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世界の色、ヒラギのイロ 作者:双色
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第七章:ヒラギのイロ

 ダレカが探した自分の色
 ダレカが見つけた世界の色

 ダレカが在る故に自分が在り
 世界が在る故に色が在る

 その存在を色即是空とダレカが言った
 その存在を世界の色とダレカが言った

 求め探し彷徨い
 その先に在るはいつも同じ

 世界が世界で在る所以に同じ
 彼女が彼女で在る所以に同じ

 ダレカが在るから自分で在れる

 世界の色、捜し求めた末に待つ答えは――


 ◇


 どうにも晴れない気分で帰宅した俺を待ち受けていたのは、風呂上りらしくパジャマを着込んでバスタオルで髪を拭く妹だった。勿論、この妹が兄、つまり俺の帰りを心待ちにしていて、こうして家に帰ってくる度で迎えてくれるなんて習慣は無い。即ちこいつは今俺に用があって、その用がなんであるのかという事は妹の手を見れば解る。
 バスタオルを持つ右手と、電話の子機を持つ左手。
 妹は不適に笑いながら俺に左手を差し出す。
「女の人からだよー」
 何がそんなに嬉しいのかと問いたくなるような笑顔。
 電話の相手は大方予想がつく。俺の自宅の電話番号を知っていて、尚且つ俺が事務所から帰宅してくる時間を知っている人物に当て嵌まるのは、クラスメイトであり同じ事務所に通う人間である。そんな人物を俺は一人しか知らない。
「どういう事かは後で説明してもらうよっ」
 独自にどのような物語を妄想しているのかは知らないが、それがどのような内容であれ所詮は妄想の域を出ない空想ストーリーである事は断言できる。妄想し終えた際には「この物語はフィクションであり、登場人物及び地域等は存在しません」というテロップを流す必要がある。もっとも、登場人物だけはフィクションではないのだが。
 いつまでも電話を受け取る事を忘れていた俺が我に帰ったのは、妹の握った子機が俺の胸板を小突いた時である。小悪魔染みた笑いを満面に浮かべながら、妹は俺を見上げていた。
 呆けていても仕方ないので俺は子機を受け取り、妹が駆け足で廊下の奥に消えていくのを見送る。バタバタと騒がしく姿を消した現在中学一年生の我が妹。今でもまだ幼さが残っている。と、そんな感慨に耽っている場合ではない。
 俺は気が進まぬまま通話ボタンを押し、子機を耳に当てた。
「もしもし俺だ」
 こんな口調なのは相手が誰であるか解っているからで、案の定応答してきた声は予想を裏切らない音質だった。
『あたしだけど、あんた今から用事ある?』
 子機が伝えてくる声はやはりヒラギの声で、だったからと言って予想が当たった事を喜ぶ気にもならない。それにしてもこいつは、電話のルールという物を知らんのか。俺だったからいいようなものの、もしも間違い電話など掛けてしまえば振り込め詐欺だと疑われる事請け合いだ。恐らく初めに子機を取った妹も混乱した事だろう。兄という立場から贔屓するわけではないが、アレはアレで常識を弁えている。
 しみじみに思いながら、訊かれた質問に答えてやる。
「別に無いが、それがどうしたんだ?」
『そ、じゃあ今から直ぐに来なさい』
 少しだけ安心するのは口調がいつものペースであり、つい先刻のように沈んでいるようではないからである。いつまでもブルーでいられては俺まで気が狂ってしまう。ハイならハイ、ローならローのどちらかでテンションを固定してくれねば、周りの人間が迷惑するのだ。
 今から来いと言われても一体どこへ行けばいいのかは解らないし、さらに場所が解っても何のためか解らない。まあそもそも俺にヒラギの考えが理解できた試しは無いのだが。なので、いい気分ではないが言われた事をそのまま行動に移すとしよう。
 どこに? という当然のような俺の質問に、ヒラギは苛立った声で答えた。
『学校』
 用件だけをさっさと言って切ってしまうのがヒラギ流の電話作法らしい。何か言おうと口を開きかけた頃には一方的に通話は終了されており、俺の反論は虚しくも独り言へと成り下がってしまうのだった。俺は反論する間もなく子機から通信切れを伝える機械音を聞いた。
 少しは意見する時間を与えて欲しい。人間には皆平等な権利が与えられているはずだ。
 耳に当てたままの子機をゆっくりと下ろしてきて溜息を吐く。
 まだ繋がったままの電話を切って、それをリビングに戻すべくして靴を脱ぐ。そこで何やら頭の上から騒がしい音が聞こえて顔を上げると、どうやら階段の上から妹がニヤケ面で状況を観察していたらしく、ドタバタと降りてきては開口早々に、
「なんだったの?」
 とか聞いてきやがる。別になんでもない。
 答えて俺は右手の子機を妹に突きつける。
「ほんとに?……って、ちょっとどこ行くの!?」
 わざわざリビングまで行くのは面倒なので子機を妹に押し付けて身体を翻した。
 来いと言われて行かない訳には行かないからな。そうでなくとも、俺も丁度ヒラギと話をしておきたいと思っていたところなのでタイミングがいいといえば、タイミングはいいのだろう。腹の虫が夕食を要求して鳴いていやがるが、この際それは無視しよう。
 靴を履き直して扉を開く。雨上がりで冷えた外の空気が肌に染みる。
 この時ばかりはブレザーに感謝だな。朝方や昼間は暑すぎて着ていられやしないが、こういう時には有り難い。これがあるだけ暖かさが大分増すのは、悪い意味で毎日経験させられている。漆黒の夜空には疎らに雲が浮かんでおり、その合間から空と月が窺える。黒一面に塗り固められた空を穿つ燦然とした月。何となく風流を感じる。
 ヒラギがヒラギである所以は世界が世界である所以と同じ。
 天羽ヒラギという存在は世界の断片的存在であり、その起源は飽和。
 ……だからどうしたと言いたくなるような事を何となく心中で繰り返して、俺は歩き始める。思えば今日という日はとんでもない日だった。中心世界とか言う意味不明な異空間に連れて行かれて、帰ってきたら今度は非人間宣言を聞かされたのだ。信じるか信じないかと言えば、信じたくは無いが様々な非現実現象を見せられては信じざるを得ない。

 ――だからどうした。って事なんだけどな。

 ヒラギが何であろうと、俺がこれまで付き合ってきたヒラギはヒラギであってヒラギでしかないわけだ。ならば俺の対応は決まっている。――これまで通りにしていればいいさ。世界が何だと言われてもそんな壮大な話、イマイチ俺にはピンと来ない。成るように成るだろう。そして物語は真っ当な結末を迎えるはずだ。それがハッピーエンドかバッドエンドかなんてのは俺の知りえるところではない。どうにでもなるがいい。ただしそれでも一抹の不安は存在していて、世界が崩壊するとか棺木さんが言っていた事だ。本人は大袈裟だと言っていたが、今日あの場に置いては大袈裟に聞こえないから性質が悪いのだ。俺もまだ十五年程度しか人生を終えていないし、これからまだもう少しくらい生きていたいと思う。別に長生きした先に何があるというわけではないが、そんな観念的な考えではなく、純粋に生きていたいだけだ。棺木さん曰く、人間の起源は『生きる』だそうだからな。
 もしも棺木さんの言うとおりに、この世界が飽和状態を保てなくなって最悪崩壊などという結末に至ろうと、その事に関して俺に一切の責任は無い。またそれが真っ当な結末なら受け入れるだろう。全世界の人間の意思はどうなのか知らないがな。
 中途半端な曇天を見上げて息を吐く。冷たい風が妙に心地よく感じた。
「まあ……成るように成るだろ、な」
 心中の言葉を繰り返し、俺は目的地へ急ぐのだった。


 ◇


 夜の学校に呼び出しとは随分とオカルトな趣味だな。
 青にライトアップされた橋を渡りながら、俺が考えていたのはそんな事だった。一体何をする気なのだろうか。よもや幽霊でも見付けようというのか。……いやそれは無い。あいつはそんな事に興味など無いだろう。
 空は俺が家を出たときに比べて幾分か晴れていた。といっても夜なので見えているのは晴天ブルースカイではなく真暗な平面なのだが。星は見えない。大気汚染の進んだ都会の空は空気が濁っていて、大気の澄んだ冬でもなければ空に星を見出す事は難しい。対照的に暗闇に穿たれた金色の月は煌々と輝いていて、夜道を照らしているかのようだ。月の光が道しるべ、なんてのは結構洒落たフレーズだな。
 朝に毎日通っている通学路を辿りながら、陽が落ちたことで様変わりした夜の世界に何か面白いものを見出そうとしていると、気が付けば学校の麓、中距離坂の前まで到達していた。この坂、中距離であるのは確かなのだが毎日登っていると嫌気が差してくる。そう長くは無いが斜面が急なのだ。
 太陽の支配する朝昼の時間帯は歩いているだけで汗が噴出してきて不快なのだが、陽が落ちて暑くないむしろ涼しいくらいの夜ではそれほど苦にならない。だからこの坂がキツイのは夏場だけだろう。秋と冬は身体が温まっていいくらいかもしれない。
 そういえば今はまだ春ではないだろうかと考えていると、俺は校門前にやってきた。
 夜の校舎には当然の如く明かりなど皆無で、外から見てやたらと不気味だ。こんな所夜にやってくる場所なんかではない。速やかに帰宅するべきだ。
 ところで校門は当然のように閉まっていて、何者かに進入を許して何が困るのかと訊きたくなるほど厳重な施錠が施されている。俺はこの高校に通う一一般生徒でしかなく必然、この施錠を解除する鍵など持ち合わせていない。
 さてどうしようかと考えていると、
「遅いわよ」
 暗闇の中から焦燥とした声が響く。
「電話掛けてから十五分も待ったわよ」
 仏頂面で暗闇から現れたのは他でもなく俺を呼びつけた天羽ヒラギに他ならない。そこにいると認識する事でぼんやりとその姿を把握して、近づいてみるとはっきり白い顔が確認できた。真っ黒な瞳と髪だが、夜の暗闇に溶け込んでしまわず輪郭を残していて、白い顔は余計に際立っている。風にそよぐ髪を押さえながらヒラギは眼を細めて歩み寄ってきて、
「ちょっと、何とか言いなさいよ」
 俺の胸座を掴んできた。強烈な握力に締め上げられては数十秒で呼吸困難に陥る。生命の危機の訪れを黙って待つほど俺はバカではない。ヒラギの手を掴んで胸座を開放させる。
「無茶を言うな、俺の家から学校までは急いでもこれぐらいは掛かるんだよ」
「あっそう。それじゃあ、あんたはここまで急いで来たって言うの? その割には息とか上がってないけど」
 無駄な観察眼と洞察力を備えた奴だ。そんなもんは一般人が所有していても仕方ない才能だ。どこか自分の才能の無さに絶望する探偵か刑事にくれてやるといい。
 制服の襟を正しながら考える俺を、ヒラギは頭一つ低い位置から睨みつけていた。
 相変わらず中途半端な不良なら直ぐに頭を下げさせてしまいそうな視線は普段の鋭さを取り戻している。目に穴が開く思いでヒラギの黒い眼を見ながら、俺は言った。
「夜の学校なんて来てどうするつもりだ。幽霊でも探そうってのか?」
「まさか。あたしはそんなもんに興味無いし、それに幽霊なんて実在しないと思ってるんだから」
 そう言って憤然と髪を翻す。
 今更ながら、当たり前だがヒラギは事務所を去った時のような体操着姿ではなかった。白のロングティーシャツに丈の短いデニムスカート。つまり私服であり、休日の駅前にでも行けばこんな姿の女子高校生を幾らでも見ることが出来るだろう。
 ヒラギは威風堂々と校門の前まで歩いていくとそこで一度立ち止まり、硬く施錠された門を睨みつける。念力で鍵を破壊しようとしているのだろうか。まさかそんなわけはなくて、俺がバカな想像をしている間にヒラギの姿を視界から見失った。
 さてどこへ行ったのか。――答えは上だ。
 自分の身長よりも高い門の上に手を掛け、猫を連想させる身軽さで身体を浮かせ――瞬間、ヒラギは門の上に移動していた。こいつの運動神経が群を抜いているのは知っているが、改めて感嘆する。
 ふわりと舞った長髪が整って、ヒラギは門の上に仁王立ち。腕まで組んで余裕の表情をしているから、見ているこっちが危なっかしくて冷や汗ものだ。いつかの夕日の件を思い出す。俺がいなければマジで死んでいたんじゃないかと思うくらいの命知らずな愚行もとい、自殺未遂だ。
 他人事に俺がビクついていると、
「なにやってんのよ、あんたも早くきなさい」
 いつの間にか門の上に座って脚を組んでいるヒラギが促してくる。
 どうでもいいがなあ、ヒラギよ。お前は自分の恰好と体勢を理解しているのか。少しは恥じらいを持つべきだと思う。
「なに意味解んない事言ってんのよ。あたし先に行ってるから」
 おい待て! と声を上げた頃には時既に遅し。暗闇に長い髪が翻り、ヒラギの身体が門の向こうへと消えた。余りに軽快な動きは、陸上部にでも推薦したくなる。
 先に行くと言われても、俺はどこへ行けばいいのか解らないのである。ガイドを失ってはただ狼狽する選択肢だけを突きつけられる。こんな時間に呼び出されておいてやって流石にそれはまっぴら御免被るので、俺はヒラギの背中を見失わない内に門を跨ぐという選択肢を無理矢理に見出した。人間どんな時も自分で道を開くべきなのである。
 思い切りよく決断したはいいが、この行動思ったよりも難易度が高い。自分の運動神経に過信していたつもりは無いのだが、先に行ったヒラギが余りに簡単に遣って退けるをのを見てしまっていた為か、俺は当然のように門を飛び越えようとして当然のように失敗した。
 後少し体勢を崩していれば間違いなくコンクリの地面にヘッドスライディングをかまし、その結果気の早い肝試しお化け要員のような姿に成り代わっていた事だろう。
 宙に浮いた俺の身体は思ったよりも早く失速を始め、足の裏が門の上に突く前に落下を始めた。だが慣性に従った身体は直進運動を続けようとして、その結果半端な状態で門へと突撃する結果となってしまう。上手い具合に膝が門に引っかかり、身体の重心が前に傾き始め、気が付けば視界が逆さまに成っていたという寸法だ。幸い俺の反射神経と危機管理能力の全てを駆使して、身体前面からの落下は避けることに成功したらしい。背中から落下する形となった俺は盛大に尻餅を付く結果となったのだ。
 ……と、自虐的な描写はここまでにして、本題に戻るとしよう。一体何が本題であったかは俺も覚えていない。そもそも本題なんてのが在ったのかどうか。それ自体謎である。
 身体を起こして首を捻る。柔軟の意味を込めて行ったこの行動にはもう一つ目的があって、それはつまりこの辺りにまだヒラギがいるのではないかと見回したのだ。
「いねえ……」
 言ってしまうと絶賛迷子中である。
 校門という境界を越えた俺は、次の瞬間には暗闇の中に取り残されてしまった。明かりの無い暗い校舎は窓越しに廊下を失踪する人体模型を目撃してしまいそうな雰囲気がある。出来るだけ見ないようにしよう。内臓を晒しながら走る模型なぞ見てしまった日には、色んな意味で吐き気を催す事必至だ。
 学校や病院などといった場所は王道であるが、その他でも大概の無人建物は夜になれば不気味な雰囲気を醸し出す存在と化す。こんな所に長居するのもいい趣味ではないので、俺は落下の衝撃で痛む腰をさすりながら立ち上がり、さっさと用を済ませてしまおうと歩き出した。
 どこへ行けばいいかは解らないが、解らないなりに少しくらいは予想が出来る。
 ヒラギが学校のどこかを目的地とするのなら、それは恐らくあの場所だろう。

 星の見えない空を仰ぎつつ、俺は中庭に歩を進めた。


 ◇


 思い返せば俺が中庭に到達するまでの経緯を思い出してみれば、これまでは例外なく全て校舎内から渡り廊下に出、途中から道を横に逸れるという方法だった。校舎の外からはどうやって行けばいいのだろう。というよりも外から行けるようにはなっているのだろうか。
 周囲を見回しながら歩いていても、プラカードを持って立っている案内役の人物や矢印の書かれた張り紙は皆無で、眼に入ってくるのは不気味な夜の廊下かぼろい校舎の壁ばかりだ。
 これへもう断言してもいい、第二次迷子中である。
 あまり偉そうに言える事ではないのだが。
 そうこう迷走していると校舎の周りをぐるりと回って、丁度横っ腹辺りに切れ込みのような割れ目を発見した。一年校舎と三年校舎を繋ぐオーバーブリッジらしき物が見える。どうやらここから目的地に辿り着けそうだ。
 果たして、ブレザーのポケットに手を突っ込んで歩く俺は一分も掛からぬ間に校舎に囲まれた中庭に到着する。
 中庭というのは四方全てをコンクリートの校舎に囲まれていて、まるで異界である。俺が通ってきた抜け道さえも闇に隠れて、もはや完全に閉ざされた箱の状態だ。
 昼休みの時間帯なら中心に聳える大木の上に太陽がやってきて、校舎に囲まれて異界化した空間にも光が満ちているのだが、夜はどうやら太陽に代わって月がその位置に現れるらしい。金色の光がコンクリの建物に隔離された異界に注がれていた。
 ゆっくりと中心に立つ木に歩み寄る。
 俺よりも先にここに向かったはずのヒラギはまだいない。大木の下には誰もいなかった。
 ヒラギも俺と同様にここにくる方法が解らないでいるのだろうか。適当に歩いていれば到着する事が出来るというのに。ここに至るまでの道のりで俺はヒラギを追い越していないし、追い越されてもいない。ということは、ヒラギは俺と逆の方向に進んでいったという事だろう。
 植えられた人口芝生を踏みながら木の下までやってきた俺は、幹に身体を預けるようにして座り込む。ヒンヤリと冷たい感覚が制服越しの背中に伝わってくる。
「疲れた……」
 やけに長い一日だったなと改めて痛感する。
 思い返せば今日だけで様々な出来事が駆け巡ったものだ。
 最終的には極め付けが夜の学校進入と来ている。忙しい一日だったよ、まったくな。
 月明かりが木漏れ日のように葉と戯れる様を見ながら、俺は重たくなった瞼のシャッターを下ろして視界を遮る。夜の闇よりも深い闇の中に意識が解け始め、背中の冷たい感覚も遠のいていくような気がする。

