これだけは…例えどんなに皇太子マチス・レオナートが父帝に対し怨徹骨髄に達した【あの時】。
彼の愛する婚約者だった『ファナ』、今となっては皇后クラヴィアを陵辱たらしめた事を…更には『妊娠させた』事を『遊学先』で知った時である。
帰国して対面するや、その怒りのままに自らの拳で殴り倒したこそすれ父帝を【殺せなかった】のは、皇太子を【枢密院】が総出で【止めた事】もあるが、何よりも自身が悲歎し力尽きたからだった。
―――父帝を殺しても彼女の疵は癒えない、彼女の腹の子が消える訳でもない。
だが殺意は日に日に募る。
当時のリオンは、押し込められた…途中からは自主的に引きこもった『坎の塔』、別名『監獄塔』の中で理性と憎悪の相克に苦しむ事になる。
やがて長い葛藤の末に、遂にリオンは憎悪…父への殺意を封印したのは、生まれてくる弟妹の事を気遣ったのと、そしてこの【父帝の理想】を思い出したからであった。
―――『聖獣』など必要ない、その『力』なく我はフィンダリアを導かん!!
―――『聖獣』に頼ることなく、他の国々と同様の国作りを!!
それがフィンダリア帝国現皇帝マチス・ガルボ三世が、即位の時に明言した言葉であった。
その言葉通りに彼は、即位より自身の武勇の力と覇気を持ってその長き治世を築いていたのである。
『英雄色を好む』―――
例えそう揶揄されても、それを超えて皇帝としての業績を知らしめていたのだ。
フィンダリアの内外共に、今までは……
ややして皇太子は目を開けた。
その開いた翠の瞳の何ともの悲しい事か。
それはかつては純粋に【父】を崇拝していた頃の…『息子』としての記憶を思い出したからだった。
そして…彼は語り出した、その『記憶』と共に。
「だから父上は…今のフィンダリア皇帝は『聖獣』を持っていない。いや正確に言うと持つための『儀式』そのものを拒絶したお人だ……そうですよね、叔父上…いや【帝国宰相】よ!!」
皇太子の後半の台詞に周囲は驚いた。
何故ならこの場に【帝国宰相】は来ていなかったのだから。
だが―――――
〔そうだ、それは兄上こそがフィンダリア帝国で史上初の【『聖獣』を持たない】と宣言して、帝位に就いた『皇帝』なのだから………〕
そう『風』が『声』を運んだ、その声こそ【帝国宰相】だったのである。
周囲が驚きでざわめこうと皇太子は高ぶる声で続けた。
「だから貴方は父に逆らわない!!例えどんな非道を『彼』が働こうとも止めない!!忠言しない!!見て見ぬふりをする!!貴方が…貴方こそが私は一番憎い、叔父上!!」
〔…………【マチス】……〕
「その【名】で呼ぶな!!」
皇太子リオンの怒声が上がった。
ズガシーン!!
彼の怒声と共に、天空より『雷』が光るや…それ程遠くない場に落ちた。
その『雷』に周囲は息を飲んだ。
偶然に雷が起こるわけがない!!
ましてや満天の星が輝く夜空に!!
動じなかったのは風が運ぶ『声』だけだった。
〔……お主らしからぬ荒れようだな、どうやら【その名】はお主にとっては【禁句】になったようだ〕
「お分かり頂けて有り難いですよ叔父上。さぁ…いい加減姿を現したらどうです?私を止めに来たのでしょう?それとも引きずり出した方が宜しいか!?」
〔………………〕
沈黙の後、小ぶりの竜巻が起こり直ぐに収まった。
収まった竜巻の後、その場に現れた人影、それこそがフィンダリアの帝国宰相だった。
彼が皇弟にして『ベラミー公』、その名をアゼル・レグランド・ベラミー=フィンダリアである。
淡い褐色なる樺色の髪と瑠璃色の瞳をした端正な容姿を持つ、壮年の皇族であった。
従姉妹皇女『エリー』ことエレイン・アレクサンドラ・パヴィア=フィンダリアの実父でもある。
親子で姓が異なるのは、これは『ベラミー』も『パヴィア』も共に『奉領地名』であるからだ。
ちなみに『エリー』は『パヴィア女侯爵』である。
元々は『女伯爵』であったが、『聖獣』を得てから爵位が一つ繰り上がったという経緯がある。
そして帝国宰相アゼルが第三皇子と同じセカンドネームを持つのは、現皇帝と彼の父、つまり先帝の名が『マチス・レグランド』であり、その名をそれぞれ受け継いでいるからである。
説明すると現皇帝マチス・ガルボ三世は息子の名を付ける時に、長子の名を自身と祖父の名『マチス』を与え、そして直ぐに生まれた『寵姫』の第二皇子に『ガルボ』という名を与え、そして第三皇子セネリオに『祖父』の名でありまた『実弟』が受け継いだ『名』を与えたのである。
