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6.

「あり、ません」

「んん? あー……おじさん都合の良くない言葉は聞こえにくくなっちゃうんだよ。子分A君、B君。テュコが何を言ってたか、聞こえたかな?」


 テュコが小さな声で呟くと、無気力紳士は、何でもないみたいに振り返る。急に話を振られた子分AさんとBさんは「き、聞こえませんでした!」「俺、近頃耳が遠くなっちゃって……おいっ、正直に場所を教えてくれ頼むよー!」と、怯えている。一人はくねくねしながらテュコに手を合わせる始末だ。無気力紳士は、ふうーっと大きな溜息をついて、とんとん、とステッキをテュコの首筋に宛がう。


「もう一回聞くぞ。“コッペリア”は何処にある?」

「ここには、ありません」


 刹那、びゅんと言う馬鹿みたいな風が巻き起こって、大きな音を立てて棚が薙ぎ倒される。

 がちゃん、がしゃん、ばきばき。木や陶器で出来た人形達が地面に墜落し、ばらばらに弾け飛ぶ音が響く。

 こっそりと見上げると、闇の中、無気力紳士がゆらーりと立っていた。手に持っているステッキを、自分の肩にぽんと乗せる。……今、あの金のステッキ一本で、棚を破壊したのか?


「鬱い、鬱い、鬱いよ。テュコ、駄目じゃないか。君がきちんと答えられないから、お爺さんのコレクションが滅茶苦茶だ」

「でも、でも」

「さあテュコ、次の棚の人形達が駄目になってしまうよ。みんな君のせいだ。聞き分けの良くないテュコ、おじさんは大切なお爺さんの遺品を、壊すのはとっても忍びないんだ」

「でも、だけど」

「ふっざけんなーッ!!」


 「誰だ!」と言う子分達の声が聞こえる。テュコも、無気力紳士クソ野郎も驚いた顔をしている。

 もう私は堪らなかった。死んだフリしてる間に何とかなるでしょう誰か助けて作戦の事なんか、もう忘却しきっていた。二本の足で立ち上がり、くりくりお目めで思いの丈を込めて、無気力紳士を睨みつける。


――勇気 LV.1を獲得しました。


 また何か出てきやがった! しかし、そんな事にかかずらっていられるか! 私は、ずいとティコを庇うように仁王立ちをして、立ちはだかるのだった。

 こうなるともう、黙っていられない。


「いい加減にしなさいよ! 人ん家にいきなり夜中に入って来て! 人形壊して! あの子達を一人作るのに、どれだけの労力と時間とお金が掛かるか知ってんの!? 例えばほら、あんたがバラバラに壊したビスクドール! 知ってる? 石膏で型を作って、型にポーセリン流して、低温で焼いて、磨いて、1200℃で10時間焼いて、肌の色を付けて、焼いて、眉毛とかまつげとか口とか描いてまた焼いて、描いて焼いて描いて焼いてを繰り返して!! ドールアイ入れて組み立ててウィッグ被せて、服縫って!! 小物も!! これだけ精巧なドールを作るのに、これだけ美しいお顔を作るのに、いったい何ヶ月掛かると思ってんの!! このクソバカー!!」


 一気呵成に捲くし立てた。私は肩で息をしながら(呼吸器官は無いけれど)、無気力紳士の顔を見上げる。ぽかんと口を開けて、私の事を見つめている。時間が止まったみたいに、誰も動かない。


 ああ、この、バカどもが。


「あんた達、全員ただじゃ済まさないから覚悟しなさい」


 身長50センチくらいのテディベアの私だけど、そう決めた。

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