 音の無い世界。
 色の無い世界。
 何も無い世界。
 そこには何も無い。それなのに全てが在る。
 いや、全てが在るからこそ何も無い。
 何かが在り過ぎて、何も無くなっている。
 言葉にするならば――飽和。
 全てが全てを打ち消し合う世界。
 音も色も光も闇も影も陽も何も無い世界。
 俺がいたのはそんな世界だ。
 空は正しく虚空で、そもそも空ではない。何も無い空間には当然雲も、星も、太陽も月も無い。
 酷く寂しいようで寂しくないのは、ここには全てが在るからだろう。
 世界の中心。
 どうして自分がこんな所にいるのかと考えてみて見当が付く。
 なるほど――これは夢だ。

 視界が揺れている。
 最初、何度も瞬きで遮られる世界を俺はそう錯覚した。
 夢オチとは随分とベタなオチだと思いつつ、寝起きらしい寒気に襲われる。
 俺が木に預けた後頭部を離すのと、そこから声が聞こえたのは同時だった。
「やっと起きたわね」
 不機嫌な女の声が鼓膜を揺らす。首を傾けると俺を見下ろす形で仁王立ちするヒラギの姿がそこにあった。


 ◇


 夜の風が吹き抜け、天を突き刺すかのごとく高々と聳えた木に生い茂る緑を揺らす。
 昼間の雨で溜まった水滴がそれにつられて地面に落ちる。まるでまた雨が降り出したような光景。その一瞬、俺はこの木の下と外界との境界線が出来た気分を味わう。その一閃を引く事で自分と周囲との世界を隔絶する線。だが人間ってのは意外とそんな線には気付かず、簡単にそれを踏み越えてしまう生き物で、まあ当然といえばそれも当然の事なんだろう。つまるところ人間の境界ってのは、『そこに境界線を引いた』という自己満足にしか過ぎず、自分の思う『そこ』とは相手の思うどこなのか解らない。『そこ』が『どこ』で『どこ』が『そこ』なのか不明瞭な線。人間間における境界線も、実は知らない間に踏み越えていたりする。
 なら俺はどうなのだろう。
 棺木さんの話を聞いて、俺は知らない間にヒラギとの関係に境界線を引いていたかもしれない。その線を、あいつは簡単に踏み越えてくるだろう。では俺は。自分で引いた線を踏み越えることが出来るのだろうか。
 また、隣に並んで歩くことが出来るのか。
 閑話休題。
 語りながら自分でも意味不明になってきたので、というよりもそもそもこんな事を語るつもりはない。今のは何かの拍子で俺の身体のどこかに在るよく解らんスイッチが入ってしまった所為、とでも受け取っておいてくれ。覚えていても先の人生で得する事など一切無いと思うので、記憶に張り付いてしまう前に脳の短期記憶収納室へ移動、速やかに忘却作業に移行してくれて構わない。
 背筋がやけに冷たい。
 そりゃあ雨が降った後に木に寄りかかって寝ていればこうもなるだろう。とんだ災難だ。ブレザーの背中に樹木から漏れ出た水が染み込んでいる。補足説明をすると、ブレザーだけではなく首筋やらズボンやらが湿っていて、体育で大量に汗を掻いた後の授業的な状態だ。こんな形容で理解してくれれば幸いだが。
 俺は濡れた背中もとい身体の後ろ半分に嫌悪を覚えながら立ち上がる。
「悪い、寝ちまってた」
「そんなの見れば解るわよ」
 直前まで睡魔がキャンプ地にしていた重い瞼を無理矢理に開き、眠気が満面に出ている両眼(りょうまなこ)を擦る。時間帯を問わず、俺の身体はどうにも寝起きに弱いらしく、何故か視界がぼやけていて無理矢理それをヒラギに合わせる。
「ったく。こんなところに来て昼寝って……うーん、昼寝って言うか夜だから夜寝かしら」
 そりゃ普通だろ。
 微妙な間違いを指摘してやると、腕を組んで仁王立ちのヒラギは両目をぱちりと開き、
「うるさいなぁ、もう! 何でもいいのよ! あたしが言いたいのはそんな事じゃないの!」
「だったら何が言いたいんだよ」
 欠伸を堪えて俺が言うと、ヒラギは苦虫を噛み潰したような表情へと顔色を変化させる。どうにも言いたいことが纏まらず、はがゆい気分にでもなっているんだろうか。
 こいつにしては珍しいそんな表情を見ながら、俺は背中の濡れから自分がどれくらい眠りに落ちていたのかを推測する。しかしながら考えたところで俺はヒラギのような無駄に鋭い勘も優れた洞察力も推理力も無い、普通の高校生である。ましてや理科やら数学やらは俺の最も苦手な教科なのだ。
 考え始めて十秒ちょっと、考える事を放棄する。
 湿度やら温度やらの計算は苦手だし、俺がその思考を窓から投げ出したのには実は代わりに別の疑問が浮かんだからでもあるのだが。
「お前、どうして俺の事起こさなかったんだ?」
「別に。理由なんて無いわよ」
 怒気を交えたヒラギの言葉が落とされる。
 何故そこで憤怒するのだ。
「あたしも今来たところなのよ。だから別に、気を遣ったとかじゃないわよ」
「今来たところと言う事はお前、もしかして迷ってたのか?」
 月明かりに照らされるその横顔が僅かに赤くなる。
 仄かな朱色の頬を隠すように、ヒラギはそっぽを向いた。
「うるさい。迷ってなんか無いわよ。……なによ! 人が折角気を利かせてあげたのよ! 感謝くらいしないさいよ、バカ!」
 即前言撤回を行うような発言を、俺のいない方向に向けて放つ。言の葉一枚につき跳ね上がる双肩は見ていて少し面白かった。
「そうかい、そりゃどうも」
「感謝なんてしなくていい!」
 どっちなんだよ。
 制服同様に湿っている髪を掻く。
 振り向いたヒラギは模範的な不機嫌面で、俺としては見慣れてしまったスタンダードフェイスだった。
「それで、こんな所に来て何をしようってんだ?」
 濡れて首筋に引っ付く髪を鬱陶しく思いながら俺が訊く。
「あまり長居も出来ないだろ、一応は警備とかもあるだろうし。見つかったら厄介だぜ」
 危惧する俺に仁王立ちのヒラギは、
「大丈夫でしょ、そんなに大した設備なんて無いわよ。ここ、普通の公立高校だし」
 その自信がどこからやってくるのかと問いたくなるほどにきっぱり言い放つ。
 こいつが大丈夫というからには大丈夫なのだろう。
 ――彼女の『記憶』は『記録』、彼女が認識してしまった事柄はそれだけで『記録』になるんです。昼間に聞いた話が棺木さんの声で脳内にリピートされる。
 これが本当なら、こいつの正体不明な自信はイコール世界の保障付きという事になるのだ。万一にも警備に引っかかったりする事は無いだろう。
「それより、さっさと本題に移るわよ」
 本題? と呆けている間にヒラギはズンズンと歩いてきて俺の立ち位置を奪取。跳ね除けられる形となった俺はニ三歩よろめきながら後退する。いきなり何をするんだ、と言いたくなるのを堪えた理由は、ヒラギを見ればこの行動の意味が一目瞭然だったからだ。
 自覚は無かったが、俺が眠っていたのはヒラギのお気に入り――多分そうだろう――の場所で、つまり木の傘下に一箇所だけ存在する空が覗ける場所だったのだ。どうしてこの場所だけが上空を見ることが可能なのか。その疑問には嘗てのヒラギの考えを引用するだけである。俺の言葉で言い表すと、自然のイタズラとでも捉えてくれても構わない。世の中には理屈以外の何かが因果に直結する事もあるのだ。
「…………」
 白皙の横顔は不機嫌でも上機嫌でもなく、だとしても昼間の不自然な無表情でもない。
 あまり見掛けない真剣さを交えた無表情である。ヒラギの現在進行形的行動は端的に言い表すと観察、とでも言うのだろうか。……いや、観測という方が正しいな。
 見えているのはきっと雲が疎らな夜空だけだろう。そこに金色に輝く月が顔を見せているかどうかは俺の知る所ではない。何せ唯一それが確かめられる場所は現在、ヒラギによって独占されているのだから。
「ねえ」
 見上げた形のままのヒラギが呟くように言う。それにしてもこいつ、わざわざ夜に呼び出しておきながら、やってる事は昼休みと同じじゃないか。こんな時間帯をチョイスする理由がまるで不明だ。
「ちょっと代わって」
 否定を許さないヒラギの右腕が俺の肩を掴む。身長で明らかなアドバンテージを有していながら、小さな体躯のヒラギに抗う事が出来ないのは、もはや呆れやら情けなさやらを通り越して諦めの域にたしている。
 引かれるがままに俺は身体を傾けながらステップを刻む。勿論ダンサーのようなリズミカルなステップでなく、喩えるなら酔っ払いの蛇行走行だ。フラフラと夜の光に吸い寄せられる蛾の如く、俺はヒラギの前までやってきてその動きを停止させる。
「ほら、さっさと見なさいよ」
 台詞だけでは要らん勘違いを生むかもしれん。とはいえ危惧は確実に無駄であり、こんな時間に会話を盗み聞き或いは誰かの耳に入る、何て事は無いだろう。
 無抵抗なままに従うのは少々業腹だが、俺は首を上方に傾けた。
 漆黒の夜空が「なにを探してるんだ?」みたいに何も無い姿を曝け出している。
 星は無い。
 月は半分ほど覗いている。それ以外は何もありゃしない。これなら小学生のときに作った手作りプラネタリウムを見ている方が、まだ天体観測としてはましだ。
「……なにか解んない?」
「なんも」
 そもそも俺に意見を求める事自体が間違いなのであり、俺のような人間に何かを求めるなんて愚鈍極まりない行動だ。
 特に意見する事が無い旨を伝えて、そろそろ痛くなってきた首を標準位置に戻す。
「なあ天羽、別に自分のイロなんて探さなくてもいいんじゃないか?」
 否定的な意見を述べた俺を、ヒラギはじとっとした目で見上げる。
「そんなもんは俺も知らないし、むしろ知ってる奴の方が少ないだろ」
 淡々と口にする俺の肺が圧迫される。
 これで何度目になるか解らない感覚に、俺は自分の状況を視認するまでも無く理解する事ができた。
 制服で来るべきではなかった。とまではいかなくとも、せめてネクタイは外して来ればよかったな。闇より伸びた白い矢が俺の首下に、獲物を捕らえたそれは空腹状態の肉食獣のように噛み付いてくる。――つまりはヒラギが俺のネクタイを掴んでいるという事だ。
 相も変わらず万力染みた強すぎる握力で。一体何を食えば、まるで筋肉質に見えないスタイルの少女に、こんな強力な力が宿るのだろうか。
「それでもな――」
 ネクタイを掴むヒラギの手を俺が握る。
 今から思ってみると、俺がヒラギに手首を捕まれる事はあったとしても、その逆は無かった。だからといって新鮮な気持ちになったり、達成感やら正体不明の喜びが湧き上がったりもしないのだが。
 掴んだ腕を押し返すようにして締め上げられる首を開放すると、俺は急いで続く言葉を紡いだ。

「――俺はここにいるんだよ」

 怒声を声の砲弾にして今にも目前の敵に発射しようとしていたヒラギは、俺の思わぬ抵抗に怒らせた眉毛をぴくりと動かして言葉を呑む。
 構わず俺は続けた。
「俺だけじゃない、二階堂も、棺木さんも――お前はどうでもいいかもしれないが、堤や浜中のアホ連中もいる。それでも、あいつらは誰も自分のイロなんて知っちゃいない。
 知らなくても、みんな世界に飲み込まれてなんかいない。お前の目にはどう映るか知らないけどな、俺からしてみれば全員が全員違った色を持ってる」
 ――それらの存在を棺木さんは色即是空だと言った。
 誰かに存在を観測される事でそこにある確証を得られる存在。
 彼はヒラギに当てたようだったが、俺からしてみれば全員がそうだ。他人は自分を映す鏡。ギブ・アンド・テイクとは在り来たりかもしれないが、まさしくそれだ。
「お前にだってちゃんとイロは用意されてる」
 ――その存在(イロ)を世界の色だと棺木さんは言った。
 世界のパズルを構成するヒトカケラ。境界から外れた一つのピース。
 飽和した世界はそれ故に色が無い。無色透明がこの世界の色で、そして世界の断片であるヒラギもまた『飽和』という起源を持ち、無色という色を持つ。それは紛れも無い事実で、どうしようもない事なのかもしれない。
 それでも、
「誰のものでもない、お前だけのイロは在るんだよ」
 この時ばかりは、俺も変な気分になっていたのかもしれない。今日中の疲れが一斉に押し寄せてきたのか、それとも眠っている間に何かの薬を嗅がされていたのか、原因はどちらでもいい、さっきの言葉を放つ一瞬、俺は自分で自分を制御できなかった。衝動が理性を凌駕し、飲み込んだはずの言葉が出てしまったんだ。
 それは何の自信も無い、何の根拠も無い言葉だったのだが――俺の深層心理は、空っぽの言葉を信じていたいと叫んでいた。
 世界の色でも、なんでもないイロ。

 ――ヒラギのイロ。

 それは必ず在る筈だ。
 人は誰しも本音と建前を使い分けるというが、さて俺の発言は果たしてどっちなんだろうね。ガラにも無い発言内容であるということは、後者なのかもしれない。とはいえ、今のが心の奥底に幽閉した本音なのかもしれないという可能性も否定は出来ない。……まあ、どっちでもいいんだけどな、そんな事は。
 ヒラギは下唇を噛んで俯く。前髪が垂れ下がって、俺から表情は窺う事が出来ない。
 俯いているという事は人に見られたくない表情なんだろう。
 それなら俺は無理にそれを覗こうとは思わない。次にヒラギの紡ぐ言葉が、こいつらしい言葉であることを願いながら、自分で顔を上げるのを黙って待つだけだ。
「あたしは――」
 果たして、待つこと数秒でヒラギは顔を上げる。
 俺に向けられた白皙の顔、瞳の色は髪と同じ純黒。夜闇に飲まれまいと輝くそれが、何故か寂しく見えた。寂寞の思いを秘めたこの表情を見るのは、これで二度目となる。
「ほんとはね、少し諦めかけてた……」
 強い光を宿した瞳を逸らす。
 少し間が空いてしまい、俺が何か言うべきなのか迷い始めたとき、ヒラギの続く言葉により沈黙の時間は破られる。
「探して見つからないものなら、それって結局は在っても無くても同じでしょ? この世界中にもし自分しかいなかったら、て考えた事ある? この世界に自分しかいなかったら、誰もいないんだから自分という存在を確認してくれる他人がいない、つまり自分が在っても、それを『在る』と認識してくれるものが無いの。それじゃあ、自分では『在る』って思ってて、何の意味も無い事。
 空っぽの認識は、最終的に自分の存在意義を剥奪していく。そこに在るのは虚無だけ。中身の無い空っぽの器。そんなのは人形と変わらない。自分が自分で在る確証が無くなって、最期は何だか解らないままに消えていく。
 あたしが幾ら自分のイロを探しても、それが見つからないのなら在っても無いのと同じ。
 だから――」
 外れた視線が再び俺を見上げる。
 そういえば似たような話を昼間聞かされた気がするなと思い出していると、
「あたしのイロは『無色』――元から無いのもなんじゃないか、て……思い始めてた」
 決定的な言葉が紡がれた。
 禁忌(タブー)を犯す、とはこの事かも知れない。棺木さん曰く、人は自分のイロを知ってはいけないらしい。ならこの場合はどうなるのか? ヒラギのイロは飽和した無色だと俺は聞かされた。そしてヒラギ自信が今正に自分のイロが無色であると認識した。禁忌を犯すということは、それを裁く何かが働き掛けるはずなのだが、この場合のそれは何なのか。
 答えを俺は知っている。
「天羽――」
 呼びかける声は静かに反響する。
「え……?」
 まるで共鳴を求めるかのように、けれど二つの言の葉はすれ違い。
「なに……これ?」
 国の法を侵した者を裁くのは国だ。なら世界の禁忌を犯した者を裁くのは世界に他ならない。
 信じられない光景と形容して差し支えないだろう。俺がヒラギの名を口に出した直後、ヒラギの背後の空間が歪みを見せた、そうとしか言いようが無い。影に覆われた木の身体が一瞬何かの光に照らされたように見え、次の瞬間にはそこに渦が巻き始めていた。
 端的に表現するならブラックホール。そこに引力が在るのかどうかは解らない、が俺は反射的に腕を伸ばしていた。ヒラギは案外素直に俺が伸ばした手を掴もうとしてくる。だが二人の手はそこに壁でも在るかのごとく、寸での所で運動を停止させる。
「ヒラギ――!」
 小さくなっていく渦と薄れていくヒラギの存在。

