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序章 レルカーの風
 序章 


 ガイア大陸の北に、北方随一の国があった。
北方区域の広大な大部分の版図を有し、その領土は広く、豊かな資源の産出国である。
特にこの国が生み出した特有の金属『ミスリル』は、ガイア大陸中に求められる硬度ある金属である。
それに伴いこの王国は非常に軍事力も高く、ガイア大陸屈指の『列強国』の一つに数えられる。
 そのためにガイア大陸の他の著名なる四つの大国と共に『大華五ヵ国』と呼ばれていた。
またあるいはその国のある方角、『北』のみで例えられる国でもある。
 しかしこの国は今悩めることがあった。

 その王国の名を『シレジア王国』といった。

 この物語は、そんな悩みを抱えた『シレジア王国』に、一人の少年皇子がシレジアを訪れたことより始まる。
シレジア以上に歴史を誇り、そして『聖獣に愛されし一族』と言われる大帝国の第三皇子。
シレジア同様に『大華五ヵ国』の一の座を占め、他国より『中央』の異名を持って知られる帝国くに

 その帝国の名は『フィンダリア帝国』という。

 フィンダリア帝国第三皇子である彼は、何と祖国を出奔し放浪がてら、ただほんの少しだけこの国に立ち寄ったのであった。

 シレジア―――ここは彼の亡き母妃ははの祖国、一度だけその故郷を見てみよう。
 そう思い立っただけ。
 彼に従うしもべたる『聖獣』と共に―――


 ―――それから時は移り、四年の時がシレジア王国に流れる。

 その皇子は少年から青年となり、シレジア王によって『シレジア王太子』とされ、今では多くの臣下を抱える身分であった。
 『王太子』のことを、シレジアでは『ツァーリ』と云う。
この言葉は別の国では『皇帝』と意味するらしいが、この国では違う。
『皇帝』は『インペラトル』、『国王』は『カローリ』と言う。


 さて物語の場所はシレジアの西から南に面した大海。
その海は『カレリア海』、ここは北方の大きな海域、同時に海上覇権を狙う諸国との火種の地であった。
 そもそも『海の覇権』とは、海上交易の制海権を確保することである。
つまり主に国の持つ海軍力によって一定範囲の海域を支配しうる権力なのだ。
今ここでまさにその『海の覇権』を巡る戦いが勃発しようとしていた。
 現在この覇権は主に2つの勢力が拮抗して、それぞれの支配を確立していた。
その一つは云わずと知れた『北』のシレジア王国、そしてもう一つは『リーヴェ共和国』である。
 北方海域はその二国の勢力下に置かれ、そしてその海域では周囲に点在する諸島各国が存在していた。
 海洋国リーヴェ共和国、この国はガイア大陸内の国ではない、大きな島国である。
 さてここで『大陸の定義』。
『大陸』とは『218万平方Km』以上の面積を有するものをいう。
つまりそれ以上の大きな面積を有する『島』が『大陸』と云われる。
残念ながらリーヴェ共和国の面積は約『180万平方Km』なので、『島』である。
しかし単独で見るとこの国はガイア大陸の『大華五ヵ国』に匹敵するのであった。
 そしてこの国は自国の周辺海域に点在する諸島各国と『朝貢関係』を結び、その支配を強めていた。
 『朝貢』あるいは『朝献』とも云われる外交とは、強国に対して隷属の意を示した国が、『進貢しんこう』といって、各種贈り物などを送り臣下の礼を取る事によって、強国の庇護を受けるというモノである。
その贈り物などを強国側が受け取る意志を示す事を『入貢にゅうこう』という。
要するに貢ぎモノを持ってきたら面倒を見てやるよと云うのが『朝貢関係』である。
 そして今から3年前、このリーヴェ共和国に若い国王が即位する。
野心溢れるこの王の名を『エゼルレッド十二世』と云った。
この王は十五才で王位に就くや、自らの若さと国力を持って、海域だけでなくその支配をガイア大陸にまで及ぼそうと企てた。
まず朝貢する国々をと共に、ガイア大陸の海域に接した国の一つ、ファレイナ国を侵略。
3年の月日をかけてその国土の大部分を支配下に置き、現国王を退位させ傀儡の王を立てた。
 そしてその次に狙うはファレイナ国に隣接し、且つ、もう一方の海上制覇権を握る大国、シレジアだったのだ。
 エゼルレッド十二世は侵略したファレイナ国を橋頭堡きょうとうほとして、シレジア進行の足がかりとした。
 その影響を直ぐに受けたのは、シレジアの大運河海上貿易都市『レルカー』である。
エゼルレッド十二世はまずシレジアへの挑発として、朝貢させている諸島国に海賊まがいの事をさせて、レルカーに入る貿易船を次々と襲わせた。
この燃眉之急(ねんびのきゅう)に、レルカーは救援の手を王都に求める事になる。
シレジア国王ユーリー二世は、すぐさま勅令を出す。
『レルカー防衛とリーヴェ共和国の野望を阻止すべし』
 勅命を受けてシレジア軍を指揮するは、国王の養子たる『シレジア王太子』。
彼はリーヴェ共和国の侵入を阻むためにその軍をレルカーに向かわせる事になる。

