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1.

 人形は死んでいるから人形なのだ、と待本まつもと雛子ひなこは言った。

 ならば、きっと待本雛子も人形になったのだ。斎場に響く野太い読経の声と木魚の音、そしてすすり泣き聞きながら、そんな事を思っていた。

 まるで夏の浜辺に生き埋めにされたみたいに、敷き詰められた花の間から顔を出して眠る待本雛子はなんだか間抜けで、それでいて白粉の塗られた死化粧の顔は、あまりに美しかった。それは紛れもなく、人形の顔だった。病気なんか嘘だったみたいに綺麗ね、親族だろう熟年の女性が無責任に言った。

 ならば私も、待本雛子のように愛らしく、儚く、幻想的で、美しい人形のような死体になれるだろうか。トラックに弾き飛ばされて、身体から魂が抜けてゆく感覚を感じながら、私、吉良科きらしな暮葉くれはは最期の時をぼんやりと夢想していた。



――転魂 LV.EXを発動しました。



 ここは、どこだろう。

 私は、何かにもたれ掛かって座っているようだ。でも、目を開けることが出来ない。何も聞こえない。何も触れない。身体を動かすことができない。声を出すことが出来ない。

 天国か? それとも地獄か? どちらでもないのか?

 そんな想像がぐるぐると回る。くそ、これじゃあ埒が明かない。

 どうにかならないものか……。


――視力 LV.1を獲得しました。

――聴力 LV.1を獲得しました。

――触覚 LV.1を獲得しました。

――自律駆動 LV.1を獲得しました。

――発声 LV.1を獲得しました。


 頭の中で優しい声がする。女神様みたいに温かな声だ。

 ああ良かった。これで私は物を見ることが出来るし、身体を動かす事も、声も出すことが出来る。私は視力のスキルをオンにして、目を開いた。

 目の前には、真っ暗な石畳の道と、石造りの家が見える。洒落た街灯のランプが、ぼんやりと道を照らしているけれど、あまり当てにはならない明るさだ。何にしろ、日本のそれとは違う。ヨーロッパの町だろうか。……と言うか、今自然に考えていたけれど、スキルって何の事だ?

 まあ、何にしろ状況を確認しないと始まらない。私は、動かし慣れない身体を動かして、その場に立ち上がる。

 ん?

 やけに視界が低い。私、どうしちゃったんだろう。ふと見ると、目の前にガラス板が見える。ははあ、成程、これはショーウィンドウだ。

 私は、よちよちとショーウィンドウへと近づき、ガラスに写った自らの姿を見た。見てしまった。


「嘘でしょ……」


 両手をショーウィンドウにつける。視界の中の私の両腕は、ふわふわもふもふとした茶色い毛の生えた、それだ。

 何、この、状況。すぐには飲み込むことはできない。いや、それでも、それでもきっと、飲み込まねばいけないのだろう。

 しかし、まさか。

 まさか。


「まさか、この私がくまちゃんになるとはな……」


 そう。ショーウィンドウに写っているのは、ガラスに両手をついて愕然としているテディ・ベアだった。

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