 呼びかけた声は消えていく。
 静かに――虚しいだけの余韻を残しながら……。


 ◇


 手を伸ばしたままのポーズで、俺は金縛りにでも遭っているように制止していた。
 僅かに零コンマ数秒程度前まで目の前にあったはずの渦は消失し、そこにいたヒラギも姿を消している。目の前で起きた超自然現象、神隠し。とでも受け取ればいいのだろうか。発声器官の全てが機能停止してしまった気分を味わいながら、そんな事を思う。
 やがて自分の置かれている状況が異常事態であると悟った俺は、ただ狼狽するでもなく、無駄な絶叫をこだまさせるわけでも無く、電池切れした安物ロボットのように硬直し、その状態はポケットに入れた携帯が振動するまで続く事となった。携帯の呼び出しバイブレーションに人格を呼び戻され、空中を無為に散歩する手をポケットに押し入れる。
 ディスプレイが表示していた番号はまるで知らない数字の羅列で、当然規則性も何も無い。俺と親しい仲の人間ならばここに示されるのは見覚えの無い電話番号などではなく、知った顔が浮かぶ名前なのだろうし、こんなタイミングで意図的に電話を掛けてくる相手など俺の知り合いにはいない。これが本当にたまたま掛かってきた電話であるのかどうかは不明だが、俺はそんな事など思考の隅にすら置く事無く通話ボタンを押した。
「棺木さん……?」
 確信を持っていながら、それでも尚声は疑問系になって発せられるのは、少しは俺の理性が復活し始めているという証拠なのかもしれない。いくらなんでも、見知らぬ電話番号の相手に誰かを当てた固有名詞肯定形で会話を始めるのは、常識人たる俺には気が引ける行動だ。だからといって、まだ理性が完全に蘇えっていないというのもまた事実。俺の口が吐き出した言葉は疑問形とはいえ事務所の社長に当てられる固有名詞だったのだ。
 これでもしも相手が怪しい宗教団体勧誘員や振り込め詐欺師なら、簡単にこの状況を利用するだろう。勿論そんな危惧をする間もなく返ってきた声は、俺の想像していた声に他ならない。
『よくお解かりで。仰るとおりです』
 いつもと変わらぬ口調で、電話から聞こえる棺木さんの声。
 この声に少しならず安堵させられるのは、声の主が今俺の置かれている意味不明な状況をどうにかしてくれる人物であると俺が妄信しているからだ。
「棺木さん」と今度は肯定する発音で言う。「ヒラギが……消えました……!」
 もっと他に言葉が在っただろうが、今の俺にはこれが精一杯だ。
 見たまんまの上方を端的な言葉で伝えると、携帯から聞こえてくる声が言葉を紡ぐ。
 安定した、全てを知っていてそれで動揺しない口調。
『そのようですねー。昼間の話を覚えていますか?』
 頷いて、肯定の言葉を返す。
『どうやら、事は思ったよりも進行していたようですー。まさしく非常事態、イレギュラー事態です。随分と粋なサプライズを用意してくれますね。
 ところで……状況は大方掴めているのですが、一つだけ情報提供を願います。よろしいでしょうか?』
 その情報提供とやらを拒む理由は無い。
『ありがとうございます。それではお尋ねしますが、天羽さんは姿を消す前にどのような行動、及び言動を取ったか教えてください。漠然としたもので結構です。輪郭だけ伝えてくれれば、大体の見当は付きますので』
 何の見当をつけて、またそれがこの後にどのような効果を(もたらすのか気になるところでもあるが、今はそんな好奇心に突き動かされている場合ではない。棺木さんの口調はいつもより僅かに早く、そこから微小な同様を窺える。彼自身が明言したように、これはイレギュラー事態なのだ。
 要求されたとおりに俺は今に至るまでの経緯(いきさつを話し始めた。思い出しながら話しているので、文章の構成は小学生並みであるが、要点となるであろう部分はしっかりと捉えて話しているつもりだ。帰宅した直後に受け取った電話、意図の読めない呼び出し、門の前でした短い会話――そして、今までの会話。
 最後まで話して深呼吸するように深く息を吸い込んだ。
 棺木さんは相槌を打つでもなく、終始無言のままでこれまでの一部始終を聞いていた。
『なるほど解りました』
 沈黙を聞き続けた俺はやがて締めの言葉を添えるべきかとボキャブラリーを模索し始め、それと同時のタイミングで棺木さんの声を聞く。
『因果応報。全ての現象には原因が在ります。彼女が消失した理由は、私の中で二つの仮説がありました。一つは世界の方から彼女を感知して取り込んだという説。一つは彼女の方から世界を感知して取り込まれたという説。前者の場合では手の打ちようが在りませんが、幸いな事に現状は後者の因により齎されたようです』
 棺木さんの声は安定を取り戻し、俺は一人困惑の中に取り残される。
 現状がどのように齎されたのか、そんな事はどうでもよく、問題は今の状況がどういう状況なのかである。何が原因でヒラギが消えたのか、そんな事はどうでも良かった。
 焦燥する意識の中で俺が初めから抱いていた不安。
 俺が知りたい事柄はただ一つだけ、

 ――ヒラギは、ここに戻ってくるのか? 

 口に出したりはしない。
 ただ脳裏に浮かんだ一抹の疑問、不安。
 それはいつしか俺の意識を支配する鎖となっていた。
『手の打ち用なら、皆無では在りませんよ?』
 まるで思考を読み取ったかのような棺木さんの言葉。
 浮遊霊のように空中を彷徨っていた自我が帰還する。
『詳しい事は直接お話しましょう。何分複雑な話ですので電話ではニュアンスやら、感情やらが伝わりにくくなります』
「場所は事務所ですか?」
『いえ』
 否定の言葉の次に聞こえたのは声ではなく足音。
 背後から聞こえてくる音に俺は振り向き、
『私がそちらに向かいましょう』
 閉鎖された空間の闇の中に、棺木さんの姿を見出す。
「改めまして、こんばんは雑用さん」
 肉声に送れて携帯から機械音の声が鼓膜を揺らす。
 携帯電話片手に微笑した棺木さんがそこにいた。
 棺木さんは昼間と変わらずやはりスーツを着用していて、照らす光が月光だけではどうにも弱いらしく黒にスーツは夜の世界に擬態している。俺から見れば人の顔が空中に漂っているように見えて結構不気味だ。ましてや棺木さんの目の事を知っているから、こんなシュチュエーションでは彼が人外の何かに見えてしまうのも無理は無いだろう。
 俺は死神でも直視したかのように精神が凍結するのを何とか堪えて、闇から這い出てくる棺木さんを見る。
「とりあえず、謝っておきましょうか」
 ぱたん。握った携帯が二つ折になる。小さくなった端末をスーツのポケットにしまい、棺木さんは言った。
「すいません、雑用さん」
 突然に謝られても、俺には何に対しての懺悔なのか解らない。
「電話でもお話したとおり、事は私の推量を越えていました。警戒すべきは世界ではなく、彼女本人だったようですね。よもや、自分のイロに気付いてしまうとは、これほども考えていませんでしたよ」
 そんな事で謝られても仕方が無い。
 ここである疑問が浮上する。そもそも棺木さんがヒラギを気に掛ける必要あるのだろうか? ヒラギは世界の断片で、飽和していた世界の調子を狂わせた存在だ。だったらそんな奴はさっさと在るべき所に返すべきなのではないのだろうか。世界平和を語るつもりは無いが、それが世の安定のためならばよほどの事だ。棺木さん曰く、彼がヒラギに出会ったのは今から約一年前の事であるという。それから今まで、彼にヒラギを養う理由など無いのではないだろうか。今のヒラギの過去は、つまり棺木さんが偽造した過去であり、極端な事を言ってしまえばそんな事をする必要も彼には無い。
「それはあなたも同じではないですか?」
 心を読んだかのような棺木さんの発言。
 声は背後から聞こえた。得意の気配を消した移動でいつの間にか俺の背後をとり――といっても俺が振り返ると棺木さんは俺に背を向けていた――中庭の象徴たる巨木に、遺跡を調査する考古学者のようなポーズで気に触れていた。
「あなたは何故、彼女が消失した事に狼狽しているのですか?」
「それまで一緒に居た奴が突然消えたら、誰だってそうなると思いますが」
 あくまで正論で反論する。
「あなたに取って、天羽ヒラギとはどういう存在なんですか?」
 唐突な質問にやや戸惑いながらも俺は思案する。
 天羽ヒラギ。
 中学を卒業して入った事務所で初めて口を利いた人物。俺に社長だと名乗り、しかし実はそれは嘘だったり。適当な理由で俺を高校に入学させ、そこで教室を共にし、隣の席に座り、放課後になれば同じ事務所に向かい、何をするでもない無駄な時間を過ごした相手。
 ……こうして考えてみれば、俺の日常というのは俺以上にその中心にヒラギがいる。
 では俺にとってヒラギと言う存在は一体どんな存在なのか。
 同じ事務所の同僚? 同じ学校のクラスメイト? 教室で隣に座った少しだけ仲のいい女子? そのどれもしっくり来ない。単なるクラスメイトであるといえばそうなるし、ただの同僚だといえばそうとも言えるが、何故かそれでは気に喰わない。天羽ヒラギという存在の定義を――それだけで片付けるには無理がありすぎる。
 適当な言葉が見当たらず、黙り込んだまま返事を保留していた俺を棺木さんは鼻で笑った。
「魔が差した故に出た余談です。返事は要りません。本題に入りましょう。
 人間が世界に飲まれた後、我々が在るこの世界がどのようになるかは、昼間話ましたね?」
 ごちゃごちゃとした思考を一旦クリアに戻す。
 昼間の話を記憶の引き出しから引っ張り出して再生した。
 誰かが世界に飲まれた後、その誰かが関わった現象は世界により改竄される、という説明を俺は棺木さんにされたと記憶している。誰かが消えた事により生まれた歪みを修正し、初めから無かった事にするという――いや、
「それじゃあ可笑しい……」
 呟いた俺に棺木さんは無言で頷いた。
「世界による過去の改竄。世界はその生態系を保つために、歪んだ部分を修正する必要があります。つまり、消えてしまった存在は初めからそこになかった、という事にするわけですが、それはつまり消えた人間の記憶をその人物が関わった全ての人間から消すという事です。では現状は。私やあなたは、消えてしまったはずの天羽ヒラギの存在を忘れてはいませんね?」
「だったらヒラギは、世界に飲まれたんじゃないんですか?」
「いいえ。彼女は確かに世界に飲まれたのです。おそらく、私達以外の人間は彼女の存在を完全に忘却しているでしょうね。彼女の関わった過去も全て改竄されている事でしょう」
「……俺達の記憶は、どうして書き換えられていないんですか?」
 結果には必ず原因が伴う。そう言ったのは棺木さんで、俺もそう思う。ならば俺と棺木さんがヒラギを忘れていないのにも理由があるはずだ。――だったら、それはなんだろう。
「ここが」と棺木さんは足元を指差し、「外の世界とは別の世界だからです」
 さらっと意味不明なことを言った。
「全ての現象はそれを観測する何者かが在って成り立つ。色即是空でも、人間原理でも構いません。つまるところ現象とは何者かに観測されて存在を確立する、ということです。在るか無いかが不明瞭な箱の中。死んでいるはずなのに、蓋を開けるまでそうと確定できない猫のような――何が言いたいのかというと、ようするに誰も観測する事の無い現象というのはそれだけで存在の意味をなくす、ということです」
 棺木さんは足元に向けた人差し指を持ち上げて、今度は中庭を囲む校舎に向ける。
 そのまま身体をぐるりと捻って、対象がこの空間を囲む校舎全てだという事を示した。
「現在この空間は四方八方を囲まれ、外部との繋がりを絶っています。即ち、ここは閉じられた世界、蓋をした箱なんです。今ここで何が起ころうとも、外の世界の人類はそれに気付きません。今この空間は外の空間と現実を共にしていない――それこそがここが異界と化している理由です。
 もっとも、だからといっていつまでも私達がこれまでの記憶を持っていることも出来ません。いずれ私達にも同様の記憶改竄が行われるでしょう」
「ここは、何なんですか?」
 俺の問いに棺木さんは少し間を置き、答える。
「世界の中心、とでもいいましょうか。私が天羽ヒラギの心を覗くとこの景色が常に見えてきました。彼女にとってここは特別な場所だったのでしょう。加えて現状。勿論昼間に見せた世界の中心とは異なります。並行した二つの世界、SF用語を使って表現すると、パラレルワールドという奴です。そして、その二つの世界を繋ぐ役目は私が致しましょう。
 いずれ消滅しますがね。全てのイロが渦巻き、その飽和が起源となっている世界とは違い、ここは天羽ヒラギの感情や記憶、彼女のイロによって構成された世界です。彼女が完全に世界に飲まれて飽和の一部となれば、ここも元の、只の高校の中庭に戻ります。
 さて――長くなりましたが前触れはこれで十分です。
 本題に入る前に、一つあなたに質問をさせて頂きますが、宜しいでしょうか?」
 何を質問するのかは知らないが、首を横に振る理由は無い。
 いいですよ、と俺が受け入れる。
「では問います――あなたは、天羽ヒラギをどうしたいのですか?」
 放たれた質問は至極単純なものだった。
「ここに連れ戻します」
「そうですか」
 この質問に何の意味があるのかは知らないが、どうやら棺木さんはそれで満足したらしい。
 単純なやり取りを済ませると、棺木さんは右目の前に垂れる前髪の下に手を入れた。
 それの姿を俺はこれまでに二度見ている。
 一度目は茶番劇の後に、二度目は今日の昼間に。一度目はヒラギが闖入してきた事により何事も無く、二度目はその後世界の中心へと案内された。今回もそうなるだろう。
「そういえば、まだ話していませんでしたね」
 焦らすように棺木さんは新たな話題を持ち出した。
「このまま天羽ヒラギが消えれば、あなたは、自分がどうなると思いますか?」
 ヒラギが消えたら。
 想像したくはないが見当をつける。
 俺の現状にヒラギが介入している事柄。それは数あるが、一番のそれは俺が高校に通っているということだ。俺の入学はヒラギの一存により決まったらしいからな。だとするならば、
「……ヒラギが消えれば、俺は高校に通わず、事務所で働いているんじゃないですか?」
「いえ、残念ながら違います。あなたは事務所には就職せず、普通の高校生としての日常を送る事になるでしょう。確信は持てませんがね。簡単に説明するとその方が楽だからですよ。あなたが高校に通っているという情報は、あなたの友人やその他の周辺人物の多くが認知していますが、あなたが事務所に所属しているという事は、現在では私とあなたの両親しか知りません。その場合、記憶を改竄する手間が楽なのは、あなたが事務所に所属しているという現状よりも、あなたが高校に通っているという現状を肯定する方なんですよ」
「なんだか勝手で都合のいい理屈ですね」
 呆れるように俺が溢すと、棺木さんは肩を竦めて苦笑した。
「ということで、ここで社長としてあなたに宣告しましょう」
 苦笑を微笑に変えて――非常から日常へと表情を帰還させて棺木さんは、言った。
「今日を持ってあなたはクビです。今日まで、お疲れ様でした」
「ヒラギが戻ってきてもですか?」
 その場合、現状は変わらずに済むのだが、
「ええ」
 俺のリストラは変わらないらしい。
「天羽ヒラギが戻ってこなければ、そもそもあなたは只の高校生となり、事務所などとは無関係な存在になります。彼女が戻ってきても――あなたが方には、普通の日々を送っていただきたいです。こんな世界が歪むような話とは無関係な、平穏な日常を」
 その間、言葉を紡ぐ棺木さんの表情は暗かった。俺はどのようにコメントするべきか迷ってから、これしかないという言葉を発見した。
「そうですか」
 身勝手だろうが何だろうが、一社員が社長に逆らう事は出来ない。
 ならば俺はこの首切りを快く受け入れよう。
 月明かりの下で、短い俺の返事に棺木さんが頷く。
「今日まで、あなた方と過ごせた時間は非常に有意義でした。
 ――有難うございます、そしてさようなら、ですね」
「そうなりますね。俺の方こそ、今日まで有難うございました」
 その声は静かに反響して、消える。
 これ以上交わす言葉は無い。また話をしようと思えば事務所を訪れればいいさ。その時はヒラギを連れて行ってやろう。どうせなら世界がどうとかいう話を聞かせてやればいい。あいつは一方的に興味を示さないと思うが、まあそれでも構わない。
 冷たい夜の風に吹かれながら、棺木さんはゆっくりと前髪を上げ――

 俺の視界が暗転し、そして世界が揺れた。


 ◇


 朝に目覚めて夜に眠る。
 普通人はそのように一日を始めて、一日を終わらせるわけだが、では眠っている間、意識が世界から隔絶されている間、人の意識はどこにあるのか。考えるでもなく、夢の中だ。もっとも、夢について語り始めればレム睡眠やらノンレム睡眠やらと理解に苦しむ専門用語を大量に並べ、挙句自分でも何が言いたかったのか不明になってしまうので割愛させて頂こう。そもそも俺はそんな事を語るつもりは毛頭無い。
 夢の仕組みは取り合えず一旦考えない事にする。
 今は昔々の偉い学者様が見つけ出した定理は全て無視した上でこの話を聞いて欲しい。馬鹿げた話だと笑ってくれて構わない、なるほど確かにそうだと感心共感してくれても構わない、むしろその場合は感謝の意を捧げよう。
 俺は昔、人が眠ると意識はどこか別の世界に飛ばされるのだと思っていた。
 瞼の中の閉じられた世界。
 そこは自分だけの世界で、他の誰の介入も許さない、絶対の秩序の中に廻る世界。総てが自由で、総てが自分を中心に回っている。まあ、俺だっていつまでもそんな馬鹿話を妄信していたわけも無く、中学に上がって勉強のレベルが上がるに連れて、そんな可愛らしい考えは消え去っていった。
 それでも忘れた記憶がある日突然蘇えってくる、という事は決して有り得ない事ではない。
 最近になって俺はそんな昔の記憶を突如フラッシュバックさせ、さらに新たな妄想を乗じさせてしまっていた。

 俺たちの在るこの世界も、誰かの夢なんじゃないか。と。

 思いついて三秒後には苦笑し、五秒後には羞恥し、十秒後には自己嫌悪に陥った。
 とはいえど、それは誰にも否定できはしない事なのだ。
 俺たちは所詮夢物語の登場人物で、誰かさんの描いた筋書きに沿って行動するしかないんだ。一生自分が踊らされている事にも気付かず、誰もが自分だけの物語を進行させていると勘違いしながら、終演を迎える。
 あまつさえ、俺は世界の裏事情を最近になって聞かされているのだ。
 自分の内側の世界。
 棺木さんはそれをイロの世界と呼称していた。

 では、俺たちのいるこの世界は? 
 これは誰のイロの世界なんだ? 