ちなみに第四皇子の名は、現皇帝ではなくその皇子を産んだ『第二正妃』が付けたので、全くフィンダリアの帝室の名付方法に当てはまらない。
そして第五皇子は―――前述のとおり『長兄』にあたる皇太子が付けたのである。
(彼の名の由来は割愛させていただきます。「本編・二章第9話『前皇太子と花嫁』 (☆性描写有り)と第43話『名に込めし願い』」をご覧下さい。 閑話休題)
さて、現れた帝国宰相アゼルはその瞳に憂いを浮かべていた。
向ける相手は無論彼の甥たる皇太子である。
「レオナート…お主には悪かったと思っている、だが分かってくれ」
皇太子リオンは眼光を鋭くした。
「あれから…何度もその言葉を聞きましたよ貴方から……だが、もういい加減にして欲しい!!そんな言葉が欲しいのではない、それに貴方が真に謝罪するのは『私』ではないはずだ!!」
そう言い放つ彼の手は、リュートの弦に力が入り、手の表皮に食い込んでいた。
しかしそれでも帝国宰相アゼルから出る言葉は―――
「致しかたない事だったよ…」
「まだ云うか!!」
今まで何度も聞かされた叔父の『言い訳』に、皇太子は激憤を抑えられなかった。
そしてこの時皇太子のしていた『腕輪』が光を放った。
主の怒気に呼応して、彼の『聖獣』がその姿を顕現したのだ。
その姿は白光を思わせる『オオカミ』である。
この『聖獣』の登場に周囲は緊張が走った。
<主…ご命令を>
その緊張が分かったのか、この『オオカミ』の方も直ぐに主命を欲しがった。
久方ぶりの『その姿』を見て、皇太子は一瞑りをしてその怒りを収めてから顔をほころばせた。
「―――私はさっきの『雷』だけで十分だよ、『光之君』」
<主……>
側に寄った『オオカミ』の頭を撫でて皇太子は、やがてその記憶の中にあったかつての父帝の『理想』についてまるで『聖獣』に説明するように語った。
「そう、父上の理想は…これからのフィンダリアには必要な革新だったんだ。『聖獣』に頼らない国を作る事が…。何故なら一体今何人の一族が『聖獣』と心を通わせる事が出来る?このままだと我々は何れそう遠くない将来、『君』達とは暮らせなくなる。そうだろう、『リーフ』」
<主…>
呟く『聖獣リーフ』に微笑すると表情を改めた皇太子は、再び周囲に向き直った。
特に帝国宰相に向けて強い視線を向ける。
「そうかつてセネリオが云ってましたよ、我々は【『聖獣』に見捨てられつつある一族】だと」
「何が言いたい、マチス・レオナート!?」
これは皇太子の刺すような視線を受ける帝国宰相ではなく、枢相が叫んだ。
だが動じずに皇太子は更に続けた、その衝撃の発言を。
「だが、【『聖獣』見捨てられつつある一族】が存在するのなら、同時に新しく【『聖獣』に愛される者達】が生まれるのも必然!!」
「!!」
一同が一驚した刹那!!
その時、突然『それ』は放たれた!!
無数の矢、それも【氷の矢】がである。
そしてもう一方で別の【力】も発動する。
それは【風を纏った稲妻】であった。
矢が当たった近衛兵は命中箇所が凍り付き、そして稲妻を受けし者は痺れて、それぞれうめき声や悲鳴を上げて地面に倒れ込んだ。 。
だが襲われた近衛兵達は次々倒れ込むが、幸い致死までには達していない。
どうやらそれは威嚇であったらしい。
そして枢密院の者達は驚嘆した。
そんな『力』で攻撃出来るのは『聖獣』の『力』を借りる他にない。
だが、ここにいる者以外で『聖獣』を従えている者は、エレイン皇女と遠く離れた北の大国シレジアにいるセネリオ以外にいない。
だがセネリオの『聖獣』は『炎』の特性を持つ『聖獣』であった。
そして今一人のエレイン皇女は諸事情の為に現在は寝台の上から起き上がる状態ではないし、それに彼女の『聖獣』は『地』の特性。
どちらの『聖獣』も【氷の矢】や【風を纏った稲妻】などは使えない!!
しかし一体誰が!?
そして―――
その『力』を見せた者達が、程なく一同の前に姿を見せた。
(そ、そんな莫迦な…ハレルヤ!!)
それは今までの常識を覆すあり得ない事態であったからだった―――。
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