 その彼の名はセネリオ。
正式名称を『セネリオ・レグランド・ディス=ツァーリ=フィンダリア=シグルフ』
この時、彼は二十の若者になっていた。


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 シレジア王国将軍シューイスキー。
彼は今非常にあっちこっちある人物を捜し回っていた。
彼が探すのはシレジア軍の大元帥たる『王太子ツァーリ』である。
自由奔放なこの国の王太子は、言うなれば風来坊。
彼を『主』とする『聖獣』と共に、その気の向くままに行動する。
『聖獣』は変幻自在、どんな姿で行動するのか分からないが、大抵は『鷲』、そして王太子が飛び回るときは白銀の体と翼、紅緋色べにひいろの目と尾を持つ『竜』、あるいは白い体躯、たてがみと尾は紅緋色べにひいろの『天馬』の姿を取るときもある。
「ああ、ツァーリ!!一体どちらですか~!?」
「どうしたシューイスキー?」
 そんなシューイスキー将軍の前に、同僚のビリュコフ将軍が現れた。
シューイスキー将軍は二十代後半、一方のビリュコフ将軍は三十路を迎えたばかりであった。
「どうもこうもあるか!!お主ツァーリを知らぬか?」
 何だそんな事かと云わんばかりにビリュコフは答えた。
「ツァーリならあちらの木陰に『ヘスペリス』とおいでだが……」
 そう云って顎で指し示した方角に、シューイスキーが探し求めるツァーリがいた。
大きな木陰の中、真っ白な、かなり大きなふかふかの『羊』にもたれている若者。
陽光を思わせる金の美髪、その整ったまだ少年の面影を残す容姿に恵まれた若者。
そこに彼の探し求めし王太子は、確かに昼寝をしていた。
「おお、あんな所に居られたか!済まぬビリュコフ!!」
 矢継ぎ早に云うや、シューイスキーは探し求めた王太子の下に急行した。
「ツァーリ~~!!」
 その呼びかけに『ツァーリ』こと、セネリオは目を開けた。
一方大きな『羊』もムクリと反応し、王太子に近づいてきたシューイスキーに訝しむ。
「どうしたシューイスキー?」
「何をのんきな、敵に動きがありました!!その数は海軍……」
 だがシューイスキーが報告する前に、セネリオはきっぱり言い当てた。
「リーヴェの海軍、ガレー型戦艦約200隻、ガレアス型戦艦10隻、ガリオット型戦艦約50隻、そしてこの海軍に呼応して地上軍も動いたというのだろう?……その数は約10万というところか……」
 そう言いながら『羊』からもたれていた背を起こして、シューイスキーにニヤリの笑いかけた。
 シューイスキーはあんぐりと口を開けて半瞬亡失した後に王太子に問いかけた。
「まさか…既に自ら偵察に出られていたのですか?」
「そうだ、…お陰で今眠い……しばらく寝せてくれ。レルカーの代表者が雇った傭兵団と、そして『歩兵部隊イッチー・アルミーヤ』がまだ到着していない以上、こちらは動けない。海軍の方は迎え撃つ準備が出来ていても……リーヴェ軍は陸地からも来ているのだ、『騎兵部隊リッタール』と我が国自慢の『鷲戦車隊アリオール・タンク』だけでは戦えない」
「はぁ、しかし……どうせお休みになるのでしたら、然るべきお部屋でしっかりとした寝台でお休みなられた方が宜しいのでは?」
「せっかく気持ちの良い天気なんだ、『日向ぼっこ』がしたいし、それに『彼女』も外の風に当たるのが大好きだからね…、ここで良いんだ。そうだろう『ヘスペリス』?」
<是、主の心遣いは大変嬉しく思います>
 そうセネリオの言葉に『羊』が答えた。
「うんうん」
 セネリオは『彼女』の喜びの声を満足に聞いた。
 シューイスキーはこの時思った、また新しい『姿』になったと。
 そう、この『ヘスペリス』こそがセネリオの『聖獣』である。
シューイスキーはやれやれとため息をつくと、主君にのたまうた。
「はいはい、分かりましたよ『ツァーリ』。しばらくご休憩して下さい。今はまだ昼の会食の刻限まで間がありますし……また何かありましたら、お呼びいたします」
「ああ、頼む」
 そう言うと再び『羊』に背をもたれて、シレジア王太子は昼寝についた。
部下が静かに主君の眠りを妨げないように去っていく。

 北の国のさわやかな夏の風。
その清涼とした心地よい風は、すぐにシレジア王太子の眠りに誘う。
朝早くの『敵情視察』の事もあったので、セネリオはすぐに眠りについた。

 その眠りは、かつての過去の思い出を運ぶ。

初めてシレジアへ訪れたときの、あの古い記憶をセネリオに思い出させた。

 それは夢。

 初めて見渡した新世界を……

ロシアの『ツァーリ』は正確に言うと『皇帝』ではありません。
『大公』以上『皇帝』以下という位置づけです、『皇帝』は『インペラトル』(発音によってインペラートルとも)―――――作者。
世界設定集 
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