 考えたところで仕方の無い事なんだが。
 始まりが在るものには必ず終わりが在る。
 夢はいつか覚めるものだ。

 堕ちていく意識の中。
 そんなモノローグが俺の意識に浮かんで、深い闇に解けていった。


 ◇


 前回棺木さんの目を見たときには、浮遊している感覚と重力が十倍近くになったような感覚が同時にやってきて、俺に吐き気を催させた。結果。そんな経験を生かすことも出来ず今回も棺木さんの目を見てしまい、コンマ数秒後にエチケット袋を常備しておくべきだったと後悔した。
 が、どうやらその後悔も不必要な物だったらしい。
 両眼(りょうまなこの視界にしっかりと棺木さんのイービルアイ――違う気もするが今はそう呼称する――を捕らえた俺は、瞬間的に自分の周囲の空間が歪むのを感じる。ここまでは以前……つまり昼間と同じだったのだが、今回のそれは昼間のような強烈な吐き気及び無重力感とその他を伴っていなかった。
 月明かりが百倍以上の光度となり、視界を埋め尽くす。
 巨大隕石が直撃したような衝撃で空間が揺れ、足元が揺れる。
 ただ、それ以上の事は起きず荒れた視界は徐々に安定を取り戻していく。
 まるで放送を受信していないテレビのチャンネルのように、ドットの荒れた画像が網膜に映し出されていった。
 音が聞こえる。
 小刻みに、絶える事無く常に一定の音量で聞こえてくるそれは、俺の鼓膜を揺らして間もない音だった為に、俺がその音の正体を見抜くには数秒を有する事は無かった。
 肌に触れて痛くない程度の、それでも重量を持った確かな雫。天から注ぐ水滴が地面を打ち、リズムを刻む。
 雨が、降っている。視界は未だ荒々しい砂嵐状態だが、音で俺は理解した。
 そして直ぐさま異常に気付く。俺が昼間行った中心世界では五感に訴えるものなど何も無かったのだ。それが今は、当たり前のように五月蝿い雨の音が聞こえてくる。
 自分が正しく空間移動をする事が出来たのか不安になっていると、そこに追い討ちを掛けるが如く、今度は俺の視覚が刺激される。砂嵐で荒れた視界が少しだけ穏やかになり、まるで何も見えない状態から、映りの悪い旧式テレビの画面へと変容した。薄暗い景色。案の定辺りは雨景色で、足元を見下ろせばアスファルトの上に水溜りが出来ている。両足を水溜りにつけているというのに、靴の底から雨水が浸入してくる事は無い。右足を動かしてみてもそこに波紋は出来ない。
“こんな所で何をしているんですかー?”
 声が聞こえた。
 すっかり馴染んでしまったその口調と声は、紛れも無く棺木さんのものだ。
“雨の中で傘も差さずに”
 顔を上げると棺木さんのスーツ姿がそこにあり、俺の動揺を誘う。
 ここにいるはずのない人物が、目の前にいるのだ。
 俺は焦りながら何かを言おうとして口を開くが、言葉を紡がずに唇を閉ざす。理由は偏に彼の言葉が俺にむけられたものではないと気づいたからで、ついでにそれが誰に対して放たれた言葉だったのか気付いたから。
“空が……見えないの”
 哀しげに響いた涼やかな声は、これもまた俺の知っている声で、
“あたしが、どこにもいない……”
 今の俺が一番聞きたい声だった。
 華奢と長い黒髪は無抵抗なままに雨に濡らされ、潤んだ瞳は底なしに黒い。前髪から垂れる雨の雫が足元に落ち、溜まった水に波紋を広げる。小柄な体躯に雨で張り付いた衣服。それは少女の本来の身体の大きさを視覚的に訴えてきて、普段はその存在感からは気付けなかったそいつの小ささを教えてくれた。
 その姿が――不安に押しつぶされそうになる小さな少女の姿が俺の記憶に在る、そいつと重なる。
 雲が覆い隠してしまった空を見上げて寂寞の表情を作るその少女は――
“それは変ですね。あなたはここにいるというのに、どこにもいないとは、どういう事でしょうかー?”
 飄々とした口調でスーツ姿は言い、ぴしゃりぴしゃりと音を立てて歩を進める。
“そういう事じゃない。ここにいるあたしは、あたしじゃなくて……。でも、だったら本当の自分はどこにいるのか、それも解らなくて”
 感情の色を宿さない瞳が空を見上げる。
 男はいつの間にか少女の傍まで到達し、その表情を僅かに変化させていた。
 俺にはそれの意味する所が何か解る。
 そう、ここだったんだ。
 彼が、彼女が境界から外れた世界の一部なのだと気付いたのは。
“……仮に――”
 唐突に男は言葉を紡いだ。
“あなたの求めるものが見つかったとして、あなたはどうしたいのですか?”
“どういう意味?”
“あなたの求める答えが、あなたを消し去ってしまう事だったとしたら、あなたはどうするのか、という意味です”
 問う男を、深すぎる瞳で少女は見上げている。
“どんなことでも、それが答えなら受け入れる”
 初めて少女の言葉に感情らしき韻が含まれる。
“そうですか”
 今度は男の言葉から感情が失われた。
 静かな静謐の中で雨の音だけが生きているよう。まるで時間を止められたように少女と男は黙り込み、空を見上げていた。
“私の口から答えを告げる事は出来ません。あなたの求める答え――あなたのイロは、あなた自身が見つけ出さねば成りません”
 男は前髪の下に手を差し入れる。
“乗りかかった船、というのですか? とりあえず……それが見つかるまでは私があなたと共に在りましょう。互いに境界から外れた存在として”
 その言葉を最後にしてまた俺の視界が揺れる。
 薄っすらと見えていた映像はまたドットが荒れ始め、砂嵐が視界を埋め尽くした。
 ――これが少女の始まり。
 聞かされたのはいつの日だったか。曖昧な輪郭の中でその少女が覚えていたのは、唯一雨が降っていたということだけ。ここから彼女は始まったのだ。そう――天羽ヒラギの物語はこの日から今日に続いている。
 棺木さんはこうなる事が解っていたのかもしれない。
 ヒラギが自分のイロを見つけ出し、世界に飲まれるという現状をこの日から理解していたんだ。共に境界を外れた存在。棺木さんは言っていた、自分の力は不要な物であると。そう考えているからには、少なからず彼は悩みを抱えていたのだ。どうして自分は周りと違うのか。異常者が最も恐れるのは、自分で異常であるという事を認識してしまい、狂い、自分を失って空っぽになることだ。そして周囲にそれを知られることで、周囲からも自分という異常を拒絶され、一切の居場所を失ってしまう事。だからこそ、この時の彼は少しだけ嬉しかったのだろう。この世界に唯一自分だけだと思っていた異常存在が、他にも在るという事を知って。そこに、自分自身の居場所を見出す事で。人の不安は、集団の中では驚くほどに容易く消えてしまうものだから――。
 雨の音がボリュームを下げていく。
 さっきまでの総てが俺から奪われていく。どうやらサービスカットはここまでらしい。と思いきや、次こそはあの何も無い殺風景が見えてくるものだと思っていた俺の予想を裏切り、視界はまたも予想した映像とは別のものを俺に見せる。
 砂嵐がその荒々しさを和らげていき、隙間が大きくなっていく。モザイク掛けの映像がボンヤリと浮かび上がる。
 聞こえてくるのは、今度は雨音ではなかった。
 弾むような明るい無邪気な声。幾つものそれが折り重なり、雑音寸前と化した状態で俺を取り巻いていく。視界はボンヤリとした輪郭から、徐々にはっきりとしたものに変容を遂げ、俺はここが――学校の教室で在るらしいことを理解した。
 何らかの規則性に則って並べられているのか、或いはくじ運を司る神により定められたのか、一定の間隔で並んだ幾つもの木製机。俺はその一つの前に立っていた。
 視線を床と並行にすると、やがてそれは教室後方の黒板に行き着く。その上、黒板の上の隙間には、お世辞にも上手いとは言えない、白い半紙に墨汁で描かれた夢という一文字が画鋲で留められている。
 ここは俺の知る高校の教室ではない、机の大きさ、掲示された習字の作品から、恐らくここがどこかの小学校であると推測できた。
 時計は目に留まらず、今が何時なのかは不明だ。けれど教室内を自由に駆け回る生徒達を見れば、今が休み時間であるということは容易に理解可能だった。
 自由に狭い教室を駆け回る少年、少女。声は何がそんなに嬉しいのか、一体どんな希望を抱いているのかと問いたくなるほどに明るい。そんな無邪気なだけの、まだ世界を知らない綺麗な人間。
 そんな中で、誰とも会話することなく、誰とも戯れることなく、黙って着席している少女がいた。周りの生徒を見習えといいたくなるほどに不機嫌な表情を肯定して、頬杖を付いてどこか遠くを見つめている少女。まるで全世界に呪いを掛けているかのごとく、本当に、お前は何がそんなに気に入らないんだよ? と誰だって心中問いかけてしまうくらいの仏頂面。
 中途半端なロングヘアが背中に垂れている。そいつはさっき見たシーンで登場した少女の面影を無垢な貌に残していた。……といっても、俺がさっき見たのは恐らく少女の未来の姿で、面影を残すというのは形容に誤りがあるかに思える。
 少女は大きな瞳を少し細めて、そして言った。
“ねえ”
 一瞬びくりとして、俺は自分よりも圧倒的に小さい少女に悪寒を覚えさせられる。
 歳相応とは思えない、鋭い声音に呼び止められたのは丁度少女の隣を走り抜けようとした少年だった。
 呼び止められたのが自分であると気付いた少年は、無邪気な笑顔を驚愕の色に変えて立ち止まる。休み時間だというのに自分の席に座って黙っているような奴だ、特に誰と会話する事も無かったのだろう、少なくとも、この少女が俺の予測する人物と同一の人物であるのならば。
 少女は歳相応の小柄な体躯を椅子の上で半回転させ、呼び止めた少年に問うた。
“あたしらしさって何だと思う?”
 強い口調で、少年を威圧するように問いかける。
 少年は驚きをまだ顔に残しながらも、少女の問いについて思案顔を取る。だが、考えても答えが出てこなかったのだろう。単純なもので、直ぐに彼の表情は曇っていった。それはさっさと友人達の待つ娯楽の輪に戻りたいという意思の表れでもあるのだろう。加えて、彼は今彼の友人らしき他の男子生徒の衆目を集めている。何故か気恥ずかしい気分にもなっているだろう。俺だって経験が在るから大いに同調してやれる。
 やがて少年は自分を睨むようにして見上げる少女の顔に視線を落とした。
 少しだけ間を空けて彼が紡いだ言葉は、目が大きくて綺麗だ、とかそんな事だった。
 別にそれは間違いではないだろう。それにお世辞でもない。少女の目は本当に綺麗で、どこか途方も無く遠くを見つめているようだ。
 予測は付いていたが、少女はそれだけでは不満だったのだろう。訝しげに少年を見、何それ? 何て怒気を交えた声で言いやがる。
 少年は怖気付きながらも続けた。
 唇が綺麗だ、髪が長い、睫が長い、色白だ……どれも的を射た事ではある。白皙の顔で付属された総てのパーツが整っており、それでいて少女らしい無邪気さとあどけなさを宿した顔貌。少年を睨む事で細くなった瞳も、それはそれで可愛らしい。そんな少女の表情は、新たな言葉が少年から発せられる度に暗雲を浮かび上がらせ、何を言っているだ、こいつは? みたいな表情へと変化する。
“もういい”
 あからさまに苛立った口調で突っ撥ねると、少年に向けた視線を黒板に向け、傾けた身体も前方へと方向転換させた。一方的に呼び止めておきながら、挙句小学生には難しすぎる命題を突きつけて、最終的には一方的に興味を無くしやがる。
 ――不意に、俺は微笑していた。
 小さく漏れた息と声からそれが解った。安堵したような、その小さな声の意味を俺は知っている。ここにきて、ようやく俺は自分の置かれた状況を把握したのだ。
「そりゃねえだろ、ヒラギ」
 眼前のヒラギ小学生バージョンを見下ろして呟き掛ける。
 成る程ようやく解った。

 ――これは記憶だ。

 俺が見ているこれは全てヒラギの記憶なんだ。曖昧な輪郭の雨の日、そしていつか中庭で聞かされた小学生時代の過去談。全てヒラギが語った事だ。俺はそれを、あいつの過去の記憶を体験させられている。
 一回程度の失敗で挫折したりしないのが、ヒラギがヒラギたる所以でもある。今度は近くで談笑している女子を呼びつけ、同じ質問をし、やはり望む答えが得られなかったらしく不機嫌を二乗にする。また別の生徒を呼び寄せては質問して……その繰り返しだ。
 エンドレスにも思える試みは、しかしチャイムの音により強制終了させられる。
 不意に俺は、不謹慎にも声を出して笑いそうになっていた。何度も何度も同じ事を繰り返す報われない少女、その健気な姿を見て笑いそうになる自分は業腹だが、どこかそれでも仕方無いと妥協している俺もいる。
 だってそうだろ? 消えちまったと思っていた奴が、こんなに、直ぐ傍にいるんだから。
 おまけにそいつは自分の知っている通りの性格で、次にどう行動するかも読めちまうような、そんな状況なんだぜ? 笑いたくもなるだろうよ。
 とうとう堪えきれなくなって俺は腹を抱えた。
 あまりにもヒラギらしいヒラギは、やっぱり仏頂面で黒板の前に立って教鞭を取る教師を睨みつけている。
 笑って、笑って、笑って……笑って――目頭が熱くなってくる。
 どうしようもなくヒラギらしいその姿、追憶のように俺を取り巻くヒラギの記憶。けれどそれはどれもヒラギの過去が捏造されたものに過ぎないという証明でも在る。可笑しな話だ。始めに見えたのは、時間系列的には最も新しい過去の記憶。そしてそれはヒラギの始まりだ。なのに俺が今見ているのは始まりよりも前、在るはずの無い過去。物語における登場人物の過去は後から用意される、後付けされた物語。俺が見ているのは――ヒラギの過去なんかじゃない。
 始まりよりも自分らしさを持つヒラギ、その矛盾こそ、ヒラギが世界の断片だっていう棺木さんの話の裏づけになる。
「なあ、ヒラギ……」
 どうせ聞こえてやしないだろうけど、とにかく聞いてくれ、何て意味不明な言葉を口にする。
 前置きは、これだけで十分だ。
 溢れ出しそうな想いを言葉に当てて、俺は口を開いた。
「そういう所だよ。そういう、何かに向かってまっすぐ突き進んで行く所が、お前らしさなんだよ」
 まるで今後もそうしろと教唆しているかのような内容は、けれど俺の心境的には道理だ。
 どうあれ、これはヒラギ的には過去。世界に記録された、世界の記録。この先、中学に上がって、堤と出会い、空を見上げる事が日課になり、高校に入って――俺と出会うまでのヒラギの物語。この物語はいわばプロローグで、これが無けりゃ今のヒラギは無い。
 だからこそ、今後もヒラギにはこうで在って貰わなければならない。
 そうでなければ、俺の知る天羽ヒラギは存在しない事になるのだから。
「欲しい答えのために躊躇い無く爆走して……暴走といった方が正しいな。そうしてぶつかった壁は乗り越えるでもなく打ち壊して、鍵の無い扉も蹴破って先に進んで、邪魔する奴は殴ってどかせる。どこまでも自分本位で自己中心的、唯我独尊……天真爛漫、純粋無垢」
 最後のは少し違うか、と嘲てみるが、少女は答えず前だけを見ている。
「そういう事だ。それがお前のイロだよ。俺の知ってるお前はそういう奴だ。お前はお前だから、俺の知ってるままの天羽ヒラギでいてくれ」
 少女の眉がぴくりと跳ねる。
 白い小さな顔が一瞬俺を見上げ、視線が交差したように感じた。

 ――うるさい、バカ。

 そんな言葉が聞こえてくる気がするが、交わったと錯覚した視線は直ぐにまた分かれてしまう。


 ◇


 瞬きの瞬間ほどの、ほんの一瞬。俺の見ていた世界はまたその姿を変えていた。
 今度のそれは砂嵐も無重力感も伴っていない。
 本当にいつの間にこんな所に来てしまったのか、眼が覚めたばかり夢遊病(むゆうびょう患者はこんな気分なのだろうと思う。
 足元に伝わる柔らかな感触、さっきまでの浮遊感が無い。
 という事はつまり、今度の景色は過去の記憶、記録では無いという事だ。
 確信しながら、同時に俺はさらに別の事にも確信を持った。
 三度目の世界の変容も恐らくこれが最後になるだろう、と。
 見えてきた景色は明る過ぎる光が注がれる白い世界。白いと形容したのは単に照明が強すぎると言う事で、実際は黄緑だ。勿論全面塗りつぶしたような単色ではなく、地を這わせる視線をまっすぐ進めるとやがてコンクリートの灰色が見えてくる。薄汚れた、雨や風により風化しひびも入ったコンクリート。
 それが何の為に在るのか、答えは両端を見れば解る。視界を広げれば入ってくる見慣れた二つの校舎。このコンクリートの道、詰まる所の渡り廊下という奴である。
 ここまで言ってしまえば俺のいる場所がどこかは想像可能だろう。
 記憶遡行の旅に出発した場所。
 この流れる日々の追憶の始まり。
 毎日に通う学び舎の、中庭だ。
 強い風が吹く。
 必然、背後から聞こえる、サラサラと葉と葉が擦れ合う音。
 これが恐らく最後の場面転換になると思った理由、それはここが始まりの場所で在るからではない。

 俺と向かい合う形になって、明るい日差しの中に天羽ヒラギがいた。

 風に流される長い黒髪を鬱陶しそうに手で押さえて、ヒラギは俺を見て眼を細める。
「よお」
 そこにいるはずの無い相手を、幽霊でも見るような視線を突きつけてくるヒラギに、俺はいつもの調子で気楽に声を掛けた。それほど長い時間離れていたわけではない。学校が終わって、家に帰ってから次の日に教室で会うまでの時間よりも、ずっと短い時間しか離れていなかったというのに、俺は昔どこか遠くへ引っ越してしまった友人と再開する心境だ。
 とはいえ、これといって感動を覚える事は無い。
 出来るだけ普段どおりに努めて、俺は言った。
「ここにいたんだな、ヒラギ」
 これまでに廻った記憶の中に、俺の知るヒラギはいなかった。
 まだ俺を知らないヒラギがそこにいて、俺の方もそのヒラギを知らない。
 ここにいるヒラギこそが、俺の知るヒラギで、俺の記憶の中にある人物そのものだ。
 それは見てくれではなく、もっと根本的な部分で。
「あんた、何でここにいんのよ……」
 ヒラギの声は怒気を含んでいる。
「そりゃあこっちの科白だ。お前こそ何でこんな所にいるんだ?」
「それは……」
 言われて見ればそうだ、と実感しているのか、ヒラギの視線が芝生に落ちる。
 その間に俺は空を仰ぎ、さてここからどうしようかと暢気に思考する。
 空は雲の無い単色の青。
 どこを探しても太陽は見当たらず、ではここを照らしている光源は一体何なのだろうと陳腐な疑問が浮かんでは、直ぐに意識の底へと落ちていった。
 ここはヒラギの内側に在る世界。イロの世界だ。それをヒラギ自信は理解しているのだろうか。発言内容から、ここが自分だけの場所であるという事は理解しているのかもしれない。だが、この世界がどんな世界なのか、そこまでは理解していないと見える。深層心理の奥底で、心の内側に在る世界がここなのだと知っているのだろう。
 まるで夢の中にいて、自分以外の誰もいない気がする。
 それでも何故か孤独ではなく、そこに自分が在るというだけで安堵する事が出来る場所。
 普通なら絶対に辿り着く事の出来ない自分だけの世界。自分の為だけに用意された世界。それは人の見る夢と何ら変わりないのではないだろうか。
 同時に、これが夢であるのなら目覚める事で終わりを迎える事もどうりだ。
 透き通るスカイブルーから目を放す。星の無い宇宙、そう言って差し支えないだろうヒラギの瞳を捉えて、言った。
「なあヒラギ、お前自分のイロは無色だとか言ってたよな」
「え……?」
 突然何を言い出すんだ、まさにそう考えている表情で短い呟きを漏らしたヒラギの表情は、意表を付かれた事で何とも形容し難い表情になっていた。かと思えば、呆けたようなその表情に覇気が戻ってくる。
「それが何なのよ」
 何故か怒気を孕んだその声は、ヒラギのもので間違いない。
 雨音に負けてしまいそうな弱々しい声でもなければ、舌足らずな甘い子供の声でもない。ここにいるヒラギはヒラギに他ならないのだ。
 強い口調で言い放ったヒラギは自分のターンを終えて俺の言葉を待っているのか、或いは続く言葉が見つからないのか、沈黙して俺を睨みつけてくる。その強過ぎる眼差しに懐かしいものを感じながら、俺は唇を動かす。
「哀しくないか?」
「なんでよ」
 間髪入れずに、返事が返ってきた。
 言葉の語尾は疑問系というよりも、否定の肯定系だ。
 自分の考えを否定されて、明らかに苛立った口調。
 ヒラギは俺に喧嘩を売るような目で鋭い眼光を飛ばす。
 いつもならビクついたりもしたかもしれない。情けなくも。だが今はそうならない、こいつのそういう視線も久しぶりで、不本意ながらも今はそこに天羽ヒラギという存在が在るだけで安堵を覚えてしまう。
「哀しい、わけないじゃない。だってそれがあたしの探してたイロなら、求めていたものなら、それが手に入ったのになんで哀しいなんて思わなきゃならないのよ……!」
 ――どんなことでも、それが答えなら受け入れる。
 そう言った雨の中のヒラギを思い出す。
「あたしが探していたイロ、それが無色なら、それが答えなら認めるしかないのよ。だってそうでしょう? どんなに否定しても、それが答えなんだから、あたしは……やっと探してた答えに辿り着けたんだから……!」
 これほどに苦しそうに話すヒラギを見るのは、初めてだ。
 いつの間にか傘の中から消えてていたヒラギが、思い立ったように捲くし立てたあの時、あの時以上に苦しそうな表情。それが語るのは、こいつが言ってる事が全部強がりである事の証明でしかない。
「違うんだよ」
 虚勢を張るヒラギに、飽くまで冷静に努めて俺が言った。
「ヒラギ、お前が探してるのはそんなもん何かじゃないんだよ」
 俺には解る。無色なんて虚無をイロとして持つ存在は在りはしない。
 なんの根拠も無いような意見だとは思わない。事実、棺木さんに見せられた世界の中心は無色と言い表すに相応しいものであって、ヒラギがそこから零れ出た存在なら、ヒラギのイロもまた無色であるという考えは正しいように思える。だが、それでも俺はそれを否定してしまう。

 何故かって? 

 決まってるだろ。

 ――俺には今日までヒラギと過ごしてきた過去が在るからだ。

 それが何の根拠になるんだと、言ってしまえばそこまでだろう。
 俺が今日まで時間を共にし、不本意だが生活の中心に置いていた存在。
 夕日を見て躾の成っていないイタイ子供みたいにはしゃぎ、挙句の果てに橋のガードレールから身を乗り出して自殺未遂の行為を起こしたり、昼休みになれば決まって中庭に行って、でかい木の下から空を見上げていたり、臆面もなく自分が社長だなんて嘘を吐いたり、自尊心が人一倍強いところや、コンビニのレシートに嫌味なメッセージを書いて渡してきたり、バッティングセンターで野球部の連中も打てないような剛速球をばかんばかんと弾き返したり、その後で無邪気すぎるほどにいい顔で笑ったり。
 それら全てを直視しておきながらそれでも尚、こいつのイロが無色……初めから無いものだ何て思えるわけが無い。
 俺はヒラギの喜怒哀楽の全てを見ている。ローテンションからハイテンションまで、全部を見てきた。
 決して長い時間を共に過ごしてきたわけじゃない。それでも、俺の記憶のアルバムにはどこを見てもヒラギの姿が在る。
 元は無色だったのかもしれない。
 まっさらな何も書いていない日記。それが天羽ヒラギだった。
 でもそれは既に過去形で、今は違う。
 俺だけじゃない。これまでにヒラギが関わってきた人間は少なくない。
 教室にいれば浜中のアホが俺にヒラギの話題を振ってきやがる。それを見て素っ頓狂な意味不明理論だか詭弁だかを堤が持ち出して俺を苦笑させる。それは二人のイロの中に、少なからずヒラギのイロが混じっている証拠だ。連中だけじゃない。二階堂に至っては尊敬しているなんて言い出す始末だ。自分とヒラギの違いを見て、それで自分のイロを見つけようとする二階堂にとって、ヒラギは相当大きな存在だろう。
 俺だってそうだ。
 偶然就職先で知り合った少女。それだけの繋がりしかなかったというのに、今では俺の中でヒラギの存在は大き過ぎるものになっている。今にも爆発しそうなくらいに巨大な風船。それでいて限界を知らぬそれはまだまだ膨張を続けるだろう。
 初めは嫌々だった。ウンザリだ。いい加減にしてくれ。
 ホームルールが終わる度に拘束され、教室中から注目を浴びせられる辱め。翌日教室に行けば決まって同じ質問が繰り返され、俺は溜息交じりの釈明をし、そして溜息を吐き……それが螺旋のように続く日々。これからもそうなるだろう事を思えば、俺の心中はこの上なく暗澹とする。
 だというのに、そんなウンザリで溜息塗れの日常を俺は否定していない。
 肯定だってしていない。いい加減にして欲しいと思っているさ。そんな曖昧な日常感の中――、

 俺は日々の生活を楽しみ始めていた。

 住めば都と言うじゃないか。人間の適応能力は凄まじい。
 俺は自分の置かれた境遇を楽しむ事が出来始めている。
 ヒラギに振り回され、棺木さんのトンデモ発言を聞かされ、学校では無害過ぎる平凡クラスメイトと談笑し、たまにそこに敬語を使ってくる同級生が参入してくる。
 皮肉れた日常倦怠色の俺のイロは――気づけば騒がしい、少しだけ境界を外れた日常のイロに侵されていた。
 原因は紛れも無い――――ヒラギのイロだ。
 これだけ多くの人間に影響を与えるような奴のイロが無色だと、どうすれば信じられる。
 確かに初めはそうだったのかもしれない。
 何も書かれていない白紙だらけの日記、そんな存在だったのだろう。しかしそれは、沢山の他人に関わる事で変わっていった。人様のイロを無断で変えてしまうほどの、他のどこを探しても見つからない、唯一無二の単色を、ヒラギは獲得していたんだ。
 初めは真っ白だった日記には、ヒラギだけの日常が書き込まれている筈だ。
「――そういう事だよ」
 どういう事なのか、俺のモノローグを知らないヒラギには解らないだろう。
「初めから何でも持ってる奴なんていないんだよ。初めから完成した物語なんて無いんだ。ヒラギ、お前の物語は初めこそ無色で始まったのだろうが、今は違う。今日まで出会った全ての登場人物に影響されて、今は有色になっているんだよ」
 こいつは少しだけ疲れていたのかもしれない。
 ストレートだけの全力投球を続けて、毎回内野ゴロの間に全力疾走、おまけに塁に出れば盗塁までする。そんなメチャクチャなプレーをしながら先発完投するピッチャー。そういう例えが当て嵌まると思う。
 何にしたって全力でぶつかっていき、行き着く先がどこかも解らぬまま。それでも勢いを落とさない。
 流石のヒラギでも無尽蔵のガソリンタンクではない。こいつはただ不器用なだけの一人の少女だ。
 だからこそ答えの無い問いに――宝の見つからない宝探しに疲れてきていたんだ。
 こいつが自分のイロを無色だといったのもきっと自棄なんだろう。限界に来てしまったスタミナ、それを認めたくないがためにこいつはそれを休む為の口実にしようとしたんだ。
 俺は芝生を踏み、ヒラギに歩み寄る。
 じっと見ていれば飲み込まれてしまいそうなほどに深い漆黒。ブラックホールでも内包しているのではないかと思えてしまう瞳を見据えて、
「疲れたなら休めばいい」
 俺は言った。
「少しだけ休んでいればいいさ。常に全力投球するのは疲れるだろ。どっかあんまり動かなくていい役回りに移ってろ。――お前は一人じゃねえんだ」
 鋭い瞳が、俺を見返す。
「なによ……!」
 ヒラギの声が震えている。
 それに呼応して揺れる世界。
「何であんたは……そんな、根拠の無い事を言ってくんのよ……!」
 それまでに溜め込んでいたやり場の無い気持ちが溢れ出すように、ヒラギの言葉は津波のように押し寄せる。(さざなみ立つヒラギの心と同じくして、青いだけの空にも変化が現れた。
「あんたに解るわけないじゃない……! あんたみたいなバカに解るわけないのよ!」
 青一色で塗りつぶされていた空は、徐々に色褪せていく。
 絞るように押し出される言葉は、悲愴な色に縁取られている。
 訴えるように言葉を発して瞳を硬く閉じて俯く。
 怒声は直線コースで俺に届くことなく、必ず地面にぶつかってからバウンドして届いた。
「探して探して探して……! ずっと探しても見つからない! だったらもう……あたしは諦めるしかないのよ……。あたしじゃ何も出来やしない。自分のイロ、そんな何よりも自分の近くに在るものも見つけられない! それが何なのか、知ることが出来ない……!」
 透き通るような、というよりも実際に透き通った空は今や自分の色を忘れてしまった。
 無色。
 何も感じさせない虚無。
 それが俺が透き通ったと形容した理由だ。本当に何も無い、虚しいだけの空。
 焦燥を覚える前に天を仰ぐ事を放棄すると、俺とヒラギとの距離が縮まっていた。
 俺は動いていない。という事は、移動したのはヒラギの方であるという事は自明の理だ。
 ヒラギの足取りは立って歩く事を覚えたばかりの赤ん坊のようで、それは目を閉じている所為もあるのだろうが、何よりの理由は溜まっていた気持ちを吐き出すことで、抑えきれない感情に飲まれてしまっているのだろう。
 マラソンも走っている間より、走り終えた時にどっと疲れがくるものだ。
 こいつはこれまで我武者羅に突っ走ってきて、今ようやく脚を止めた。
 給水ポイントも無視して、どこにあるのかも解らないゴールテープを目指す。長い間そんな事をしていた反動がこれだ。
「自分にしかないものだから……。自分の中にだけ在るものだから……。あたしは他人に頼りたくなかった」
 ふらふらと、覚束無い足取りは今にも転びそうな、そんな足取り。
 いつもの無駄に力強い足取りではない。
 人込みを掻き分けるように、肩を揺らして進む威風堂々たる姿は面影すらない。
 だがそれは、
「他人に頼ってたら……。人と交われば、自分のイロなんて見る事が出来ないから……。だって……交われば相手のイロを見なきゃいけないから……」
 見た目こそ弱々しい一歩は、けれど今までのそれより強い一歩。
 これまでの独善的な歩みではない。裸の王様状態では無い。

「……あたしは、誰よりも弱いのよ……」

 空は空としてのイロを亡くし、虚無へと帰した。
 そこに在った景色が、ノートに書かれた落書きを消しゴムで消すように簡単に消え去る。
 切り取られた空という世界の一パーツを惜しむ間もなく、続いてヒラギの背後に見えていた校舎がその姿を削っていく。徐々に透明になっていって消えるのではなく、上層部から少しずつ、風に削られているかのように消えていく様は、昼間事務所で見たそれを酷似している。
 そこに在ったものが無くなる虚しさを、これでもかという程に実感させられる気分だ。
 ふらつく足取りが、着地地点を見失って進む先を狂わせる。
 呼応するように身体を支えていた脚はバランスを崩し、ヒラギの小さな身体は前のめりに倒れこむ。
「自分の事が解らない、独りぼっちの……存在」
 謀ったように、倒れこんだ先には俺がいた。
 軽い衝撃が胸板に伝わり、俺はヒラギの小ささを知る。
 自分を弱いと言うヒラギの胸中は相当苦しかっただろう。
 そう予測するからこそ、俺は倒れこんできた小さな身体を支えた。
「バカ……」
 制服を強く掴んで、顔を埋めたヒラギの声。
「あんたの所為よ……あんたが、勝手な事ばっかり言うから……。こんなの、あたしらしく無いんだから……!」
 濡れ衣だ。言葉にならない反論を心中に浮かべ、俺は消え行く校舎に眼を移した。既に半分以上崩壊している。天井が消えて吹き抜けになった廊下。半分しかない窓。そんな奇妙過ぎる光景だが、俺は不思議と落ち着いていられた。
 体重を全て預けてくるヒラギを二本の脚で支えて、両手をヒラギの肩に回す。
 ……まったく、俺はどうかしてしまったのだろうか。いや、間違いなくどうにかなってしまったのだろう。自分の今いる世界が崩れていっているというに、どうしてこんなに落ち着いていられるのか。そんな中で、どうしてこんな行動をとってしまうのか。
 今のような心境でなければ、こんな事も言わないだろう。

「解ってるじゃねえか」

 言いながら早くも後悔の念が押し寄せてくる。
「こんな事、お前なら絶対に言わないさ。それを『あたしらしくない』なんて、お前が自分を解ってる証拠だろ」
 揚げ足を取るように言った俺にヒラギは無言の睨みで反駁した。
 俺はヒラギの肩を掴む手に力を込める。
 見上げたヒラギの瞳は濡れていて、何故か制服が湿っている理由は多分それで合っているだろう。
 消え行く世界の中で、ほんの少しの間だけでも、俺はヒラギという存在を実感していたかった。
「つくづく勝手なんだよ、お前は」
 出来るだけヒラギと目を合わせないように務めて言う。
「バカみたいに直進して、それで疲れたらこれか」
 ざまあ見ろ。
 自業自得だ。

 ――嘲笑の言葉は幾らでも出てくる。

 俺は何度も止めたさ。
 言葉でも行動でも。
 だから俺に責任は無い。
 悪いのはヒラギ一人で、俺には一切の落ち度はないのだ。

 ――言い訳のような責任逃避が次々に湧き上がる。

「散々走り回って、やっと他人に頼るわけか」
 それでも――
「自分勝手に迷走して、その素行の代償は人任せ」
 後始末は俺の役目だ。これだけは認めなくてはいけない事実。
「初めからそうすればいいんだよ。勝手やってどうしようもなくなる前に、さっさと他人に頼ればよかったんだよ、お前は」
 人は自分の器の底を晒してはいけない。
 けれどそこに溜まったものは、他人に見せるべきだと俺は思う。
 自分が積み重ねてきたそれまでを、誰かに知ってもらえば良い。喜ばしい事も、怒髪するような事も、哀しい事も楽しい事も。全部見せてしまえば楽になる。そうやって人は人と関わりを持っていける。
 こいつは自分一人だけで何でも解決しようとし過ぎていた。
 一切他人に頼らない。
 自分だけで突っ走る。
 バカな話だ。
「自分じゃ見つけられないなら、俺だって協力してやる。
 ――お前のイロを、俺が見つけてやるさ」
 ヒラギの暴走の始末を俺が行うのは業腹だが、それも仕方ない事である。
 何故なら――俺を雑用係と指定したのはヒラギだからだ。
 社長代行もとい、自分勝手な先走り営業部部長の行い、その後始末は雑用係である俺の役目なのだ。秘書なんて柄じゃ無い。社員にお茶入りの急須を運ぶ役目なんて、まったく似合っちゃいない。部屋中の掃除をするのだって御免だ。学校の掃除当番だけでもサボりたくなるような、そんな人間だぞ、俺は。
 だからこそ。
 雑用係として、俺が俺として最も快く出来る仕事は、お茶淹れでも掃除でもない。

 ――大切な、一人の少女を支える仕事だ。

 世界の崩壊はどう足掻いても止まらないらしい。
 ヒラギ自身は落ち着いているにも関わらず、切り取られていく景色はむしろ加速度的にそれを増している。
 校舎は既に半壊どころではなく、一階を仕切る壁が半分以上虚無にとけ、最早ただの仕切りでしかなくなっていた。
「生意気よ……」
 強い意思のこもった声は、ただしどことなく眠そうな韻を含む。
「ただの雑用が……あたしは、社長なんだから……!」
「社長代行、というよりも今は一介の営業社員だ」
 大きな黒い瞳が、俺を見上げる。
 風が吹き、木の葉を揺らして騒がしいオーケストラを奏でるが、俺は確かにヒラギの声を聞き取った。
「うるさい、バカ!」
 いつかのレシートに刻まれたそのメッセージを、ヒラギの声が読み上げる。
 俺はただ、その声に頷くだけ。
 小さいヒラギの身体は、徐々にその存在を薄れさせていく。世界は既に虚無ばかりの、ただの空白に成り下がり、この空間の象徴だった巨木もどこからやって来ているのか解らない風に嬲られ、空や校舎同様に無に帰していく。
 肩越しに消えていく木を一度だけ見る。
 世界消失の過程、そんな奇怪な物をヒラギは見ていない。
 もしかしたらヒラギにだけはさっきまでと何ら変わりない世界が見えているのかもしれない。何分ここはヒラギの内側の世界。夢の世界だ。果たしてその夢が幸せな夢なのか悪夢なのか、そんな事は解らないが。
「責任持ちなさいよ……あんたが傍にいると、あたしは自分のイロを見つけられないんだから」
 連れ戻したい。
 ここに来る際、俺は棺木さんにそういう意志表示をしておきながら、今は不思議と意見を変えていた。
 この絶望的な状況。
 消えていく世界に、薄れていくヒラギの存在。
 夢がいつか覚めてしまうように、この空間も永遠ではない。
 そんな状況が考えを変えさせたのではない。ただ、俺はヒラギの意思を尊重してやりたいだけだ。
「あたしの世界(ナカ)は……あんたでいっぱいになっちゃってるんだから……!」
 思わずヒラギを見返した。こいつがそんな事を言うような奴でない事を俺は知っていたからだ。見下ろしたヒラギの顔はそっぽを向き、髪に邪魔されて見えにくいが、普段は白いヒラギの顔に朱が刺している事は窺える。
 本心から言っているらしいが、それは嘘だ。
 ヒラギの心の中は、もう何も残っていない。
 空の器。伽藍洞。
 唯一残された巨木も既に根元を僅かに残すのみだろう。
 どうあれ。
 ヒラギの意志に偽りは無い。さっきの言葉は唯一の例外として見よう。
「ヒラギ」
 答えを受け入れる。それがこいつの意志なら――俺はそれを妨げる気にはなれない。
 雑用係はやはり、社長には逆らえないのだ。それがたとえ、自分だけが認める社長でも。
「なによ」
 こいつの志を枉げる気は無い。俺はただ少しだけ、ヒラギに認識を変えて欲しいだけだった。
 これまで過ごしてきた日々。イロを追い求めてきた日々は、消して報われぬものではなく、空っぽの日々なんかではなく、ヒラギのイロに縁取られた物語なのだと、思って貰いたかった。
 ヒラギはまだどこか解らない方向を見ている。
「いや、なんでもない」
 さよならを言おうとして、やはり言えない。
 ただ消え行くだけの世界。
 とうとう最終防衛線の巨木は砂上の楼閣と化したらしい。
 遂にはは俺の意識が消えかかってきた。
「なによそれ! 言いたい事があるんだったら――」
 こんな時まで怒声を飛ばされるのは気に喰わない。
 だから、俺はヒラギに唇を重ねて口を封じる。
 これがこいつを黙らせる最善の策であり有効打だと思ったからで他意はない。
 暴露してしまうとこんな行為に経験が無い俺は、テレビなどで過半数がそうするように目を閉じたが、それはどうやら間違いであったらしい。閉じてしまった両瞼は、そこだけが別の何者かに支配されているように自由が利かない。
 意識消失に拍車が掛かる。
 そんな中で気付いた。ヒラギの言葉には何一つ嘘が無かった。
 ここがヒラギの世界、夢の中なら――確かに俺はここにいるのだ。

 掌の感覚が薄れていく。
 耳に届いていたヒラギの声が聞き取れない。
 五感の全てがその機能を無くして行き、俺の意識が途絶えた。


 ◇


 不可解な感覚で眼が覚める。
 寝起きのはずなのに意識ははっきりとしているし、頭の活動も昼間のよう。
 俺はニ三度目を瞬かせ周囲を見回した。
 窓に掛かったカーテン。その外は既に陽が昇っていて明るい。
 時計を手に取り、時刻を確認すると今が普段俺が起床している時間であると解る。
 午前七時三十分。
 時計を所定の位置に戻し、俺ははっきりとしている意識とは対照的に、ぼんやりとした頭のままベッドの端に座る。眼が覚めたはずなのに、何故か目が覚めていない気がする。大長編の夢を見た後の目覚めは確かこんな感じだ。しかしそれならばどんな夢を見ていたのか、曖昧でも輪郭程度は残っているが、今はそれすらない。完全に忘却の彼方に消え去った夢は、どれだけ考えても思い出す事は出来なかった。
 やがて妙な頭の感じも消えて、俺は制服に袖を通していた。途中、妹が面倒くさそうに部屋のドアをノックして入ってきたが――ノックの後で俺は許可を出していないから、そのノックは本来の意味を失っているのだが――自分で目覚めて活動する俺をツチノコかネッシーでも見るような眼で見て立ち去った。
 制服に着替えた俺は順当にその後の工程を終了させ、テレビの天気予報と血液型占いを見て家を出る。
 太陽はよほど夏が待ち遠しいのか、元気溌剌と紫外線を撒き散らしていて、外に出て僅かに五分で俺の額には汗が滲み始めた。
 この暑いのにブレザーなんかを着て登校している自分がアホらしい。
 とはいえ今更それを脱いで肩に担ぐというのも億劫に思えるので、胸中で大量の小言を吐き散らしながら俺は現状を維持する事を決めた。
「すいません、ちょっと宜しいでしょうかー?」
 通学路に組み込まれたでかい橋の手前で、そんな声が俺を呼び止める。
 振り向くと若い男が押し売りセールスマン見たいな愛想笑いを浮かべていた。もしかしたら、面倒なのに絡まれたかもしれないと思いつつ、その男の姿を観察する。
 体格は細め、すらっとした長身に整った顔立ち。髪は比較的短い方だが、前髪は長く、斜めに流れたそれは右目を隠している。この暑い中、服装は黒のスーツに赤いネクタイ。だというのに男は汗一つ掻かず、むしろ涼しさを感じさせる表情をしていた。
「この辺りで猫を見ていないでしょうかー?」
 語尾を延ばす話し方が鬱陶しい。
「いえ、見てませんけど」
「そうですか。いや、今時迷子の猫探し、なんてものをしておりまして」
 何故か聞いてもいないことを話し始める。
 ……この話、長くなるのだろうか。だとしたら勘弁して欲しい。
 それなりに余裕を持って家を出た為に、少しくらいなら話しに付き合っている時間もあるが、あまり長くなるようなら遅刻の危険性が出てくる。加えてこの暑い中、立ち話なんかをしている気にはならない。
 幸いな事にスーツ男の話はそれほど長ったらしいものにはならず、だとしても短い話でもなく、俺はこれなら遅刻の心配はない程度の時間を立ち話に費やす事になった。
「――申し遅れましたー、私こういうものです」
 話し終えたところで男はスーツの内ポケットに手を入れて、その中から長方形の紙を取り出す。多くの会社員が名刺交換するシーンを思い浮かべてもらいたい。今の男の仕草は正にそれであって、俺が受け取った直方体もどうやら名刺であるらしい。
 中央に横書きで名前が書かれている。黒い明朝体のそれは『棺木鏡介』と四つの漢字を並べていて、その斜め上には『代表取締役』という肩書きも記載していた。
「俗に言う万屋ですー。頼み事がある際には是非ともご贔屓ください」
 代表取締役。つまりは社長である。
 そんな人間が何故朝っぱらから迷子の猫探しなんぞをやっているのか、その点で疑問が生じるが俺がその事について問おうとするよりも早く、それでは、と棺木なる男は俺に一礼すると身体を翻した。
「ちょっと待ってください!」
 どうにも、この時どうして俺が彼を呼び止めてしまったのかは俺に理解不能だ。
 棺木鏡介は脚を止めて振り返る。やはりというか何というか、数秒前と変わらぬ微笑が俺に向けられた。
「どっかで俺と会った事ありますか……?」
 見覚えは無いはず。俺の記憶のどこを探しても、彼の姿は見当たらず、記憶のどこを探しても彼の名前に覚えは無い。同姓同名の誰かがいた、というオチは排除してもいいだろうと思える。
 俺は何故だかこの人物を知っている気がしてならない。が、その認識が強くなれば成る程、比例して知っているはずが無いという暗示のような確信も大きくなって行く。
「奇遇ですねー」
 そんな言葉を男は言い放った。
 欧米人のように鷹揚な仕草で両手を広げ、
「私もそんな気がしていたんですが……互いに確信がもてないということは、それは勘違いという事になりますねー」
 よく解らない言い回しをした。
 表情が常に微笑している為に、それを語っている彼の姿は喜々として見えてしまう。
 とんだ変人だ。
 こんな喋り方をするのは堤だけで十分である。
 俺が渡された名刺を直接スルーパスしてやろうかと思い始めていると、
「しかし、妙な覚えが在るというのも確かですね。この場合、もっともそれらしいケースというのは、実際に私達はどこかで出会っている、が、その記憶を失っているというケースですね。……とはいえ、記憶を失ったのなら必ずそこに空白が生まれるはずです。私にはそんな物はありませんので、この場合はこう考えるのが妥当ですね」
 一歩脚を後ろに引き、
「私達が出会ったのは前世、という考えです」
 再び身体を翻して、そのまま俺のもとを離れた。
 その後姿を少しばかり眺めて、自分がまだ渡された名刺を手に持ったままであることに気付く。厚めのその紙をポケットに突っ込むと、手が何か別の物に当たる。
 かさりと音を立てたそれを取り出してみると、それは何度も折りたたまれたように皺くちゃになっていた。
 広げてみるとどうやらコンビニのレシートらしく、幾つかの商品名と金額が記されている。
「なんだ……これ」
 見覚えの無いレシートには買った覚えの無い商品名。
 酷く懐かしいように思えてならないそのレシートを、俺はもう一度ポケットにしまって学び屋を目指した。


 ◇


 学校に到達し、教室に至るまでの間自然な早足を強いられたのは、校門で見た時計が既に始業の鐘が鳴る寸前である事を告げていたからである。門を潜っていれば遅刻とはされないのだが、担任が教室にやってきてホームルームを開始した後に教室に侵入するというのは、どうにも気が引ける。
 そんな俺の努力の甲斐があって、始業の鐘を俺が聞いたのは教室に入り鞄を机に掛けて、そのまま脱力して机に突っ伏した数秒後だった。


 ◇


 高橋担任がやってきてホームルームを開始し、一限目が始まるまでの記憶が俺には無い。
 というのも、理由はこのタイミングでやってきた睡魔の誘惑に屈してしまったからで、俺が眼を覚ましたのは授業時間も残り数分となった頃になる。黒板にはびっしりと文字が書き込まれていて、それを忙しくノートに板書する生徒のシャーペンを走らせる音がモーニングコールとなった。
 朧な意識で黒板を眺めていると順当に休み時間に入り、その頃にはようやく俺の意識も定まってきて、チャイムが鳴り終えて早々にやってきた男の声を聞き逃す事は無かった。
「よお、一限目から睡眠授業とは余裕じゃねえか」
 年中軽すぎるテンションの男、浜中がやってくる。
「そういう君も、授業の半分以上は寝息を立てていたと思うけどね」
 そこに加えて堤までやってくる。
 その声に朝会った黒スーツの男を思い出す。
「なあ、堤」
 顔は黒板に向けたままで何気なく訊いてみる。
「お前、前世って在ると思うか?」
 普段の俺ならばそんなオカルト概念は一切、思念の片隅にさえ置きはしないが、今日だけは何となく気になってしまった。登校中に少しだけ話した男のことが気になったのか、どうにもさっぱりしない朝の目覚めの所為か。
 何にしても今日の俺はどこか辺なのは確かだ。
 まるで忘却してしまった夢の中に大切な何かを置き忘れたような。
 無くしてはいけない一枚の写真をなくしてしまったような。
 何かが、足りない。
 俺の知る日常の中に必要不可欠な何かが足りない気がする。
「前世……?」
 堤にしては珍しく、質問に対してぱっとしない表情を取った。
 単に俺がこんな質問を持ち掛けるという事が珍しく感じたのか、それとも堤自身、このような命題について討議した事が無いのか。
 一瞬曇った堤の表情が、妥協するように緩くなる。
「まあ、信じるか信じないかといえば、僕の意見は信じるかな。科学的にも輪廻というものは在るとされているからね。今ここにいる自分は、昔どこかで生きていた他人なんだっていうのは、少し変な気分だけど」
「……そうか」
 受け取った返事は、俺の求めていたそれとは少し違う気がした。
 今の自分と、昔の他人との繋がり。同じ魂の根源を持って生きた二つの命は、その間に繋がりがある。それを人は輪廻転生、とかなんとか呼ぶのだろう。
 だが俺が訊いていたのはそんな事ではなかった。
 説明は出来ない。上手く言葉が纏まらない。
「授業終わったばっかだってのに、なんか難しい話してんなあ、お前らよお」
 話題の所為もあり蚊帳の外になっていた浜中が、暇を持て余したように割り込んできた。
「そう難しくは無いよ。自分の感性で命題に取り組めるからね。そこには誰かが発見して定義した法則も、授業や参考書から学ぶ公式も必要が無い」
 応対したのは堤である。
 ……浜中の言いたい事が少し解った気がする。
 堤よ、話題や取り組み方はどうあれ、お前のその喋り方こそ話を難しく思わせてしまうんだよ。
 ふと俺は視線を横に逸らす。
 授業中は寝ていた為にどうだったか知らないが、どうやら俺の隣席の主は現在不在らしく、そこには浜中が我が物顔でどっかと腰を下ろしている。
 思い起こしてみれば、普段こうしてこいつらと休み時間に話しているときは、いつも浜中がこの席を利用していたように思える。
「おい浜中」
 俺はやや身を乗り出しぎみにして、欠伸をしている浜中に呼びかけた。
「お前が座ってる席、それ誰の席だ?」
「あん? ここか?……そういや誰だっけか」
 素で解らないらしく、浜中はきょとんとして首を傾ける。
 俺の隣の席。
 休み時間になれば浜中が無断で使用するこの席が初めから空席だった筈は無い。
 だったなら、この席を使っていたのは誰なのか。
「ああ、そこの人なら」
 ハテナマークの流星群が発生していた俺と浜中の頭上から、堤の声が降る。
 頭の上から堤の声が聞こえるのは、俺や浜中が群を抜いて身長が低いわけでも、堤が異常に長身なわけでもない。現在椅子に座っているのが俺たちだけで、堤はさっきから窓に凭れて立っているからだ。
「転校したんだろ。ホームルームで言ってたじゃないか。……えーと、名前は何だったかな。ちゃんと聞いてなかったから覚えてない、悪いね」
 堤の発言に、浜中はそういえばそんな事を言っていたな、とか適当な相槌を打って納得した。
「転校? こんな時期に?」
「まあ、いろいろあるんだよ、家庭の事情とか」
 その言葉に、俺は眼を細める事しか出来なかった。


 ◇


 時間の流れはどんな状況でも一定であり、ただしそれが長く感じるか短く感じるかはその時の境遇次第……というのはどっかの偉い学者様が唱えた事で、まあ俺もそれに賛同する事が出来る経験はこれまでに何度もしてきた。
 同じ長さの時間でも場合によってはやたらと短く感じたり、長く感じたりするものだ。
 俺の二限目から四限目までの時間の流れがどうであったかというと、ニ、三限目は理数であったために長く、四限目の体育はそれまでの授業の影響か短めに感じた。と、こんな感想文はどうでもいい。
 生徒達を蒸し焼きにでもしたいのか、こんな時期にマラソンを命じた体育教師の所為で、使用後ほとんど絞られなかった雑巾のようになった体操着を脱ぎ捨て、制服に着替えた今は昼休み。
 俺は浜中と堤が弁当を片手にやってくるよりも早く、空腹を訴える腹を黙らせて教室を飛び出していた。
 弁当を忘れたというわけではないので、購買へ向かうつもりではない。
 これといって目的の無い散歩。空腹にも関わらずそんな事をしてしまうのは、まったくどういった事だろうね。理由は説明しかねる。
 腹の虫が鳴くという形容があるが、今の俺の腹の虫は鳴くというよりも絶叫していた。
 体育のマラソンが響いているらしい。
 それについて俺が後悔の念に溺れる頃には、俺の脚は定めてもいない目的地に到着していたらしく、動きを止めていた。
 涼やかな風が吹きぬけるここは中庭。暦上はまだ四月の現在、元気すぎる太陽の日差しを一面に浴びた黄緑色の芝生が燦然と輝いている。強い日差しは本来彼らの持つ黄緑という色を、俺の眼には白として見せていた。
 光の海に架かる渡り廊下には、先客がいた。
「二階堂」
 自分よりも先にそこにいた小柄な少女に呼びかける。
「ひゃあ! えええ、えと、すいません!」
 いや何故そこで謝る。
 飛び跳ねてから頭を下げた二階堂に必至の思いで頭を上げさせると、彼女は自分が誰に声を掛けられたのか自覚し、胸を撫で下ろした。……一体、誰にどんな理由で名前を呼ばれたと思ったのだろうか。
 気になるが訊きはしない事にする。
 何故こんな所にいるのか、という俺の問いに対しては、
「えっ、今日はいろいろとバタバタしてて、それでお弁当持ってくるの忘れちゃったんです。それで、今から購買に行こうと思って」
 二階堂のバタバタしてて、という説明には大いに頷ける。
 日本中を探しても、二階堂ほどにバタバタするとか、そんな感じの落ち着きが無いという意味を持つ擬態語が似合う人物はそういないだろう。
「購買は向こうの校舎だって聞いたんで……。それで、ここを通ってたら空がとても綺麗だったんで」
 真っ当な理由かもしれない。
 今日の空は昨日の雨が嘘のように快晴で、二階堂が見入ってしまったというのにも納得がいく。
 そういえば俺は昨日、ここで二階堂が空を見上げる理由を聞いていた。
「二階堂、お前確か空に見て自分らしさを探してるとか言ってたよな」
「はい」
 その事について、妙な違和感が込み上げてくる。
 二階堂じゃない。
 他にも誰か、俺の身近にいた人物がそんな事していたような気がしてならないのだ。
 それが誰で、どんな奴なのか、一切思い出すことが出来ないのだが。
「お前昨日、ここで俺とどんな話したか覚えてるか?」
「え、はい。わたしが……その、あなたが好きだっていう話をしました。……あ、いえ! その……変な意味じゃなくて……! その……なんていうか……!」
 放っておけば暴走が止まらないだろう二階堂に、俺は適当な言葉を掛けて落ち着かせる。
 そう。俺は確かに昨日、ここで二階堂とそんな話をしていたんだ。
 だが、その話の中にはもう一人、もう一人誰かが登場していたはずだ。というよりも、殆どはその誰かがメインで、俺はむしろ補足のような感じだったように思える。
「その話だが、他に誰かの名前を出さなかったか?」
「え? 他に、ですか?……いえ、そんな事は無かったと思います……けど――ひゃ!」
 思い出しながら話している所為もあり、いつも異常にスローペースな口調の二階堂。
 その小さな双肩を、俺は無意識に掴んでいた。
「もう一回! もう一回思い出してくれ! 話の内容は俺以外の誰かが中心だったはずだ! 俺が初めてお前と話したときも……というより、お前が俺に声を掛けた理由自体が、その誰かだったはず……」
 感情の決壊が抑えられなかった。そう言い訳しておこう。
 俺はがっしりと二階堂の華奢な肩を掴み、あろう事か怒鳴りつけるような事をしていた。
 二階堂の俺を見る眼は、明らかに怯えの色が滲んでいる。どうして自分がこんな事をされているのか、まるで解らないという、そんな怯え。
 二階堂の反応は至って当然。妥当な反応である。
 可笑しいのは俺だ。何を必死なっているのか。
 自分でも覚えていない、そもそも本当に存在していたのかも解らないような、ただの違和感の正体を目の前の少女に求めて――まるで八つ当たりだ。
 両目を瞼で覆い、今にもその隙間から涙の雫が零れ出てきそうな表情。閉じられた唇は小さく震えている。それを見て俺はようやく平静を取り戻した。同時に、自分がした事も理解できてくる。
 これではただの暴漢ではないか。
 ここに俺たち以外の人物がいなくて助かった。
「……悪い、二階堂」
 ようやく掴んだ肩を離し、二階堂の身を解放する。
 俺が掴んでいた肩は、やはり震えていて、その震えが治まるまでは僅かな時間を有した。
 閉じられていた目がようやく開き、俺を見上げる。
「いえ……その、すいません」
 謝る必要は無い。可笑しいのは全て俺なのだから。
 俺が探している誰かは、もともといない誰かで、この違和感も何かの間違いなのだ。
 日常は日常として、何も変わらず流れている。
 何かの拍子で退屈な日常の中に生じたズレ――全部俺の勘違いだったのだろう。
「えっと……それじゃあ、わたし、そろそろ行きますね」
 一礼する二階堂を俺は黙って見送った。


 ◇


 逃げるようにして去っていく二階堂の後姿を見送り、俺は憮然として立ち尽くす。
 一陣の風が吹き抜けて芝生を揺らす。
 風は温かい。
 直に春は終わり夏が来る、その事を告げるような風。
「なにをやってるんだか、俺は」
 嘲笑してみる。
 自分でも自分の事が解らなくなってきて、それがもどかしい。
 違和感なんて都合の良い言葉に纏めてしまった妙な喪失感。日常の中から何かが欠落してしまったような、虚無感覚。俺はその空いてしまった空白を埋める為の言い訳が欲しかったのだ。
 自分は何も間違っていない。
 日常はどこも狂っていない。
 何もかもこれまでと変わらない、普段通りの日常なんだと、割り切る為の切欠が欲しかったのだ。だが、それをどこかで否定している自分もいる。だからこそ、俺は俺ですら解らない誰かを探して空回りしていた。
 風に揺らせる自然。足元の芝生や、中庭中央の巨木。
 大量の葉がぶつかり合い、こすれ、壮大なオーケストラを奏でている。
 俺はふと音の中心に眼をやった。
 この中庭に屹立する巨木。ここの象徴のようなその堂々たる姿。
 俺は何故か、そこが特別な気がしてならなかった。
 特に意識したわけではない。本当に何気ない一歩は、コンクリート舗装された渡り廊下を外れて芝生の上へ。昨日の雨が完全に乾いていないらしい足元は、踏みしめると僅かに水が滲んだ。
 一歩。
 風が木々を揺らす音と同時に、またさらに一歩を踏み出す。
 導かれるような歩みは、まっすぐに木の下を目指している。
 それを本能や、衝動と呼んでも間違いにはならないだろう。俺はただ、その衝動に流されて従うまでだ。理性さえもそれを認めている。……いや、それなら既に、それは衝動とは呼べないのだろうか。まあ、今はそんな事など何だっていい。
 一歩。
 さらに踏み出す。
 パレットから消えた一色(ヒトイロ)、完成していた絵から突如一つの色が消えてしまったような感覚。……俺は何を失ってしまったのか、その答えがそこに在るような気がしてならない。勘違いならそれで構わない。信じるだけならただだ。
 夢を見る事は罪にならない。
 例えそれがどれだけ身勝手な夢であっても、夢である間は自由なのだ。
 自然と踏み出す足の感覚は大きくなり、一歩で進む距離が広がる。
 一歩……
 左右の脚を交互に動かし、目的地を目指す。
 走り出してしまいそうな勢いを制しながら、一定速度でそこを目指す俺は、一体何を求めてそこを目指すのだろうか。
 初めの一歩と同時に吹き始めた風が止み、俺も脚を止めた。
 風が止んでもまだ音を立て続ける葉。
 俺は大量の葉っぱの屋根の下に入り空を見上げるが、必然空など緑色の欠片の集まりに遮られて見えやしない。そう、この木の下では空など見えるはずが無いのだ。

 唯一、一人の少女により占拠されたその場所を除いては――。

「こんなところで、何をしてるんだ?」

 名前も知らぬ――知らぬはずの少女に俺は声を掛ける。
 見覚えなど無いはず。それなのに何故か懐かしく思えるその姿は、真っ黒な長い髪を背中に下げ――今は寝転んでいる為に放射状に広がっているが、立てばそうなるだろう――髪と同じように黒い、底無しに深い瞳で遥か上空を見上げている。白く整った顔立ち。長い睫、形の良い唇は真一文字に結われている。強い意志の籠もった瞳に、悲壮感のある表情。こんな表情をせずに笑っていれば、道ですれ違う誰もが振り返るだろう。
「見て解らない?」
 言葉からは、それくらい理解しないさいよというニュアンスが感じられる。
「まったく」
 条件反射が出てしまう。
 久しぶりに聞くその声。
 このやり取りも、過去にした事がある気がする。
 俺は自分の口元が歪むのを感じた。小さく息が漏れ、それで――自分が笑っていると実感する。

「空を見てんだろ?」

 抗議するように俺を睨むその瞳に、俺は撤回の言葉を投げた。
 こんな所から空など見えるはずは無い。その筈なんだが、何故か一箇所だけ見えてしまう場所がある。それは今、少女が横たわる場所で、そこが彼女のお気に入りの場所である事も俺は知っている。
「……そうよ」
 先に答えを言われてしまった事が気に喰わないのだろう。
 少女は大きな眼を細めてそっぽを向く。
 唇まで尖らせて、臍を曲げてしまったらしい。こいつはどんな事でも先を越される、とか裏をかかれるとか、兎に角自分が相手に劣ってしまったという事を何よりも嫌う奴なのだ。極度の負けず嫌い。唯我独尊で勝気が人一倍強い少女。
 俺は一歩前進し、少女の隣に立つ。
 木に凭れて、首を傾けるとやはり空は見えない。

 これほどすぐ近くにいるのに、俺たちの見ている世界は違う世界だ。

 葉の天井に遮られてしまった、閉じた世界。
 果ての無いように思える、どこまでも続く世界。
 ただ、唯一両者に共通している事が在る。
 それはどちらの世界も自らのイロを持っているという事だ。
 閉じていても、開いていても、そこにはそこにしかないイロが在る。
「こんな所で空を見上げて。他人を寄せ付けず、自分一人の世界に入り込む。そこまでして見つけたいものなのか、自分のイロってのは」
「そうよ。悪い?」
 悪くなど無い。
 どこまでも身勝手に突っ走り、どこまでも自己を主張する。
 そんな存在の在り方こそが、こいつの在り方なんだ。
「悪くはねえよ。ただ無理はするなよ」
 空気を入れすぎた風船は僅かな衝撃で爆発してしまう。
 人間だってそれと同じで、何もかもを自分一人で背負い込んでしまえば、どれだけ強い人間も簡単に崩壊してしまう。人という字がそうであるように、人は誰かに支えてもらわなければ生きていけない存在だ。片方だけが支えてもらう。それは間違っていない。ただ、いつどんな拍子で自分が支える側や支えられる側に移るかは、誰にも解りはしないのだ。
「無理なんてしてないわよ」
「嘘吐け。何でも一人で抱え込みやがって」
 苛立った口調の少女。
 どうしても名前が出てこないそのダレカに、俺は溜めていた感情を吐き出す。
「何でもっと早く誰かに頼ろうとしなかったんだ。お前の隣には、いつでも俺がいただろ。茶淹れろだの、掃除しろだの、反省文を書けだの、いつでもしょうも無い雑用ばっかり押し付けてきといて、何でそういう事だけ一人で溜め込むんだよ」
 挙句の果てには重圧に耐え切れなくなって爆発する。
 そうなる前に、どうして誰かを頼ろうとしなかったのか。
「うるさいわね。いいでしょ、そんなのは。あたしの勝手じゃない」
 そう言う少女を俺は見下ろした。
 空を向いているものだと思っていた少女の視線は、その時俺の視線と交わる。
 いつから、少女の視線は俺に向けられていたのか。そんな事は定かではない。

 ダレカが探した自分の色。
 ――空を見上げる事でそこに色を探す。一体何を根拠にしてそんな方法を取るのか。
 空はいつでも自分を持っている――そう言われた日がやけに遠く感じる。それまでの日々に様々な出来事が詰まりすぎていたんだ。

 眼が合って、妙な沈黙が俺たちの間に流れる。
 少女はついと視線を逸らして、また空を眺める事に戻ってしまった。そうする事が当然であるかのように。俺もその行動を見習ってまた葉っぱの天井に視線を向ける。

 ダレカが見つけた世界の色。
 ――全てが在るが故に何も無い。世界の色は全ての色を飲み込んでいる為に飽和し、その色は無色だと、俺は聞いた。全てが在る為に全てが虚無。そんなただ虚しいだけの事実は、けれど筋が通っている。おまけに実際世界の中心とかいう、異世界だか異空間だか解らん所に連れて行かれる始末だ。
 何もかもを求めるから、何もかも失ってしまう。
 その在り方は正に人間という霊長そのものではないだろうか。
「ねえ」
 少女の声。
 呼びかけるその声に俺は言葉だけで反応する。
 相変わらず視線は閉じた世界に向いていて、そこに何かを探しているわけではなく、目的も無く彷徨うだけの視線は行き着く先を知らない。

「世界の色って何色だと思う?」

 少し前に同じ質問をされたように思う。
 世界の色。
 一度目に質問されたとき、俺は何と答えたか。
 嗚呼そうだ。
 その時、俺は何もいえなかったのだ。
 生憎と大した意見も持ち合わせていなかったために、そんな壮大過ぎる命題を持ちかけられても狼狽するだけだ。あの時の俺はそんな状態だ。訊かれても答えられるはずが無い。ただしそれは以前の俺だったら、だ。今の俺は違う。
 今の俺はこいつに言ってやれる言葉を用意していた。
「無色だな」
 事実をそのまま告げてやる。
 ただしそれは逃避でも、投げやりでもない。
 俺は俺の考えが在って、そう言ったのだ。
「色んな奴の色が混ざって、そんで溶け合って無色になってる」
 それが世界だと、ここまでならばただの引用に過ぎない。
 世界の色は無色。それは俺が肌で感じた事実だ、納得せざるを得ないだろう。
 ただし捉え方は聞いたままではない。
「世界ってのは、それを見る奴のイロを持つんだよ」
 ダレカが在るから自分が在り。
 世界が在る故に色が在る。
 もしも自分がいなければ。世界を観測する自分という存在がいなければ。世界はその存在を知られる事は無い、つまり無色だ。だからこそ、自分が在るこの世界は、自分が向き合うこの世界は自分の色を持つのだろう。
 自分の色なんてどこを探しても見つかりはしない。
 直ぐ傍に在るからこそ、誰もその存在に気が付かないんだ。
「バカ、それじゃ無色じゃないじゃない」
 一蹴された。
 確かにその通りかもしれないので反論は出来ない。
 こんなバカみたいな意見は何の根拠も持たない戯言に過ぎないのだ。
「でもまあ……」
 途切れたと思った少女の言葉が続けられる。
 見下ろしてみれば、少女はバツが悪そうな表情になって視線を逸らす。
 わざと聞き取り難くしたその籠もった声は、しかし俺の耳に届いてていた。
「……面白い、考えかもね」
「何か言ったか?」
 意地悪く聞き返してみる。
「うるさいなぁ、もう! なんでもないわよ! バカ!」
 耳が赤くなるのを隠し切れない横髪を、風が揺らしていく。
 全ての存在は単体では存在していない。二つ以上の存在が互いを観測しあう事で、その存在を認識し、記録する。世界は単体では存在する事が出来ないのだ。だからこそこの世界には様々な存在が在る。
 自分のイロを探す少女。
 彼女はその事を理解していた。
 理解していながら、誰かに頼る事が出来なかった。誰かに頼れば、その誰かと関わる事になる。そうなれば自分のイロを見失ってしまうと思ったからだ。

 その存在を色即是空とダレカが言った。
 自分のイロ。それを見つけられるのは自分ではない。
 自分にしかないものだからこそ、他の誰かに見つけてもらわなければならないものだ。

 少女は背けていた顔を再び俺に向けた。
「あんたの考えだったら、自分のイロって、つまり世界の色って事になるわよね?」
 大企業の社長相手に弱みを握った強請屋のような、不敵な笑みを少女は浮かべる。
「だったら、人の色って全部一緒って事になるわよね? それって可笑しいじゃない」
「ああ……そうかもな」
 既に破綻した意見を、何もそこまで完膚無きまでに打ちのめさなくてもいいだろう、と俺は思う。
 少女の意見は半分当たっていて、半分はずれていた。
 空を見ることで自分の色を探した一人の少女。

 その存在を世界の色とダレカが言った。
 飽和していた世界から零れ落ちた一欠片。それが彼女であると。
 それ故に彼女の持つ色は無色。初めから存在しないものだと。

 求め、探し、彷徨い、その先に在るのはいつも同じ。

「なによ、それ。意見するならちゃんとした根拠に基づいてしなさいよね。相手してあげるあたしの時間を無駄にしないでよ」
 反論できず、黙り込む。
 ただそれは気まずい沈黙などではなく、俺が求めていた日常の一部だった。

 世界が世界である所以に同じ。
 飽和した日常は、僅かな歪で狂ってしまう。
 例えもとの日常が狂った日々だったとしても、それを日常と認識してしまったなら、それは既に自分にとっての日常だ。他には無い、たった一つの日常。
 当たり前すぎて気づく事が出来ない。本当に大切なモノは、無くしてからやっとその有り難味に気付くのだ。それを人間は後悔という言葉で呼んでいる。
「悪かったな」
 ここは取り合えず謝っておく事にする。
 どうあれ、表面上はどれだけ厳しくしていようが、一言謝罪してしまえば水に流してくれる。
「いいわよ、謝らなくて。次からは気をつけなさいよ!」
 難儀な相手ではあるが、いつまでも昔の事を引き摺らない奴なのだ、こいつは。

 彼女が彼女である所以に同じ。
 世界の在り方と同じく、やはりヒトは小さな歪で崩れてしまう存在。
 だからこそ――隣にいて、支えてやる存在が必要なんだ。
 一人で立て無い未熟者と誰かは笑うかもしれない。
 奇麗事だと誰かは罵るかもしれない。
 恐らく、彼女も否定するだろう。誰かに支えられる存在の在り方を否定するに違いない。だが彼女なら解るはずだ。人間は完全ではないから、森羅万象の全ては不完全な綻びに過ぎないのだから、単一で存在を維持できる筈など無いから。――そのことを、知っている筈だから。

 ダレカが在るから自分で在れる。

 彼女自身、自分が在るには他人が必要であると宣言している。
 自分一人の世界での自分。
 それは誰にも享受される事の無い、空っぽの認識。
 それが哀しい事だと、彼女は知っているのだから。

「――ヒラギ」

 消えてしまった名前。
 俺の中から完全に消失していた少女の存在。
 思い出すことなど出来ないはずの名前を、俺は確かに口にしていた。
 写真に被った埃を、息を吹きかけて払うように。
 或いはアルバムの一ページを捲るように。
 何ら当然のように、自然とその名を呼ぶ。 

 天羽ヒラギ。

 朝から感じていた違和感の正体。
 説明しがたい喪失感。日常にぽっかりと空いた穴を埋められる、唯一の存在。
 棺木さんは俺に問うた。こいつの存在は俺にとって何なのかと。答えられず適当な言葉で取り繕い、考える事を止めて保留したその質問に対し、今ならば回答してやれる。ヒラギの存在。それは俺の日常そのものだ。無くす事がないと思っているからこそ、その存在を尊く思えない、常に寄り添っているがために当たり前と思えてしまう存在。
 消えてしまった記憶。
 失ってしまった存在。
 これまでに過ごした日々を、前世というのならそれも間違いではないだろう。
 けれどそれは完全な忘却ではなくて、消失したこれまでの日常は、こうして僅かな名残として残留している。
 だからこそ。
 俺にとって、ヒラギは俺の物語に無くてはならない、唯一不動のヒロインだ――。
「なによ、何か言いたいことあるんだったら、さっさと言ってよ」
 名前だけ呼んで黙り込んでいた俺を、ヒラギは不機嫌その物の表情で見上げていた。
 言いたい事は幾らでもある。だがそれら全てを言おうとすれば、どうにも残り時間だけでは足りない。
 俺が今見ているもの。
 俺が今見ているヒラギの姿は、言うならば夢。
 消しきれずに残留した想いの欠片、いつか消え行く儚い一瞬の存在。
「そうまでしてお前が探すイロは、結局のところ見つかったのか?」
「……まだよ」
 言いたい事なら他にある。
 だたそれを言葉に出来ず、俺はそんな事を訊いていた。
「まだ探し続けるのか、見つかるかも解らない、そんな曖昧なもんを」
「当たり前でしょ!」
 ざん、と芝生が音を立てる。それはヒラギが張り手を喰らわせた事による、芝生の悲鳴だった。
 張り手の勢いをバネにして、飛び跳ねるように身体を起こしたヒラギは、肩を揺らして憤然と歩き出す。俺はその後姿を追いかけようとせず、ヒラギの独占していた位置へ移動し、背中を預けた。
「やるって決めたんだから! 最後までやり通すのよ!」
「好きにすればいい。ただし、疲れたら無理せずに休めよ……言っても聞かねえか」
 呆れるように俺が言うと、ヒラギは脚を止めた。
 小さな身体が翻り、長い黒髪が風に流れる。

 ――うるさい、バカ! 

 何度も言われたその言葉をヒラギの口が紡ぐ。
 そう言ったヒラギの表情は、満面の笑顔。
 俺が見ていた白昼夢。夢の名残はここで終わった。
 眩しすぎる日差しは、小さな背中を霞ませて消してしまう。
 さらさらという音に首を傾ければ、そこには見えるはずの無い青空が広がる。
 いつも彼女の見ていたその空は、今日も今日とて変わることのない自分のイロを持って健在だ。

 ――やるって決めたんだから! 最後までやり通すのよ! 

 夢物語のエンドロール。そんなものを見ている気分にひたりながら、消えてしまいそうな瞬間の記憶に向けて、俺は呟いた。
「お前らしいよ、ヒラギ」
 俺が見ている空。
 どこを探しても他に無い、唯一のイロ。

 世界の色、ヒラギのイロ――。


 ◇


 /世界の色、ヒラギのイロ・了
 読破、お疲れ様です、そして最後まで読んでいただきありがとうございます。
 あとがきをブログに載せております、そちらも御覧下さい。(12月10日)
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  • 最終掲載日:2014/12/29 06:00
リアデイルの大地にて

事故で半身不随となった“各務桂菜”は、ある日停電により死んでしまい、直前まで遊んでいたオンラインゲームの世界へ。 目覚めてみればゲームをしていた時代より更に20//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全75部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/03/26 21:20
すごい生徒会長さんとやればできる副会長さん

才色兼備、容姿端麗、文武両道、聖人君子と言った褒め言葉をすべて兼ね備えている四條学園の生徒会長“藤堂綾乃”と、その生徒会長に振りまわされちゃう残念な、でもやれば//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 完結済(全71部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2013/08/08 23:08
セブンス

ライエル・ウォルトは伯爵家であるウォルト家の嫡子であった。 だが、完璧である妹のセレス・ウォルトとの勝負に負けて廃嫡。完膚なきまでに打ちのめされ、心を折られた状//

  • ローファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全345部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2015/12/06 00:00
無職転生 - 異世界行ったら本気だす -

34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全286部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2015/04/03 23:00
ネクストライフ

*ヒーロー文庫より書籍化決まりました。 *月刊少年エースよりコミカライズ決まりました。 山田隆司は雪山で命を落とした──と思ったら、見知らぬ場所にいた。 どうも//

  • アクション〔文芸〕
  • 連載(全186部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/11/10 20:13
へんじがない。ただの偽勇者のようだ。

はあ? 勇者? そんなもん、光一にやらせろよ。俺には関係ないね。だから、とっとと元の世界に戻せ。  ……は? お前も勇者をやれ? 光一がいるなら、俺は必要ねぇだ//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 連載(全95部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2015/02/13 23:15
幻操士英雄譚

異世界に飛ばされた最強系主人公が元の世界に帰る為に奮闘(?)するお話です。通勤通学もしくは帰宅中の電車或いはバスの中、気怠い時間を潰す際にお役立てください。※※//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 連載(全68部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2016/11/09 07:00
御主人様は中学生

突然、大財閥の令嬢のメイドになってしまった高校生、仁科恵一。しかし、そのお嬢様は中学生で、おまけに気弱で引っ込み思案ときたもので。どたばたハートフルラヴコメディ//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 完結済(全39部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2008/08/29 00:01
Re:Creator――造物主な俺と勇者な彼女――

 異世界<アルカディアス>に召喚された主人公は、元居た世界に返る為に魔王を倒しに旅に出た。というのも今は昔。色々あって帰還は不可能になった上に死に難くなってしま//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全77部分)
  • 5 user
  • 最終掲載日:2012/04/03 00:00
月蝕

この世界には加護と呼ばれる絶大な力を持たされた存在が居る。その世界に落ちたのは一人の青年、幼き頃まで戻り知識だけ身につけその世界で歩く。その身に巣食うクラウシュ//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 連載(全67部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2013/07/21 20:00
フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~

※スニーカー文庫より書籍化しました! ネット通販やお近くの書店でお買い求めください。 ※少年エースでコミカライズが決定しました!  魔力の有無で枝分かれした平//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全313部分)
  • 4 user
  • 最終掲載日:2017/11/07 11:51
先代勇者は隠居したい(仮題)

ちょっとエッチな中学生、社勇(やしろゆう)は、中学二年の夏休みに異世界へと召喚された! そこは剣と魔法のファンタジー世界! 自分を呼び出した可愛い姫のために戦い//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 連載(全184部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/11/16 10:00
蘇りの魔王

勇者に討たれ、その命を失ったはずの魔王ルルスリア=ノルド。 彼にはやり残したこと、解決できなかった問題がいくつもあったが、悪は滅びると言うお題目に従い、消滅した//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全272部分)
  • 4 user
  • 最終掲載日:2017/03/23 18:00
二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む

魔王を倒し、世界を救えと勇者として召喚され、必死に救った主人公、宇景海人。 彼は魔王を倒し、世界を救ったが、仲間と信じていたモノたちにことごとく裏切られ、剣に貫//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全128部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/11/20 09:02
理想のヒモ生活

月平均残業時間150時間オーバーの半ブラック企業に勤める山井善治郎は、気がつくと異世界に召喚されていた。善治郎を召喚したのは、善治郎の好みストライクど真ん中な、//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全94部分)
  • 4 user
  • 最終掲載日:2017/06/27 00:10
八男って、それはないでしょう! 

平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全205部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/03/25 10:00
ドラグーン

これは、一人の脇役が自分の役割を放り出し竜騎兵(ドラグーン)を目指す物語。 剣と魔法のファンタジー世界で脇役ルーデルに与えられた役割は、悪徳貴族の馬鹿息子、主//

  • ローファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全167部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2016/06/04 00:00
そこにカイロスはいるか?

高校二年生の僕は死んでしまった。実にあっけなく。あー死んだな。そう思って目を開ければ死神と名乗る変な女が「チャンスをやるよ」と、そう言った。

  • ローファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全56部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2010/03/14 22:27
Bグループの少年

 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリ//

  • コメディー〔文芸〕
  • 連載(全2部分)
  • 5 user
  • 最終掲載日:2016/05/24 03:22
恋愛、先手必勝法!

「俺、あんたみたいな女、好きじゃないから」その上好きな人がいると言われても、諦められるワケがない。だって好きなんだもん。私にも、その優しい目を向けてはくれません//

  • 現実世界〔恋愛〕
  • 完結済(全34部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2015/06/20 20:13
裏切られた勇者のその後……

地球から召喚され勇者となってしまった高校生の主人公は魔王と戦っている最中に、仲間に裏切られた。 それも聖女と呼ばれる王女によって……。 生き残った勇者と魔王が進//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 完結済(全52部分)
  • 5 user
  • 最終掲載日:2015/03/10 19:00
ガールズカルテット

日常という不確かな境界。信じて疑わぬ平穏を彷徨う四人の少女。――淋しき心を謳う孤独の歌姫。夢想に未来を予見する儚き少女。兄に焦がれる禁忌の恋慕を抱えた報われぬ妹//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 完結済(全40部分)
  • 4 user
  • 最終掲載日:2009/08/14 20:39
セラフィンゲイン

インナーブレインという画期的なシステムで創造された仮想世界で繰り広げられる新時代の体感ロールプレイングゲーム『セラフィンゲイン』そこで、英雄として称えられる傭兵//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 連載(全60部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2013/05/23 11:53
Re:ゼロから始める異世界生活

突如、コンビニ帰りに異世界へ召喚されたひきこもり学生の菜月昴。知識も技術も武力もコミュ能力もない、ないない尽くしの凡人が、チートボーナスを与えられることもなく放//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全443部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/06/13 01:00
ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた

 ◆書籍⑧巻まで好評発売中です◆ ニートの山野マサル(23)は、ハロワに行って面白そうな求人を見つける。【剣と魔法のファンタジー世界でテストプレイ。長期間、泊り//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全189部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/10/11 21:00
ウォルテニア戦記【Web投稿版】

 青年が召喚された異世界は乱世だった。  絶対王政の世界。  選民意識に凝り固まった特権階級と世俗にまみれた宗教。  青年は自分の正義を胸に行動を起こす。  

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全191部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/08/07 17:56
転生したらスライムだった件

突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた! え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全303部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2016/01/01 00:00
黒の魔王

黒乃真央は悪い目つきを気にする男子高校生。彼女はいないがそれなりに友人にも恵まれ平和な高校生活を謳歌していた。しかしある日突然、何の前触れも無く黒乃は所属する文//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全636部分)
  • 5 user
  • 最終掲載日:2017/11/17 17:00
Magicians Circle

その世界では、魔術を使うことが当たり前となっていた。雷山塚高等学校では、学生達に魔術を教えることを目的とした学校であり、授業に魔術の科目が取り入れられているのが//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 完結済(全309部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2010/03/17 07:05
才色兼備な姉と普通な俺

天才的な姉は実はかなりのブラコンだった!?。そんな姉を持った「楓」の苦悩を描いた青春ドタバタ?ストーリー。 第2章始めました。 少し大人になった「楓」の周りの//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 完結済(全125部分)
  • 4 user
  • 最終掲載日:2010/12/25 01:27
らぶゆっ!

なぜか異世界に来てしまった池谷葉雇〈いけたにはやと〉を中心とした異世界学園ラブコメ。

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 完結済(全92部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2009/10/31 20:14
神喰らい

命を奪うことで、その生物の能力をも奪う能力を持った少年。少年は自らの世界を喰らってしまい、異世界へと飛ばされてしまう。世界を、そこに存在する全ての命を喰らってし//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 完結済(全99部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2010/06/07 08:03
DESTROY

高梨洋介は幼馴染の河野瞳のことが好きだった。しかしその想いは瞳には届かない。そんな時、洋介のクラスメイトである小山田菜々美が洋介にアタックし始めることで関係が変//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 完結済(全29部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2009/03/20 22:57
俺とあいつと異世界と勇者と厄介事と……多過ぎだボケ!

手違いで幼馴染と一緒に召喚されてしまった少年秋月静。 「冗談じゃねえ!?」と叫びながらも日々厄介事に巻き込まれる彼に幸福はあるのか。 異世界で送るドタバタファン//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 完結済(全73部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2010/03/02 16:51
宿屋主人乃気苦労日記。

個性あふれる従業員たちの、重なり合う事情や思惑。和洋の魔術が入り乱れ、剣戟と拳が鎬を削る戦い。そんなさまざまな問題に立ち向かう主人は、そのたびに頭と体を酷使し、//

  • ローファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全41部分)
  • 4 user
  • 最終掲載日:2009/01/04 14:50
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